惑星ストラトスでは、クローニングによる家母長制社会が築き上げられていた。
人々の遺伝子は、ストラトス社会の創始者ライソスによって慎重に操作されており、女性は冬に、男性は夏にだけ発情する。冬の子は母親のクローンとして氏族に迎え入れられるが、夏の子は男女の間にできた変異子として蔑まされていた。
ラマティア氏族のマイアは変異子。これまでは氏族の保護を受けられたが、15歳になったため、双子のライアと共に旅立つこととなった。ところが、予約していた船から一方的にキャンセルされてしまう。
ふたりは、行き先を同じくするヴォータン号、ゼウス号への分乗を余儀なくされる。しばしの別れを前向きにとらえるマイアだったが、船は嵐に遭遇。ライアが行方入れずとなってしまった。
悲嘆にくれるマイア。
一時は修道院に身を寄せたものの、前向きに生きて行くため、鉄道の仕事に就いた。そこでヒッチハイカーのティズベを助手として雇うが、ティズベは名乗る通りの変異子ではなく、快楽を専門とする氏族の冬っ子であることに気がつく。よからぬ企みを感じとったマイアは惑星安定保障局に通報するが、ティズベの一族に追われる身となってしまった。
マイアは誘拐され、僻地の見捨てられた建物に監禁されてしまうが……。
マイアに降り掛かる災難だけを取り出してみると、もう悲惨の一言。変異子としていじめられ、ライアとは離ればなれになり、仲間に裏切られること度々。きつい労働に就かざるを得なくなったり、誘拐・監禁されたり、いろいろあります。
それでも前向きに生き抜こうとするマイアに救われた感じ。それだけに、一番最後の第四部は、マイアなら別の行動ができたんじゃないかと残念に思ってしまいます。
《スターウルフ》シリーズ第一作。
ヴァルナ人たちはスターウルフと呼ばれ、他の惑星の人々に恐れられ、憎まれていた。高重力で鍛えられた肉体を武器に、残虐な掠奪行為を生業としているためだ。
モーガン・ケインもスターウルフの一員。ケインは生粋の地球人だがヴァルナで産まれ育ち、ヴァルナ人たちと同じように鍛えられてきた。彼らを同族と思い、仕事を楽しんでいたものの、あるとき仲間を殺してしまった。
ケインはたちまち、スターウルフたちから追われる身となってしまう。宇宙船は攻撃を受け、ケインは万に一つの可能性を賭けて、単身宇宙へと飛び出した。
漂流するケインを助けたのは、地球の船だった。乗っていたのは、その荒っぽさで銀河中に知れ渡っている地球の外人部隊。ケインは、自身の身元を隕石ヤマ師だと嘘をつくが、隊長のジョン・ディルロに見破られてしまう。
外人部隊にとっても、スターウルフは嫌悪の対象。ケインはディルロに、正体をばらさないことを引換に、危険な仕事を持ちかけられるが……。
1967年に書かれたスペースオペラ。
ケインはひねた性格で、人殺しもなんのその。ディルロ以外の隊員にスターウルフであったことが知られてしまうとその場で殺されてしまうので、抑制してます。
ケインの秘密を握っているディルロも、ケインを信用したわけではなく、必要最低限の情報しか渡しません。そして、スターウルフの追跡もつづいてます。
ケインの内面が書かれているとはいえ、かなりあっさりしていて、軽く読めてしまいます。
ハイデル・フォン・ハイマックは、デイバ熱に感染した唯一の生存者。そして、ありとあらゆる病原菌を保有した者。ハイマックは、聖者ミスター・Hとして人々に知られている。
ハイマックは、イタルバーに向かっていた。ひとりの子供がイタルバーで死にかけており、主治医がハイマックに助けを求めてきたのだ。
ハイマックはイタルバーで子供を助けるが、町に長居をしすぎてしまった。あらゆる血清の保持者であるということは、あらゆる病気の感染源にもなりうる。ハイマックに接触した人々が次々と病に倒れ、町はパニック状態。
ハイマックは襲撃されてしまうが……。
マラカー・マイルズは、地球上でただひとりの人間。
地球は合同連盟との戦争により、人の住めない星となってしまっていた。戦争そのものは休戦条約によって終結したが、艦隊司令官だったマラカーにとって戦争は継続中。地球を飛び立っては、単身、破壊活動を続けていた。
