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2009年の記録
目録
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このページの本たち
エンジン・サマー』ジョン・クロウリー
太陽の中の太陽』カール・シュレイダー
夏への扉』ロバート・A・ハインライン
チーム・バチスタの栄光』海堂 尊
グレイソン攻防戦』デイヴィッド・ウェーバー
 
プロバビリティ・ムーン』ナンシー・クレス
プロバビリティ・サン』ナンシー・クレス
プロバビリティ・スペース』ナンシー・クレス
巡洋戦艦〈ナイキ〉出撃!』デイヴィッド・ウェーバー
復讐の女艦長』デイヴィッド・ウェーバー

 
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2009年01月09日
ジョン・クロウリー(大森 望/訳)
『エンジン・サマー』扶桑社ミステリー

 てのひら系の少年〈しゃべる灯心草(ラッシュ・ザット・スピークス)〉は、天使と出会った。天使は物語を所望し〈灯心草〉は語り始める……。
 かつて人間は、天使としてこの世の春を謳歌していた。寿命は劇的に伸び、宇宙にも進出。人口増加に対処するため、自分たちの改造さえも行った。
 そして、天使たちは〈嵐〉に襲われ、文明は滅んだ。
 〈灯心草〉が産まれ育ったのは、リトルベレア。文明崩壊後、放浪生活を余儀なくされていた人々が造りあげた村だ。天使たちは神話となり、今では真実の語りの中に現れる。
 〈灯心草〉は真実の語りを学び、ささやき系の少女〈一日一度(ワンス・ア・デイ)〉が好きになる。ところが彼女は交易証人と共に、リトルベレアから出て行ってしまった。
 やがて〈灯心草〉もまた、リトルベレアから旅立つ。人々に語られる聖人となることを夢見て。そして、〈ワンス・ア・デイ〉と再会するために……。

 物語を物語る、物語。こういうのをメタ物語とか呼ぶらしいですが、そんなツンツンしたカタカナ語は似合わないような、やわらかい物語です。
 いろいろなことが、〈灯心草〉が語る神話として、あるいは〈灯心草〉の体験談として、語られます。それを聞くのは、天使の少女。
 最初のころは世界の成り立ちなど、分かりにくい点もありましたが、どんどん分かってきます。そして訪れる衝撃の結末。
 SFというより、文学といった感じでした。


 
 
 
 
2009年01月10日
カール・シュレイダー(中原尚哉/訳)
『太陽の中の太陽』ハヤカワ文庫SF1690

 ヘイデン・グリフィンは、地方都市エアリーに生まれ育った。エアリーは、移動型都市スリップストリームから属国のような扱いを受けている。それというのも、エアリーには自前の太陽がなく、スリップストリームには太陽があるからだ。
 世界の中心に太陽キャンデスがあるが、辺境にあるエアリーには充分ではない。独立するためには、どうしても太陽が必要だった。
 エアリーの人々は密かに、太陽建設に取りかかる。この極秘計画の中心人物こそが、ヘイデンの母。亡き夫の遺志を継いだのだ。彼らは試運転するまでに至るが、計画は漏れていた。
 スリップストリームとの戦いの最中、新太陽が点火されるものの、輝き続けることはなかった。戦闘に馳せ参じていたヘイデンは、失意の中、冬空間へと投げ出されてしまう。
 数年後、さまざな苦難を経て、ヘイデンはスリップストリームへ潜入していた。ヘイデンは経歴を偽装し、ファニング提督夫人ベネラの従者となることに成功。すべては、エアリー征服軍を率いていたファニング提督に復讐するために。
 ヘイデンは、秘密任務に出発する提督の艦隊に乗り込み、冬空間へ出発するが……。

《気球世界ヴァーガ》三部作の第一部。
 舞台となるのは、惑星サイズの気球の中の世界〈ヴァーガ〉。物語の柱は、ヘイデンの復習譚。
 面白いのですけれど、やや物足りなさもありました。
 世界の成り立ち。ベネラの強烈な個性。ヴァーガ世界の外の文明。海賊のお宝。滅んだ都市……。いろいろ取り揃えられているのですが、ありすぎて焦点が絞りきれなかった感じ。
 ヘイデンの人格に影響を与えたであろう苦難の日々も、後だしじゃんけんのように語られてしまいます。実は、実は……と。ちょっと勿体ない。


 
 
 
 
