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2006年の記録
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このページの本たち
スペースマン』宇宙SFコレクション
フォックス・ストーン』笹本稜平
重力への挑戦』ハル・クレメント
カエアンの聖衣』バリントン・J・ベイリー
不死鳥の剣』剣と魔法の物語傑作選
 
竜の卵』ロバート・L・フォワード
スタークエイク』ロバート・L・フォワード
影が行く』ホラーSF傑作選
ノヴァ』サミュエル・R・ディレイニー
地球帝国秘密諜報員』ポール・アンダースン

 
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2006年01月01日
宇宙SFコレクション
(伊藤典夫/浅倉久志/編)
レイ・ブラッドベリ/チャールズ・シェフィールド/アーサー・C・クラーク/ポール・アンダースン/レスター・デル・レイ/エドモンド・ハミルトン/ジェイムズ・P・ホーガン/デーモン・ナイト/バリントン・J・ベイリー/フレッド・セイバーヘーゲン/ジョーン・D・ヴィンジ
(都築道夫/酒井昭伸/南山宏/浅倉久志/伊藤典夫/加藤弘一/水鏡子/山田順子/小尾芙佐/訳)
『スペースマン』新潮文庫

 宇宙へと旅立つ人間たちの物語集。刊行は1985年ですが、物語のおもしろさに影響するほどの古さは感じませんでした。各篇に、作品理解に役立つ解説がついてます。

レイ・ブラッドベリ(都築道夫/訳)
「イカルス・モンゴルフィエ・ライト」
 ジェディダイアは、初の月旅行へのロケットに乗りこむ宇宙飛行士。出発前夜、まどろみ、人工の翼で空を飛んだイカルスの、熱気球を発明して飛ばしたモンゴルフィエの、初の動力飛行を成功させたライトたちの夢を見る……。
 幻想的な小作品。何度か読んで、徐々にそのよさがわかってきました。

チャールズ・シェフィールド(酒井昭伸/訳)
「月を盗んだ男」
 宇宙に想いを馳せる若者、レンとゲリー。ロケットの推進剤を考案し、認可申請を行うが、役所の手続きの壁の前に敗退するしかなかった。2人は役人のアドバイスに従い、別の方法で宇宙を目指す。ゲリーは宇宙計画局に入り、そしてレンは……。
 停滞している宇宙開発。それを救うのは? 変わらないレンとゲリーの友情が美しい。

アーサー・C・クラーク(南山 宏/訳)
「だれだ?」
 宇宙ステーション近くで、漂流する実験衛星が発見された。回収ため、宇宙服を着込んででかけるが……。
 事件の真相がはっきり書いてあるわけではないけれど、適切な言い回しでニヤリとさせられました。

アーサー・C・クラーク(南山 宏/訳)
「犬の星」
 わたしは、愛犬ライカの吠え声で目覚めた。しかし、そこは月裏面にある天文台。ライカであるはずはなく……。
 犬好きでなくともキュンときます。

ポール・アンダースン(浅倉久志/訳)
「わが名はジョー」
 木星に降下された人工生命体ジョー。念力者アングルシーは第五衛星にいながら、ジョーの意識に乗り移る。ここのところ思念投射装置のK電子管が破損する事故が続き、地球からコーネリアス博士が呼ばれ……。
 アングルシーの気難しさ、健康体として産まれ事故で脚をなくした男のやるせなさが伝わってくる作品。

レスター・デル・レイ(浅倉久志/訳)
「いこいのみぎわ」
 ジークとメアリーは、老朽した宇宙船ミダス号で運搬の仕事に就く老夫婦。ミダス号のようなイオン推進式のエンジンは、今では、不経済だとしてブロウトーチに取って代わられている。ミダス号はスクラップ寸前。2人は、慈悲から得た最後の仕事でセレスへと向かう。
 徐々に身体の自由がきかなくなってくる哀しさ。手入れさえすればエンジンはまだまだ現役なのに、引退を迫られる哀しさ。人の慈悲に頼らねばならない哀しさ。それらが集結するラスト……。じんわりきます。

