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2007年の記録
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このページの本たち
ゲイトウエイ』フレデリック・ポール
人間以上』シオドア・スタージョン
わが名はコンラッド』ロジャー・ゼラズニイ
ゼロ・ストーン』アンドレ・ノートン
ゼロ・ストーン2 未踏星域をこえて』アンドレ・ノートン
 
宇宙製造者』A・E・ヴァン・ヴォクト
ドリームマスター』ロジャー・ゼラズニイ
ナイトサイド・シティ』ローレンス・ワット=エヴァンズ
闇よ落ちるなかれ』L・スプレイグ・ディ・キャンブ
宇宙探偵ラスティ』ブルース・コーヴィル

 
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2007年10月24日
フレデリック・ポール(矢野 徹/訳)
『ゲイトウエイ』ハヤカワ文庫SF769

 ロビネット・ブロードヘッドは心の病にかかり、機械の精神分析医ジークフリートのクリニックに通っていた。ボブは、大成功をおさめたために今では大金持ち。ジークフリートに猛反発しながらも、過去や夢を回想していく……。
 ボブが産まれたのは食糧鉱山だった。父が死に、母が死に、残されたボブも発破採掘係として働いていた。転機が訪れたのは、26歳のとき。25万ドルの宝くじに当たったのだ。
 ボブが選んだのは、ゲイトウエイの調査員への道だった。
 太陽系に遺されていた、謎の宇宙人の宇宙ステーション。そこがゲイトウエイだ。千隻もの恒星間宇宙船が見つかり、人類はそれらを利用しようと模索中。船には自動航法プログラムが組み込まれており、5つの座標をセットすることで勝手に飛んでいき、帰還する。
 調査員は、どこに行くか分からない船に乗って旅たつ。携帯する食糧が足りるかどうかも分からない。貴重なものを発見し、莫大な報奨金を得るものがいる一方で、帰ってこないものも少なくない。
 ボブは、ゲイトウエイ公社の教育を無事に終え、調査員となることができた。しかし、恐怖から船に乗ることができない。さまざまな理由をつけ、引き延ばしにかかる。しだいに目減りする財産。
 ボブは、ゲイトウエイに留まり働き出すが……。

 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、受賞。
 ボブの心の病の原因がなんなのか、分かった上での再読。おかげで、さまざまな伏線に気づかされるのですが、逆に、どうしてボブがわざわざ精神分析医にかかっているのか、そちらの方は理解できず。
 本人にも原因は分かっていて、それを隠したがっているように思えるのです。どうも構造ありきのような気がしてしまうのは、こちらか健康すぎるからか。


 
 
 
 
2007年10月28日
シオドア・スタージョン(矢野 徹/訳)
『人間以上』ハヤカワ文庫SF317

 白痴には、餓えや恐怖の感覚しかなかった。言葉はなく、考えることもない。ただ、その眼には不思議な力が宿っていた。餓えの白い雷光が白痴を打てば、食べ物が差し出される。白痴の眼を見たものは誰しも、施しをしてしまうのだ。
 白痴は目的もなくさまよっていたが、あるとき、呼び声を感じとった。そこは外界と切り離されたキュー氏の屋敷で、白痴は、キュー氏に追い立てられ、森へと逃げ込む。森で白痴を保護したのは、農家の夫婦だった。
 プロッドとおかみさんには子供がなく、白痴の面倒を我が子のように見た。白痴は、夫婦の愛情、彼のための祈り、ぬくもりを感じとり吸収していく。そしてまた、語彙や知識をも読みとり、白痴はローンとなった。
 やがて、夫妻に待望の赤ちゃんができた。ローンは邪魔者となってしまったのだ。その無言の訴えに、自ら、家を出て独立する道を選ぶローン。
 ある日、ローンの家に腹をすかした子供がやってきた。家出娘のジャニイと、双子の幼児、ボニイとビーニイ。ジャニイには念動能力があり、双子は瞬間移動することができた。
 ローンは、プロッドの家から連れたきた赤ん坊を、ジャニイに託す。プロッドは、おかみさんが亡くなり、遺された赤ん坊がモウコ病である現実を受け入れることができなかったのだ。
 ジャニイが言うには、赤ん坊はまるで計算機だった。質問すれば、常に正しい答えを返してくる。ただし、赤ん坊と会話できるのは双子だけ。
 赤ん坊は、新しい種族〈ホモ・ゲシュタルト〉についてはなす。 赤ん坊が頭脳、ジャニイが胴体、双子が両手足、そして、ローンが頭。彼らは、集団で一個の生命体。同族はいない、ひとりぼっちだった。

