イギリスの名もない裏通りのひとつに〈白鹿亭〉はあった。外観はどこにでもあるパブのようだが、ある曜日の晩だけは別。常連たちが集い、おどろくべき話が披露され、おどろくべきことがおこってきた。
中でも、ハリー・パーヴィスの話ときたら!
わたしがパーヴィスにはじめて気がついたのは、バート・ハギンズの大音声がきっかけだった。パーヴィスは、彼をだまらせる方法があると言うのだ。
そしてパーヴィスは、不運に見舞われたフェントン・サイレンサーの話をした。ある青年が造り上げた驚異の機械のことを、常連たちの誰もが聞いたことのない話を……。
連作短編集。
ユーモアあふれる法螺話に舌鼓。おそらく、実現可能性よりも想像力を働かせて自由に書かれたのではないかと思います。それから半世紀ほどがたって、現実となった技術もでてきました。
さすがはクラークだな、と。
収録作と、扱われた発明等は以下のとおり……
「みなさんお静かに」静寂をつくりだす機械
「ビッグ・ゲーム・ハント」動物を自在に操る方法
「特許出願中」脳波を記録し、再生する装置
「軍拡競争」撮影用に作られた新兵器
「臨界量(クリティカル・マス)」放射性物質を扱う研究所の事故
「究極の旋律」ヒット曲の旋律の研究
「反戦主義者」正しい回答をだす電子計算機
「隣りの人は何する人ぞ」シロアリの教育
「とかく呑んべは……」違法酒をめぐる裁判
「海を掘った男」海から鉱物を獲る化学者
「尻ごみする蘭」肉食の蘭の栽培
「冷戦」フロリダに氷山を出現させる作戦
「登ったものは」反重力が生み出したもの
「眠れる美女」いびきの治療法
「アーミントルード・インチの窓外放擲」しゃべった回数を記録する計数器
ウィル・パリーは12歳。
父は行方不明で、母ひとり子ひとりの環境で育った。そのうえ、母は精神に異常をきたしている。ウィルは、大人たちの注目を集めないよう、細心の注意を払っていた。
そのウィルの家に、謎の男たちがやってくる。
目当ては、母が大切にしている小箱らしい。身の危険を感じたウィルは、母を知人に預け、ひとり自宅で小箱を捜す。小箱には、北極で失踪した父からの手紙が入っているはずだ。
小箱は見つけたものの、夜盗となってやってきた男たちと遭遇し、ウィルは、ひとりの男を死に至らしめてしまった。
恐怖と共に逃げ出すウィル。異世界へとつながる不思議な窓を見つけ、逃げ込んだ。
窓でつながっていたのは、チッタガーゼと呼ばれる街だった。こぎれいなところなのだが、人の気配がない。実はチッタガーゼの世界には、スペクターがいるのだ。スペクターは、大人だけを襲う魔物。そのために大人たちは逃げ出してしまっていた。
ウィルは、〈ダスト〉の秘密を追っている少女ライラと出会い、行動を共にするが……。
《ライラの冒険》シリーズ第二部。
12歳のウィルの大人びていること。主役であるライラがときに子供じみているのと対称的でした。
ウィルはライラの協力を得て、父をさがし始めます。その父の正体は、実は……という仕掛けがあります。かなり早い段階で察することができますが、この父にはいろいろな伏線が用意されていて、運命の残酷なこと。
遠い昔オーソリティは造物主だと主張し、そのように思われてきた。しかし、それは偽り。
オーソリティもまた〈ダスト〉から生まれた天使のひとりにすぎなかったのだ。根拠のない権限は摂政メタトロンの手に渡り、彼らは今でも人々を支配している。
アスリエル卿は、オーソリティに対して戦いを挑もうとしていた。真実に気づいた離反天使たちも集結。続々と仲間が加わるもののまだ充分ではない。鍵を握るのは、別の世界への窓をつくる〈神秘の短剣〉。
ウィルは、その〈神秘の短剣〉の使い手。
連れ去られた少女ライラを捜しているところへ、天使のバルサモスとバルクがやってきた。ウィルは、アスリエル卿のところへ行くように説得を受ける。
