中性子星内部を舞台にしたハードSF。
《ジーリー》シリーズのうちの一冊。
デュラは、ヒューマンビーイングの指導者の娘。ささやかな居留地はグリッチとよばれるスピン嵐によって大損害を被り、父も亡くなってしまった。デュラはまだ、指揮者としての準備ができていない。それでも仲間を率いて狩猟にでかけなければ、死が待っているだけだ。
デュラは、弟のファーや、最長老のアーダ、未亡人のフィラスらと共に、地殻へと旅立った。一行は運良くエア豚を見つけたものの、狩猟は大失敗。アーダが重傷を負ってしまう。そこへ現れたのが、六頭のエア豚にひかれた箱だった。
箱に乗っていたのは、トーバ・ミクサックス。辺境の地、天井農園の所有者。農園の境界をすこし越えて、森林地帯の見まわりをしているところ。トーバは、アップフラックス人と遭遇したことに呆然としつつ、重傷のアーダをパーズ・シティへと運ぶことに同意する。
デュラは、フィラスにヒューマンビーイングたちを託した。そして、ファーと共に、アーダに付き添ってシティへと向かう。
デュラは文明社会に驚嘆するが、アーダはシティのことを知っていた。ヒューマンビーイングたちは、かつてシティから追放されたらしいのだ。アーダは口を閉ざすが……。
デュラたちの住む〈スター〉で頻発するグリッチの原因とは?
ヒューマンビーイングは〈スター〉で発生したのではなく、「原人」たちによって作られた存在。それはデュラたちも知っていることで、早い段階で読者にも知らされます。おかげで、文中に今日の人類が使っている単語がでてくることの違和感は解消。
再読なので、いろいろと思い出しながらの読書になりました。なにも分からなかった初読時の方が、楽しめたかもしれません。いろんなことにつじつまがあって、収めるべきところに収まってくると今度は、キャラクター造形や展開に目がいってしまいます。
バクスターは、アイデアはおもしろいんですけど……。
銀河帝国は崩壊しつつあった。
帝国の人口は減少の一途。帝国は、知能を高めた哺乳類を二級市民とし、支配下惑星からは芸術家や作家をかき集めていた。それでも人員不足は補えず、かつて所有していた35もの宇宙艦隊は、いまや5艦隊が残るばかり。ロボット労働力のストライキにより、船や装備の補充もままならない有様だった。
アーチャーは、銀河帝国第十艦隊の提督。
第十艦隊は最高司令部より、エスコリア星域の反乱鎮圧の命令を受けた。全権を与えられ、ただちに急行するアーチャー。そこへ補足データが届く。
エスコリアに、帝国を滅ぼしうる兵器があると〈オラクル〉が予言したというのだ。データ・マシン〈オラクル〉は、当たる確率の高い推量をするにすぎない。しかし、無視することはできない。
アーチャーは、エスコリア艦隊との開戦にのぞむが……。
一方、エスコリア星域にある忘れられた星・地球では、パウドが造られていた。
パウドは、霊長類すべてをかけあわせたキメラ。知能は高いが、道徳観念に問題がある。そのために、造り手にして博物館館長のナシュメイントゥーによって檻に入れられていた。
パウドは、その存在に同情したナシュメイントゥーの友人によって、助け出される。密かに荒野へと放たれるが、パウドは怯え、武器をもとめた。博物館には、武器展示館もある。そのことを知るパウドは、不思議な銃〈禅銃〉を手に入れるにいたった。そして、ナシュメイントゥーに憎しみをぶつけることを思いつく。
パウドが己の憎悪をみなぎらせたとき、ちょうど居合わせたのは伝説の超戦士〈小姓〉だった。結果として〈小姓〉の命を救ったパウド。パウドは〈小姓〉に、しもべとなることを要求するが……。
摂政、統監、枢密院と続く帝国の歴史。〈シンプレックス〉という謎の世界。退廃的な帝国基準の美意識。地上を移動する都市。フィートル航法。後退理論。その他いろいろ……。
アイデア満載の、めくるめくスクリーン・バロックの世界が展開されます。それが、たかだか250ページほどの中にぎゅきゅっと濃縮。
帝国内部に渦巻く不穏な動きの行く末は?
エスコリアの反乱は成功するのか?
予言された兵器とは?
パウドに従っているかに見える〈小姓〉の目的とは?
