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2004年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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このページの本たち
エデン』スタニスワフ・レム
殺戮機械』ジャック・ヴァンス
汝ふたたび故郷へ帰れず』飯嶋和一
聖者の行進』アイザック・アシモフ
都市』クリフォード・D・シマック
 
人形つかい』ロバート・A・ハインライン
ワイルドサイド』スティーヴン・グールト
神の鉄槌』アーサー・C・クラーク
果しなき旅路』ゼナ・ヘンダースン
異次元を覗く家』ウィリアム・ホープ・ホジスン

 
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2004年10月20日
スタニスワフ・レム(小原雅俊/訳)
『エデン』ハヤカワ文庫SF

 異星SF。
 ほんのちょっとした計算ミスで、宇宙船“防御号”は惑星エデンに不時着した。乗組員は、技師、物理学者、化学者、サイバネティスト、ドクター、コーディネーターの6名。
 宇宙船は、頭を下にして地面につきささった状態。幸い、エデンには大気がある。なんとか地上に出た6人は、宇宙船を修理するかたわら、エデンの探索を始めた。
 まず最初に向かったのは、北の方角。荒れ地と奇妙な植物に遭遇し、巨大なオートメーション工場にたどり着く。しかし、期待した文明人は見かけず、生産されているのもまったくわけの分からない物体。
 一同が帰船すると、エデンの住人が侵入していた。その姿は、労働部分と思考部分とに別れた複体生物。意思の疎通は叶わず、死に至らしめてしまう。

 未知なるものとの遭遇を突き詰めた、レムの三部作のうちの一冊。登場人物たちの名前は、会話の中でたま〜に出てくる程度。ほぼ役割名で呼ばれていて、没個性にはなるでしょうが、惑星エデンに集中できました。カタカナの名前って覚えにくい人でも安心?
 名作です。


 
 
 
 
2004年10月23日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『殺戮機械』ハヤカワ文庫SF

 《魔王子》シリーズ(全五巻)の第二巻。
 カース・ガーセンは、壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐のための技能を習得し、事件の首謀者である五人の魔王子たちを追っている。
 ある日ガーセンは、超政府機関・IPCCの役員ベン・ゾームから秘密捜査の依頼を受けた。〈圏外〉にある惑星で、ある男を拘束、もしくは殺害する仕事だ。そもそも乗り気でなかったガーセンは断ろうとするが、魔王子の一人、ココル・ヘックスがからんでいることを聞き、態度を改める。
 首尾よく仕事をこなしたガーセン。遺体となった身柄を確保し、2種類の書付を手に入れる。一方は、伝説の惑星サンバーの仙魔に関すること。そしてもう一つは、まったく意味不明なもの。
 ガーセンが次にココル・ヘックスの名を聞いたとき、かの魔王子はおおっぴらに連続誘拐を繰り広げていた。裏になにかあるとにらんだガーセンは、人質と身代金とをやりとりする〈交換所〉で、ココル・ヘックスの目的を知る。
 ココル・ヘックスから逃れるために、美女アルース・イフゲニアが、自分自身に100億SVUという身代金をかけて〈交換所〉に避難していたのだ。ガーセンは、イフゲニアがサンバー出身を自称していることに興味をひかれるが、顔を見ることもできずに〈交換所〉を後にする。しかし、ココル・ヘックスと再会するための手がかりはつかんでいた。
 ガーセンは復讐を果たせるのか?

 頭を回転させて、ココル・ヘックスに迫るガーセン……とはいえ、おバカにも油断しちゃったり、かなりオクテだったりと、スーパー・ヒーローになりきれないところがミソ。
 シリーズものですが、五人の首謀者に一人ずつ迫っていく趣向なので、これだけでも楽しめます。現役の頃から“シーラカンス”と揶揄されていた作者ゆえ、少々古めかしいですが。


 
 
 
 
2004年10月24日
飯嶋和一
『汝ふたたび故郷へ帰れず』
小学館文庫

 長短編集。
「汝ふたたび故郷へ帰れず」
「スピリチュアル・ペイン」
「プロミスト・ランド」
 以上、3作品を収録。

 表題作の「汝ふたたび故郷へ帰れず」は……
 新田駿一は、プロのミドル級ボクサー。恵まれた体格とその実力に対戦相手からは敬遠され、心底くさっている。アルコール漬けになり、ついにボクシングと決別する駿一。一年を皿洗いに使い、貯めた金で一時帰郷した。
 故郷は、トカラ列島の宝島。
 宝島に実家があるわけではないが、父親が電力会社の仕事で赴任した際、島で生まれた。17年ぶりとなる島で駿一は、もっとも望んでいなかったニュースを受け取ることになる。さらに、ある雑誌記事を目の当たりにし……。