そのときすでにウィルの心は決まっていた。ライラをまず見つけ、死者の世界へと赴くつもりだ。ある人物とふたたび会うために……。
死者の世界へは〈神秘の短剣〉があればたどり着けるだろう。ところが、ライラ救出の際に短剣が砕け散ってしまった。ウィルは破片を拾い集めるものの、ひとりではどうすることもできない。
ウィルは、よろいクマのイオレク・バーニソンに助けを求めるが……。
《ライラの冒険》シリーズ第三部(完結)。
ついに、魔女たちによってささやかれた予言が現実のものとなります。人類の命運はライラの決断にかけられることに……。
長いためか、間延びしたかのような印象が残ってしまいました。ライラの救出と、死者の世界への旅と、メタトロンとの対決。そして、ライラの選択。
内容盛りだくさん、なのですけど。
かつて社会問題であった人間の多さは、奇しくも〈大厄災〉によって解決された。疫病により、女性たちが不妊となってしまったのだ。
人類を絶滅の危機から救ったのは、コンラッド・ヘリアー博士。コンラッドが開発した人工子宮に、人類は活路を見出した。
そして、22世紀末。
人類はナノテクを進化させ、体内にナノロボットを常駐させるようになっていた。老化は防がれ、怪我も病気も、痛みまでもがコントロール下に置かれる時代。不老不死まであと一歩のところにきていた。
デーモン・ハートは、仮想環境デザイナー。
周囲には語らないが、デーモンはコンラッド・ヘリアーの遺児だった。父の財産には手を付けず、自立した人生を目指す日々。
そんなある日、テロ集団エリミネーターが、コンラッドは人類の敵である、彼は生きている、とメッセージを発信しはじめた。そして、デーモンの養父のひとりサイラス・アーネットが誘拐されてしまう。
デーモンは他の養親たちに連絡をとろうとするが……。
セリフで説明してしまうのが、ステイブルフォードの悪いところ。
興味をそそられる技術や思想や事件には不自由しないものの、登場人物に解説されてしまうと、ちょっとひねりが足りないような。他に方法はなかったのか。いささか残念に思えてしまいます。
イタリアの作家によるユーモアあふれる短編集。常識では考えつかないような展開や、ちょっとした軽口満載で、笑ったり、唸ったり。
暖かみがあって、雰囲気全体を楽しめます。
収録作と、主な内容は以下のとおり……
「猫とともに去りぬ」
かつて駅長を務めたアントニオ氏は、家族の冷たいあしらいに落胆。家を出て猫といっしょに暮らすことを決意する。その通りに家出したアントニオ氏は、多くの猫が棲んでいるアルジェンティーナ広場に向かう。鉄柵を越えて猫となるために……。
「社長と会計係
あるいは
自動車とバイオリンと路面電車」
社長のマンブレッティ氏は自慢の車のバックミラーに尋ねる。
村でいちばん美しい自動車は?
いつもはマンブレッティ氏の車だと答えていたバックミラーだったが、ある日、会計係の自動車だと答えたから、さぁ、大変。マンブレッティ氏は嫉妬に荒れ狂い……。
「チヴィタヴェッキアの郵便配達人」
チヴィタヴェッキアの小さな郵便配達人〈コオロギ〉は、とても素早く力持ち。その能力を見込まれ、局長に重量挙げの世界選手権に推される。恋人にも励まされ、極秘トレーニングを積んだ〈コオロギ〉だったが……。
「ヴェネツィアを救え
あるいは
魚になるのがいちばんだ」
トーダロ氏は保険の営業マン。あとわずかでヴェネツィアは水没すると聞き、魚になることを決意した。かくして一家は、運河の岸で変身することに。魚となった一家を見て、住人は続々と後に続くが……。
「恋するバイカー」
御曹司のエリーゾは、愛車のナナハンと結婚宣言。父親に猛反対され、家出をした。恋人の名はミーチャ。はじめはうまくいっていたふたり(ひとりと一台)だったが、ミーチャは金のかかる娘で……。
「ピアノ・ビルと消えたかかし」
