SF的物語集。
「セムリの首飾り」
「四月は巴里」
「マスターズ」
「暗闇の箱」
「解放の呪文」
「名前の掟」
「冬の王」
「グッド・トリップ」
「九つのいのち」
「もの」
「記憶への旅」
「帝国よりも大きくゆるやかに」
「地底の星」
「視野」
「相対性」
「オメラスから歩み去る人々」
「革命前夜」
以上、17作品を収録。
ル=グィンの、デビューから10年間に書かれた作品をほぼ年代順に収録した一冊。後に、長編『ロカノンの世界』の序章となる「セムリの首飾り」や、代表作である《ゲド戦記》に関わる作品群などなど。
底にただよう静けさが際立ちます。ハマれれば、心地いい。
ファンタジー。
《指輪物語》三部作その1。
フロド・バギンズはホビット族。ホビット庄で世の中の物事とは無縁の生活をしていた。しかし、冥王サウロンの指輪の所有者となり生活は一変する。
復活しつつある冥王サウロンに指輪が渡れば、世界はたちまち破滅してしまう。フロドは密かに生まれ故郷を離れ、裂け谷へと向かった。谷には、半エルフのエルロンドの館がある。
そしてまた、裂け谷で新たな仲間を得、指輪を完全に消滅させるべく、冥王サウロンの国モルドールへと旅立つが……。
微妙に仲良しでない“仲間”たち。精鋭とはいえ人格者揃いではないのだから衝突もしますわね。そんな中、どんなときにも出てくるホビット流儀が微笑ましい。
多少なりともファンタジーに興味があるならおすすめ。
ファンタジー。
《指輪物語》三部作その2。
旅の仲間たちは離散し、ホビット族のメリーとピピンはオークたちに捕らえられた。残されたゴンドール王の末裔アラゴルンと、エルフ族のレゴラス、ドワーフ族のギムリは、彼らの追跡を開始する。
一方、指輪所持者のフロド・バギンズは、ホビット族の園丁サム・ギャムジーと共に、旅をつづけていた。不案内な土地で出会ったのは、かつての指輪所持者のスメアゴル。スメアゴルはモルドール国を訪れたことがあり、道案内をすることになるが……。
一度はバラバラになった“仲間”たち。それが徐々に集まる中継ぎの巻。新たな種族や国や人が登場して、バラエティ豊かに展開します。
ファンタジー。
《指輪物語》三部作その3。
アラゴルンは己の一族を率い、死者の道を取った。かつてゴンドール王イシルドゥアを裏切り、呪いをかけられた眠れぬ死者たち。アラゴルンは、彼らの助力を得る時がきたと見たのだ。
そして、指輪戦争が勃発。ゴンドールは包囲されてしまう。
一方、指輪所持者のフロドは、オークたちに捕われてしまった。難を逃れたサムは、フロドを助けるためにオークの塔に潜入する。オークの塔では仲間割れが起こっていた。
長大な物語もついに終結。冥王サウロンが滅びるのは予測のつくことですが、その後の出来事にはびっくり。ただの後日談ではなく、それらも含めて“指輪物語”なのだなぁと、改めて感じ入りました。
2004年09月02日
ラリイ・ニーヴン(小隅 黎/訳)
『プタヴの世界』ハヤカワ文庫SF
《ノウンスペース》シリーズ。
ファースト・コンタクトものSF。
ラリイ・グリーンバーグは、いくらかのテレパシイ能力を持っていた。そのライリの元に、ひとつの依頼が舞いこむ。
人類は、最近、時間遅延フィールドを開発したが、先だって海底で発見された〈海の像〉が異星人である可能性がでてきたのだ。そのものの時間は止まっているが、時間遅延フィールドに入れれば解除することができる。
ラリイは〈海の像〉と一緒にフィールドに入り、その思考を読むことになる。
時間にしてわずか一秒。
異星人クザノールは強力なテレパスだった。クザノールの記憶をとりこんだラリイは、逆に、自身をクザノールだと思いこんでしまう。
スリント人クザノールにとって〈能力〉はすべて。〈能力〉こそが、スリント人と動物種族とを区別するもの。それがないスリント人は〈プタヴ〉と呼ばれ、蔑まされる。
逃走するクザノール。かつて冥王星に送りこんでおいた増力ヘルメットがあれば、ラリイの肉体でも〈能力〉を発揮することができる。なんとかして手に入れなければ。
そしてまた、本物のクザノールも目覚め、やはり増力ヘルメットを求めて宇宙へと出発するが……。
ちょっと不可思議なところもあるのですが、楽しくって考えさせられます。超能力があるがゆえに陥る失態。イルカ的なユーモアについて。そして結末。
こまかいことは気にしない方にはおすすめ。
ブラック・ユーモア短編集。
「大相撲の滅亡」
「千年観光団」
「懐瘋譚」
「日本国の逆襲」
「酒乱クラブ」
「インドから来た青年」
「車神」
「pH7の秋」
「子供の時間」
