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敵は海賊・海賊版』神林長平
敵は海賊・猫たちの饗宴』神林長平
敵は海賊・海賊たちの憂鬱』神林長平
敵は海賊・不敵な休暇』神林長平
敵は海賊・海賊課の一日』神林長平
 
敵は海賊・A級の敵』神林長平
グリフィンの年』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
大誘拐』天藤真
シャーロック・ホームズのSF大冒険』アンソロジー
もしも願いがかなうなら』アン・マキャフリイ

 
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2007年01月02日
神林長平
『敵は海賊・海賊版』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第一巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・海賊課の一日』『敵は海賊・A級の敵』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。独立した組織となった海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課の最強チームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 海賊を引退したカルマは、火星の無法地帯サベイジにバーを開いていた。楽しみは、ときどきヨウメイがやってきて、物語を聞かせてくれること。
 ある日カルマの店に、ヨウメイを尋ねてランサス星系人シャルファフィン・シャルファフィアがやってきた。シャルは、王女づきの首席女官。女官に化けていた王女が火星で失踪し、不思議な占い師にこう告げられた、というのだ。
 王女を救えるのは、ヨウメイだけ。
 一方、ヨウメイを追うラテルチームは、天使の来訪を受けていた。ラジェンドラは、天使に教えられた座標空間を目指すが、未知の空間から現れたのは、火星のラカート州首都。そこにも、ラテルチームの面々がいて……。

 少々入り組んだ、ファンタジックなスペースオペラ。
 ふたつのラテルチームに、ふたりのヨウメイ。それだけでなく、カルマがヨウメイから聞いた物語を、著述支援用人工知能が文章化した、という形式をとってます。それらにからまる、ラテル、アプロ、ラジェンドラの言葉の応酬。
 言葉の応酬って、はまっていれば楽しいんですけど、ちょっと物足りないかも。セリフだけで展開しないでよって。
 ほぼ20年ぶりの再読にしては、楽しめましたけど。


 
 
 
 
2007年01月03日
神林長平
『敵は海賊・猫たちの饗宴』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第二巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・海賊課の一日』『敵は海賊・A級の敵』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。独立した組織となった海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課の最強チームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 ラテルとアプロは、ついに海賊課をクビになってしまった。海賊を捕まえるためと称した破壊行為が尋常でなく、経費がかかりすぎるというのだ。
 ラテルは、海賊課チーフ・バスターに再就職先を紹介される。土星の衛星タイタンはメカルーク市にある、レアキック3Dビュウ映画会社。バスターの知人、リュウ・サントスを尋ねろというのだが……。
 バスターの真意が読めないラテル。ラジェンドラへの搭乗も禁止されてはいない。海賊になってやると息巻くアプロをつれて、レアキックへと向かった。
 レアキックに着いてみると、リュウ・サントスはCATシステム3086に接続された状態。意識がない。CATシステム3086は人間の無意識レベルまで侵入してかきまわす、禁止された装置。レアキックは海賊の巣と化していたのだ。
 ラテルとアプロは、建造中の海賊船を破壊し、リュウ・サントスを救出した。その功績からか、元々バスターの計略だったのか、ふたりのクビは解除され、改めて任務を与えられるが……。

 アプロの精神凍結能力が大きくとりあげられる一冊。アプロは自在に、人の感情をある時点で固定してしまいます。アプロに同情したときに、感謝したくなったときに……。現在の本来の感情とのギャップが面白味を醸し出します。
 さらに、海賊が新しいCATシステムでやろうとしたことが、知性体をネコにしてしまうこと。アプロにはなりたくないと、必死に抵抗するラジェンドラがいじましい。
 少々“遊び”が前面にでている一冊。その遊び具合が気に入れば、おもしろがれます。


 
 
 
 
