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2005年の記録
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このページの本たち
つぎの岩につづく』R・A・ラファティ
天翔ける十字軍』ポール・アンダースン
渇きの海』アーサー・C・クラーク
サイオン』ジョーン・D・ヴィンジ
闇よ、つどえ!』フリッツ・ライバー
 
ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』カート・ヴォネガット・ジュニア
いまひとたびの生』ロバート・シルヴァーバーグ
ヒューマン −人類−』ロバート・J・ソウヤー
スターバースト』ジェフリー・K・カーヴァー
太陽系辺境空域』ラリイ・ニーヴン

 
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2005年06月18日
R・A・ラファティ(浅倉久志/伊藤典夫/訳)
『つぎの岩につづく』ハヤカワ文庫SF

「レインバード」
 ヒグストン・レインバードは、20歳で発明家になる決心を固める。実際、天才ではあったが、ものになる発明だけにとりくんだわけでもなかった。65年後、レインバードは時間遡航機を生み出し、効率的な人生を求めて20歳の自分に忠告をするが……。

「クロコダイルとアリゲーターよ、クレム」
 クレム・クレンデニングは、腕利きのセールスマン。出先で、チェックインしたホテルがきちんとした仕事をしているか確かめるため、自分に電話をかけた。そこで予期せぬことが起こる。あろうことか、電話に自分が出てきたのだ。クレムはもう一人の自分から逃げ出すが……。

「つぎの岩につづく」
 ある遺跡に、考古学者からなる5人の男女がやってきた。彼らはキャンプを張り調査に励むが、遺跡には予期せぬものが埋まっていた。石に彫られた絵文字の内容は、まるでラブレター。しかも、最後は“つづく”で終わっていたのだ。そのつづきが彫られた石も“つづく”で締めくくられていて……。

「むかしアラネアで」
 アラネアは、通称・蜘蛛のアステロイド。調査隊の一員スカーブルは、犬のキュオンと共にアラネアに降り立つ。ピクニック気分に浸るが、原住生物である蜘蛛族たちに襲われてしまい……。

「テキサス州ソドムとゴモラ」
 マヌエルは、国勢調査員。学識はなく、受け持ち地域に小さな人たちが住んでいるのを知っていた。マヌエルは、彼らも調査しなければならないと思い、でかけていくが……。

「金の斑入りの目をもつ男」
 世界は、6人の男に支配されていた。そのうちの4人が行方不明になる事件が起こる。その行方はようとして知れない。重要参考人とされているのが、彼らに最後に会った男、青い目に金色の斑がおどっているヘイコックだった。残る2人の内の一人、アムホルツは、ヘイコックの訪問を受けるが……。

「問答無量」
 IDTプロジェクトは、宇宙からの声に耳を傾けていた。成果はない。完全に行き詰まっていた。リーダーのスミルノフは、人と話すのが大好きなエナージンに希望を託す。エナージンは嬉々として、送信機に向かって話し始める。まるで、交際相手募集クラブで語るように。

「超絶の虎」
 カーナディン・トンプスンは、7歳の誕生日に赤い帽子をもらった。誰からのプレゼントなのか、大人たちさえ分からない帽子だ。カーナディンは精霊の贈り物だと主張し、それ以降、不可思議なことをしでかしていく。そして、秘密結社ベンガル・タイガー団を結成し……。

「豊穣世界」
 惑星アフソニアは、別名を豊穣世界。そこは、とほうもなく気前のいい肥沃な土地。しかし、過去に20数回送り込まれた調査隊は、そのうちの5人の隊長が語った『信じてもらえるはずがない』の言葉以上の説明をしようとはしなかった。そのために、今また7人の男女が調査に赴くが……。

 その他、 「夢」「ブリキ缶に乗って」「アロイス」「完全無欠な貴橄欖石」「太古の殻にくるまれて」「みにくい海」「断崖が笑った」を収録。

 ラファティといえば“法螺話”の名手。アイデアもさることながら、語り口がおもしろく、でたらめぶりが楽しい一冊です。ただし、前半と後半で趣が変わります。すべてを同じように楽しめるわけではないのが、短編集の哀しいさが。


 
 
 
 
