《メド・シップ》シリーズ第二巻。
宇宙へと進出した人類はさまざまな疫病から身を守るため、星間医療局を創設した。医師が医療船(メド・シップ)に乗り込み、巡回医療や、必要と認められたときに特別検疫を行うのだ。
カルフーンは、メド・シップ〈エスクリプス20〉に乗り込む医療局員。抗体をつくる才能のある宇宙動物トーマル族のマーガトロイドを相棒に、任務に就いている。
第一話「惑星クライダー2に疫病発生!」
カルフーンは、惑星クライダーに向かっていた。不可思議な疫病が発生したらしいのだ。同じ伝染病は、他の惑星で前例が2件ある。カルフーンはそれらの報告書を読むが、どうもすっきりとしない。いよいよ惑星クライダーに近づき、オーヴァードライヴから抜け出したとき、船は、星間医療局本部に着いたことを告げていた。何者かがメド・シップの計器に細工をしたらしい。誰が、いったいなんのために?
第二話「空にうかぶリボン」
オーヴァードライヴから離脱した〈エスクリプス20〉は、まったく予定外の空域に出ていた。ここがどこなのか調べるため、カルフーンは小規模なオーヴァードライヴを繰り返す。そうして出会ったのが、ぎらぎらと輝く金色のリボン状のものにとりかこまれた惑星だった。リボンは明らかに人工のものだ。カルフーンは現在地を知るために降り立つが、そこは、孤立症候群に支配された、忘れられたコロニーだった。
第三話「惑星封鎖命令!」
カルフーンは、惑星ランクの公衆衛生の検査を行っていた。ランクの状態はすこぶるいいのだが、カルフーンには、よすぎる点がひっかかる。そして、医学会の会合の最中、強盗事件が発生した。犯人死亡の報がもたらされたにも関わらず、出席者たちは狼狽し、ただ事ではない様子を示す。カルフーンは、問題の男を検死しようとするが、厚生大臣に止められてしまった。さらに、強制的に離陸させられてしまう。
カルフーンは、検死しようとした際に死者の衣服の一部を入手していた。惑星ランクからは追い出されたが、船内で検査し、毒性の高い細菌を確認する。さらに、彼がランクの住人でないことも判明した。
惑星ランクが隠していることとは、いったいなんなのか?
1967年の作だけあって、読んでいて「ええッ?」と思ってしまうところが多々ありました。それでも、表題作の「惑星封鎖命令!」は好感持てる作品。提示される謎。生命の危機。科学的な解明。その他いろいろ、楽しめます。
邦題が気になったのも「惑星封鎖命令!」でした。どうも、内容に合ってないような……。原題は“Quarantine World”だそうで(Quarantine=隔離)ふつうに訳して欲しかったなぁ、というのが正直なところ。
宇宙船ウォンダラー号は、今まさに墜落しようとしていた。乗組員は四人。宇宙探査任務の最中だったのだが、惑星突入の角度と速度を誤ってしまったのだ。
統合員ヴァルミスは地表に激突する寸前、可能性転移装置のスイッチを入れる。それによって宇宙船は“墜落しなかった”もう一つの世界に転移した。宇宙探査隊のもっとも厳しい戒律は、異星文化への干渉。ヴァルミスは、異星文化どころかすべての世界に介入してしまったのだ。
転移したウォンダラー号は海に着水を果たすものの機体は壊れており、もはや飛び立つことはできない。船長ダークは、原住民を教化して宇宙船を修理させることを選ぶ。この惑星の文明発達度は第四段階。宇宙飛行能力の兆候はまだないが、なんとしてでも治金学者と技術者が必要だ。
