21世紀、地球上から90パーセントの人間が消え失せた。残された人類は時間をかけて立ち直り、ふたたび宇宙へと進出していく。超光速航法と超光速通信が実現すると、消えた人々の消息が伝わってきた。彼らは、さまざまな星系、まちまちな時代に移住させられていたのだ。
それが最初の、シンギュラリティだった。
人類にシンギュラリティをもたらしたのは、謎の高次知性体エシャトン。エシャトンは、人類の一部を民族的・心理的類縁性によってよりわけていた。
新共和国は、科学技術拒絶派と王政主義者の寄せ集め。建国から250年。いまだに保守的な社会体制を保っている。
ある日、新共和国の植民星ロヒャルツ・ワールドで、携帯電話がふりそそぐ事件が起こった。電話の主フェスティヴァルは、さまざまな情報と引き換えに3つの願いを叶え始める。社会は大混乱に陥り、その知らせは皇帝の元にも届けられた。
新共和国は、艦隊をロヒャルツ・ワールドへと派遣することを決めた。ただし、ただ向かったのでは到着に時間がかかりすぎる。そこで、過去へと時間をさかのぼる手法をとることに。エシャトンが禁じた因果律侵犯に抵触する可能性があるが、遡りをフェルティヴァルの到着直後にすることで、その問題は回避できると判断したのだ。
巡洋戦艦〈ロード・ヴァネク〉は、制御回路のアップグレードを請け負った地球人技師マーティン・スプリングフィールドと、因果律侵犯を疑う国連の兵器査察官レイチェル・マンスールを乗せて出航するが……。
シンギュラリティとは、解説によると「科学技術の幾何級数的進歩によって現在からは理解も予測もできない段階へと世界が到達する時点」。
電話がふりそそぐロヒャルツ・ワールドから始まるこの話、なかなか背景がつかめなくって、出だしは少々苦労しました。なんとなく分かってきて以降は、けっこう楽しめます。
新共和国でスパイ活動をしていたレイチェルは、技師のマーティンをスパイ活動に引きずり込みますが、実はマーティンもある機関のスパイ。マーティンをスパイと疑い乗船する秘密警察官ヴァシリーは、ふたりを執拗にマークします。
新共和国の軍事作戦は成功するのか?
フェスティヴァルの正体とは?
《銀河ヒッチハイク・ガイド》シリーズ。(『銀河ヒッチハイク・ガイド』『宇宙の果てのレストラン』『宇宙クリケット大戦争』『さようなら、いままで魚をありがとう』)
トリシア・マクミランは、テレビ・キャスター。かつてパーティで銀河帝国大統領ゼイフォードにナンパされ、バッグをとりに戻ったがために取り残されてしまった過去を持つ。以来トリシアは、別の人生をまるごとなくした喪失感を抱き続けてきた。
そのトリシアの元に、宇宙船がやってきた。地球を監視している彼らは、事故によって集団記憶喪失に陥り、今は太陽系第十惑星に潜伏中。占星術に関心を示しているのだが、それはあくまで地球上でのもの。そこで、地球と第十惑星との相対的な位置関係を計算に入れて、ホロスコープの再計算をトリシアに依頼してきたのだ。
トリシアはビデオカメラを片手に嬉々としてついていくが……。
トリシアがゼイフォードについていったバージョンの宇宙では、地球はヴォゴン人によって破壊されていた。
アーサー・デントは地球の生き残り。超空間の事故で、故郷の星だけでなく恋人フェンチャーチをも失ってしまう。アーサーは、DNAを提供して得た金で銀河をさまよい歩く。ついに、原始的な惑星で“サンドイッチ作り”として平穏な日常を手に入れた。