 世界幻想文学大賞受賞。
 前回読んだときにはまるで分からなかったので、少し警戒して読んでました。じっくりと向き合ったのがよかったのか、こちらが多少なりとも成長できていたのか、今回はすんなりと入れました。
 その能力や境遇ゆえ孤独に生きてきた人々は、集合人として寄り集まった後もやはり孤独。5人はそれぞれが自分。このホモ・ゲシュタルトが孤独から解放される日はくるのか?
 また読みたくなる名作。


 
 
 
 
2007年11月01日
ロジャー・ゼラズニイ(小尾芙佐/訳)
『わが名はコンラッド』ハヤカワ文庫SF178

 地球は〈三日戦争〉により壊滅。地表は放射能に汚染され、突然変異生物が跋扈する世界となった。
 当時、窮地に立たされた火星やタイタンの植民地を助けたのは、異星種属ベガ人だった。ベガ人たちは、それまでにもさまざまな種族を吸収してきた。彼らにとっても、完全に荒廃した文明ははじめて。難民たちがベガに住むことを許す一方、廃墟見物に魅せられていく。
 コンラッド・ノミコスは地球人。地球美術遺蹟史料局長の要職にある。休暇中だったが、ベガ人のコルト・ミシュチゴの地球観光のためにかり出された。
 ミシュチゴは、地球各地をまわり本を執筆するという。それは本心なのか? 噂どおり、地球を買収するための下調べなのか? それとも、また別の目的があるのか?
 コンラッドは、帰還主義者や暗殺者らと共にミシュチゴを案内するが……。

 ヒューゴー賞受賞。
 典型的な、読む人を選ぶ作品。
 前回読んだときには、もう三重苦で。分からない、楽しめない、はかどらない。それが今回は、なんとか分かったし、どうにか楽しみ方を発見して、そこそこのペースで読み切りました。
 読むべき時期というのをひしひしと感じた作品。


 
 
 
 
2007年11月03日
アンドレ・ノートン(小隅 黎/梶元靖子/訳)
『ゼロ・ストーン』ハヤカワ文庫SF648

 マードック・ジャーンは、宝石鑑定士見習い。師匠のヴォンダーと共にクーンガ・シティに滞在中、事件に巻き込まれてしまう。ヴォンダーは殺されたが、マードックは、自由貿易業船〈ヴェストリス〉号の乗組員との交渉に成功。シティから脱出した。
 マードックの父ハイウェルは、宝石商人だった。表向きは、堅実な質屋。裏では非合法な商品も扱い、マードックは幼少のころより珍しい品や話を見聞きしてきた。
 その父も今は亡い。殺害されたのだが、元凶となったのはある指輪だった。航宙士が持ち込んだ品で、宇宙を漂う謎の死体が宇宙服の上から身につけていたものらしい。ハイウェルは、指輪の石を〈ゼロ・ストーン〉と名付け、それについて調べていた。
 マードックは、秘密裏に指輪を引き継いでいる。
 今度の事件も、指輪が原因なのか?
 マードックは乗船中、疫病にかかってしまった。隔離され、驚くべきことを知る。船長は、マードックを盗賊ギルドに引き渡す契約を結んでいたのだ。助けを求められる以前から。
 マードックは、猫から産まれた謎の生命体イートに導かれ、船外に脱出する。宇宙服の上には、あの指輪。宇宙に出ると〈ゼロ・ストーン〉は輝きを取り戻し、彼らを漂流船に導くが……。

 SFジュブナイル。
 謎の石と、未知の種族と、殺人と、漂流船、古い遺跡、その他もろもろ。定番の設定や小道具を使いながらも、展開は巧み……なんですけど、そこはやっぱりジュブナイル。つっこみは深くなく、数々の謎が残るのでした。
 〈ゼロ・ストーン〉のことやイートの正体は続編『ゼロ・ストーン2/未踏星域をこえて』にて。