2009年01月16日
ロバート・A・ハインライン(福島正実/訳)
『夏への扉』ハヤカワ文庫SF345

 ダニエル・B・デイヴィスの相棒は、雄猫のピート。ピートは、家の中のどこかに夏への扉があると信じて疑わず、冬になると、すべての扉を確認させようとする。
 ダニエルもまた“夏への扉”を捜していた。
 ダニエルが失意のどん底に落とされたのは、親友マイルズ・ジェントリイと婚約者ベル・ダーキンに裏切られたから。
 ダニエルとマイルズは会社の共同経営者。事業はダニエルの開発した機械によって大成功をおさめた。ベルという優秀なタイピスト兼会計係を雇い入れ、株式会社にもなった。ところが方針を巡って対立し、ダニエルは会社を追い出されてしまう。
 ダニエルは、盲目的にベルを信じきっていたが、ベルはマイルズと結託していたのだ。悲嘆にくれるダニエル。冷凍睡眠の広告に目をとめ、30年の眠りを契約するが……。

 タイムトラベルものですが、中心は猫のピート。ダニエルの世界はピートを中心に回っています。
 ピートは近所のボス猫になるような強い猫なのですけど、それでもやっぱり心配なんですよね、ダニエルにとっては。なのに、ピートが見抜いていたベルの欺瞞に気がつかなかったダニエル。世界の中心にいるピートを、もっと信用していたら……残念ですけど、それじゃあ話になりませんものね。
 古典的名作。


 
 
 
 
2009年01月17日
海堂 尊
『チーム・バチスタの栄光』宝島社

 田口広平は、東城大学医学部付属病院の内科医。出世レースからは早々に距離を置き、今では不定愁訴外来、通称〈愚痴外来〉で安穏とした日々を送っている。
 ある日田口は、高階病院長から呼び出しをくらった。心当たりもなく、いぶかしむ田口。高階病院長の依頼は、奇妙なものだった。
 東城大学医学部付属病院が誇るのは、アメリカから招聘した桐生恭一。臓器統御外科のエース助教授だ。桐生は、左心室縮小形成術、通称〈バチスタ手術〉の第一人者。次々に成功を収め、新聞の特集にも取り上げられた。
 連勝街道をひた走っていたチーム・バチスタだったが、ここのところは術中死が相次いでいる。その原因を、田口にさぐって欲しいと言うのだ。
 しかし田口は、リスクマネジメント担当ではない。術中死が続いたとはいえ、元々、成功率の低い手術。全体で見た成功率は、平均より上回るくらいだ。
 疑問をぶつける田口だったが、調査を言い出したのが桐生自身であると知らされる。己の腕に絶対的な自信を持っている桐生は、たとえ手術に失敗したとしても、その原因が見通せるはずだと言う。今回の術中死はそれがないため、第三者の調査を希望しているのだ。
 手術の失敗は、単純な不運なのか?
 医療事故なのか?
 殺人の可能性もあるのか?
 やむなく調査することになった田口だったが……。

〈このミステリーがすごい大賞〉受賞作
 田口センセの、ときどき声に出してしまう内心の軽口がとてもおもしろいです。それだけに、第二部から登場する役人、白鳥圭輔の存在が残念。強烈な存在感で調査をひっぱっていくため、田口センセはまるでただのオブザーバー。
 ただ、白鳥がいるからこそ、大賞が獲れて、映画化されたりドラマ化されたりしたんでしょうけど。個人的には、田口センセにがんばってもらいたかったな、と。


 
 
 
 
2009年01月19日
デイヴィッド・ウェーバー
『グレイソン攻防戦』上下巻
ハヤカワ文庫SF1294〜1295

紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第二巻。
 マンティコア王国は、イェリツィン星系との同盟を模索していた。イェリツィンの向こうにあるのは、不倶戴天の敵である、ヘイヴン人民共和国。なんとしてでも成功させなければならない。
 マンティコアは、同盟を結ぶための使節団の派遣を決め、護衛としてオナー・ハリントン宙佐を選んだ。特使となるのは、上級宙将のラウール・クールヴォジエ。一行が向かうのは、イェリツィン星系の首星グレイソン。
 グレイソンを開拓したのは〈解放されし人々の会〉に属する信者たちだった。移住の目的は、破戒と自滅をもたらす科学技術を捨て去るため。しかし、グレイソンの自然は人間の生存には適しておらず、彼らは妥協を余儀なくされる。その妥協が、穏健派と信仰派との分裂の歴史へと繋がった。
 内乱の後、科学技術を否定する信仰派は、すぐそばのエンディコット星系の惑星マサダに追放される。それ以来、両派の確執は途切れることがない。
 ハリントンは、イェリツィンに関することは詳しくない。出発前にクールヴォジエから現地の様子を教えられ、愕然とする。グレイソンは極端な男尊女卑社会だったのだ。
 ハリントンは覚悟を決めて乗り込んだものの……。

 前作では敵対勢力の不甲斐なさに唖然としましたが、今回は少しだけ改善。でも、やはりひっかかるところはあります。いろいろと。
 こまかいところよりも、全体の動きを見通した方が楽しめるかも。


