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2004年の記録
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このページの本たち
アトムの子ら』ウィルマー・H・シラス
天を越える旅人』谷 甲州
光の塔』今日泊亜蘭
戦闘妖精・雪風〈改〉』神林長平
グッドラック 戦闘妖精・雪風』神林長平
 
サターン・デッドヒート』グラント・キャリン
地球最後の砦』A・E・ヴァン・ヴォクト
ジャンパー −跳ぶ少年−』スティーヴン・グールド
神秘の短剣』フィリップ・プルマン
スロー・バード』イアン・ワトスン

 
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2004年01月16日
ウィルマー・H・シラス(小笠原豊樹/訳)
『アトムの子ら』
ハヤカワ文庫SF

 ミュータントSF。
 ピーター・ウエルズは、精神科医。恩師であるミス・ペイジに、一人の少年の診察を依頼された。少年の名は、ティモシー・ポール。ごく平凡でおとなしい子なのだが、ミス・ペイジにはなにかがひっかかるらしい。
 早速診察するウエルズ。ティムには異常はないが、隠しごとがあるようだった。ウエルズは、ティムの家庭を訪問し、本人との信頼関係を築き上げていく。そして、ティムの秘密が明らかになった。
 ティムは、原子力研究所の事故の影響で産まれた、突然変異・超天才児だったのだ。
 ウエルズとティムは、他にも同様の超天才児がいると考え、その行方を追いかけた。そして、超天才児のための学校をつくる。これで、超天才児の子供たちがのびのびと日常を送れる……と思ったのもつかの間、不可解な事件が起こってしまった。
 いったい誰が、なんのために?

 子供たちの問答に圧倒されます。が、まだまだ子供。やはり精神面は成長しきれてません。設定は突飛かもしれませんが、そのあたりが現実的に感じました。
 そして、納得の結末。
 名作です。


 
 
 
 
2004年01月25日
谷 甲州
『天を越える旅人』
ハヤカワ文庫JA

 再読。
 チベットの少年僧ミグマは、雪山での死の瞬間を夢に見た。繰り返し見るそれは、自分の前世ではないのか? 夢見による瞑想法を会得したミグマは、前世を、さらにその前の生を知るようになる。
 なぜ雪山で死ぬことになったのか?
 なんのために転生を繰り返してきたのか?

 傑作。
 読むたびに、新たな発見がある一冊です。


 
 
 
 
2004年01月26日
今日泊亜蘭
『光の塔』
ハヤカワ文庫JA

 SF。
 水原少佐は、火星から帰航中に怪光を目撃した。そして地球では、あらゆる電気が一時的に消え失せる“絶電現象”が起こっていた。怪現象はそれにとどまらない。厳重に警備された核物質は一夜にして消え失せた。誰がなんのために、どうやって持ち出したのか?
 やがて人々は、未曾有の大災厄に直面することに……。世界中に出現した巨大な光の尖塔が、破壊のかぎりをつくし始めたのだ。人類になす術はない。
 呼びかけにも応じない彼らの正体とは?

 1962年の作品。
 文体など、現代の作家のものとちがうこともあって、とっつきにくさもあります。が、慣れてしまえば、それがかえって面白味を醸し出すから不思議です。


 
 
 
 
2004年01月28日
神林長平
『戦闘妖精・雪風〈改〉』
ハヤカワ文庫JA

 戦争SF。連作短編集。
 地球防衛軍は、惑星フェアリイにおいて異星体ジャムと戦闘を繰り広げていた。戦争に勝つため空軍は、戦術偵察を任務とする部隊を作り上げる。そのための戦闘機が、電子頭脳を搭載したスーパーシルフだ。戦場に赴くも戦闘には参加せず、情報を収集する。第一の使命は帰還すること。
 スーパーシルフのパイロット・深井零は、三番機・雪風に乗り、非情な任務をこなしていくが……。

 1984年に出版された『戦闘妖精・雪風』の改訂版。
 厚みが増して、内容も様変わりしたかと思いきや、基本は変わってませんでした。ときどき、おや、という箇所に出くわすくらい。
 短編集なので、少しずっつ読みすすめられます。


 
 
 
 
