SF系短編集。
60年代の作品ゆえ古さは否めませんし、下地となっている文化が日本と異なっているため、少々理解しにくいものもあります。それでも、人間の本質は不変かな、と。
復讐心に燃える男。絶望の中に暮らしている女。などなど、生きている人間が、ベスターの魅力ではないかと思います。
「時間は裏切りもの」
ジョン・ストラップは87%の確率で、正しい決断を下すことが出来た。それゆえ大金持ちとなったが、ストラップにはある悪癖があった。クルーガーを名乗る男を目にしたとたん、殺そうとしてしまうのだ。ストラップの取り巻きたちは彼の悩みを解決するため、友だち役を雇い入れるが……。
「マホメットを殺した男たち」
ある日ヘンリー・ハッセルが帰宅すると、妻が見知らぬ男と熱烈に抱き合っていた。そこでハッセルはタイムマシンを組み立て、妻の祖父を殺しに向かった。首尾よく片付けたハッセルだったが、帰宅しても妻は元のまま。ハッセルはさらに殺人を重ねていくが……。
「この世を離れて」
ハワードには、かりそめの女に心引かれてしまう悪癖があった。ある日ハワードは、間違い電話をかけてきた相手に惚れてしまう。ふたりは食事を共にする約束をするが……。
「ビー・アイ・マン」
エイブラハム・ストームは、世界のバランスをとることを使命としていた。あらゆる言動は、方式のため。いつでも、埋め合わせをしながら生きてきたのだが……。
「花で飾られた寝室用便器」
かつて人類は、戦争によってさまざまなものを失った。再興する際に参考としたのは、ハリウッドの遺物。25世紀の今では、人々はハリウッド・スターから名前をもらい、暮らしている。そんな最中、20世紀の貴重な骨董が相次いで盗難にあった。どうやら同一人物のしわざらしい。専門家の判断では、次の標的は花で飾られた寝室用便器。警察は巧妙な罠をしかけるが……。
「そのままお待ちになりますか?」
職を失い自暴自棄になった男は、悪魔に魂を売ろうと腹を決めた。ところが、悪魔がなかなかつかまらない。電話をかけても待たされるばかり。努力の末、ようやく捕まえたデヴルと契約を結ぼうとするが……。
「昔を今になすよしもがな」
リンダ・ニールセンは、地球上最後の人間。無人となったニュー・ヨークで暮らしていた。あの大爆発で人類は滅亡し、もはや生き残りはいないはず。そこへ、ジム・メイヨが現れた。リンダはジムをひきとめ、一緒に暮らし始めるが……。
19世紀。
イギリスの数学者チャールズ・バベッジ卿が、蒸気駆動の歯車コンピュータを発明した。それにより世界は激変。数々の科学理論は機械によって解析され、実証されていった。
シビル・ジェラードは、ラッダイト(機械打ち壊し)運動指導者の娘。父は吊るし首となり、シビルは遊び女として、人知れず暮らしていた。
最近の上得意は、金離れのいいミック・ラドリー。テキサスの前将軍サム・ヒューストンに雇われており、シビルをパリに連れて行くと約束する。彼らはヨーロッパを講演旅行中なのだ。シビルはミックに協力するが……。
一方、碩学博士のエドワード・マロリーは、ならず者に捕まっていた貴婦人を助けた。その貴婦人こそ、バベッジ卿の愛弟子にして、総理大臣の娘エイダ・バイロン。機関(エンジン)の女王だった。
マロリーは、エイダから謎めいた箱を預かる。箱には、モーダスと呼ばれるものが入っていた。以来、マロリーは何者かにつけ狙われるが……。
歴史改変小説。
いかんせん元の歴史に明るくないので、いまいち面白さが掴みきれず。
シビルの話は上巻の三分の一程を占めますが、主要人物というわけでもなく、最後の方で絡んでくるくらい。上巻の残りと下巻の半分近くがマロリーの冒険に割かれていますが、それすらも添え物的。
重要な結末にたどりつく前に、読むのに疲れてしまいました。
『ロボットの魂』続編。
ジャスペロダスは“意識”を持つ唯一のロボット。造り手である両親から、魂を受け継いで産まれた。両親はすでに他界し、この秘密を知るのもジャスペロダスのみ。
ジャスペロダスは考古学に興味を持ち、自由被造物として、仲間のロボットたちを指揮していた。華々しい成果はなく、ボルゴル同盟によるロボット狩りにも脅かされる日々。
ジャスペロダスは偶然に訪れた寺院で、ゾロアスター教の教義を知る。
アフラ・マズダの天使たちが戦うのは、アーリマンの闇の天使たち。寺院主は、現在の世界の状況に当てはめて語った。アーリマンの新たなるしもべであるロボットが、“意識”に飢え、光を模倣し、光を圧倒しようとしている、と。
寺院を後にしたジャスペロダスは、ロボット・ガーガンの使者の接触を受ける。ガーガンはロボットたちを集め“超越的光”の獲得を目指す究極の計画を進めているらしい。参加を求められたジャスペロダスは、使者と共に旅立つが……。
