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2006年の記録
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このページの本たち
星を継ぐもの』ジェイムズ・P・ホーガン
悠久の銀河帝国』クラーク&ベンフォード
夢みる宝石』シオドア・スタージョン
神々自身』アイザック・アシモフ
火星航路S0S』E・E・スミス
 
アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス
宇宙クリケット大戦争』ダグラス・アダムス
ダイヤモンド・エイジ』ニール・スティーヴンスン
リングワールドの玉座』ラリイ・ニーヴン
コラプシウム』ウィル・マッカーシイ

 
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2006年03月21日
ジェイムズ・P・ホーガン(池 央耿/訳)
『星を継ぐもの』創元SF文庫

 ヴィクター・ハントは原子物理学者。核内部構造理論の世界的権威だ。現在ハントは、イギリスのメダタイン社で理論研究主任に就いていた。気の向くままに研究や実験を行い、考案したのがトライマグニスコープ。
 トライマグニスコープを使えば、あらゆるものの内部を手に取るように観察することができる。メダタイン社は、売り出しに向けて準備を整えていた。ところが、この大切な時期にハントは、親会社のIDCCに呼び出されてしまう。それも、唯一の試作機と共に。
 渋々、アメリカに向かうハント。IDCC最大の取引先、国連宇宙軍(UNSA)に行くように言い渡され、航行通信局本部長グレッグ・コールドウェルと面会した。コールドウェルは、ハントに驚くべき情報をもたらす。
 月面の洞窟から、死体が発見されたというのだ。それも、死んだのは5万年前だという。生物学者クリスチャン・ダンチェッカーは、その死体が、地球の霊長類と同じ進化の系統に属していると断言した。つまり、異星人ではなく、地球人であると。
 ダンチェッカーの推測は正しいのか?
 死体や所持品は5万年の年月を経ており、痛みが激しい。トライマグニスコープで調査がすすめられ、さまざまなことが分かってきた。彼らの暦や、言葉などが。
 当初はトライマグニスコープの専門家でしかなかったハントは、新設されたグループLの責任者に就任し、各分野の成果を統合させていく。
 そんな最中、さらなる発見が……。

 月が示す謎の数々。
 彼は、なぜそこで死んだのか?
 5万年前になにが起こったのか?
 たった1つの遺体と2冊の手帳から、さまざまなことが推察され裏付けられていきます。データを積み重ね、謎の解明に悪戦苦闘する学者たち。まるでドキュメンタリーのような作品でした。


 
 
 
 
2006年03月22日
アーサー・C・クラーク&グレゴリイ・ベンフォード
(山高 昭/訳)
『悠久の銀河帝国』ハヤカワ文庫SF

 少年アルヴィンは、地球最後の都市ダイアスパーで生まれた。そこは、永久の生に対する代償を支払った都市。この7000年間、生まれた子供はアルヴィンただひとり。
 人類はかつて、繁栄を極め銀河に進出していた。しかし、それも昔。ダイアスパーの宇宙港に未知の財宝を積んだ宇宙船がやってきたのは、5億年前のこと。人類は“侵略者”によって地球に追い返され、今や、その影に怯える日々。人々の心には外界への恐怖で満たされるにいたった。
 恐怖心を持たないアルヴィンは、ダイアスパーに退屈していた。アルヴィンはときどき、10万年にわたって放置されていた巨大な尖塔に登り、外の世界を覗き見る。
 一面の砂漠世界を。
 空に輝く星々を。
 ある日アルヴィンは、尖塔にテラスがあることに気がつく。テラスに出てみると、壁面に階段が設けられ、下界へと伸びていた。好奇心からたどっていくアルヴィン。障害物に出くわし、メッセージを発見する。記録管理人によろしく、と。
 記録管理人は、機械に記録を保存し、また検索することができる。現在はローデンがその職にあった。アルヴィンはローデンと面会し、協力を求める。
 メッセージの主は、ローデンより前の時代に記録管理人を務めていた人物だった。ローデンにも外界に対する恐怖心はある。だが、アルヴィンに協力を約束し、ついに古代の移動装置を発見するが……。

