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2004年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
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このページの本たち
いさましいちびのトースター火星へ行く』トーマス・M・ディッシュ
戦闘機甲兵団レギオン』ウィリアム・C・ディーツ
ガラスの塔』ロバート・シルヴァーバーグ
宇宙創世記ロボットの旅』スタニスワフ・レム
宇宙消失』グレッグ・イーガン
 
宇宙の操り人形』フィリップ・K・ディック
李陵・山月記』中島 敦
プロテクター』ラリイ・ニーヴン
ダークホルムの闇の君』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
アイヴォリー』マイク・レズニック

 
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2004年09月28日
トーマス・M・ディッシュ(浅倉久志/訳)
『いさましいちびのトースター火星へ行く』
ハヤカワ文庫SF

 メルヘンSF。
 ぴかぴかのトースターと仲間たちは、奥さまの元で幸せな日々を送っていた。トースターがマフィンを焼くのに失敗して、ぼや騒ぎを起こしたり……といったささやかな事件はあったけれども。
 電気器具たちに新たに加わった仲間は、奥さまがバザーで手に入れた補聴器。それもただの補聴器ではない。アインシュタン博士の試作補聴器なのだ。
 電気器具たちは、補聴器の講義に、理解はできなくとも興味津々。吸引力の落ちた掃除機は脱重力のやり方を教えてもらい、ラジオは遠方の電波をも受信する方法を学んだ。
 こうしてラジオが受信することになった放送の中には、電気器具たちの共通語・電子言語でしゃべられているものがあった。しかもその放送は火星から。輸送途中に消えたポピュラックス製の電気器具たちが火星に渡り、電気器具の国家を建設していたのだ。それらの目指すものは、地球侵攻……。
 トースターたちは陰謀を食い止めるべく、火星へと旅立った。

 前作『いさましいちびのトースター』でハートフルなメルヘンだった作品が、SFへと変貌。とはいえ、お伽話のよさは失わず、ほのぼのと、ときにはしみじみと、あるいはハラハラとさせてくれます。
 名作。


 
 
 
 
2004年10月01日
ウィリアム・C・ディーツ(冬川 亘/訳)
『戦闘機甲兵団レギオン』上下巻・ハヤカワ文庫SF

 戦争SF。
 ウォーバーズ・ワールドは、銀河帝国の辺境区域にあった。そこへ突如として、異星人・フダサが攻めてくる。彼らは破壊の限りをつくし、和睦にも応じない。というのも、フダサ人たちの母星は過酷な環境下にあり、自分以外はすべて敵、完璧に滅ぼさねばならないと信念を持っていたのだ。
 ウォーバーズ・ワールドのナタリー・ウッド大佐は、上層部が全滅したために指揮官となった。望みの薄いフダサ人との交渉に挑むが、あえなく捕虜にされてしまう。
 一方、銀河帝国の中心部・地球では、帝国宇宙海軍ポーラ・スコラリ提督が陰謀を繰り広げていた。スコラリは皇帝に辺境区域からの撤退を進言する。しかし、軍団レギオンの将軍マリアンヌ・モスビー将軍は、これに反対していた。レギオンは、フランス外人部隊から発展したサイボーグ戦士たちの軍隊。念願かなって惑星アルジェロンを手に入れ本拠地としたが、撤退では、アルジェロンを手放すことになってしまう。
 スコラリの提案に心を動かされつつも、モスビーの肉体に執着する皇帝。
 フダサ軍は、一つ、また一つと、辺境惑星を破壊していくが……。

 頭の中に顧問団を持つ皇帝。レギオン兵として蘇る死者たち。見放された辺境惑星で必死に戦う民間人。フダサ軍に人類を売り渡した裏切り者。戦時中に行われるフダサ軍司令官に対する軍事法廷。
 個々はおもしろいのですが、いかんせん枝葉が多すぎてまとまりに欠けてしまったようです。レギオンが中心かと思いきや、そういうわけでもなく……。
 滑稽さに笑いました。


 
 
 
 