エドモンド・ハミルトン(伊藤典夫/訳)
「プロ」
 バーネットは、数々のヒット作をものにしてきたSF作家。このたび息子ダンが宇宙飛行士になり、月へと行くことになった。心配でたまらないバーネットだったが……。
 自分が息子を月旅行に追いやったのではないか? それを気にするSF作家。SF作家だったら、息子の月旅行をうらやましがる可能性もあるかと思いますが、読んでる最中は作家の心理状態に巻き込まれてました。

ジェイムズ・P・ホーガン(加藤弘一/訳)
「かくて光あり」
 テンノクニ建設株式会社の事業総本部長(通称GOD)は、標準IV型宇宙の創造にたずさわることになった。計画はおもしろいものだった。しかし、進均連に反対されてしまう。それをクリアしたのもつかの間、今度は鳥魚省の横槍が入り……。
 天地創造を事業として解釈したら……という作品。人間の存在はすべての動植物にとって公平か?

デーモン・ナイト(伊藤典夫/訳)
「無辺への切符」
 フォークは、火星への貨物船に密航した。火星のゲートから星へ行くために。ゲートは、太古の星間輸送システム。使い方は分かっているが、行き先は分からない。建設したものたちについても分かっていない。フォークはゲートを使うが……。
 短いながらも、壮大なヴィジョンで締めくくられる作品。  

バリントン・J・ベイリー(水鏡子/訳)
「空間の大海に帆をかける船」
 リムは太陽系でもトップ・クラスの物理学者。ところが、素粒子研究所で所長を殴ったがために干されてしまう。今では、海王星の外側の軌道から粒子などを観測をするのが仕事。リムは酒をくらい、観測はさぼりがち。そこへ、謎の物体がやってきた。船のようなのだが、質量がなく、その内部には空間もなかったのだ!
 ベイリーならではの、突拍子もない世界。わたしたちが集合した水を海と認識するように、空間を海ととらえる種族がいたとしたら?

フレッド・セイバーヘーゲン(山田順子/訳)
「バースディ」
 バートは人工睡眠から目覚め、24人の赤ん坊と対面した。船のコンピュータはバートに、異星開拓者の第一世代たちには人間の親がひとり必要だと語るが、バートが起こされるのは、1年に1日だけ。コンピュータは壊れてしまったのか?
 バートが目覚めるたびに1つずつ年を経ている部屋の外の世界。短編ならではのひきしまった展開。結末も冴えてました。

ジョーン・D・ヴィンジ(小尾芙佐/訳)
「鉛の兵隊」
 ニュー・ピレウスの〈鉛の兵隊亭〉を経営するマリスは、サイボーグ。非常にゆっくりとしか歳をとらない。酒場の常連たちは、宇宙を旅する女たち。マリスは、新人乗組員のブランディと親しくなった。ブランディは25年ごとにマリスの元を訪れるが……。
 児童文学「鉛の兵隊」を下敷きにした物語。マリスは鉛の兵隊。ブランディは踊り子。二人に訪れる結末は? 短編集『琥珀のひとみ』には、浅羽莢子/訳による「錫の兵隊」が収められてます。訳者による“ちがい”を容易に楽しめます。


 
 
 
 
2006年01月02日
笹本稜平『フォックス・ストーン』文春文庫

 檜垣耀二は、元傭兵。フランス外人部隊や国際的傭兵カンパニーCACでの経験を基に、セキュリティ・コンサルタント事業で成功をおさめた。ところが、かつての愛人で経理担当の社員・江口響子が週刊誌に内情を暴露したうえ、1億円近く横領。たちまち経営危機に陥ってしまう。檜垣は会社を倒産させ、鬱々とした日々を送ることに……。
 そんなある日、音信不通にしてしまっていた戦友ダグ・ショーニングのもうひとつの顔を知った。それは、天才ジャズ・ピアニスト。しかも、ダグは東京で謎の死を遂げていた。檜垣がそのことを知ったのは、事件から1ヶ月後。その死に疑問を呈した週刊誌の記事だった。
 記事を書いたのは、フリー・ルポライターの芦名彰久。芦名は、死の背景にただならぬものを感じてはいたが、時間も金も限られる中、ダグの経歴に空白期間を作ってしまっていた。その空白の大半、ダグは檜垣と戦場にいたのだ。
 檜垣は、芦名の申し出で共に真相を調べることになった。2人はニューヨークで、ジャズ評論家の秋沢悟に接触する。秋沢は、ダグの幻の遺作を求め足跡を嗅ぎ回っているらしい。しかし、秋沢はダグのことを語る前に銃撃されてしまった。
 これは、警告なのか?
 ダグに関わった人々の周囲を、怪しい2人組がうろつく。ダグのマネージャーだったシド・グリフィスは殺され、ダグの養女マーサ・モンゴメリーは姿をくらました。ダグの母の居場所はつかめない。
 ダグは他殺か、自殺か。
 事件の背後にうごめくものとは?