 クラークの『銀河帝国の崩壊』を第一部に、ベンフォードが書いた続編を第二部にした合本。生まれ故郷から踏み出す決意を固めたアルヴィン。はじめての外の世界と、明かされる真相。それらが短い中につぎ込まれたクラークの第一部は、さすが名作。
 一方、ベンフォード。
 主人公を、アルヴィンたちが復活させた旧人類の生き残りに変更。新たな冒険が展開されるものの、なんでも知ってるナビゲーターがついていてややトーンダウン。第一部で、アルヴィンがいろんな人に会って、知って、考えて、成長していっただけに、少々物足りなく思ってしまうのでした。


 
 
 
 
2006年03月23日
シオドア・スタージョン(永井 淳/訳)
『夢みる宝石』ハヤカワ文庫SF

 ホートンは孤児だった。アーマンド・ブルーイットに引き取られるが、それは、判事に立候補したため。人格者に見せかけようとする魂胆からだ。ホーティがかわいがられることはなかった。
 8歳になったホーティは、友だちにある現場を目撃されてしまった。ホーティはときどき、無性に蟻を食べたくなるのだ。たちまちブルーイット夫妻の知るところとなり、ホーティは家から追い出されてしまう。
 ホーティの唯一の所有物は、孤児院時代に手に入れたあやつり人形ジャンキー。美しい対の目をもったジャンキーは、ホーティが大切にしているもの。ホーティはジャンキーをつれ、交差点で信号待ちをしていたトラックに潜りこむ。町から脱出するために。
 トラックはカーニヴァル一座のものだった。乗り合わせていたのは鰐男のソーラムと、成長できない小人のハバナ、バニー、そしてジーナ。
 ホーティは美しい歌声をかわれ、カーニヴァルで暮らすことに。ただし、その正体は秘密。ボスのピエール・モネートルは極度の人間嫌いなのだ。ホーティは、ジーナの妹ホーテンスことキドーとしてモネートルに紹介される。
 モネートルは、かつて医者だった。ある出来事から人間嫌いになり、反政府活動に身を投じた時期もある。やがて生物学研究所に就職し、その時代に興味深いものを発見した。
 夢みる宝石。
 そいつは宝石のように見えるが生物で、完璧な複製がつくれるらしい。モネートルは夢見る宝石を利用し、己の願望を実現させようとしていた。

 幻想作品。
 小人を装い実際に成長しないホーティ。ホーティと一緒に舞台に立ちながら教え導くジーナ。おそろしい野望をほとばしらせるモネートル。
 夢みる宝石が見る夢とは?
 物語の発端となったホーティが蟻を食べたくなる原因や、ジャンキーと別れられない理由、その他いろんなことが重なりあって、結末へとなだれこみます。
 美しく紡がれた名作。


 
 
 
 
2006年03月25日
アイザック・アシモフ(小尾芙佐/訳)
『神々自身』ハヤカワ文庫SF

 フレデリック・ハラムが、エレクトロン・ポンプの父として科学界に君臨するきっかけとなったのは、30年前のプルトニウム186の発見だった。
 当時ハラムは、放射科学者になりたて。研究室にあった〈タングステン・メタル〉の中身が入れ替えられていることで騒ぎ立て、学部きっての俊才ベンジャミン・デニソンに一蹴されてしまう。ハラムは意地になって物質の解明に乗りだす。かくして発見されたのが、この世に存在しないはずのプルトニウム186だった。
 ハラムは、〈パラ宇宙〉と名付けた別の宇宙の存在により、タングステンとプルトニウムが交換されていると仮説を立てた。そして〈パラ宇宙〉と物質を効率的に交換する装置、エレクトロン・ポンプを発明。それは、無尽蔵のエネルギー供給を可能とする革命的出来事だった。
 パラ理論家にして物理学者のピーター・ラモントは、ポンプ発展の物語に興味をひかれていた。ハラムにまつわる逸話には、はっきりしない部分が少なくない。
 本当に、ハラムがエレクトロン・ポンプを考案したのか?
 さらにラモントは、ポンプによって太陽が爆発してしまう可能性を見出すが……。
 一方〈パラ宇宙〉では、軟族たちが硬族に導かれながら暮らしていた。軟族は、理性子、親性子、感性子の三体で一組。それぞれがそれぞれの役割を務めているのだが、感性子デュアは、理性子のように知ることへの欲求を持っていた。
 デュアのヒダリ配偶子である理性子オディーンは、デュアを理解し、教授することに喜びを見出す。ところが、ミギ配偶子の親性子トリットはデュアを理解できない。どうにかして三番目の子供を授かりたいと、画策する。
 そのころ世界では、食べ物であるエネルギーが減少しつづけていた。硬族の天才エストウォルドが画期的な救済法を編み出すが、それは、別の世界の破滅を招くもの。そうと知ったデュアは、なんとか食い止めようとするが……。

