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2007年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 8/現在地
 
 10
 
このページの本たち
あいどる』ウィリアム・ギブスン
果しなき流れの果に』小松左京
銀色の愛ふたたび』タニス・リー
この人を見よ』マイクル・ムアコック
火星人ゴーホーム』フレドリック・ブラウン
 
夏への扉』ロバート・A・ハインライン
中継ステーション』クリフォード・D・シマック
2001年宇宙の旅』アーサー・C・クラーク
ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン
虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター

 
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2007年08月28日
ウィリアム・ギブスン(浅倉久志/訳)
『あいどる』角川文庫

 コーリン・レイニーの特殊能力は、データの流れから直感的に〈結節点〉を読み取ること。その腕前を認められ、スリット・スキャンに職を得ていた。スリット・スキャンは、有名人のスキャンダル専門の番組制作会社だ。
 順調に業績を残していったレイニーだったが、あるターゲットが自殺することを読み取り、行動を起こしてしまう。会社を裏切ることになってしまったレイニーは、当然クビ。やむなく、面接を受けるために日本へと旅立った。
 レイニーを雇ったのは、世界的な人気を誇るロック・バンド〈ロー/レズ・スカイライン〉の管理会社。レズが、日本のヴァーチャル“アイドル歌手”レイ・トーエイと結婚すると電撃発言をし、関係者はもみ消しに躍起になっている。レイニーがするのは、その特殊能力でもってレズを調査し、なぜレイ・トーエイと結婚することにしたのか探る、というもの。
 レイニーはレズの情報から〈結節点〉を捜すが……。
 一方、〈ロー/レズ〉ファンクラブのアメリカ・シアトル支部。
 レズの結婚という噂の真偽を確かめるため、チア・マッケンジーが東京へと向かうことになった。チアはまだ14歳。機内で隣り合わせになったメリーアリスに、密輸の片棒を担がされてしまう。
 メリーアリスやその仲間たちから逃げ出し、東京支部と接触するチア。ところが、東京支部は噂を全否定。すでにバンドの広報関係者から言い含められていたのだ。
 チアは独自調査を開始するが、密輸品をめぐってやくざに追われる身となってしまっていた。

『ヴァーチャル・ライト』『フューチャーマチック』との三部作の真ん中。ただし、物語は独立してます。
 レズは、創造的だけれども情緒不安定と見られがちな男。そのレズを中心に、ネットランナーのレイニーと、レズを心配し不安でいっぱいの少女チアが、それぞれに情報を求めて行動します。
 交互に語られる2つの物語はやがて集約され、結末に向けてとりあえず盛り上がりはするものの、サイバーパンクならではの分かりにくさは健在。おもしろいんですけどね。


 
 
 
 
2007年09月01日
小松左京
『果しなき流れの果に』ハルキ文庫

 野々村は、N大理論物理学研究所の大泉教授のただひとりの助手。大泉の研究はほとんど評価されておらず、研究室は『瞑想室』と揶揄されている。
 大泉を尋ねて、K大の番匠谷教授がやってきた。番匠谷は、なんでも屋と陰口をたたかれる行動派。大泉とは、同窓生に当たる。
 番匠谷が持参したのは、砂時計だった。なんの変哲もないのだが、砂がいつまでも落ち続けるシロモノ。野々村は驚愕し、上と下が四次元空間でつながっているのではないかと仮説をたてる。
 誰がどうやって作ったのか?
 番匠谷は、砂時計を発掘で見つけた。中生代の、上部白亜期の岩の中から。その岩があったのは、奈良の葛城山。珍しく、急斜面に口を開けた古墳を発掘中の珍事だった。
 野々村は、番匠谷と共に古墳を調べに行くことになった。そして、伊丹空港につき、気味の悪い男から接触を受ける。男はあの砂時計を捜しているらしい。
 さらに野々村は、男が落としたらしい金属片を拾った。ふしぎな記号が刻印されたそれをポケットに入れたがために、野々村は時間をめぐる争いに巻き込まれてしまい……。

 時空を越える「進化管理機構」と、彼らに敵対するグループの闘争の物語。
 野々村は、金属片を拾ったがために管理機構に捕らえられそうになり、寸前に逃亡。以降、記憶をなくすものの反逆者として機構に逆らい、時空を股にかけて活動を続けます。
 そんな野々村を追うのは、超意識体のアイ。罠を張り巡らしますが……。
 果てしなき流れの果てにあるものとは?

