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2003年の記録
目録
 
 
 
 
 
 6/現在地
 
 
 
このページの本たち
高砂幻戯』小松左京
フリーウェア』ルーディ・ラッカー
辺境の惑星』アーシュラ・K・ル=グイン
水中眼鏡の女』逢坂 剛
ラモックス』ロバート・A・ハインライン
 
重力が衰えるとき』ジョージ・アレック・エフィンジャー
3001年終局への旅』アーサー・C・クラーク
夜が明けたら』小松左京
スキズマトリックス』ブルース・スターリング
こちらニッポン…』小松左京

 
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2003年09月13日
小松左京
『高砂幻戯』
ハルキ文庫

 SF短編集。
「歌う女」
「旅する女」
「昔の女」
「写真の女」
「小夜時雨(たぬき)」
「行きずり」
「鷺娘」
「高砂幻戯」
「明鳥」
「天神山縁糸苧環(てんじんやまえにしのおだまき)」
「乗合船夢幻通路(のりあいぶねゆめのかよいじ)」
「山姥譚」
「反魂鏡」
以上、13作品収録。

 表題作の「高砂幻戯」は……
 退職して閑を持て余している「私」は、旅先の高砂市で若夫婦と知り合った。目的地が同じ高砂神社だったため、一緒におもむくが、そこで「私」は信じ難い光景に出会う……。

 幻想的な作品を集めた一冊。


 
 
 
 
2003年09月15日
ルーディ・ラッカー(大森 望/訳)
『フリーウェア』ハヤカワ文庫SF

 人工生命ものSF。
 サンタクルーズのモーテルで働くモニクは、人工生命体モールディ。
 モールディのボディは、柔らかいプラスチックだ。知性があり、身体の形態を自由に変える能力もある。地球では市民権を得ているモールディだったが、その独特な体臭も手伝って、嫌う人間も少なくない。一方で、風変わりな性的満足の対象とする人間もいた。モーテルの客ランディ・カール・タッカーもモールディ目当ての一人だった。
 モニクとその夫・エクスロトルは、金を必要としていた。二人の間に子供をつくるためには、高価なイミポレックス樹脂を買わねばならない。モニクは、ランディを洗脳し、意のままに操る目論みで、誘いに乗ることにする。しかし、逆に誘拐されてしまった。必死に跡を追うエクスロトルと仲間たち。
 モニク誘拐の裏には、モールディを奴隷化してしまうスーパーリーチと月組織の存在があった。

ソフトウェア』『ウェットウェア』に続く、《ウェア》シリーズ三作目。前二作の内容を忘れて読みましたが、特に困ることもなく、楽しめました。逆に、登場する人工生命が、硬質機械から柔らかなプラスチックに変わったことで、前二作を明確に覚えていると違和感があるかもしれません。


 
 
 
 

2003年09月20日
アーシュラ・K・ル=グィン(脇 明子/訳)
『辺境の惑星』
ハヤカワ文庫SF

 異種族ものSF。
 長い長い冬を前にして、竜座の第三惑星では異変が起こっていた。蛮族ガールが、略奪を行ないながらの移動を開始していたのだ。かつてない動きに、トバール族は困惑する。そのとき族長のもとに、ファーボーンの頭アガトが同盟を求めてやってきた。
 ファーボーンは、他の惑星から移住してきた者たちの末裔だ。高度なテクノロジーは失われて久しいが、プライドを忘れてはいない。ファーボーンはトバール族に忌み嫌われ、ファーボーンもまた、未開のトバール族と一線を画している。
 そんな両者だったが、ガールの危機を前にすれば話は別。同盟は成立した。まさにそのとき、アガトとトバール族長の娘・ロルリーは恋に落ちてしまう。アガトは、トバール族の反ファーボーン派の襲撃を受け、同盟も破綻。直後に、蛮族ガールがやってきてしまうが……。

 《ハイニッシュ・ユニバース》もの。
 ほとんどファンタジイ。これをSFたらしめているのは、ファーボーンたちが異星人の末裔だということだけ。しかし、その事実の重いこと、重いこと。


 
 
 
 
2003年09月23日
逢坂 剛
『水中眼鏡の女』
集英社文庫

 サイコサスペンス集。
「水中眼鏡の女」
「ペンテジレアの叫び」
「悪魔の耳」
 以上、3作品を収録。

 表題作の「水中眼鏡の女」は……
 精神科医・坪田のもとに、ある日、変わった患者がやってきた。門倉千春。美女なのだが、なぜか、黒く塗りつぶした水中眼鏡を外そうとしない。付き添いの母親の説明によると、突然、目が開かなくなって以来、そんな格好だという。千春の目は、眼科医の見立てでは問題なく正常。坪田は、千春が夫を火事で失ったことが原因ではないかと治療を進めていくが……。

 入り組んだ構成が見事としか言いようがない、傑作。
 驚愕のラストは、何度でも味わいたい絶品でした。


 
 
 
 
