SF短編およびショート・ショート集。
「大渦巻II」
クリフ・レイランドは、月から地球への帰還に貨物カタパルトを選択した。多少手荒いが、安さが魅力だ。ところが、打ち上げの最中に回路遮断機が開き、速度不足に陥ってしまう。軌道修正ジェットも使えず、こうなっては月に墜落するのを待つばかり。クリフは、管制所からある指示をだされるが……。
「太陽からの風」
ジョン・マートンは、宇宙船設計士。はじめて開催された太陽ヨットレースに、ディアーナ号で参加した。太陽ヨットは、太陽風を利用して推進力を得る。ディアーナ号の帆は、実に2000万平方マイル。マートンは、他の出場者たちとかけひきを繰り広げるが……。
「無慈悲な空」
エベレスト・ホテルには年に何千人もが宿泊し、そのうち4分の1ほどは山頂を極めていた。しかし、両脚に障害を持ち、通常の歩行さえままならないエルウィン博士には夢の地だった。博士は空中浮揚機を開発し、ハーパーをつれ、密かに山頂を目指すが……。
「地球の太陽面通過」
オリンパス号は、15人の乗組員と共に火星に到達した。そのうち5人はペガサス号で火星上に降り立つが、事故で帰還できなくなってしまった。最後に残ったペガサス号のエヴァンスは務めを果たし、地球が太陽面を通過する様子を観察する。
「メデューサとの出会い」
ネビュラ賞受賞作。
ハワード・ファルコンは、気球旅行の第一人者。未知のガス惑星・木星の調査を敢行する。ファルコンは、木星でいままで聞いたことのない異様な音をとらえた。謎の音波の発生源とは?
その他、「神々の糧」「輝くもの」「秘密」「最後の命令」「Fはフランケンシュタインの番号」「再会」「記録再生」「暗黒の光」「史上最長のSF」「ハーバート・ジョージ・モーリー・ロバーツ・ウエルズ殿」「あの宇宙を愛せ」「十字軍」「中性子星」を収録。
クラークの作品は、アイデアはもちろん、その情景の美しさが特色。書きすぎないところも魅力の一つです。
「大渦巻II」や「地球の太陽面通過」では、死が確定的となった人間の精神状態と、そんな状況下でも目を奪われてしまう眺望が絶妙。表題作となった「太陽からの風」は、ひとりでヨットを操るマートンの人生が集約された作品。
つかみ所のない作品も中にはありますが、名作ぞろい。
【2015年7月26日追記】
今回タイトルのみの掲載となった「神々の糧」「輝くもの」については、傑作短編集『メデューサとの出会い』に内容紹介文があります。ご参照ください。※「輝くもの」は「きらめく生きもの」へとタイトルが変更になってます。
アレックス・シャーキーはロンドンの遺伝子ハッカー。暗黒街の支配者ビリー・ロックのファミリーに借金をしてまで手に入れたもの、それはシカゴ原子力製アルゴン・レーザー・ヌクレオチド配列組立装置だった。
取引が失敗に終わり、アレックスは借金を返すあてをなくしてしまう。アレックスは、借金と引き換えに、ビリーの仕事を請け負うことに。
この時代、人為的にヒヒを遺伝子改造した生命体ドールが作られていた。ドールはペットや闘争用として売り出され、産出を独占している企業によって、生殖能力を排除されている。ビリーはドールの闘技場を構想しており、優秀なドールを繁殖させたがっていた。そのために、アレックスの遺伝子ハッカーとしての能力が必要だったのだ。
アレックスは、取引が失敗したのもビリーの差し金だと気がつくが、協力しないわけにはいかない。そんなアレックスに、謎の少女ミレーナが接触してきた。ミレーナの目的はドールの解放。
2人は、ビリーの元からドールを盗み出し、フェアリイとして生まれ変わらせる。しかし、ミレーナはフェアリイと共に姿を消してしまった。
国外追放処分となったアレックスは、ヨーロッパ中、ミレーナを捜しまわるが……。
退廃したヨーロッパが舞台の、テクノゴシック。
アレックスとミレーナが出会う、第一部。フェアリイの王国がテーマパークの廃墟に誕生していた第二部。物語を締める第三部。
部分部分はおもしろいものの、全体となると……。ややごちゃごちゃした感じで、よく分からないところが続出。肝心要のドールがなんなのか、最初の説明を見落としたらしく、最後に解説を読むまでよく分かってませんでした。
《銀河帝国興亡史》第一作。
「心理歴史学者」
繁栄を極める銀河帝国だったが、ハリ・セルダンは統計科学である心理歴史学でもって滅亡が近いことを算出していた。
帝国首都トランターは、五世紀以内に廃墟になる。
公言するセルダンは審問にかけられてしまう。実は、それすらもセルダンの計算の内。セルダンは、自身のプロジェクトは「銀河百科辞典の編纂」が目的だと主張する。審問した公安委員会は、セルダンのプロジェクトに参加している10万人を辺境惑星ターミナスへと追放することを決めるが……。
