ダイアスパーは、地球最後の都市だった。セントラル・コンピュータによって完璧に管理され、暑くもなく寒くもなく、常に午後の日射しが降り注ぐ、外界との接触を断った都市。
人が生まれるのは〈創造の殿堂〉から。ほぼ成人と同じ姿で現れ、年月と共に生まれる前の記憶を取り戻し、やがて〈創造の殿堂〉へと入っていく。いずれ未来に誕生するときまで眠り続けるために。
アルヴィンが生を受けてから20年がたっていた。仲間たちは徐々に前世を思い出していたが、アルヴィンにはそれがない。アルヴィンは過去がない、ユニークな存在だったのだ。10億年を越える歴史の中、こうしたユニークな存在は15人目。この1000万年では初めてだった。
ユニークな存在は、都市の設計者によって計画されていたことなのか?
それとも偶然の産物に過ぎないのか?
そしてまたアルヴィンには、外界に対する恐怖心がなかった。ダイアスパーの住民なら誰もが持っている、抑えがたい恐怖心。その理由は伝説が説明してくれる。
かつて人類は、銀河に進出し帝国を築いていた。ところが、侵略者が現れ、帝国は崩壊。人類は地球に押し返された。生き長らえたのは、二度と銀河へ出ない条件によるもの。それゆえ人々は、ダイアスパーから出ることを想像することすらできない。
アルヴィンは、外の世界に興味津々。ダイアスパーから脱出する道を探索しはじめるが……。
クラークの処女作「銀河帝国の崩壊」(収録『悠久の銀河帝国』)を発表してから8年後に全面改稿した作品。作者の弁によると、25%が重複しているそうですが、うろおぼえになっている身としては、ほぼ同じ話。前作より考え尽くされている感じはしますけど。
はるか未来の人々の生活。崩壊した銀河帝国の影。未知の世界の冒険の結末は?
名作は本当に色あせない。でも、オリジナリティという点では(たとえ元ネタが自身の作品だとしても)ちとマイナス。
弁護士のアタスンは親戚のエンフィールドから、ある事件の目撃談を聞いた。
ある冬の明け方のこと。少女と男が、曲がり角で出会い頭に衝突。男は倒れた少女を踏みつけて立ち去ろうとした。
この悪鬼のような男の名は、エドワード・ハイド。
その話を聞いたアタスンは、友人のヘンリー・ジーキル博士から預かっている遺言状をあらためた。遺言状には、ジーキル死亡、もしくは失踪の際には「友人にして恩人たるエドワード・ハイド」に全財産を譲るとある。
それまでアタスンは、ハイドなる人物を知らなかった。それがついに、判明したのだ。と同時に、ジーキルが苦しんでいるのではないかと心配になる。凶悪なハイドに脅迫されているのでは、と。
アタスンは機会をとらえ、ジーキルにハイドの話を切り出した。ジーキルは青ざめ、個人の問題と主張するばかり。そして、自分になにかあったときにはハイドの権利を守ってくれるように約束させられてしまった。
それから1年。
上院議員のサー・ダンヴァズ・カルーが惨殺された。真夜中の事件だったが目撃者がおり、ハイドの犯行と知れ渡る。ハイドが遺留品としてのこしたのは、折れたステッキ。アタスンがジーキルに贈ったものだった。
アタスンはジーキルと面会するが……。
「ジキルとハイド」と言えば、極端な二重人格の代名詞的存在。怪奇小説と思われがちのようですが、実際のところはミステリ。
アタスンは、ジーキルがハイドに対して、深い悲しみと恐怖を示すのに気がつきます。その理由とは?
そしてまた、共通の友人ヘスティー・ラニョン博士に変事が起こってしまいます。ラニョンが決して口にしないその原因とは?