 ボクシングのことはよく分からないのですが、それでもグッとくるものがありました。ボクサー再生物語なんて珍しくもないんでしょうけど、一人の人間の心のひだの現れ方が、格別。そんなに長くはないので、少々コンパクトにまとまってはいますが。


 
 
 
 
2004年10月25日
アイザック・アシモフ(池 央耿/訳)
『聖者の行進』創元SF文庫

 SF短編集
「男盛り」
「女の直感」
「ウォータークラップ」
「心にかけられたる者」
「天国の異邦人」
「マルチバックの生涯とその時代」
「篩い分け」
「バイセンテニアル・マン」
「聖者の行進」
「前世紀の遺物」
「三百年祭事件」
「発想の誕生」
 以上、12作品を収録。

 表題作の「聖者の行進」は……
 ジェローム・ビショップは作曲家。精神病治療のコンサルタントとして、精神病院へ招かれた。思いもかけない話に、戸惑うビショップ。病院側が依頼したのは、脳波を元にした音楽制作だった。それを治療に役立てようと言うのだが……。

 アシモフの短編集につきものの、自身による解説はもちろん健在。どういう背景で書かれたのかが分かります。
 なお、原書の表題作は映画化(アンドリューNDR114)された「バイセンテニアル・マン」です。先に映画を観ていましたが、原作の方が、心に迫るものがありました。この作品は、長編化もされてます。


 
 
 
 
2004年10月27日
クリフォード・D・シマック
(林克己/福島正実/三田村裕/訳)
『都市』ハヤカワ文庫SF

 連作未来史。
 人間の存在を忘れ去った地球。世界は、知性を持った犬たちによって支配されていた。犬たちは、伝承として残る“人間”や“都市”の存在が信じられずにいる。伝承を研究する学者たちは厳選した言い伝えを集め、一冊の本としてまとめあげた。
 次第に“都市”から離れていく人間たち。
 伝統あるウエブスター家の男たち。
 ウエブスターに仕えるアンドロイドのジェンキンズ。
 ミュータントのジョオ。
 時代を越えて語られる人間たちの活動。
 人間はなぜ消え失せたのか?

 犬社会で出版された伝承集というスタイル。刊行者の序文があり、さらに、それぞれの物語には覚え書きが付されています。ただ、物語そのものには伝承臭さがないので、かえって違和感を感じてしまいました。人類の未来史として読めば名作なんですけど。


 
 
 
 
2004年10月31日
ロバート・A・ハインライン(福島正実/訳)
『人形つかい』ハヤカワ文庫SF

 侵略SF。
 エリフは、合衆国大統領直属の秘密調査機関の特別エージェント。セクションそのものである“おやじ”につれられ、同僚のメアリと共に、アイオワ州へと旅行にでかける。もちろん、それは見せかけ。実際は、危険な秘密調査だ。
 アイオワでは、国籍不明の宇宙船が着陸し騒動になったが、それがインチキだったとの訂正報道があったところ。しかし、調査のために“おやじ”が送ったエージェントたちは、6人全員戻ってくることはなかった。
 エリフたちは、宇宙船が本物で、ナメクジ状の寄生生命体が人間にとりつき、意のままに操っていることをつきとめる。“おやじ”は大統領を説得し、国家非常事態宣言を出させようとするが、相手にされない。しかも、セクションに侵入したナメクジ生物に、エリフは寄生されてしまった。
 ぼんやりした意識の下、ナメクジ生物のためにせっせと仲間を増やしていくエリフ。やがて“おやじ”によって助け出されるが、アメリカは、ナメクジ生物たちに侵略されつつあった。
 人間たちは、この異星人を撃退することができるのか?