 ヒューゴー/ネビュラ両賞を受賞した作品。
 ラモントの第一部、パラ人たちの第二部、そして結末の第三部の構成。それぞれが独立した物語になってます。とりわけ、異種族の第二部がおもしろく楽しめます。その分、人類に視点が戻った第三部が引き気味。


 
 
 
 
2006年05月05日
E・E・スミス(井上一夫/訳)
『火星航路SOS』ハヤカワ文庫SF

 惑星間宇宙船アルクトゥールス号は、火星へ向けてとびたった。今回の飛行に計算士として乗りこんだのは、数理物理学者のスティヴンス博士。スティヴンスは、早速、問題となっていた観測所の怠慢を解決する。
 宇宙船には、惑星間航行会社社長ニュートンの娘、ナディアも同乗していた。スティヴンスは、ナディアに船内を案内して回る。ところが船尾の救命艇で一休みしている最中、船は何者かの襲撃を受けてしまった。
 どこだかへ曳かれていくアルクトゥールス号。スティヴンスとナディアは隠れ潜み、道中、偽装工作を施した救命艇で木星の衛星ガニメデに脱出した。スティヴンスは通信装置をつくりあげ、仲間たちと連絡を取り合おうとするが……。

 読了までに1ヶ月以上を要してしまった作品。金星人や火星人やその他諸々が登場する、昔のスペオペ。それが原因とは思えませんが、なかなか読み進むことができませんでした。


 
 
 
 
2006年05月06日
ダニエル・キイス(小尾芙佐/訳)
『アルジャーノンに花束を』早川書房

 チャーリイ・ゴードンの知能指数は70。知恵おくれのため両親に見放され、伯父にひきとられるものの、伯父も他界。現在は、伯父の大親友だったパン屋のドナーに雇われ生活している。
 パン屋で働きだして17年。まもなく33歳になるチャーリイに転機が訪れた。知識欲があるチャーリイは、知能を高める画期的な手術の被験者として選ばれたのだ。
 動物実験での成功例は、ただの1件。手術によって高められた知能が持続しているのは、ねずみのアルジャーノンのみ。チャーリイは、巧みに迷路を解くアルジャーノンに感嘆するが、今後のことは誰にも分からない。
 チャーリイは、ドナーにも秘密のまま手術を受けた。少しずつ、知能が向上していくチャーリイ。記憶力がつき、語彙が増えていく。新たな世界が開け喜ぶチャーリイだったが、パン屋の仲間たちは気味悪さを感じていた。そしてまたチャーリイも、友だちだと思っていた彼らが実はそうではないことに気がついてしまう。
 やがてチャーリイの知能は、執刀した教授らをも追い抜いてしまうが……。

 ヒューゴー賞を受賞した短編を長編化したもの。
 ネビュラ賞受賞作。
 一応SFに分類されていますが、どちらかというと普通小説。知能が高くなり、あらゆることを理解できるようになったチャーリイ。忘れていた記憶が甦ると同時に、さまざまなことを考えるようになります。その過程が、チャーリイ自身の「経過報告」という記録でたどることができます。
 ラストには涙、涙。
 ただし、チャーリイの受けた手術がどういうものだったのか具体的には触れられてなかったり、凡人とは違うであろう天才の思考回路に説得力がなかったり、やや物足りない読後感。


 
 
 
 