2004年10月03日
ロバート・シルヴァーバーグ(岡部宏之/訳)
『ガラスの塔』ハヤカワ文庫SF

 アンドロイドSF。
 人類は、宇宙からのメッセージを捕まえた。その意味するところはまだ分からないが、シメオン・クルッグは、持てる財力を総動員して、返信のための塔の建設にとりかかる。
 タキオンビームを発信するために必要な塔の高さは1400メートル。その建設に携わるのは、クルッグが創造したアンドロイドたち。
 大半のアンドロイドたちは、クルッグを神としてあがめていた。なぜなら、クルッグは創造主だから。人間たちには内緒で礼拝所を作り、聖書を作り、密かに信仰を守っていた。
 ソー・ウォッチマンは、教団指導者の一人。そして、クルッグの作る塔の現場監督でもあった。ウォッチマンもまた、クルッグが自分たちアンドロイドを解放してくれる日がくることを信じていたが……。

 この作品のアンドロイドは、遺伝子操作された人間のような存在。槽で産まれ、手早く育成されて……。独自の宗教を持つのも頷けます。
 ファースト・コンタクトは、あくまできっかけ。異星人を期待して読むと脱力するかもしれません。


 
 
 
 
2004年10月06日
スタニスワフ・レム(吉上昭三/村手義治/訳)
『宇宙創世記ロボットの旅』ハヤカワ文庫SF

 寓話SF。
 宙道士たちは「無窮全能資格」の優等免状を持ち、ときどき旅にでては各地の惑星の人々に助言と援助の手をさしのべる習慣があった。トルルとクラパウチュスも、そんな宙道士の一人。習慣にしたがって旅立ち、ある惑星にたどりついた。
 惑星には大陸が一つしかなく、そのただ一つの大陸は、一本の真紅の線を境に黄色とバラ色に分けられていた。二つの地域に別れて戦争中だったのだ。
 トルルとクラパウチュスは二手に分かれ、それぞれの地域の王様に謁見するが……。

 二人の7つの旅と番外編とが語られます。困ったちゃんな王が出てきてふっかけてくる無理難題。ときに謙遜、ときに自信過剰に陥りつつ、問題は解決されていきます。
 仲違いしたときにも示される、トルルとクラパウチュスの親密さがほほえましい一冊。


 
 
 
 
2004年10月10日
グレッグ・イーガン(山岸 真/訳)
『宇宙消失』創元SF文庫

 量子論SF。
 2034年11月、世界中から星空が消えた。太陽系全体が半径120億キロの球形〈バブル〉に覆われ、人類は太陽系外を、すなわち星の海を見ることができなくなったのだ。
 それから33年。
 ニック・スタヴリアノスは、元・警官。〈バブル・デイ〉に触発されて生まれたカルト教団《奈落の子ら》に妻を殺され、警察を辞職し今は探偵家業をしている。
 ある日、奇妙な依頼が舞い込んだ。それは、行方不明者の捜索。捜すのは、警戒の厳重な病院から姿を消した入院患者、ローラ・アンドルーズ。重度の先天性脳損傷患者であるローラが自力で抜け出せるわけがない。
 誘拐か?
 いったい誰がなんのために?
 どうやって?
 ニックは消えたローラを追って、新香港へとたどり着く。そして、謎の企業BDI社に目星をつけ潜入するが、捕らえられてしまった。

 評価の別れるであろう一冊。
 太陽系を覆う〈バブル〉に度肝を抜かれたのですが、けっきょく新香港から出ることもなく、どうもしりすぼみ的に終わってしまった感じがします。
 大絶賛されているので、期待しすぎたのかもしれません。


 
 
 
 
2004年10月11日
フィリップ・K・ディック(仁賀克雄/訳)
『宇宙の操り人形』ちくま文庫

 中短編SF。
「宇宙の操り人形」
「地球乗っ取り計画」
「地底からの侵略」
「奇妙なエデン」
 以上、4作品を収録

 表題作の「宇宙の操り人形」は……
 テッド・バートンは、ミルゲイトに向かっていた。小さな渓谷の底にあるミルゲイトで、テッドは9歳まで暮らしていたのだ。19年ぶりの帰郷に心踊らせるテッド。しかしテッドを待っていたのは、見知らぬ故郷だった。
 ミルゲイトになにが起こったのか?
 テッドは昔の新聞記事で、自分が去ったころの様子を探ろうとする。そして発見したのは、自身の死亡記事。
 自分は本当にテッド・バートンなのか?
 テッドは真相をさぐろうとするが……。

 SFというより、ファンタジー。謎の提示があって、いやが上にも期待が高まっていたのですが、ちょっと逃げられてしまったような……。おもしろいんですけどね。


 
 
 
 
