ロボットSF。
マギーは、少女の姿をしたロボット。アーノルド・ブロンプトン・ジュニアによって作られた。アーノルドは大会社の御曹司なのだが、父親に反発し家出して、今は自動車修理工場だったところに住んでいる。
マギーは、アーノルドや彼が持ち込んだ数々の情報を消化し、徐々に人間らしくなっていく。マギーにとって人間らしくあることは至上命題。かつては存在していた人工知性は、ある事件によって全面的に禁止された。当然、自律ロボットの製作も違法行為。マギーは許されない存在なのだ。
やがて二人に、アーノルドを執拗に捜す父親の手がせまってくる。マギーはアーノルドにつれられ、放浪の旅に出ることになるが……。
ホームレス社会を扱っているので、非常に重たい内容なんですが、全体的に柔らかい印象。その柔らかさが食い足りなさに直結しているのか、悪くはないけど、少々物足りなさが残りました。
ハードボイルド。
ライオネル・エスログは、28歳。トゥーレット症候群のため、言葉のチック、運動のチックに悩まされている。仕事は探偵事務所勤務。ボスは、フランク・ミナ。
ミナは、ライオネルの意味不明な言葉の洪水にも、人間フリークショーとからかいながらも容認してくれた。孤児のライオネルにとって、ミナは、兄貴であり、父であり、恩人でもある。
そのミナが、ある日殺されてしまう。衝撃を受けるミナ一家の面々。分担して、犯人をつきとめることに……。ライオネルに割り当てられたのは、ミナの妻ジュリアに死去を知らせること。しかし、ジュリアはすでに承知していて、行き先も告げずに旅立ってしまう。
誰もいない事務所に帰宅するライオネル。そこへ、一つの知らせが飛び込んだ。手がかりの一つである、ウルマンという人物の調査に赴いていた同僚のギルバートが逮捕されてしまったのだ。容疑はウルマン殺し。
誰かがミナ一家を狩っているのか?
ライオネルは、ただ一人、もう一つの手がかりである“ゼンドー”への侵入調査を敢行するが……。
傑作。
主役で語り手のライオネルがトゥーレット症候群ということで、言葉遊びがすざまじく、ハードボイルド好きには受け入れがたいかもしれません。セリフだけでなく、脳内の考えも連想のオンパレード。ライオネルにしたら、遊びでなく、押さえこみたい病気なのですが。
生い立ち紹介が長くって少々だるいのが、難点といえば難点。でも、おもしろい。
人体アドヴェンチャー。
情報部員チャールズ・グラントの任務は、チェコのベネシュ博士をアメリカにつれてくること。東西両陣営は密かに、超空間投影法による物質ミクロ化の研究にとりくんでいたが、時間の制限はいかんともしがたかった。ベネシュ博士は、それを無限に持続させる技術を開発したらしいのだ。
ベネシュ博士は無事アメリカに入国するが、移動中に襲撃を受け、脳に損傷を負ってしまう。博士の価値のすべては、その脳の中味にあるというのに。
ベネシュ博士を救うためには、体内から手術するしかない。
ただちに、潜航艇プロテウス号が用意され、ミクロ化の準備がはかれた。制限時間は60分。それ以上は、現在の技術ではミクロサイズを維持できない。
グラントはプロテウス号に同乗することになり、他の専門家たちと共にベネシュ博士の体内に入った。航行は順調に進むかに思われたが、動脈と静脈との間にできた異常なつながりに引きこまれ、プロテウス号は大幅にコースを外してしまう。
腫瘍は取り除くことができるのか?
メンバーの中にスパイはいるのか?