 
 
 
 
2009年01月22日
ナンシー・クレス(金子 司/訳)
『プロバビリティ・ムーン』ハヤカワ文庫SF1688

 火星近郊でスペーストンネルが発見され、人類の宇宙進出は思わぬ広がりを見せるようになった。
 スペーストンネルの先の先で、人類の調査隊は〈世界(ワールド)〉と呼ばれる世界を発見する。異性人たちは人類に近い特徴を持っているのだが、現地人同士で現実を共有しあうことができた。
 ワールド社会では、〈現実者〉でいることが最重要項目。現実に対する認識を共有できるものたちが〈現実者〉であり、それができない者は〈非現実者〉として疎まれ排斥されている。
 ある犯罪のために〈非現実者〉となってしまったエンリ・ペク・ブリミディンは、ふたたび〈現実者〉となるため、〈現実と贖罪〉省のために働いていた。今度の任務は、富裕なヴォラチュール家の屋敷に住みこみ、滞在している地球人を見張ること。彼らが現実を共有しているかどうかの判断は、まだ下されていない。
 一方の地球人たちは、数人でワールドの調査に当たっていた。地上の調査隊には知らされていなかったが、宇宙船に同乗してきた軍人たちは、ワールドの月を調べていた。
 ワールドには、7つの月が巡っている。その内のひとつは、実は人工物。どうやら、スペーストンネルを構築した種族のものらしい。フォーラー族との泥沼の戦いの最中にあって軍部は、謎めいた月に活路を見出していたのだが……。/p>

 三部作の第一部。(他に『プロバビリティ・サン』『プロバビリティ・スペース』)
 エンリと、地上の調査隊と、宇宙船と、三重構造で物語は進みます。
 現実を共有できないと頭痛を起こしてしまう現地人たち。けっして一枚岩ではない地上の調査隊。月の秘密を解明し、フォーラーとの戦争に役立てようとする軍人たち。
 さまざまな思惑が交錯し、ついに迎える結末の苦いこと。数々の謎は残ったままですが、読み応えがありました。


 
 
 
 
2009年01月25日
ナンシー・クレス(金子 司/訳)
『プロバビリティ・サン』ハヤカワ文庫SF1694

 火星近郊でスペーストンネルが発見され、人類の宇宙進出は思わぬ広がりを見せていた。それと同時に、人類は異星人フォーラーとの戦争に突入させられてしまっていた。彼らが襲ってきた理由はまったく分からない。
 そして今、フォーラーの新技術により人類は危機を迎えていた。窮余の一策として軍部は、スペーストンネルをいくつもくぐった先にある星系に調査隊を派遣する。
 彼らが向かうのは、〈世界(ワールド)〉と呼ばれる世界。2年前にワールドを調査した地質学者のディーター・グルーバーが、地底に埋もれた人工物があると、訴えていたのだ。
 計画の立案者ライル・カフスマン少佐は、人工物を解明するため、当代随一の物理学者トーマス・カペロに白羽の矢を立てた。そして、マーベット・グラントも。マーベットは〈超感覚者〉。積極的な遺伝子改良により他人の心理状態を読み取ることができる。
 実はマーベットの仕事は、ワールドの住民たちとの意思疎通ではない。はじめてフォーラーが捕らえられ、マーベットは秘密裏にフォーラーと対峙する。フォーラーは非協力的だったのだが……。

 三部作の第二部。(他に『プロバビリティ・ムーン』『プロバビリティ・スペース』)
 前作では、ほとんど背景にすぎなかったフォーラーとの戦争が、マーベットがフォーラーと対峙することで、やや表に出て来たかな、というところ。ただ、依然としてフォーラーのことはよく分からないまま。
 ワールド人たちの共感能力の考察など、読みどころは多数。
 カペラやマーベットなど、かなり個性的な面々が登場する一方、前作にひきつづき現地人エンリも再登場。新味があり、なおかつ知っている人もいるので安心して読めました。


 
 
 
 