2007年01月04日
神林長平
『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第三巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・海賊課の一日』『敵は海賊・A級の敵』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。独立した組織となった海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課の最強チームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 太陽圏連合の次期首長候補マーク・マーマデュークが火星にやってきた。マーマデュークはラバン=ランダムを、火星の無法地帯サベイジの視察に派遣する。マーマデュークは、サベイジを清浄化するつもりなのだ。さらには、海賊ヨウメイと対決する気でもある。ラテルチームは護衛として同行することに……。
 ラテルはサベイジで、故買屋チェンラから接触を受けた。マーマデュークは人間ではない、消してくれ、と言うのだ。海賊ではないが、海賊よりたちが悪い、と。
 ラテルは、ラバンを無事につれ戻したものの、マーマデュークの泊まるホテルを警備中、太陽圏連合保安省の情捜官たちと遭遇する。彼らは、マーマデュークが半年前に死亡していた事実をつかみ、事情聴取にやってきたのだ。しかも、マーマデュークなる人物の実在そのものが疑われていた。
 真相が分からないままマーマデュークを守ろうとするラテルだったが、マーマデュークが暗殺されてしまう。しかも、遺体が何者かに奪われてしまった。
 犯人は、チェンラか?
 ヨウメイか?

 マーマデュークを記録から抹殺したのは、ヨウメイの仕業。その仕事の鮮やかなこと。その分、いつも通りのおしゃべりが気になったのでした。親しい海賊ラック・ジュビリーにセリフで説明するために、すごみが薄れてしまった感じ。
 弱い犬ほどよく吠える。
 解説は結構。ヨウメイは、だまってて欲しい……。


 
 
 
 
2007年01月05日
神林長平
『敵は海賊・不敵な休暇』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第四巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・海賊課の一日』『敵は海賊・A級の敵』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。独立した組織となった海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課の最強チームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 海賊課チーフ・バスターが、長期休暇をとるという。バスターは、休暇中のチーフ代理に、ラテルを指名した。アプロとラジェンドラも一緒にだ。
 休暇中にバスターが滞在するのは、超高級リゾート地バンデンパース。金の力だけでは入れない、資格審査が厳しい特殊な地域だ。バスターはそこで、自伝を執筆するという。
 一方、無法地帯サベイジでは、海賊課の特殊捜査官アセルテジオ・モンタークがヨウメイを張っていた。アセルテジオには、自分の顔や特徴を相手に記憶させない能力がある。それを使ってヨウメイに迫ろうというのだ。
 実はアセルテジオには、バスターも知らないもうひとつの能力があった。他人の思考を舞台に、人々の意識を巻き込んで現実化することができるのだ。
 アセルテジオが利用したのは、バスターの意識だった。

 ヨウメイを仕留めるために、海賊的に行動するアセルテジオ。相手がヨウメイだけに気が気じゃないラテル。アセルテジオに利用されているとも知らずに休暇を満喫しようとするバスター。
 物語世界が舞台だけあって、かなり入り組んでます。
 さすがのヨウメイも罠にかかって、行動が制約されてしまいます。が、さすがに一筋縄ではいきません。アセルテジオを倒すために画策します。さらに、ヨウメイの表の顔、政財界の重鎮ヨーム・ツサキも登場。アプロも大活躍で、盛りだくさんな内容でした。


 
 
 
 
2007年01月06日
神林長平
『敵は海賊・海賊課の一日』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第五巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・A級の敵』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。独立した組織となった海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課の最強チームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 ラジェンドラは、定期徹底検査を受けてリフレッシュ。が、最終日に、翌日がアプロの666歳の誕生日であると算出してしまった。喜ぶアプロ。
 ラテルチームは、不吉な予感に襲われた海賊課チーフ・バスターによって、苦情処理係を命じられた。より苦情を増やさないようにと、言いつけられて。
 かかってくる映話は、苦情のための苦情が大半。それらをさばいていくラテル。そこへ、叔父のグライドからの通信が入った。しかも、過去からのものらしい。
 ラテルは、宇宙を放浪しながら交易する宇宙キャラバンで生まれ育った。ラウル・キャラバンはラテルが5歳のとき海賊に襲われ、生き延びたのはラテルただひとり。ラテルは、父方の親戚コンパレン家にひきとられる。ラテルを可愛がり、海賊課に入ることを薦めてくれたのが、グランドだった。
 グランドは、ラウル・キャラバンが海賊に襲われた事件の再捜査を求めていたのだ。囮捜査の失敗なのではないか、と。ラテルは、過去へとつながった回線を利用して、事件の真相に迫ろうとするが……。

