ルウ・アレンデイルは、35歳。
両親はすでに亡く、自閉症を患っているが独立して暮らしている。ルウはさまざまな学習を経て、社会で生活できるようになった。しかし、正常(ノーマル)な人たちの早口には耳がついていかないし、パターンを重視する性向は変わらない。
会社でルウが所属するのは、自閉症たちのセクションA。彼らには、定期的な医師との面談や、専用駐車場、ジムやオーディオ設備が保証されている。障害者を雇用することで企業は恩恵を得る一方で、彼らに対する義務も生じるのだ。
セクションAは、データパターンを読み取る仕事をこなし、成果もあげてきた。ところが、新しい管理部長ジーン・クレンショウの登場で状況は一変。
クレンショウは、セクションAに完備されている福利厚生施設が気に入らない。無駄なコストと見なしているのだ。コストをカットするため、セクションAの社員たちを、実験医療の被験者とすることを企む。
セクションAの統括者ピート・オルドリンは、ルウたちを守ろうとするが……。
ネビュラ賞受賞作
21世紀版『アルジャーノンに花束を』と呼ばれていますが、雰囲気はかなり違います。あちらでは、知恵おくれのチャーリイが手術によって知能指数をあげていく過程が語られましたが、本作で語られるのは、自閉症患者としてのルウ・アレンデイルです。
自閉症であるが故に生まれる個性に彩られた世界とは?
危険を冒してでも自閉症は治すべきなのか?
解雇をちらつかせながら、被験者へと追い立てるクレンショウと、戸惑うルウたち。そして、クレンショウに怒りを募らせるルウを取り巻く人たち。
作者のエリザベス・ムーンは、お子さんが自閉症なんだそうです。そのためか、ルウの視点にはリアルさがあります。そして、こうあって欲しい、という希望も見え隠れしているようでした。
とても考えさせられます。
連作短編集。
夢想家のピルクスが、航宙士となり、船長となり、さまざまな事件や冒険を経て年老いていきます。笑いあり、オカルト風味あり、サスペンスあり。
1971年の作のため古さは否めませんが、ピルクスの妄想癖が愉快で、今でも楽しめます。
なお、文庫化にあたり、翻訳した深見弾氏がすでに他界していたため、大野典宏氏により改訂されています。
「テスト」
ピルクス訓練生に、ついに試験飛行の順番が回ってきた。心の準備が整っていないピルクスは、カンニングペーパーを持参して試験に挑むが……。
「パトロール」
パトロール隊のパイロットとなったピルクス。パトロール勤務は退屈な仕事なのだが、立て続けに事故が勃発した。彼らは、なんの痕跡も残さず宇宙に消えてしまったのだ。そんな最中、ピルクスもパトロール中に不可解なものを目撃するが……。
「〈アルバトロス〉号」
ピルクスは、豪華客船〈タイタン〉の客となっていた。道中、不可解な方向転換に気がつく。ピルクスはパトロール隊のパイロットとして無線通信室に入り、〈アルバトロス−4〉の事故を知るが……。
「テルミヌス」
ついに船長となったピルクス。乗る船はオンボロで、しかも事故を起こしたことのある船だった。船にはロボット〈テルミヌス〉が付属しており、これまた壊れかけている始末。ピルクスは恐怖を味合わせられるが……。
「条件反射」
ピルクス訓練生は〈鉄の意志〉を調べるテストで驚異的な記録をマークした。そのために、月の〈メンデレーエフ〉観測所に実習生として送り込まれることになってしまう。観測所では事故があり、二人の学者が命を落としていた。原因は分かっていない。ピルクスは、観測に当たる天文学者と共に観測所に入るが……。
「狩り」
月は流星群に襲われた。人的被害はなかったものの、一体のオートマトンが損傷を受け逃走してしまった。オートマトンは採掘用で、回路が壊れたらしく人間に危害を加えようとしている。たまたま月に滞在中の船長ピルクスも、逃げたオートマトンの捜索に協力するが……。
「事故」
ピルクスは、惑星の調査隊に加わっていた。地球によく似てはいるものの、太陽が安定しておらず植民がなされることはない。調査隊は3人の小所帯なのだが、気まずい状態となっていた。そんな最中、オートマトンのアニエルが行方知れずとなってしまう。ピルクスたちは、プログラムで指示した道を辿り、アニエルを捜すが……。
「ピルクスの話」
〈静かな太陽の年〉のこと。ピルクスの船は、お多福風邪の猛威にさらされていた。無事だったのはピルクスと、酒浸りの通信士と、なんの経験も知識もない技師だけ。ピルクスはさまざまなことをひとりでこなすハメに陥ってしまう。
「審問」
ピルクスは審問にかけられていた。〈ゴリアテ〉で起こった事故に対する責任を裁かれることとなったのだが、実は〈ゴリアテ〉はあるテストの最中でもあった。それは、人間そっくりに造られた人造人間の能力テストだった。
ピルクスは、船に人造人間が乗っていることは承知しているが、誰が人造人間なのかは知らされていない。乗組員からはさまざまな告白が舞い込むが……。
「運命の女神」
火星に着陸しようとしていた〈アリエル〉だったが、制御不能に陥り大事故を起こしてしまった。〈アリエル〉は、自動操縦装置を搭載した最新鋭船。いったいなにが起こったのか?