 
 
 
 
2007年11月04日
アンドレ・ノートン(小隅 黎/梶元靖子/訳)
『ゼロ・ストーン2 未踏星域をこえて』
ハヤカワ文庫SF701

ゼロ・ストーン』の続編。
 宇宙船〈ウェンドウィンド〉号を手に入れたマードック・ジャーン。〈ゼロ・ストーン〉の秘密は突き止めたいが、そのためには先立つ物が必要。商売を始める用意を整えるものの、離陸するために必要な操縦士の資格がない。
 マードックは相棒のイートに促され、自由貿易業者のカーノ・リズクを雇った。リズクはファッシ煙草中毒者で、もう2惑星年も飛んでない。しかし知識も経験も豊富で、マードックはリズクを信用することにする。
 マードックは、未開の惑星ローガル、次いで伝説の惑星ソロリスに降り立ち、命がけで緑石を入手した。緑石はそれほど高価ではないが、珍しい石だ。
 マードックは石を捌くため、惑星ライルステインを訪れる。師匠ヴォンダーの友人カフーがおり、力になってくれると踏んだのだ。ところがカフーから告げられたのは、マードックの名前がブラックリストに載っている、ということだった。
 ブラックリストに載っている者が競売に参加することはできない。また、商店に売ることもできない。ただし、非合法なら話は別。マードックは、父の店で覚えた符合を使い、裏取引を成功させる。収穫はそれだけではなかった。
 店の主人タックタイルが襲撃計画を持ちかけられている情報を得たのだ。獲物は、ザカサン人。場所は、星図にない座標。
 ザカサン人たちが発掘している、先史文明種族の宝が狙いだろうか?
 なんにしろ、ザカサン人に恩を売り、彼らがマードックの後ろ盾になってくれれば、ブラックリストなど問題でなくなる。
 マードックは現地に急行するが……。

 SFジュブナイル。
 交易に関する細々した事件はあるものの、肝心の〈ゼロ・ストーン〉を巡って物語が動き出すのは、後半から。ローガルやソロリスの描写など、おもしろくないわけではないものの、どうもバランスが悪く思えてしまう。
 全体としてはおもしろいんですけど。


 
 
 
 
2007年11月07日
A・E・ヴァン・ヴォクト(矢野 徹/訳)
『宇宙製造者』ハヤカワ文庫SF18

 1953年、アメリカ軍中尉モートン・カーギルは、自動車事故を起こしてしまった。その助手席には、行きずりの女性マリー・シャネットが。カーギルは、意識を失ったシャネットを置き去りに、逃げ去ってしまう。
 それから1年。
 朝鮮戦争から帰ったカーギルの元に手紙が届いた。差出人は、死んだはずのマリー・シャネット。カーギルは戦々恐々としながらも、指定された場所に向かう。
 カーギルの前に現れたマリー・シャネットは、カーギルにある書類を見せた。書類には再調整治療法のことが書かれており、カーギルに対し、殺されることを推奨していた。
 カーギルが連れて行かれたのは、未来世界。シャドウズが支配する〈シャドウ・シティ〉の一室だった。カーギルは“声”から、自分が殺されなければならないと聞かされる。その様子を、マリー・シャネットの子孫に見せなければならない、と。
 監禁されたカーギルを救ったのは、アン・リースだった。
 カーギルはこのチャンスに飛びつくが、アンやその仲間たちを信用したわけではない。隙をとらえ、荒野へと逃れた。
 アンからは逃れられたカーギルだったが、フローター族の父娘に捕まってしまった。どうやらトゥイーナーと勘違いしているらしい。囚人となったカーギルは、彼らから情報を得ようとする。
 時は、2391年。フローター族は自由の民だが、シャドウズたちから援助を受けている。シャドウズと対立しているのは、トゥイーナーたち。
 カーギルは、フローター族の飛行船を盗もうとするが……。

 わけが分からないまま未来世界に放り込まれたカーギル。徐々に知識を増やし、自分の居場所を確保していきます。時間を扱っているだけに、展開は複雑。設定は大風呂敷。
 再調整治療法とはなんなのか?
 カーギルを利用しようとするアン・リースやトゥイーナーたちの目的は?
 事件全体の背景にいるグラニスとは何者なのか?