2005年06月20日
ポール・アンダースン(豊田有恒/訳)
『天翔ける十字軍』ハヤカワ文庫SF

 西暦1345年。
 時代は、断続的に行われる100年戦争のただ中。現在、イギリス国王エドワード三世はフランスの王位継承権を主張し、長男と共にフランスに滞在しているところだ。
 イギリスの男爵ロジャー卿はフランスに馳せ参じるため、準備の真っ最中。そこへ、巨大な飛船が天より降りてくる。その飛船から現れたのは、紺青色の肌を持つ、悪魔のような生物だった。
 彼らの目的は、侵略。
 突然攻撃され、ロジャー卿はたちあがった。軍備が整えられていたこともあり、全軍が船になだれこみ制圧してしまう。侵略者たちを、唯一の捕虜を残して全滅させたのだ。
 彼らは、異星のワースゴル人。捕虜の名前はブラニザー。天動説が信じられている時代にあって、ブラニザーのはなすことは信じがたいことばかり。
 ロジャー卿は、威圧的な巨大な飛船を利用することを思いつく。騎士たちの家族をも乗せる余裕があるし、フランス人たちの度肝を抜いてやろうと考えたのだ。
 計画は実行されるが、ブラニザーの計略にかかり、とんでもないことが起こってしまう。フランスへと向かう前に船の自動操縦が起動し、地球を後に、サリクソン星へと旅立ってしまったのだ。サリクソン星は、数々の世界を征服してきたワースゴル人たちの前哨基地。絶体絶命の窮地に立たされたロジャー卿は、配下の者たちを説得し、サリクソン星を舞台に聖戦を行うが……。

 ロジャー卿に仕えるパーブス神父によって書かれた手記、という形で物語は展開します。その手記を読んでいるものは? かなりむちゃくちゃですけれど、そのむちゃくちゃぶりが壮快。疑問がないわけではないですがね。


 
 
 
 
2005年06月22日
アーサー・C・クラーク(深町眞理子/訳)
『渇きの海』ハヤカワ文庫SF235

 パット・ハリスは、月で唯一の遊覧船〈セレーネ〉号の船長。ガイドのスー・ウィルキンズと共に、観光客に月を堪能させている。
 船が走るのは、塵をたたえている〈渇きの海〉だ。その旅は、だいたい4時間ほど。“海”に囲まれたインアクセシビリティ山脈にある〈火山湖〉を訪れ……。予期せぬ月震のために、〈セレーネ〉号は、塵の海に沈んでしまった。
 幸いにも、22名の乗員乗客は全員無事。ところが、通信手段が奪われてしまっていた。ハリスが発した救難信号はどこにも届かない。月の塵は金属分を多量に含有し、電波も音波も通しはしない。完璧な遮蔽物なのだ。
 船には、偉大な宇宙探検家ハンスティーン提督が乗り合わせていた。提督はハリスをたてつつ、なんの訓練も受けていない乗客たちをパニックから遠ざけようと奮闘する。
 一方、月の交通管制所では、〈セレーネ〉号の自動ビーコンが途絶えたために異常事態をつかんではいた。しかし、連絡がとれないために、状況がまったく分からない。
 ロバート・ローレンスはアースサイド担当の技術部長。〈セレーネ〉号の捜索を指示するが、観測所より月震の報告を得、最悪の事態を覚悟していた。彼らは山崩れに遭ってしまったのだろう、と。そこへ、人工衛星から月を走査した物理学者トマス・ローソン博士から一報が入る。
 ローソン博士が赤外線操作機で調べた結果、〈セレーネ〉号のものと思われる軌道が見つかったのだ。それは〈渇きの海〉でふつりと途切れていた。まだ絶望的な状況ではない。彼らは、塵の海に沈んでいるのだ。
 ローレンスの指揮のもと、救助活動が始められる。が、遭難地点への物資の輸送は、2人乗りのダスト・スキーだけ。
 遭難者たちは救出されるのか? 

 たてつづけに襲ってくる危機また危機の連続。塵に埋もれてしまったがためにおこる現象は、通信不能だけではなく……。
 狭い空間に閉じこめられ、必至に生き延びようとする遭難者たちの人間ドラマ。彼らを救おうと奮闘する者たち。そして、この世紀の大事件を追いかけるジャーナリスト。ほどよいバランスで物語はすすんでいきます。
 名作です。


 
 
 
 
