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2004年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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このページの本たち
タイム・パトロール 時間線の迷路』ポール・アンダースン
タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア
スロー・リバー』ニコラ・グリフィス
無常の月』ラリイ・ニーヴン
木星買います』アイザック・アシモフ
 
盗まれた街』ジャック・フィニイ
タクラマカン』ブルース・スターリング
故郷から10000光年』ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
塔のなかの姫君』アン・マキャフリイ
ラッカー奇想博覧会』ルーディ・ラッカー

 
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2004年11月07日
ポール・アンダースン(大西 憲/訳)
『タイム・パトロール 時間線の迷路』上下巻
ハヤカワ文庫SF

 時間SF。
 マンス・エヴァラードは、タイム・パトロールの無任所職員。時間航行技術は西暦19352年、進化した人類デイネリア人によって開発された。それにともなって発生した時間犯罪を取り締まるのが、タイム・パトロールだ。
 エヴァラードは紀元前209年にいた。紀元前976年で取り逃がした称揚主義者の残党が、歴史改変を企んで潜伏しているようなのだ。
 バクトリア王国、バクトラの町に潜入を果たしたエヴァラードは、早速、チャンドラクマールに接触する。チャンドラクマールは、現地に腰を据えて研究活動をしている専門職員だ。彼から情報を仕入れるエヴァラードだったが、そこへ、バクトラの警備員が乱入してきた。シリアの密偵のかどで逮捕されそうになってしまう。
 称揚主義者たちの差し金か?
 なぜ居場所が分かったのか?
 エヴァラードは、警備員からはなんとか逃れたものの、すべての武器を失ってしまう。しかも、タイム・パトロールに連絡する手段はない。エヴァラートは単身、称揚主義者たちのアジトへの潜入を試みるが……。

 3つの物語をつなげた上下巻。
 当然『タイム・パトロール』の続編ですが、当書との間にもう一作品あるんじゃないかと思わせる雰囲気。ちょっとそわそわしてしまいました。
 過去の描写はリアルそのもの。歴史のお勉強になります。


 
 
 
 
2004年11月10日
カート・ヴォネガット・ジュニア(浅倉久志/訳)
『タイタンの妖女』ハヤカワ文庫SF

 SF。
 マラカイ・コンスタントは、大富豪。ある日、まったく面識のないラムファード邸に招待される。
 ラムファード邸では、時間等曲率漏斗に飛び込んでしまった主人ウインストン・ナイルス・ラムファードが59日ごとに実体化していた。現在のラムファードは、すべての時空にあまねく存在する全能者。未来も人の考えも読める。
 ラムファードは告げる。
 マラカイ・コンスタントは、火星で、ラムファードの妻と番わせられる運命にある。最終目的地はタイタン……。
 コンスタントは、火星旅行の可能性を抹消するために所有していた〈ギャラクティック宇宙機〉の持ち株を売り払い、盛大で長い長いパーティを開催する。そして、油田の大盤振る舞いをした結果、パーティが終わる頃には無一文になっていた。
 一方のラムファード夫人・ビアトリスも、夫の予言を聞かされていた。ビアトリスは予防措置として〈ギャラクティック宇宙機〉の株を買う。しかし、株式市場の大暴落により破産してしまった。そこで、59日ごとに実体化する話題のラムファードで見物料を稼ごうと画策するが……。

 ラムファードの予言は、予言というより予告。ラムファードが工作して、マラカイとビアトリスを悲惨な境遇に追いやっていきます。
 ある意味、ナンセンスSF。しかし意味があり、くだらなくもなく、馬鹿げてもいない。納得のいくラストにはなかなか拝めないものなのですが、これには涙しました。
 名作。


 
 
 
 
2004年11月11日
ニコラ・グリフィス(幹 遙子/訳)
『スロー・リバー』ハヤカワ文庫SF

 SF。
 ローアは、ヴァン・デ・エスト家の末娘。独自の微生物を利用した下水処理システムで巨万の富を築いた一族の一員だ。
 ローアは18歳の誕生日を控えたある日、誘拐されてしまった。身代金は3000万ドル。ヴァン・デ・エスト家の資産ならたいした金額ではない。しかし、身代金が払われることはなかった。
 何故、身代金は支払われなかったのか?
 ローアは、自力での脱出を試みる。その過程で犯人の一人を殺害してしまい、自身も深手を負った。警察には行けない。ましてや、家族の元へは……。
 ローアは、通りがかったスパナーに助けられる。そして、スパナーの仕事を手伝うこととなった。スパナーの仕事は、個人情報を盗み、それをネタに脅したり、買い戻しを要求したりすること。二人でポルノ・ビデオを制作したりもするが、ついには売春へと身を崩していく。
 ローアはスパナーとの生活に耐えられなくなり、死者の名前と身元を手に入れ、汚水処理場で働き始めた。下水処理システムを熟知しているからだ。しかし、いつわりの経歴であることを上司に感づかれてしまう。
 さらに、何者かによる事故が発生してしまった。
 誰が何の目的で、事故を仕組んだのか?