 アプロの誕生日という特殊空間で起こる、大事件。ラテルの夢に始まるラウル・キャラバンの事件は、ほんの序章。過去と現在と未来がつながります。
 実は、このシリーズは連続したものではなく、断続的に補完し合ったパラレル状態にあります。その告白は、シリーズ第六巻『敵は海賊・A級の敵』の作者によるあとがきにあります。このシリーズと接するときには、ただの知識の積み重ねではなく、どこがつながっていて、どこがつながっていないのか、見極めながら読まねばなりません。
 まるで、シリーズそのものが量子力学的。シリーズ開始直後は、セリフ主体で子供向けでしたけどね、今では一筋縄では行きません。


 
 
 
 
2007年01月07日
神林長平
『敵は海賊・A級の敵』ハヤカワ文庫JA

《敵は海賊》シリーズ第六巻。
(他に「敵は海賊」(『狐と踊れ』収録)『敵は海賊・海賊版』『敵は海賊・猫たちの饗宴』『敵は海賊・海賊たちの憂鬱』『敵は海賊・不敵な休暇』『敵は海賊・海賊課の一日』)
 シリーズ概要・・・海賊を取り締まるため、広域宇宙警察に対宇宙海賊課が設立された。海賊課は最上級の強制調査権を与えられ、海賊と対峙していく。しかし、強力な武器を有し、海賊を相手の派手な市街戦もいとわない姿勢に、公認された海賊と陰口を叩かれてもいた。
 ラウル・ラテル・サトルと黒猫型異星人アプロは、火星ダイモス基地所属の海賊課一級刑事。A級知性体を搭載した対コンピュータ・フリゲート艦、ラジェンドラに搭乗し、海賊を血祭りにあげてきた、海賊課でもっとも優秀なチームだ。ただし、苦情や損害賠償も桁外れに多い。
 ラテルチームが宿敵と狙うのは、一匹狼の海賊、ヨウメイ・シャローム・ツザッキィ。太陽圏の影の支配者とも呼ばれるが、目立つことを嫌い、表にはなかなかでてこない。そのため、海賊課刑事や、海賊の中にさえ実在を信じない者がいる。

 マグファイヤ・キャラバンの残骸が発見された。事故が、事件か。海賊の仕業と疑われ、原因究明は海賊課の手に委ねられる。担当するのは、一級刑事セレスタン・エアカーン。
 セレスタンの捜査の過程で、マグファイヤ・キャラバンの一件はヨウメイの知るところとなった。実は、マグファイヤ・キャラバンは海賊が偽装したもの。ヨウメイは、キャラバンを率いていたマーゴ・ジュティを知っていた。マーゴが、そう簡単にやられはしないということも。
 マグファイヤ・キャラバンを完膚なきまでに叩きのめすことができるのは、ヨウメイの海賊船カーリー・ドゥルガーだけ。しかし、ヨウメイはカーリーにそのようなことを命じてはいない。
 ヨウメイは、親しい海賊ラック・ジュビリーに、総力をあげて調査するように頼んだ。自分の知らないことが起こっていることは我慢がならないのだ。
 海賊たちが動き始めた情報は、海賊課にも入ってきた。実際に動いているのはジュビリーだが、背後にヨウメイがいるのは間違いない。ヨウメイが相手と知って、ラテルチームもセレスタンに協力することになった。
 マグファイヤを破壊したものの正体とは?

 小物海賊のラクエシュ・ホッチを利用しようとする、セレスタン。逆に、セレスタンを利用しようとラクエシュに接触するジュビリー。うまいものが喰いたいために、セレスタンに同行するアプロ。
 さまざまな思惑がからみあって、結末へとなだれこみます。
 言葉の応酬あり、長い説明セリフあり、回想あり、次作へつながりそうな出来事あり。


 
 
 
 
2007年01月08日
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(浅羽莢子/訳)
『グリフィンの年』創元推理文庫