2005年06月23日
ジョーン・D・ヴィンジ(宇野利泰/訳)
『サイオン』ハヤカワ文庫SF

 惑星アルダッテーの首都クァロ。クァロのオールドシティで暮らすキャットは、自分の名前さえ知らない孤児。猫のそれに似た緑の目を持っているために、キャットと呼ばれていた。
 キャットはスリとして生きてきたが、労務者徴募局員に目をつけられてしまう。逃走するものの、徴募局員に暴力をふるったかどで公安警察局員に捕まってしまった。
 キャットは〈超能力開発プロジェクト〉への応募を条件に、仮釈放を提示される。同意するとサカフェ研究所につれていかれるが、自身が超能力者(サイオン)であるとは思ってもいない。サイオンには“できそこない”の評価しかなく、キャットもそう考えていたからだ。
 サカフェ研究所は、サイオンの能力開発だけでなく、強力で危険なサイオン“クイックシルヴァー”をおびき寄せるために設立された。“クイックシルヴァー”は、カニ星雲植民区域で進行中の陰謀にかかわり、スパイとなるサイオンを欲しているらしい。カニ星雲植民区域は、重要な鉱物テルハシウムの供給源。クァロ特別自治区の公安警察は、特別な関心を持っているのだ。
 キャットは、サカフェ研究所の所長アルダン・ジーベリンク博士によって採用される。サイオンの能力は、ヒドラ座ベータ星からやってきたヒドラ人との混血児や、その子孫たちにあらわれる。キャットの持つ緑の目や顔立ちは、ヒドラ人のそれだった。キャットは、他人の心を読み取る能力を秘めていたのだ。キャットは研究所で寝起きし、テレパスとしての訓練を受けることになる。
 ジーベリンク博士は、キャットに特別な感情を抱いていた。生き別れとなってしまった息子が生きていれば、キャットと同じくらいの年頃……。ジーベリンク博士は、キャットの悲惨な境遇を息子に当てはめたくないばかりに、キャットを憎悪する。ついには、研究所から追い出してしまった。
 研究所をでたキャットは、公安警察に捕らえられ、奴隷章を付されてしまう。強制労務者として送り込まれたのは、惑星シンダー。カニ星雲にあり、テルハシウムを供給している星だった。

 世界設定が複雑なら、人間関係もまた……。味方は? 敵は? スパイは? かなり混乱しながら読んでました。ありきたりの超能力者ものにはしたくなかった、という結果の複雑さなのか、これがヴィンジ流なのか……。


 
 
 
 
2005年06月24日
フリッツ・ライバー(風見 潤/訳)
『闇よ、つどえ!』ハヤカワ文庫SF

 人類は黄金時代を迎えた。その一方で科学者たちは、人類が野蛮と無知に戻りつつあると、危機感を強めていた。彼らは、宗教を装い科学で武装した聖職位階制政権を誕生させる。
 こうして、巨神紀がはじまった。
 ジャールズ会士は聖職政権の第一サークルに所属している僧侶。僧侶たちは、ありとあらゆる特権階級を手中におさめている。その底辺に入ったジャールズが最初に教わったのは、巨神の全否定だった。
 一般の人々は俗衆と呼ばれ、巨神の教えを施され、野蛮なままにおかれている。かつて懸念された野蛮化は阻止されたが、それは野蛮化された状態のままとどめられたにすぎない。ジャールズはそんな状況に疑問を抱いていた。
 ジャールズは、第二サークルのチュリアン介士と共に、メガセオポリスでの作業割当を行っていた。その最中、俗衆の列に並ぶシャールソン・ノーリャを見つけだす。ノーリャは、ジャールズと俗衆とをつなぐ絆。ジャールズにとって特別な存在だった。
 チュリアン会士がノーリャを魔女として糾弾したことがきっかけとなり、ジャールズは政権に反旗を翻らせる。俗衆たちを相手に聖職政権を批判し、真相を暴露したのだ。
 ジャールズは捕らえられそうになるが、魔人によって救われた。実は、ノーリャは本当に魔女で、魔人たちの仲間だった。聖職政権に反抗したジャールズだったが、魔人たちの仲間となることも拒否してしまう。さらには、聖職政権の賞金首となり、肉親からも追われることとなるが……。

 巨神が聖職政権がこしらえた虚構なら、その対抗勢力も聖職政権がひねりだしたもの。そこに実態が生まれて……といった感じ。神と悪魔の戦いを科学的に書こうとしたのでしょうが、悪魔側が正義扱いされているだけあって、後味はあんまりよくありませんでした。


 
 
 
 
2005年06月25日
カート・ヴォネガット・ジュニア(浅倉久志/訳)
『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
ハヤカワ文庫SF