 3つの時間列が順繰りに登場する物語。
 処理場で肉体労働に従事するローア。スパナーと共に生活しているローア。幼少時〜誘拐犯から逃げるローア。
 徐々に明らかになるローアの生い立ちと、誘拐事件の真相、そして処理場の事故の理由。スパナーに助けられた直後の、ひとりぼっちで弱々しいローアから、ラストの力強いローアに至るまでの軌跡には目を見張るものがありました。


 
 
 
 
2004年11月13日
ラリイ・ニーヴン
(小隅 黎/冬川 亘/伊藤典夫/山高 昭/中上 守/訳)
『無常の月』
ハヤカワ文庫SF

 SF短編集
「時は分かれて果てもなく」
「路傍の神」
「霧ふかい夜のために」
「待ちぼうけ」
「ジグソー・マン」
「週末も遠くない」
「未完成短編 一番」
「未完成短編 二番」
「スーパーマンの子孫存続に関する考察」
「脳細胞の体操 −テレポーテーションの理論と実際−」
「タイム・トラベルの理論と実際」
「無常の月」
「マンホールのふたに塗られた
 チョコレートについて
 きみには何が言えるか?」
「地獄で立ち往生」
 以上、14作品収録

 表題作の「無常の月」は……
 月の光の明るさに、見とれるスタン。やがて、その輝きの原因に思い当たり、彼女を呼び出し街へ繰り出す。なぜなら、まさしく今が滅亡前夜だから。そして襲ってくる豪雨。人類の命運やいかに?

 表題作は、長編で使うアイデアをギュッと詰め込んだかのような内容。押さえた書き方をしている分、主人公の行動に確たる意思を感じさせます。
 ノンフィクションも多数収録したためか、少々ごった煮的。ニーヴンの魅力をいろいろと楽しめますけれども。


 
 
 
 
2004年11月16日
アイザック・アシモフ(山高 昭/訳)
『木星買います』ハヤカワ文庫SF

 SF短編&ショート・ショート集。
「ダーウィンの玉突き場」
「狩人の日」
「シャー・ギード・G」
「バトン、バトン」
「猿の指」
「エヴェレスト」
「休止」
「望郷」
「それぞれが開拓者」
「空白!」
「蜜蜂は気にかけない」
「ばか者ども」
「木星買います」
「父の彫像」
「雨、雨、向こうへ行け」
「創建者」
「地獄への流刑」
「問題の鍵」
「適切な研究課題」
「2430年」
「最大の資産」
「好敵手」
「チオチモリン、星へ行く」
「光の韻律」
 以上、24作品収録

 表題作の「木星買います」は……
 科学長官は、異星人と交渉していた。太陽系の木星を買いたいと、申し出があったのだ。報酬は、1年分の需要をまかないうるエネルギー・ボックス。しかし、購入する目的は明かせないの一点張り。
 異星人は、住みつくでもない木星をなぜ求めるのか?

 恒例の、自伝的注釈付き。その作品が書かれるにいたった裏舞台が語られる点、楽しめます。作品そのものが傑作ぞろい……とはいかなかったようですが。


 
 
 
 
2004年11月17日
ジャック・フィニイ(福島正実/訳)
『盗まれた街』ハヤカワ文庫SF

 被侵略SF。
 マイルズ・ベンネルは、開業医。小都市サンタ・マイラに住んでいる。ある日、一人の女性に悩みを相談された。
 ウィルマは幼くして両親を亡くし、伯父夫婦の手で育てられたが、その伯父が、偽物と思えるようになってしまったのだ。見た目も仕草も記憶も伯父に間違いはない。しかし、赤の他人のような気がするというのだ。
 同じ症状の患者はウィルマ一人ではなかった。
 サンタ・マイラでなにがおこっているのか?
 マイルズは、なにかを隠しているジャック・ベリセックに家へ招待される。マイルズは、かつてジャックの妻を適切に診断し、命を救ったことがあった。ジャックのこともよく分かっている。不審に思いながらもベリセック邸へと赴くマイルズ。
 ジャックがマイルズに見せたものは、死体のように見えるなにかだった。

 これへのオマージュだった恩田陸『月の裏側』を先に読んでしまったため、既視感は拭えず。
 でも、まぁ、楽しめました。医者ならではの不気味な所有物や、結婚に失敗した過去、ゆえに一歩を踏み出せないマイルズ。すべてがかっちりはまってました。
 できれば、白紙の状態で読みたかったですけどね。


 
 
 
 
2004年>11月22日
ブルース・スターリング(小川 隆/大森 望/訳)
『タクラマカン』ハヤカワ文庫SF

 SF短編集。
「招き猫」
「クラゲが飛んだ日」(ルーディ・ラッカーとの共著)
「小さな、小さなジャッカル」
「聖なる牛」
「ディープ・エディ」
「自転車修理人」
「タクラマカン」
 以上、7作品を収録