 事件の謎を追ううちに、いろんなことが明らかにされていきます。ダグのライブ演奏に記録された乱入者との謎のやりとり。虐殺現場にたたずむダグの写真。秋沢が取締役をつとめる鉱山業アキントラの株主には、ダグの母の名が……。
 入り乱れる、人物と会社と組織とエピソード。少々混乱はしましたが、それらが見事にまとまるラストは圧巻。


 
 
 
 
2006年01月03日
ハル・クレメント(井上 勇/訳)
『重力への挑戦』創元SF文庫

 バーレナンは、探検家にして商人。ブリー号の船長として交易にたずさわっている。バーレナンはこの冬を“世界の外輪”近くで過ごしていた。空からやってきた“飛行士”に説得されたのだ。
 バーレナンの住むメスクリンは、扁平型の高重力惑星。バーレナンと接触した“飛行士”のひとり、チャールズ・ラックランドは直接交流を重視し、ただひとり地表にとどまっていた。しかし、科学技術の助けがあっても、ラックランドにとっては赤道に当たる“外輪”の3Gが限界。700Gの極地で立ち往生している観測用ロケットのデータを回収するには、どうしてもバーレナンの協力が必要だ。
 バーレナンは“飛行士”たちの言葉を学び、彼らのために極地への旅にでることを同意する。それは、探険と交易の片手間にやってのけられること。一方、バーレナンの部下たちは“飛行士”に疑いを抱いていた。彼らにとって、重さのない“外輪”は縁起が悪いところなのだ。
 バーレナンは、今度の旅が高収入につながる点を指摘し、部下たちを説得する。うまく士気を高め未知の地域へと出発するが、心のうちでは、ある決意を抱いていて……。

 非人間型知的生物ものの古典。
 赤道と極地で重力がまったくちがうために生じる文化の多様性。高重力ならではの自然現象。それらに立ち向かうバーレナンの一行。そして“飛行士”たちの思惑。それらが冒険譚にからみあって展開していきます。
 浅倉久志/訳『重力の使命』で読了済みのため、ある意味再読。そちらも手元にあるので、ついつい読み比べてしまいました。井上勇は、句読点を多用した訛りまじりの訳文。やはり浅倉久志の方がしっくりきます。


 
 
 
 
2006年01月04日
バリントン・J・ベイリー(冬川 亘/訳)
『カエアンの聖衣』ハヤカワ文庫SF

 ペテル・フォーバースはジアードの服飾家。多額の負債を抱え、リアルト・マストの持ちかけた仕事を引き受けた。マストの正体は密貿易者。今度のターゲットは、惑星カイレに難破したカエアンの宇宙船の積荷。
 ジアード星団とカエアンは敵対関係にある。それでもなお、カエアン製の衣類は高値で闇取引されていた。ペテルは、より高価なものを見分けるために、マストに選ばれたのだ。
 難破船でペテルが目の当たりにしたのは、とりわけ美しいプロッシム素材の衣類の数々。そして、戸棚にうやうやしくしまわれてあった、フラショナール・スーツ。カエアン服飾芸術界の帝王とうたわれた大天才フラショナールが、プロッシムを服地として制作した特別なスーツだ。たった五着しか作られなかったという。
 ペテルは、フラショナール・スーツの価値を黙したまま、自分の取り分とした。おかげで、マストと別れた後のペテルは出世街道まっしぐら。すべて、ペテルに自信と魅力とを与えたフラショナール・スーツの賜物だった。
 一方、ジアードの元首会は、対カエアン戦争に備えていた。調査船〈カラン号〉を派遣し、特殊に発展してきたカエアン文化の成り立ちを探らせていたのだ。
 船を牛耳るアマラは、文化人類学の権威。カエアン文明圏の外側を調査中、大きな宇宙服のような生物を捕獲した。彼らは、一生を宇宙服に包まれたまま成長する。そのまま宇宙船にもなる、宇宙で暮らす種族だった。アマラは、彼らこそがカエアン文化の発端だと仮説をたてるが……。