これが、おもしろくないわけがない。
ヴァントとエベネザムは、森の丸木小屋に住んでいた。
魔法使いエベネザムは、自称、西域の諸王国に名だたる偉大な魔法使い。吟遊詩人たちに謳われ、名声は広がりをみせている。適切な料金を払っているおかげだ。
ヴァントは、エベネザムの弟子。弟子入りしてからわずか数週間。雑用ばかりで、まだ魔法は教えてもらえていない。ぞんざいに仕事をこなし、女の子にうつつを抜かす毎日。
ある日、ヴァントはエベネザムに呼ばれた。
ついに、呪文を教えてもらえることになったのだ。エベネザムは、ひとつの呪文をつくりあげようとしていた。徴税役人の現在地やその他もろもろを知るための呪文を。
ところがエベネザムはヴァントと夢中で話すばかりに、魔法陣を破ってしまった。デーモンを、地底界多重地獄から解放してしまったのだ。それこそ、へなぶりデーモンのガックスクス・アンファファードゥ。
エベネザムは必死に戦い、なんとかガックスクスを撃退する。ところが戦いが終わってみれば、魔法に対するアレルギー体質となってしまっていた。魔物や魔法のかかったものを側におくと、くしゃみの発作に襲われるのだ。これでは、長い呪文を口にすることはできない。
しばらくはその場で営業をつづけたエベネザムだったが、ついに、一千の禁断の快楽の都ヴァシタへと旅に出ることを決意する。ヴァシタにある魔法大学で、自分と同じように優秀な魔法使いに奇病を治してもらうのだ。
ヴァントも、エベネザムに付き従ってヴァシタへと旅立つが……。
『魔術師エベネザムと詩を詠む悪魔』につづく
『魔術師エベネザムと不肖の弟子』からのつづき
魔術師エベネザムと弟子のヴァントは、ヴァシタの都への旅をつづけていた。旅の仲間となったのは、呪われた棍棒ヘッドワッシャーを操るヘンドレック。そして、政治的な理由から地底界多重地獄を追放されたデーモン、スナークス。
一行の前に、ブラウニーが現れた。ブラウニーは、魔女ノレイに伝言を頼まれたらしいのだが、その内容は忘却の彼方。
ヴァントは、エベネザムに魔法雑誌を与えられ、ノレイとの遠距離対話に挑む。ところが、周囲のさわがしさや自身の未熟さ故、精神を集中するこができない。ノレイから必要な情報が得られないまま、ヴァントとエベネザムはロック鳥に連れ去られてしまった。
ロック鳥を使ってふたりを誘拐したのは、怪獣グリフィンだった。その背後に控えるのは、神空幻民連の連盟員たち。グリフィンは魔法使いに用があるらしいのだが、大勢の神話獣に囲まれ、エベネザムの症状は悪化の一途。
ヴァントは師匠のため、現役の魔法使いを装うが……。
『魔術師エベネザムと禁断の都』につづく
『魔術師エベネザムと詩を詠む悪魔』からのつづき
魔術師エベネザムと弟子のヴァント、呪われた棍棒ヘッドワッシャーを操るヘンドレック、地底界多重地獄を追放されたデーモンのスナークス、ヴァントの恋人ノレイは、ついにヴァシタの都のあったところにたどりいた。ところが、ヴァシタの都は影も形もない。きれいに消え失せていたのだ。
呆然とする一行の前に現れたのは、魔法大学の教授スノーフォシオ。ヴァシタは地底界多重地獄に引きずり込まれてしまったが、砂丘ふたつ向こうにあるイースト・ヴァシタは無事だと言う。
エベネザムは、魔法大学イースト・ヴァシタ分校へと赴き、残された魔法使いを集めてヴァシタ奪還の作戦を練る。誰かが地獄に乗り込み、ガックスクスを打ち破り、ヴァシタを取り戻すのだ。
白羽の矢を立てられたのはヴァントだった。
ヴァントは、説得の角笛ワンク、おしゃべりな魔法の剣カスバート、謎のカードを与えられる。一緒に行く仲間も選出された。そこへデーモンが現れ、ノレイがさらわれてしまった。
ヴァントは後を追って、地底界多重地獄へと降りていくが……。
シリーズ完結編。
筋だけ追っていくとけっこう面白いんですが、未熟なヴァントが語り部だけあって、少々薄っぺらい感じ。おしゃべりが無駄に思えてしまうのです。実際、同じことの繰り返しが多い……。そして、ヴァントとノレイの関係はヴァントの妄想のように思えていたのですが、実は本当だったという驚き。
必要な部分が手薄で、不必要な部分が手厚い、ということでしょうか。
各章のはじめに、エベネザムの本からの引用が載ってます。それがとてもおもしろいです。エベネザムの視点で、バカげた出来事をマジメに書いたらもっとずっとおもしろかったでしょうに。もったいない。
責任感が強く心配性のジョンと、冒険家のダニーは兄弟。町での異変を感じ取り、どことなく不安な日々を送っていた。