 リスター・エイムス・ローズウォーターは、インディアナ州選出の上院議員。ローズウォーター家といえば、全米長者番付の14位になったこともある億万長者だ。
 ローズウォーター上院議員は、ある日、顧問弁護士サーモンド・マッカリスターから素朴な提案を受けた。それは、税金を払わずに資産を息子に渡す方法。そのために設立されたのが、ローズウォーター財団だ。初代総帥は、一人息子のエリオット・ローズウォーター。
 エリオットは、隣人愛に取り憑かれているキじるし。社会の底辺で暮らす人々に、愛情と理解とささやかな金、そしてクスリを与えるのを使命としている。事務所は、とある屋根裏部屋。エリオットは、財団専用の黒い電話をとると、こう告げる。
「ローズウォーター財団です。なにかお力になれることは?」
 財団の基本定款には、精神異常と判定された場合の除名条項があった。そこに目をつけたのが、ノーマン・ムシャリ。マッカリスターの元で働く若手弁護士だ。エリオットが除名されれば、総裁の座はまたいとこの手に渡る。その男の代理人となり一財産稼ぐのがムシャリの野望となった。
 エリオットのまたいとこは、ロードアイランド州のフレッド・ローズウォーター。ローズウォーター姓ではあるが、インディアナ州のローズウォーターと縁つづきであるなどとはまったく知らない。フレッドは、哀れな陰気くさい、しがない生命保険の勧誘員だった。
 フレッドの存在も、ムシャリの野望も、予測すらしていないエリオットは今日も隣人愛をふりまくが……。

 エリオットの奇怪な行動と、それに振り回される周囲の人々、そしてムシャリの欲望が織りなす物語。
 読み始めたときには、ムシャリの野望が焦点かな、と思ったのですが、ムシャリがフレッドに接触して訴訟を起こすのは終盤になってから。エリオットの過去が積みあげられていく展開でした。
 おもしろくないわけじゃないんですけど、ちょっと物足りない……。


 
 
 
 
2005年06月26日
ロバート・シルヴァーバーグ(佐藤高子/訳)
『いまひとたびの生』ハヤカワ文庫SF

 ジョン・ローディティスは、実業家。成り上りものであることは自身も承知している。そのために欲したのが、今は亡き財界の大物ポール・カフマンのパーソナだった。
 この時代、人類はパーソナ移植を手に入れていた。生前に記録された人格を、死後、他人の頭の中で復活させるのだ。宿主(ホスト)は、その記憶や知識や感性を自分のものとすることが可能となる。ただし、パーソナの中には強い個性を持つものも……。パーソナは従順なペットではない。御しきれずに身体を乗っ取られてしまうこともあるのだ。
 ローディティスの片腕、チャールズ・ノーイエスは、パーソナに手を焼いている者の一人。ノーイエスの頭の中にいるクラヴチェンコは、ノーイエスの隙をうかがい、その身体を乗っ取ろうと画策している。
 生前のクラヴチェンコと恋人だったのが、エレナ・ヴォルテッラ。現在は、マーク・カフマンの愛人だ。エレナは、ローディティスに興味をいだいていた。その歓心をかおうと、ノーイエスに接近する。たとえそれがマークを裏切ることになろうとも……。
 マーク・カフマンは、ポールの甥にして後継者。ローディティスにポールのパーソナを奪われまいと、やっきになっている。自身に移植してもらうのが希望だが、血族法により、それは不可能。そこで、バーソナを管理しているソウル・バンクの理事長に働きかけるが……。
 時期を同じくして、マークの娘ライサは、はじめてのパーソナ移植を迎えようとしていた。ところが、マークに移植失敗経験があるため、いなされてしまう。ライサはまだ16歳。移植には親の同意が不可欠だ。
 ライサはマークを脅かし、同意を得ることに成功する。意気揚々とソウル・バンクに向かったライサ。選んだのは、24歳で事故死したタンディ・カッシングだった。
 タンディは、自分が殺されたのではないかと、ライサに訴える。交際していた2人の男の内、どちらかが犯人なのではないか?
 ライサは調査を開始するが……。

 別の方角に向かっていたマークとライサの親子が、一本につながる絶妙さ。かつては富裕層だったノーイエスと、対極的に自分の力で財を築いたローディティス。男たちとは別次元に生きているエレナ。それぞれの持ち味がうまく溶け合った快作。
 楽しめました。


 
 
 
 
2005年07月10日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『ヒューマン −人類−』ハヤカワ文庫SF