記録員ラフは意思疎通機を用い、原住民とのコミュニケーションを図った。しかし、事前の観察期間がなかったため、なかなか言葉を理解することができない。やむなく当てずっぽうで行動したがために、一同、ドアと窓に棒のはまった小部屋に閉じ込められてしまった。
ラフはあきらめず、同室になった現地人の男を相手に、言葉の習得にはげむ。ジェスチュアを交え、自分たちが宇宙から来たことを伝えるが、男はなにごとかを叫び、連れられて行ってしまった。残される四人。ラフが不安にかられる中、超歴史学者アリは、第四段階文化における異星人の扱いを滔々と述べる。乗組員たちは現地人へのアプローチの方法を相談するが、いい案は浮かばない。
間もなくして、あの男が現地人の一団をひきつれて戻ってきた。環境は一転。ウォンダラー号の面々は軟禁状態ながらも、家具調度も立派な部屋にいることになった。そして、この惑星の政治的筆頭者の一人と会談することが決まる。
会談に先んじて、一行は、宇宙探査隊の身分を隠し、銀河帝国の使節団を装うことを申し合わせた。この世に銀河帝国などは存在しないが、宇宙船が壊れ肝心の探査もできない探査隊より、使節団の方がよい待遇が得られるとふんでのことだ。ラフは、ついに言語を習得し、代表して会談に臨む。その相手こそ、アメリカ合衆国大統領テディ・ローズヴェルドだった。
笑えます。いわゆる歴史改変もの。舞台は、二十世紀初頭。可能性移転装置によって、あるいは異星人たちの行動によって、地球の歴史はどのように変わるのか? まさに、天のさだめを誰が知ろうか?
主役で記録員のラフは、意思疎通機によって言葉は習得したものの、さすがに慣用句まではムリ。そのへんの行き違いもまたおもしろい。英語で読めればもっとおもしろいんでしょうけど……読めないのが残念です。他のメンバー、ダーク、ヴァルミス、アリも、己の専門を駆使して、教化のために奮闘します。その結果は???
異星人といっても見た目は人類と同じ。思考回路も理解できる範疇。SFなんて読まない人でも楽しめる一冊ではないでしょうか。
気に入りました。
ソラリスは、二連の太陽をめぐる水の惑星。生命の存在は絶望視されていたが、その軌道には奇妙なところがあった。二重星の影響により不安定なはずが、どういうわけか安定していたのだ。
そして、ソラリスに生命が発見される。
ソラリスの生命体は、広大な海そのもの。しかも海は、全体で一個の生命体だった。人類は何度となく接触を試みる。それらはことごとく失敗し、いつしかソラリス研究は廃れ、今では研究ステーションには3人の人間しかいない。すなわち、ギバリャン、スナウト、サルトリウスの3人だ。
4人目となるはずだったケルビンは、カプセルで惑星ソラリスに到着した。予期していた歓迎はなく、研究ステーションは荒れ果てていた。ようすのおかしいスナウトに聞かされたのは、今朝方のギバリャンの自殺。サルトリウスは実験室に閉じこもり、出てこないという。
ケルビンは、スナウトに警告される。
自分とサルトリウス以外の誰かに会っても、なにもするな。
ケルビンは不審に思うが、実際に、ギバリャンの部屋に入っていく女を目撃する。存在するはずのない、人間。ステーションを包む異常な空気。ソラリスでいったいなにが起こっているのか?