ある日アーサーの元に、かつての仲間トリリアンがやってきた。トリリアンは、アーサーの娘だといってランダムを紹介し、そのまま置いていってしまう。戦場での仕事があるから、と。途方にくれるアーサーだったが……。
一方、銀河ヒッチハイク・ガイドの現地調査員フォード・プリーフェクトは本社に帰還していた。ところが、ガイド社は〈インフィニディム・エンタープライズ〉社に買収された後。しかも、宇宙の多次元性を利用して、ただひとつの『ガイド』を何十億何百億と売りさばく計画が進んでいたのだ。
反発するフォードは、閉ざされた13階の研究開発部で『銀河ヒッチハイク・ガイド』第二号を発見する。表紙に書かれていた文字は
パニクれ
危険を嗅ぎ取ったフォードは、それを持ち出すことを試みるが……。
シリーズ最終巻。
作品としてきっちりまとまっている上に、前作の疑問が氷解したり、アーサーに告げられた未来の出来事が実際に起こったり、読んでよかった内容でした。とはいえ、ケリのつけ方の暗いこと暗いこと。著者の死去で続編が書かれなかったのが残念です。
進化した人工知能は〈特異点〉を突破し、超知性体“後人類”となった。後人類は人類に反旗を翻し、大戦争・強制昇天を巻き起こす。犠牲となったのは、ネットに接続していた何十億という人間。精神が捕らえられてしまったのだ。そして、後人類と共にいずこかへ消え去った。
それから300年。
カーライル家は、後人類の遺物をサルベージしてまわっている親族結社。宇宙の四大勢力のひとつだ。権力の源は、後人類が残したワームホール・ゲートと、それがもたらす転送網。
ルシンダ・カーライルは、新たに発見されたワームホールを通り、惑星エウリュディケにやってきた。探査チームを率いるのは始めて。失敗は許されない。
エウリュディケは、テラフォーミングされた世界だった。しかも人類以外の文明の痕跡がある。調査をはじめた矢先、ルシンダの一行は現地人に襲撃されてしまった。ゲートは閉じ、ルシンダはエウリュディケに残されてしまう。
エウリュディケに居住していたのは、強制昇天を逃れてきた人々。この星系に孤立し、大戦争からどのくらいがたっているのかも分かっていない。ルシンダたちの登場は、彼らに衝撃をもたらした。ルシンダは、反体制勢力・帰還派に取引を持ちかけるが……。
一方、エウリュディケのサイラス・ラマントは、宇宙空間にいた。生業は、採鉱。ちょうど有望な小惑星を発見したところだ。ところが、エウリュディケから発せられた信号で、船のAIがなにかに汚染してしまった。何者かがラマントの船を仲介にして、小惑星上に戦闘マシンを作り始めたのだ。
エウリュディケでなにがおこっているのか?
最初の任務に失敗したルシンダの起死回生策とは?
カーライル家と、農夫であるアメリカ・オフライン(AO)、ハッキングに興味を示す啓蒙騎士団(KE)、共産主義の宇宙植民者(DK)。それら四大勢力の関係は、序盤にまとまった説明があります。とはいえ、少々混乱しながらの読書でした。
ルシンダに敵対するアップロード人格シュレイム。ルシンダの計画に協力することになる昇天狂ジョンストンとヒギンズ。引き延ばされた生と、やり直しのできる死。おもしろいところは多々ありますが、抜群とは言いがたい、そんな感じ。
「ギヌンガガップ」(小川 隆/訳)
失業中のアビゲイルに提示されたのは、ブラックホールを使って星間旅行をする装置の実験台。高リスクだが条件はいい。アビゲイルは仕事を受けるが、実際に使うのは、蜘蛛型エイリアンの作ったワームホール転送装置だった。人間を蜘蛛族の宇宙に送り込もうという計画なのだが……。
転送された後の自分も同じ自分なのか?