ある日ふたりは、骨董店のショーウィンドウに、金魚鉢を見つけた。金魚鉢には、珍しいビー玉が山盛り一杯。そこらの店では買えない逸品ばかり。
ふたりはおそるおそる店に入り、首尾よく金魚鉢を手に入れる。金魚鉢には古めかしい眼鏡も入っていた。
眼鏡には興味のない兄弟だったが、翌朝、事態は一変。ベッドルームでジョンが眼鏡をかけると、窓の外に不思議な景色が広がっていたのだ。あたりは草地で、見慣れた景色とはまるでちがう。ふたりは眼鏡をかけあい、オークの森と小川とを眺めた。
まっさきに外へと出たのは、ダニーだった。いたずらで眼鏡をかけさせた愛犬エイハブと、ジョンも、身支度をして後を追う。
ところが、眼鏡がジョンの手を放れたとき、レンズの片方がなくなってしまった。この世界とベッドルームとをつなぐ窓が見えるのは、ちゃんとした眼鏡をかけたときだけ。ふたりは異世界に取り残されてしまったのだ。
日が暮れると、ゴブリンが集団で襲ってきた。ふたりと一匹は必死に戦うものの、多勢に無勢。そこへ、石鹸銃を持った男が助けに現れた。
男の名は、ミスター・ディーナー。ふたりを、いつか来てくれるクラーケン兄弟と誤解しているようなのだが……。
暗く、おどろおどろしい物語。
兄弟が帰還するための鍵をにぎっているのは、ミスター・ディーナー。ときどき発作を起こし、つやぴかのドーナツが大好物。ガラス魔法を使い、月梯子の制作に余念がない。そして、哀しい過去を背負ってる。
ジョンは、ミスター・ディーナーの弱さを知り、ゴブリンの正体を知り、自身を成長させていきます。ダニーもまた……。
ふたりは元の世界にもどれるのか?
とても考えさせられる作品でした。
ジョン・ニューハウスは、43歳。
水無星に住み、仲間たちと麻薬シンコフィーネの密貿易に励んでいた。シンコフィーネは、鯨の内蔵油から抽出する。地球にいる鯨ではない。水のない水無星の、塵からなる海に生息する鯨から採るのだ。
現地人はシンコフィーネを知らず、内蔵油は毒だと見なされていた。おかげでジョンは、格安で内蔵油を手に入れることができる。
ところがある日、ジョンの元に知らせが舞いこんだ。内蔵油の取引が非合法になってしまったのだ。水無星は、シンコフィーネの貿易拡大を危惧する〈連邦〉の要請に従った。もはや、誰かが捕鯨船に乗りこみ、鯨から直接採取しなければ手に入れることはできない。
過酷な役割を担わされたのはジョンだった。ジョンは、新しく仲間になったキャロスリックを連れ、コックとして捕鯨船ラングランス号に乗りこむ。
ふたりが雇ってもらえたのは、デスペランドゥム船長が外星人だったからだろう。そして、船にはもうひとり外星人がいた。蝙蝠状の翼を持つ、見張り役のダルーサ。外科的に改造したと思われる美を持つ、空を翔る女。
水夫たちはダルーサを、悪運をもたらすとして避けていた。ダルーサもまた、アレルギーのために人とふれあうことはできない。
ジョンはダルーサに惹かれてしまうが……。
捕鯨船内でこっそり精製されるシンコフィーネ。
試しに投与されてしまう水無星人マーフィグ。
徐々に依存度を増していくキャロスリック。
奇異な実験を繰り返す船長デスペランドゥム。
そして、不可思議な塵の海と、そこに棲む生物たち。さまざまな出来事にジョンとダルーサの恋がからんで、だらだらと続くことなく、事件が起こります。
処女作だけあって、ほとばしるアイデアを背伸びして詰め込んで、精神年齢が若すぎる43歳が右往左往。
そこがおもしろい作品。
赤子だったティモシーが捨てられたのは、北イリノイの丘の上の立派なお屋敷だった。肌着に着けられたメモには、こうあった。
歴史家。
屋敷に棲んでいたのは、一族たち。四千年前のファラオの娘〈ひいが1000回つくおばあちゃん〉を最年長に、夢を見ながら眠れる者セシーや、ティモシーをひきとった、けっして眠らない母、昼に眠る父……。
少年へと成長したティモシーは、一族の一員になることにあこがれを抱く。しかしそれは叶わぬ願い。ティモシーはふつうの人間。みんなのように毒キノコを味わうことも、緑の翼を生やしたアイナーおじさんのように空を飛ぶこともできない。
やがて、一族やお屋敷にも時の流れは押し寄せてきて……。
連作短編をつなげてひとつの物語とした作品。ゆえに、少々流れがぎこちないところもありますが、ブラッドベリ独特の饒舌さはそこかしこに。
理解しにくいところはあるものの、じっくり読んで、その美しさにクラクラするのがよろしかろうと、スローペースを心がけました。浸れる作品って、貴重です。
『マッカンドルー航宙記』の続編。
連作短編集。