翌朝、ケルビンが目覚めると、10年前に他界した妻のハリーが安楽椅子でくつろいでいた。生きてそこにいるハリーに、ケルビンは狼狽する。ハリーはただ死んだのではない。自殺だった。ケルビンは、自殺の原因が自分の言動にあると思い悩んでいたのだ。
ケルビンは対応策を考えだすが……。
異質な生命体との遭遇をテーマにした三部作の中の一冊。(他の2冊は『エデン』『砂漠の惑星』)このテーマゆえ、作品中を不可解さが埋め尽くし、それは最後までつづきます。再読なのでそうしたことは納得ずくで読んだのですが、楽しめたのは途中まで。やはり、どうも相性がよくないようです。もっといろいろ読んで精神的に成長すれば楽しめるのかな……。
アニは、森で奇妙な生物を発見した。体表を無機質な白い殻で覆った、見たことのない動物たち。まだ息のある一頭は、病に侵されていた。アニと共に現場に居合わせた村の最長老のイルトとキリトは、この動物を救うため全力を傾ける。そのためにキリトは亡くなった。イルトはより確実に助けるために、この動物に肉体改造を施す。
ジュナ・サアリが目覚めると、指から鉤爪が伸び、皮膚は鮮やかなオレンジ色に変わっていた。覚えているのは、未知の惑星を調査中、アナフィラキシー・ショックで死にかけていたこと。飛行艇が墜落したために基地まで歩いて帰る途中だった。
まだ混乱するジュナの前に、エイリアンが現れる。この惑星に知的生命はいないと思われていたが、ひっそりと息づいていたのだ。その姿は、巨大なアマガエルを連想させた。現在のジュナの姿と同じように……。
彼らは、テンドゥ。
皮膚の色を操り、視覚で会話をする種族。手首の内側には鮮紅色の針アリュがあり、それを使って精神的交流を行う。さらには、ジュナが施されたような肉体の改変、改善までも。
アニは、ジュナの目覚めを見届けた後に他界したイルトをつぎ、成者アニトとなった。師でもあったイルトの言葉に従い、ジュナを保護観察対象アトゥワとして面倒をみることになるが、後悔は深まるばかり。早く厄介払いしたくてたまらない。
アニトはジュナの求めに応じ、彼女の仲間たちがいるという地域へと案内をすることに。道中、尊者ユカトネンと出会い、リアナンの災害を知る。海辺のリアナンでは、見たことのない生物の集団が森を無秩序に切り開き、大損害を被っていたのだ。その集団こそ、ジュナの仲間たちだった。
ジュナは基地にたどりつくが、基地はすでに引き払われた後。愕然とするジュナ。残された無線標識を使い、救難信号を発信するが……。
アニと、ジュナの視点で交互に書かれる物語。最初は一章ずつ長めに、同じ出来事を別視点でなぞりながら。徐々に間隔がせばまっていき、自然な流れが作られていきます。そのあたりの読ませ方は、さすが。うまい。
とりあえず主役はジュナなのでしょうが、見習いにすぎなかったアニの成長ぶりが圧巻。慕っていた師イルトを死に導いたのがジュナの存在であるだけに、ジュナには敵対心を持っている。と同時に、好意も……。
読後に残ったのは、物足りなさ。ちょっと都合がよすぎたような、そんな感じ。それと、作者が間違えたのか、訳者が間違えたのか、ささいな誤りがあり、醒めてしまいました。もったいない。
メキシコ、ユカタン半島に位置するキンタナ・ローは、マヤ族の土地。メキシコを相手に独立を求めて蜂起したこともある。その際、アメリカ合衆国がメキシコを支援したために、今でもアメリカ人はグリンゴと蔑まされている。
物書きの“わたし”もグリンゴ。農園主のささやかな別荘を借りていた。そして、さまざまな人から、キンタナ・ローの不思議な物語を教えてもらうのだった。
「リリオスの浜に流れついたもの」
水を分けてあげた旅人が語る。
ある月夜の晩。古い水路に、一本の棒が突き出ているのを発見した。それは波にゆられ、徐々に近づいてくる。よく見ると、美しいロングボードの折れたマストだった。そして、そこには黒髪の美女が縛り付けられていたのだ。
命がけで救出し、なんとか浜へと泳ぎ戻る。しかし、その人物は男だった。だが、寝入った姿を見ていると女に見えてくるのだ。その正体は……?
「水上スキーで永遠をめざした若者」
もうけ話を教えてあげた船長が語る。
アウドマーロ・コーは、純血マヤ族。コーとは、主に似た存在、あるいは若い神を意味する。彼は、才能に溢れる若者だった。あるときコーは、水上スキーでコスメル島から本土まで横断一番乗りを計画するが……
「デッド・リーフの彼方」
レストランで意気投合したベリーズ人の男が語る。
デッド・リーフの名は、死んだサンゴ礁からきた。今ではそれだけでなく、ゴミ溜めと化している。しかし、その先は別世界。それはそれは美しい世界なのだ。だが、そこであるものを目撃することとなった。デッド・リーフの先にあるものとは……?