 2つ用意されたエピローグが印象的な作品。
 時間跳躍と平行宇宙ががからみ、わけが分からなくなりながら読んでました。再読なのにね。名作だとは思いますが。


 
 
 
 
2007年09月02日
タニス・リー(井辻朱美/訳)
『銀色の愛ふたたび』ハヤカワ文庫SF1611

銀色の恋人』の続編。
 ローレンは、終末論者たちによって育てられた。
 ローレン11歳のとき、孤児院の床下から発見したのは『ジェーンの物語』。地下出版された、ロボット・シルヴァーとジェーンの悲恋の物語だった。
 ローレンは本を隠し、ジェーンと同じようにシルヴァーを愛し、何度となく読み返した。翌年、ローレンは孤児院を家出し、衝動的にシティへと向かう。ローレンが持っているのは、あの本だけ。
 ローレンは、清掃団を組織するダニーに拾われた。ダニーの顧客は、ロボットは雇えないが人間なら雇える、それほど裕福ではない人たち。ローレンは掃除婦となり、たくましく、懸命に働いた。
 それから5年。
 ローレンの元に驚くニュースが飛び込んだ。
 かつてエレクトロニック・メタルズ社は、シルヴァーのような人間そっくりなロボットを発表した。それらは欠陥品として回収されたが、メタルズ社を引き継いだMETA社が再調整したのだ。新たなロボットたちは、人間とは間違えようもない風貌。しかし、シルヴァーだけはちがっていた。
 ローレンはMETAがセカンド・シティにあることを掴むと、掃除団を退職した。生活の基盤もすべて捨て、セカンド・シティへと向かう。目指すは、META社の〈ショウ〉。
 ローレンはショウを見物し、ロボット開発者にスカウトされるが……。

 ほぼ一直線だった前作とはちがい、今作は伏線あり、驚きの真相あり。ただ、主題のはずの「人間とロボットの恋」がどっかに行ってしまった感じで、拍子抜け。
 愛とは肉体関係のこと?
 と、少々眉をしかめてしまうのでした。


 
 
 
 
2007年10月11日
マイクル・ムアコック(峯岸 久/訳)
『この人を見よ』ハヤカワ文庫SF444

 カール・グロガウアーは、自己愛が強く、ノイローゼ気味。30歳になったが、精神科医にはなりそこね、恋人ともケンカ別れしてしまった。
 悲嘆にくれるグロガウアーは、好事家が発明したタイムマシンに乗ることを同意。希望したのは、紀元28年。イエス・キリストのはりつけを見物する目論見だ。
 タイムマシンは、確かにグロガウアーを古代に運んだ。運んだものの、到着するやいなや壊れ、グロガウアーも負傷してしまう。場所はエルサレムの東南。マラケスを越したところの荒野だった。
 グロガウアーは、エッセネ派の人々に助けられた。
 エッセネ派は古代ユダヤの教団で、荒野に暮らし禁欲や節食を実行する信心深い人々だ。幻影を見ることにも慣れているのだろう、不思議な現れ方をしたグロガウアーを受け入れてくれた。
 彼らを指導するは、洗礼者ヨハネ。イエスを洗礼したとされる、バプテスマのヨハネだ。
 ヨハネは、ローマ占領軍に対する反乱を企てていた。しかし、求心力が弱まりつつあり、グロガウアーを利用しようとする。
 グロガウアーは、「新約聖書」が正しいことを願っていたのだが……。

 古代におけるグロガウアーと、古代へ行くことになるまでのグロガウアーの生い立ちが徐々に明らかにされる作品。最初のページで知れてしまうので書いてしまうと、グロガウアーがすなわち、救世主イエス。
 いかにして、グロガウアーはイエスとなったか?
 本物のイエスはなにをしているのか?
 病的なグロガウアーの精神に踏み込んでいる分、読みにくさやまどろっこしさはあります。古代の出来事だけでも充分おもしろいですけど、現代パートがあるからこそ生きてくる部分も……。
 新約聖書は知らなくても読めますが、基礎的知識はあった方がよさそうです。
 ネビュラ賞受賞。


 
 
 
 
