航本日誌 width=

 
2005年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 10/現在地
 11
 12
 
このページの本たち
天空の秘宝』ウィリアム・C・ディーツ
4000億の星の群れ』ポール・J・マコーリイ
マジック・キングダムで落ちぶれて』コリイ・ドクトロウ
銀河のさすらいびと』キース・ローマー
最終戦争』今日泊亜蘭
 
銀河ヒッチハイク・ガイド』ダグラス・アダムス
宇宙の果てのレストラン』ダグラス・アダムス
太陽の王と月の妖獣』ヴォンダ・N・マッキンタイア
猫のゆりかご』カート・ヴォネガット
青ひげ』カート・ヴォネガット・ジュニア

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 
2005年>09月02日
ウィリアム・C・ディーツ(斎藤伯好/訳)
『天空の秘宝』ハヤカワ文庫SF

 サム・マッケイドは、認可を受けた賞金稼ぎ。目下、地球帝国皇帝の姪を死に追いやった男を追跡中だ。男の名は、カディエン。同業者が脱落する中、マッケイドはついにカディエンが〈ピンク・アステロイド〉にいることをつきとめる。
 カディエンの首に懸けられた賞金は、百万帝国クレジット。それだけあれば、マッケイドの夢である自分の航宙船を持つことも可能だ。マッケイドは酒場で、カディエンをまんまと仕留める。しかし、自身も負傷し気を失ってしまった。
 マッケイドが気がついたとき、地球帝国航宙軍に身柄を拘束されていた。マッケイドはかつて、帝国航宙軍の兵士だったことがある。上官の命令に背いた廉で不名誉除隊となり、賞金稼ぎへと転身したのだ。マッケイドは多大な報酬を提示され、ある軍人を捜し出すことに……。
 行方をくらましているのは、イアン・ブリッジャー大佐。かつてマッケイドを不名誉除隊へと追い込んだ人物だった。
 ブリッジャーは、超古代種族が遺した遺跡惑星へとたびたび足を運んでいる。ブリッジャーは彼らの文字を解読し、軍事的秘宝を発見したらしい。そして、姿を消した。
 ブリッジャーは宙賊を憎んでいた。地球帝国の宙賊の扱いに不満を募らせ、そのために出世コースからも外れる始末。もし万一、宙賊を一掃するために、ブリッジャーが秘宝を地球と敵対するイル・ローン人たちに渡してしまったら?
 マッケイドは、ローレン・ロウ大尉、エイモス・ヴァン・ドレン伍長と共に、ブリッジャー探索に旅たつが……。

 設定では、サム・マッケイドは凄腕の賞金稼ぎ。なぜただの賞金稼ぎじゃいけなかったのか、考えてしまいました。どうも凄腕ぶりがうかがえなくって。結末を知った後では、街のチンピラの方がすっきりまとまった気も……。
 あるエピソードが別件とつながっていたり、構成だけを見ると錬られてはいます。が、その枠組みにはまるように登場人物たちを動かしているような印象。ちと物足りない。


 
 
 
 
2005年09月03日
ポール・J・マコーリイ(嶋田洋一/訳)
『4000億の星の群れ』ハヤカワ文庫SF

 人類は超光速航法の開発により、版図を拡大しつつあった。しかし、宇宙は人類だけのものではなかった。赤色矮星をめぐる小惑星帯で、攻撃を受けてしまったのだ。
 敵の正体は分からない。人類は、彼らの死体すら手に入れることができずにいた。そんな最中、さらに別の赤色矮星系で、ある惑星が発見される。生息しているのは、他の星で進化したとしか考えられない動植物たち。そして、主星に近いために自転など起こりえないはずが、朝と夜が存在していた。
 軍部はこの惑星を、敵が遺棄した植民惑星ではないかと考えていた。
 ドーシー・ヨシダは、感応能力者。軍部の依頼で、惑星プスルスンへと送り込まれた。その〈能力〉をもって、謎の解明へと挑もうというのだ。
 ドーシーのような能力者たちは普段、その〈能力〉をインプラントによって抑えている。ところが、惑星に降下する前に投与された鎮静剤がインプラントに作用してしまった。ドーシーの解放された〈能力〉がとらえたのは、明るく輝く何者かの存在。それは人間ではない。
 光の正体は?
 それが敵なのか?
 ドーシーは、惑星プスルスンで遠征隊を指揮するダンカン・アンドルーズに、ある生物の心を読むことを求められる。アンドルーズは、彼ら〈平原の牧夫〉が敵のなれの果てではないかと考えていた。
 ドーシーは、牧夫の心を読むが……。

