時間SF。
アンドリュウ・ハーランは、15歳で両親と別れ〈永遠人〉となるべく歩き出した。〈永遠人〉たちは過去を矯正し、未来の平和を維持するために時間を往来する。しかし、すべての時代に行き来できるわけではない。7万世紀から15万世紀にわたる時代は、監察のできない“神秘の世紀”だ。そして、〈永遠人〉たちが誕生する前の〈原始時代〉も自由にはならない。
トウィッセル上級算定士の専属技術士となったハーランは482世紀で、一人の女性と出会った。ノイエス・ランベスト。現地の普通人だ。
ハーランは、ノイエスを愛してしまう。しかしノイエスは、近々行われる〈現実矯正〉で消滅してしまう運命にあるのだ。ハーランは、なんとかしてノイエスを生かそうとするが……。
時間をいじりまくっている〈永遠人〉たちも、いわゆるタイム・パラドックスには戦々恐々としているようで。
おもしろいけど、ちと物足りない。なぜノイエスにそこまで入れこむのか。〈永遠人〉じゃないから理解できないのかしら。
SF。
アメリカの、あるいはソ連の有人ロケットが完成しかけたまさにその時期、エイリアンが地球にやってきた。その圧倒的な科学力に、人類は深い無力感にとらわれてしまう。
オーバーロード(上帝)と名付けられたエイリアンたちは、主要国の首都上空に宇宙船をとめて威嚇する一方、友好的な態度を崩さなかった。国連事務総長のストルムグレンを唯一の窓口に、地球を、平和で統一された惑星へと導こうというのだ。
理念に共感するストルムグレンだったが、懸念はあった。姿さえ現さないオーバーロードの秘密主義だ。ストルムグレンは総督カレルレンから、50年後にその姿を見せる約束をとりつけるが……。
1953年に書かれたSFの傑作。ただし、一回読んだくらいで判断するには、壮大すぎる……。
SF。
ヴァージル・ウラムは、ジェネトロン社の研究員。会社に内緒で行っていた遺伝子研究がばれ、クビになってしまう。追い出される直前、ウラムは賭けに出た。自分の細胞から生み出した、知能を持つ細胞を自身に注射したのだ。
発明を社外に持ち出すことに成功したヴァージルだったが、体内からとりだすことができないまま、特殊な細胞は根付いてしまう。やがてヴァージルの身体は、思いがけず健康になっていくが……。
世界はパニックに陥っているのでしょうけど、物語は静かに展開。クラークの『幼年期の終り』の再来とよく呼ばれるようですが、種の行く末という点だけで、宇宙人がでてくるわけではない。まったく別の物語として楽しめました。
スクリーンSF。
大学生のトムはハリウッドで、個人的な映画作りのバイトにいそしんでいる。時代は、デジタル。ハリウッドでは、デジタル化した俳優を使ったリメイク(CG技術による人物の置き換え)ばかりが制作されているのだ。
ある夜トムは、パーティでアリスと出会う。フレッド・アステアが亡くなった年に生まれたアリスは、アステアに憧れていた。絶滅したミュージカル映画で踊るのが彼女の夢。
トムは彼女の夢を笑い、行く末を案じる。ハリウッドには、ダンス教師すらいないのだから。
アリスに去られたトムは、過去に制作されたミュージカル映画で踊るアリスを発見した。CG加工された経歴は残っていない。
いったいどうやってアリスはそれを成し遂げたのか?
映画界が舞台だけあって、映画の話題が満載。引用も数知れず。分かるところは楽しめるけど、分からないところは読み飛ばすしかない一冊。DVDで何度も見てるはずなのにピンとこない映画もあって、もうちょっと集中して鑑賞しようと反省しました。
哲学的物語。
ロバートは、恋人プラクシーからの手紙を受け取った。彼女は、母の看病のために出かけて以来、姿を消している。たびたびの手紙は、彼女の精神状態の危うさをうかがわせる内容だった。心配になったロバートは、プラクシーを尋ねて北ウェールズへと旅立つ。
ロバートを待っていたのは、プラクシーと親しげに暮らす犬のシリウス。
シリウスは、プラクシーの父であり天才生理学者のトマスによって創造された、特別な犬だった。人間に匹敵する知能を有し、人間のように思考する。しかしシリウスは、犬としての世界も内包しているのだ。
小説家でもあるロバートは、世にも不思議なシリウスの一生を書き始めた。
思考は人間でも本能では犬というシリウス。その葛藤が、単なる擬人化にない迫力でせまってきます。名作。
宇宙戦争SF
宇宙に進出した人類は、次々と探検隊を送り出していった。こうして開発された恒星ステーションによって人類は宇宙に広がり、その交易は、地球を始点と終点に“おおいなる円環”を完成させるにいたる。
一方、地球から遠く遠く離れた辺境地域では、叛旗をひるがえす〈同盟〉が誕生していた。
地球側は〈艦隊〉を送り出すが、戦いは泥沼化。広大な戦線に残された〈艦隊〉を構成するのは、わずかに15隻の宇宙母艦のみ。資金の供給も絶たれ、苦しい戦いが続く。
ペル・ステーションはある日、宇宙母艦〈ノルウェイ〉の来訪を受ける。彼らは、輸送船団を引き連れていた。消滅したステーションからの避難民だ。難民の到着は一度きりではなかった。ペル・ステーションは、秩序を維持しようと努めるが……。
おもしろい点は随所にあるんですけどね、ちょっと甘いような気がして、のめりこめませんでした。
伝奇SF。
ブレンダン・ドイルは、英文学者。18世紀イギリスを代表する詩人・コールリッジの評伝を著わしたが、世間の評判はいまひとつ。次の仕事は、謎の詩人・アッシュブレスの伝記。しかし、謎が多すぎて2年たってもものにならない始末。
そんなところに、好事家にして大富豪のJ・コクラン・ダロウの誘いが舞いこんだ。多額の謝礼と共に。
ダロウの依頼は、コールリッジに関する講演。なんとダロウは、時間旅行の方法を発見しており、コールリッジの生の講演を聞くツアーを企画していたのだ!