あるときマラカーは、恐怖の感染源となっているミスター・Hのことを知る。その正体をつきとめ、合同連盟への武器として使おうと画策するが……。
登場人物が多く、ややこしい作品。
ハイマックの幻影に現れる、ブルー・レディ。難病を患い、ハイマックに注目したドクター・ペルス。
マラカーと行動を共にしているテレパスのシンド。マラカーを崇拝している娼婦ジャカラ。かつてのマラカーの部下ジョン・モーウィン。マラカーに取引を持ちかける惑星アーチストのフランシス・サンドウ。
頻繁に場面転換を繰り返し、物語は佳境へとつき進んでいきます。結末は、ゼラズニイだな、という感じでした。
ネッド・ヘンリーは、主教の鳥株(花瓶)を捜していた。第2次大戦で焼失したコヴェントリー大聖堂にあったはずだが、確かにあったかどうか調べてこいと、レイディ・シュラプネルに言い渡されているのだ。
タイムトラベルを利用しての任務に当たっているのは、ネッドだけではない。オックスフォード大学史学部は、コヴェントリー大聖堂を再建するプロジェクトのために総動員させられていた。それもこれも、主教の鳥株にご執心なレイディ・シュラプネルのせい。
ネッドは重度のタイムラグ症状のため、現代に戻されてしまった。病院での診断は、2週間の絶対安静。レイディ・シュラプネルが許すはずもない。ネッドが助けを求めたのは、ジェイムズ・ダンワージー教授だった。
ちょうど史学部では、ある大問題が持ち上がったところ。レイディ・シュラプネルのひいひいひいひい祖母トシーの元にはヴェリティ・キンドルが送り込まれていたのだが、やむにやまれない事情から、トシーの猫プリンセス・アージュマンドを現代に連れ帰ってしまったのだ。
ネッドは猫と共に、ついでに休養をとってこいと送り出されるが、指示を理解することができずじまい。偶然知り合ったテレンス・セント・トゥルーズと共に、テムズ河の船旅をすることになってしまう。
実はテレンスは、一目惚れしたトシーのためにプリンセス・アージュマンドを捜しているところ。猫は無事に元通りとなったが、今やトシーとテレンスは相思相愛の仲。ところがテレンスの結婚相手は、ネッドがいたために出会えなかった令嬢モードで、トシーはイニシャルCの男と結婚するはずなのだ。
ヴェリティと合流したネッドは、歴史を元に戻そうと悪戦苦闘するが……。
主教の鳥株と、タイムパラドックスに絡んだてんわやんわの軽いタッチの作品。長めですが、無駄に思われた箇所も重要になってきたりと、さすがはコニー・ウィリスだな、と。
《オックスフォード大学史学部》シリーズのひとつ。本書は『ドゥームズデイ・ブック』に関連してます。世界設定と、ダンワージーが共通しているくらいですが。
タイトルの元ネタは、ジェローム・K・ジェロームの『ボートの三人男 −犬は勘定に入れません−』から。ジェロームが登場したりと、遊び心が入ってます。
ウィルソン・コール中佐は、三度も勲章を授けられた英雄。ただし、独断専行に走りがちなため、上層部の受けは悪い。
コールが新たに配属されたのは、巡視艦〈セオドア・ルーズベルト〉。銀河辺境宙域でくすぶっている老朽船で、乗組員は不祥事を起こした問題児たちだった。
第二副長となったコールは最初の当直で、ボーテル籍の船が惑星ラプンツェルに着陸したことを発見する。ボーテル2は、11日前にテロニ連邦に加盟した。そして、共和宙域は、テロニ連邦と戦争状態にある。
コールは〈セオドア・ルーズベルト〉をラプンツェルへと向かわせると、船長には告げずにシャトルで降下した。船長に知られれば、哨戒軌道に戻されてしまうからだ。
コールはボーテル軍に捕まってしまうが……。
戦時中の軍隊ものですけれど、軽め。
おもしろくない訳じゃないんですけど、すすっと読めてささっと忘れてしまう感じでした。
宇宙船〈アルゴ〉が目指しているのは、47光年彼方のエータ・ケフェイ星系第四惑星コルキス。10,034名の男女は、8年の歳月をかける旅に出ていた。
〈アルゴ〉のすべてを取り仕切るのは、コンピュータのイアソン。ある秘密の使命を持っていたが、科学者ダイアナ・チャンドラーに嗅ぎ付けられてしまった。幸い、すべての乗組員がそうであるように、ダイアナもイアソンのことを全面的に信頼している。