2004年02月01日
神林長平
『グッドラック 戦闘妖精・雪風』
ハヤカワ文庫JA

 再読。
 戦争SF。連作短編集。
戦闘妖精・雪風』の続編。
 前作で被弾した戦術戦闘電子偵察機・雪風。パイロットの深井零は機外へと射出され、雪風のデータは、すぐ近くを飛行していた最新鋭機へと転送された。もはや人間は必要とされていないのか?
 昏睡状態から目覚めた深井は、異星体ジャムが新たな戦いを展開していることを語るが……。

 前回の読了後には結末に絶望を感じ取ったのですが、今回覚えたのは希望でした。さらに続編がありそうなので、ちょっと期待しています。


 
 
 
 
2004年02月04日
グラント・キャリン(小隅 黎/高林慧子/訳)
『サターン・デッドヒート』ハヤカワ文庫SF

 宇宙SF。
 クリアス・ホワイトディンプルは、スペースコロニーにある大学の考古学教授。ある日、コロニーで絶大な権力を誇るスペースホーム社の社長、ジョージ・オグミに呼び出された。ホワイティが見せられたのは、ある人工物の写し……。それは、土星の衛星イアペトゥスで発見された異星人の遺物だった。
 遺物に彫られたメッセージに従えば、彼らの遺していったものの在処が分かる。
 ホワイティは、土星系にちらばる他の遺物を回収しメッセージを解読するため、急遽旅立つ。しかし、この情報を得たのは、スペースホーム社だけではなかった。対立する地球側も動き出していたのだ。
 ホワイティは先んじることができるのか?
 異星人の贈り物とは?

 主役なのだから当然なものの、ホワイティの性格が作品そのものの傾向を左右してます。そのホワイティが、たまに鼻につく。善良で、そこがウリなんですけどね。でも、おもしろいです。


 
 
 
 
2004年02月10日
A・E・ヴァン・ヴォクト(浅倉久志/伊藤典夫/訳)
『地球最後の砦』ハヤカワ文庫SF

 SF中編集。
「地球最後の砦」
「消されし時を求めて」
 以上、2作品を収録。

 表題作の「地球最後の砦」は……
 ノーマ・マシスンはドクター・レルに雇われ、義勇兵募集センターの受付嬢となった。ドクター・レルの正体は超未来の〈栄光人〉で、若者たちが送り込まれる戦場は、看板にかかげられたカロニアではなく、はるかな未来。ノーマはこの秘密に気がつくが、未来機械の奴隷とされてしまう。

 ぶっとんでる展開で、さっと読んでしまうとワケが分からなくなる一冊。ヴォクトの場合、その凝縮されたぶっとび具合がとても楽しい。


 
 
 
 
2004年02月12日
スティーヴン・グールド(公手成幸/訳)
『ジャンパー −跳ぶ少年−』
上下巻
ハヤカワ文庫SF

 超能力SF。
 デイヴィット・ライスは、読書好きの高校生。12歳のとき、暴力のたえない父が原因でか、母が蒸発した。そして17歳。父に暴力をふるわれ、気がついたらなじみの図書館にいた。
 デイヴィーに備わった能力。それは、瞬時に遠距離を移動するテレポーテーション。
 デイヴィーは家出し、ニューヨークへとやってきた。しかし家出少年の立場では、バイトを見つけることもできない。デイヴィーは特殊な能力を最大限に生かし、生活の糧を得る。彼女もでき、順調な人生を歩き出せたかに思えたが……。

 スローテンポながらも確実に展開する上巻と、激動の下巻。突如襲う苦難に、ハラハラドキドキしちゃいます。ただし、全体的にライト級。


 
 
 
 
2004年02月14日
フィリップ・プルマン(大久保 寛/訳)
『神秘の短剣』上下巻・新潮文庫

 《ライラの冒険》シリーズ第二部。
 冒険ファンタジー。
 別世界へと旅立ったライラがたどり着いたのは、チッタガーゼという街だった。そこでライラは、さらに別の世界からやってきたウィル・パリーという少年と出会う。
 ウィルは、謎の男たちに追われていた。追っ手の正体はまだ分からないが、ウィルの母が大切に保管している、北極で失踪した父からの手紙が原因らしい。
 二人は、ウィルの世界とチッタガーゼとを往来し、それぞれの目的を果たそうとする。ウィルは、父の行方を。ライラは、ダストの秘密を。
 別行動をとる内、ライラはちょっとした油断から真理計を盗まれてしまった。犯人は、名士で通っているチャールズ・ラトロム卿。ラトロム卿は、真理計を取り返そうとするライラとウィルに、ある短剣と交換しようと持ちかける。その短剣は、大人であるラトロム卿には手が出せないチッタガーゼにあるのだ。
 一方、ライラのいた世界では、アスリエル卿が別世界への通路をつくったがために混乱していた。その最中、魔女の女王セラフィナ・ペカーラは、ライラの手助けをするため別世界に向かう。そこで目の当たりにしたのは、魔物に襲われる大人たちだった。

