一人称で語られるハードボイルドもの。
《探偵沢崎》シリーズ第一期完結編。
元高校球児・魚住の調査依頼は、11年前に自身にふりかかった八百長疑惑にからんで自殺した義姉のこと。義姉の自殺の真相は? 本当に自殺だったのか?
意外な展開は一見の価値あり……ただし、他の同シリーズを読んでないと、ちょっとつらいかも。
それにしても、ミステリファンは「そんなの当然」と思われるのかもしれないけど、沢崎が聞きこみにでむくと、最初はかたくなな人でもしまいにはベラベラ喋りだすから、ちょっと不思議。
正統派マッドSF。
『ソフトウェア』の続編。
アジモフの三原則(人間を守る・人間に従う・自分を守る)を破り叛乱を起こしたロボットたちにのっとられた月を、人類がふたたびとりもどした時代が舞台。ロボットたちは月の“巣”に追いやられ、自身の精神(プログラム)を人間のDNAに組込もうと画策している。
ある日、月で探偵をしているスタアン・ムーニイのもとに、ユカワ博士から行方不明になっている女性助手の捜索依頼がまいこむ。違法ドラッグ、融合(マージ)がからんでいるらしい。マージは人間の肉体をでろんでろんに溶かしてしまう。そのマージがロボットたちにわたり、とんでもない事件が勃発する。
ムーニイが探偵になっていたので、ラッカー版のハードボイルかな、と思っていたら全然ちがいました。だいたいムーニイだけが主役ではないし。
なんとなく、前作より読みやすかったです。
ハイになりたい人におすすめ。
とにかく続編なので、前作を読んでないとちょっとつらいかも。
アイザック・アシモフの陽電子ロボットものを読んであると、なおいいかも。
忍者もの。歴史SF。
大海賊キャプテン・キッドの残した財宝をめぐる争いが主軸。浮かびあがってくるのは、しいたげられていた人たちのこと。
幕末、下北半島佐井の浜に赤子が流れつく。赤子の名は次郎。袖の中には、アイヌの宝「カイムの剣」と首飾りが隠されてあった。実は、その短剣こそキャプテン・キッドの財宝の謎をとく鍵なのだ。
財宝をめぐり、次郎の前には幕府隠密団の天海たちが立ちはだかる。
おもしろいです。実は誰それは……っていうパターンが多いのは勘弁してほしいですけどね。なにぶん昔のはなしなもので(角川文庫版は1975年刊行)最近書かれたものと一緒くたに読むとちょっと、つらいかも。
一応、歴史SFというジャンルに入ってはいますが、SFくささはなかったです。
アン・マキャフリイの代表作である《パーンの竜騎士》シリーズ第一作。
惑星パーンは、かつて人類が植民星としながらも忘れ去られたところ。そこでは200地球年ごとに兄弟星が接近し、「糸胞」がふりそそぐ。糸胞は、パーンの大地に死をもたらすやっかいな生物なのだ。そして、その糸胞を竜とともに迎え撃つのが、竜騎士たち。
今作『竜の戦士』は、平穏な歳月が400年もつづいたために竜騎士の存在が軽んじられている時代。そんな中、糸胞襲来の予兆があらわれる。
少女レサの成長物語でもある。
設定的にファンタジィなのかなぁと思っていたら、かなりSFくさかったです。
でだし、なんの説明もなしにいきなりパーンの世界に入ってしまうので、ちょっととまどいました。このごろはファンタジィを読む機会が減っているので、そのせいもあるでしょう。
タイム・パラドックスがおざなり気味だったり、400年前の竜騎士集団失踪現象の理由がかなり早い段階でさとれてしまったり、ちょっと考えるところもありますけど、まぁ、それらは二次的なもの。そういうはなしじゃないもんね。おもしろかったです。
とにかく余韻がすごい。
しばらく他のものが読めそうもありません。
まいったね。
雪深い山奥を舞台にしたはなしです。アクション・サスペンス。
日本最大の貯水量を誇るダムが、テロリスト集団にのっとられた。その場にいた職員はもとより、事実上ふもとの住民をも人質にとられ、警察はなす術がない。たまたま難を逃れたダム運転員・冨樫輝男は、たまたまダムにきていた一人の女性を救うために戦いを挑む。彼女は、自身の過失で死なせてしまった友人の婚約者なのだ。
吉川英治文学新人賞受賞作。映画化もされました。
するするする〜と読んでいけます。アクションだけでなく、謎ときの要素もきっちり盛りこまれて、伏線もひかってました。しかも結末は涙、涙。
