連作短編集。
成城署の真名部警部は、とある縁で岩井信一少年と知り合う。聡明な信一には重度の脳性マヒがあり、車椅子生活を余儀無くされていた。
ある日真名部は、約束をキャンセルしてしまったおわびに、その原因となった事件のはなしをする。その事件とは、滝の台団地で殺人事件が起こったというもの。大勢の主婦たちが犯人とおぼしき人間を目撃したが、彼女等の証言は少しずつ食い違っている。
多すぎる証言という問題の前に捜査は行き詰まっていたのだが、信一は、自宅にいながらにして真実をつきとめていく……。
20年前の作だけあって少々古めかしいところがあるものの、文句なしの秀作。
アン・マキャフリイの代表作である《パーンの竜騎士》シリーズ、第七作。
惑星パーンでは平穏な歳月が400年もつづいたために、人々は気をゆるめていた。そんな中、テルガー城砦ノ太守の姉セラは、縁談をけって城砦を飛びだした。男まさりで剣の使い手のセラは、やがて盗賊団の頭となる。そして、竜の声を聞くことができる少女・アラミナの噂を聞いたセラは、少女を手に入れようと画策する。
過去六冊の正伝をちがった角度で眺めつつ、新たな探索も盛りこんだ贅沢なつくり。
2001年08月08日
トーベ・ヤンソン(山室 静/訳)
『たのしいムーミン一家』講談社文庫
《ムーミン》シリーズ
幻想的な童話。
長い冬眠からさめたムーミントロールは、仲良しの、スナフキンとスニフと共に遊びにでかけた。三人がおさびし山に登ると、そこにはまっ黒いシルクハットが……。一番乗りではなかったことにがっかりする三人。ムーミンは帽子を、パパにプレゼントするために家に持って帰る。しかし、この帽子こそ、飛行おにの魔法の帽子だった。そして、飛行おには、宝石「ルビーの王さま」を捜しているのだという……。
いくつものエピソードを積み重ねて語る、短編集的作品。最初にでてくる黒いシルクハットが飛行おにの逸話につながり、根深い一本の軸になっている構成にほれぼれしてしまう一冊。
名作。
映画「A.I.」の原案となった表題作を含むSF短編集。
人工過密を避けるために、政府は出産を許可制にした。そのため、出産の権利を得られない夫婦のために、子供型の人工知能が開発される。デイヴィットもそのうちの一体。しかしデイヴィットは、自分はホンモノだと信じ、スウィントン夫人をママとして心から愛していた。やがて、スウィントン夫妻に出産許可がおりて……。(スーパートイズ)
涙なくして読めない一冊。
ただし、物足りないのも事実。
上から下まで文字がびっしりつまっているのにスカスカに見えてしまう竹書房の版組は、読みやすさを考慮したというより、カサを増すためにやったのかと勘ぐりたくなります。
トールキンの『ホビットの冒険』を下敷きにしたSF。
アステロイド・ベルトで静かに暮らすベイリー・ベルトンは、冒険とは縁遠い日々を心から楽しんでいた。ある日ベイリーは、漂流中のメッセージ・ポットを拾う。律儀にも宛名人に通知をだすベイリー。そして、物置きにしまいついでにポットのことを忘れてしまう。
しかし、女性探検家ギターナがやってきたことで、嫌でも思いだすことに……。
おまけに、ベイリー自身が冒険の旅にでるはめに! 断ろうとしたベイリーだったが、そのときにはもう、愛する我家から11光年もはなれたところにいた。
元ネタがあるために展開そのものはよめてしまうのですが、それにしたって、危機の連続にわくわくきます。ちがう演出家の同作舞台を観る楽しさ。
短編集。
表題作「寝ずの番」は……百年に一人といわれた咄家橋鶴の弟子である橋太が語り部。おのれの最期にまでオチをつけた師匠の通夜は、無礼講。弟子たちは、師匠の思い出話を披露しあう。
中島らものはなしは下ネタが多いのですが、ヘンないやらしさはなく、あっけらかんとしてて笑って読めます。
雑多なSF。
辺境の惑星ハイペリオンには、謎の遺跡〈時間の墓標〉があった。そこには殺戮者シュライクが封じこめられているが、今はまだ閉ざされている。
28世紀。宇宙連邦が震撼させられる事件がおこった。〈時間の墓標〉が開きはじめたというのだ。さらに、時おなじくして蛮族アウスターがハイペリオンへと侵攻を開始していた。連邦は、〈時間の墓標〉の謎をアウスターより先に解明するために、七人の男女を送りだす。さまざまな経歴を持つ彼らは、いずれもハイペリオンと深いかかわりがあった。互いを理解するために、おのれの人生を物語ることになる七人。
七人は〈時間の墓標〉にたどりつくことができるのか?
七人の中にいるというアウスターのスパイは誰なのか?
世間の「大傑作」という評判と、魅惑的な設定に期待を持ったのですが、期待しすぎたようです。きっと、続編の『ハイペリオンの没落』を読んで、始めて語れる物語なのでしょう。
ミリタリーSF。
惑星ドーピアでは異星体バシアンとの地上戦がつづいていた。地球側平和維持支援軍の戦車・マヘル-シャラル-ハシ-バスは、あまたの戦闘車輌の中でももっとも長い名前をつけられた戦車だ。上層部の手違いを期待して愛車に長い名前をつけた操縦士アムジ・アイラ一等兵は、僚友クアッシュ・ミンゴ二等兵と共に、新しくカレブ・シャーマン少尉を車長に迎えた。シャーマン少尉は、バシアンに対するみずからの新戦術論を立証するのだと意気こんでいるが、実戦経験はゼロ。しかし自分のことは天才だと信じていた。
戦争ものですが、笑えます。
名作。
直木賞受賞作『無間人間』の続編。
新宿署刑事・鮫島は、さる窃盗団を追っていた。その内偵中、襲撃事件にでくわす。
そのころ歌舞伎町のホテル街では、路上でコロンビア人娼婦が殺され、近くのラブ・ホテルでボヤ騒ぎがおこっていた。
一方、植物防疫官・甲屋は、外国人娼婦によって日本に持ち込まれてしまった害虫フラメウス・プーパを追っていた。今はまだ蛹の状態だが、これが羽化すると日本中の稲が食い荒らされてしまうのだ。しかし、蛹の持ち主である娼婦は殺されてしまい、蛹は行方不明。
鮫島と甲屋は協力して、蛹を追い求める。タイム・リミットまであとわずか……。
傑作。
次々とからみあっていく関係が、徐々に明らかに……。
極道がらみの冒険もの。
ルポライター吉岡忠志は関西系ヤクザを取材していた。その関係で、相沢組構成員の門脇が、同じ系列にあたる工藤組の顧問・沼田を私刑にする現場に同行することになる。それは、相沢組長が偶発的事件と見せかけた計画的犯行だった。
組長のやり方に眉をしかめる幹部・杵島は、組の将来を心配する。
また、組長の計画とはべつに門脇は、沼田の愛人・玲子を手に入れていた。
混みいった構成はいいものの、ちょっと難あり。
「運命に翻弄される女のはなし」として読むか「女に翻弄される男たちのはなし」として読むか……。