 不真面目な物語を真面目に書いたワイドスクリーン・バロック。めくるめくアイデアの洪水に浸れます。それでいて、ちきんとした筋もあって、大満足な一冊。


 
 
 
 
2006年01月09日
剣と魔法の物語傑作選
(中村 融/編)
ロード・ダンセイニ/ロバート・E・ハワード/ニッツィン・ダイアリス/C・L・ムーア/ヘンリー・カットナー/フリッツ・ライバー/ジャック・ヴァンス/マイクル・ムアコック
(中村 融/安野 玲/浅倉久志/訳)
『不死鳥の剣』河出文庫

 ヒロイック・ファンタシーを集めたアンソロジー。ジャック・ヴァンス読みたさに手に取りました。このジャンルについてはそれほど多くを知りません。編者による解説が役立ちました。

ロード・ダンセイニ(中村 融/訳)
「サクノスを除いては破るあたわざる堅砦」

 オーラスリオンの人々は悪夢にうなされる日々を送っていた。村の魔術師は、最高の魔術師ガズナクの仕業であることをつきとめる。ガズナクを倒すには、サクノスの剣が必要不可欠。領主の息子レオスリックは、サクノスを背骨に持つ龍鰐サラガヴヴェルグを倒すため、魔術師の助言にしたがい旅立った。
 叙事詩的に淡々と展開する物語。おそらく、雰囲気を楽しむべきなんでしょう。

ロバート・E・ハワード(中村 融/訳)
「不死鳥の剣」
 キンメリア人のコナンはアキロニアを征服し、王となった。当時は、悪政を行った前王からの解放者として迎えられたが、時とともに民のこころは離れていく。そんな中、コナンはアキロニアを守る賢者エピミトレウスの夢を見た。それはまさに、謀反人たちの暗殺計画決行の日だった。
 王様になった後のコナンの物語。
 スパイスは、トート=アモン。トート=アモンは、かつては大魔術師だったものの、蛇神セトの指輪を盗まれて今では奴隷の身。主人アスカランテに力を貸しつつも、今に見てろ〜と内心煮えたぎってます。英雄の心情よりも、そういう激情の方が読ませます。

ニッツィン・ダイアリス(安野 玲/訳)
「サファイアの女神」
 オクトランのカラン王は、逆賊の魔道師ドジュル・グルムによって記憶を封じられ、地球に追い落とされた。親衛隊長ザルフの尽力もあり帰還を果たすものの、記憶は戻らない。カラン王とザルフは、グルムに対立する魔道師アグノル・ハリトの助力を求めて旅立つが……。
 先行き真っ暗な中年男が、実は異世界の王様だった……という物語。カラン王とザルフに同行するコトが秀逸。コトは、巨人族の女と〈赤い荒野〉の荒神との間の子。オツムはそれほどよろしくないんですが、がんばりがさわやか。

C・L・ムーア(安野 玲/訳)
「ヘルズガルド城」
 ジョイリー領主ジレルは、ガルロットの領主ギイに忠臣20人を人質に取られ、身代金を要求されてしまう。それは、ヘルズガルド城にある霊宝。200年前に惨殺された城主アンドレッドは、死してなお霊宝を守り通した。以来、城は亡霊の住処となっているという。ジレルは、部下たちを救うため城に赴くが……。
 ジレルの荒々しさと、ヘルズガルド城の禍々しさが織りなす冒険譚。新たな城主となっていたアラリックとその一族の怪しいことときたら。きれいにまとまってました。

ヘンリー・カットナー(安野 玲/訳)
「暗黒の砦」
 サルドポリスの都は滅び、今やレイノル王子は流浪の身。そして今また、同胞のデルフィアが連れ去られてしまった。レイノルは、従者エブリクと共に救出に向かう。途中、老人ギアールと出会い、護符を授けられるが……。
 星が重要な役割を担う作品。基礎知識が不足しているのか、分からないまま終わってしまいました。

フリッツ・ライバー(浅倉久志/訳)
「凄涼の岸」
 ファファードとグレイ・マウザーは、銀鰻亭で、黒い頭巾をかぶった男にであった。男は「凄涼の岸」と三回となえ、二人を死へと誘うが……。 

