並外れた知能と特殊な能力を持つが故に迫害されている“スラン”の物語。
9歳にして孤児となったジョミー・クロスは、その特殊な能力を使って金もうけを企む老婆、グラニーに養われることになった。クロスは“スラン”の特徴である触毛を隠し、グラニーの孫として人々から知識を吸収していく。やがては、父の大発明を引継ぐために……。
“スラン”誕生の秘密とは?
“スラン”の仲間たちはいったいどこに?
信念のある男を書く作家といえばアルフレッド・ベスターを思い出してしまうのですが、クロスは、ベスターの創造人物とはまた一味違う、信念のある男でした。それもこれも“スラン”が先天的に平和主義者的だからでしょうか。
短編集です。収録作品は……
同級生に“運”を喰べられているしがない男の「運喰い野郎」
高校の推理文学クラブの顧問が殺人事件に巻き込まれ、生徒が活躍する「推理クラブ殺人事件」
縁を切りたいホステスの部屋で、当該女の死体を発見した男の「隠すよりなお顕れる」
大嫌いな伯父が殺される現場付近に居合わせてしまったがために奔走する女の「絶命詞」
他人の身体に精神を入れることができる男の「のりうつる」
プロ意識のある元・怪盗が、妻と二人で怪盗家業に戻る「犯罪は二人で」
上記の続編の「一人より二人がよい」
上記の続編の「闇の金が呼ぶ」
亡き夫の思い出捜しをしているという女の訪問を受けた家庭の「純情な蠍」
息子を、裏金を使ってでも大学に入学させたい親馬鹿の「採点委員」
下町のみこしをかつぐ女たちのグループを舞台にした「七人美登利」
副社長夫人とただならぬ関係になった新人社員の「飼われた殺意」
いずれも、頭にすんなりと入ってくる、暖かみのあるミステリーでした。
巨大産業文明滅亡後1000年後の地球が舞台。
陸地の大半は、毒をはきだす植物で被われた“腐海”に奪われ、人類は細々と生き長らえていた。人口500人の小国“風の谷”の族長・ナウシカは、争いあうニ大国家、トルメキアとドルクの戦乱に立ち向かい、世界が滅びていく意味を見い出そうとするが……。
雑誌に第一回が掲載されたのが、昭和57年。その歳に産まれた子供が今年成人するんだなぁと思うと、名作は色あせないですね。ホントに。
謎の、連続死体消失事件を追う、スコットランド・ヤードの警部補、グレゴリイの物語。
ミステリィとは言いがたく、精神を病んでいるようなグレゴリイの日常が、重苦しい……。事件はとりあえず解決したことになりますが、当然、真の解決ではないのでミステリィ好きには、きびしいかも。
《ノウンスペース》シリーズ。
ノウンスペース(既知空域)とは、人類の植民惑星系と、支配下ではないものの人類の宇宙船が行き交う空間。大宇宙を、地球人や、パペッティア人が往来し大昔に滅亡した、スレイヴァー族やトゥヌクティプ族の幻影が垣間見られます。
おもしろい。
ただし、無条件におもしろいわけではない。
クライマックス映画社は、実のところ火の車だった。プロデューサーにして映画監督のバーニイ・ヘンドリクソンは、社長のグリーンスパンにヒューイット教授を紹介する。教授はタイムマシンの研究をしており、グリーンスパンはそれに社運をかけることにした。
かくして、バーニイを始めとするロケ隊が11世紀のヴァイキングの世界に送り込まれたが……。
タイムパラドックスとそれなりに折り合いをつけ、映画撮影のようすをコミカルに紡ぎ出すユーモアSF。
楽しめます。
《人類補完機構》シリーズの一冊。
短編集。
収録作品は、ジョン・J・ピアスによる序文と
「スキャナーに生きがいはない」
「星の海に魂の帆をかけた女」
「鼠と竜のゲーム」
「燃える脳」
「スズタル中佐の犯罪と栄光」
「黄金の船が——おお! おお! おお!——」
「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」
「アルファ・ラルファ大通り」。
なんでもあり的雰囲気はジョン・ヴァーリイのようでした。が、作風はまったくちがう、不思議な作品。
とてもおもしろいものの、とんがった星々をちりばめたような作風に嫌悪感を抱く人も多いようです。おもしろいのにね。
吉川太平は、地方都市・富士川市に君臨している事業主だった。その太平の元に、誕生祝いの席上、殺害予告がもたらされる。早速、容疑者のリスト・アップにかかった太平だったが、その数は一人や二人ではない。やがて、実際に太平は殺されそうになるが、その犯人は思いもよらない人物だった。
最後の最後まで、どんでん返しの連続。屍がいくつも登場する以上、空気が殺伐としてしまっても不思議ではないのですが、天藤真のユーモアがきれいにくるんでいて、それがまた美しい。
ただし、傑作かというと、ちょっとちがうような……。
人工衛星カミスに住むカミス人は、事象制御装置により、惑星リンボスの生物を制御していた。その事業の中心に存在しているのが、理論士たち。かれらは、時間を指標として用い、事象を変化させることによって現実を操作するのだ。
カミス中央機構の理論士イシスは、弟で詩人のアシリスを愛してしまう。アシリスもまた、姉であるイシスを愛するが、カミスでは姉弟の恋は禁じられていた。そこでイシスは、自分たちをリンボス生物に投影して想いを成就させようとするが、模擬装置での実験中に事故が起こってしまう。
イシスが模擬装置に理論を入力したまさにそのとき、逃亡中の犯罪者バールが、模擬装置と事象制御装置を接続し、独自の世界を展開させようとしていたのだ。イシスとアシリスは、バールによる、時間のない事象平面だけの世界に巻き込まれてしまった。
特殊な、時間のない世界を説明するために、イシスの解説がこれでもか、これでもか、とやってくるので、少々きついです。
ラストも、どうも釈然としないのでした。
《人類補完機構》シリーズの一冊。
スミス、唯一の長篇。
ロッド・マクバンは、富めるノーストリリアの最古の牧場〈没落牧場〉の地主。不具があり、三回目の少年時代を過ごしていた。
審問にかけられたロッドは、ようやくノーストリリア市民として迎えられることになる。しかし、喜びもつかの間、審問をパスできたがために命を狙われことに……。
ロッドは一族の古いコンピュータに助けを求めた。コンピュータがはじきだした答えは「地球を買い取る」というもの。賭けにでたロッドは、ノーストリリアだけが生産できる不老長寿薬ストルーンを利用して、一夜にして宇宙最高の大金持ちになった。そして、地球の大部分を買い取ってしまう。
母なる地球の持ち主になることで新たな危険に遭遇することになったロッドは、ノーストリリアを離れ、地球を訪れたが……。
絶品。
しかし、最上ではない。
それにしたって、おもしろい。