 魔法世界における、実業家チェズニー氏の巡礼観光団の顛末を書いた『ダークホルムの闇の君』から8年。魔術師大学では、ケリーダ総長をはじめ、年嵩の魔術師たちがことごとく引退していた。代わって運営を担っているのは、若手魔術師による運営委員会。
 度重なる学費の値上げで、今年の新入生はわずか6名。依然として大学は赤字に苦しんでいた。委員長のコーコランは、高い学費を払える学生の親ならば、懐に余裕があるにちがいないと目論む。無心の手紙をしたためて送る計画だ。ところが、新入生に話を聞いてみると実情はまったく正反対。素性を明かさないオルガをはじめとして、全員、なんらかの事情を抱え、大学入学を秘密にしているか反対されていたのだ。
 手違いから、無心の手紙は発送された後。
 さっそくやってきたのは、金持ちで重要人物であるダーク魔術師だった。ダークは大学教育に批判的。娘エルダの将来を思って入学は許すが、同時に忠告もする。
 40年もの間、大学の男性教官は、観光会用の先導魔術師の役を担ってきた。そのためにかなりの時間が奪われ、教える内容はお粗末なものと成り果てた。現在の教授陣は、そのお粗末な内容で育った世代なのだ。
 エルダと新入生の友だちは、ダークから、大学が資金不足であることを聞く。寄付を頼む手紙のことも。動揺する一同。
 中でも東の首長国出身のフェリムは、土気色に震えるばかり。首長に大学にいることが知られれば、刺客を放たれるのだ。大学は結界で守られていると言うが、刺客も魔法を使う。結界は破られるかもしれない。
 エルダたちは図書館から本を借り、術でフェリムを護ろうとするが……。

 新入生は全員個性的ですが、中でも際立つのは、ダークの娘エルダ。エルダは、人間と鷲と獅子と猫からなる卵から産まれたグリフィン。大学生というより中学生的なノリが巨体に収まってます。
 収まっているのはエルダだけでなく、物語そのものも。ひとつだけでも一作品書けそうな大きな事件が、コンパクトにまとまって、次から次へと語られます。息つく間もなく。
 軽妙に読ませるのは、前作『ダークホルムの闇の君』と同じく。登場人物の多さも相変わらず。おもしろいんですけれど、少し、ついていきにくいところもありました。


 
 
 
 
2007年01月21日
天藤 真『大誘拐』創元推理文庫

 孤児の戸並健次は、スリ師へと成長した。しかし、何度か警察のお世話になり、社会復帰を熱望するようになる。そのためには、先立つものが必要だ。健次は、そのための犯罪計画を練りあげ、この仕事だけのための仲間を求めた。
 健次が見出したのは、実直な秋葉正義と、借金の形に妹を要求されている三宅平太。ふたりは、健次の計画が誘拐と聞いて猛反対するものの、健次に感化され、命がけの作戦に同意する。
 かくして計画は実行に移された。
 標的は、柳川とし。御年82歳。紀州随一の大富豪で、名望家。持山は実に、4万ヘクタール。健次がかつて飛び出した孤児院の大スポンサーでもあった。
 健次らが柳川家をはりこんで、一ヶ月。それまで屋敷から一歩もでなかったとしが、ついに外出した。どうした理由からか、山歩きを始めたのだ。お供するのは、小間使いただひとり。
 首尾よく、誘拐に成功した健次たち。ところがとしは、自身の身代金が5000万円と聞いて、激怒する。100億円を要求しろというのだ。老いたとはいえ、大柳川家の当主。5000万円では末代までの恥じさらし、というのだ。
 一方、としが誘拐された一報は、やや遅延があったものの和歌山県警本部に伝えられた。本部長の井狩大五郎は、としを大恩人と仰いでいる。この知らせに烈火の如く怒り、特別捜査本部を県警本部に設置。とし救出のための陣頭指揮をとる。そこへ舞いこんだ犯人からの手紙にびっくり仰天。
 身代金は、100億円。
 犯人ら“虹の童子”と、井狩との戦いが始まるが……。

 1978年の発表。30年近く前の5000万円もかなりな高額ですが、100億円たるや……。
 腹が座っていて、根は気のいい三人組。思いがけず誘拐されてしまったものの、どこかその状況を楽しんでいる老婦人。激怒しつつも冷静に事件を分析する本部長。勝手気ままに生活してきたとしの子供たち。100億円をめぐる誘拐劇に騒然とする世間。
 ユーモアたっぷりに語られます。
 何度読んでも楽しめる、傑作中の傑作。


 
 
 
 
2007年02月01日
M・レズニック/M・H・グリーンバーグ/編
日暮雅道/監訳
『シャーロック・ホームズのSF大冒険』上下巻
河出文庫

 コナン・ドイルの娘ジーンが生前に公認していた、シャーロック・ホームズのSF的パロディ作品集。実は、原作のホームズはほとんど読んだことがなく、その知識は、英国BBC制作のTVシリーズ(ジェレミー・ブレッド/主演)によるものです。それでも楽しめるのかどうか、やや不安だったのですが、まぁ、そこそこ。
 書き下ろしだけあってネタが重なっていることが多く、調整の必要性を感じた作品集でした。