2007年10月13日
フレドリック・ブラウン(稲葉明雄/訳)
『火星人ゴーホーム』ハヤカワ文庫SF213

 ルーク・デヴァルウはSF作家。
 出版社から前金をもらっているにも関わらず、大スランプ中。アイデアのひとつも浮かんでこない。進退窮まったルークは、人里離れた丸木小屋に籠ることにした。
 3日目の夕方。ルークは、アイデアが掴めそうなところまで回復していた。
 もし火星人がやってきたら……。
 ノックの音がしたのは、そのときだった。車の音も聞こえず、いぶかしむルーク。ドアを開けると、そこにいたのは自称・火星人だった。
 身長は、2フィート半ほど。肌は緑色。体毛はない。頭が大きく、胴は短く、手足がひょろ長い。
 火星人がやってきたのは、ルークのところだけではなかった。まさに同時刻、世界中に約10億にのぼる火星人が現れたのだ。礼儀正しくノックをしたのは例外中の例外。たいていは、遠慮なく、唐突だった。
 彼らの姿は目に映るし、声も聞こえるが、触れることはできない。クイミングと称する能力で自由自在に空間移動をこなし、透視もお手のもの。嘘はつかず、人間の嘘をあばくのが大好き。劇場だろうと酒場だろうと、しゃべりまくる。嫌がらせが生き甲斐のような奴らだった。
 地球人たちは火星人の振る舞いにたじたじ。
 こうなってしまっては、人々はSFなど読まない。失業してしまったルークだったが……。

 大きな柱は、失業者となったルーク。それだけでなく、さまざまな人の多種多様なシーンがとりあげられ、物語を盛り上げます。
 火星人たちは本当に火星人なのか?
 地球にやってきた目的は?
 それらは二の次。ユーモアあふれる一冊です。


 
 
 
 
2007年10月14日
ロバート・A・ハインライン(福島正実/訳)
『夏への扉』ハヤカワ文庫SF345

 ダニエル・B・デイヴィスは技術者。六週間戦争の後、親友のマイルズ・ジェントリイと共同で立ち上げた会社が、ハイヤード・ガール(文化女中器)。ダニエルは生産を担当し、経営はマイルズが引き受けた。
 ハイヤード・ガールは、女中代わりとなる機械を世に送りだし、成功をおさめる。規模が拡大したため、ふたりはタイピスト兼会計係として、ベル・ダーキンを雇った。
 ダニエルは、たちまちベルに首ったけとなってしまう。ふたりは結婚を誓い、ダニエルは持株の一部をベルに譲渡。ところが、ダニエルがマイルズと衝突すると、ベルはマイルズ側に……。
 裏切られたダニエルは、株主総会で解雇されてしまう。会社を追われ、途方に暮れるダニエル。飼猫のピートを連れふさぎ込むが、広告から、冷凍睡眠に入ることを思いついた。期間は30年。年老いたふたりの前に颯爽と現れてやろうという魂胆だ。
 ダニエルはすぐさま、ミチュアル生命保険会社と契約を結んだ。もちろんピートも一緒。旅立ちは明日だが、ダニエルの腹の虫はおさまってなどいない。
 ダニエルは、捨てセリフを吐くためマイルズに会いに行くことにする。マイルズの家にはベルも居り、ついにふたりの関係に気がついたダニエル。ベルの策略にはまり、薬を盛られ、自由意志をなくしてしまう。
 ダニエルは、ベルによって冷凍睡眠へと送り込まれることになった。ただし使うのは、ベルのコネクションがあるカリフォルニア・マスター生命保険。服薬中の冷凍睡眠は命に関わる危険があるのだ。
 30年後、無事に目覚めたダニエルだったが……。

 物語で重要な役回りを与えられたのが、相棒のピート。ベルの正体を見抜き、ダニエルのために(?)闘ったりしました。30年後に目覚めて、一時は気持ちが落ち着いたダニエルも、ピートを路頭に迷わせたであろうベルに復讐心を燃やします。
 そして、マイルズの継娘のリッキイ。亡くなった奥方の連れ子で、ピートと仲良し。ダニエルも、まだ幼いもののリッキイに信頼を寄せています。30年後のリッキイは?
 ストーリーは先が読めます。が、時間がからんだ物語は複雑になりがちですが、実にすっきりしてます。
 時間テーマの古典的名作。


 
 
 
 
