ポスト・サイバーパンク的SF。
高速ピザ配達フランチャイズの〈配達人〉ヒロ・プロタゴニストは、世界最高の剣士。サムライの刀ひとそろいで身を守る。そして、腕利きのハッカーでもある。
もう一方の主役Y・Tは〈特急便屋〉の少女。高速走行中の車を利用しつつ、スケートボードで縦横無尽に走りまわる。仕事のことはママには内緒。
ヒロは仮想空間のメタヴァースで、新種のドラッグ「スノウ・クラッシュ」をすすめられた。それを無視したヒロの前に、かつての仕事仲間・ジャニータがあらわれる。「スノウ・クラッシュに近寄るな」という忠告をひっさけで。
そして、ちょっとした気紛れからヒロを助けたY・Tも、スノウ・クラッシュをめぐる事件に巻きこまれていくことに……。
「世界」をつかむまでは理解するのが大変でしたが、あとは一直線。心地よい疾走感があります。納得しがたいところもありますが。
1940年代の、SF短編集。
さすがにSF的には古めかしいものの、名作揃い。一読の価値あり。
収録作品は
フレドリック・ブラウン「星ねずみ」
アーサー・C・クラーク「時の矢」
アイザック・アシモフ「AL76号失踪す」
レイ・ブラッドベリ「万華鏡」
ロバート・A・ハインライン「鎮魂歌」
C・L・ムーア「美女ありき」
ウィリアム・テン「生きている家」
A・E・ヴァン・ヴォート「消されし時を求めて」
エドモンド・ハミルトン「ベムがいっぱい」
シオドア・スタージョン「昨日は月曜日だった」
チャールズ・L・ハーネス「現実創造」
1950年代の、SF短編集。
読むのに時間がかかります。でも、一読の価値あり。
収録作品は
レイ・ブラッドベリ「初めの終わり」
ロバート・シェクリイ「ひる」
フィリップ・K・ディック「父さんもどき」
リチャード・マシスン「終わりの日」
ゼナ・ヘンダースン「なんでも箱」
クリフォード・D・シマック「隣人」
フレデリック・ポール「幻影の街」
C・M・コーンブルース「真夜中の祭壇」
エリック・フランク・ラッセル「証言」
アルフレッド・ベスター「消失トリック」
ジェイムズ・ブリッシュ「芸術作品」
コードウェイナー・スミス「燃える能」
シオドア・スタージョン「たとえ世界を失っても」
ポール・アンダースン「サム・ホール」
アン・マキャフリイの代表作である《パーンの竜騎士》シリーズ、第八作。
南の大陸で発見されたコンピュータ・アイヴァスは、パーン社会を一変させようとしていた。人々は長きに渡り糸胞の襲来と闘ってきたが、その驚異をパーンに近付けないようにするというのだ。
アイヴァスは計画達成のために、失われた知識を明らかにしていく。また、人々はさまざまな工学技術を学びパーンの発展にも貢献するが、変化についてこられない人間もいた。
ファンタジー的要素の強かった《パーンの竜騎士》シリーズですが、本書でやはりSFだったと再確認。歴史絵巻的展開は変わらず、パーンの過ごす時が感じられます。
ミステリィ。
カラオケボックスで、アルバイトの大学生・今井直子が絞殺された。その三日後、建築中の建て売り住宅内部で、会社課長・所田良介の刺殺体が発見される。当初は別の事件として捜査されていたが、やがて、接点が明らかに……。さらに、所田にはネット上に疑似家族がいたことが判明する。遺族の知らない疑似家族たちの事件との関係は?
著者が宮部みゆきだと思うと、少々物足りない一冊。
近未来バイオ・サスペンス。
22世紀、大阪。女として生きることを選択した男・北沢エリコは、美貌を保ち、高級娼婦として生きていた。非合法に性転換した弱味を札付きの刑事につかまれたエリコは、上海黒社会に娼婦として雇われるべく面接にむかうことになる。試験には受かったエリコだったが、身辺では奇怪な事件が……。
上海黒社会のボス・ローが、エリコの遺伝子から作ったクローンに脳を移植し、今またエリコを必要としているらしいのだ。そもそもエリコには、クローンを作った覚えがない。いつどこで作られたのか。また、なぜエリコだったのか?
力作。
娼婦が主役なだけに性描写が多いのですが、まったく厭味なし。
1960年代の、SF短編集。
読むのに時間がかかります。でも、一読の価値あり。
収録作品は、
ロジャー・ゼラズニイ「復讐の女神」
ハーラン・エリスン
「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」
サミュエル・R・ディレイニー「コロナ」
アーサー・C・クラーク「メイルシュトレームII」
J・G・バラード「砂の檻」
ケイト・ウィルヘルム「やっぱりきみは最高だ」
R・A・ラファティ「町かどの穴」
トーマス・M・ディッシュ「リスの檻」
ゴードン・R・ディクスン「イルカの流儀」
ラリイ・ニーヴン「銀河の〈核〉へ」
ロバート・シルヴァーバーグ「太陽踊り」
ダニー・プラクタ「何時からおいでで」
ブライアン・W・オールディス「賛美歌百番」
ジャック・ヴァンス「月の蛾」
【追記】ジャック・ヴァンス「月の蛾」は……
エドワー・シッセルは、惑星シレーヌにおける母星連合の領事代理。シレーヌでは、人々は仮面で素顔を隠し、楽器をもちいて歌いながら話す風習がある。
シッセルの身につける仮面は、悲しげで滑稽な〈月の蛾〉。仮面にはストラクー的な価値があるのだが、シッセルにはまだストラクーが理解できない。月の蛾は、同じ外星人である宙港長エステバン・ロルヴァーが貸してくれたものだ。
ある日、シッセルの元に一つの知らせが届いた。凶悪な犯罪者、ハゾー・アングマークがシレーヌに向かっている、というのだ。しかも、宇宙電報は三日前の日付だった。大慌てで宙港に向かうシッセル。しかし時すでに遅し。アングマークは仮面をつけて逃亡した。
アングマークはシレーヌの商事代理人だったことがあり、外星人ながらも風習には馴染んでいる。そして、外星人の水死体が見つかった。この死体は一体誰なのか?