 主役のドーシー・ヨシダがとても嫌なタイプの女。性格がよくなっていく成長物語だったらまだよかったんですが、そういうわけでもなく、集点は、謎の牧夫たち。もうちょっと好感のもてる主人公だったら……。


 
 
 
 
2005年09月07日
コリイ・ドクトロウ(川副智子/訳)
『マジック・キングダムで落ちぶれて』
ハヤカワ文庫SF

 人類はフリー・エネルギーを実現させ、ハイパーリンクを発達させ、クローン技術を完成させた。それにより到来した〈ビッチャン世界〉は、不死の世界。人々は記憶のバックアップをとり、いざというときに備える。バックアップからの再生は〈ビッチャン世界〉では日常茶飯事。年に何十回と再生する強者がいるくらいだ。
 世界の通貨は〈ウッフィー〉。出会った相手から得られる評価によって増減する。〈ビッチャン世界〉で重要なのは、他人からどう見られているか。
 ジュールズの少年時代からの夢は、ディズニー・ワールド永住だった。現在ジュールズは、恋人リルと共にディズニー・ワールドで暮らしている。運営スタッフの一員として、リバティ・スクエアでクリエイティブな仕事に従事しているのだ。
 リバティ・スクエアの運営スタッフたちは、筋金入りの保守主義者。彼らは、大統領ホール、蒸気船リバティ・ベル号、そしてホーンテッド・マンションを昔ながらの手法で守ってきた。そこへ、北京ディズニー・ランドで大成功をおさめたデブラが乗り込んでくる。デブラがまず携わったのは、カリブの海賊の再建。ジュールズは危機感をつのらせていた。
 ある日、ジュールズの元に親友ダンがやってくる。ダンは伝説の唱道者。しかし、ジュールズの前に現れたダンはうちひしがれ、見る影もなく、〈ウッフィー〉を失っていた。
 ジュールズはダンを迎えてやる。徐々に元気を取り戻すダンに安堵するのもつかの間、ジュールズは何者かに射殺されてしまった。
 ジュールズが死んでから1時間後。運営委員会に、大統領ホールを新装する設計プランが提出される。発案者は、デブラ。あまりのタイミングのよさに、再生したジュールズはデブラを疑いの目で見るが……。

 不死の世界の、ホーンテッド・マンション攻防戦。
 オフラインに陥ってしまうジュールズは、徐々に壊れていきます。それほどまでに守ろうとするホーンテッド・マンションとはなんなのか? そもそも、なぜディズニー・ワールドに永住したがるのか? 東京ディズニー・ランドのホーンテッド・マンションになら入ったことがありますけど、そのくらいじゃこの本を理解することはできないようで……。
 でも、まぁ、世界背景とそれに起因する人々の行動は楽しめました。


 
 
 
 
2005年09月08日
キース・ローマー(伊藤典夫/訳)
『銀河のさすらいびと』ハヤカワ文庫SF

 ビリイ・デンジャーは、日銭に追われる生活の後、ついに浮浪者となってしまった。寒さにふるえ、ある納屋にもぐりこもうとするが、厳重に戸締まりされていてかなわない。ビリイはすぐ近くのサイロに忍びこみ、力つきてしまう。
 ふたたび目覚めたとき、ビリイはサイロだと思ったものの正体を知った。それは、たまたま地球に狩猟を楽しみに来ていた異星人の深宇宙ヨット。しかも、すでに地球を飛び立った後だった。
 ヨットには、所有者デスロイ侯の他、オルフェオ卿、そしてレア姫が同乗していた。デスロイ侯は、ビリイの存在に難色を示す。それに対してオルフェオ卿はビリイをかばい、ビリイは奴隷として生存が許されることに……。
 一行は、惑星〈ガール28〉へと降り立った。ここでも狩猟を楽しむ計画だ。しかし、デスロイ侯とオルフェオ卿が獣に襲われてしまう。ビリイは、亡くなる直前のオルフェオ卿にレア姫を守るように頼まれ、承諾する。
 レア姫は、いかにも貴族然とした、たおやかな娘。生きのびるすべなど知らない。そして、所有者を失ったヨットに入ることもできない。ビリイは、レア姫をつれて惑星探索を行う。二人は、朽ち果てた大型宇宙船を見つけ、なんとか救難信号を出すことに成功した。あとは待つばかり。
 ビリイは、レア姫の故郷ゼリダージュの言葉を習い覚え、そうこうする内、救助される日がやってきた。しかし、奇怪な宇宙船で到来した小人族の目的は、救助ではなかった。ビリイは銃撃され、レア姫は連れ去られてしまう。
 九死に一生を得たビリイは待ち続け、ついに第二の宇宙船を迎えた。船長アンク=ウリルの目的は、礼金をせしめ、遭難宇宙船の部品をサルベージすること。ビリイは、デスロイ侯のヨットを引き渡し、ガール28を後にする。それが、レア姫探索の旅の始まりだった……。