オリオロのビルは、ミニョーネ川があてどもなく蛇行するルマーケ平原をさすらいつづける孤高のカウボーイ。白い馬にまたがり、黒い馬をつれていた。黒い馬に乗るのは、相棒のピアノ。保安官につけ狙われている身だが、今日も最高の指づかいでピアノを演奏する。そんなビルに、かかし窃盗の容疑がかけられて……。
「ガリバルディ橋の釣り人」
アルベルト氏は、もっぱらローマの釣り人。魚たちに好かれておらず、釣れたためしがない。そんなある日アルベルト氏は、魚が釣れる呪文を教えてもらった。しかし、呪文に効力を与えるためには、名前を変えなければならない。アルベルト氏はタイムマシンに乗り、自分の生まれる前に旅立つが……。
「箱入りの世界」
ゼルビーニ氏は家族と共にピクニックに出かけた。その帰り道、驚くべき現象が起こる。空き瓶が車を追いかけてきたのだ。一家が見回すと、追いかけられているのは自分たちの車だけではなかった。やがて、人々の家に住みついた瓶や缶やその他諸々が成長しはじめるが……。
「ヴィーナスグリーンの瞳のミス・スペースユニバース」
貧しいデルフィーナは、親戚のエウラリア夫人のクリーニング店で働いていた。ある日、金星共和国の大統領選出を祝う大舞踏会が催される。夫人たちは出かけていくがデルフィーナは、顧客のドレスにアイロンをかけねばならない。デルフィーナは、出来心からドレスを身にまとうが……。
「お喋り人形」
エンリカは、クリスマスのプレゼントに電子式のお人形をもらった。ところがお人形には、叔父レモの魔法がかけられていて……。
「ヴェネツィアの謎
あるいは
ハトがオレンジジュースを嫌いなわけ」
広告クリエーターのマルティニスは、《フリンツ》オレンジジュース社の極秘任務についていた。任務とは、サン・マルコ広場にハトの餌をばら撒き、大きなハト文字広告を描くこと。ところが、計画は大失敗。肝心の餌が、ネコビリンに汚染されていたのだ。マルティニスは調査に乗り出すが……。
「マンブレッティ社長ご自慢の庭」
フォルトゥニーノは、マンブレッティ社長の庭園の専属庭師。ある日社長に、時期はずれにもかかわらず、洋ナシを用意するようにと命令される。しかも社長は、洋ナシの木を棍棒で痛めつければいいと実演までしたのだ。フォルトゥニーノは、泣く泣く自腹で洋ナシを用意するが……。
「カルちゃん、カルロ、カルちゃん
あるいは
赤ん坊の悪い癖を矯正するには……」
カルロは、生まれたばかりの赤ん坊。大変な天才児で、言葉がしゃべれない代わりにテレパシーで意思を伝えてくる。ちゃんとしてない息子に、アルフィオ氏は憤慨。かかりつけ医に相談するが……。
「ピサの斜塔をめぐるおかしな出来事」
カルレットは、ピサの斜塔のあしもとで土産品を売っていた。そこへ宇宙船がやってくる。降り立ったのは、カルパ星人たち。彼らは、ブリック社の豪華懸賞で、ボール・ボール夫人がピサの斜塔を勝ち取ったと言い、斜塔を持っていこうとするが……。
「ベファーナ論」
ベファーナとは、公現祭の前夜に子供たちに贈り物を届けている魔女たち。ベファーナは、三つの部分に分けることができる。ほうきと、ずだ袋と、おんぼろ靴だ。これらについて論じてみると……。
「三人の女神が紡ぐのは、誰の糸?」
アドメトス王と親しくなったアポロンだったが、アドメトス王の余命は残りわずか。それを知ったアポロンは、運命の三女神と交渉する。なんとか延命を聞き入れてもらうが、それには条件があり……。
ルーク・デッカーは、FBIの特別捜査官。司法心理学の専門家として、優秀な成績を残してきた。
ある日デッカーの元に、死刑囚からの面会要請が舞いこむ。相手は、〈コレクター〉とあだ名されたカール・アクセルマン。少なくとも12人の少女を殺害したことは分かっているが、自供も謝罪もなく、遺体は見つかっていない。
デッカーは、アクセルマンの真意が分からないまま面会し、衝撃の事実を知らされる。アクセルマンはデッカーの父親だと言うのだ。デッカーを動揺させたまま、アクセルマンは処刑された。デッカーはアクセルマンの一部を手に入れ、遺伝子調査をキャスリン・カーに託す。