映画“ミクロの決死圏”のノベライズもの。それが念頭にあるからか、どうも画像を見ているような書き方に思えてしまって窮屈な印象。気のせいかもしれませんが。
異質宇宙SF。
『インテグラル・ツリー』の続編。
クィン一族を中心とした市民たちがシチズン・ツリーに住みついて14年。彼らは領地の外に冒険に行くこともなく、平和に暮らしていた。
ある日〈科学者〉ジェファーは、〈監督官〉ケンディからの接触を受ける。ケンディは、このスモーク・リング世界に人類を運んできた播種ラム・シップ船〈紀律号〉のコンピュータ人格。14年前、シチズン・ツリーの市民たちと交信した際には良好な関係を築けず、ひそかにシチズン・ツリーを見張ってきたのだ。
ときを同じくして、シチズン・ツリーに燃えた木が接近しつつあった。そこには、窮地に陥った人間が取り残されていて、シチズン・ツリーの市民たちは救難活動を行う。助けられたのは〈きこり〉のサージェント一家。今まで無人だと思われていたラグランジュ・ポイント〈クランプ〉の住民だった。
シチズン・ツリーの世話役ギャヴィングは、彼らの国に興味津々。一方〈議長〉クレイヴは、〈クランプ〉への訪問に難色を示すが……。
前作『インテグラル・ツリー』を読んでないとおはなしにならない一冊。
波瀾万丈さはなく、いわゆる冒険も企画されたもの。始祖たちの残した魔法のような品が手元にあったり、ケンディの助力があったり、安心して読めるかもしれませんけど、ちょっと物足りない読後感でした。
終末期SF。
人類は科学力において絶頂をきわめ、ついに己の惑星の気候すら変えようと試みる。しかし、その計画は大惨事を引き起こし、文明は滅びた。
崩壊後の地球には各種ギルドが生まれ、人々はいずれかのギルドに所属し保護を受けた。そんな中〈変形人間〉だけは、侵した罪の深さによりギルドを持つことが許されていない。
長い長い人生を、ギルドの課す義務に奉仕してきた〈監視者〉は、手押車に超感覚の増幅装置を載せ、旅をしていた。いずれやってくるとされている宇宙からの侵略者を監視する日々。道連れは〈翔人〉の華奢で美しい少女アヴルエラ。そして、〈変形人間〉のゴーモン。
一行は、ロウムに向かっていた。〈支配者〉によって治められている古都だ。〈監視者〉は己のギルドを尋ねるが、すげなくあしらわれてしまう。泊まる宿もなく途方にくれ、一行は皇帝のお慈悲にすがるべく宮殿へ。
皇帝は、偶然、アヴルエラを目にとめた。三人は、宮殿内に暮らすことができるようになるものの、アヴルエラは皇帝の夜伽の相手。〈監視者〉の心は乱れる。そして、アヴルエラを想っていたゴーモンは誓いを立てるが……。
三つの短編をつなげた構成。
実は、地球崩壊の原因や侵略される理由が説明されるのは第二部に入ってから。それまでは断片的かつ希薄な情報でしのぎました。ちゃんと情報収集しておけばよかったなぁ、と、ちょっと反省。
作品自体は、詩的に美しいんです。老人の視点で語られる物語は静かで、地に足がついている感じ。好感持てます。
トリップ小説。
内乱に揺れるメキシコ。ジャーナリストのカーマイクルは、ゲリラの指導者の一人、カーラのインタビューに成功する。しかし、取材後、カーラは政府軍の襲撃を受け重傷を負ってしまった。カーラは、ゲリラ仲間の誘いにも応じず、マヤ遺跡へと潜伏する道を選ぶ。
一方、かつてカーマイクルが撮った写真の中に、リンジーは行方不明となっている夫・エディーの姿を認めた。一緒に写っているのは、ナハのラカンドン族。さっそく、義兄のトーマスに伝えるリンジー。メキシコで仕事をしているトーマスは、本を書くために彼らを調査したことがあるのだ。
ちょうどトーマスは、仕事を中断させられていたところ。乗り気ではなかったがリンジーに説得され、エディーを捜すことに……。
トーマスとリンジーは、エディーがラカンドン族たちとナ・チャンへ向かったとの情報をつかむ。ナ・チャンは、かつてトーマスも発掘したことのあるマヤ遺跡だ。ヘリコプターをチャーターしてかけつける二人。再会を果たすものの、エディーは、命の危険もある“聖なるキノコ”のとりことなってしまっていた。
そして、彼らの元にカーラの軍隊が現れ、一同は軟禁されてしまう。
SFレーベルから出てますけど、SFとは呼び難い一品。
ゲリラたちを書きたかったのか、マヤ文明について書きたかったのか……、どうも受け止め損ねてしまったようです。
復讐系SF。
《魔王子》シリーズ(全五巻)の第三巻。
(第一巻『復讐の序章』第二巻『殺戮機械』)
カース・ガーセンは、壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐のための技能を習得し、事件の首謀者である五人の魔王子たちを追っている。
ガーセンは、魔王子の一人、ヴィオーレ・ファルーシに関するニュースを見つけた。惑星サイコヴィーの毒匠カカルシス・アムスが、ファルーシに違法に毒を販売した(定価のある毒物を割引販売した!)廉で処刑されることになったというのだ。