「百科辞典編纂者」
惑星ターミナスに〈百科辞典第一財団(ファウンデーション)〉が設立されて50年。ターミナスは資源に乏しいところ。さまざまな物資を輸入に頼っているが、重要な通商ルートの途上にあるアナクレオンで叛乱が起こってしまった。
ターミナス市長のサルヴァー・ハーディンは気が気でないが、ファウンデーションのすべての権限は、百科辞典委員会の理事会のもの。理事会のルイス・ピレンヌは、自分は皇帝陛下の代理人であると高をくくっていた。
「市長」
ファウンデーションが設立されて80年がたっていた。人々は、セルダンが残したメッセージより、ファウンデーションの真の目的を知るにいたっていた。それは、銀河帝国滅亡後に訪れる三万年の暗黒時代を、1000年に短縮するためのもの。
近隣星系では文明が滅びつつあり、今やファウンデーションは科学を宗教として広めることで影響力を保持している。ところがファウンデーション内部には、市長ハーディンのやり方に批判的な勢力がいた。さらに、アナクレオンの軍事的圧力が高まり……。
「貿易商人」
商人リマー・ポニェッツは、あるメッセージを受け取った。同僚のエスケル・ゴロウが、アスコーンで投獄されたというのだ。アスコーンは、閉鎖区域。商売をすることはできない。そして、実はゴロウはファウンデーションのエージェントだった。
ポニェッツは、救出に向かうが……。
「豪商」
ホバー・マロウは、貿易商。市長秘書のジョレイン・サットの依頼を受けた。コレル共和国でファウンデーションの船が三隻も行方不明になったというのだ。マロウはその原因を探るため、コレル共和国へと旅立つが……。
年表のように続いていく、連作短編集。
後から書かれた「心理歴史学者」は必要な情報を伝えるための短編で、おもしろさ、という点ではいまいち。
読み進めるうちにおもしろさが加速していきます。
《銀河帝国興亡史》第2作。
「将軍」
ファウンデーションは版図を拡大しつつあったが、帝国もまだ健在だった。
ベル・リオーズは、銀河帝国の若き将軍。実績をあげてきたために政治的に疎んじられ、辺境に追いやられていた。戦がしたくて仕方ないリオーズは、ある噂をききつける。辺境守備隊のさらに向こう側の外縁部に、魔法使いたちがいるという。
リオーズはファウンデーションの存在を知り、戦いを挑むが……。
「ザ・ミュール」
数々の苦難を経て発展しつづけるファウンデーション。
ファウンデーション市民は誰もが、心理歴史学を極めたハリ・セルダンによって敷かれた第二銀河帝国への道は盤石であると、信じていた。どのような状況下にあっても、最後は必ずファウンデーションが勝利するのだ、と。ところが、ミュールが登場することで事態は一変する。
ミュールは突然変異体の超能力者。セルダンは、その存在まで予言することはできなかった。人々はパニックに陥り、主星トランターは陥落してしまう。
ファウンデーション市民のベイタとトラン夫妻は、ミュールから逃れてきた道化師マグニフィコをかくまっていた。彼らはぎりぎりのところで宇宙に脱出し、銀河の反対側にあるという第二ファウンデーションをさがすために旅立つが……。
やや文量の増えたシリーズ第二作。
セルダンの予測の正しさが証明された第一話は、登場人物たちもがんばってます。そして、セルダンの予測の限界が露呈した第二話。ミュールさえいなければ、予測は正しいものだったのですが……。
再読のため結末は知っていましたが、それでも楽しめました。なぜ人はそのように行動するのか? 考えさせられます。
《銀河帝国興亡史》第3作。
心理歴史学により、ハリ・セルダンは未来を予測した。銀河帝国は滅びる。首都トランターは、五世紀以内に廃墟になるだろう。セルダンは、帝国滅亡の混乱をより短い期間に終わらせるためにふたつのファウンデーションを設立する。
それから300年。
超能力者ミュールの出現により、セルダンのプランは瓦解してしまった。第一ファウンデーションが、ミュールの手に落ちたのだ。さらにミュールは、謎に包まれた第二ファウンデーションを解体しようとするが、その場所は知られていない。
ミュールは、転向者であるハン・プリッチャー将軍を第二ファウンデーションの探索に当てた。ところが、プリッチャーの報告は第二ファウンデーションは存在しない、というもの。ミュールは、非転向者であるベイル・チャニスに望みをかける。プリッチャーを監視役にし、宇宙へと送りだしたのだ。
チャニスは独自の理論を展開し、プリッチャーと共にタゼンダへと向かった。トランターから見ると、タゼンダこそが“星界の果て”であるというのだが……。
ミュールによる第二ファウンデーション探索が前半部分。後半は、ミュール後の第一ファウンデーションによる探索に移ります。
第二ファウンデーションはどこにあるのか?