世界幻想文学大賞受賞作。
最初の「リリオスの浜に流れついたもの」が一番長く、語りの合間にもささやかな会話がはさまって、そういった、一見無駄と思える部分も含めて楽しめました。その分、他の2篇には物足りなさが残ってしまったような……。
ほぼ現代の物語のため、マヤ文明を期待していると肩すかし。マヤのことをよく知っていればさらに楽しめるのかもしれませんが、それほど知識がなかったので関連性はつかめず。もったいないことをしました。
《ノウンスペース》の一冊。『リングワールド』の続編。
リングワールドは、地球の300万倍の面積を持つ人工世界。太陽をとりまき自転する、巨大なリング状構造物だ。
ノウンスペースに属さない未知なる世界・リングワールドの冒険から23年。探検家ルイス・ウーがリングワールドより連れてきた現地人ハールロプリララーは国連警察に捕われたまま。ルイス自身はキャニヨン星に隠れ住み、すっかり電流中毒にそまっていた。厳重な警報装置に守られ、自宅で〈ワイヤ〉に浸る日々。
ある日、ルイスの元に2人の侵入者がやってくる。人工的な快楽によって意識のはっきりしないルイスは、鍛えられた身体でもって二人を始末してしまった。〈ワイヤ〉のタイマーが切れ我にかえり、愕然とするルイス。ついに国連警察に見つかったのか? しかも、彼らは警報装置をだしぬいたのだ。
逃亡を企てるが、ルイスはついで現れたパペッティア人に誘拐されてしまった。このパペッティア人は、かつてリングワールドを共に探検したパペッティア人ネサスの配偶者〈至後者〉。〈至後者〉はルイスだけでなく、同じくリングワールドでの探検仲間クジン人のハミイーも誘拐していた。
ハールロプリララーも確保予定と聞いて再会を期待するルイスだったが、彼女はすでに他界。ハールロプリララーは延命剤を持っていたが、それを失ってしまったらしい。
〈至後者〉の計画は、リングワールドの再度調査だった。 〈至後者〉はすでに政権の座を追われており、リングワールドの偉大なる発明品、物質変換機を手に入れて巻き返しを計ったのだ。しかし、かつてネサスが入手した実質変換機の情報は、ハールロプリララーの真っ赤な嘘。そんなものはありはしない。
誘拐されたルイスたちはパペッティア人の性格を考え、話を合わせることにする。こうしてリングワールドへと到着した一行だったが、目の当たりにしたのは、回転軸が大きくずれた異常な光景だった。
リングワールドになにがおこったのか?