2009年01月27日
ナンシー・クレス(金子 司/訳)
『プロバビリティ・スペース』ハヤカワ文庫SF1696

 人類は異星人フォーラーと戦争を続けていたが、人類が人工物を手に入れたことにより、太陽系の住民たちには平穏が訪れていた。
 そこへ、人工物研究の第一人者とされている物理学者トーマス・カペロの誘拐事件が発生。たまたま現場を目撃したのは、カペロの長女アマンダだった。アマンダは、この誘拐に政府がからんでいることを直感し、身を潜める。
 アマンダが頼れるのは、友達で〈超感覚者〉のマーベット・グラントくらい。ただ、マーベットが暮らすは月。そこまで行かねばならない。
 アマンダは旅費を得るため、所持品のダイヤを金に変えようとする。店で換金はできたものの、何者かに襲われてしまった。
 アマンダを救ったのは、エミル神父だった。アマンダはエミル神父を疑いつつ、共に行動する必要性を悟る。
 実はエミル神父、反戦運動組織〈ライフ・ナウ〉の構成員。〈ライフ・ナウ〉はアマンダを利用しようとするが……。
 一方マーベットは、ふたたび〈世界(ワールド)〉に行くため悪戦苦闘を続けていた。月から火星に飛び、正式な許可が下りるのを待つものの、届いたのは見当違いの方角の許可証だった。ついに非合法な手段を用いることになるが……。

 三部作の第三部。(他に『プロバビリティ・ムーン』『プロバビリティ・サン』)
 今回も〈世界(ワールド)〉が出てきますが、ほんの少しだけ。すべての謎が解明されたわけではないですが、予想外な結末にはびっくりしました。
 このシリーズは三部作でしたが、元々三部作として構成したんじゃないそうです。実際、3冊共に趣がちがってました。少しずつ登場人物を重ねながら紡ぎ出されていく事件に、興味津々。
 本作で終わってしまうのがもったいない感じ。


 
 
 
 
2009年01月31日
デイヴィッド・ウェーバー(矢口 悟/訳)
『巡洋戦艦〈ナイキ〉出撃!』上下巻
ハヤカワ文庫SF1314〜1315

紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第三巻。
 マンティコア王国航宙軍の宙佐オナー・ハリントンは激しい戦闘により負傷し、艦を下りて治療に専念していた。
 それから1年。
 自宅で静養中のハリントンの元に、命令書が届く。それは、巡洋戦艦〈ナイキ〉の艦長就任の下名だった。
〈ナイキ〉は、当代随一の者だけが指揮権を与えられる、伝統ある一隻。しかも副長は、士官学校で共に学んだ親友ミッシェル・ヘンケ宙佐補。ハリントンは、意気揚々と〈ナイキ〉に乗り込む。
〈ナイキ〉が送り込まれたのは、ハンコック星系だった。ヘイヴン人民共和国に対する前線基地がある重要な拠点だ。ハンコック駐屯地にはいくつもの艦隊が駐在し、新しくヤンシー・パークス宙将が司令官に就任したところ。
 ハリントンは理解ある提督マーク・サーナウ宙将補の部下となるが、〈ナイキ〉は、ハンコックに到着したとたん修理を余儀なくされてしまう。

 シリーズ第三巻になると、こちらも少しずつ慣れてきてはいるものの、新顔の登場人物は底なしのようで、いつも苦労させられてます。そのためか、巻頭に登場人物たちの肖像画がついているのですが、それはいらないから艦隊の相対図が欲しいな、と。
 歴史の流れのような全体像を追って行くとおもしろいのですけど、個々になると、ややマンネリかもしれません。つまるところ、ハリントンに理解がある人と、ない人と。
 そういう星の下に生まれてしまったのね、ハリントンは。


 
 
 
 
2009年02月01日
デイヴィッド・ウェーバー(矢口 悟/訳)
『復讐の女艦長』上下巻
ハヤカワ文庫SF1362〜1363

紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第四巻。
 マンティコア王国航宙軍は、軍法会議を開こうとしていた。ヘイヴン人民共和国を相手にしたハンコックでの開戦で、〈ウォーロック〉の艦長パヴェル・ヤング宙佐が敵前逃亡を図ったのだ。
 有罪なら、極刑が科される。しかし、ヤングは名門貴族の嫡男。政府が議会運営に苦慮している現状では、おいそれと裁くわけにもいかない。
 一方、事件の当事者でもある〈ナイキ〉艦長オナー・ハリントン宙佐は、怨恨あるヤングが死刑ほぼ確実とあって、複雑な心境ながらも幸せな日々を送っていた。
 ところが、前代未聞の判決によりヤングの極刑は回避されてしまう。軍籍は剥奪されるが、急逝した父ノース=ホロー伯に変わって爵位を相続。議会に影響力のある身となってしまった。
 そして、ヤングの陰謀が始まるが……。

 前作『巡洋戦艦〈ナイキ〉出撃!』とダイレクトにつながっているので、続けざまに読んで正解、と言ったところでしょうか。
 タイトルの復讐が始まるのは、下巻に入ってから。恒例の宇宙戦争シーンはなく、決闘に取って代わられてます。
 それにしても、マンティコアって。男女平等を掲げる一方でとんでもない階級社会だったり、近代的と思いきや決闘が許されていたり、不思議な国だなぁ、と。

 
 

 
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