 ネアンデルタール・パララックス三部作の第二巻。(第一巻は『ホミニッド −原人−』)
 メアリ・ヴォーンは、トロントはヨーク大学の教授。この世界に突如現れ、そして去っていったポンター・ボディットが、まぎれもなくネアンデルタール人であることをDNAから証明した。
 メアリはポンターに惹かれていたが、ある“事件”で心に深い傷を負って臆病になっており、後悔ばかりが残る結果に。そんなメアリの元に、シナジー・グループのディレクターを名乗るJ・K・クリーガー博士が接触してくる。
 シナジー・グループは、合衆国政府のシンクタンク。メアリは、ネアンデルタールとグリクシン(クロマニヨンの子孫たち)との確実な判別法を捜す依頼を受ける。約束された多額の報酬。そしてなにより“事件”の舞台である大学を離れられることを喜ぶメアリ。クリーガー博士に不信感を覚えるものの、申し出を受け入れる。
 メアリは、オンタリオ湖畔にあるグループの施設で仕事に取りかかった。
 二つの種族の相違点とは?
 まもなくメアリの元に、二つの世界をつなぐ門が復活したニュースがもたらされる。前回は、量子コンピュータの実験中の偶然の出来事だったが、今回は計画されたもの。二つの世界の交流のために、大使トゥカナ・プラットとポンター・ボディットが送りこまれてきたのだ。
 メアリとポンターは再会を果たすが、ネアンデルタール人たちは何者かに銃撃されてしまった。傷を負ったポンター。難を逃れた大使トゥカナは犯人を追いつめ、殺してしまう。
 交流はうまくいくのか?

 主題は、二つの文化の価値観の相違。それは狩猟民族と農耕民族のちがい。神を信じているメアリと、その概念が理解できないポンター。宇宙の誕生にまつわる科学的な解釈のちがい。それらの“ちがい”が際立ちます。
 ほんのちょっぴりでてくる地磁気の異変や、暗躍しそうなクリーガー博士の存在は、最終巻で大きくなりそうな感じ。そして、大使失格の烙印を押されて開き直ったトゥカナに活躍の場はあるのか?
 このシリーズの評価は、最終巻を読むまではなんとも……。


 
 
 
 
2005年07月16日
ジェフリー・K・カーヴァー(小隅 黎/梶元靖子/訳)
『スターバースト』ハヤカワ文庫SF

 ウィラード・ラスキンは、自分がだれとも分からぬままに目覚めた。胸が焼けつくように痛み、身体には穴。
 起き上がったラスキンは、何者かによってふたたび狙撃されてしまう。頭の半分が吹き飛ばされるが、ふたたび再生し、死には至らなかった。しかし記憶はなく、ここがどこなのか、なぜ命を狙われるのか、なぜ死なないのかは見当もつかない。
 暗殺者が去ったのち、ラスキンは歩き出した。やがて山小屋へとたどりつき、ロボットの出迎えを受ける。そのロボットにはジーヴスと名がついていることを思い出すものの、それ以上は分からない。ラスキンは平常を装い、同じく宿泊していたスタンリー・ブローダーとイレックス・ゴルミンスキーに接する。
 実は、殺し屋ガンズを雇ったのはブローダーとゴルミンスキー。ジーヴスも一枚かんでいる。彼らはラスキンになにが起こったのか知っているが、ラスキンの現状が自分たちの意に添うものかどうかは判断しかねている。
 この時代、宇宙では自由貿易主義のオーリクル連盟と、異種族間連盟タンデスコ三位一体制の政治紛争が勃発していた。
 オーリクル連盟に所属するステーション〈スターミューズ〉が、恒星ベテルギウスにある。そこで密かに進められている〈ブレークスター〉プロジェクトでは、ラスキンがやってくるのを首を長くして待っていた。ラスキンが記憶喪失に陥っていることなど知る由もない。
 ラスキンが自宅へと帰ると、トンカドロ・アリ=マクサム(マックス)が待っていた。蛇人のマックスは、感応者。ラスキンはマックスを信用することに決め、彼に助けを求める。ラスキンは記憶をなくしただけではなかった。ときに意識がなくなり、その間、自分がなにをしているのか、まったく分からないのだ。
 マックスは、エ=リク・ダクスターに助力を求めた。ダクスターは、サイバー意識体。ラスキンがNAG(ナノエージェント)に感染していることを突きとめる。まずは、その動きを監視し目的を探らなければならない。
 ラスキンは、ダクスターによって作られた新たなNAGを受け入れ、問題解決を計るが……。
 ラスキンの記憶は戻るのか?
 〈ブレークスター〉プロジェクトとは?