以上、9作品を収録。
「酒乱クラブ」は……
竜巻一雄は酒乱で、その日も酒を飲んで乱闘を演じてしまった。しかも、課長とできているらしいママの店で! 翌日、会社を休み、深く落ち込んでいると、ジョン・ハミルトンと名乗る人物が尋ねてきた。一雄が、酒乱クラブ会員にノミネートされるというのだ。酒乱クラブを知らない一雄は、いったんは断るが……。
90年前後に書かれた作品たちです。とびきりにおもしろいのですが、バブルの頃の空気を目一杯吸い込んでいるため、お薦めしにくくなりつつあります。バブルの追憶にひたりたい方は、ぜひどうぞ。
コンピュータ社会SF。
会社で質問表を埋めるのが仕事のドローン。そして、うなじのソケットからケーブルを通じて脳波をとられるドリーマー。どちらのデータも、コンピュータとロボットが相互接続した巨大ネットワーク〈フィズウィズ〉へとつながっている。フィズウィズは、データを元にして3Dフルカラーのホログラム配信を制御し、人々の心を操作する。それにより人間たちは満足を得、社会は幸福に満たされる……。
しかし、退屈でもあった。そこで、フィズウィズに直接人間の脳を接続し、創造的にふるまわせようと考える人間か登場する。いったんは失敗に終わったかに思えたこの計画は、ドラッグの助けを得ることで成功し、彼らは〈エンジェル〉と自称し、時代の寵児となった。
ヴァーナー・マクスウェルも、エンジェルの一人。ある日ヴァーナーは、循環スケールを思いつく。充分なサイズまで小さくなれば、それは銀河と同じくらい大きいのではないか? 西に向かって進めば東から戻ってくるように。
ヴァーナーは、クルトフスキ教授の発明した仮想場発生器を使って己の循環スケールの実験を行う。これがあれば、フィズウィズに意識を与えることもできるのではないかと考えるが……。
サイバーパンクの“はしり”的作品。とはいえ、ネットワーク界の描写は最小限で、別のことに焦点があたった、とっつきやすいおもしろさでした。
タイムトラベルSF。
ブランドン・サッカレーは、古生物学者。愛する妻テスと離婚し、死の床にある父をかかえ、鬱積した日々を送っている。そこに、新たに開発されたタイムマシンに搭乗するという不安が加わった。
行く先は、白亜紀末期。目的は、恐竜絶滅の原因をさぐること。同乗するのは、かつて親友だったクリックス。クリックスとテスが交際していることを知っているブランドンの胸中は穏やかならぬものが……。
そしてたどりついた世界。
驚愕の現象が二人を待っていた。
極上の軽い読みもの。快作。重厚さとは無縁のエンターテイメント。
アイデアの洪水に内容紹介書くのをやめておこうかと、迷ったあげくが上記の文。なにも知らずに読むのが一番おもしろい、と思ったことの結果です。
アリスもの。
アリスは、マンチェスターの大おばの家で、暇を持て余していた。腕には、自分そっくりの人形のスリア。
午前中、ロンドン動物園のジグソーパズルに挑戦したが、12ピースが欠けていて、断念。2時から、大おばによる書き方のお稽古がまっている。その直前、オウムのホイッパーウィルが逃げ出し、アリスは、オウムを追って時計の中へ……。
アリスがたどりついたのは、コンピューターシロアリ塚。ジグソーパズルのピースを発見し、アリ塚からも脱出するアリス。シロアリサイズのアリスを助けたのは、老アナグマのキャプテン・ラムシャックルだった。
ラムシャックルはランダムロジイの発案者。しかし、糸鋸断片化(ジグソーパズル)殺人事件の容疑者として、公務員ヘビのシヴィル・サーペントに追われていた。
ルイス・キャロルの《アリス》シリーズの三作目、という設定の作品。ただ、《アリス》シリーズのファンには受け入れられないんじゃないかと思わなくもない。
言葉遊びを訳したのには多大な苦労がともなったことでしょう。そういったことばかり考えてしまいました。
冒険メルヘン。
夏別荘では、五台の電気器具たちがとりのこされていた。堅実なフーバーの掃除機、朗らかなAM専用のラジオ、明るい黄色の電気毛布、貯蓄銀行出身の卓上スタンド、そして、夏別荘以外の世界を知らない、ぴかぴかのトースター。
だんなさまが出ていってから、2年10ヶ月3日。生まれながらの外交官であるトースターに説得され、とうとう電気器具たちは、都会へと向かう決心をする。ふたたび、だんなさまの役に立つために。
ストレートなストーリーで、最後はお決まりのハッピー・エンド。予想したハッピー・エンドとはちょっとちがっていて、でも、心から「よかったねぇ〜」と思えるものでした。ときどき読みたくなる、ハートフルな作品です。