ガーセンは早速惑星サイコヴィーへと赴き、処刑の寸前、アムスよりファルーシの情報を入手した。アムスはかつて、ファルーシと名乗る前の彼から、奴隷女性二人を買い取っていた。ガーセンは、二人の女性の行方を捜し当て、生存していたダンディーンより新たな情報を得る。彼女を誘拐し売り飛ばしたのは、ヴォーゲル・フィルシュナー。出身地は、地球のアンベレス。
ガーセンはアンベレスへと向かった。そして、フィルシュナーが心酔していたという詩人・ナヴァースを捜しだす。ナヴァースは、フィルシュナーがファルーシと改名した今でもコンタクトをとっていた。
ガーセンは、ナヴァースを利用してファルーシに近づくことを目論むが……。
ナヴァースが養っている、不可思議な少女“エイリドゥー生まれのザン・ズー”の扱いがおもしろい。この名は、ナヴァースがガーセンの目前で仮につけたもの。実は、ザン・ズー自身も自分の本当の名前を知らない。物語が進むにつれ、ナヴァースがなぜ彼女にそういう扱いをするのかも明らかにされていきます。
おなじみの、駆け引き、推理もあり。前作『殺戮機械』で億万長者になったため、資産運用もあり。期待したものを読ませてくれるのが、なによりありがたい……。
宇宙人交流SF
イノック・ウォーレスは、1840年に生まれた。年齢は124歳。外見は30歳程度。近所付き合いはしない。日課は、ショットガンを持っての散歩。
情報機関のクロード・ルイスは、ウォーレスを見張り続けて2年。排他的な土地ゆえ調査は容易ではなかったが、このたび、ウォーレス家の墓からあるものを入手した。ルイスは、ナショナル・アカデミーのハードウィック博士に、入手したものについて相談する。
誰も知らないことだが、ウォーレスは、中継ステーションの管理人だった。銀河系宇宙の地図に書き込まれた、地球の中継ステーションはウォーレスの家なのだ。そこを、さまざまな旅人(宇宙人)が通過していく。ステーション内にいる限り、歳をとることはない。
ルイスが手に入れたものは、宇宙人の遺体だった。ウォーレスの中継ステーションで亡くなり、上層部の指示によりウォーレスが埋葬したものだ。
野蛮にも墓が暴かれたことは、深刻な問題を引き起こす。地球は見捨てられ、ステーションは閉鎖されてしまうのか?
淡々とした一冊。地球の行く末に絶望を感じながら、地球最大の危機を迎え動揺しながらも、ウォーレスはどこか遠くを見ているような印象で、静けさを感じました。
名作は得てして静か。
SF短編集。
「天国の門」
「ビーバーの涙」
「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!」
「ラセンウジバエ解決法」
「時分割の天使」
「われら〈夢〉を盗みし者」
「スロー・ミュージック」
「汚れなき戯れ」
「星ぼしの荒野から」
「たおやかな狂える手に」
以上、10作品を収録。
表題作の「星ぼしの荒野から」は……
エンギは、深宇宙の仔。まだ成熟しきっていなかったが、それゆえこっそりと、はじめての冒険にでる。しかし、若さゆえに単一太陽系で磁力流につかまってしまった。太陽へ落ち行くエンギ。死にものぐるいで一つの惑星の磁力場をとらえ、自身のアイデンティティーを飛ばした。不確実な可能性にかけて。
こうして三人の人間に、エンギであるものが宿ることとなった。有能な秘書のグロリア・エムステッド。そのボスのポール・マレル。その娘のポーラ。
ポーラは幼いころから星々に多大な感心を示し、有能ぶりを発揮する。ポールの会社運営の片翼をになうまでになるが……。
生まれたときからエンギを内包していたポーラの、星にかける情熱がとても哀しい。短編ゆえの濃縮さで、少々駆け足気味なのが残念でした。この濃縮さが、面白いんですけどね。
ワイドスクリーン・バロック。
人類は、謎の生命体により壊滅的な状態に陥った。結晶生命体クリスタロイドが、木星軌道上から猛攻撃をしかけてきたのだ。人類も反撃を試みこれを撃破したものの、クリスタロイドたちは、アルタイルへ向け救難信号を発していた。
それから40年。
人類は、クリスタロイドの故郷と思われるアルタイルへ向け、艦隊を送りだす。彼らを元からたたきつぶすために。
田村邦夫は〈憂国〉の艦長。自分の艦を支配するために、艦に搭載されたMI(機械知性)とも闘争する事態に陥る。出撃する前から、艦隊中のMIが狂いを見せたのだ。さらに、救難信号を受け太陽系へと向かっていたクリスタロイドたちとの遭遇。乗員たちの反乱。田村は、さまざまな事件に見舞われる。
この遠征の真の目的とは?
地球の将来をかけた遠征隊にこういう小細工なことしちゃう人類って、どうよ? と眉をひそめた一冊。まっとうに当たっても勝ち目はないと思ったのか、実はすでにアルタイルの状況を掴んでいたのか。
おもしろいし興味深い展開ではありましたが、ちょっと理解も納得もできませんでした。読む人が読めば絶賛なんでしょうがね。