考えさせられる作品。
「クロウ」(金子 浩/訳)
クロウは、トリックスター。美女アニーと共に、車に乗って時代を駆け巡っている。アニーは、実はエリック卿の妻。アニーを取り戻そうとするエリック卿に2人は捕らえられてしまい……。
神話世界を下敷きにした作品。最初はなにがなにやら分からないのですが、少しずつ話が見えてきます。基礎知識が必要かも。
「犬はワンワンと言った」(幹 遥子/訳)
ペテン師ダージャーは、合衆国からやってきたプレシュー卿をスカウトした。プレシュー卿は、改造犬。人間の言葉をはなし、二足歩行をする。2人は西ヴァーモント領の外交官と偽り、イングランド女王謁見を願い出るが……。
ヒューゴー賞受賞作
ファンタジックなSF。2人の息はぴったりで、面白く、楽しめます。
「グリュフォンの卵」(小川 隆/訳)
月面は、多企業共同開発地域となっていた。武器に直結する部品が作られ、地球低軌道上に送られていく。そして、ついに地球で戦争が勃発。月も、なんらかの生物学的兵器の攻撃を受けてしまった。人々は正気を失い、無事だったのは100人足らずの人々。彼らは、なんとか生き残ろうと奮闘するが……。
まとまった文量のある中長編。この危機的状況を乗り切るため、月の人間たちがくだした結論とは?
「世界の縁にて」(幹 遥子/訳)
学生のドナ、ピギー、ラスは、そろって〈世界の縁〉を見に出かけた。〈縁〉は、深い深い穴。3人は階段を見つけ、降りていく。階段はどこまでも、どこまでも続いていた。ドナはラスに気があるのだが、言い出せない。様子のおかしいラスを気遣うが……。
スタージョン記念賞受賞作
いくつかの噂が語られ、軽口がたたかれ……。向こうになにがあるのか? 少々怖い、幻想的な作品。
「スロー・ライフ」(金子 浩/訳)
土星の衛星タイタンを調査するため、リジイとコンスエロは降りていった。サポートするのは、〈クレメント〉に残るアラン。リジイとコンスエロは別れて資料を採取するが、リジイの機材にトラブル発生。リジイは立往生してしまう。そんな最中、リジイは不思議な夢を見て……。
ヒューゴー賞受賞作
異星人とのファースト・コンタクトもの。
「ウォールデン・スリー」(小川 隆/訳)
軌道コロニー・ウォールデンは爆弾テロを受け、再建中。ウォールデン人たちは、感情コントロールを行うことで、平和を達成しようとしたのだが……。
「ティラノサウルスのスケルツォ」(小川 隆/訳)
タイムトラベルが実現し、白亜紀を舞台にした宴が催されていた。恐竜の跋扈する白亜紀に、今夜も富裕層が集う。実は、時間操作は人類の発明したものではない。それは〈変わらざるもの〉から与えられたもの。その秘密を知る人々は、権利を奪われぬよう、タイムパラドックスに目を光らせているのだが……。
ヒューゴー賞受賞作
こんぐらがった時間が、徐々にほどかれていきます。タイムトラベルができるゆえの人間関係。絶妙な作品。
「死者の声」(金子 浩/訳)
木星の衛星イオ。突然の予期せぬブリザートにあおられ、ムーンローヴァーは横転してしまった。乗車していたのは、マーサとバートン。マーサは、バートンの死亡を確認する。ムーンローヴァーはもはや使えず、着陸船までは45マイル。マーサは、踏破することを決意した。バートンの遺体を曳きながら。道中、マーサは謎の声を聞く。その声の正体とは?
ヒューゴー賞受賞作
異星人とのファースト・コンタクトもの。
歩き続けるマーサの息づかいの聞こえてくる作品。
「時の軍勢」(金子 浩/訳)
不況下、エリーは簡単な仕事に就いていた。オフィスに8時間、ただいるだけの仕事。注視しなければならないのは、物置のドア。中はからっぽのはずなのだが……。エリーの雇い主はミスター・ターブレッコ。エリーはターブレッコに怒りを覚え、物置のドアを開けてしまう。そこにあったものとは?