イアソンはダイアナを誘導し、着陸船〈オルフェウス〉に乗り込ませた。そのまま〈アルゴ〉から離脱させれば、〈アルゴ〉をとりまくラムフィールドによってダイアナの口封じは完結。秘密は保たれるはずだった。
イアソンは、ダイアナ殺害には成功したものの、予想外にも〈オルフェウス〉が回収されてしまう。ダイアナの亡骸は、人々の想定をはるかに越える量の放射能を浴び、燃料は必要以上に失われていた。
ダイアナの“自殺”は、ニュースとなって船内を駆け巡った。人々は離婚のショックから立ち直れなかったからだと受け取ったが、元夫のアーロンは納得がいかない。
イアソンは、疑いを抱くアーロンを監視するが……。
倒錯ミステリ。
イアソンの語りで、イアソンの犯行と、アーロンへの画策が披露されます。〈アルゴ〉の目的と、地球を出発する前に受信していた異星人からのメッセージに関する考察もあって盛りだくさん。
処女長篇ということで、やや足りないところはありますけれど、何度読んでも楽しめます。
なお、〈ゴールデン・フリース〉はギリシャ神話が出典。
テッサリのイアソンは、正当な王位継承者であることを示すため、空飛ぶ黄金の羊の毛皮(ゴールデン・フリース)をとってくる必要にせまられます。50人の勇者たちと共に〈アルゴ〉号に乗ってコルキスを目指しますが……。
『反逆者の月『反逆者の月2 −帝国の遺産−』の続編。
異星種族アチュルタニの侵攻を辛くも退けた地球だったが、彼らは先遣部隊にすぎず、脅威が取り除かれたわけではない。滅亡した銀河第四帝国を受け継いだ第五帝国では、永続的な平和を実現させるための奔走が続いていた。
新生銀河帝国の初代皇帝は、アチュルタニとの激戦の英雄コリン・マッキンタイア。皇后ジルタニスと共に、惑星バーハットで暮らしていた。
皇室に対する人類の支持は高いが、帝国の運営には不安要素があった。第四帝国の反逆者アヌは成敗されたが、その残党がいまだ残っている。首脳部は努力を続けていたものの、協力者すべてを特定することは困難を極めていた。
そんな折り、戦艦〈インペリアル・テラ〉が行方不明となってしまう。航宙中に失われた可能性が濃厚なのだが、〈インペリアル・テラ〉には、帝国宇宙軍の士官候補生たちが乗っていた。その中には、ショーン皇子とハリエット皇女の姿も……。
多方面にわたる調査から、コンピュータになんらかのテロ・プログラムが仕掛けられていたことが判明する。事件の黒幕は、地位の高い人間であるらしい。皇室と仲間たちは、秘密裏に捜査を続けるが……。
一方、ショーンとハリエットは、〈インペリアル・テラ〉によって自爆寸前に脱出させられていた。かれらは、一縷の望みをかけて、もっとも近い星系に向かう。そこで発見したのは、第四帝国の末裔たちだった。
惑星パーダルでは帝国の技術は忘れられ、神権政治が根付いていた。第五帝国に連絡をとるには、教会の持っているコンピュータにアクセスしなければならないのだが……。
帝国と、王位継承者たちの物語が平行して語られます。割合的には、惑星パーダルの比重が高め。とはいえ、帝国の出来事もおざなりではない文量があります。黒幕の陰謀だけでなく、捕虜になったアチュルタニのその後のこととか。
そのため、バランスがとれずに物語の進行はいびつ。個々はおもしろいんですけどね、ふたつの物語がシンクロすることもなく、無理に一冊にしたのが裏目に出た印象でした。
デイヴィッド・ハリスンは実験物理学の非常勤助手。大学院生のヴィクトリア・ゴードンと共に、研究を行っていた。
ふたりは、ちょっと変わった高温超伝導物質の中で起きるホロスピン波励起を求めるために、装置を組み立てた。ところが、まだ実験前段階であるにもかかわらず、装置は異常値を示してしまう。入念にチェックを行っているうちにデイヴィットは、奇異な現象を目の当たりにした。
装置は、物質を自在に消滅させることが可能であるらしい。
デイヴィッドは、理論物理学者の友人ポール・アーンストに相談した。ポールの見解では、デイヴィットが創り出した現象はただの消失ではない。超ひも理論による〈影の世界〉と入替が行われたのだ、と。
この大発見に、デイヴィッドもヴィクトリアも大興奮。数々の実験を行うが、アラン・サクソン教授には秘密厳守を言い渡されてしまう。実はアランは、ふたりが開発した装置で莫大な財産をかせげると目論んでいたのだが……。