前作『リングワールド』と比べると、冒険度はかなり落ちてます。リングワールドを創ったのは、いったい誰か? といったミステリイが集点。というのも、創った以上は維持せねばならないから、そのための装置が必ずあるはず、どういった種族が創ったのか分かれば、その考えも自ずと明らかに……というわけ。
安定装置を作動させて、リングワールドの回転軸を元にもどし世界を救おうと、ルイスたちはがんばります。文明が滅んだリングワールドの現地人たちも、天変地異は理解できるのでルイスに協力しようとします。そのために、人々がおしなべて素直な印象が残りました。冒険ものとしては、ちょっと拍子抜け。
『リングワールド』の続編ですが、これも読んでおかないと理解しにくいのでは……という一冊。それについて書くだけでオチが分かってしまうジレンマ。おそらく、ずっと《ノウンスペース》を読み続けてきたファンのために書かれたのでしょう。まぁ、そういう意味では楽しめる……かもしれません。
ヘリーン・アリアドニは17歳。デンヴァー・スプリングスにあるヒドラ社の見習い生物学者。今は、西部合州国vsケベックの戦争で、中立地帯のヴィクトリアへと疎開させられている。本人は不服で、脱走の機会を伺う日々だ。
アリアドニには、疎開前に、GEM(遺伝子工学応用メモリ素子)生物ロボット計画という、重要な軍事研究に関わっていたプライドがある。アリアドニの父デアリーズは、ヒドラ社保安担当責任者。母のメディアは、ヒドラ社研究部門幹部。彼らに呼び戻してもらうためにアリアドニは、密かに研究素材を持ち出し、実験をつづけている。
疎開から一年以上がたち、この一ヶ月は、父からの便りがとだえてた。母からの便りもビジネスライクな定型書式的なもの。不審に思っていたアリアドニのもとに、母の旧友を名乗るクレアから接触があった。アリアドニは、クレアに一緒に暮らすことを提案される。しかし、アリアドニはクレアにうさんくさいものを感じとっていた。
彼女はなにかを隠している……。
ついに脱走計画を実行にうつしたアリアドニ。国境を越え、故郷へと向かった。父のID番号は凍結されておらず、口座から資金を得て、ひとまず安堵する。しかし、自宅にたどりつくと、そこは光襲によって瓦礫の山と化していた。
呆然とするアリアドニを見つけたのが、ジョス・リドル。エセックス王子の従者だった。エセックス王子は、戦時研究計画に援助の手をさしのべるため、ヒドラ社に乗りこんできた人物。父の手紙では、当初は大歓迎だったようだが……?
アリアドニがヒドラ社に案内されると、エセックス王子が社内権力を握っていた。アリアドニは、母がスパイ容疑で拘束されていることを聞き、また、錯乱している父を見、愕然とする。
いったいなにが起こっているのか?
ジュブナイルに片足突っ込んだような一冊。文面をそのまま受け止めて読めば、よく練られたプロット……と思うものの、アリアドニは軍事研究にかかわっていながら“ヒドラ社は工業施設だから光襲の対象外”だと思ってるくだりに唖然。戦時下に軍事研究してれば攻撃対象になりうると思うんですが、世間の捉え方はちがうんでしょうか……。
心から楽しむことはできませんでした。
茜沢圭は、私立探偵。交通事故で妻子を失い刑事を辞職した過去を持つ。
茜沢の元に、松浦武三という老人が依頼を持ちこんだ。余命宣告を受け、民間ホスピスに入っている松浦は、元は極道。堅気になって事業に成功し一財産築いたが、跡取りはいない。
実は松浦には、35年前、見ず知らずの女性に託した息子がいた。茜沢が依頼されたのは、その息子捜し。生きていれば、茜沢と同じ35歳。茜沢は、古く少ない情報を元に、松浦の息子をひきとった女性を捜し始める。
松浦に茜沢を紹介したのは、警視庁捜査一課二係の真田警部だった。茜沢のかつての上司だ。さらに真田は、迷宮入りとなった3年前の西葛西会社経営者夫妻刺殺事件の新たな情報をもたらす。この事件の犯人こそ、茜沢の妻子をひき殺した人物なのだ。
事件の有力容疑者だったのは、被害者の息子である駒井昭伸。被害者のつかんでいた犯人のものと思われる毛髪のDNA鑑定が行われたが、駒井は己のDNA提供を拒否。駒井は当時、保守系無所属で区議選に立候補しており、捜査に圧力もあった。警察はやむなく、両親のDNAから、毛髪の持ち主が息子である可能性を調べたが、赤の他人のものであることが分かっただけだった。