キャシーは行動遺伝学の専門家。スタンフォード大学に所属し、バイロベクター社とFBIの全面的な支援を受けていた。キャシーが進めるプロジェクト〈良心〉は、男性の中にある暴力的な遺伝子を改変し、治療することによって犯罪を減らす取り組みだ。
プロジェクトは順調に進んでいたが、キャシーは足元をすくわれてしまう。キャシーに協力してくれていた、バイロベクター社のアリス・プリンス博士、FBI長官のマデライン・ネイラーは、8年も前から人体実験を行っていたのだ。そのころはまだ、食品医薬品局の安全性試験をパスしていなかった。
ふたりを非難するキャシーだったが、デッカーの持ち込んだ遺伝子を調べることで、さらに恐ろしい事実に気がつく。アクセルマンの遺伝子は、自殺の衝動が高まる方向に改変されていた。アリスとマデラインは、プロジェクト〈良心〉をさらに押し進めた〈クライム・ゼロ〉計画を練り上げていたのだ。
キャシーはデッカーにメッセージを送るが、誘拐されてしまう。デッカーは救出に向かうが……。
まさに、現在(2008年)が舞台の遺伝子もの。アメリカ史上初の女性大統領の誕生なるか? といった大統領選などは、実にリアル。
〈クライム・ゼロ〉計画は、いくら殿方に恨みがあったとしても、少々行き過ぎではないかと思うのですが、山あり谷ありで、楽しめました。
ベネット探偵事務所の所長はマックス・ベネット。相棒は、自称21歳のユカイア・オレゴン。
ふたりは人捜しに定評があり、数多くの失踪事件を解決に導いてきた。それもこれも、ユカイアの特殊能力があればこそ。ユカイアの聴覚や嗅覚は人並みはずれ、現場の遺留品から、出来事を再現して見ることさえできるのだ。
ユカイアはかつて、オオカミたちに育てられていた。オレゴン州のユカイアで発見されたとき、推定年齢13〜16歳。ユカイアは、発見者のジョーによってピッツバーグへと連れてこられ、ジョーとラーラというふたりの母によって育てられた。
ある日ユカイアとマックスに、警察からお呼びがかかる。指定された民家は、殺人現場。3人の女子学生が鋭利な刃物で惨殺され、さらにひとりが行方不明となっていた。
ユカイアは早速、追跡を開始する。ジャネット・ヘイズを犯人の魔の手から救うために。ところが痕跡は、ヘイズのものだけ。
彼女が犯人だったのだ。
ユカイアはヘイズに遭遇し、おかしな言動を目撃する。
彼女になにが起こったのか?
かなりよく練ってあります。からくりが分かったとき、意味不明だった箇所を読み返したくなるくらい。ただ、設定や展開がよく練られている一方で、少々現実感がないかな、と。
金持ちすぎるマックス。不注意すぎる敵陣営。その他、いろいろ。
軽く読んでしまうなら、それでもいいんですけど。
月の開発が始まり、高校生のクリフォード(キップ)・ラッセルも月へのあこがれを募らしていた。父は、キップの夢を肯定してくれているが、方法は自分で考えなければならない。ネックとなるのは資金だ。
ある日キップは〈月世界旅行無料御招待!!!〉という懸賞を知った。惜しくも一等を逃したキップだったが、代わりに送られてきた品に有頂天。それは、実際に月で使われた、本物の宇宙服だった。
キップは、宇宙服をオスカーと名付ける。オスカーは中古で、使える状態にはない。キップはさまざまな方法でオスカーを修理し、補充し、蘇らせていく。
そして、事件は起こった。
そのときキップは、オスカーを着込み、ここが金星だと想像を巡らしていた。金星では、無線で基地とたえず交信していなければならない。キップが、聞く相手のいない送信をしていたところ、返答が来たのだ。
驚くキップの目の前には、宇宙船。訳が分からないままに殴られ、気がついたときには船内で囚われの身となっていた。
キップは、同室に監禁されていた少女に、事情を聞かされる。
