カナダ・トロントが中国側の攻撃により壊滅して9ヶ月。
地球にやってきた異星人の宇宙船はとどまったまま動かず、ファースト・コンタクトも実現していなかった。対応に当たっていたカナダの恒星船〈モントリオール〉は、新たに2人の学者を招く。
宇宙記号学者のレスリー・ジャカマラと、民族言語学者のジェレミー・カークパトリック。レスリーは、彼らが話をしない種族ではないかと仮説を立てていた。話をしない種族とコンタクトをとるにはどうすればいいのか?
〈モントリオール〉のパイロット、ジェニー・ケイシーは、異星人の宇宙船に入ってみることを提案するが……。
一方、地表ではカナダと中国の対立が激化していた。カナダ首相のコンスタンス・ライエルは報復はしないと明言するものの、中国を国際法廷に引きずり出すつもり。しかし中国も抜かりはなく、国連での公聴会にすりかえられる。関係者が集められるが、政治的駆引きだけでなく、ある陰謀も進められていた。
《サイボーグ士官ジェニー・ケイシー》三部作の第三部。(第一部『HAMMERED −女戦士の帰還−』第二部『SCARDOWN −軌道上の戦い−』)
三部作というより、第三章。前2作を読んでそれなりに覚えていないと、きついです。
今作ではいよいよ異星人が登場します。が、どちらかと言えば、政治的駆引きの物語。いろんなことを同時進行で語るとどうしてもこうなるのでしょうけど、異星人の宇宙船がやってきているのに政治家たちは無反応とは。
アレース号は、客船として建造された最初の宇宙船だった。就航するのは、火星への定期便。150名の船客を運ぶ予定だ。
マーティン・ギブスンはSF作家。
宇宙旅行小説で有名になり、アレース号の処女航海に招待された。最初の航海は、貨物船として。そのため、ギブスンはただひとりの乗客となった。それも、航路や火星のルポを書くための非常に重要な乗客だ。
宇宙旅行小説を書いたとはいえ、ギブスンにとって宇宙旅行ははじめてのこと。失敗や興奮を経験していく。はじめの内こそ休暇を楽しむギブスンだったが、やがて書きたくてたまらなくなり、タイプライターに向かった。記事をまとめ、地球へと送信するのだ。
ギブスンは仕事をしたり、船内を観察したりしながら、乗組員たちと親交を深めていく。そして、身の回りの面倒を見てくれる見習いのジミーが、自分とつながりのある青年であると気がついてしまう。ジミーにも打ち明けるが……。
アレース号は無事火星へと到着するが、火星ではなにか重要な計画が進行中らしい。植民者たちが隠していることとは?
ギブスンが作家なだけに、クラーク(故人)とのつながりを感じてしまいます。火星に行ってみたかったでしょうねぇ。
古い点は否めませんが、考えさせられることもたくさん。登場する人々が基本的にいい人なのでホッとしました。
デレイン王国のローランド王には、ふたりの子供がいました。
長男はピーター。
慈愛に満ちた王妃によって、王となるべくして育てられました。王妃は、思いやりがあって公正明大。国民みんなから愛されていました。王妃に似ているピーター王子も、同様に愛されました。もちろん王様からも。
次男はトマス。
トマスが産まれたとき、王妃が亡くなってしまいます。母なしで育ったトマスは、わがまま放題。容姿も王様に似ていて、手先が不器用。なんでもこなす優秀な兄ピーターを、慕いつつも妬んでいます。
王様は、魔術師のフラッグを第一の側近としていました。実は、王妃を暗殺したのはフラッグでした。王様に仕えつつ、デレイン王国を破壊してやろうと目論んでいるのです。でも、聡明なピーターが王様になったら、フラッグなど宮廷から追い出されてしまうに決まっています。
フラッグは一計を案じ、王様を暗殺。ピーターに罪をきせてしまいます。ピーターは終身刑を言い渡され、針の塔のてっぺんの部屋に幽閉されてしまいました。
王様となったトマスは、フラッグの言いなり。フラッグは国民に重い年貢を課し、人々の心を王家から離反させようと目論みます。
そのころ、囚人となったピーターは脱出計画を進めていたのですが……。
ホラー小説で有名なキングによる、冒険ファンタジー。
子供向けに書かれていますけど、他愛のない日常を積み重ねたうえに恐怖をもってくるおなじみの手法で語ります。何気なく用意した伏線をきっちり使用。すごく分かりやすいです。
恐ろしい毒をローランド王に飲ませるフラッグ。
王の心を持ちつつも国民の敵となってしまったピーター。
そして、偶然にもフラッドの犯罪現場を目撃しつつ、兄への妬みから口をつぐむトマス。トマスは、フラッグしか頼れる者がいない状況下にあって、フラッグの犯した罪との板挟みで心を病んでいきます。この物語でもっとも注目すべきは、トマスの心の動きではないでしょうか?