前作ではとんだ悪漢だった、ジャスペロダス。その面影がないわけじゃありませんけど、随分変わったな、という印象。前作のラストは、読者だけでなくジャスペロダスにとっても衝撃だったようです。
自分が“意識”を持っていることは、仲間のロボットにも極秘。それゆえに、ジャスペロダスはさまざな危機に見舞われます。その危機は、ジャスペロダスだけの危機じゃないので、よりハラハラドキドキ。
《紅の勇者オナー・ハリントン》第1巻
ヘイヴン人民共和国の世襲大統領ハリスは、航宙軍にかかる歳出に頭を痛めていた。削れる予算はなく、活路は勢力圏の拡張しかない。マンティコア王国が握るワームホール分岐網を奪い取る決断を下したのだ。
そのころ、マンティコア王国航宙軍の宙佐補オナー・ハリントンは、はじめて巡洋艦の指揮を任されていた。ハリントンには有力な後援者がなく、出世は早くない。実力を認められて艦長となるのは、王属軍艦〈フィアレス〉だった。
ハリントンは着任早々、大変な事態を知らさせる。〈フィアレス〉が大々的に改装され、まるで役にたたない武装を施されていたのだ。怒り狂うハリントンだったが、ヘンプヒル提督の決定に逆らうことはできない。
航宙軍の実戦訓練に参加するものの、勝利に貢献したのは初戦のみ。それ以降は惨敗続きで、乗員たちの士気も下がる一方。ついにバシリスク駐屯地へと転属させられてしまう。
バシリスク宙域は航宙軍にとって左遷の地。だが、ワームホール分岐網を抱える重要地点でもある。ハリントンは気持ちを切り替えるが、更なる困難が待ち受けていた。ハリントンと怨恨のあるパヴェル・ヤング宙佐が駐屯地の指揮官だったのだ。
嫌がらせを予期するハリントンだったが、ヤングが打ってきた手は想像以上。ヤングは、艦の改装を理由にマンティコアに帰ってしまったのだ。もはや、広大なバシリスク宙域を守るのは〈フィアレス〉のみ。
ヘイヴン人民共和国の策略は着々と進行中で……。
軍隊もの。
シリーズ第一作ということで、人物紹介も兼ねているせいか、やや物足りなさもありました。敵対勢力の書き方がお粗末すぎて。ただ、次々とやってくる難題や、人心掌握術やら、ハリントンの態度は好感触。次作に期待、といったところでしょうか。
なお、裏表紙記載の内容紹介に弱冠23歳とあるのは、現地暦での話。地球暦に換算すると40歳過ぎの苦労人で、長寿化を施されているため、見た目は若い、と。
ピーター・ケラーは、かつては凄腕の政治ジャーナリストだった。しかし、小さなミスが命取り。偽情報にひっかかり、今ではキワモノTVでの仕事に甘んじる日々。
ある日ピーターはプロデューサーから、新興宗教〈銀河科学の友邦団〉の取材を命じられた。ヘルムート・ボロディン博士が率いており、UFOをタネに寄付金を募っている団体だ。
ピーターは取材で、異星人による誘拐体験者のレイチェル・ランドと知り合った。彼女の人柄にふれ、インチキとの考えを改めるピーター。真面目に取材するが、プロデューサーからはレイチェルのインタビューはカットされてしまう。
ピーターのTV番組が放送されたその夜、ピーターは謎の電話を受けた。さらに不思議な体験をさせられ、ジュンコと名乗る女性から接触を受ける。
ジュンコは、異星人情報局(エイリンテル)の一員。エイリンテルは、大統領にも知らせていない政府組織で、UFO事件の多くを演出している。ある事実を隠蔽するために……。
ピーターはエイリンテルの策略に巻き込まれていくが。
ジャック・ヴァレはUFO現象学者で、映画「未知との遭遇」のクロード・ラコーム博士のモデルだそうです。
いろいろ伏線はあるのですけど、その伏線がちょっと大判振る舞いすぎ。UFOの正体はともかく、一番最後のどんでん返しが予想可能となってしまっているのが残念。
22時15分。
音楽を奏でるカーラジオが、映画を再生中のビデオ・デッキが、ネット・サーフィン中のコンピュータが爆発する事故が起こった。
翌朝、大学生のボウ・スタークは、スーパーの駐車場で奇妙な石を拾う。重すぎるそれは、黒く、どういう仕掛けかボウを刺した。その後ボウは、風邪のような症状を発症。急速に悪化し病院に入院する事態に至るが、回復も早かった。
ボウと同棲しているキャシー・ウィンスロープは、彼のことを間近に見てきたひとり。あの急激な容態の悪化に心配し、元気になったことで胸をなで下ろす。しかし、別の心配に苛まれることになった。
あれ以降、ボウの性格は一変した。今まで反対していたことに賛成し、突然大型犬を連れ帰ったりもする。キャシーは、共通の友人である医学生のピット・ヘンダーソンに相談するが……。
そのころ病院では、ボウと同じ症状を訴える人たちで溢れ返っていた。
石の正体とは?