実は、地球侵略を企んでいる宇宙種族がおり、かれらの秘密基地が月にある。宇宙船は月に向かっているところ。なんとしてでも脱出し、地球人類にこの危機を知らせねばならないのだが……。
冒険もの。
一難さって、また一難。とにかく一筋縄ではいかないです。少女の〈おちびさん〉は天才児ですが、キップも負けず劣らず。
最後に出てくる地球人類の危機が、ちと説明不足だったのが残念でした。キップも理不尽さを感じていたようですが。
星系同盟(アライアンス)は、惑星連合(シンディック)と長期にわたって交戦状態にあった。人員の疲弊はすざまじく、次の世代への情報の伝達も滞る始末。そんな中、勇気ある行動で味方を救った英雄“ブラック・ジャック”ギアリーは、軍神として祭り上げられていた。
救命ポッドで漂っていたジョン・ギアリー大佐が冷凍睡眠から目覚めたとき、流れていた歳月は100年。旗艦〈ドーントレス〉が率いる艦隊によって助け出された。周囲の自分を見る目に畏敬の念を感じ、ギアリーは途方にくれてしまう。
ギアリーを拾った艦隊は、シンディック領域に出撃するところ。ところが、待ち伏せに遭ってしまう。さらに、提督を筆頭とする将官クラスは全員、交渉の場で殺されてしまった。
提督に後を託されたギアリーは、絶体絶命の危機を乗り切ることに成功する。しかし、それは長い旅の始まりでもあった。
戦略を知らない艦長たちをなだめすかし、ギアリーはさまざまなことを実践していくが……。
完結してません。
シンディックの謎も解明されないまま。ひとまず危機を脱し、艦長たちに戦略を教えたり反感買ったり、いろいろありますが、まだまだ始まったばかり。
ギアリーを有能に仕立て上げるために、周囲の人々のレベルを落とした手法は、無理もなく好感触。とはいえ、もう少し、ひとつの物語としてまとめてもらいたかったかなぁ、と。
仔犬のローヴァーは、とても小さい犬でした。大好きなのは、黄色いボールで遊ぶこと。ローヴァーは今日もお庭で遊んでいました。
そこへ通りかかったのが、ぼろのズボンをはいた老人でした。小径に転がり出たボールを拾った老人に、ローヴァーは失礼な口をきいてしまいます。そのうえ、ズボンに噛み付いて……。
実は老人は、魔法使いのアルタクセルクセスだったのです。怒ったアルタクセルクセスによってローヴァーは、おもちゃに変えられてしまいます。本物と見まごうばかりの、それはそれは小さなおもちゃに。
動けないローヴァーは拾われ、古道具屋で売りにだされました。やがてひとりの女性が目にとめ、ローヴァーは、ある男の子のものとなりました。
ローヴァーの頭の中は逃げることでいっぱい。男の子のことなど気にもとめません。翌日ローヴァーは、遊びに出かけた男の子のポケットから、ぽとり。
はれて自由の身となりました。
とはいえ、ローヴァーはおもちゃのまま。動き回ることはできません。そしてその浜辺には、魔法使いプサマソス・プサマスィデスが棲んでいたのです。
プサマソスは、アルタクセルクセスを知っていました。彼がローヴァーのことをまだ怒っていることも。
ローヴァーはプサマソスの発案で、月の男の元へと行くことになりました。月にいれば、さすがのアルタクセルクセスもちょっかいを出すことはできません。ところが月には、恐ろしい白い竜がいて……。
おもちゃに変えられ、月に行って羽を授かったり、不思議な庭に行ったり、海中の国を訪れて泳げるようにしてもらったり、と、冒険の連続。
『ホビットの冒険』や『指輪物語』で有名なトールキンが息子のためにこしらえたそうで、出版用ではないためか、やや練り切れてない感じ。でも、読み手が小さな子供だったら、ハラハラ、ワクワク、ドキドキで、おもしろおかしく読めるはず。なのに、書籍全体の四分の一ほどを締める解説といい、研究仕様になってしまっているのが、実に残念。
子供に読んでもらいたいのか、大人に読ませたいのか、どっちつかずになっている印象でした。トールキンは悪くないのですけどね。