たまたま火星に居合わせたピルクスは、現役船長という立場から、事故原因を調査する専門委員会に参加することになるが……。
地球は人口爆発に悩み、ついに23世紀、人口平均化施行局、通称〈ポピーク〉が設立された。ポピークは、人口密集地の住人を強制的に、過疎地域へと振り分ける。ポピークの仕事は、地域的隔たりをなくすことだけではない。
ポピーク主導のもと、異常遺伝子を持って生まれた赤ん坊はハッピースリープを施行された。高齢者も同様。永遠の眠りにつかされたのだ。そして、不適格男子は断種させられた。
ポピークは必要性を認められつつも、人々から怖れ、憎まれていた。
ロブ・ウォルトンはポピークの副長官。厳格に仕事を遂行していたが、ある日、ひとつの例外をつくってしまう。
赤ん坊をひとり、ハッピースリープから助け出してしまったのだ。しかも弟のフレッドに嗅ぎ付けられてしまう。実の弟とはいえ兄弟仲は良好とは言えず、ウォルトンは内心穏やかではいられない。
そんな中、長官のフィッツモームが暗殺されてしまった。
独裁者フィッツモームは、ひとりですべてを動かしていた。臨時長官となったウォルトンは、フィッツモームの遺業を引き継ぐが……。
ウォルトンの犯罪に始まって、長官の死と、明らかになるポピークの実体。やがてひとつの結末へ……。
ウォルトンがどんどん深みにはまっていく様子は、テンポもよく、読んでいて引き込まれてしまいます。が、昔の作品(1957年)ゆえ、かなり淡白。今となってはありえない設定もチラホラ。
そこのところに目をつぶれないと、楽しめません。
ベンジャミン・ベネルは、29歳の会社員。妻ヘティと暮らしているが、もはやヘティに魅力が感じられず、かつての恋人テシーのことが忘れられずにいる。ベンは自分に〈敗残者〉の烙印を押し、鬱積した日々を送っていた。
ある日ベンはいつものように、スタンドで新聞を買った。気がつけば、街の様子は一変。手にした新聞も〈ニューヨーク・ポスト〉ではなく、何年も前に廃刊した〈ザ・ニューヨーク・サン〉になっていた。
どうやら、ベンの使ったダイム(10セント硬貨)に秘密があるようだ。ベンは、今までとは違う世界に来ていたのだ。
ベンはなんとか自宅を探し当てる。住んでいるのは新しくて広いすばらしいアパートで、待っていたのは美しいテシーだった。
ベンは仕事にも成功しており、得意満面。楽しい日々を送るが、目の前にヘティが現れることで迷いが生じてしまう。あんなにうっとうしく感じていたヘティのことが気になって仕方がないのだ。
ベンは、ヘティを振り向かせようと悪戦苦闘するが……。
ベンがなにげにセクハラ野郎で、出だしは読んでいてイライラ。別世界に転移しても、自分本位なところは変わらず。ダイムを介したやりとりや、ふたつの世界を行きつ戻りつしながらの展開はおもしろいのですけれど……。
ロイ・マルカムはワールド航空コンテストに出場し、優勝に輝いた。賞品は、世界中のどこへでも旅行させてもらえる権利。
主催者が予想していたのは、地球上のどこかだった。しかし、ロイの希望は低位ステーション。ロイをステーションに行かせるとなると、予定の10倍もの出費となる。
ロイは、弁護士のジム叔父さんの入れ知恵もあり、ついに権利を勝ち取る。それには、周りの人たちの応援もあった。ステーション行きを許してくれた両親や、主催者側がなんとかして阻止しようと画策した各種診断を担当した医師たち……。
ステーションでロイの面倒を見てくれるのは、ドイル司令官。そして、年長者の訓練生ティム・ベントンだった。
ロイはさまざまなことを経験していくが……。
宇宙もののジュブナイル。
いろんな事件が起きますが、相当に大きな事件でもさりげなく書かれてあるのがクラーク流。宇宙へのあこがれとか、怖れとか、サラリと綴られていきます。このあっさり感、物足りなく思う人もいるかもしれませんけど、想像力はかき立てられます。
15人の男たちが月に降り立った。目的は、2年に渡る本格的な探検と資料収集。往路の宇宙船は、生存のための物資と機材で満杯。帰還用の燃料は、改めて地球から運ぶ手はずだ。
そして1年11ヶ月。