その後駒井は、区議選には落選したが、親の莫大な遺産を相続し、羽振りのいい生活を続けている。駒井が実子でない証拠がない以上、彼を容疑者とすることはできない。たとえ心証では犯人でも、警察は駒井をマークすることができないのだ。
茜沢は真田に、松浦の件で情報収集をするついでに、地理的に近い駒井の動向をさぐって欲しいと頼まれる。茜沢は、頼まれずともやりたいところ。二つ返事で引き受け、平行して調査を行うが……。
良質なミステリィ。松浦の息子捜しと、駒井の動きと、平行して進むので、二つの出来事はやがて一つにつながるだろうと、考えながら読んでました。でも、作者はその上をいっていた……。
まいった。
サントリーミステリー大賞&読者賞を同時に受賞というのも、うなづけます。
エリザベス・バトラーは、カリフォルニア大学講師にして、野外考古学者。同業の学者からは通俗的と敬遠されているが、大衆紙に好まれているわけでもない。今は、スペインのメリダ郊外にあるマヤ遺跡ジビルチャルトゥンで、フィールドワークに入っている。
エリザベスには過去が見えた。幽霊のように、過去に生きた人たちを見ることができるのだ。ジビルチャルトゥンでも、それは変わらない。しかし、いつものように過去の幽霊たちを眺めていると、影の一人がはなしかけてきた。幽霊との会話など、はじめてのことだ。
影の名前は、スーイー・カーク。後世に神格化されたマヤ貴族の女。スーイー・カークはエリザベスに古代の謎かけをし、エリザベスは見事に合格する。
友として認められたエリザベスはスーイー・カークに、自身が隠したと語る“秘密”の在処を教えられた。それは、積まれた灌木におおわれた石の向こう側。発掘が行われ、中からは大きな人頭石が発見された。それはまぎれもなくスーイー・カークそのもの。そして、それがすべてではなかった。
スーイー・カークの語る“秘密”とは?
ダイアン・バトラーは、エリザベスの娘。両親は離婚し、父親に育てられていた。父は、ダイアンがエリザベスに会うことを嫌い、会わせようとしなかった。そのためにダイアンは、母という人がよくわからない。
その父がなくなり、ダイアンはエリザベスの元へと向かう。なんとか受け入れられ、ジビルチャルトゥンで発掘作業を手伝うことになるが……。
淡々と進む文学的作品。お互いにどう接すればいいのかわからない、エリザベスとダイアンの母娘関係が、読みどころ。二人の視点とエリザベスの著作物とか、十分な長さをもって入れ替わり立ち代わり現れます。
エリザベスには過去の幽霊が見えますが、それは本人だけの秘密。そのために、行動がちょっとふつうではないと思われています。特に、スーイー・カークと出会ってからは、端から見ればマヤ語で一人言をしゃべるおかしな女。でも、ダイアンは母の頭がおかしいなんて認めたくない。
この二人が巻きこまれるのは、廻る暦の運命。マヤ文明についてそれほど知っているわけではありませんが、楽しめました。
《宇宙都市》シリーズ(全四巻/『宇宙零年』『星屑のかなたへ』『地球人よ、故郷に還れ』『時の凱歌』)の第一巻。
ブリス・ワゴナー上院議員は、両院合同宇宙飛行管理委員長。FBIのマッキナリーにマークされていた。それを承知の上で、アメリカ科学振興会のジューセッピ・コーシ博士に面会する。
アメリカ科学振興会は、ワシントンでは〈左翼のAAAS〉と呼ばれている。コーシとの接触はワゴナーの政治生命にかかわる行動だったが、それ以上に科学の停滞に頭を悩ませていたのだ。
コーシとの会談をヒントにして、ワゴナーはある発明に目をつける。その結果生まれたのが、木星の〈橋〉だった。〈橋〉の建設は極秘プロジェクト。その目的を知るものはいない。ただ、軍事目的だろうと憶測されているのみ。
木星の〈橋〉は、木星第五衛星より機械を遠隔操作することで建設されている。主任のロバート・ヘルマスは、心理改造を受け働いていたが、〈橋〉の存在には不信感を募らせていた。そのために、悪夢にうなされる日を送る。
〈橋〉の真の目的とは?
シリーズ第一巻だからか、どうも大長編の導入部のような印象。この巻では、シリーズの胆であるスピンディジーが発明されます。そのスピンディジーとはいったい? まぁ、それがこの物語の結末なので、詳しいことは次巻以降にて。