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2003年の記録
目録
 
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このページの本たち
だれも猫には気づかない』アン・マキャフリイ
雷電本紀』飯嶋和一
ホワイト・ライト』ルーディ・ラッカー
世界の中心で愛を叫んだけもの』ハーラン・エリスン
三月は深き紅の淵を』恩田 陸
 
霊玉伝』バリー・ヒューガート
プランク・ゼロ』スティーヴン・バクスター
真空ダイヤグラム』スティーヴン・バクスター
物体O』小松左京
火星のタイム・スリップ』フィリップ・K・ディック  

 
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2003年03月11日
アン・マキャフリイ(赤尾秀子/訳)
『だれも猫には気づかない』
創元推理文庫

 中世風ファンタジー。
 ジェイマス五世の摂政が息をひきとった。摂政は、己の老い先が短いことを予見し、ジェイマス五世のためにさまざまな策を残していた。たとえば、分別のある助言者をつけること。たとえば、賢い猫・ニフィを遺すこと……。
 ある日、ジェイマス公の元に隣国・エグドリル王から書状が届く。エグドリル王は領土を拡大しつつある“熱心”な王だ。ジェイマス公は、猫・ニフィの承認を得て、エグドリル王を狩りに招待することにした。

 実は再読。
 読むたびに、ニフィに目がいきます。


 
 
 
 
2003年03月15日
飯嶋和一
『雷電本紀』
河出文庫

 実在の相撲人・雷電為右衛門の生涯を、商人・鍵屋助五郎の視点を交えて描いた伝記的作品。
 江戸中期。
 百姓の倅として生を受けた太郎吉は、人並外れた体格と運動能力をもっていた。太郎吉は祭礼相撲などに出場するうち、江戸相撲からスカウトを受ける。父・半右衛門は、太郎吉がこのまま百姓として暮らしても、その卓越した身体と知力が、己を滅ぼしてしまうと考えたのか、太郎吉を手放した。
 こうして誕生したのが、稀代の相撲人・雷電為右衛門だった。
 雷電は、出し物になってしまった江戸相撲を改革していく。ただ、常に真剣勝負をすることだけで。

 思い出がはさまるおかげで、物語が前後します。それが読みづらい。
 でも、名作。


 
 
 
 
2003年03月17日
ルーディ・ラッカー(黒丸 尚/訳)
『ホワイト・ライト』ハヤカワ文庫SF

 原題は「ホワイト・ライト、あるいはカントルの連続体問題とは何か?」
 数学者のフィーリクス・レイマンは、幽体離脱をくり返すうち、イエス様に、死者・キャシイと共にオン山に登るように指示を受ける。オン山はシメンにある。その高さは“絶対無限”だ。
 道中、死者・キャシイはカモメとなり、レイマンに別れを告げる。ただ一人“ヒルベルトのホテル”にたどりつくレイマン。オン山はホテルの向こうだ。
 オン山に登るためにはガイドが必要だったが、レイマンは自力で登ることを決意する。ホテルで知り合った巨大ゴキブリのフランクスもついてきた。二人(一人と一匹)は、チームワークで難所を越えていくが、ついに、正規ガイドに発見されてしまう。
 レイマンが気がついたとき、ただ一人、形相の図書館でタイプしていた。

 本物の数学者、ルーディ・ラッカーの小説家デビュー作。ラッカーにしては、奇想天外さが少ないような……。
 読むうちに数学的頭(?)になれます。


 
 
 
 
2003年04月15日
ハーラン・エリスン(浅倉久志/伊藤典夫/訳)
『世界の中心で愛を叫んだけもの』
ハヤカワ文庫SF

 短編集。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」
「101号線の決闘」
「不死鳥」
「眠れ、安らかに」
「サンタ・クロース対スパイダー」
「鋭いナイフで」
「ピトル・ポーウォブ課」
「名前のない土地」
「雪よりも白く」
「星ぼしへの脱出」
「聞いていますか?」
「満員御礼」
「殺戮すべき多くの世界」
「ガラスの小鬼が砕けるように」
「少年と犬」
以上、15作品を収録。

 いくつかおもしろがれない作品もあったものの、全体的に秀逸。
「サンタ・クロース対スパイダー」は……
 秘密情報組織の諜報員クリスは、新たな任務を得た。「S・P・I・D・E・R」が現れたというのだ。彼らの正体とは? その目的は?
 いやはや、痛快。


 
 
 
 
2003年04月16日
恩田 陸
『三月は深き紅の淵を』
講談社文庫

 本をめぐる連作ミステリィ。
 履歴書の趣味欄に「読書」と書いたがために、鮫島巧一は、会長の“春のお茶会”に出席するはめになった。年に一度のこの行事に若手社員が一人だけ招待されているのだが、今年は巧一に白羽の矢が立ったのだ。
 嫌々ながらも会長の別宅に赴いた巧一。
 そこで待っていたのは、本の捜索だった。
 屋敷内にあるはずの『三月は深き紅の淵を』は、たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された私家本。屋敷の元の持ち主は「ザクロの実」というダイイング・メッセージを残し、本の在り処は明かさずに他界したという。
 巧一は、この傑作を見つけ出すことはできるのか?