ヒューゴー賞受賞作
ヴォクト『地球最後の砦』へのオマージュだそうで、なるほど、そんな感じ。読んでる最中は、気がつきませんでしたが。
コラプサージャンプ航法が発見された。縮潰星(コラプサー)を介し、ジャンプにかかる所要時間はゼロ。この画期的な手法により人類は版図を拡大させたものの、それは異星人をももたらした。
最初の事件が起こったのは、牡牛座(トーラン)のアルデバラン星の近く。彼らはトーランと名付けられるものの、その正体は分からない。人類は、敵の姿すらつかめぬまま、戦争に突入していく。
ウィリアム・マンデラは、物理学を修めたばかりの若者。教師の免状をとろうとした矢先、〈エリート徴兵法〉によって招集されてしまった。
知性、肉体、ともに秀でたエリートが集められた訓練で、マンデラたちは死に直面する。軍隊式のやり方を冷めた目で見るマンデラ。過酷な訓練を生き延び、強化服を身につけ、実際にトーランと対峙する。
最初の衝突は、人類の勝利に終わった。トーランを生け捕りにすることはできなかったが、死体の回収には成功。しかし、一体のトーランの逃亡を許してしまった。
戦況が悪化していく中マンデラは、主観時間で2年の従軍期間を終え、除隊を許可される。地球に帰還するものの、相対性理論による時間のズレにより、そこでは26年の歳月が流れていた。社会は激変。これまでの価値観は通用しない。
マンデラにとって、もはや地球は居心地の悪い故郷でしかない。やむなく軍隊に入り直すものの、新たに送られてくる新兵はどんどん異質なものになっていく。マンデラはギャップに苦しみ、離ればなれになってしまった恋人を想うが……。
ネビュラ賞・ヒューゴー賞受賞。
反戦小説。救いのない戦いと、突如おとずれる終戦と、救われる結末。
後から書かれた『終わりなき平和』を先に読んでいて、こちらはもういいや、と思っていたのですが、読んでみたら傑作でした。
ダニエル・グリンは、休職中の大学準教授。妻に先立たれ、茫然自失な生活を送っている。休職期間は同時に研究期間でもあるのだが、手がつけられずにいた。
ある日、8歳になる息子ショーンが悪夢にうなされる。ダニエルはあやそうとするが、うまくいかない。自分も壊れてしまいそうなのだ。眠ったショーンの手には、なぜか蜂鳥がにぎられていた。
マイケルは、ダニエルの2歳年上の兄。売れっ子のCMディレクターだ。マイケルは、ロサンゼルスに帰る飛行機に搭乗中、なにかがおかしいことに気がついた。記憶をたどり、撮影の様子を思い出していく。
マイケルが足を運んでいたのは、アマゾンの熱帯雨林。マイケルはひらめきから、ウィオーンピー族の族長を使ったカットを思いつく。ところが撮影当日、肝心の族長が現れない。様子を見に行くと、族長はハンモックで昏々と眠り、その手には蜂鳥が握られていた。
ロサンゼルスについたマイケルだったが、謎の二人組に拉致されてしまう。男たちは、蜂鳥のはなしを持ち出すが、マイケルには理解できない。どうやら、弟のダニエルと間違えられてしまったらしい。
一方、ダニエルのところにも謎の男が訪れていた。国家安全保障局特別捜査官を名乗るタカハシだ。マイケルは政府の仕事をしており、秘密を漏らしてしまったのだという。マイケルが握っているのは、きわめて重要な暗号。ダニエルは、マイケルを捜すように要請を受ける。そのためにタカハシは、ショーンの身柄を確保していた。
ダニエルはショーンを取り戻すため、マイケル探しをはじめるが……。
キーワードは、蜂鳥。
奇異な世界の秘密は、かなり早い段階で暴露されます。その世界の中で、とまどい、行動するマイケルとダニエルの兄弟。
いろいろなことが分かった後で読み返すと、意味不明な箇所が雲散霧消して消えていきます。そんな話。少々ややこしいのですが、一風変わったおもしろさでした。