 ますます広がる物語の世界。運命の残酷なこと。結末に向かっていることを感じさせる一冊でした。
 アスリエル卿の目的とは?
 ライラが、ウィルの正体を真理計に尋ねるシーンが印象的。真理計は答えます“人殺しだ”と。その答えを得て、仲間にするに値すると判断するライラ。この思考回路は、第一作の『黄金の羅針盤』を読んでないと理解できないかも。


 
 
 
 
2004年02月18日
イアン・ワトスン(佐藤高子/大森 望/美濃 透/中原尚哉/山田和子/黒丸 尚/小野田和子/内田昌之/訳)
『スロー・バード』ハヤカワ文庫SF

 奇想SF短編集。
「銀座の恋の物語」
「我が魂は金魚鉢の中を泳ぎ」
「絶壁に暮らす人々」
「大西洋横断大遠泳」
「超低速時間移行機」
「知識のミルク」
「バビロンの記憶」
「寒冷の女王」
「世界の広さ」
「ぽんと開けよう、カロピー!」
「アイダホがダイヴしたとき」
「二〇八〇年世界SF大会レポート」
「ジョーンの世界」
「スロー・バード」
 以上、14作品と、作者による序文を収録。

 表題作の「スロー・バード」は……
 分速3フィートという低速で飛ぶスロー・バードは、突然現れ突然消える、謎の存在だった。交信不能。目的不明。しかし、死の瞬間は分かっている。スロー・バードは自滅するのだ。その影響で、半径2マイル半におよぶ土地はガラスに溶解されてしまう。
 タッカートンで開かれたスケート・セイリング大会でのこと。
 スロー・バードはいつもの通り、突然現れた。そして、悲劇が起こる。ジェイスン・バビッジの弟ダニエルが、ふざけてスロー・バードによじ上り、スロー・バード共々消えてしまったのだ。悲嘆にくれるジェイスン。ジェイスンは、自らもスロー・バードにくくりつけられ、悟りを開くが……。

 奇想天外ながらも地に足がついて、落ち着いて読める一冊。日本人好みにセレクトしただけあって、粒ぞろい。おすすめ。

 【追記】「絶壁に暮らす人々」は……
 世界は、絶壁で構成されていた。絶壁以外であるのは、真珠色の虚空のみ。人々は、疲れたり、病気になったり、気が狂ったり、絶望したりして、身投げする。はるか上に目を凝らしても頂上は見られず、はるか下をのぞきこんでも底は判別できない。
 人々は部族単位で固まって、左へ、左へ、と移住しつづけていた。
 ルースピットンは、現在の断崖のこの部分に見覚えがあるような気がしてならない。そして考える。世界は、どこまでも続く断崖ではなく、円筒なのではないか?
 スミアは、ルースピットンたちに二次元世界の住民の物語を披露する。自分たちの状況は最悪ではない、と。そして、スミアの主張は、上への移住だ。そんな提案をタンブラーは一笑にふす。
 やがて開催された族長会議。長老たちは意見を取りまとめ、左上へと移住する妥協案がだされた。しかし、左上への移動が開始された矢先、とんでもないことが……。

 作者のワトスンは、この作品について“ある国の政治体制を皮肉ったもの”というコメントをしました。そのためか“世界”の有様がどういうものなのか、客観的なことは何一つ書かれてません。絶壁はどのようにして誕生したのか? 絶壁に暮らす彼らはなにものなのか? 
 なにも書かれてないだけに、いろんなことを想像してしまいました。で、ときどき読み返して、そんなこと書いてないぞ、と気がつく。そしてまたいろいろ考えて、読み返して……。
 なにも書いてないのでつまらなく思う人もいるでしょうが、書いてないだけに楽しめる部分もあるのだと、気がつかされました。
※この書込みは、かつて愛読書コーナーに掲載されていましたが、コーナー閉鎖のため、こちらに追記しました

 
 

 
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