ボウはどうなってしまったのか?
クックは、普段は医学サスペンスを書いてる作家さんなんだそうで。確かに、SF的ではありますが、そんな感じ。不可解なところもありますが、SFに挑戦してくれたというのはうれしいことです。
石の正体は、かなり早い段階で異星人由来と分かります。タイトルの“侵略”もそういう意味。
拡大の一途をたどる敵の勢力。対抗するのは一握りの人間。最悪の結末が目に見えるようでした
登場人物はやや難ありでしたけど。
みなし児のヨナタンは、ナヴランに育てられた。ナヴランは、かつての旅人。歳には勝てず、今では出かけることもなくなった。
ヨナタンはある日、散歩の途中で深い穴に落ちてしまう。登ることはできない。ヨナタンは闇の中を手探りし、不思議な杖を発見した。
ヨナタンが杖をにぎると、あらゆる感覚が研ぎすまされた。闇の中でものが見えるようになり、かすかな音も聴こえてくるのだ。ヨナタンは、杖でもって怪物ツチクイを倒し、脱出に成功する。
ナヴランの待つ自宅に戻ったヨナタンは、驚くべきことを知らされた。ヨナタンの発見した杖は、裁き司の杖〈ハシェベト〉だったのだ。
かつて、光の国セダンと闇の国テマナーとの戦いがあった。裁き司ゴエルは、テマナーの侵略を食いとめたものの己の力を過信し、神イェーヴォーに罰せられてしまう。杖を取り上げられ、深く反省したゴエルは〈英知の庭〉にのみ留まることを許された。
それから200年。
ゴエルは今でも、予言された第七代の裁き司ゲシャンが現れるのを待っている。
実はナヴランは、裁き司の使者〈カロジム〉のひとり。長年、杖を探し求めていた。〈英知の庭〉のゴエルに届けるために。そして、その使命を担うこととなったのは、養い子ヨナタンだった。
そんなヨナタンを夜毎の夢に見ているのは、イギリスに暮らす少年、ジョナサン・ジェイボック。病が原因で歩けない身体となっていたが、夢の中のヨナタンが代わりに冒険を引き受けてくれていた。ジョナサンは、夢の中のヨナタンを自分自身のように感じ、共に危険な旅へと出発するが……。
作中に語られる神話が予言となってます。神話は単なる予言ではなく、示唆も与えてくれます。過去の出来事が神話になったものもあります。さまざまな名前の神様が出てきますが、いきつくところはイェーヴォーと、彼の息子でネシャンを創造したメレヒ=アレスです。
その設定、どこかで聞いたことが……というのはありますが、うまく組み立てているな、と。
児童文学ですけれど、そこに留めておくのはもったいない出来。
『ヨナタンと伝説の杖』の続き。
ヨナタンは、伝説の杖〈ハシェベト〉の運び手として選ばれた。杖は、裁き司ゴエルの待つ〈英知の庭〉に届けなければならない。ゴエルが、第七代裁き司ゲシャンに杖を渡せるように。ゲシャンが涙の地〈ネシャン〉を洗浄する予言を成就するために。
ヨナタンは、闇の国テマナーの将軍ゼトアを退け、迷い込んだ禁断の地を後にした。行動を共にするのは親友のヨミ。
ふたりはセダン湾に出るが、そこは海賊たちの住処があるところ。こっそりと迂回しようとするが、捕まってしまう。
捕虜となったヨナタンとヨミ。そんなふたりに救いの手を差し伸べたのは、同じように捕まり、海賊の仲間とならざるをえなかった夫婦だった。手助けの交換条件は、息子ギンバールを連れて行くこと。
計画は実行に移されるが、うまくいったのは途中まで。三人は、罠を張り巡らしていたゼトアに捕らえられてしまった。