2007年10月15日
クリフォード・D・シマック(船戸牧子/訳)
『中継ステーション』ハヤカワ文庫SF265

 イノック・ウォーレスは、アメリカの片田舎に住んでいた。リンカーンが募った最初の志願兵のひとりで、南北戦争に従事したこともある。戦争中に許嫁が亡くなり、結婚はしていない。両親もすでにない。
 年齢、124歳。
 ウォーレスは今も30歳程度に見えた。排他的な土地柄、噂になることもなく、数少ない近隣住民にはそういうものと受け止められてきた。日課は、郵便物を受け取りにいきながらの散歩。ウォーレスは配達夫から、郵便物と共に日常必需品を受け取る。その他の用事で出かけることはなく、人との接触もあまりない。
 ウォーレスの自宅は、銀河宇宙の旅行者たちのための中継ステーションだった。後進惑星である地球でそのことを知るのは、管理人であるウォーレスただひとり。
 宇宙人と接触し、自宅が秘密裏に作り替えられてからおよそ100年。ウォーレスは、危機感を抱いていた。地球は滅びの道を着々と進んでおり、さらには、自身を見張る人間も出現してきたのだ。直接的に、間接的に。
 ウォーレスを見張っているのは、情報機関のクロード・ルイス。地域にとけこみ、2年に渡ってウォーレスを観察し続けてきた。ルイスは、ウォーレス家の墓で、とんでもないものを発見する。それは、埋葬された地球外生命。ルイスは屍を秘密裏に運ぶが……。

 ヒューゴー賞受賞。
 淡々と綴られるウォーレスの日常。銀河宇宙から通信を受け取り、旅行者を迎え入れ、用途の分からない土産を頂戴し、次のステーションへと送りだす。その日常は、ルイスが墓を暴いたことで崩れていきます。野蛮な星という糾弾の背景には、銀河宇宙の分裂の危機が横たわっていて……。
 クライマックスも静かな作品。


 
 
 
 
2007年10月18日
アーサー・C・クラーク(伊藤典夫/訳)
『2001年宇宙の旅 −決定版−』ハヤカワ文庫SF1000

 恐竜が滅び去った太古の地球。
 ヒトザルは、まだ勝者とはなっていなかった。知能は低く、記憶力もない。立上がることはできたものの手先は不器用で、道具を使うことを思いつくものもいなかった。
 ヒトザルの小さな群れを率いる〈月を見るもの〉は、ある日、不思議な岩と遭遇した。完全に透き通った物質でできており、昨日まではなかったものだ。食べられないと分かるとすぐに興味は失ったが、〈新しい岩〉の方ではそうではなかった。
 ヒトザルたちは〈新しい岩〉から、一方的にせよ、さまざまなことを教わった。それらは長い長い年月をかけてヒトザルに浸透していき、彼らは人類となった。
 人類は、宇宙へと進出するに至る。
 ヘイウッド・フロイド博士は、宇宙飛行学会議の議長。メディアが注目する中、単身、月へと向かった。世間では、月で伝染病が発生したという噂で持ちきり。基地が隔離され、その理由がいまだに説明されていないのだ。
 実は、月のティコ・クレーターで、あるものが発見されていた。発見の発端となったは、異常な磁場。その場所を掘ってみると、地下6メートルから巨大な直立石(モノリス)が出てきた。周囲の地質から判断するに、モノリスが埋められたのは、300万年前のこと。
 フロイド博士は調査に当たるが……。

 同名映画の脚本と並行して書かれたSF。
 一気に舞台が宇宙空間になる映画とはちがい、原作では、ひとつずつ段階を踏んで進んでいきます。
 フロイド博士の後、ついに宇宙船ディスカバリー号と、デイビッド・ボーマン、フランク・プール、そしてコンピュータHALが登場します。有人探査計画は、当初、木星に行く予定でした。ところが、急遽土星に変更されます。ボーマンとプールはその理由を知りません。(映画では、目的地は木星のまま)
 土星で一行を待ち構えていたものとは?
 単独でも充分おもしろいものの、やはり映画とセットで読んでしまいます。脚本とは一切関係なく自由に書かれていたら……と思うと残念な箇所もありますが、それはそれでおもしろいかも。
 続編に『2010年宇宙の旅』『2061年宇宙の旅』『3001年終局への旅』があります。


 
 
 
 