そのときまでに2人の男が亡くなった。残り13人の男たちは、地球に帰れる日を心待ちにしている。ところが、目の前で帰還用宇宙船が墜落してしまった。
基地があるのは月の裏側。地球がこの事故を知るのに1ヶ月かかる。そして、新しい宇宙船を送ってもらうのにかかる月日は? 彼らに残されている酸素は2ヶ月分しかない。
探検隊の、生存をかけた闘いが始まるが……。
理学博士のトーマス・リッジレイ・ダンカンによる日記、という構成。日記なので、今日は光電池を何個つくったとか、単調な記録もたびたび出てきます。
ダンカンは食料補給係。酸素と並んで食料は生存のために書かせない物資。当初から割当を減らしてなんとか生き延びようとしますが、少ない食料が盗まれてしまう事件が起こります。
いったい誰が?
謎を残したまま時間は過ぎていき、さまざまなモノやコトが、提案され、却下され、試され、助けとなっていきます。途中から楽観的な雰囲気さえ漂うのですけれど……。
起伏がないのでおもしろくないと思う方もいらっしゃるでしょうが、最後には涙がホロリ。
キャンベルは、作家としてより編集者として名を残した人で、作家たちにテーマを与えて作品を書かせ、多くの名作が生まれました。自分で書いたものも、申し分のない出来。今となっては…という設定もありますけれど。
遠いむかし、ある特定の生物が、地球の支配的な生命体となるべく選ばれた。彼らには、特定の性向が深く刻み付けられていた。望まれているのは、高度の工業的発達を成し遂げること。
選んだものたちは他の天体からやってきた。申し分のない地球を、自分たちにとって都合のいい環境に作り替えようとしたのだ。すなわち、亜硫酸ガスやら窒素酸化物やら一酸化炭素やら、住みやすい物質で満たされた惑星に。それをするには仲間の数が少なく、知的生命体の進化に手を加え、彼らに仕事をゆだねたのだった。
そして、21世紀。
国際精神感応技術者連盟の会長リチャード・ギーズには、デニスという子供がいた。リチャードもテレパシー能力者だったが、デニスは大変な能力の持ち主で、そのおかげで早期感応による緊張病を患ってしまっていた。
デニスの精神的外傷はあまりに強く、自分自身の人格を発達させられずにいる。今のデニスは、断片の寄せ集めにすぎないのだ。
ある日デニスは、ある人物の精神構造の大部分とリンクしてしまった。その人物とは、ロデリック・リーシュマン。地球環境を守ることを名目とした破壊活動を続ける〈大地の子ら〉の暗殺者だった。
デニスはリーシュマンとなるが……。
書かれた当時は「公害」が大問題となっていたころ。
ゼラズニイの作品はたいていそうなのですが、とても分かりづらいです。いろいろと考えて、後で、そうか、と気がついたり、いまだに分からないところがあったり。
もっと注意深く読めば分かるのか、ゼラズニイの他の作品をもっと読めば分かるのか、永遠に分からないのか……。
とても気になります。
《同胞(ピープル)》シリーズ第二弾。
超能力者もので異星人もの。
地球人と似た外見を持ちながら、空中浮遊したり、遠くの仲間と意識を通わせたりできる《同胞》たち。故郷の惑星から離れねばならなくなり、支族ごとに宇宙船に乗り込みます。やがて地球へとたどり着きますが……。
本書は短編をまとめたものです。
被災した《同胞》の子供を助けた夫婦が彼らの存在を知り、交流が始まります。そして、《同胞》たちにさまざまなエピソードを聞かせてもらう、という構成。
時間的には、シリーズ第一弾の『果しなき旅路』の後の物語ですが、思い出話も盛りだくさん。前作でおなじみの《同胞》も登場します。
SFというより、メルヘン。ほんわかと暖かくて、逆にSFとして物足りなく思う方もいらっしゃるかもしれません。
「血は異ならず」宇佐川晶子/訳
メリスとマークの夫妻は、ある嵐の翌朝、親とはぐれてしまったらしい小さな女の子を見つけた。ふたりは少女を家に連れ帰り面倒を見るが、飛ぶ姿にびっくり。やがて少女の父親が現れて……。
「大洪水」宇佐川晶子/訳
《同胞》たちの故郷の星でのこと。
人々は平和を謳歌していたが、ついに、長いこと誕生していなかった《透視》の能力を持った子供が現れた。人々は《故郷》に《御召し》がくることを悟り、脱出のために動き出すが……。
