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2003年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 7/現在地
 
 
このページの本たち
殺しへの招待』天藤 真
シビュラの目』フィリップ・K・ディック
夜の大海の中で』グレゴリイ・ベンフォード
アイ・アム I am.』菅 浩江
大いなる惑星』ジャック・ヴァンス
 
スター・ウィルス』バリントン・J・ベイリー
ゴールデン・フリース』ロバート・J・ソウヤー
スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』フィリップ・K・ディック
怪盗ニックの事件簿』エドワード・D・ホック

 
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2003年10月16日
天藤 真
『殺しへの招待』
創元推理文庫

 ユーモア・ミステリイ。
 五人の男のもとに、同じ内容の殺人予告状が届いた。タイプ文字の手紙には、自分がある男の妻でこれから夫を殺害すると書かれてあった。五人の内、一人は殺されようとしている夫。四人は夫の知人だ。
 男たちはそれぞれ、自分が手紙の中の条件にぴったり合っていることに衝撃を受ける。ターゲットは自分なのか?
 疑心暗鬼に陥る中、差出人YZの開く会合に、男たちは招待された。出席する者、こっそり様子を見にくる者、使いの者にうかがわせる者……。
 男たちの一人である羽鳥正吾は、ルポライターとしての職業を生かし、YZ捜しの陣頭指揮をとる。しかし、YZが誰の妻なのか明らかにならないまま、ついに殺害日時の予告状が届いてしまい……。

 当事者の男たちだけでも五人。さらにその妻たち……。登場人物が多いので、出始めは読むのが大変でした。でも、二転三転する展開は一読の価値あり。


 
 
 
 
2003年10月19日
フィリップ・K・ディック
(浅倉久志/大森 望/冬川 亘/訳)
『シビュラの目』
ハヤカワ文庫SF

 短編集。
「待機員」
「ラグランド・パークをどうする?」
「宇宙の死者」
「聖なる争い」
「カンタータ百四十番」
「シビュラの目」
以上、6作品を収録。

 表題作の「シビュラの目」は……
 古代ローマでは、キュメの巫女が予言の書「シビュラの書」をしたため、人々を導いていた。フィロス・ディクトスは、神官として勤めていたときに偶然、巫女が神託を受けている瞬間を目撃する。巫女は、遠い昔にこの世を去ったと思われていた不死人と会話をしていた。
 ディック本人が、ディクトスの生まれ変わりとして出てくる、小作品。駆け足で語られるので、ちょっと忙しい。


 
 
 
 
2003年11月09日
グレゴリイ・ベンフォード(山高 昭/訳)
『夜の大海の中で』
ハヤカワ文庫SF

 ファースト・コンタクトものSF。
 小惑星イカルスは、ガスと塵の煙を吐きだし地球に迫っていた。このままではインド大陸を直撃してしまう。小惑星を破壊するために、NASAは人を派遣した。その一人が、ナイジェル・ウォームズリー。
 ナイジェルは爆弾を仕掛けるため、着陸船でイカルスに降り立つ。具合のよさそうな割れ目を見つけるが、割れ目の向こうにあったものは宇宙人の残した部屋の数々だった。
 ナイジェルは、本来の任務である爆破を後回しに、イカルス内部の調査に取りかかる。そののち、イカルスは破壊された。しかし、イカルスは破壊されるより前に救難信号を発し、なにものかに助けを求めていた。

 連鎖して起こる一連の出来事。事件が事件を呼び、と言ったところ。トーンが暗いので、気力が必要でした。


 
 
 
 
2003年11月23日
菅 浩江
『アイ・アム I am.』
祥伝社文庫

 近未来SF。
 私立エナリ病院は、終末期医療を中心に据えた病院だった。そこで目覚めたミキは、介護全般を手伝う医療用ロボットだ。高度な知識と技術をプログラミングされたミキは、次第に“自分”という存在に疑問を抱きだす。
 湧きでる奇妙な記憶の断片。
 自分は本当にロボットなのか?

 再読。
 何度読んでも、涙、涙。それでも物足りなさを感じてしまうのは、その短さゆえか、スカスカな文字組のせいか。


 
 
 
 
2003年11月24日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『大いなる惑星』ハヤカワ文庫SF

 冒険SF。
 クロード・グリストラは、地球中央政府が派遣した調査団のリーダーだった。調査の目的は、ボージョレーの皇帝。辺境惑星〈大惑星〉で版図を広げつつある皇帝は、惑星外にも野心を抱いていた。
 地球の十倍の面積を誇る〈大惑星〉では、地球の権力が及ぶのはわずかな直轄領のみ。かつて地球から移植した人々は勝手気ままに暮らしている。
 調査団の乗る宇宙船が〈大惑星〉まであと少しのところに来たとき、事故は起こった。調査団の情報が漏れていたのだ。宇宙船は〈大惑星〉に墜落。クロードはかろうじて生き残るが、そこはボージョレー領地の目と鼻の先。そして、地球直轄領までは、およそ六万キロ。
 クロードたちは、宇宙船と同時に通信手段も失っていた。金属資源に乏しい〈大惑星〉には、自前の機械も電気もなにもないのだ。
 クロードは、蛮族のひしめく〈大惑星〉を踏破する決心を固める。皇帝に見つかる前に、なんとかして地球直轄領まで逃げるのだ。しかし、一行の中にはボージョレーの皇帝に通じる裏切り者が……。