秀逸。
ロンドンの印刷職人ニコラス・フラッドは、一風変わった本を作っていた。本の中に本が収まっているもの。鏡でできているもの。いわゆる珍本と評されるものだ。
フラッドの仕事は高く評価され、一定の収入も得ていた。そこへ、スロヴェキアのオストロフ伯爵から招待状が届けられる。手紙をしたためたのは、伯爵令嬢のイレーナ。フラッドはイレーナの手紙に心を惹かれ、伯爵の城へと赴く。
城は、部屋が存在せず、家具が移動しつづける奇妙な構造をしていた。絶えることのない機械音に満たされ、召使いも機械にとって代わられつつある、永遠不滅の城。
フラッドが伯爵から求められたのは、この城のコレクションでただひとつ埋まっていないもの。無限の本だった。それには始まりも終わりもなく、どこから開いても無限に続く、究極の書物。
依頼を受けたフラッドは城に寝起きし構想をまとめていくが、イレーナと恋に落ちてしまう。そして、ふたりの関係は伯爵の知るところとなってしまった。
城の地下に幽閉されたフラッドが救い出されたのは、11年後のこと。目の前に現れたのは、フラッドの娘パイカだった。
伯爵はすでに他界し、イレーナは行方不明。フラッドとパイカは、空想の世界で造り続けた無限の書を現実のものとするため、またイレーナを捜すため旅に出るが……。
とらえどころのない〈無限〉を扱っているため、やや分かりにくい作品。本棚やベッドが城中を動き回る光景など興味深くはあるのですが……。
様々なエピソードがうまくはまっていないと言うより、わざとそうしている感じ。なにしろ究極の書物を扱っているのですから。
イギリス人の〈わたし〉には妻子があり、平凡ながらもささやかな家庭を築き上げていた。しかし、ヒースの茂る丘に登り、我が家を含む夜景を見下ろし考えにふけっているとき、状況は一変する。
わたしは肉体を捨て去り、宇宙へと旅立っていたのだ。
星々や時間をも超越し、わたしは知的生命体の住む星を捜し始める。人類のような人々が暮らす星を。
ついにわたしは〈別地球〉を見つけた。そこは、嗅覚と味覚が驚異的な進歩をとげた世界。わたしは別地球人ブヴァルトゥと共生関係を結び、世界を探求していく。彼の精神に同居し、彼の感覚で世界を見たのだ。ブヴァルトゥもまた、わたしの助けで精神を解き放った。
意気投合したわたしたちは、ふたたび宇宙へと旅立つ。やがて、さまざまな知的生命体との精神の共鳴を果たし、ついには究極の集合知性となった。わたしたちは、個人であり全体でもあった。
そして、宇宙にはさらなる高みの存在がいることを察知するが……。
哲学者が書いた、精神世界と創造主(スターメイカー)の物語。
ずーっと〈わたし〉が目として案内してくれます。繰り広げられるのは、銀河を背景にした知的生命体たちの種としての営み。個人に着目したのはブヴァルトゥのみで、あとは全体として観察されます。語られる世界は多種多彩。深追いはせず、矢継ぎ早に進んでいきます。
宇宙はいかにして始まったのか。
どのようにして滅亡するのか。
なんという本だろう、と。
最後の人類となってしまった〈第18期人類〉は、最初の〈第1期人類〉に語りかける。それは、20億年続く壮大な人類の神話だった。
人類は、長い長い歴史の中で、戦争や災害などに見舞われ、何度となく停滞を余儀なくされた。文明は、内紛や、侵略や、惑星存続の危機に襲われ、ときには立ち向かい、ときには撤退した。栄華を極め、原始人となり、そしてまた復興していった。
最後の人類が語る神話の結末とは?