もしかすると、仰々しさが好きなのかもしれません。異質な文明や価値観は、SFの醍醐味の一つ。楽器を奏で歌いながら会話する人々が、抜群におもしろい。
まだ会話術がヘタで、行く先々でトラブルを起こすシッセル。まさに、月の蛾にふさわしい滑稽さ。
あまりのおもしろさに、何度も読んでしまう作品です。
※この書込みは、かつて愛読書コーナーに掲載されていましたが、コーナー閉鎖のため、こちらに追記しました
ユーモア小説。
ジョージとハリスとぼくは、ある日、健康状態について議論した。三人とも気分がすぐれず、どこかが悪いようなのだ。過労と自己診断した三人は、休息と気分転換を兼ねて河にいくことにした。かくして、犬をお供にテムズ河をボートで漕ぎだした三人。歴史ある地方をたどりつつ、河の旅は愉快に、滑稽につづいていく……。
物語の面白みはさておき、とにかく笑える一冊。
なんでもないところでも思わず笑みがこぼれてしまうから不思議。
スラップスティック・コメディSF。
ついにロシアと開戦したアメリカ、午前二時。爆弾が落ちる光景を目の当たりにしたクリフォード・クスヴィツキーは、生粋のアメリカ人名前に改名しようと決意した。そして、一念発起して恋人マーシャの家を訪れる。妻と離婚したクリフォードは、二人の子供(一人はモール・ゾンビ、また一人は宇宙士官候補生)を連れ戻し、マーシャと四人で幸せな家庭を築きたいのだ。ものすごく。
結婚に猛反対するマーシャの亡き母を説得するために、クリフォードは漆黒のトークン片手に地下鉄D線に乗り込んだ。そこからあの世へと旅立てるのだ。もちろん、往復切符で。
深刻化する核戦争も、クリフォードの「新しい家庭を築く夢」を止めることはできないのだった。
さまざまな逸話がてんこもりの、ちょっと複雑な構成。
分かりにくいけど、おもしろい。クリフォードの奮闘に注目。
SFマガジンに掲載された、傑作中短編集。
表題作の「冷たい方程式」(トム・ゴドウィン)は……緊急発進艇パイロットに課せられたのは「艇内で発見された密航者は、発見と同時に直ちに艇外に遺棄すること」という掟。艇外は宇宙空間。待ち受けるものは死だ。しかし、そうしなければならない理由があった。
そして、パイロットの彼は、密航者を発見する。それは、たった一人の兄に会いたいがために規則を破った、若い娘だった……。
他に、キャサリン・マクレイン「接触汚染」F・L・ウォーレス「大いなる祖先」ポール・アンダースン「過去へ来た男」アルフレッド・ベスター「祈り」ロバート・シェクリィ「操作規則」アイザック・アシモフ「信念」……を収録
名作ぞろい。表題作は泣けました。
【追記】ロバート・シェクリィ「操作規則」は……
パウエルはヴェンチャー号の艇長。ヴェンチャー号は、アメリカで唯一完全な状態にある宇宙船だ。部下は、航宙士ダントンと動力技師アリグリオの2人。そこへ、司令部の命令で追加乗員を加えることになった。
“プサイ”のウォーカー。
念動能力の持ち主だ。
たいていの宇宙飛行士と違わず、ダントンもアリグリオも保守的で排他的。歓迎などするはずもない。一方の“プサイ”には、適応障害があった。
パウエルは、ウォーカーが仕事を果たせば燃料の節約になると、部下たちを説得する。しぶしぶ認める2人。パウエルは、与えられた“プサイ”の操作規則書を熟読するように求め、従わせることにも成功する。
そして迎えたウォーカーは、尊大だった。しかし、最初の飛び立ちでウォーカーは力加減を間違い、ヴェンチャー号は土星近くまで達してしまった。目的地は火星だというのに!
帰還できる見込みはない。ウォーカーが再度仕事をしないことには。パウエルたちは、操作規則書を元に打開を計る。一方のウォーカーはすっかり自信喪失してしまい……。
名作とは言いがたいものの、精神的に弱い“プサイ”をなんとか扱おうとする乗組員たちが滑稽で、おもしろいんです。何度も読んでいるせいか、結末にも結論にも意外性があるとは思えません。もう半世紀も前の作品だし。
でも、好き。
※この書込みは、かつて愛読書コーナーに掲載されていましたが、コーナー閉鎖のため、こちらに追記しました