異星種属クワックスのスプライン艦隊が人類を制圧し、地球が占領下に置かれてから2世紀。人類の活動は地球上に制限され、宇宙船は解体された。かつて繁栄をもたらした技術の数々は、もはや人類の手にはない。
ある日太陽系に、1500年前の宇宙船が帰還した。船内の主観時間では100年。船が曳きつづけてきたのはワームホールだった。
ワームホールを使えば、時空の二点間を瞬時に移動することができる。1500年前のワームホールと往来することも可能だ。
大使ジャソフソ・パーツは、早速クワックスの地球総督に呼び出された。そして、地球で密かに作られた人間の宇宙船が地球を飛び出し、ワームホールをくぐったことを知らされる。
彼らは〈ウィグナーの友人〉と名乗っていた。信条や目的は分からない。分かっているのは、クワックスにとって脅威であること。今この瞬間にも、過去から、現在を変えられているかもしれないのだ。
パーツは総督の要請で、新たなワームホール計画の指揮をとることとなった。クワックスは、さらに500年先の未来とつなぎ、未来から解決策をさぐろうというのだが……。
《ジーリー》シリーズのうちの一冊。
物語の主な舞台は、1500年前の世界。
1500年前といっても、西暦3829年。そんなに未来なのに現在の延長線上にあって、今思えば、古い時代のSFだなぁ、と。
さて、1500年前の世界には、ワームホールの開発に関わったマイケル・プールがいます。その時代、ASテクノロジーによって人類の寿命は飛躍的に伸びていました。100年なんてあっと言う間。プールは世捨て人のような生活をしていたのですが、ワームホールからメッセージか届けられたため、ふたたび人類のいるところに戻っていきます。
プール宛のメッセージとは?
〈ウィグナーの友人〉の目的とは?
バクスターが書く人間がイマイチなのは仕方ないこと。ここは、クワックスの正体や、スプライン船の特殊さ、はるか未来の科学技術のすばらしさに舌鼓を打つべきでしょう。それだけで充分楽しめます。
デーメータは、大成功を収めているキャリアウーマン。シティの評議会を何度も買収できるほどの大金持ちだ。
デーメータは時期を見計らい、人工授精で娘を産んだ。こうして産まれたデーメータの一人娘が、ジェーン。従順で多感。母の意見に歯向かうことのない素直ないい子。
少女へと成長したジェーンは、エレクトロニック・メタルズ社の精巧仕様型ロボットと出会った。
ロボットの名前はシルヴァー。
ジェーンは人間そっくりなそれにおびえ、心を揺さぶられる。そして、自分が恋に落ちていることに気がついた。
ジェーンはまだ16歳。母の同意なしにロボットを購入することはできない。しかし、母には言えない。ロボットに恋してしまったなどと。
ジェーンは、友人のクローヴィスに相談した。クローヴィスは一計を案じ、すでに成人している共通の友人エジプティアを通じて、シルヴァーを購入する。実際にローンを払うのはジェーンだ。
計画はうまくいったかに思われた。ジェーンは幸せに浸るが、なにも知らないエジプティアが権利を主張したために、シルヴァーを奪われてしまう。
ジェーンはシルヴァーを取り戻すため、デーメータに、高価なものを買ってしまったことを告白。説得に当たるが、冷たくあしらわれてしまう。
絶望したジェーンがしたことは、自分の所有物すべてを売り払って家出することだった。手にした金でローンを清算し、貧民街にアパートを借りたのだ。
ジェーンは、エジプティアを丸め込みシルヴァーを連れ出すことにも成功した。こうして、ジェーンとシルヴァーの生活がはじまるが……。
ジェーンの手記、というスタイルの物語。
恋愛ものというより、成長もの。母の思惑の範疇でぬくぬくと育ってきたジェーンが、庇護の手から抜け出して、たくましくなっていきます。とはいえ、お供はなんでも知ってる万能ロボットのシルヴァー。助けられる場面も少なくなく、ファンタジックに仕上がってます。
堂本房代は、昭川市保健センターで働く、パートタイマーの看護婦。亭主が定年退職したのを期に復職し、5年たつ。
その日、夜間救急診療所にやってきた患者は、日射病と診断された。4月とはいえ、例年にない熱波に襲われているのだから、日射病も不思議ではない。しかし房代は、光をまぶしがる男の仕草に不可解なものを感じる。彼は、つんとくる甘い匂いをかいだという。
房代は、昨夜も同じことを聞いていた。上気道炎と診断された30代の女性だ。どちらも住所は窪山町。発熱、頭痛、そして奇妙な匂い……。
ふたりは、別々の病院で死亡した。
まもなく保健センターに、市内で日本脳炎が発生したとの一報が入った。日本脳炎は、ほぼ撲滅したはずの病気。
房江は違和感を抱く。
一方、保健センターの正職員、小西誠も異常に気がついていた。人口56,000人の昭川市で、すでに発生件数18件。しかも、死亡率が異常に高いのだ。
本当に日本脳炎なのか?