 傑作とされている『三月は深き紅の淵を』の四部構成の内容に合わせ、本書も四部構成になってます。作風もがらりと違うのは善し悪し。
 この章はおもしろいけど、この章はつまらない……という両極端な読後感でした。


 
 
 
 
2003年04月27日
バリー・ヒューガート(和爾桃子/訳)
『霊玉伝』ハヤカワ文庫FT

鳥姫伝』の続編。中国的ファンタジイ。
 酒呑みの老賢者に弟子入りした十牛(ジュウギュウ)。彼らの元に、哀谷の寺の管長が難事件を持ちこんだ。750年前に死んだはずの笑君が復活し、仲間の法師を惨殺したというのだ。
 笑君は暴君として名高い。
 はじめ笑君は、農民たちにたくさんのひょうたんを植えさせ、ついで、ひょうたんの種を元に燃料を作った。その燃料を使えば、長もちする明るい白い炎をあげさせることができるのだ。そうして昼も夜も、鎖でつながれた農民たちは、鞭打たれて採掘を行った。
 あるとき笑君は豹変する。金もうけに興味を失い、代わって、医学に革命をもたらそうとした。人体を詳細に研究したのだ。農民は狩りたてられ、実験台にされていった。
 ついに笑君は病に倒れたが、やりかけの仕事を終えるために、必ずや墓から復活して戻ってくると誓ったのだった。
 笑君の“死”を確認するために、墓に入る十牛たち。
 笑君は本当に復活したのか?

 前作と似た展開になっているので、少々物足りなさも残りました。おもしろいんですけど、あと一歩。


 
 
 
 
2003年05月03日
スティーヴン・バクスター
(古沢嘉通/岡田靖史/小野田和子/菊池 誠/小木曽絢子/訳)
『プランク・ゼロ』
ハヤカワ文庫SF

 連作短編集
「太陽人」
「論理プール」
「グース・サマー」
「黄金の織毛」
「リゼール」
「パイロット」
「ジーリー・フラワー」
「時間も距離も」
「スイッチ」
「青方偏移」
「クォグマ・データ」
「プランク・ゼロ」
以上、12作品とプロローグを掲載。

ジーリー》シリーズのうちの一冊。
 バクスターによる未来史をたどる作品集です。中心となるのは(人類は別として)謎の超種族・ジーリー。
 ジーリーそのものはその存在をほのめかす登場の仕方しかしませんが、圧倒的な科学力を見せつけてくれます。あっさりと光速を超える宇宙船、恒星さえ破壊するスター・ブレーカー、時間航行技術、などなど。
 なお、本書は未来史の前半部分です。
 人類が大宇宙にとびだし、地球外生命体を発見したり、スクウィームやクワックスといった宇宙種族の支配下に置かれたりします。


 
 
 
 
2003年05月05日
スティーヴン・バクスター
(小野田和子/岡田靖史/菊池 誠/古沢嘉通/内田昌之/訳)
『真空ダイヤグラム』
ハヤカワ文庫SF

 連作短編集。
「ゲーデルのヒマワリ」
「真空ダイヤグラム」
「密航者」
「天の圧制」
「ヒーロー」
「秘史」
「〈殻〉」
「八番目の部屋」
「バリオンの支配者たち」
「イヴ」
以上、10作品とエピローグを収録。

ジーリー》シリーズのうちの一冊。
プランク・ゼロ』の続編です。
 大宇宙の中で、超種族ジーリーに次ぐ地位を手に入れた人類。しかし、宇宙は終末へとひた走っていた。

 バクスターの《ジーリー》シリーズに属する作品を読んでいれば、楽しさ倍増します。ただし、長編とかぶっている部分もあるため、おもしろさが半減する部分も……。


 
 
 
 
2003年05月07日
小松左京
『物体O』
ハルキ文庫

 SF短編集。
「物体O(オー)」
「お召し」
「終わりなき負債」
「自然の呼ぶ声」
「彼方へ」
「五月の晴れた日に」
「石」
「黴」
「袋小路」
「牙の時代」
「静寂の通路」
「極冠作戦」
以上、12作品を収録。

 表代作の「物体O」は……
 ある日突然、日本列島は謎の物体によって寸断されてしまう。その形状から“物体O”と名付けられたそれは、高さ約200km、直径約1000kmのリング状。白銀色に光り輝き、リング内部の生存者はもちろん、かろうじてリング外に生き残った人々をも混乱に陥れる。日本は、日本人たちは生き残れるのか?

 シミュレーションものは、小松左京の真骨頂のような気がします。ただ、オチがね、なんとも……。


 
 
 
 
2003年05月10日
フィリップ・K・ディック(小尾芙佐/訳)
『火星のタイム・スリップ』
ハヤカワ文庫SF

 ジャック・ボーレンは、火星植民地で暮らす機械修理工。地球に住む父親が、火星のFDR山一帯を買い占めると聞いて愕然とする。FDR山はただの荒れ地。用水路の便すらない。かつがれているのではないか?
 アーニイ・コットは、水利労働組合長。慢性的な水不足に苦しむ火星植民地では、強大な権力を握っている。アーニイは、国連の大規模な火星再開発の情報をつかむ。しかし、一帯の土地は地球の投機家に先を越されてしまった。その場所こそ、FDR山だった。
 アーニイは、ジャックを雇って新しい機械をつくり出させる。分裂病の少年・マンフレッドとの交信機械だ。マンフレッドは、時間に対する特殊能力を持っていると考えられているのだ。その能力を使ってアーニイは、過去に戻り、FDR山を買い占める行動にでる。

 数々のエピソードが徐々に一本につながっていくさまが心地いいSF。ディック節炸裂。

 
 

 
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