■第一部「過去のホームズ」
 ホームズの時代(主に、ヴィクトリア朝時代)を舞台に展開される物語たち。

ジョージ・アレック・エフィンジャー(吉嶺英美/訳)
「マスグレーヴの手記」
 マスグレーヴとホームズはケンブリッジ大学に在籍中、チン・チュワンフーという学生から手紙を受け取った。ふたりは彼の下宿を尋ねる。チンは、ドクター・フー・マンチューと名乗り……。
 マスグレーヴは「マスグレーヴ家の儀式書」に登場する大学時代の友人。フー・マンチューは、サックス・ローマーによるミステリに登場する怪人。
 大長編の序章といった作風で、当然、結末はなし。マスグレーヴなら知ってるけどフー・マンチューは知らない身では、なにがなんやら。ワトスン批判ものとして読みました。皮肉な視線を向けているあたりにはニヤリとさせられます。

マーク・ボーン(堤 朝子/訳)
「探偵の微笑み事件」
 ホームズは、代わり映えのない日々に退屈していた。そこへ、謎の婦人が尋ねてくる。婦人が名刺代わりに渡したのは、1枚のトランプ。ハートのクイーンだった。
 ホームズが、ライバルのモリアーティ教授との死闘から生還するまでの3年の間に起こったであろう事件がほのめかされる作品。ほのめかされるだけで、事件の詳細が語られるわけではないので、やや物足りない。ただ、ある有名人とホームズを結びつけていて、そちらの面から楽しめます。

ウィリアム・バートン&マイケル・カポビアンコ
(太田久美子/訳)
「ロシアの墓標」
 ホームズは引退していたが、捜査依頼の手紙は途絶えることがなかった。ある日ワトスンの元に届いた手紙もそのひとつ。手紙はホームズに届けられ、ついにホームズは重い腰を上げた。手紙に書かれていたこととは?
 作中のワトスンと同じく、こちらもドキドキわくわく。ロシア奥地という環境に、ちらつくモリアーティ教授の影。ようやく冒険物を読んだ気になりました。

ヴォンダ・N・マッキンタイア
(日暮雅道/訳)
「“畑のステンシル模様(フィールド・セオレム)”事件」
 サリー州の畑で、小麦をなぎ倒して描かれた、奇妙な幾何学模様が見つかった。畑の地主は、アーサー・コナン・ドイル。ドイルは、ホームズに調査を依頼する。実はドイルはオカルトにはまり込み、幾何学模様をむこう側からのメッセージだと信じていた。ホームズが原因をつきとめられなければ、残るのは自分の主張という理屈。ホームズは調査を開始するが、怪現象が頻発し……。
 ドイルとホームズとの絡みがパロディならではのおもしろさ。結末にもニヤリとさせられます。

ローラ・レズニック(野下祥子/訳)
「行方不明の棺」
 ある夜、ホームズのもとをひとりのヴァンパイアが尋ねてきた。棺桶が盗まれてしまったというのだ。棺には故郷の土が詰まっており、夜明けまでに入らなければ、生きて地獄の苦しみをなめることになる。ホームズは推理によって、棺の在処を突き止めるが……。
 よく考えられてはあるのですが、想像しているホームズ像(ジェレミー・ブレットが構築したそれ)と結びつかなくって、違和感が残りました。

マーク・アーロンスン(堤 朝子/訳)
「第二のスカーフ」
 ホームズのもとに、大柄な男がやってきた。実は、男の正体は宇宙人。ホームズは、観察によってその事実を見抜く。紳士の名は、ドリンバ。外交の最高レベルの場で起こった殺人事件を解決してほしいというのだ。その現場こそ、地球と月のラグランジュ点に浮かぶ、被害者の専用宇宙船だった。
 SFらしいSF。なぜわざわざホームズに? といった疑問はこの際、抜きで。