その存在目的とは?
どんでん返しのくりかえし。
火星に第一歩を記したのは、2人のブラジル人だった。ところが生中継の最中、2人は息絶えてしまう。
遅れること2年。アメリカ遠征隊も火星に到着した。平穏無事とは言いがたく、ついに帰還することはなかった。
ジョン・ラドコフスキーは第三次火星探検隊の指揮官。5名の隊員を率いるが、国籍は様々。この探検隊は、納税者のきびしい目にさらされているのだ。金策のために、各国から宇宙飛行士を集め、火星クジも売り出しした。
幸運な当選者は、21歳のトレヴァー・ホイットマン。火星に挑むために訓練を積むが、隊員たちからは子供扱いされてしまう。
到着2日目。
帰還船〈ダルシネア〉にトラブルが発生し、地質学者のチャムロングが死んでしまった。残りの隊員も、予備機が存在しない以上、このまま死ぬしかない。
システム・エンジニアのライアン・マーティンは、ブラジル人たちが残した〈ジェズス・ドゥ・スル〉を使うことを思いつく。ライアンはまず、エストレラ・コンセリェイロに相談した。エストレラは、ブラジル隊の指揮官ジョアンの未亡人。ライアンの提案を受け入れるものの、〈ジェズス・ドゥ・スル〉のことはよく知っており、ライアンをいぶかしく思う。
ブラジル隊は、2人だった。〈ジェズス・ドゥ・スル〉も当然2人乗り。ブラジルは火星へ自国民を送りだしたものの、裕福ではない。余分な積荷のスペースなどない。
ラドコフスキーは、北極へ向かうことを決断するが……。
隊員たちの過去にふれながらの冒険行。火星の大自然が立ちはだかり、事故が起こり、全員が帰還できるわけではないと知れ渡り……。
さまざまなことが起こりますが、隊員たちの過去が語られながらの進行なので、やや淡白。盛り上がりに欠ける、というか。それでも充分楽しめるのは、著者がNASAの現役研究者だから。火星で起こる出来事に納得の嵐。
《銀河ヒッチハイク・ガイド》シリーズ第四作。(『銀河ヒッチハイク・ガイド』『宇宙の果てのレストラン』『宇宙クリケット大戦争』)
アーサー・デントは宇宙を8年間さまよい、ついに地球へと帰還した。しかし、地球はアーサーが旅立ったその日に、ヴォゴン人によって破壊されたはず……。
ヒッチハイクするアーサーを乗せてくれたのは、妹のフェンチャーチを精神病院へと送り届ける途中のラッセル。フェンチャーチは、人々が黄色い宇宙船の幻覚を体験したその日からおかしくなってしまったという。その黄色い宇宙船こそ、地球を破壊したヴォゴン人のものだった。
アーサーは、眠り続けるフェンチャーチにひと目惚れ。なんとか乗車し続けようとするが、降ろされてしまう。しぶしぶ、帰宅することに。
アーサーの自宅は、ほぼ出て行ったときのまま。ダイレクト・メールやホコリがつもっていて、謎の贈り物が用意されているくらいの違いしかない。あれから半年しかたっていなかったのだ。
アーサーは、元の生活に戻れることを喜び、元気をとりもどす。そして、フェンチャーチ捜しを開始するが……。
一方、銀河ヒッチハイク・ガイドの現地調査員フォード・プリーフェクトは、ガイドに掲載された地球の項目が“ほとんど無害”から変化するところを眺めていた。地球が破壊された以上、削除は必至。ところが、没になっていた案内文が次々と現れたのだ。
フォードは、地球へと向かうことを決意する。
ほぼ地球が舞台……とはいえ、やはりふつうでない現象が頻発。復活した地球では、宇宙船の幻覚だけでなく、イルカが消え失せる事件も。
疑問がすべて解決するわけではありませんが、このシリーズにしてはきれいにまとまってました。
2006年07月15日
アーシュラ・K・ル=グィン(小尾芙佐/訳)
『ロカノンの世界』ハヤカワ文庫SF
セムリは、由緒正しい家柄の出身。ハランの若殿に嫁ぐものの、両家とも貧乏暮らし。かつての栄華を憂い、先祖がなくしてしまった首飾りさえあれば、と探索にでかけた。首飾りは、ひとつの国家に匹敵するほどの貴重なものなのだ。
首飾りは〈星の君〉の博物館にあった。セムリはそれを首にかけ、ハランの城へと帰還を果たすが……。
一方、セムリに首飾りを返したロカノンは、セムリに心惹かれていた。セムリは、フォーマルハウト第二惑星のアンギャール。全世界連盟は主にグデミアールと接触していたが、ロカノンはより正確な調査の必要性を感じ、連盟に訴える。