2006年05月07日
ダグラス・アダムス(安原和見/訳)
『宇宙クリケット大戦争』河出文庫

銀河ヒッチハイク・ガイド
宇宙の果てのレストラン』の続編。
 アーサー・デントは、破壊されてしまった地球の生き残り。今は、200万年前の地球に取り残された身だ。
 アーサーを、4年前に別れたきりのフォード・プリーフェクトが尋ねてきた。ペテルギウス人のフォードは、宇宙的大ベスト・セラー『銀河ヒッチハイク・ガイド』の現地調査員。気が狂った気になって4年を過ごしてきたが、ついに銀河亜空間通信自動感知器に反応があったため、アーサーを迎えにきたのだ。
 2人は、野原に出現したチェスタフィールド・ソファに乗り、太古の地球から脱出することに成功する。ついた先は、ロンドンの〈ローズ・クリケット競技場〉のピッチ。オーストラリア・シリーズの最終戦だった。
 競技場には“他人ごと”フィールドでカモフラージュした宇宙船もやってきており、2人はスラティバートファーストと再会した。
 スラティバートファーストの目的は、シリーズ優勝チームに渡される“遺灰”。銀河系の過去と現在と未来の安全のために不可欠だからと言うのだが……。

 人物紹介のないまま登場するスラティバートファーストは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場する伝説の惑星マグラシアの老人。他にも、これまでのシリーズを読んでないと少々分からないところがあります。ところが、内容にはつながりはなし。きちんと伏線があったり、これまでの2冊とはちがって納得して読めますけれど、やや中途半端な印象。


 
 
 
 
2006年06月03日
ニール・スティーヴンスン(日暮雅道/訳)
『ダイヤモンド・エイジ』上下巻・ハヤカワ文庫SF

 国家の時代は終わり、世界の単位は〈種族〉や〈部族〉となった。それらには、人種や思想、宗教、趣味、技術などを共有する人々が集っている。三大種族は、かつての中国である《漢》、《ニッポン》、そして、ネオ・ヴィクトリア人の《新アトランティス》。
 ジョン・パーシヴァル・ハックワースは《新アトランティス》の〈技術技巧士〉。〈株主貴族〉のフィンクル=マグロウ卿から、ある本の制作を依頼された。それは、本の形をしたインタラクティヴ・デヴァイス。フィンクル=マグロウはネオ・ヴィクトリア的教育に疑問をいだき、孫娘に〈若き淑女のための絵入り初等読本(プリマー)〉を贈ろうと考えたのだ。
 〈プリマー〉は、周囲の状況を見、聴いて、物語を組み立てる。幼い女の子とのみ“きずな”を築くのだ。
 ついに〈プリマー〉を完成させたハックワースは、愛娘のために複製をつくることを思いついく。密かにデータを持ち出し、上海のドクターXの元で複製するが、帰宅途中に暴漢たちに襲われてしまった。
 暴漢の一人、少年ハーヴは〈プリマー〉を手に入れると、幼い妹ネルに手渡した。ネルが開いたとたん〈プリマー〉は起動し、プリンセス・ネルの物語を紡ぎ出す。ネルはこの魔法の本に夢中になり、さまざまなことを学んでいく。
 一方ドクターXは、自身の種族《天朝》のために、ハックワースの能力を欲していた。ハックワースを襲わせたのもドクターX。〈プリマー〉はハーヴの勘違いで入手し損なうが、ハックワースを罠にかけることには成功する。
 《天朝》のために働くこととなってしまったハックワース。《新アトランティス》の知るところとなるが、フィンクル=マグロウ卿はハックワースの罪を許し、二重スパイとなることを提案する。こうしてハックワースは、ドクターXの指示に従って「錬金術師」をさがす旅にでるが……。

 幼子ネルの成長物語。
 ヒューゴー賞受賞作。
 世界の枠組みが現在とちがうので、少々混乱しながら読んでました。《漢》の他にかつての中国から分裂した《沿岸チャイナ共和国》、それから分化した《租借地区》。それから《中華帝国》と《天朝》と《義和拳団》と。今でも、いまいち分かってません。主要人物かと思ったらそれっきり姿を消してしまったり、展開も行き当たりばったり的。
 それでも、おもしろいです。
 徐々に成長していくネルが圧巻。10年以上の長きに渡り、〈プリマー〉はプリンセス・ネルの冒険を紡いでいきます。そして、〈プリマー〉を通じてネルの育ての親となるミランダ。ミランダはネルを捜そうとしますが……。