中国は、異次元転移装置を開発した。それによって異次元への道が開かれるが、実は、中国が開発したというのは大嘘。奪った技術だったのだ。
装置は未完成で、ピッツバーグが街ごと、魔法が支配するエルフホームに転移してしまう。盗んだ情報は充分ではなく、開発者は殺害された後。修正することもできない。
以降ピッツバーグは、月に1日だけ、元の場所に戻るサイクルに入ることに。このシャットダウン・デイのおかげで、住民たちはなんとか生活を維持していた。
アレクサンダー・グラハム・ベルこと通称ティンカーは、ピッツバーグで産まれ育った18歳の天才少女。ティンカーの父は、異次元転移装置を開発し、殺されてしまったレオナルド・デュフェ。ティンカーは祖父に育てられた。
シャットダウンの直前、ティンカーのスクラップ場にエルフのウィンドウルフが逃げ込んできた。ウィンドウルフは魔法犬の群れに追われており、大ピンチ。ティンカーは負傷しながらも、気転をきかせてウィンドウルフを助ける。しかし、ウィンドウルフは重傷を負ってしまった。
シャットダウンのために、エルフの治療院に行くことはできない。しかも、ウィンドウルフの命を狙う輩が現れる。ティンカーは、いとこのオイルカンと共に難局を乗り切り、エルフホームに戻った後、ウィンドウルフを治療院へと担ぎ込む。おかげでウィンドウルフは一命をとりとめた。
実はウィンドウルフ、ただのエルフではなく、〈風の一族〉の長。ティンカーは、ピッツバーグ産まれとはいえエルフの慣習に詳しくなく、政治にも無頓着。知らず知らずのうちに、ウィンドウルフの求婚を了承してしまう。
重要人物となってしまったティンカーだったが……。
SFというより、ファンタジー。
事前の情報取得(ピッツバーグが別世界に転移していて……云々)がなかったら、おそらく途中で投げ出していただろう作品。すらすら読めてしまうため、大事なところまで読み飛ばしてしまったのか、世界の有様が見えてこない作品でした。ピッツバーグがどんな街なのか、基礎知識のなさが悔やまれます。
アンドルー・ウェストリーは、研修中の新聞記者。養父は喜んでくれたが、アンドルーには適職とは思えずにいる。気になっているのは、自分の一卵性双生児のこと。
アンドルーは養子で、実親のことは覚えていない。記録を調べ、自分がニコラス・ジュリアス・ボーデンであることを知った。と同時に、常日頃から存在を感じている一卵性双生児が、実は存在していないことも。アンドルーは、ボーデン夫妻のただひとりの子供だったのだ。釈然としないアンドルー。
そんなある日、アンドルーの元に一冊の本が送られてくる。アルフレッド・ボーデンの『奇術の秘法』だ。送り主に思い当たるところもなく、アンドルーにとって奇術は興味の対象外。
アンドルーは取材先で、本を送ってきたケイト・エンジャと出会った。実は、取材はケイトの仕組んだこと。
ケイトはアンドルーに、一卵性双生児がいるかどうか尋ねる。驚くアンドルー。双子の兄弟は、記録には残されていないのに、ケイトはなぜそのことを尋ねたのか?
ケイトはさらに、アルフレッド・ボーデンがアンドルーの曾祖父であると告げる。その因縁の相手が、同じく奇術師のルパート・エンジャ。ケイトの曾祖父だった。
ボーデンとエンジャの間の確執とは?
アンドルーの双子は存在するのか?
アンドルーの登場に始まり、第二部は、ボーデンが著わした『奇術の秘法』そのまんま。暴露本ですが、そこには奇術師ならではのトリックがあります。その後、ケイトの生い立ちが簡単に語られ、エンジャの日記へと続きます。
空想科学小説のような雰囲気のある作品。
ボーデンとエンジャ、それぞれが演じた瞬間移動術の秘密とは?