ロカノンは、第一次民俗学調査隊を率い、フォーマルハウト第二惑星を訪れた。あれからほぼ50年。星の海を渡るロカノンにとっては、それほど昔のことではない。
調査隊の一行は半年ほどかけ手分けして調査するが、何者かに襲撃されてしまった。ロカノンは、セムリの孫であるハランの若殿モギーンと交流しており、最後に合流する計画だった。仲間と船を失い、呆然とするロカノン。手元の無線では、全世界連盟に連絡することもできない。
反逆者が攻撃したのは、ロカノンの一行だけではなかった。フィーア族の村、そしてレオハンの城が皆殺しの憂き目にあったのだ。特にフィーアは、伝説の一部あり禁断の対象。アンギャールにとって、フィーアへの攻撃は冒涜行為だ。
ロカノンは無線をいじり、敵の通信を傍受する。彼らがいるのは、南の大陸。即時通信装置アンシブルを持っているらしい。
南の大陸は、今度の調査で明らかにされるはずだったところ。モギーンにとっても未知の土地。フィーアの村の生き残りキョウも、わずかしか知らない。
ロカノンは、モギーンらと共に南の大陸へと旅立つ。全世界連盟にメッセージを送ることはできるのか?
《ハイニッシュ・ユニバース》もの。
セムリと首飾りの物語は、元々は独立した短編でほんの序章。これだけでも読ませますが、首飾りは最後まで、ロカノンの人生にかかわっていきます。
処女長編だけあって、少々あっさり目。が、深いところは別。いろいろなことが起こって、心理的な葛藤もあります。
名作。
ボアは、獲物を丸呑みしてしまう大蛇。6歳だった“僕”は衝撃を受け、ゾウを消化中の大蛇ボアの絵を描いた。ところが、おとなたちは理解してくれない。やがて“僕”は処世術を学び、画家になることは断念して飛行機の操縦士となった。
ある日、単独飛行中にトラブルが発生。“僕”はサハラ砂漠に不時着する。そして、孤独な夜をすごした翌朝、小さな変わった声で起こされた。
「おねがい……ヒツジの絵を描いて!」
声の主は、不思議な雰囲気をまとった少年。驚いた“僕”はヒツジではなく、あのボアの絵を見せる。もっと驚いたことに、少年はボアの絵を理解した。
それが、少年との付き合いの始まりだった。
少年は、小さな小さな惑星の主、王子さまだった。王子さまの星には、3つの火山と、一重の花びらのあっさりした花と、気位が高くトゲのある、しかし美しい花とがあった。
王子さまは自分の小さな星で日々をおくっていたが、徐々に、この美しい花のことを信じることができなくなっていき、旅立つ決心をする。自分が花のことを愛していて、花も自分のことを愛してくれていたのだと気がついたのは、旅立つ直前だった。
“僕”は、飛行機を修理しながら王子さまの話を聞く。飲み水は一週間分。ついにそれも尽きてしまい……。
メッセージがストレートに投げ込まれてくる、童話。説教臭くならないのは、王子さまが純真だからでしょう。
日本での版権が切れて、いろんな人が翻訳を発表してます。少々気になる訳文があるので、他の出版社のと読み比べしたくなりました。
9編のSFミステリを収めたアンソロジー。元々は13編だったものを、日本版は9編に絞って翻訳。どれもこれも楽しめる内容で、古書でも入手困難なのが悔やまれます。
トム・リーミイ(伊藤典夫/訳)
「デトワイラー・ボーイ」
ハードボイルド探偵もの。
バートラムは私立探偵。ある日、ときどき仕事を手伝ってくれるハリー・スピナーから奇妙な電話を受けた。同じホテルに投宿している若者デトワイラーの“妙ちきりん”なところを目撃したと言うのだ。バートラムはハリーに呼ばれてホテルへと向かうが、ハリーは殺された後。バートラムはデトワイラーを疑うが、彼には崩しようのないアリバイがあった。
ランドル・ギャレット(風見 潤/訳)
「イプスウィッチの瓶」
オカルト探偵もの。
産業革命後も魔法が生き残っている世界。英仏帝国イプスウィッチ研究所では、魔術について秘密の研究が行われていた。それは瓶に収められていたが、まんまと盗み出されてしまう。そして、行方を追ったスタンディッシュは遺体となって発見された。犯人は? そして、イプスウィッチの瓶の行方は?