 青年ビリイの波瀾万丈の成長物語。かなり短い期間にいろんなことを成し遂げるビリイ。おかげで、結末近くになってもまだ若い。そこのところは、さすが40年前の作品。
 細々としたことは省いて、滞ることなく、ざくざくと展開されていきます。読んでて気持ちがいいです。


 
 
 
 
2005年09月10日
今日泊亜蘭
『最終戦争』
ハヤカワ文庫JA

 SFショート・ショートおよび短編集。
 表題作「最終戦争」は……
 宇良木俊夫は、取材記者。ベトナム戦争下のサイゴン司令部で異常な緊張を感じ取った宇良木は、ある米軍兵士から、奇怪な事件についての情報を得る。原子力艦〈エンタプライズ〉の核熱装置で、兵士が一人、溶けてしまったというのだ。宇良木は、情報官フラー少佐に突撃取材を試みる。そこには、死んだはずのスターリンからの手紙が届いていた。

 収録作品は、登場順に
 完璧な侵略/次に来るもの/博士の粉砕機/地球は赤かった/ケンの行った昏い国/無限延命長寿法/素晴しい二十世紀/「おゝ、大宇宙!」/スパイ戦線以上有り/恐竜はなぜ死んだか?/完全作家ピュウ太/最後に笑う者/秋夜長SF百物語/宇宙最大のやくざ者/「オイ水をくれ」/何もしない機械/古時機ものがたり/瞑天の客/幻兵団/カシオペヤの女/最終戦争/天気予報/ミッちゃんのギュギュ/怪物/バンタ・レイ

 これだけ収録されると、さすがに同じような展開の作品も……。今日泊亜蘭は、粋な日本語を披露してくれる作家。巧みなカタカナ使いが気持ちいい一冊。


 
 
 
 
2005年09月17日
ダグラス・アダムス(安原和見/訳)
『銀河ヒッチハイク・ガイド』河出文庫

 アーサー・デントは、轟音で目覚めた。バイパス建設のために自宅から立ち退きを要求されていたのだ。アーサーがそのことを知ったのは、つい昨日。アーサーは、抗議のためにブルドーザーの前に横たわる。
 アーサーを訪ねてきた友人フォード・プリーフェクトは、寝転ぶアーサーをパブへと誘った。
 フォードは、ギルフォード生まれの売れない俳優……というのは嘘で、実はペテルギウス人。宇宙的大ベスト・セラー『銀河ヒッチハイク・ガイド』の現地調査員だ。フォードは、ヒッチハイクで地球にやってきて以来、15年もの長きにわたって足止めをくらっていたのだ。
 アーサーがフォードに誘われてから12分後、地球はヴォゴン人たちに破壊された。理由は、銀河ハイウェイ建設のため。アーサーは、フォードのおかげで生き延びる。フォードはヴォゴン人の宇宙船をヒッチハイクしたのだ。しかし、乗船を許したのは被雇用者のデントラシ人。船の主であるヴォゴン人たちは、大のヒッチハイカー嫌い。アーサーたちの存在を知ったヴォゴン人船長によって、2人はエアロックからほっぽり出されてしまった。
 アーサーとフォードは、ふたたびヒッチハイクに成功し、九死に一生を得る。彼らを拾ったのは、無限不可能性ドライブを搭載した〈黄金の心〉号。船を操るのは、船を盗むまで銀河帝国大統領だったゼイフォード・ビーブルブロックス。フォードのはとこだった。
 ゼイフォードが〈黄金の心〉号を奪ったのは、伝説の惑星マグラシアを捜すため。アーサーたちもマグラシアへと赴くことになるが……。