一方、夜毎の夢としてヨナタンと共に生きるジョナサン。
ヨナタンの冒険が進むにつれ、記憶喪失の症状が悪化していく。現実の記憶が欠落し、覚えているのは夢の出来事ばかり。徐々に、ジョナサンの命は薄らいでいくが……。
まるきり前巻の続きで、ほとんど上下巻の関係。
冒頭に、ジョナサンによる旅の記録の披露があります。それが第一部の出来事の説明になってます。ただ、世界そのものが複雑なので、読むなら第一部からをお薦めします。
第二部の本書は、ヨナタン、ヨミ、ギンバール、三人の強い絆が結ばれる一冊。ヨナタンは仲間たちの力も借りて、道を切り開いていきます。そして、有能なゼトアに追われて、呪われた地を旅したりします。そのくだりが圧巻。
クライマックスは、第七代裁き司ゲシャンの登場。ただ、ゲシャンの謎はかなり早い段階で分かるので、驚愕はしませんでした。
『ヨナタンと伝説の杖』
『第七代裁き司の謎』の続き。
ネシャンの地には第七代裁き司ゲシャンが現れ、その噂はセダン帝国の都セダノールにも届けられていた。
ゲシャンは〈英知の庭〉に留まり、第六代裁き司ゴエルによる教育を受けているところ。その日常が続くかに思われたが、ゲシャンはゴエルから、旅に出ることを勧告される。
旅の目的は、〈紅の目〉を破壊すること。ネシャン各地に6つあるとされているそれは、闇の国テマナーのもの。テマナーはふたたび、魔の手を広げようとしていた。
ゲシャンは、東域の目から探索を始めることにした。そこが最も、困難に思われたからだ。親友ギンバールと共に、商人に化けて旅立つが……。
一方、地下深くに〈紅の目〉がある帝都には、皇帝の次男フェリンが帰還していた。フェリンは、裁き司の杖〈ハシェベト〉の祝福を受けた剣〈バール=シェベト〉の使い手。その力が抑止力になるとゴエルは考えていたが、皇帝はすでに心を蝕まれていた。
迫り来る、テマナーの大軍勢。
セダノールは持ちこたえられるのか?
予言は果たされるのか?
前二巻の伏線がきいているおかげで、〈紅の目〉捜しはかなりスムーズ。紆余曲折があったのは、最初の〈紅の目〉だけ。ただし、見つけるだけでなく破壊しなければならないので、一筋縄ではいきませんけど。
とはいえ、裁き司には神イェーヴォーがついているわけで……。児童書にしてはよくよく練り込んであるとは思いますけれど、物足りなく思うこともありました。
エリー・アロウェイは、科学に魅せられて育った。女性の少ない世界にあって、人一倍にがんばり、ついに就いたのが、〈アーガス計画〉の責任者という地位。
ニューメキシコにある電波望遠鏡施設で、〈アーガス計画〉は地球外知的生命体からの電波を探っていた。最先端の装置を使っているとはいえ、調べる空は広大。なかなか成果が上がらず、計画の存続が危うくなってくる。
そんなとき、奇妙な信号が捕らえられた。
エリーは、世界各国の天文台に協力を要請し、電波の補足にかかる。メッセージの内容は、素数の羅列。発信源も突き止められた。26光年彼方のヴェガ星系。まだ若く、知性をもった生命体がいるとは考えにくい。
やがて電波信号は、解読された。
ひたすら続けられる素数の下に、メッセージが隠されていたのだ。それは映像で、ヒットラーがオリンピック開会を宣言するテレビ放送だった。
異星人は、なぜヒットラーの映像を送り返してきたのか?
地球外生命体の探索やら解読の仕方やら、とても分かりやすく書いてあります。語られる科学がすべて理解できたわけではないですが、分かった気にさせられるくらい。