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
「とどめの一撃」
フーダンニット(犯人捜し)もの。
マグナス・リドルフは宇宙の孤島〈ハブ〉で休暇中、人類学者のレスター・ボンフィルスにある相談を持ちかけられる。ボンフィルスは、ある女性に命を狙われているらしい。その後ボンフィルスは他殺体となって発見された。マグナス・リドルフは犯人探しを開始するが……。
ウイリアム・F・テンプル(風見 潤/訳)
「グリーン・カー」
ホワイダンニット(理由捜し)もの。
片田舎トレスカウォで交通事故が発生した。少年フランキィをはねて逃げ去ったのは、緑の車に乗ったまっ青な顔の男。事故を目撃したマードックは警察に通報し、ただちに非常線が張られるが犯人は忽然と姿を消してしまった。しかも、マードックが記憶したナンバーは、17年前、崖から転落した車のものだったのだ。
アイザック・アシモフ(福島正実/訳)
「歌う鐘」
倒叙ミステリ。
ペイトンの元に、ある設け話が舞いこんだ。月に、高額で取引されている“歌う鐘”が大量に隠されているというのだ。ペイトンは情報提供者にして共犯者のコーンウエルと共に、密かに月に赴き、まんまと“歌う鐘”を手に入れる。そして、コーンウエルを殺して儲けを独り占めするが……。
ラリイ・ニーヴン(風見 潤/訳)
「アーム」
密室もの
人類は、深刻な人口問題に対処すべく〈豊穣法〉(産児制限法)を採択した。その法を犯した夫婦を狩るのは、ARMの仕事のひとつ。ARMは、臓器故買屋を狩ったり、世界の均衡を揺るがす新発明にも目を光らせている。ARMのジルは、ある殺人事件に注目していた。天才科学者シンクレアが、自宅で何者かに殺害されたのだ。現場はビルの最上階。遺体の傍らには新発明の機械が作動中。シンクレアは、誰にどうやって殺されたのか? 機械の機能とは?
エドワード・ウォレン(浅倉久志/訳)
「マウスピース」
暗号解読もの。
ギャングのシュウォーツが銃撃され、意味不明の言葉を残し、この世を去った。それから39年。ベトナム帰りの学生ポールは、卒業論文とするために、シュウォーツの瀕死のうわごとをコンピュータ分析することになった。やがてポールのもとに、電話が入ったアタッシェケースが届けらる。シュウォーツがコンピュータの中で目覚め、あの言葉は、1000万ドルの隠し場所の手がかりだと言うのだ。ポールはアタッシェケースを持ち、シュウォーツの関係者に会いにいくことになるが……。
クリフォード・D・シマック(伊藤典夫/訳)
「ハウ=2」
法廷もの。
科学の進歩で人々の労働時間は短縮され、代わって趣味が台頭している時代。ゴートン・ナイトは、念願だった犬を〈ハウ=2〉社に注文していた。半機械半生物の犬は組み立て式。ゴートンは届いたキットにさっそく取りかかるが、それは犬ではなくロボットだった。手違いで、〈ハウ=2〉社が封印していた特殊な試作品ロボットが届いてしまったのだ。ゴートンは、好奇心からロボットを組み立てて使用してしまう。たちまち世間の知るところとなり、〈ハウ=2〉社から訴えられてしまうが……。
ウイリアム・テン(浅倉久志/訳)
「予定犯罪者」
刑罰もの。
クランドルとヘンクは、予定犯罪者。予定犯罪者は、事前に刑罰を受けることによって、1件の犯罪行為を許されている。2人は殺人犯としての重く厳しい刑期を終え、地球に帰還した。クランドルは、かつてスティーヴンスンのペテンにひっかかり、辛酸をなめさせられた過去がある。狙うはスティーヴンスンただひとり、のはずだったのだが……。