 一人、また一人と消えて行く仲間たち。サスペンスにあふれた一冊。ただ、徐々に残り少なくなるページ数から、六万キロの旅は最後までつづかないことが容易に分かってしまう……。


 
 
 
 
2003年11月28日
バリントン・J・ベイリー(大森 望/訳)
『スター・ウィルス』
創元SF文庫

 宇宙冒険SF。
 人類が銀河の中心地域・ハブへ進出してから500年。ハブによって無数の世界を提供された人類は、各惑星に分散し、統一政府もないままに暮らしている。
 ハブに進出したのは人類だけではなかった。
 異種生命体ストリール。彼らはおのれを、銀河を支配する存在だと確信している。人類は距離を置かれ、冷ややかな悪意を向けられていた。
 宇宙海賊のロドロン・チャンは、そんなストリールの哲学が気に食わない。そしてもたらされたある情報……。
 ストリールは、大手商業ギルド〈ジャル‐ディー〉を脅迫していた。ストリールの要求は、ある積み荷の引き渡し。貨物ナンバー401を引き渡さないと……。
 ロドロンは、ストリールよりも先に〈ジャル‐ディー〉の商船を拿捕し、これを奪い取った。しかし、その正体が、用途が、目的が、分からない。荷解きして現れた不可解な“レンズ”は、ストリールにとって極めて貴重らしいのだが……。

 ベイリーの処女長編。
 ちょっと首を傾げたくなるところがないわけではないものの、大胆さがおもしろい一品。


 
 
 
 
2003年11月29日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『ゴールデン・フリース』
ハヤカワ文庫SF

 SFサスペンス。
 宇宙船〈アルゴ〉は、47光年彼方をめざして航海中だった。エータ・ケフェイ星系第四惑星コルキスにたどりつくため、10,034名の男女は8年の歳月をかける。彼らを守る宇宙船のコンピュータは、イアソン。盲目的な信頼を得、宇宙船を完璧に制御している。
 ある日イアソンは、科学者・ダイアナを殺害した。
 ダイアナは自殺であると思われたが、元夫・アーロンは疑いを抱く。自殺の原因は離婚であるなどと、アーロンには受け入れがたかった。
 ダイアナは自殺か、事故か、他殺か?
 アーロンは、徐々に事件の不可解さに気がつき始め……。

 ダイアナ殺害の背景に潜む、さらなる秘密。そして、その秘密の後ろにもまた秘密が……。多重構成で楽しませてくれます。


 
 
 
 
2003年11月30日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『スタープレックス』
ハヤカワ文庫SF

 冒険SF。
 銀河系には、ショートカットと呼ばれる魔法の通路があった。造り手の目的は分からないが、これを使うと星系から星系への瞬間移動が可能になる。そうして出会った四種族、地球人、イルカ、ウォルダフード族、イブ族は、惑星連邦を作りあげた。
 キース・ランシングは、探査宇宙船スタープレックス号の指揮官。惑星連邦のこの船は、四種族共同で組織されていた。協力し合い、銀河系のさまざまな未知の宙域を探検するのだ。
 スタープレックス号は、ショートカットの向こうに新たな世界を見つけた。そこでは何故か、星がまたたいていた。真空である宇宙空間で星がまたたくことはない。ただちに調査するが、その原因は銀河創成の秘密に迫るものだった。

 あまり物語が動かない序盤は、正直、面白みに欠けます。ただし、動き出したらもう止まらない。大ボラ話の真骨頂。


 
 
 
 
2003年12月02日
フィリップ・K・ディック(浅倉久志/訳)
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
ハヤカワ文庫SF

 退廃SF。
 リック・デッカードは、バウンティ・ハンター。逃亡したアンドロイドを狩るのが仕事だ。
 この時代、地球は放射能灰に汚染されており、国連は「惑星植民計画」を押し進めていた。人々はアンドロイドの無料貸与を受け、厳しい環境下に移住して行く。残った、あるいは残された人々のステイタス・シンボルは、生きている動物。
 そんなある日、火星から、ローゼン協会の新型アンドロイド8人が逃亡した。ただちに、主任バウンティ・ハンターのホールデンが対応したが、撃たれて入院してしまう。ホールデンの仕事をひきつぐリック。収入増が期待できたが、リックの心は晴れない。
 リックは、ローゼン協会へ出向いた。新型アンドロイドに、彼らが人間でないことを見分けるフォークト=カンプフ検査法は通用するのか?

 再読。
 退廃はしているものの、映画「ブレードランナー」の退廃とは方向がちがう。人々は、感情を変えられる情調オルガンをダイヤルし、マーサー教の共感ボックスを握り、24時間つづくバスター・フレンドリーの番組に爆笑する。この世界観とリックの憂鬱が密接に結びついているのがミソ。幅のある、たった一日の物語……。
 傑作。


 
 
 
 
2003年12月07日
エドワード・D・ホック(木村二郎/訳)
『怪盗ニックの事件簿』
ハヤカワ文庫HM

 ミステリ短編集。
 ニック・ヴェルヴェットは、価値のないものだけを盗む泥棒。途方もないもの、奇妙なもの、値打ちのないものしか盗まない。ニックは盗む理由を尋ねたりしない。報酬はきっかり2万ドル。
 2万ドル払ってまで欲しい価値のないものとは?

 怪盗ものというより、探偵もの。
 軽快。
 理由は聞かないと言いつつ最終的には聞いてしまうニックをどう思うかが、楽しめるかどうかの鍵。

 
 

 
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