2004年10月12日
中島 敦
『李陵・山月記』
新潮文庫

 漢文的短編集。
「山月記」
「名人伝」
「弟子」
「李陵」
 以上、4作品を収録。

 表題作の「山月記」は……
 李徴は官僚だったが、退職して、詩家として名を後世に残そうと考えた。しかし詩業は芳しくなく、ある夜、闇の中へ駆け出し行方不明となってしまう。
 その翌年、李徴の友は、変わり果てた李徴と遭遇した。李徴は人喰虎となっていたのだ。人間としての意識のあるわずかな時間、李徴は友に、己の身に起こったことを語るのだった。

 元ネタは、中国・唐代の伝奇小説「人虎伝」。一見難しげな文章が、狂気の物語をもの静かに語るさまが圧巻。現代語訳なんて無粋なことをしてもらいたくない名作です。


 
 
 
 

2004年10月15日
ラリイ・ニーヴン(中上 守/訳)
『プロテクター』ハヤカワ文庫SF

 《ノウンスペース》シリーズ。
 宇宙人ものSF。
 ジャック・ブレナンは、天王星のうしろにあるトロヤ群にいた。価値ある岩を捜していたのだが、見つけたのは古いロケット・モーターの部品。収集家、垂涎の品だ。ブレナンは、月へ密輸することを決断する。
 月へと向かう途中ブレナンは、自分と経路を同じくする宇宙船に気がついた。人類のものとは思えないそれは、まだ見ぬ異星人のものだった。
 フスツポクは、パク人。かつて母星を旅立った仲間たちが危機に見舞われていることを知り、救援のため、3万年もの月日をかけ太陽系にやってきた。仲間たちが熱望しているのは、ある食べ物。パク人は、それを食べなければ成人にはなれないのだ。
 ファースト・コンタクトでブレナンは、会話を交わす努力をすることもなく、フスツポクに捕らえられてしまう。船倉に放りこまれ、はるばる運ばれてきた食べ物を口にするが……。

 ちょっと釈然としない一冊。フスツポクの故郷の星のありようを理解できなかったからか、ブレナンの選んだ結末が気に入らなかったのか、読むことに集中できなかったのか……。
 当書は、最初に読んだニーヴン作品でなくて良かった、というのが正直なところ。


 
 
 
 
2004年10月16日
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(浅羽莢子/訳)
『ダークホルムの闇の君』創元推理文庫

 ファンタジー。
 魔法世界を脅かしているのは、魔王の出現ではなく、実業家ツェズニー氏の巡礼観光団。魔術師大学総長ケリーダの元には、各団体から寄せられる苦情の手紙がひっきりなしに届く始末。しかし、40年前の契約の背景には強力な魔物がからんでおり、うかつに破ることはできない。
 ケリーダは今年の“闇の君”の選出を、神々のお告げに諮った。そうして出てきた回答が、魔術師・ダーク。
 ダークは才能ある魔術師だが、問題も抱えている。それこそがケリーダの目論みだったのだが……。

 軽妙に読ませます。ダークが多家族なだけに登場人物が多く、いかんせん覚えるのに一苦労。紹介もなく突然登場するグリフィンたちに面食らいつつ、なんとか読み切りました。登場人物一覧表は、ざっと見渡しておいた方がいいようです。


 
 
 
 
2004年10月18日
マイク・レズニック(内田昌之/訳)
『アイヴォリー』ハヤカワ文庫SF

 叙事詩的SF。
 ダンカン・ロハスは、ウィルフォード・プラクストンの調査員。プラクストンの提供するデータは、〈連邦制〉中の博物館や収集家に、陳列物を認証するために利用されている。
 ある日、ダンカン・ロハスを一人の男が尋ねてきた。彼の名は、ブコカ・マンダカ。キリマンジャロ・エレファントという象の牙を捜しているという。情報は少なく、提示する報酬は破格。
 ダンカン・ロハスはコンピュータを駆使し、象牙を捜し始める。興味があるのは、なにより、身元の知れないブコカ・マンダカの目的。
 象牙を手に入れることにいったいどんな意味があるというのか?

 逸話をちりばめた構成。
 象牙の行方と共に、ダンカン・ロハスが属する“現代”と、キリマンジャロ・エレファントの擬人化された独白が、平行して進んでいきます。それらが最後にぴったり一つになる。目新しくはないものの、スムーズな進行ぶりは評価できます。
 なにより、ブコカ・マンダカが哀しい。でも、感情移入はできない……。

 
 

 
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