ゴールデンウィークが明けると、新聞に、窪山地区を中心とする日本脳炎患者大量発生の記事が掲載された。保健センターは市民からの電話応対に悩殺されてしまう。
日本は法治国家であるがために、自治体は硬直化。決められたシステムの中で保健センターのできる役割は限られている。日本脳炎に有効なのは予防接種なのだが……。
パニックもの、ということですが、それほどスピード感はないのでやや落ち着いた雰囲気。登場人物たちが焦っているのは分かりますけど、どうやら解決できそうだぞ、という安心感があって、相殺されてしまった感じ。
すごくおもしろいけど、物足りなさも……ってところでしょうか。
語り手である「私」は、母子家庭で育った。
私は幼いころから母の手助けをし、十代で母の庇護から離れねばならなくなったとき、家事が特技となっていた。家政婦紹介組合を尋ねたのは、自然な流れ。以来、たったひとりで息子を育てながら働いてきた。
それから10年。
私の今度の職場は、9人もの家政婦にクレームをつけてきた手強い相手。雇用主は初老の女性だが、実際に世話をするのは、その義弟。80分の記憶しか保持できない元数学者だった。
私は出勤すると、いつも自己紹介からはじめる。元数学者はいつでも背広を着て、服のそこかしこにメモを留めていた。もっとも大切なメモには
〈僕の記憶は80分しかもたない〉
と、書かれてある。
数字と愛を交わす初老の男を、いつしか私は「博士」と呼んだ。
博士が交通事故に遭ったのは17年前のこと。脳に損傷を負った博士の記憶は、1975年で止まってしまっている。博士の中では、総理大臣は三木武夫。最後に見たオリンピックはミュンヘン。そして、大ファンの江夏豊はいまでも、完全数28の背番号を持つ阪神タイガースの選手なのだ。
はじめは戸惑っていた私だったが、10歳の息子が状況を一変させた。博士には、10歳の子供が家でひとり、母の帰りを待って腹を空かせているのが我慢ならないらしい。私に息子をつれてくるように命令したのだ。
博士は、私の息子のことを「ルート」と呼んだ。頭の形がルート記号にそっくりだったからだ。博士はルートのことも、私やルートとの会話も忘れてしまうが、私たちは覚えている。
私とルートは、博士のためにちょっとした嘘をつくことを約束した。大切な友だちを傷つけないために……。
第一回本屋大賞受賞作。
映画になった「博士の愛した数式」を観て泣いて、それで読みました。原作も、シンプルで、あたたかくて、じわっとくる物語でした。じわっとくるどころか、何度中断して鼻をかんだことか……。
なんと言っても、子供ながらに大人なルートがいい。いい子ぶってるわけでもなく、ませてるわけでもない微妙な立ち位置。博士が大好きで、その障害に気を使って話を合わせたり、ランドセルを置いてとっとと遊びにでかけちゃったり、母の失言に腹をたてたり、とにかく自然。
ベストセラーになるのも頷けます。
傑作。
テラバイト複合研究所は、収益とは関係なく、純粋に研究をするために設立された。研究所を設立したゴールドスタインが所長として迎えたのは、ノーベル賞受賞者のカール・ブロヒヤ。ブロヒヤが研究員として選んだのは、ジェフリー・アレン・ホートンだった。
ホートンがテラバイト研究所で扱ったのは、重力量子。誘導放出を研究し、いわゆる牽引ビームを作ろうというのだ。すでに1400万ドルが費やされたが、実験はことごとく失敗。ホートンは日々プレッシャーを感じていた。
ある日、人気の少ない早朝実験中、研究所で爆発騒ぎが起こる。研究所のさまざまなところで、火薬が発火したのだ。同時期に、なんの前触れもなく。
どうやらホートンの実験機は、周囲数百メートルにある火薬を発火させることができるらしい。
報告を受けたブロヒヤは、ただちに研究を極秘にした。
トリガーと名付けられたその装置は、銃火器を無効化することができるが、使い方を誤ればとんでもないことになる。ホートンとブロヒヤは、平和利用を望むが……。
SF的な部分もありますが、SFを期待してしまうとやや肩すかし。
トリガーがどうしてそういう作用をするのか?