 
 
 
 
2007年11月08日
ロジャー・ゼラズニイ(浅倉久志/訳)
『ドリームマスター』ハヤカワ文庫SF433

 シェイパーは、神経関与療法のセラピスト。ロボット子宮に患者を入れ、夢を見させる。シェイパーは、患者に合わせて世界を作りあげ、患者の神経症的パターンに分け入ってゆく。200人そこそこしかいない、特殊な精神分析医。それがシェイパー。
 シェイパーのチャールズ・レンダーは、クラブ〈P&S〉でメッセージを受け取った。ドクター・シャロットが面会を希望しているという。レンダーは渋々承諾する。
 アイリーン・シャロットは、盲目だった。
 シャロットは、州立精神医学研究所の精神科レジデント。すでにふつうの精神分析にはかなりの実績があるが、希望はあくまでシェイパーになること。盲目の原因は目にあり、脳の映像処理能力は正常だから、シェイパーになれると言うのだ。
 シャロットは、かつて恩師と神経関与セッションを持ったことがある。目的は、シャロットの心を視覚経験に適応させるため。そのときシャロットは色彩というものを学んだ。もっと続けたかったが、恩師がなくなり、セッションもなくなってしまった。
 レンダーは、その挑戦に大反対。セラピストに求められるのは冷静さなのだ。患者に対して常に優位でいなければならない。それなのに、シャロットが“見ること”に夢中になり、夢の制御力を失ってしまったら……。
 シャロットはひとつの提案をした。
 レンダーの患者となり、見ることに慣れれば、見ることへの不安を取り除けるのではないか。シェイパーとしての訓練を行えるのではないか、と。
 レンダーは、その実験的な試みを承諾するが……。

 物語を形作るのは、シェイパーとして名をはせるレンダーの弱さ、精神力の強いシャロットの脆さ、レンダーの息子や恋人、シャロットを導く盲導犬のジークムント。エピソードが積み重なって、ラスト・シーンへと突入します。
 夢が介在するだけに、ちょっと不思議な物語。


 
 
 
 
2007年11月09日
ローレンス・ワット=エヴァンズ(米村秀雄/訳)
『ナイトサイド・シティ』ハヤカワ文庫SF1030

 エータ・カス星系の第三惑星エピメテウスには、大気があり、貴重な鉱山があった。ただ、太陽からの紫外線が強すぎ、昼の側に住むことはできない。人々は、夜側にあった唯一のクレーター〈ナイトサイド・シティ〉で暮らしている。
 エピメテウスは入植当初、停止していると思われていた。昼と夜は、完全に固定されているのだと。ところが、一日に138センチという速度で自転していることが判明。
 〈ナイトサイド・シティ〉は、はじめての日の出を迎えようとしていた。
 カーライル・シンは、エピメテウスで生まれ育った私立探偵。有能だったが、ペテン師にひっかかり〈恒星間リゾート社〉に睨まれてしまう。シティの中心から閉め出されたシンは、活動の拠点を西側に移した。西側は朝に近いため、家賃が安いのだ。
 シンは、生きていくために、どんな仕事でも引き受けた。料金はリーズナブル。しかしエピメテウスを脱出する金は溜まっていない。
 ある日事務所に、依頼人がやってきた。
 西はずれのゴーストタウンには、宿無したちが住んでいる。その一帯では、すでに灼熱の炎がビルの上層をかすめており、家賃はただ同然。もはや資産価値はない。
 依頼人は彼らの代表なのだが、つい2週間ほど前、新しい所有者が現れたと言うのだ。家賃の値上げを突きつけられ、困っているのだ、と。
 誰がなんのために、住めなくなることが確定的な土地を買い占めているのか?
 シンは、少ない報酬ながらも仕事をひきうけ、調査を開始する。