 ラスキンと共になにも分からないままスタートして、徐々に見えてくる世界の構図。見えてくるといっても、複雑すぎていまでもよく分かってないのですが……。
 タンデスコって? カンタノって? オーリクルって? クェレインって?
 もっと、ゆっくりじっくりきちんと読めば理解できたのか、やや心残り。


 
 
 
 
2005年07月17日
ラリイ・ニーヴン(小隅 黎/訳)
『太陽系辺境空域』ハヤカワ文庫SF

「いちばん寒い場所」
 処女作。ハーウィーは、事故のために宇宙船となったエリックと共に、水星の調査に赴いた。2年前に探測機メッセンジャー6号がとらえた影は、生物なのか?

「地獄で立往生」
 ハーウィーと宇宙船のエリックは、金星の調査を行っていた。データをとり、いざ帰還というそのとき、エリックのラムジェットの制御機構に異常が発生。発進できなくなってしまう。

「待ちぼうけ」
 ジェロームと“わたし”は冥王星に降りたが、着陸船が氷層の中にとらえられ、飛び立てなくなってしまった。一番近くにいる仲間は、帰還船のサミイただ一人。しかし、帰還船は冥王星に降りられないのだ。

「並行進化」
 ヘンリーとクリストファーは火星で井戸を見つける。ついに知的生命体の痕跡を発見したのだ。井戸はおそろしく硬く、スチール合金のハンマーが壊れてしまった。この井戸の使用目的とは?

「英雄たちの死」
 火星バブルタウンに裂け目を作り、カーターはマースバギーで逃走した。追ってくるのは、アルフ。アルフは、カーターが殺したルーとは兄弟だ。カーターの犯罪の理由とは?

「ジグソー・マン」
 ルーは、犯した犯罪のために監房に入れられていた。自分は死刑になるほどの犯罪を犯したのか? ルーは脱走を企てるが……。

「穴の底の記録」
 マラーは、密輸を企てるが失敗し、火星へと逃げ込んだ。燃料タンクは破損し、生き残るために、70年前に撤去された古い基地を訪れる。このバブルタウンが放棄された理由とは?

「詐欺計画罪」
 レストラン〈赤い惑星〉で、ルーカス・ガーナーはロイド・マスニーに、全自動レストラン一号店での逸話を披露する。そこでは、調理場も受付嬢もすべて機械。ルーカスは、ロボット給仕に食事を注文するが、なぜか前菜が何度も運ばれてきて……。

「無政府公園にて」
 キングス・フリー・パークでの唯一の法律は、暴力禁止。その他はなにをしても可。パークでは、監視アイが頭上を飛び回り、人々を監視している。ロナルド・コールは、芸術家で発明家。パークじゅうの監視アイを無効化し、完全な自由を手にするが……。

「戦士たち」
 人類と、好戦的なクジン族が、宇宙ではじめて接触した。クジン族の艦長は、彼らの母星をクジン領とし、征討軍指揮官となって富を手に入れる自分を夢見るが……。

「太陽系辺境空域」
 太陽系の辺境では、船の消失事件が相次いでいた。ペーオウルフ・シェイファーは、親友のカルロス・ウー、異星局のシグムンド・アウスファラーと共に、調査に赴く。船はハイパードライブに入ったとたんに、消え失せてしまうのだが、その秘密とは?

「退き潮」
 ルイス・ウーは地球によく似た星を発見した。月はなく、代わりにディープ・レーダーに映った黒いしみが……。ついにスレイヴァー人の停滞ボックスを発見したのだ。喜び勇んで接近するルイス・ウーだったが、そこへ、未知の種族が現れて……。

「安全欠陥車」
 僻地マーグレイヴで“わたし”は、車ごと、巨大なロック鳥に飲み込まれてしまった。ロック鳥は死んだが、ロック鳥の胴体にさえぎられて無線も緊急火焔信号も使うことができず……。

 《ノウンスペース》の関連短編集。序文とあとがき、シリーズ年表も収録。
 スポット的に、各年代のエピソードが紹介される……といった感じ。単独ではなく、他の本も含めた集合で楽しむ本なのでしょう。そこが、おもしろくもあり、つまらなくもあり。

 
 

 
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