100ページほどの小作品でササっと読めてしまいますが、とにかく奥深さのある名作。
スタヴィアの息子ダーウィットは15歳になり、戦士の息子となった。予想されていたことなのだが、スタヴィアの悲しみが薄れることはない。
核戦争後の荒廃した世界。女たちは〈女の国〉に住み、政治や経済活動を行った。街を守護するのは〈戦士の国〉の男たち。女たちの息子は、5歳になると〈戦士の国〉で暮らすようになり、15歳のとき、そのまま戦士となるか、あるいは従僕として〈女の国の門〉をくぐるか決めなければならない。
思えばスタヴィア10歳のとき。
自分の娘たちと同じように、弟ジャービーを〈戦士の息子の門〉の向こうへと送りだした。スタヴィアはなにも知らなかった日々を思い起こしていく……。
姉のマイラが戦士バートンと恋に落ちたのは、スタヴィア11歳のとき。以来マイラは、決まりごとにたてついてばかり。バートンによくない考えを吹き込まれているらしい。
成長したスタヴィアもまた、シャーノンに夢中になり、頼まれるまま本を貸してしまった。シャーノンはまだ若く戦士ではないが、本を貸すことは規範に反すること。追いつめられたスタヴィアは従僕のジョシュアに相談する。
実は、バートンもシャーノンも、司令官マイクルの命令を受けていた。マイクルは、女たちがなにか隠していると睨んでいた。それは、女だけが知っている〈大変動〉以前の武器ではないか、と。
マイクル自身、街を統治する評議員のモーゴットに接近したことがあった。しかしモーゴットは口が堅く、おくびにも出さない。だが、その娘、スタヴィアとマイラならしゃべるかもしれない。
マイクルは、シャーノンに策を授けるが……。
一見地味な話なんですけど、底は深し。
37歳の、すべてを知ってしまったスタヴィアの悲しみと、10歳〜22歳の若きスタヴィアの恋や苦悩や冒険が交互に語られます。
マイクルがさぐる女の国の秘密とは?
錬りこまれた物語をたどるにつれ、伏線だったものが浮かび上がってきます。男が象徴するものほぼ全否定なので不快感を持つ人もいるでしょうが。
ジェリン・ウィスラーは、ウィスラー家の長男。もうすぐ16歳の成人を迎えるお年頃。
極端に産まれる確立の少ない男は、この世界では一家の貴重な財産と見なされていた。母たちや大勢の姉妹は男をまもり、軽々しく表へは出さない。男は危険や教養から遠ざけられ、値段をつけられ他家に売られていく。
母たち、上の姉たち、まんなかの姉たちが不在の中、ウィスラー家の土地で事件が勃発した。騎馬の音を聞きつけ偵察に出向いたジェリンの妹ヘリアが、盗賊と遭遇したのだ。彼女らはひとりの女兵士を襲っていた。ヘリアは銃で追い払い、ジェリンと共に兵士を母屋へと運んだ。
ジェリンらが助けたのは、王女オディーリアだった。駆けつけたオディーリアの姉レンセラー王女は、ジェリンに一目惚れ。王家は平民とは結婚できないが、ジェリンの祖父は、内戦のごたごたで祖母たちが密かに拉致してきたアラノン王子。ジェリンには王家の血が流れているのだ。
レンセラー王女は女王を説得し、オディーリアを救助した礼にウィスラー家を宮殿へと招待する。
このころ、王室は揺れていた。長女ら上の王女たちが買い求めた夫カイファーで大失敗。そのカイファーも、劇場爆破事件で多数の王女らと共に他界した。以来、レンセラー王女は第一王女となったのだが、生まれつきの地位ではない。牽引力不足は否めなかった。
ジェリンは良家に婿入りすることができるのか?
王家をゆるがす大事件の首謀者とは?