 ハードボイルド。
 貧乏探偵と、大きな謎と、命の危険。夜明けを迎えつつある世界と、ばっちりはられた伏線と、敵と味方。いろんなものが絡まりながらもコンパクトにまとまって、ちっこい種明かしに結集します。
 納得はできますが、尻すぼみ的ではあります。


 
 
 
 
2007年11月10日
L・スプレイグ・ディ・キャンブ(岡部宏之/訳)
『闇よ落ちるなかれ』ハヤカワ文庫SF256

 マーティン・パッドウェイは、博士号まであと一歩の若き考古学者。イタリアを訪問中、予期せぬ出来事に遭遇した。
 パッドウェイは、パンテオンの柱廊を見物中、雷雨に襲われてしまう。雷は広場の右手に落ち、その衝撃か、パッドウェイの身体は宙に浮いた。そして、着地したときには景色は一変。
 そこは6世紀のローマだった。
 パッドウェイが持っているのは、考古学者としての知識と機転だけ。とにかく生きるために、なにかしなければならない。
 パッドウェイがまず行ったのは、金貸しのところ。シリア人のトマススを相手に、つたないラテン語で交渉に当たる。担保なし、保証人なし。まるで相手にされない。
 パッドウェイは低利の融資を引き出すため、トマススにアラビア数字による計算法を教えた。習得すれば、ローマ字による計算法よりずっと早く、帳簿がつけられるようになる。
 トマススの説得に成功したパッドウェイは、ブドウ酒からブランデーを蒸留し、商売を始めた。事業は成功するものの、喜んでばかりもいられない。
 戦争の噂がもたらされたのだ。
 パッドウェイは、迅速な通信と複数記録が、暗黒時代を遠ざけると考えた。そして、印刷屋を始めることを決意する。続いて、通信事業にも着手。
 パッドウェイの不断の努力は実を結ぶのか?

 タイムトラベルもの。
 パッドウェイがいるのは東ゴート王国で、テオダハド王が共同統治者だったアマラスンタ女王を暗殺し、女王を庇護していた東ローマ帝国との関係が悪化。国内のローマ人たちも反発を強めていきます。
 国内情勢が暗いとはいえ、パッドウェイとトマススのやり取りといい、ちょっとコミカル。ただし、パッドウェイが政治の舞台に躍り出たところでやや軌道修正。考古学者だけに、歴史の大まかな流れは分かっているし、現代の技術をいくらか持ち込むこともできる。でも、政治はシロウト。
 おもしろいんですけどねぇ、軌道修正はない方がよかったかも……と思わなくもない。


 
 
 
 
2007年11月11日
ブルース・コーヴィル(斎藤ひろみ/訳)
『宇宙探偵ラスティ』ハヤカワ文庫SF817

 エドワード・マクフィー(通称ラスティ)は、スペース・コロニーで生化学を勉強している学生。
 その日ラスティは、廃棄物処理工場での仕事中、いつものように巨大タンクを覗きこんだ。そうする必要はないのだが、分解されているものを見るのが習慣なのだ。そのためにラスティは、思いもよらないものを目撃する。
 溶けかかった男の死体。
 ショックを受けたラスティは、嘔吐したり、転倒したり、気絶したり……。右往左往した挙げ句に通報が遅れてしまった。コロニーには警察署はないが、調停を行う紛争処理局がある。ラスティは指示に従ってシステムを止めるが、時すでに遅し。死体は分解された後だった。
 コンピュータに照会した結果、行方不明者がいないことも判明。死体も死体候補者もいない以上、疑いの目はラスティに。ラスティは、紛争処理局の局長にお灸を据えられてしまう。
 納得できないラスティは、地球にいるSF作家の祖父の紹介で、エルモ・パケット博士を尋ねた。
 パケット博士は、コロニーの創設者。その実現を可能にした技術の半分は、パケット博士の考案したもの。そのため、とんでもない金持ちで、コロニー中央に住んでいる。
 マクフィーは、パケット博士の指示で捜査に着手するが……。

 ジュブナイルのミステリ。
 とにかく直球勝負。聞き込みがあり、生命の危機があり、陰謀があり……と、いろいろ揃ってはいるものの、出来事が一直線に配置されているためか、どうも迫ってくるものがない。
 年相応のものを読め、ということか……。

 
 

 
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