その重要な部分が解明されないまま、装置は量産されます。どういう火薬に反応するか、だけじゃなくって、副作用とか、人体への影響とか、もっと知らねばならないことがあるような気がするのですが……。
病院のベッドの上で目覚めた男には、おぼろげな記憶しかなかった。それが体のいい監禁であることに気がつくと、男は、記憶喪失は隠し通し、入院させたのが妹であることをつきとめる。
なぜこんな目に遭わなければならないのか?
男は、一か八か、妹を名乗る人物に会うことにした。危険だが、なにかを思い出せるかもしれない。無知であることは隠し通すつもりだ。
男の名は、コーウィン。唯一の真世界〈アンバー〉の王子。コーウィンが目覚めた地球も、アンバーの影のひとつに過ぎない。
コーウィンを入院させたフローメルは実の妹だった。しかしその動きは、兄エリックの指示によるもの。コーウィンにとってエリックは、突然空位となった王冠を巡る争いでの最大のライバルらしい。
コーウィンはフローメルと取引し、屋敷に滞在することを許された。彼女の周囲を探ることで、少しずつ、記憶をとりもどすつもりだ。
そこへやってきたのは、庇護を求める弟ランダム。悪い“影”に追われていると言う。コーウィンの感じたところでは、自分はランダムに情愛を感じているらしい。だが、信用はできない。ひとまず3人は力を合わせ、襲ってきた異様な姿の男たちを撃退した。
翌日、コーウィンはランダムとドライブにでかけ、成り行きで、アンバーへと向かうことになる。ランダムに言われるがまま、ハンドルを握るコーウィン。ランダムがなにかをしているのか、徐々に景色が変化していく。
アンバーが近づき危険が高まるとコーウィンは、ランダムに記憶喪失であることを告白し、助力を求めた。コーウィンの記憶を取り戻すためにランダムがした提案は、“模様(パターン)”を歩くこと。だが、アンバーへの道には、エリックが仕掛けた罠がある。
ランダムはコーウィンを、幽霊都市レブマへと導いた。コーウィンは、鏡像の“パターン”によって、ついに記憶を取り戻すが……。
『アヴァロンの銃』につづく…
『アンバーの九王子』からのつづき
王位に就いたエリックによって投獄されたコーウィン。運良く脱獄に成功し、打倒エリックを胸に、準備に取りかかった。
コーウィンが向かったのは、かつて自分が治めた“影”のひとつ、アヴァロン。まだ誰も知らないが、アヴァロンには、真世界〈アンバー〉でも通用する火薬がある。銃による形勢逆転を目論んだのだ。
コーウィンはアヴァロンにつく前、ロレーヌ国で足を止めた。この“影”の世界は、黒い“輪”から現れる魔物によって度重なる襲撃を受けていた。その正体は分からない。コーウィンは、自身の呪いの結果だと考えていた。
アンバーの王子の呪いは、それが激しい怒りに満ちて発せられた時には常に影響力を持つ。自分がエリックを呪ったとき、“影”の向こう側にいるものが真の世界に入る道を開いてしまったのだ。その結果が“輪”なのだ、と。
ロレーヌを治めているのは、かつてコーウィン自身がアヴァロンから追放した男、ガネロンだった。コーウィンは身元を隠し、ロレーヌへの逗留を決める。ガネロンを助け魔物と戦うコーウィンは、ついに親玉を仕留めた。
コーウィンの正体を知ったガネロンは、コーウィンと共にアヴァロンへと旅立つ決心を固める。その先のアンバーまで行くつもりだ。ふたりは和解し、親友となるが……。
『ユニコーンの徴』につづく…
『アヴァロンの銃』からのつづき
宿敵エリックが死に、ついにコーウィンは真世界〈アンバー〉へと帰還した。もうひとりの兄ベネディクトには王位を継ぐ意思はなく、もはやコーウィンに政敵はいない。
王位争奪戦は、コーウィンの勝利に終わろうとしていた。ところが弟ケインが、ユニコーンの森で惨殺体となって発見された。見つけたのは、ケインに呼び出されていたコーウィン自身。コーウィンには身の潔白の証拠がない。
コーウィンは、兄弟殺しの疑惑を怖れ、ランダムに相談する。なぜなら、ケインを襲ったのは、かつてフローメル邸を襲撃した者たちだったのだ。
ランダムは、あのときの悪い“影”について語った。
そもそもの始まりは、行方不明の兄ブランドからの救助要請。ブランドは、どこかの塔に閉じこめられているようだった。ランダムは、塔の下までは行けたものの、その先は果たせなかった。自身も獣に追われ、逃げるしかなかったのだ。
コーウィンは兄弟を集め、ケインが殺されたことを伝えた。嫌疑の目は避けられなかったが、構わず、ブランドを救出することを提案する。コーウィンの計画は了承され、兄弟全員の力を合わせ、ブランドは助け出された。
ところが、救出劇の最中、ブランドは何者かに短剣を突き立てられてしまった。命は取り留めたものの、もはや、誰も信用することはできない。
ブランドを監禁し、殺害しようとしたのは、誰なのか?