 イギリスのラジオ・ドラマのノベライズ。テレビ・ドラマ化され、映画化もされました。とりあえずのストーリーはあるものの、一貫した物語を期待するよりも、その場その場を楽しむのが正しい読み方でしょう。きちんと終わってないので、つづきは『宇宙の果てのレストラン』で。
 ときどき「ギャラクティカ大百科」や「銀河ヒッチハイク・ガイド」の引用がはさまります。その語り口は、カート・ヴォネガット・ジュニアのよう。ちょっと達観してるかのような……。


 
 
 
 
2005年09月18日
ダグラス・アダムス(安原和見/訳)
『宇宙の果てのレストラン』河出文庫

銀河ヒッチハイク・ガイド』続編。
 アーサー・デントは地球が破壊される寸前、ペテルギウス人フォード・プリーフェクトに助けられた。ヒッチハイクによって乗り込んだのは、無限不可能性ドライブを積んだ〈黄金の心〉号。仲間は、フォードの他に、元・銀河帝国大統領のゼイフォード・ビーブルブロックスと、その恋人のトリリアン。そして、陰気なロボット・マーヴィン。
 地球を破壊したヴォゴン人たちは、その抹殺を企てる精神科医に雇われていた。実は、地球は『究極の問い』を得るために造られた巨大コンピュータ。精神科医は『究極の問い』に脅威を感じていたのだ。答えがでる5分前に地球は破壊されたものの、その答えに近いものはアーサーの頭の中にも……。そのために、アーサーは命を狙われてしまう。
 ヴォゴン人の宇宙船に攻撃され、〈黄金の心〉号は絶体絶命の大ピンチ。ゼイフォードは、交霊術で曾祖父ゼイフォード4世を呼びだし、助けをこう。
 ゼイフォードの脳には、記憶を封印された部分があった。封印したのは、自分自身。それには、ゼイフォード4世も絡んでいた。ゼイフォード4世は、無限不可能性ドライブを積んだ〈黄金の心〉号をある場所に運ぶことがゼイフォードの務めであると語る。ゼイフォード4世は助かるために手を貸してくれるものの、ゼイフォードとマーヴィンはどこかの惑星へと飛ばされてしまった。
 惑星にあるのは、銀河ヒッチハイク・ガイドの本社ビル。ゼイフォードは、〈黄金の心〉号を盗んだためにお尋ね者となっており、銀河ヒッチハイク・ガイド本社ビルもろとも捕まってしまうが……。

 タイトルにもなった、宇宙の果てにあるレストラン〈ミリウェイズ〉は、作品のほんの一部分の要素。前作『銀河ヒッチハイク・ガイド』と同じように最後の最後まで紆余曲折を経ていきます。とはいえ、雰囲気は連続コメディ・ドラマ。深読みもできますけれど、軽い気持ちで楽しみたい一冊。


 
 
 
 
2005年09月19日
ヴォンダ・N・マッキンタイア(幹 遙子/訳)
『太陽の王と月の妖獣』上下巻・ハヤカワ文庫SF

 太陽王ルイ14世治下のフランスはヴェルサイユ。
 マリー=ジョゼフ・ドラクロワは、王弟令嬢エリザベート・シャルロットつきの侍女。生まれたのは植民地のマルティニーク島。礼儀作法がまだ完全には身についていない。
 マリー=ジョゼフは音楽と絵画の才能を持っていたが、関心があるのは科学や数学。島では、自然哲学者の兄・イヴの助手を務めるなどしていた。
 ある日、海の妖獣を捕まえに行っていたイヴが帰ってくる。イヴは、海の妖獣を生け捕りにしていた。その快挙に沸き立つヴェルサイユ。マリー=ジョゼフは、海の妖獣の世話をかってでた。
 マリー=ジョゼフは、世話をするうちに海の妖獣に知性があることに気がつく。そして、その言葉を理解し、イヴや宮廷の人々に彼らも人であると訴える。妖獣の語る物語を翻訳しもするものの、誰も信じようとはしない。
 海の妖獣は、ルイ14世の即位50周年記念の祝宴に供されることになっていた。マリー=ジョゼフは、性別や身分の壁にぶつかりつつ、海の妖獣を助けるために奔走するが……。

 ネビュラ賞受賞作。
 とりあえず歴史改変ものという分野に入るものの、SFらしさはなし。とはいえ、貴族たちの生活ぶりとか、ルイ14世と教会との関係などの政治面とか、背景がきちんとあって、楽しめました。


 
 
 
 