 軽快な語り口が楽しい一冊。ナメクジ生物がちょっとしたサイズでまるでギャグのような印象ですが、それは、これが書かれた時代ゆえ。
 涙のシーンが、美しい……。


 
 
 
 
2004年11月01日
スティーヴン・グールト(冬川 亘/訳)
『ワイルドサイド −ぼくらの新世界−』上下巻
ハヤカワ文庫SF

 パラレルワールドSF。
 チャールズ・ニューウェルは18歳。行方不明になった伯父の農場を相続していたのだが、敷地の納屋には不思議な扉があった。扉のむこうにあるのは、人間が出現しなかったバージョンの地球。絶滅した動植物が生息している、自然の宝庫だ。
 チャーリーは、高校の同級生だったジョーイ、リック、マリ、クララを誘い、会社を設立する。
 ワイルドサイド投資会社。
 会社の準備資金に当てるため、絶滅したリョコウバトを動物園に売りつけるチャーリー。代金の振込先は架空の会社名で、ハトの輸送も偽名。正体をばらさないように万全の準備を整えたが、ついに農場に軍隊がやってきた。
 彼らは、チャーリーがタイム・マシンを持っていると考えていた。合衆国のために、それを徴用しようというのだ。あくまで抵抗するチャーリーたちだったが……。

 上下巻なものの、サクサクと軽く読めます。
 チャーリーはまだまだ“子供”で、そこに“現実”がやってくる感じ。ただし、チャーリーも子供なりに現実的で、カネ儲けに余念がない。かと思えば自然を守ろうとしたり……。
 登場人物たちに奥行きが感じられなくって物足りなさはあるものの、まぁ、楽しめました。


 
 
 
 
2004年11月02日
アーサー・C・クラーク(小隅 黎/岡田靖史/訳)
『神の鉄槌』ハヤカワ文庫SF

 宇宙SF。
 ロバート・シンは、調査宇宙船ゴライアス号の船長。木星の前方60度にあるトロヤ点にとどまり、天文学者や物理学者たちが研究する環境を整えている。
 ゴライアス号の存在は“スペースガード”計画の一環でもあった。地球に衝突する天体への備えだ。そしてついに、その天体がやってきた。
 小惑星カーリーは、アマチュア天文家によって発見された。その軌道は、8ヶ月後に地球と衝突するところまでのびている。ゴライアス号はカーリーの軌道を変えるために急行するが……。

 衝突ものは、地上を舞台としたパニック小説となることが多いようですが、それらとは一線を画してます。
 時代背景を語るために少々まどろっこしい感じはするものの、ゴライアス号が出動すれば、あとは結末までだいたい一直線。宇宙関係でなにかあるたびにインタビューを受ける作家であることを痛感しました。


 
 
 
 
2004年11月03日
ゼナ・ヘンダースン(深町眞理子/訳)
『果しなき旅路』ハヤカワ文庫SF

 異星人SF。
 リー・ホームズは、虚無を感じていた。生きることに絶望し、死を選ぶ。しかし、飛び降りようとした橋上で、カレンと名乗る女性に待ったをかけられる。
 リーはカレンに、クーガー峡谷へと案内された。
 アメリカの片田舎にあるクーガー峡谷は、隣町までの道もないようなところ。村人たちは、実は異星人。宇宙船の事故があり、脱出できた《同胞》たちがひっそりと村で暮らしているのだ。別の《支族》を捜してもいるが、特殊能力ゆえに世間から隠れざるを得ず、思うようにはいかない。
 リーは《同胞》たちが語る物語を聞き、徐々に考えを改めていくが……。

 さまざまな人に語らせることによって短編を一つにまとめあげた作品。基本スタイルは、クーガー峡谷のものたちに発見される《支族》たち。ワン・パターンというより、繰り返し打ち寄せる波のような読後感。徐々に増えていく登場人物たちによって厚みが増していきます。
 異星人が見た目・まるきり人間でも、名作は名作。


 
 
 
 
2004年11月04日
ウィリアム・ホープ・ホジスン(団 精二/訳)
『異次元を覗く家』ハヤカワ文庫SF

 怪奇もの。
 友人トニスンと共に休暇を過ごすため、アイルランドの西はずれにある村を訪れた“わたし”。目的は釣りだった。村の外を流れる小さな川は地図にも載っていないが、穴場中の穴場。二人は釣りを楽しみ、ときには探検もした。
 そうして奇妙な廃墟を発見する。
 廃墟には、ひどく痛んだ本があった。キャンプに持ち帰り、〈異次元を覗く家〉とタイトルのつけられた手記を読み始める二人。そこには、その家が廃墟となる前に起こった、さまざまな出来事が綴られていた。

 ホラーにもなりかねない現象なんですが、語り手が老人だからか、オブラートにくるまれたかのように幻想的。意味の分からん内容、と切って捨てる人もいるでしょう。意味を求めてはいけない本の典型。

 
 

 
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