ケインは、誰に、なぜ殺されたのか?
『オベロンの手』につづく…
『ユニコーンの徴』からのつづき
コーウィン、ランダム、ガネロンは、ユニコーンによって、真世界〈アンバー〉の土台、真のアンバーに導かれていた。
そこは、“空でもあり海でもあるもの”の“下でもあり、上でもある”楕円形の岩棚。アンバーの大いなる“パターン”が輝き、グリフィンのような獣が守っている。そして“パターン”は、何者かによって破壊されていた。
一行が“パターン”の中心部で発見したのは、トランプに突き立てられた短剣だった。
アンバーの王族にとって特別なそのトランプは、図案化された相手と接触することができる装置。通信だけでなく、空間移動も可能にする。何者かが、トランプを使って家族の殺害を企てたのだ。
危害を加えられたのは、“影”の世界に行ったきり、音信不通のランダムの息子マーチンだった。まんまと殺害されてしまったのか、難を逃れたのかは分からない。確かなのは、マーチンの血が流れたことで“パターン”が穢され、それが黒い“輪”となって現れた、ということ。
ランダムは、トランプを利用してマーチンの探索に出かける。
一方コーウィンは、かつてトランプを作り、“パターン”を描いたドワーキンを訪問した。ドワーキンは、正気を失っているために閉じこめられている。しかし、“パターン”の治療法を知っているのはドワーキンを置いて他にはいない。
ドワーキンは、コーウィンを見るなりオベロンと間違え、世界を壊すことについて話をし出すが……。
『混沌の宮廷』につづく…
『オベロンの手』からのつづき
行方の知れなかったオベロン王が、ついに姿を現した。折しも、真世界〈アンバー〉と、黒い道の彼方にある“混沌”との決戦のときが迫る。
一族は、“混沌の宮廷”の絵柄のトランプを手に入れていた。それを使えば、黒い道を遠征せずとも“混沌の宮廷”に軍隊を送ることができる。
ところが、コーウィンはオベロンに、トランプを使わない地獄騎行を命じられた。
オベロンは、“審判の宝石”で“パターン”を修復するつもりだと言う。そして“審判の宝石”は、“混沌の宮廷”での最終決戦でも必要になる。決戦の場へこの貴重なものを運ぶのがコーウィンの役目。オベロンが“パターン”ですべきことをすると、存在の構造は変化し、一族のトランプは使えなくなってしまう。そのためにコーウィンは黒い道をたどらねばならないのだ。
コーウィンは愛馬スターにまたがり、黒い道へと入っていくが……。
全五巻の《真世界》シリーズついに完結。
SFレーベルから出ていますが、内容的にはヒロイック・ファンタジー。ただし、ジャンルはSFでもFTでもなく、“ゼラズニイ”とでもいった感じ。
記憶喪失のコーウィンを視点に描かれるので、最初は五里霧中。なにがなんだか分からないまま、はじまります。記憶喪失とはいえ、コーウィンは気弱になったりはしません。ぐいぐい物語をひっぱります。
最初の焦点である記憶は、初巻の途中で戻りますが、長くアンバーを留守にしていたコーウィンには、把握していない事柄がたくさん。そのため、推理と事実と理解とが繰り返し繰り返しやってきます。1つの物事が別の角度から語られ直したり、一度だけではないおもしろさ。
70年代の作品ですので古さは否めませんけど。