フランク・M・ロビンスン(佐藤友紀/訳)
「バーバリー・コーストの幽霊」
 珍しく、ホームズの兄マイクロフトが尋ねてきた。ある筋からの依頼を持ってきたのだが、アメリカである女性が失踪したらしい。ホームズは行きたがらなかったが、女性の名を聞いて態度は一変。失踪したのは、アイリーン・アドラーの妹レオナだったのだ。ホームズとワトスンは、最後の消息が伝わったサンフランシスコへと向かうが……。
 アイリーン・アドラーは「ボヘミアの醜聞」に登場するオペラ歌手。ホームズを出し抜いた数少ない一人。

ブライアン・M・トムセン(府川由美恵/訳)
「ネズミと名探偵」
 マルコム・チャンドラーは、ネズミと呼ばれる三流探偵。ある日、ホームズから仕事を依頼される。すっかり耳の遠くなったワトスンが、ある降霊会に参加するらしい。そこへ潜入して、様子を探ってほしい、と言うのだが……。
 ホームズとワトスンの実体を書いた作品。ホームズものはワトスンが書いている、という設定を生かしきった作品。

ディーン・ウェズレイ・スミス(佐藤友紀/訳)
「運命の分かれ道」
 ある夜、ホームズの元を奇妙な二人連れがおとずれた。話を聞くと、ふたりは未来からやってきたという。彼らが知る歴史では、豪華客船タイタニック号は氷山に衝突して沈没したはずだというのだが、ホームズの世界ではタイタニックは無事に到着していた。その理由を調べて欲しいらしい。ホームズとワトスンは、科学者たちのみちびきで、事故の起こる瞬間のタイタニック号に現れるが……。
 歴史改変もの。なぜ、タイタニックは沈まなかったのか。ホームズが調査に当たります。結末の重たいこと。

ジョン・デチャンシー(五十嵐加奈子/訳)
「リッチモンドの謎」
 ワトスンの遺品の中から、ホームズに関する未発表原稿が発見された。ワトスンが公表をためらった事件は、事務弁護士フィルビイによって持ち込まれたもの。フィルビイが個人としても親交のあるとある人物の失踪事件なのだが……。
 SFを読む人ならば、途中からニヤリとすること請け合い。パロディならではなの見事なコラボレーションに大満足の作品でした。

リーア・A・ゼルデス(堤 朝子/訳)
「サセックスの研究」
 ホームズは引退し、養蜂に励んでいた。ワトスンも医師としての第一戦をしりぞき、今や80歳。ある日、ワトスンの元にホームズから電報が届く。かけつけたワトスンを待っていたのは、ホームズのある依頼だったのだが……
 残念ながら、少々分かりかねる作品でした。

ゲイリー・アラン・ルース(五十嵐加奈子/訳)
「数の勝利」
 ファージントン卿の犬が盗まれ、数時間後に戻された。誰が、なんのために? 実はロンドンでは、似たような事件が頻発していた。ホームズとワトスンは、一味のアジトをつきとめるが……。
 レストレード警部も登場する作品。“誰が”は、ほぼいつもの通り。“なんのために”を実現するために、SFチックな手段が用いられています。

ローレンス・シメル(日暮雅道/訳)
「消化的(アラメンタリー)なことさ、ワトスン君」
 クリスマスの翌日。ワトスンがホームズを尋ねると、かつて起こった〈青いガーネット〉事件のような光景になっていた。残された帽子はシルクハット。動物はウサギ。ドジスンという男が失踪し、それらの品々が残されていたのだという。ホームズは、ドジスンの姪のアリスに話を聞くが……。
 シルクハット、ウサギ、アリスとくれば、もうあれしかない、といった小作品。

バイロン・テトリック(藤原隆雄/訳)
「未来の計算機」
 ホームズは投資に大失敗し、破産寸前。そんなときに依頼を持ち込んだのは、チャールズ・バベッジだった。バベッジの亡き父は発明家。未完成の解析機関を遺したが、それが盗まれてしまったというのだ。この解析機関、完成すれば、未来を予測し、変えることさえ可能らしい。ホームズは早速捜査を開始するが……。
 解析機関を盗んで、完成させて、ホームズを狙って使用したのは、当然モリアーティ。大損してご機嫌ナナメなホームズはもとより、相手がホームズとはいえ、個人を狙って未来を変えるモリアーティも少々子供っぽい……。