ヘラルド新聞が登場するところから見て、男の出生率が極端に落ち込んでしまった未来世界と思われますが、実際のところは中世的な世界を舞台にしたファンタジー。
結婚話のごたごたに、宮廷作法のあれこれ、王室転覆事件が絡まって予想されたラストへと突き進みます。つっこみどころ満載。エンターテイメントとして楽しむのが正しい読み方なんでしょう。
地球は未曾有の大災害に襲われ、多くの人命を失った。
やがて、復興と同時に超巨大企業が勃興。大富豪となった企業役員たちは完全雇用を目指し、すべての従業員(プロテ)の子孫を支えようとした。しかし、支えようにも限界がある。極端な経済格差も手伝って、プロテの反乱が頻発。各地で、企業の治安部隊とプロテとの戦争が行われるにいたった。
ナジール・ディープラは〈クラッシュ2057〉を生き延びた内のひとり。あれから2世紀以上が経過し、今では超兆億万長者にして、ウォー・サーフ愛好者。トップクラスの成績を誇る〈苦悩組〉のメンバーだ。
ウォー・サーフは、封鎖された扮装地帯に紛れ込むスポーツ。サーファーは、高価で高性能なスーツを身にまとい、死と隣り合わせの状況を中継して度胸を競う。
ある日ナジールは、ヘルス教会で働いていた企業役員の娘シーバ・ズィーにひとめぼれ。シーバは、18歳の弾けるような若さ、可愛らしさを持っていた。エステティシャンとしての腕前も、超々超常的。ナジールは、シーバのために個人営業許可をとり、友だちを紹介する。
それから5年。
ナジールは、贈り物でシーバを喜ばせようと苦戦中。肝心のシーバはオカルトに傾倒しており、暗闇を探求中だった。シーバはウォー・サーフに興味を示すが、ナジールはためらう。いかにスーツが優れていようとも、あまりに危険だからだ。しかし、成り行きで〈苦悩組〉に招待することになってしまう。
ナジールはシーバにいいところを見せようと躍起になるが、メンバーの間で亀裂が生じ、ミスを誘発する結果に。ついに〈苦悩組〉は首位の座をライバルチームに奪われてしまう。追いつめられた〈苦悩組〉は、最高難度の軌道上工場〈天国〉をサーフすることで挽回しようとするが……。
フィリップ・K・ディック賞受賞作。
死に直面したナジールの回想というスタイルで展開していきます。ナジールは248歳なものの、外見は若者。積み重ねた経験から行動しようとしますが、シーバには通用せず。振り回されてしまいます。
実はナジールは、〈天国〉を所有しているプロヴェンディア社の筆頭株主にして名誉会長。決して公にできない〈天国〉の秘密を知っていますが、他のメンバー、ましてやシーバに告げることができません。その秘密とは?
なぜナジールは死を待っているのか?
書名にはキャンベルの名前しかないのですが、実は、合本。掲載順にご紹介します。
ジャック・ヴァンス(森川わたる/訳)
『宇宙の食人植物』
地球出身のジョウ・スミスは、惑星キリルに降り立った。目的地はバレンカーチなのだが、ここまでの船賃しか持ち合わせがなかったのだ。後はキリルで稼ぐしかない。
キリルは、50億の平信徒を200万のドルイド僧が支配している世界。人々は、ひとつの、ただし途方もない大きさの聖なる樹を信仰している。そして、惑星マングツェと闘争の真っ最中。ドルイドたちは生産的な小作人を擁し、マングたちは工業を発達させてきた。互いに補完しあう関係にあるのだが、今ではどちらもバレンカーチの支配権を狙っている。
バレンカーチはつい最近まで未開の世界だった。それがプリンスの登場によってひとつの大陸が統一され、工業化も進みつつある。
ジョウは、偶然に知り合ったマングのヘイブルヤットのお膳立てで、管区長官に雇われることとなった。地道に賃金を貯めていくジョウ。ある日、長官の三女、女司祭のエルフェインに呼び出される。
ジョウがエルフェインの部屋に行くと、そこにはマングツェ大使の屍体があった。エルフェインは殺害を否定。しかし、屍体は密かに、そして速やかに隠したいと言うのだ。
ジョウは、屍体を車に運ぶのを手伝い、口止め料をせしめる。
一気に船賃を手にしたジョウは、バレンカーチへの船に乗ろうとするが……。
キリルでの出来事はほんのとっかかり。
ドルイドたちの思惑、ヘイブルヤットの目的、ヘイブルヤットとは対立しているマングの狙い……いろいろなことが船旅を彩ります。そもそも、ジョウがバレンカーチへと向かっている理由とは?
1951年の発表作なので、もちろん内容は古めかしいです。でも、陰謀と画策はいつの時代も同様に。ただただ、ネタばれな邦題だけが残念なのでした。(原題は“SON OF THE TREE”)
ジョン・W・キャンベル・ジュニア(下地衿子/訳)
『太陽系の危機』
惑星間パトロールの哨戒艇が、未知の宇宙船に攻撃された。
彼らが使ったのは中性子砲。やすやすと船殻をつらぬき乗組員を殺すと、船を捕らえたまま、光よりも速く姿を消した。
哨戒艇長のバーナード・ケンダルは攻撃を受けたとき、たまたま貯水タンクの裏側にいた。そのおかげで攻撃を生き延びると、補助艇で脱出。彼らを、太陽系侵略のための偵察部隊ではないかと懸念するが、パトロール隊に一笑にふされてしまう。
地球に戻ったケンダルは潔く除隊し、博士にして億万長者という社会的地位を利用し、司令官マクローリンに面会。説得に成功し、侵略者への準備を進めるが……。
一方、故郷に成果を持ち帰ったミラ人たち。
彼らは主星ミラの気まぐれに苦悩し、人口増加にも直面していた。太陽系の発見は歓迎され、移住計画が始まる。遠征軍の司令官グレッスズ・グケイは、科学者や移民団もつらなる大船団を率いて太陽系に向かうが……。
侵略者に対抗するため、大天才ケンダルはさまざまな実験を行い、強力な武器を作り上げ、ミラ人たちを迎え撃ちます。太陽系は守られるのか?