ジーニー・ペラム・ローカーは宇宙船船長。相棒は、太陽系でも最高の頭脳を持つと賞賛されているアーサー・モートン・マッカンドルー。常識人のジーニーにとって、天才物理学者とはいえ人間関係に頓着しないマッカンドルーは、面倒を見てやらねばならない存在なのだが……。
「影のダークマター」
ジーニーは、マッカンドルーからしゃちほこばったメッセージを受け取った。不審に思ったジーニーが研究所を尋ねると、自由で開放的な雰囲気は一変。新しい所長がやってきて組織改革に励んでいたのだ。しかも新しい所長は、グリス上院議員の甥。かつてマッカンドルーは、命を救うためとはいえグリスの片腕を切断したことがある。
ジーニーは、〈見えない物質〉の調査に赴くマッカンドルーに同行するが、旅にはグリスの手のもの2人もついてきて……。
グリスとの一件は『マッカンドルー航宙記』掲載の「〈マナ〉をもとめて」で読めます。
「新たなる保存則」
地球で、新しい保存則が発見された。さっそくかけつける、マッカンドルー。ジーニーも気になってマッカンドルーを訪問するが、そこで待っていたものは……。
前作「影のダークマター」の続き。
「太陽レンズの彼方へ」
103光年先で、超新星爆発が起こった。地球からも観察できる天体ショーにマッカンドルーは有頂天。研究所は、太陽の重力レンズの集点へ赴き、この現象を観察することを決める。ところがマッカンドルーは、同行者が気に入らずに断ってしまった。
続々と届くデータと共に、調査隊から思わぬ知らせが舞いこんだ。彼らは、太陽レンズによって増幅された救難信号を拾ったらしい。ところが、相手を見つけることができない。ジーニーはマッカンドルーを連れて捜索に出発するが……。
「母来る」
マッカンドルーの母が研究所にやってきた。その強烈な個性にふりまわされるジーニー。マッカンドルーはあまり過去のことを語らないが、父は30年前に失踪していたらしい。
マッカンドルーは、母に託されたという父の遺品に興味を示す。残されていたのは、強い相互作用にかかわる修正理論の研究記録。ただし、肝心なものは持っていったらしい。ふたりは父親の行方を追うが……。
ハードSFではありますが、重点が置かれているのは人間と人間との関わり方。
グリスやその部下とやりとりするハメに陥る最初の2作。表題作では、心の底から調査に行きたくて仕方ないのに、人間的な葛藤から断って不機嫌になるマッカンドルーが見られます。そして、科学のことはまるで分からないマッカンドルーの母が登場する、とりの作品。
ジーニーとマッカンドルーの名コンビを楽しめます。
リロ=アレグザンダ=カリプソは、人類に対する反逆罪で永久死を宣告された。人間のDNAに関する研究に手を出してしまったのだ。リロの犯罪は、へびつかい座ホットラインの受信データの閲覧記録から、足がついた。
死を覚悟するリロ。そんな彼女を脱獄させたのは、地球解放党のトイード元大統領だった。トイードは、インベーダーに乗っ取られた地球を解放するために、リロの技術を必要としているらしい。トイードは、身代わりとしてリロのクローンを用意していた。
リロは、生き延びるためにトイードと契約する。内心では、契約を反古にして逃げる気満々だ。ところが、記憶のバックアップをとった後、自身がクローンであることに気づかされる。オリジナルは脱走に失敗したのだ。しかも、その後に作られたクローンも脱走を企て、失敗したという。
唖然とするリロだったが、諦めたわけではなかった。トイードはそんなリロを、木星の月のひとつポセイドンへと送りこむ。木星は、インベーダーによって禁断の地とされた星。その月に。
ポセイドンには、リロのように連れてこられた人たちがいた。リロは彼らと共謀し、脱走を企てるが……。
一方、へびつかい座ホットラインには異変が現れていた。 とうとう謎の送り主が支払を求めてきたのだ。
これまで人類は、へびつかい座70番星の方角から送られてくるメッセージを享受してきた。送り手の意図は分からない。すべてが解読できたわけでもない。それでも技術向上に多大な威力を発揮してきた。
トイードは、新たに作られたリロのリローンと、優秀な監視人バッファに調査を命じるが……。
ヴァーリイを代表する《八世界》シリーズの集大成的作品。とにかく盛りだくさん。
地球を支配下に置くインベーダー。地球を奪われ、他の星ぼしだけで生きざるを得なくなった人類。謎の情報源、へびつかい座ホットライン。それによって躍進したクローン技術。事実上の不死により価値観が一変した社会。
そして、何度か死に至るリロ。
実は、本作が最初に読んだヴァーリイでした。いろいろと分かった後に読むと、またちがった角度で楽しめます。