■第二部「現在のホームズ」
 現代社会を舞台にした物語たち。
 現代とはいえ、そこはSF。実現されてない技術が花開いてます。

スーザン・キャスパー(篠原良子/訳)
「思考機械ホームズ」
 映画会社の制作部に勤めるワトスンは、古い二次元映画からホログラムを作っていた。ある日『ゴジラ対ヘドラ』のフィルム缶が消え失せる事件が起こる。ワトスンは、小説からホームズのホログラムを作り上げ、捜査を依頼するが……。

クレイグ・ショー・ガードナー(五十嵐加奈子/訳)
「シャーロック式解決法」
 サマンサの勤める研究所では、ホームズ・プログラムが大流行。ある種の記憶力と推理力を競う推理ゲームだ。ある日サマンサが出勤すると、誰もがホームズ気取り。しかも問題が発生しているらしいのだが……。
 ホームズ化した同僚に振り回されるサマンサ。ワトスンの役を割り振られてしまいます。楽しめました。

デイヴィッド・ジェロルド(細谷 葵/訳)
「自分を造った男」
 秘密裏に伝えられたていたワトスンの原稿には、ある告白が書かれてあった。ホームズはでっちあげの存在であるというのだ。ホームズ役をした男の正体とは? ホームズの目覚ましい成功の裏に隠されていたものとは?
 秘密の実現性はともかく、秘密にしたあるものがあればホームズのような活躍も可能だな、と、納得。その秘密がいかにすごい秘密かを伝えるために、凝った構造になってます。 

クリスティン・キャスリン・ラッシュ(五十嵐加奈子/訳)
「脇役」
 ネッドは、殺人課で10年の経験を積んだベテラン刑事。ネッドが属するサンタルシア警察は、長年FBIと張り合ってきた。ここにきて、連続惨殺事件の捜査が難航。焦った本部長は、民間タイムトラベル会社に依頼し、ホームズを呼び寄せる。中心的役割を奪われたネッドは、ホームズのやり方に不満たらたら。一方、ホームズは最新のプロファイルに異議を唱え……。
 語り手ネッドの心理をうまく表現した作品。ホームズの示す、意外な犯人像とは? パロディとしてだけでなく、ミステリとしても楽しめます。

■第三部「未来のホームズ」
 未来世界を舞台にした物語。

ジャック・ニマーシャイム(安達眞弓/訳)
「仮想空間の対決」
 プログラムの〈モリアーティ〉が、どこかへ逃走してしまった。早速、モリアーティのライバル〈ホームズ〉のプログラムが立ち上げられ、モリアーティ捜しが始まるが……。
 結末にニヤリ。

ラルフ・ロバーツ(五十嵐加奈子/訳)
「時を超えた名探偵」
 ホームズとワトスンの生活には、とてつもない変化が訪れていた。今ではホームズは、体内にコンピュータを埋め込み、時空を超えて活躍中。ある日、24世紀の火星からルベック警部が尋ねてきた。火星では、20年間にわたる連続殺人事件がおこっていた。被害者は観光客。ホームズは、さっそく現場へと向かうが……。
 ひねった展開の作品。

ジョジーファ・シャーマン(日暮雅道/訳)
「シュルロック族の遺物」
 考古学者のワトスンは、シュルロック族の先史文明発掘を率いていた。調査隊のほとんどは、地球産まれ。遺跡はシュルロック族には出入りが難しい場所にあるのだ。ところが、調査隊が発見した〈王者のリシテク〉が、何者かに盗まれてしまった。シュルロック最強の英雄的指導者レセク=ザンの遺物で、発見したことは秘密にしていたのだが……。シュルロック族の誰かが犯人なのか?
 主役の名前がワトスンで、シュルロック族のシュルロックがホームズの真似事をしている以外は、通常のSF推理もの。

アンソニー・R・ルイス(日暮雅道/訳)
「不法滞在エイリアン事件」
 事件解決のために、AIホームズが作り出された。依頼人は、異星人のコリファー。コリファーは、地球で事故死したモクルの死に疑問を抱いていた。モクルは、エラワジアの新政府による土地押収を拒否していたのだ。本当に事故死だったのか? AIホームズは捜査にとりかかると同時に、自身は本物ではないとして、本物のホームズ捜しを開始するが……。
 モクルの事件より、AIホームズが本物のホームズを捜そうとする展開の方に興味が湧きます。ホームズは見つかるのか?