実は、ちょっと苦手なタイプのSF。
ミラ人側の視点も織り交ぜられてあったのは幸いでした。
惑星セント・ヘレンズでは入植から200年がたち、超能力者が産まれるようになっていた。超能力は、いかに強力であろうとも単独行使は難しい。〈プリズム〉と名付けられた触媒者が補助をして始めて使いものになるのだ。
ルーカス・トレントは、ロードスター開発の社長。
西諸島において大成功を治め、一角の人物となっていた。そんなルーカスを悩ましているのは、広報部長ミランダ・ロッキングの裏切り。
ミランダは、3年前に不慮の死を遂げた、共同経営者ジャクソン・ライの婚約者だった。ルーカスは信頼していたのだが、企業秘密をライバル社に売り渡しているらしい。内部監査の結果、メリック・ビーチなる男と定期的に接触していることも判明。しかし、ルーカスはその事実を受け入れることができない。あり得ないこととは知りながら、催眠能力者に暗示をかけられてしまったのではないかと疑う。
ルーカスは、プリズム派遣会社として業界トップクラスのシナジー社を訪問した。自身が持つ探査能力を使い、犯人が超能力を使っている現場をおさえる腹づもりだ。紹介されたのが、全能力幅を持つプリズム、アマリリス・ラークだった。
ルーカスは、論理観に固まったアマリリスに辟易しながらも契約を結ぶ。そして、チャンスを捕らえて探査するものの、あぶり出されたのは別種の予期せぬ能力だった。
クレンツは、ロマンス界では人気作家だそうです。確かに、ロマンス満開にしつつ、展開にソツがなく、きちんとまとめられてます。ちょっと変なところがあるのは翻訳のせいか……。
ミランダの裏切りをとっかかりに、今まで知られていなかった能力が明らかになり、さらには、アマリリスが慕っていた教授の死に疑問が呈されます。アマリリスにかかってきた謎の電話。命を狙われるルーカスとアマリリス。逃走の過程で明らかにされるルーカスの本当の能力……。
結末がバレバレなので、「読者にはバレバレだけど登場人物はまっっったく気がついてないもどかしさ」を楽しむ人にはうってつけかも。SFが読みたい人にはおすすめできませんが。
エクーメン連合が最初に惑星アカと接触したのは、70年程前のこと。以来アカは、星ぼしの世界を目指し、急激かつ徹底的に近代化を図ってきた。アカは、前進するために自らの文化を捨て去ったのだ。それはエクーメンの望んでいることではない。
独自の価値観は破壊され、書物は燃やされ、文字は忘れ去られた。アカに文化はなく、歴史も歌も、物語が語られることもない。あるのは、アカの政府〈コーポレーション〉による単一のスローガンと単一の宣伝物だけ。
排他的なアカの政府は、異星人の入国を一時に4人までしか許さなかった。サティはそのうちのひとり。エクーメンのオブザーバーとして、制限を課せられながらも懸命に調査を続けている。
サティが生まれ育ったテラでは、かつて、狂信的な〈ユニスト〉によって文化の破壊が行われた。宗教的大変動に揺さぶられ、悲劇を体験してきたのだ。その生い立ちゆえ、サティに特別な任務が言い渡される。
ついに許された都市以外の滞在。その貴重な機会に選ばれたサティは川を遡り、田舎の町オクザト−オズカトへと向かう。そして密かに、〈マズ〉と呼ばれる者たちの禁じられた〈語り〉を聞くが……。
《ハイニッシュ・ユニバース》もの。
ローカス賞受賞作。
アカの文化を元に、サティは延々と考え続けます。失われたもののことを。アカだけでなく、テラでもなんと多くのものが失われたことか。
基本的に考え続けることで答えを導き出す物語なので、サティと一緒になって考えながら読まないと、理解できないまま終わってしまいます。で、前回は分からなかったのですが、さすがに5年たった再読で、やや分かるようになってきました。
まだまだ充分ではありませんが。