1930年に書かれた作品。
当時の未来である現代のパートは、大はずれではないものの、やはり違和感があります。太陽系の他の惑星の生命体や、長く宇宙に眼が向かなかったことなども。歴史を語っているのではなく、神話なのだと自分に言い聞かせて読んでました。
その他は、古さを感じさせない面白さ。
エネルギーの浪費による崩壊。埋蔵資源の枯渇により、長きにわたった暗黒時代。ついに復興するものの、内乱から自らを滅ぼしてしまう〈第1期人類〉たち。
やがて地球は地殻変動により姿を変え、かろうじて命をつないだ人間は〈第2期人類〉として蘇る。彼らは、高度な共感能力を持つ巨人たち。ところが、世界国家を築くものの、火星人類の襲撃を受けてしまう。長い戦争の末、人類は火星人を絶滅させるが、彼らを滅ぼした生物兵器により、自身の文明をも失ってしまう。
ふたたび原始時代に還った人類は、姿形を変えながらも文明を興し〈第3期人類〉となった。彼らは生命の改良に熱心に取り組み、頭脳だけの究極の生命体〈第4期人類〉を造り上げるが……。
名作。
人々は、己のダイモン(守護精霊)と共に生きていた。
ダイモンの姿は千差万別。子供時代には固定されておらず、さまざまな姿をしている。やがて成長すると姿が定まるが、それは、主人の性質を示すものとなる。
ライラ・ベラクアは11歳の少女。オックスフォードのジョーダン学寮に預けられ、周囲の思惑を気にかけることもなく、自由奔放に育ってきた。
ある日ライラは学寮長に、外の世界で生活するように告げられる。ライラを引き取るのは、コールター夫人。コールター夫人は王立北極協会の会員で、えも言われぬ魅力がある。この決定にライラも大喜び。ライラは学寮長より、真実を告げるという〈黄金の羅針盤〉を授けられ、意気揚々とロンドンへ旅たつ。
このころ巷では、子供の失踪事件が相次いでいた。狙われるのは、多くが船上生活者ジプシャンの子。ライラの親友ロジャーも行方不明となった。
ゴブラーがさらっていると噂が流れていたが、ライラはその正体を知ってしまう。ゴブラーとは、総献身評議会(GOB)のこと。仕切っているのはコールター夫人だったのだ。
そうと知ったライラはコールター夫人のもとから逃げ出した。運良くジプシャンに拾われ、彼らと共に、子供たちの救出に動き出すが……。
《ライラの冒険》シリーズ第一部。
さまざまなことが、起こります。「冒険」なんて2文字だけでは言い表せないくらい。
学寮での冒険に始まり、コールター夫人からの逃走、ジプシャンとの旅立ち。ラップランドに至り、よろいをつけたクマ、イオレク・バーニソンとの出会い。そして、魔女の予言。
ライラは、黄金の羅針盤を読むことで、さまざまな問題を解決します。でも、羅針盤が教えてくれるのは、質問したことだけ。後から“答え”が明確になることも……。
子供たちを助けることはできるのか?