2007年10月20日
ウィリアム・ギブスン(黒丸 尚/訳)
『ニューロマンサー』ハヤカワ文庫SF672

 ヘンリー・ドーセット・ケイスは、サイバースペースをかけめぐるカウボーイ。ただし、それも2年前まで。
 かつてケイスは、企業システムの防御壁を破り、データを窃盗することで生計を立てていた。腕利きだったが、裏切り行為を雇用主に知られてしまい、お払い箱。神経系に損傷を与えられ、完全にサイバースペースから閉め出されてしまった。もはやケイスは、マトリックスにジャック・インすることができない。
 ケイスは千葉のクリニックに助けを求めたが、すべては無駄だった。千葉の最下層に暮らし、麻薬にひたるケイス。ささやかだが危険な商売でかろうじて生き長らえていた。
 そんなケイスの元に、モリイと名乗る女が尋ねてくる。モリイはアーミテジという男に雇われていた。アーミテジもまた別の誰かに雇われており、ケイスも雇いたいらしい。
 ケイスに求められているのは、アイス(侵入対抗電子機器)を破ること。そのために、ケイスの神経損傷を治すという。ケイスは同意するが、治療と同時に毒物も埋め込まれてしまった。
 毒の入った液嚢は徐々に溶けていき、ふたたびケイスの神経を傷つける。それを防ぐには、ある酵素の投与が必要だが、それを知っているのはアーミテジだけ。
 ケイスは逃げることもできずに、仕事をこなしていくが……。

 ヒューゴー賞とネビュラ賞受賞。
 サイバーパンクのブームを巻き起こした作品で、その特色であるガジェットの洪水が荒々しく、消化するのが大変でした。再読なのでだいたいのところは分かっているのですが、それでも読みにくさは変わらず。
 そこがまたおもしろいところでもあるのですが。
 本作と、『カウント・ゼロ』『モナリザ・オーヴァドライヴ』で電脳三部作になってます。
 作中に語られるモリイの過去のエピソードは、「記憶屋ジョニイ」(収録『クローム襲撃』)という短編になってます。(映画化名「JM」)


 
 
 
 
2007年10月22日
アルフレッド・ベスター(中田耕治/訳)
『虎よ、虎よ!』ハヤカワ文庫SF277

 24世紀、ジョウント効果が発見された。
 ジョウントによって見出された瞬間移動は、純粋に精神感応によるもの。訓練さえ積めば誰でも瞬間移動が可能となった。
 自分がどこにいてどこに行こうとしているのか、ジョウントで必要とされているのはそれだけ。ジョウント可能域は、全太陽系に広がった。ただし、宇宙をまたぐジョウントはできない。1000マイル以上のジョウントに成功したものもいなかった。
 ジョウントは便利な移動手段という枠には収まらない。犯罪とその防御法が変わった。運輸分野には大革命をもたらし、ついには、内惑星連合と外衛星同盟との戦争へとつながっていった。
 そして、25世紀。
 ガリヴァー・フォイルは、貿易船の三等機関士。教育も技能も出世意欲もない、平凡な普通人だった。
 目下のところフォイルは、切実に助けを必要としていた。宇宙船〈ノーマッド〉号が、ロケットの襲撃によって破壊されてしまったのだ。生き延びたのはフォイルだけ。とはいえ、フォイルがいるのは小さな気密室。壊れた宇宙服を利用して、漂う船の残骸から少しずつ物資を持ち込んでいる状態だ。
 171日目。
 フォイルは航行中の宇宙船を発見する。〈ノーマッド〉と同じく、地球産業界に君臨するプレスタインの所有船だった。フォイルは閃光信号を出し、救助を求める。喜びも束の間、〈ヴォーガ〉号は、そのまま通り過ぎてしまった。
 フォイルは唖然とし、落胆し、そして復讐を誓う。怒りによってフォイルの能力は開花し、脱出に成功。〈ヴォーガ〉の追跡を開始するが……。
 一方、プレスタインでもフォイルを捜していた。攻撃された〈ノーマッド〉は、極秘裏に20ポンドのパイアを運んでいたのだ。
 パイアは、戦争の勝敗の鍵を握る戦略物質。発見者は他界しており、20ポンドが世界にあるすべて。その在処を知っているのは、フォイルだけ。
 プレスタインはフォイルを捕らえるが……。

 執念の男フォイルの、復讐物語。
 この名作が発表されてからすでに半世紀。華々しいものの古さは否めません。とはいえ、壊れた主人公と、さまざまなアイデアを駆使して見事にまとめあげたベスターはさすがだな、と。

 
 

 
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