ジャック・ヴァンス(中村 融/訳)
「天界の眼」
 キューゲルは、笑う魔術師イウカウヌの屋敷に盗みに入り、見つかってしまった。イウカウヌは、あるものを持ってくることを条件に、キューゲルを見逃す。あるものとは、第18期のカッツ戦争で、妖魔ウンダ=フラダがカッツじゅうに散らばした菫色の尖頭。キューゲルは、イウカウヌの転送術ではるか北へと送り込まれて……。
 《切れ者キューゲル》シリーズの第一作。冒険譚の発端が書かれてます。キューゲルは口の達者な小悪党で、ヒーロータイプではありません。剣と魔法はでてきますが、このアンソロジーでは異色な雰囲気。堪能しましたが、つづきのある終わり方に欲求不満気味。

マイクル・ムアコック(中村 融/訳)
「翡翠男の眼」
 エルリックは、滅びたメルニボネの最後の王。アヴァン公爵の依頼で、相棒ムーングラムと共にメルニボネ人の祖先の地ルリン・クレン・アアへ赴くことになった。伝説では、かの地に〈高次世界の諸候〉が集い、〈宇宙の闘争〉の規則を定めたというのだが……。


 
 
 
 
2006年01月13日
ロバート・L・フォワード(山高 昭/訳)
『竜の卵』ハヤカワ文庫SF

 2020年。
 人類は、わずか2300天文単位の距離にパルサーをとらえた。その正体は、直径わずか20キロ、毎秒五回転する中性子星。竜座のしっぽのすぐ傍らにあるため〈竜の卵〉と名付けられた。
 発見から30年。
 ピエール・カルノー・ニーヴンは、〈竜の卵〉を発見したジャクリーヌの息子。〈竜の卵〉調査隊の科学主任に選ばれた。調査隊は、恒星間宇宙船セント・ジョージ号で〈竜の卵〉に接近する。ピエールは同僚たちと共に、より〈竜の卵〉に近づくべく観測用カプセル、ドラゴン・スレイヤー号に移った。〈竜の卵〉の表面重力は670億G。地表温度は8200度にも達する過酷な環境にある。
 そのころ〈竜の卵〉表面では、知的生命体チーラが原始生活を送っていた。動きもなく輝き続ける星を神ブライトと崇めるチーラたち。信仰の証として、大聖殿を建設する。
 大聖殿はドラゴン・スレイヤー号からも観測された。対称的な花に似た図形の出現に、乗組員は驚愕する。すぐさま、単純なトンツー式の通信を中性子星に向けて送り込み、チーラとのコンタクトが行われる。ところが、チーラの体感時間は人類の百万倍だった。

 重力理論の専門家による、高重力下の生命を書いた作品。
 いかんせん百万倍の時間の中で生きているため、チーラたちは次々と世代交代していきます。始めのうちこそ人類に助けられながらも軽々と追い抜いて発展していくチーラたち。その時間の流れの相違がおもしろい快作。


 
 
 
 
2006年>01月15日
ロバート・L・フォワード(山高 昭/訳)
『スタークエイク』ハヤカワ文庫SF

 同氏の『竜の卵』の続編。
 中性子星〈竜の卵〉の調査を終えたドラゴン・スレイヤー号は、帰還の準備にとりかかる。しかし、流星体が潮汐力を打ち消すシステムを損傷。乗組員は絶体絶命の状況に追い込まれた。残された時間は、わずか5分。
 人類の危機を知った〈竜の卵〉の知的生物チーラは、救出作戦にとりかかる。チーラにとっての主観時間は人類の百万倍。5分でも救出は充分可能だ。ところが、政治的かけひきにより計画は遅れてしまう。
 スター=グライダーはチーラの宇宙ステーション船長。提督に昇進し、人類救出計画を担当することになる。事故から2分後のことだった。スター=グライダーは、最高の技術者クリフ=ウェブを片腕にし、議会を説得して人類救出を果たす。
 そのころ〈竜の卵〉上では、タイム=サークルがタイムマシン計画に着手していた。時間に沿ってシグナルを送ることに成功するものの、実験をつづけるうち、予期せぬ雑音に悩まされることに……。
 雑音があるがために新たな予算は認められず、雑音が紛れ込む理由も分からない。途方に暮れるタイム=サークル。やがて、雑音の正体が判明する。星震が発生したのだ。
 タイム=サークルが過去に警告を送ることもできないまま、チーラの文明は崩壊してしまった。地表で生き残ったチーラは数えるほど。そして、宇宙ステーションに取り残されてしまった技師たち。
 文明は再建できるのか?