ドイルは、この観光ツアーにガイドとして同行する。生のコールリッジに、大感激のドイル。しかし、感激は何者かに誘拐されるまで。逃走には成功するものの時すでに遅し。過去のイギリスに置き去りにされてしまう。
ドイルをさらったのは、エジプトの魔術結社。彼らは数年前、イギリスの転覆を謀り、犬頭の大神・アヌビスを呼び出す大魔術を試みていた。その結果は思わしくなかったが、秘密結社の魔術師・ロマニーは、計算により〈門〉の存在を予測する。その〈門〉に突如として現れたのが、ドイルら一行だったのだ。
ドイルは、乞食として生き残りを計る。現代に帰る方法を考えながら……。
ファンタジー・レーベルから出ていますけど、その実SF。秘密結社の面々は、おそろしくも笑えちゃう。はられた伏線の数々は、時間テーマの物語ならでは。
ダロウの観光ツアーの目的とは?
謎の詩人・アッシュブレスと会うことは叶うのか?
傑作。
ファンタジー。
王女・ミーアンは、宮廷での窮屈な生活に耐えきれなくなり、ついに“城出”を決意。殺害されたかのような偽装工作を行い、向かったのは、森のはずれの狩猟小屋。ミーアンが幼いころには、年老いた炭焼き職人が住んでいた……。
ミーアンは、小屋が無人となっていたことに胸をなでおろすが、それは廃墟との闘いを意味していた。つまった煙突は直せず、森の夜の騒々しさに恐怖し、満足な食事もとれない。
そこに現れたのが、ウィスプと名乗る少年だった。
二人は姉弟のように仲むつまじく暮らすようになるが……。
ちょっぴり凝った作りの小作品。
連作SF短編集
博物館苑〈アフロディーテ〉は、地球のラグランジュ・ポイントに浮かぶ、人口島。全世界のありとあらゆる芸術品が収められている。
音楽と舞台、文芸を管轄とする〈ミューズ〉、絵画と工芸を受け持つ〈アテナ〉、動・植物部門の〈デメテル〉、そして、部署間の問題を総括する〈アポロン〉。
学芸員たちは、あいまいな思考を拾うことのできる直接接続対応データベース・コンピュータを用い、活動していた。
アポロンに所属する田代孝弘を中心軸に、さまざまな人の、それぞれの芸術への想いが紡ぎだされる。
SFですが、日本推理作家協会賞受賞作。
泣けます。ただし……
データ・ベースに直接接続できなかった学芸員も登場するものの、主役の田代孝弘は、なんでもかんでもコンピュータに教えてもらえる立場。学芸員っていったいなんだろうなぁと考えてしまいました。
冒険SF。
バーレナンは、惑星メスクリンの住民。自分の船をあやつり、船員と共に商売に精を出している。メスクリンは扁平型の惑星で、赤道付近の重力は3Gだが、極地では700Gにも達する高重力惑星だ。水素の大気と、メタンの海を持つ。
バーレナンは〈空の人〉と出会い、その言葉を学んだ。そして、彼らのために極地への旅にでることに同意する。バーレナンの種族はそこまで行くことができるが、彼らにはとうてい訪れ得ない地域だからだ。そこには〈空の人〉の、壊れた観測用ロケットがあるという。
バーレナンは、交易で高収入を狙う自身の目的とも合致すると語ったが、心の奥底には、ある計画があった。
非人間型知的生物ものの古典的名作とされる一冊。
〈空の人〉は、もちろん人類のこと。
バーレナンは、あるときは船長らしく勇気と自制をふりしぼり、あるときはその口先で大失敗したりする。そして、冒険の数々。
とてもおもしろいのに入手困難なのが、残念でなりません。