その恐竜は、ユタで発見されたためにユタラプトルと名付けられた。
ラプトル科の恐竜は肉食で、概して知能が高い。体躯は恐竜としては小柄。主にグループで狩りをする、頭脳派の殺し屋だ。ただし、ユタラプトルは巨体を持っていた。
1億2000万年前。
ユタ中央の平原にユタラプトルたちが進出してきた。特徴は、鼻のあたりに赤い線が入っていること。そして、その巨体。
ラプトル・レッドはそのうちの一頭。全長6メートルの体格を誇り、パートナーにも恵まれた。条件が整わなかったために、子供はまだいない。春は近く、いよいよ次の世代を育てることを意識し始めている。
ある日レッドとパートナーは、巨体アストロドンを仕留めた。狩りは成功したものの、喜びもつかの間。パートナーはアストロドンの身体の下敷きになってしまう。沼地に沈み込んで行く彼を救う方法はない。嘆き哀しみ、途方にくれるラプトル・レッド。
レッドは単独で放浪し、なんとか食いつないでいく。たくましかった身体は痩せこけ、新しいパートナーは見つからない。そんなレッドの前に現れたのは、かつて別れた姉だった。
レッドの姉には3匹の子供たちがおり、子育ての真っ最中。レッドは遺伝子に組み込まれた要求に従い、利己を捨て、姉の子供たちを一緒になって育てはじめる。強い本能が、自分と近しいものの血を引いている子供たちを助けよ、と命じているのだ。
レッドのグループは、力を合わせ災難も乗り越えていくが、やがて不協和音が生じはじめる。ラプトル・レッドは新たなパートナーを得たのだ。レッドにとってはパートナーでも、姉にとっては赤の他人。姉は子供たちを守るため、彼を追い払おうとするが……。
白亜期に生きた恐竜たちの物語。
中心はラプトル・レッドですが、その周辺の恐竜たちもでてきます。そして、人類の祖先たちも……。
自身の学説を発表するのが目的とはいえ、小説になっているので充分楽しめます。かなり想像の部分はありますが。
腹英34年、現代の暦では1607年。
素乾国の天子が亡くなった。
当時、皇太子は若干17歳。即位後間もなくして幻影達の乱が起こった。正妃は、幼名を銀河として伝えられている。
腹英帝が崩御したとき、銀河は13歳だった。緒陀地方の出身で、陶器職人の娘。後宮のことなどなにも知りはしない。それが、興味からか、勧誘されたのか、宮女候補生となるに至った。
銀河のように、宦官たちは全国各地から宮女を募っている。宦官にとっては、自分が選んだ女が皇帝の寵愛を受ければ、権力拡大。皆、これはと思う美女を送り込んできた。ただし、銀河は別。緒陀地方には美女が少なく、銀河はひとつの妥協点だった。
後宮は国家の子宮である。
後宮では、この哲学に従いすべてが進められていく。宮女候補生のための女大学を無事に卒業した銀河は、どうしたことか正妃に選ばれた。新皇帝は方々から命を狙われており、銀河の無害さが評価されたのだ。銀河は憤慨するが……。
一方、国内では幻影達が反乱を起こしていた。
幻影達は、元はといえば、そこらのごろつき。人望はあるものの、決断力はない。ことあるごとに兄貴分の渾沌に相談してきた。
渾沌の助言は、勘か、そのときの気分によるもの。それらはすべていい方向に当たり、幻影達は山北州都司侍郎となっていた。
幻影達は、官職は得たものの退屈になってくる。そこで、いつものように渾沌に相談。出てきた答えが挙兵だった。ふたりにとって、反乱はほんの遊びだったのだが……。
第一回、ファンタジーノベル大賞受賞作。
デビュー作ゆえ詰めはかなり甘いんですが、それが逆に、登場人物たちの破天荒ぶりとマッチしていていい感じ。ここ十年で一番再読している作品となりました。
当時のファンタジーノベル大賞はアニメ化が前提で、「雲のように風のように」というタイトルでテレビアニメになりました。そちらを先に見てますが、改めて原作を読むと、よく子供向けに作れたなぁ、と感心してしまいます。