 前作『竜の卵』ではチーラと人類と、異なる視点で物語が展開していきましたが、今作はチーラが中心。人類を助け、災難に見舞われ、さまざまな困難に直面するチーラたち。人類時間でたった1日を、チーラたちが駆け抜けます。


 
 
 
 
2006年01月29日
ホラーSF傑作選
(中村 融/編)
リチャード・マシスン/ ディーン・R・クーンツ/シオドア・L・トーマス/フリッツ・ライバー/キース・ロバーツ/ジョン・W・キャンベル・ジュニア/フィリップ・K・ディック/デーモン・ナイト/ロジャー・ゼラズニイ/クラーク・アシュトン・スミス/ジャック・ヴァンス/アルフレッド・ベスター/ブライアン・W・オールディス
(中村 融/訳)
『影が行く』創元SF文庫

 ホラーSF短編集。その短さ故か、ゾクゾクとはきにくいのですが、SF的視点からは大いに楽しめました。毎度のことながら、編者の解説がありがたい一冊。 

リチャード・マシスン
「消えた少女」

 クリスは、愛娘ティナの泣き声で目が覚めた。ティナはいつも居間のカウチで眠っている。ところが、なだめに行くとティナの姿がない。泣き叫ぶティナの声は、たしかにカウチから聞こえてくるのだが……。
 ホラーというより、不思議な物語。鍵を握るのは、飼い犬マック。ティナに降り掛かった災難は常識では考えられないものの、マックがもたらした結末には納得させられます。

ディーン・R・クーンツ
「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」

 ギャングのメンバー・トミーは25歳の若者ながらも、全身の毛は真っ白。その理由は分からない。リーダーのルイスに連れてこられる前の記憶がまったくないのだ。トミーだけでなく、ギャングのメンバーは誰も自分の過去を思い出せない。トミーはルイスを殺して自由になろうとするものの、不思議な力に阻まれてしまった。ルイスとメンバーの正体とは?
 短いなかに、謎だったトミーの来歴や、今後の予感も過不足なく盛りこんだ作品。さすがクーンツ、と唸りました。

シオドア・L・トーマス
「群体」

 大都市の地下深く、汚水桝で〈群体〉は誕生した。やがて、成長した〈群体〉は下水道管をつたい、人類と接触する。人々は次々と〈群体〉に同化され、瞬く間に都市はパニックに襲われて……
 おそろしい設定ながらも、淡々とした展開があっけらかんとした作品。〈群体〉に対して、人間も〈群衆〉として書かれてます。

フリッツ・ライバー
「歴戦の勇士」

 マックスは、自称“宇宙を股にかけ、時間の果てまで戦いぬく”男。その迫真的なホラ話に、ソルの酒屋の常連たちは笑い通し。しかし、それも窓の外に真っ赤な二つの目が現れるまで。マックスと共に帰路についたフレッドも巻き込まれてしまい……。
 いろんな効果音が雰囲気を盛り上げる、怖い話。マックスのホラ話が実は……というのは最初から分かっていて、驚きはありません。その分、真っ赤な二つの目のおそろしさが、ふつふつと。

キース・ロバーツ
「ボールターのカナリア」

 グリンの友だちボールターはアマチュア映画に傾倒していた。さまざまなものを撮影し、今度はフレイ僧院に行こうと言いだす。僧院は17世紀に解体され、今は廃墟があるばかり。昔から幽霊話のあるところなのだが……。
 次々と起こる怪奇現象。最初は屈託のなかったグリンも徐々に変化していきます。達観しているボールターと対照的。

ジョン・W・キャンベル・ジュニア
「影が行く」

 南極大磁極基地に、あるものが運び込まれた。2000万年前から変わらず存在しつづける氷に閉じこめられた、遭難したらしき異星種族……。解凍して詳しく調べることになるが、それはまだ死んでいなかったのだ。逃走し、発見されたときには犬と同化しつつあった。もしや、隊員の中にも怪物が?
 ホラーというより、サスペンス。閉ざされた世界で繰り広げられる葛藤。誰が怪物か分からない恐怖。本物の人間と怪物とを見分ける方法はあるのか? 良質でした。