人類は、異星種族ストリヴィイルク=ナと小競り合いを続けていた。人類は一枚岩ではない。ストリヴィイルク=ナに共感し、彼らに協力しているシンパサイザーたちや、宇宙を荒し回る海賊もいる。
ジョスリン・アーロン・ムゼイは8歳。両親らと商船〈ムクドリ〉で航行中、宇宙海賊ファルコンの一味に襲われてしまった。残忍なファルコンは、大人たちを殺し、捕らえた子供たちを方々へと売り払う。ジョスはファルコンに気に入られてしまい、1年に渡ってしつけを受けることとなった。
ジョスは逃亡の機会をうかがい、ステーションに寄港した際にチャンスを得る。逃げようとしたまさにそのとき、ストリヴィイルク=ナの襲撃があったのだ。ステーションは大混乱。ファルコンの手を振り払ったジョスは銃撃されてしまう。
瀕死の重傷を負ったジョスを助けたのは、シンパサイザーの高位暗殺僧ニコラス=ダンだった。彼は、人類からは〈ウォーボーイ〉と呼ばれ、怖れられている存在。はじめこそ警戒したジョスだったが、徐々に信頼し、ニコラス=ダンの弟子となる。
そして、ジョス13歳。
ついに人類との戦いに赴くことになるが、ジョスの役割はスパイとなること。ニコラス=ダンは和平の道を探っているが、そのために、深宇宙戦闘輸送艦〈マケドニア〉の艦長カイロ・アザーコンの考えを知る必要があったのだ。
ジョスは、孤児としての偽の経歴を与えられ〈マケドニア〉に潜入するが……。
ジョスは、さまざまな困難に立ち向かいます。さらわれて、逃げ出して、敵と思われた異星種族に助けられ、彼らに感化し、スパイとなることを決意する。一見するとジョスはさまざまな体験を通じて成長していくのですけど、中身は子供のまんま。技術は身に付いたけれども、精神は甘ったれ。
一人称で展開するだけに、違和感が残りました。
ロッド・ウォーカーは、高校で〈上級サバイバルコース〉を履修していた。外世界において、あらゆる職業で〈上級サバイバル〉が必要とされているからだ。
そして、ついにソロ・サバイバル最終試験が実施されることになった。生徒らは恒星間ゲートを通じ、ある惑星に放り出される。それがどこかは分からない。期間は、2〜10日。
最終試験では、なにを持ち込んでも構わない。いかなる武器も、文明の利器も。ルールはなく、合格の条件は生還することだけ。命の保証はされていない。
ロッドは、経験者である姉の忠告に従い、荷物を絞り込み、銃ではなくナイフを持参することにした。銃を持つと逆に尊大になってしまうからだ。
ロッドが送られたのは、地球型の惑星だった。慎重に行動するが、ロッドは何者かに襲われてしまう。残されたのは、姉が持たせてくれた予備のナイフのみ。
やがてロッドは仲間と合流することに成功するが、重大な事実に直面する。期限になっても退去ゲートが出現しなかったのだ。
いったい、なぜ?
ロッドたちは永久にサバイバルを続けねばならないのか?
出発間際に渡されたメモの「ストーバーに注意せよ」の謎。同時に試験を受けていた大学生たちとの確執。サバイバルしながら、人間ドラマも盛りだくさん。
ロッドたちは自力でコロニーを築き上げるのですけど、コロニーの結末には、愕然としました。それだけ感情移入できた、ということなのでしょうけど。
オトナって……。
魔術は世界に満ちあふれ、人間たちは〈あちら〉の世界の住人の力を借り、さまざまなことに役立てていた。数ある魔法は便利な反面、有害な魔法廃棄物をも産み出す。それらの処置を監督するのが、環境保全局だ。
デイヴ・フィッシャーは、エンジェルズ・シティ環境保全局の調査官。ある朝電話に叩き起こされ、本部のさる人物から内密に、デヴォンシャー処理場を調べるように指示を受けた。
フィッシャーは、半信半疑ながら調査に乗り出す。
魔法処理場の周辺について調べるためにまず訪れたのは、トマス修道院。写本室の精霊エラスムスに協力してもらい、さざまな記録を当たった。フィッシャーは得られたデータから、この10年で異常を持つ子供の出生率が高くなっていることに気がつく。
最も恐ろしいのは、魂を持たない赤子が、1年間に3人も産まれているという統計だった。この子たちは、死んでも地獄にも天国にも行かない。それっきり。死んだらすべてが終わってしまう。
デヴォンシャー処理場にはなにかがある。
確信を強めたフィッシャーは、処理場に魔法廃棄物を持ち込んでいる企業を調べ出す。その途端、抗議の電話が殺到。放火殺人事件が発生し、自身も襲われてしまうが……。
世界設定がおもしろいです。さまざまな出来事がでっかい事件になっていく過程もよく練られてます。けど、世界設定の説明の出し方とか、些細な情報の披露の仕方とか、少々野暮ったい感じ。
読者は知らんでしょうから説明しますねってことを一人称で堂々とやるので、物語がとまってしまうのです。説明はサラリと出すか、せめて三人称にしておいてくれればなぁ……。