バリー・N・マルツバーグ(日暮雅道/訳)
「五人の積み荷」
 宇宙船内で殺人事件が発生した。殺されたのは、五人の積荷。船長は〈ホームズ〉を復元・作動させるが、様子がおかしい。「土星人に違いない」と繰り返すばかり。船長は〈ホームズ〉を点検させるために、シャロンを覚醒させる。シャロンは、人工器官や、こういう装置やその作動する仕組みの復元に詳しい。ところがシャロンは、五人の犠牲者の夢を見ていたところで……。
 主眼のシャロンが寝ぼけているため、難解さが増してます。

ロバート・J・ソウヤー(安達眞弓/訳)
「未来からの考察−ホームズ最後の事件」
 2096年。ある大問題を解決するために、シャーロック・ホームズが過去から呼び寄せられた。その問題とは〈フェルミのパラドックス〉と呼ばれるもの。ドレークの方程式によって、宇宙には多くの知的文明が生まれていることは立証されている。ところが現実には、ほかの知性が存在するしるしはなにひとつ見つかっていない。かれらはどこにいるのか? ホームズはこの難問に挑むが……。
 エンターテナーのソウヤーによる、ホームズもの。ホームズの下した決断とは?

■第四部「死後のホームズ」
 〈最後の事件〉でホームズが死んで、それが失踪したことに変わってふたたび世間に登場するまでを書いた作品。

ジャニ・リー・シムナー(日暮雅道/訳)
「幻影」
 作者のコナン・ドイルは、ホームズをライヘンバッハの滝に沈めたところ。現在は中世を舞台にした小説の構想を練っている。ある日ドイルは、降霊会に参加することになった。求めているのは、心霊術がまやかしではないという証拠。降霊会のトリックにはうんざりしているのだ。そんなドイルの元にやってきた霊は、おじのディックだった。ディックはある目的のために、接触してきたというのだが……。
 ホームズは作中人物として触れられるだけ。SFではないような気もしますが……。

マイク・レズニック(日暮雅道/訳)
「“天国の門”の冒険」
 ライヘンバッハの滝に転落したホームズは、天国にたどりついていた。宿敵モリアーティはおらず、ホームズは退屈でたまらない。天国は、すべての鍛錬と能力が役に立たない場所だったのだ。天国に来てしまうような人生を後悔するホームズ。そこへ、聖ペテロが尋ねてきた。聖ペテロは、天国で進行中のある事件の解決を依頼してきたのだが……。
 そして、ホームズは復活したのでした。


 
 
 
 
2007年02月03日
アン・マキャフリイ(赤尾秀子/訳)
『もしも願いがかなうなら』創元推理文庫

 14歳のティルザは、エアスリー卿の長女。公国では、エアスリー卿は公正さと揺るがぬ正義の審判で、その妻レディ・タラリーは、知恵と癒しの力で知られていた。
 ある日、村に英主サンディミン公の急使がやってきた。隣国エフェスターのリファーンズ公が戦をしかけてきたというのだ。エアスリー卿はただちに領民を招集。レディ・タラリーやティルザたちが見送る中、出立した。
 残った村人たちはレディ・タラリー指導のもと、軍への物資供給のために日々働く。士気は高いが戦はながびき、村にまで敵兵がやってきた。領主館は、避難してきた村人や、救援にかけつけた近隣の領主の子息たちでいっぱい。レディ・タラリーは、しまいこまれていた敷物や、古い衣類を運び出し、人々に分け与えた。
 そんな中、ティルザの16歳の誕生日が近づいてくる。16歳になれば大人の仲間入りだ。母方のしきたりで、娘は水晶をさずけられる。ティルザは、その水晶がすでに用意されていることをわかっていた。
 しかし、双子の兄トラセルは?
 エアスリー卿はトラセルに、若い良馬をあたえると約束していたが、戦時中では不可能なこと。ティルザは、トラセルに申し訳なくて仕方がない。レディ・タラリーは、なにかを考えているようなのだが……。

 中世風の小国を舞台に、ティルザの14歳〜16歳までの出来事がつづられています。
 少しずつ大人になっていくティルザ。レディ・タラリーの口癖。戦争下でもユーモアを忘れない人たち。戦争のお話ですが、心温まります。

 
 

 
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