フィリップ・K・ディック
「探検隊帰る」

 火星で立往生してしまった探検隊は、ついに地球へと帰還した。2年ぶりのアメリカに大喜びの隊員たち。ところが、彼らを目撃した人々は、血相を変えて逃げていく。いったいなにがそうさせているのか?
 ホラーというより、哀しい話。怖いっていえば怖いんですけど、ただただ哀しい。 

デーモン・ナイト
「仮面(マスク)」

 アメリカは、年に2億ドルをかけた一大プロジェクトを展開中だった。あらゆる部分を切断されてしまった男を、完全補綴ボディを使って生き長らえさせるのだ。ところが、被験者のジムに問題が発生する。プロジェクト局長バブコックはジムに面会し、問題を探るが……。

ロジャー・ゼラズニイ
「吸血機伝説」

 人類が死に絶えた世界。残されたロボットたちは〈中央司令所〉に繋がれ仕事をつづけている。そんな中にただ一機、自由ロボットがいた。他のロボットたちから魔物ロボットとして怖れられ、狩り立てられる吸血機械。唯一の話し相手は、フリッツ。栄養失調に陥った吸血鬼。フリッツは魔物ロボットに教えを説くが……。
 吸血鬼もの。怖さはなく、静けさと孤高さが際立つ作品でした。 

クラーク・アシュトン・スミス
「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」

 考古学者ロドニーは、オクテイヴ探検隊に参加していた。火星のヨーヒ人が絶滅したのは少なくとも4万年前。その原因は、あまりにもおぞましく、常規を逸しているために、神話のなかでさえ口にするのをはばかったものだったとか。ヨーヒ人の廃墟ヨー・ヴォムビスで一行が発見したものとは?
 書かれてから70年が経過した現代にあっては、この火星の姿には違和感を感じざるを得ないけれども、まぁ、それはそれでおもしろい作品でした。

ジャック・ヴァンス
「五つの月が昇るとき」

 ペリンは、アイゼル岩礁灯台の灯台守。空に五つの月が輝く夜、相棒セギロが「五つの月がそろって空へ昇るときは、なにも信じないほうがいい」と語り、直後に失踪する。モーニラム・ヴァーの海に落ちたのか? 心配するペリンの元にセギロが帰ってきた。しかし様子がおかしく、ふたたびいなくなってしまう。
 途中、レムの『ソラリスの陽のもとに』を彷彿とさせるものの、オチのつけ方はヴァンスだなぁ、と妙に納得。

アルフレッド・ベスター
「ごきげん目盛り」

 破産した父がヴァンデルアーに遺したものは、多用途アンドロイド。5万7000ドルの価値がある。しかし、このアンドロイドには欠陥があり、パラゴン第三惑星でついに殺人まで犯してしまった。ヴァンデルアーは名前を変えて、アンドロイドと共に逃亡するが……。
 ヴァンデルアーとアンドロイドの精神が交錯していて、出だしからややこしい作品。その混線ぶりが物語をひっぱっていきます。華々しさはベスターならでは。

ブライアン・W・オールディス
「唾の樹」

 グレゴリーは将来の道を決めかね、現在はパン屋に下宿の身。ある夜、友人ブルースと共に星を眺めていて、馭者座の方角から飛来した流星が、グレンドン牧場に落ちるのを目撃した。翌朝、牧場を訪ねると、それは池に沈んだという。以来、牧場では不可思議な現象が相次ぎ……。
 ウェルズの各作品を彷彿とさせる物語。現象も、語り口も。それだけでなく、グレゴリーはウェルズと文通までしています。オマージュに満ちてました。


 
 
 
 