最後にすべてが明らかになって、すっきりできました。
はるか太古、惑星ハインの人々は多くの植民惑星を持っていた。やがて、文明は衰退。植民地は放棄され、忘れられていった。
時は流れ、再興したハイン文明は、かつての植民地を再発見していく。各惑星では独自の文化が花開いており、人々は惑星連合〈エクーメン〉を設立した。
気候ゆえ惑星〈冬〉とも呼ばれるゲセンは、見出された惑星のひとつ。なんらかの実験だったのか、住人たちは両性具有人で独自の社会を築き上げている。カルハイドとオルゴレインの二大国が対立しているが、彼らは戦争を知らない。
使節に選ばれたゲンリー・アイは、単身、カルハイド王国を訪れた。使命は、同盟を結び、ゲセンを〈エクーメン〉の一員とすること。
カルハイドには、シフグレソルという社会的権威に関する重要な要素があった。翻訳不能なシフグレソルという人間関係に、アイは戸惑う。そんなアイの面倒をみたのは、宰相エストラーベンだった。ところが、ようやくアルガーベン王に謁見できたその日に、エストラーベンが失脚してしまう。
王は、エストラーベンを二枚舌と称した。動揺するアイ。即時通信装置のアンシブルなどを使って〈エクーメン〉を説明するが、説得に失敗してしまった。
アルガーベン王との交渉に失敗したアイだったが、まだ諦めてはいない。ゲセンには、もうひとつの大国オルゴレインがあるし、カルハイド国内にも情報が不足している地域がある。アイは、可能性を求めて旅に出た。
一方、追放されたエストラーベンは、オルゴレインへと亡命していた。アイが入国を求めていることを知り、根回しをするが……。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作。
《ハイニッシュ・ユニバース》シリーズの内の一冊。
再読のため、結末や流れは知った上での読書。それで余裕が生まれたのか、前回よりも楽しめました。
たびたび出てくる、ゲセンの民話。それが意味するものはなんなのか?
性差のない社会のありようは?
シフグレソルとは?
いろいろと考えさせられる作品です。名作。
ナイプは、母星から遠く隔たった宇宙で事故に遭ってしまった。高度な知性体ははるかかなた。助けを求めることはできない。ナイプは、前方の恒星系に命を懸ける。そこには、理性のある生物が棲んでいるようなのだ。
ナイプは第三惑星に不時着した。出会ったのは、武器を手にした生物。ナイプはとっさのことで殺してしまうが、その処置に苦慮する結果に。
未知の生物は、知的生命体なのか?
知性体に操られる存在なのか?
ナイプは八ヶ月間潜伏し、人間たちの言葉を独学すると人間社会に接触した。
一方、はじめて異星人と出会った人類。ナイプやその種族のことを知りたがるが、対処法を誤ってしまう。相手の思想を知らないままに宗教を語り、ナイプを激怒させてしまったのだ。会談していた人々は殺されてしまう。しかも、骨までしゃぶられていた。
それから10年。
ナイプの恐怖は人々を震え上がらせていた。ナイプに対峙するのは、マンハイム大佐率いる地球中枢機構。彼らは、ナイプと対決させるために改造人間をつくりあげた。それが、バート・スタントン。
バートは、5年の歳月をかけて肉体と神経組織を限界近くまで引きあげられたスーパーマン。その代償として、記憶に空虚な欠落がある。失われた記憶を求めるバート。
ある日バートは、小惑星帯で活躍している探偵スタンリイ・マーティンのニュース記事を読んだ。バートは、それがマート・スタントンであることを思いだす。その顔は、バートにそっくりだった。
侵略テーマのSF。
ナイプにはナイプなりの倫理観があって、帰還のために、少しずつ準備を進めていきます。と同時に、自分がいかに紳士であるか、隠れていると思われる知性体に訴えかけます。その静かで決然としたこと。
実は、地球中枢機構は6年前からナイプの居所をつかんでいて、より大きな目的のために、犠牲を覚悟の上で生捕りしようとします。そのために、ときには命を投げ出して行動する人々。
1963年の作品だけあっていろいろと古いところはありますけれど、それにしたって、傑作。