2005年09月21日
カート・ヴォネガット(伊藤典夫/訳)
『猫のゆりかご』
ハヤカワ文庫SF

 ジョーナはフリーランス作家。ある本を執筆するために資料を収集中だ。その本とは『世界が終末をむかえた日』。原爆が広島に投下された日、アメリカの重要人物たちはなにをしていたのか?
 フィーリクス・ハニカー博士は、天才ノーベル賞物理学者。原爆発明の中心人物だ。ジョーナは、博士の遺児たちや周辺の人たちに取材を行う。
 戦時下、海兵隊の将軍がハニカー博士にある依頼をした。それこそが“アイス・ナイン”発明のきっかけ。海兵隊は長年、泥に苦しめられてきた。ぬかるみは進軍のさまたげとなる。持ち運びの苦にならない、小さな丸薬や機械でこの長年の大問題をなんとかできないものか……。
 ハニカー博士が考案したのは、水の分子が違った組みあわさり方をした結晶体。アイス・ナインと名付けられたそれにふれるだけで、水はたちまち固まってしまう。かつての同僚は理論だけで終わったと証言するが、その実、博士はアイス・ナインを完成させていた。
 ハニカー博士の3人の子供たちは、秘密裏にアイス・ナインを3つに分け、それぞれの魔法瓶に入れて保管した。その魔法瓶と共に、博士の長男フランクリンは行方不明中。
 フランクリンの消息は、思わぬところからもたらされた。それは、ニューヨーク・サンデイ・タイムズの特別付録。取り上げられていたのは、プエルトリコ沖のサン・ロレンゾ島。フランクは、サン・ロレンゾ共和国で科学大臣兼進歩大臣を務めていたのだ。
 ジョーナは、別の仕事で、サン・ロレンゾ島へと赴くことになる。旅客機には、博士の遺児たちも乗り合わせていた。魔法瓶に入ったアイス・ナインと共に……。

 語り手である未来のジョーナはボコノン教徒。そのために、ボコノン教の視点で出来事がふりかえられていきます。合間合間に紹介される、開祖ボコノンの言葉。その真面目な不真面目さがおもしろい。


 
 
 
 
2005年10月020日
カート・ヴォネガット・ジュニア(浅倉久志/訳)
『青ひげ』ハヤカワ文庫SF

 ラボー・カラベキアンは、アメリカ人のもと画家。20年連れ添った2番目の妻イーディスはすでに亡く、友人と呼べるのは小説家のポール・スラジンジャーただ一人。もはやいたずら描きをすることもない。
 カラベキアンは71歳になり、自伝を書き始める。そのきっかけとなったのが、サーシ・バーマンとの出会いだった。ミセス・バーマンは、28歳年下の未亡人。カラベキアンのプライベート・ビーチにいたのだが、声をかけたカラベキアンに放った彼女の第一声は、
 ねえ、あなたのご両親はどんな死にかたをしたの?
 カラベキアンはサーシ・バーマンを夕食にさそい、後日後悔することになる。詮索好きなミセス・バーマンが、そのまま屋敷に居候することになってしまったからだ。
 ミセス・バーマンは、亡き夫の伝記を書いているところ。スラジンジャーは11冊の小説を出版したことを鼻にかけ、アマチュア・バーマンを見下す。しかし、ミセス・バーマンは、実はポリー・マディスンという筆名の売れっ子作家だった。
 カラベキアンは、自伝を書くそばからミセス・バーマンに読まれ、批判されてしまう。他にもミセス・バーマンは、敷地内を探索しさまざまなことに首を突っ込んでいく。まだ探検していないのは、かつてアトリエとして使われていた納屋だけ。
 納屋の本来の目的は、ジャガイモの貯蔵。非常に細長く窓がないため、さしものミセス・バーマンも中をのぞき見ることができない。カラベキアンは納屋の扉を厳重に施錠しており、中にあるもののことはスラジンジャーにすら明かしていない。
 カラベキアンは自身を“青ひげ”にたとえ、かつてのアトリエを開かずの間だと主張するが……。

 自伝として書きつづられた過去と、それに対するミセス・バーマンの反応や事件のある現実とをいったりきたり。
 ミセス・バーマンの自由奔放さ。時折挟まるカラベキアンの所感。徐々に重要度が増していく、納屋の秘密。カラベキアンは人々の推測を紹介し、つぶやきます。
 はずれ。
 そういった間の手が絶妙。SFだと思って読むと失敗しますけど。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■