2006年01月31日
サミュエル・R・ディレイニー(伊藤典夫/訳)
『ノヴァ』ハヤカワ文庫SF

 ポンティコス・プロヴェーキ、通称マウスはジプシーの出身。ドレイコ領の中心・地球では、プラグをつけようとしないジプシーは差別の対象だ。仲間と別れたマウスはサイボーグ船士の免状をとり、宇宙へと旅立った。
 現在マウスはトライトンで、雇ってくれる船をさがしているところ。希望は星間航路。しかし、太陽系内の航路で2年間仕事をしただけの経歴では、なかなか見つけることができない。感覚シリンクスを弾き、人々を驚嘆させるだけの日々が続く。
 ある日マウスは、元サイボーグ船士のダンと出会った。めしいのダンは、キャプテン・ローク・フォン・レイに連れられて、とんでもない経験をしてきたところ。ロークは、ノヴァに飛びこもうとしたのだ。
 ロークのフォン・レイ家は、プレアデス連邦でもっとも強大な一族。ドレイコ全域に根をはるレッド家とは因縁ある間柄だ。この時代、輸送コストを左右するのは稀少なエネルギー物質イリュリオン。イリュリオン鉱が点在するコロニー星域は独立しつつあり、輸送で利益をあげるレッド家は神経質になっていた。
 マウスは、即席の相棒カティン・クロフォードと共に、ロークに雇われることになった。ロークの目的は、ノヴァ狩り。ノヴァに飛びこみ、大量のイリュリオンを入手するのだ。価格を一気に下げ、レッド一族を破滅に追いやるために。

 裏の意味がある、深ーい物語。
 表面の物語は、ロークがプリンス&ルビーのレッド兄妹と対立し、クルーと共にイリュリオンを獲りにいくもの。マウスの個性、ロークの執念、小説を書くことを夢見るカティン、片腕のプリンス、兄に付き従う美貌のルビーとが絡み合います。
 裏面を読み解く努力は、やや放棄気味に読んでました。ところどころで思いいたる程度で、表が楽しめればそれでいいのでは、と。本書の訳者あとがきには、聖杯伝説に乗っ取った裏の意味の解釈があります。そして、『アインシュタイン交点』の訳者あとがきから、さらに別の裏面について知ることができます。


 
 
 
 
2006年02月02日
ポール・アンダースン(浅倉久志/訳)
『地球帝国秘密諜報員』ハヤカワ文庫SF

 かつて大繁栄した地球帝国は、今や〈長い夜〉を待つばかり。宇宙の彼方からは、マーセイアをはじめ、ゴラザン、イスリなどの帝国が地球帝国の領土を狙っている。地球帝国は腐敗がすすみかつての栄光はないが、なんとか持ちこたえていた。
 ドミニック・フランドリーは、地球帝国宇宙軍情報部の大佐。暗黒と死と文明の終末をなんとか遠ざけようと、奮闘している。

「虎口を逃れて」
 フランドリーは、リナソウル星はカトーラヤニス市で豪遊三昧中、スコーサ人に誘拐されてしまった。地球帝国の侵略をたくらむ彼らの目的は、情報。フランドリーはスコーサ星に連れて行かれるが……。

「謎の略奪団」
 皇帝の孫娘メガン姫が辺境をお忍びで旅行中、何者かにさらわれてしまった。マーセイア帝国の犯行か? フランドリーは、ある人物に狙いをつけて探りを入れるが……。

「好敵手」
 フランドリーは同僚アリーンと共に、ペテルギウスでの任務についた。中立国ペテルギウスは、地球帝国とマーセイア帝国の中間にある。双方が同盟を結ぼうと躍起になっているのだ。マーセイア帝国からは、アイキャレイクが送り込まれてきた。どうやら彼はテレパスらしく、フランドリーの打つ手はことごとく見破られてしまい……。

「〈天空洞〉の狩人たち」
 シラックス星団で、地球帝国とマーセイア帝国は睨み合いの真っ最中。そこへ、入植惑星ヴィクセンが包囲される事件の一報が……。侵略者の正体は分からない。フランドリーの上司フェンロス中将は、木星型惑星に住むイミル族に疑いの目を向ける。
 ヴィクセンから唯一脱出に成功したキトレッジは、救援を求めていた。しかし、シラックスから戦力を割くことはできない。フランドリーはキトレッジを伴い、ひそかにヴィクセンに潜入するが……。

 フランドリーは諜報員だけあって、敵を欺こうと色々なことをしてきます。同時に読者をも欺こうという魂胆らしく、予習をせずに読んでいたら一杯食わされました。気持ちよく、というより、少々後味悪く。初登場時に受けた印象が最後まで残ってしまって、そういう手法も良し悪しだな、といったところ。

 
 

 
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