…エピローグは蛇足だと思うんですけどね。
アーサー・C・クラーク『宇宙のランデヴー』の続編。
前作は…
突如として現れた謎の飛行物体は、巨大宇宙船と判明。人類はこれをラーマと名付け、調査隊を送りだす。調査隊は、ラーマ内部への侵入は果たす。しかし、この構造物は人類の理解をはるかに越えていた。そしてラーマは、多くの謎を残したまま太陽系を去っていった。
今作は、そのラーマが去ってから70年後が舞台。
第二のラーマが現れ、人類はふたたび調査隊を送りだす。第一のラーマとまったく同じと思われていたラーマIIだったが、そうではなかった。未知の驚異を前に、調査隊は孤軍奮闘する。
ラーマという謎の宇宙船の存在だけでなく、今作は、人間ドラマ的要素が色濃く入ってました。ドロドロとした、ね。そのために前ふりが長くって「ラーマ」を期待していたわたしにはちょっと期待外れだったかも。
ラストが中途半端だし。
大塚英志原作、森美夏作画、の同名まんがのノベライズ版。
連作短編集。
古本屋「八坂堂」店主、木島平八郎に取り憑かれた、民俗学者、折口信夫博士が書いたと思われる日記を元手にして書かれた小説……というものがたり。
木島平八郎の不可思議でおどろおどろしい登場の仕方に、かなりの期待をいだいたものの、それまででした。
荒涼とした火星が舞台。
砂漠を旅するアリマンタンド博士は、小さなオアシスで風に船をさらわれてしまう。やむなくその場に居着くことにした博士は、そこをデソレイション・ロード(荒涼街道)と名づけた。やがてデソレイション・ロードには人々が流れ着き、町へと発展していく……。
デソレイション・ロードとそこに暮らす人々(町にやってくる人、町を去る人。そして、ふたたび町にもどってくる人)の、半世紀にわたる物語。
宣伝文句は、『火星年代記』(レイ・ブラッドベリ)の感動が甦る……らしいですが、二番煎じにはあらず。当初は情緒的だった町も、歴史が動くにつれ変わっていきます。同時に作風も。
いろんなスタイルのSFを読んでいる人にいいのでは?
いずれにせよ、名作です。
歴史を題材にした、短編集。
真面目に書かれた、不真面目なはなし。
「筑波嶺日記」……幕末、芸妓の筑波嶺のもとにやってくる、薩摩、長州の有名人、新撰組の面々、坂本竜馬のはなし。色街が舞台だけに、少々お下品。
「聖者伝」……平安の御代。詐欺師・空海、陰謀家・最澄と、彼らにたちむかう京の検非違使たちのはなし。信者の方々はお怒りになるでしょうが、まぁ、事実はこんなところだろうと妙に納得。
「怨霊巌流島」……宮本武蔵と佐々木小次郎の有名な巌流島の決闘を、怨霊を登場させて茶化したはなし。バカバカしいながらも、とても理論的。
「首の信長」……SF。宇宙のはじまりからおわりまで、すべての出来事が記載されているアカシックレコードを欠損させてしまった運行係官が、歴史どおりにことを運ぶために奮闘するはなし。その活躍にもかかわらず、織田信長は瞬く間に首をはねられてしまうのであった。
「忍者の恋」……ときは秀吉の世。恋の概念を知らない忍者たちが恋に落ちて…という顛末記。
「新源氏物語」……武士の源氏たちに日本人の深層心理を求めた論文。ただし、尋常ではない。
「24人の稗田阿礼」……日本初の公式史書をつくるために稗田阿礼が語る、日本創世の物語。神話なだけに下ネタが多いのは当然。
「妖異記」……江戸時代。三代将軍・家光の死去で追い出された大奥の女房たちと、幕府官僚との戦い。女は怖いね。
《ホーカ》シリーズ、第二弾。
惑星トーカのホーカ人はテディベアそっくり。彼らは地球の文化に夢中になり、さまざまなものになりきって、さまざまな騒動をまき散らす……。
とにかくおもしろい。
ある意味パロディなので、いろんなことを知っていると、よりいっそう楽しめます。
第一作の『地球人のお荷物』から読むことをおすすめします。
「くたばれスネイクス!」……野球選手になりきったホーカ人のはなし。
「スパイを捕まえろ」……スパイなりきったホーカ人のはなし。
「ホーカミの群」……ジャングル・ブック夢中になったホーカ人のはなし。
「ナポレオン事件」……(トーカの)フランス・イギリスの両国が戦争を始めようとしてしまうはなし。