 
 
 
 

2006年06月06日
ラリイ・ニーヴン(小隅 黎/訳)
『リングワールドの玉座』ハヤカワ文庫SF

 《ノウンスペース》シリーズ。
リングワールド』および『リングワールドふたたび』の続編。
 リングワールドは地球の300万倍の面積を持ち、太陽をかこって自転する、巨大なリング状構造物。広大な土地にさまざまな種族が生活していた。
 リングワールドの住人であるヴァラヴァージリンは〈機械人種〉。宇宙からやってきたルイス・ウーのおかげで一財産を築く。それを元手に事業をはじめるが、資金繰りに行き詰まり行商の旅に出ることに。
 ヴァラヴァージリンは、かつてルイス・ウーが海を沸騰させた地域を目指した。そこには〈草食巨人〉たちがいるはずなのだ。
 ヴァラヴァージリンは首尾よく彼らと接触をはかるが、〈草食巨人〉たちは吸血鬼の大集団に襲われていた。吸血鬼は知性を持たないが、性的欲求を高める匂いで人々をひきつける厄介な存在。日の光を嫌うため戦いは夜間に限られるものの、被害は甚大だった。
 どうやら吸血鬼は、見捨てられた〈浮揚都市〉の影となった〈影の巣〉で繁殖しているらしい。かつて吸血鬼と戦ったことのあるヴァラヴァージリンは〈草食巨人〉たちに手を貸し、退治に乗り出すが……。

 吸血鬼の物語は、前半のみ。後半は、ルイス・ウーが活躍します。
 リングワールドに迫るクジン人の宇宙船。それを撃ち落とす謎の存在。ルイス・ウーはパペッティア人の〈至後者〉と仲違いをしていたものの、ついに和解。ところが、プロテクターたちの争いに巻き込まれて……。
 いろいろあるのはルイス・ウーの冒険が繰り広げられる後半ですが、おもしろいのは、ヴァラヴァージリンたち現地人の冒険譚の前半。
 やや惰性的に読んでしまいました。


 
 
 
 
2006年06月07日
ウィル・マッカーシイ(嶋田洋一/訳)
『コラプシウム』ハヤカワ文庫SF

 ソル女王国第8の10年紀。
 人類は再生産装置ファックス技術により、非死を獲得していた。ファックスを利用することでさまざまな不都合を修正し、分身をつくり、また統合することさえできる。
 かつて女王に仕え、配偶極士の称号を得ていたブルーノ・ド・トワジは、天才科学者。コラプシウムの発明で巨額の富を得、自身のミニチュア惑星上でひとり研究に没頭している。孤独な生活にひたること11年。ブルーノの惑星に船が降り立った。
 万物の処女王タムラ=タマトラ・ルトゥイがブルーノの助けを必要としていたのだ。
 ブルーノが去った後の女王国では、マーロン・サイクス配偶極士によって、リング・コラプシター計画が発案されていた。太陽をとりかこむようにコラプシウムの環を作れば、太陽の向こう側へ、通信を効率的に送ることができるようになる。画期的な事業だった。ところが、建設中に事故が起こってしまったのだ。
 その場に留めることのできなくなったリングは、徐々に太陽へと落ちつづけていた。コラプシウムは、ブラックホールの結晶体だ。太陽に落ちれば、太陽が喪失してしまう。残された期限は6ヶ月。
 ブルーノはこの問題に挑むが……。

 コラプシウム、ファックス、ウェルストーン、その他さまざまなものが紙面をにぎわしながら、ブルーノがリングの危機を救うこと二度。その後、本当の大災害がやってきます。
 ハードSFにつきものの巻末の付属文書はありますが、それほど固さもなく、ついていけました。
 タムラに女王の風格が感じられないのが少々残念。投票で選ばれたお飾りとはいえ、長期間王座にいるのだから、にじみでるものがあれば作品全体の重しになったと思うのですが。

 
 

 
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