2003年09月24日
ロバート・A・ハインライン(大森 望/訳)
『ラモックス −ザ・スタービースト−』
創元SF文庫

 ユーモアSF。
 ジョン・トマス・スチュアート11世には、特別なペットがいた。名前をラモックス。ジョンの曾祖父が、宇宙船トレイル・ブレイザー号の冒険で連れ帰ったスタービーストだった。
 すっかり巨大になったラモックスは、ある日、ジョンの留守をいいことに、ちょっとしたつまみぐいに出かける。怪物さながらのラモックスの出現に、街は大パニック。ジョンは、なんとかラモックスを家に連れ帰るが、ラモックスによる被害を主張する人々に裁判を起こされてしまい、さぁ、大変。宇宙生物が相手と聞いて、宙務省も介入してくるが……。

 子供が読んでもおもしろい一冊。もちろん、大人が読んでもおもしろい。
 傑作。


 
 
 
 
2003年09月25日
ジョージ・アレック・エフィンジャー(浅倉久志/訳)
『重力が衰えるとき』
ハヤカワ文庫SF

 ハードボイルドSF。
 マリード・オードラーンは、アラブの暗黒街・ブーダイーンの一匹狼。小遣い稼ぎのために、ロシア人ボガティレフから行方不明の息子捜しを引き受けるが、依頼人は目の前で射殺されてしまった。残されたのは、前金の3000キアム。そして、ボガティレフの息子は、三年前に他界していた。
 すっきりした気分になれないオードラーン。続いて、なじみの性転換娼婦・ニッキーの依頼を受ける。オードラーンは、ニッキーを雇用主アブドル・ハイイから独立させるために、大物ハサンを紹介した。ハサンの力によって示談は成立するが、ニッキーは示談金3000キアムを払わずに失踪してしまった。
 ニッキーの代わりに泣く泣く金を払ったオードラーンは、ニッキーの友タミコの惨殺体を発見する。しかも、血生臭い事件はこれで終わりではなかった。
 オードラーンは、一連の事件の真相を捜査するよう、ブーダイーン最大の権力者、フリートレンダー・ベイの命令を受けるが……。

 ふだん馴染みのないアラブ世界が新鮮。社交辞令や定型の文句の数々。国籍ある一冊。


 
 
 
 
2003年09月27日
アーサー・C・クラーク(伊藤典夫/訳)
『3001年終局への旅』
ハヤカワ文庫SF

2001年宇宙の旅』の一連のシリーズ完結編。
 宇宙ものSF。
 海王星の軌道付近で発見された漂流物は、冷凍状態にある人間だった。かつて、ディスカバリー号の船長代理をつとめたフランク・プールその人だ。ディスカバリー号は1000年前、機密の任務のために木星へと向かった宇宙船だ。プールは宇宙船のコンピュータ、HAL9000によって宇宙へと放り出され、死亡したと思われていた。
 地球の軌道都市スター・シティで蘇生されたプールは、意識を取り戻す。10世紀ぶりに見る地球。過去を知る有名人としての待遇を受けるが……。

 完結編なのですが、まだつづきがありそうなラスト。今度こそすっきり終わらせてもらいたかったのですが。


 
 
 
 
2003年09月29日
小松左京
『夜が明けたら』
ハルキ文庫

 SF短編集。
「夜が明けたら」
「空飛ぶ窓」
「海の森」
「ツウ・ペア」
「真夜中の視聴者」
「葎生(むぐらふ)の宿」
「秘密」
「保護鳥」
「安置所の碁打ち」
「兇暴な口」
「沼」
「猫の首」
「腐蝕」
「青ひげと鬼」
「牛の首」
「黄色い泉」
「怨霊の国」
 以上、17作品を収録。

 表代作の「夜が明けたら」は……
 夜中の地震は、あたり一帯を停電状態にした。懐中電灯も、ポータブル・ラジオも使えず、途方にくれた一家は、その夜は早々に就寝することにした。しかし、真夜中の訪問者と共に国道まで出た主人は、ある事実を目の当たりにする。

 始まりがホームドラマで、まどろっこしさが。そうして訪れる
結末は衝撃のSFチック。この対比は、鮮やかなのか、違和感なのか。


 
 
 
 
2003年10月02日
ブルース・スターリング(小川 隆/訳)
『スキズマトリックス』
ハヤカワ文庫SF

 サイバーパンク系SF。
 アベラード・マルコム・タイラー・リンジーは〈工学者〉のメンバーだった。〈工学者〉とは、遺伝子工学を用いて肉体を変形させる一派で、機械でもって延命をはかる〈機械主義者〉と対立している。
 環月軌道コロニーで、リンジーはクーデターをはかるが失敗。コロニー追放処分を受けてしまう。静かの海環月人民財閥へと追い払われたリンジーだったが、さらに、殺し屋に追われることに。リンジーは海賊たちの国家・フォルツナと出会い、彼らを利用して危機から脱するが……。

 主義主張が乱れ飛ぶので、それを消化するまでは読むのが大変。消化したあとも、リンジーの遍歴と共に増えて行く登場人物たち。そこにおもしろさがあるんですけど、努力しないと。


 
 
 
 
2003年10月04日
小松左京
『こちらニッポン…』
ハルキ文庫

 シミュレーションSF。
 ある朝、福井浩介が目の当たりにしたのは、誰もいない大都会だった。人影の消えた大阪で人間を捜し求める福井。大阪朝日新聞社にかかってきた電話で、ようやく、他にも消え残った人間がいることを知り、彼らとともに、この異様な事態の究明に乗り出すのだが……。

 結末が結末でないのが、小松左京流。
 それに慣れていないと、ちょっと怒りたくなるかもしれません。

 
 

 
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