 表題作の「タクラマカン」は……
 タクラマカン砂漠に、超極秘の秘密宇宙基地があるらしい。
 スパイダー・ピートとカトリンコは、中佐と共に潜入調査をする予定だった。しかし、中佐の乗った着陸ポットが、砂漠で破片となって発見され、二人は指揮官を失ってしまう。
 このまま帰ろうとするピートだったか、カトリンコに説得され、任務は続行することに……。やがて巨大放射性廃棄物置場を発見するが、それはカモフラージュ。地下には宇宙を模した洞窟が広がり、星間宇宙船が三隻置かれていた。

 スターリングは、元はと言えばサイバーパンク作家。それゆえか、波長の合うものは抜群におもしろく、合わないものにはただ首をひねるばかり。
「招き猫」は日本が舞台。携帯端末が爆発的に普及している、おもしろそうな近未来世界になってます。10年くらい前までなら、信じられた未来かも。最近は殺伐としてますからねぇ。
 後半三作は《チャタヌーガ》三部作。主役がちがうので趣は異なりますが、同じ世界を舞台にしたものです。主役たちそれぞれにつながりがあるので、先にいくほど安心して読めました。


 
 
 
 
2004年11月23日
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(伊藤典夫/訳)
『故郷から10000光年』ハヤカワ文庫SF

 SF短編集。
「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」
「雪はとけた、雪は消えた」
「ヴィヴィアンの安息」
「愛しのママよ帰れ」
「ピューパはなんでも知っている」
「苦痛志向」
「われらなりに、テラよ、奉じるのはきみだけ」
「ドアたちがあいさつする男」
「故郷へ歩いた男」
「ハドソン・ベイ毛布よ永遠に」
「スイミング・プールが干上がるころ待ってるぜ」
「大きいけれども遊び好き」
「セールスマンの誕生」
「マザー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」
「ビームしておくれ、ふるさとへ」
 以上、15作品収録。

 キーワードは「望郷」。それだけではありませんが、ふるさとというものを意識させられる短編ぞろいでした。
「苦痛志向」は……宇宙船に乗せられまったく痛みを感じなくさせられた男が、地球を狂おしいほどに求める物語。
「故郷へ歩いた男」は……未来に送られた男が、自分の時代へ帰るために歩き続けた物語。
「ビームしておくれ、ふるさとへ」は……幼少時よりこの世界に疎外感を抱きつづけてきた男の結末。

 本国でこの短編が編まれたころ、ティプトリーの正体はまだ明らかになっていませんでした。ハリイ・ハリスンの序文に、当時のティプトリーがどう思われていたかが、うかがえます。
 きっと何度も読んでしまうだろうな、と思わせる作品集でした。


 
 
 
 
2004年11月24日
アン・マキャフリイ(浅羽莢子/訳)
『塔のなかの姫君』ハヤカワ文庫SF

 SF短編集。
「塔のなかの姫君」
「精神の邂逅」
「娘」
「鈍い太鼓」
「取り替え子」
「ウェラデイの天気」
「バレヴィの茨」
「未知の海から来た馬」
「犬声大合唱」
「目つけ役」
「ちゃんとしたサンタクロース」
「最年少のドラゴンボーイ」
「腐ったリンゴ」
「蜜月旅行」
 以上、14作品収録。

 表題作の「塔のなかの姫君」は……
 連邦テレパス&テレポーター公社の一級能力者はたったの五人。そのうちの一人であるローワンは、カリストにいて巨大な客船や何トンもの貨物を、受け取り、送る、つまらない日々を送っていた。
 ある日、デネブの植民地で緊急事態が発生する。ローワンは、デネブへと物資を送ることになるが……。

 マキャフリイは、短編はあまり得意ではないようでした。


 
 
 
 
2004年11月27日
ルーディ・ラッカー
(黒丸 尚/大森 望/木口まこと/訳)
『ラッカー奇想博覧会』ハヤカワ文庫SF

 数学的SF短編集。
「遠い目」
「57番目のフランツ・カフカ」
「パックマン」
「自分を食べた男」
「慣性」
「虚空の芽」
「第三インター記念碑」
「柔らかな死」
「宇宙紐だった男」
「宇宙の恍惚」
「1990年日本の旅」(エッセイ)
「クラゲが飛んだ日」(ブルース・スターリングとの共著)
「日本のアーティフィシャル・ライフ」(エッセイ)
 以上、13作品を収録。

 正真正銘のマッド・サイエンティストが書いた、日本独自編集の作品集。2篇のエッセイは、日本旅行記。
「柔らかな死」は……余命宣告を受けた資産家が、自分の脳をデジタル化して生き続けようと画策する物語。よくある設定ですが、よくある物語にならないのは、ラッカーならでは。

 ラッカーの作品は、「遠い目」の無化光線、「慣性」の慣性巻き取り機など、おもしろおかしい発明品が出てくるのが特色。お馴染みの、キレてる友人や、妻に愛想を尽かされている男、アツアツのカップルなどもコミカルに登場します。
 楽しい気分になれるので、気に入ってます。

 
 

 
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