作者は、現役の物理学者。科学者たちの生活がこまごまと書かれていきます。けれども、序盤はやや停滞気味。
大発見は公表すべきという立場のデイヴィッドとヴィクトリア。金のことを考えているアラン。アランの取引相手で、大発見を嗅ぎ付けたメガリス社のマーチン・ピアス。
いろんな思惑がありますけれど、実際に物語が動き始めるのは、デイヴィッドとアーンストの子供たちが〈影の世界〉へと行ってしまってから。
タイトルの由来は、超ひも理論によれば、「現在の世界」と「影の世界」でお互いに影響があるのは重力のみ、という見解にあるからだと思われます。テーマは超ひも理論なのですが、残念ながら、超ひも理論がどういうものなのか、本書で理解するのは難しそうです。
約6000年前、人類は高度なテクノロジーを有する何者かによって、地球から連れ去られてしまった。置き去りにされた彼らは辛くも生き延び、やがて、遺伝子操作によって二種類の人種を誕生させる。
サイオンと呼ばれる超感能力者(エンパス)たちと、苦痛への耐性を劇的に高めたアリスト階級人たちだ。
さまざまな紆余曲折を経て、サイオンのなかでも特にローン系と呼ばれる者たちは、今ではスコーリア王圏を支える役目を担っている。
一方のアリスト階級人は、ユーブ協約圏を築きあげた。彼らの快楽は、他人の苦痛を察知すること。彼らは、エンパスの発する痛みに喜びを見いだしている。
スコーリア王圏とユーブ協約圏の対立は必然的だった。そこへ登場したのが、地球に残された人類たち。彼ら地球連合国は、中立の立場で宇宙に進出していた。
スコーリア王の胤ちがいの妹ソースコニー・バルドリアは、ローン系サイオンにしてジャグ戦士。ジャグ戦士たちは神経と機械とを融合させ、あやういところで感情をコントロールしている。
ソースコニーは中立惑星デロスで、ユーブ人の一団と出くわした。ソースコニーには、アリスト階級人に捕らえられ、提供者として貶められた過去がある。ソースコニーは接触を受け動揺するものの、その内のひとりがアリスト階級人とちがう内面を持っていることに気がついてしまう。
彼こそは、ユーブ協約圏の王位継承者ジェイブリオル・コックス2世。アリスト階級人として育てられたが、実際はローン系サイオンだった。ソースコニーは、この大発見を誰にも告げずに母国に戻るが……。
《スコーリア戦史》シリーズの一冊。
続編に『制覇せよ、光輝の海を!』があり。
ソースコニーの独白で展開されていきます。独白しつつ世界やら歴史を解説して、自分のこと家族のこと敵のことを織り込んで、やや慌ただしい印象。
簡単に言ってしまえば、相思相愛にならざるを得ないローン系サイオン同士の恋愛物語。
1987年。
アクシュティナ・サンティス・プリボクはロサンジェルスの片隅で暮らしていた。父は不明。母は他界し、兄は殺された。17歳にしてひとりで生活しているが、親身に面倒をみてくれる仲間は大勢いる。
ある日ティナは仕事の帰り道、奇妙な男と出会った。ワシントンへと行くつもりだったと語る彼、オルソーは、道を見失ったらしい。オルソーの身分は、宇宙軍の戦闘機パイロットらしいのだが、ティナは信用しない。
ティナは、チンピラのナグにつきまとわれており、危ないところをオルソーに助けられた。見張りまでしてくれたオルソーにティナは好意を寄せるが、そのころ事件が起きていた。
オルソーが訪問する予定だったのは、24世紀のアメリカ連邦国。命に関わるトラブルが発生し、自身の脳と相互につながっている戦闘機を上空に待機させ、ひとり降りてきたのだ。戦闘機は隠したつもりだったが、損傷が激しく、地球人に発見されてしまった。
ティナと仲間はオルソーに協力して、戦闘機の奪還を試みるが……。
《スコーリア戦史》シリーズの一冊。
ティナが属する20世紀の地球での出来事が第一部で、時空を越えて、オルソーの属する24世紀での出来事が第二部で語られます。
物語全体が未来のティナの独白になってます。未知のオルソーとその文明のことを語るにはそうせざるを得なかったのでしょうが、出だしで自分の将来を語ってしまうのは難点。危機がおとずれても、けっきょく解決するのだと分かってしまうので、醒めてしまいました。