「知らずして御使いを舎したり」宇佐川晶子/訳
ニルスの一家は新居に向けて旅を続けていたが、道中、悲惨な光景を目の当たりにした。焼け落ちた家に4人の縛られたままの死骸があったのだ。残されたメッセージには、魔術を使う者を生かしておくべからず。
ニルスは生き残った少女を助けるが……。
「されば荒野に水湧きいで…」深町真理子/訳
少年バーニーは両親と共にフールズ・エーカーズ農場で暮らしているが、一家は水不足に陥っていた。そんな折り、なにかの墜落事故があり、火傷を負った少年が助け出される。バーニーが世話をすることになるが、意識を取り戻した少年はしゃべろうとしない。やがて、水不足が深刻な状態となっていき……。
「帰郷」宇佐川晶子/訳
デビーは《帰郷》し、サンという伴侶も得た。楽しい日々がはじまるはずだったが、どうしても地球のことが忘れられない。ついに地球へと帰還するが、事故でサンが亡くなってしまう。残されたデビーは地球人に助けられるが……。
「月のシャドウ」宇佐川晶子/訳
少年レミーは月に行きたくて仕方がないが、父親は大反対。そんなとき、《感知能力》の訓練をしていた妹シャドウは、ロケットのような形をしたものが隠されていることを探り当てた。近くの小屋には老人が住んでおり……。
製態技術が花開いた22世紀。
製態は整形とちがい、肉体構造そのものをも変えてしまう。著名人になりきることはもちろん、魚のように海で遊んだり、鳥として空を飛ぶことも可能となったのだ。
この時代、赤児が産まれると人間性テストが実施される。判定基準は、バイオ=フィードバック・システムを利用した意識的な形態変化をなしとげられるか。テストに合格できなかった赤児は安楽死させられ、テストに合格し人間として認められると、固有の染色体識別コードを登録することとなる。
寿命まで左右する製態技術は、形態管理局によって管理されていた。
ベアルーズ・ウルフは、形態管理局の職員。勤務が終わり自宅にいるところ、同僚のジョン・ラーセンから呼び出しを受けた。ある学生が自身の技術向上のため、臓器移植で使われた肝臓の染色体識別コードを調べたところ、エラーとなってしまったのだ。
ウルフは職場にかけつけ調査を開始するが、折しも医療関係の記憶エリアでトラブルがあり、データがごっそり消えてしまったところ。しかも、執刀した病院で行った再確認では正常なデータが出てきたのだ。
ウルフは、消されたデータの周辺をさぐることで真相に近づいて行くが……。
というのが、第一部。
第二部では時は流れ、ウルフは形態管理局の局長になってます。海底で怪物の死体が発見され、それが人間であったことから調査に乗り出しますが……。
拍子抜けしてしまう設定もあって、やや物足りない感じ。事件の真相は明らかにされますが、疑問もたくさん。本国では続編があるそうですが、翻訳はされていません。
《紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第五巻。
決闘で貴族を殺したことにより、マンティコア王国航宙軍から半給休暇を命じられてしまったオナー・ハリントン。向かったのは、同盟国であり自身の領地があるグレイソンだった。
ハリントンは心に傷を負っており、軍とは離れた生活をつづけていたが、マンティコア王国とヘイヴン人民共和国の戦争の余波はグレイソンにあっても避けようがない。人材難に喘いでいるグレイソン軍に請われ、提督として復帰することとなった。
当初は戸惑っていたハリントンだったが、徐々に精気を取り戻し部下たちを鍛え上げて行くが……。
一方ヘイヴンでは、マンティコアを罠に嵌めようと、ある秘密作戦が進行していた。
ハリントンが提督となるのが大筋。
さらに、『グレイソン攻防戦』で敵方として登場し、マンティコアに亡命したアルフリード・ユーが再登場したり、ハリントンのことをよく思わないグレイソンの貴族が暗躍したり、いろいろと事件が起こります。もちろん、ヘイヴンの画策はハリントンにも関わってきます。
それにしても、相変わらずのハリントンの弁説は、スカッとさせてくれます。そこがいい子的で嫌だ、と思う方は読めないでしょうね、このシリーズは。