航本日誌 width=

 
2009年の記録
目録
 
 
 
 
 5/現在地
 
 
 
 
このページの本たち
制覇せよ、光輝の海を!』キャサリン・アサロ
目覚めよ、女王戦士の翼!』キャサリン・アサロ
ノービットの冒険 −ゆきて帰りし物語−』パット・マーフィー
彷徨える艦隊2 −特務戦隊フュリアス−』ジャック・キャンベル
軌道通信』ジョン・バーンズ
 
呪われた村』ジョン・ウインダム
太陽系最後の日』アーサー・C・クラーク
スパイダー・スター』マイク・ブラザートン
失われた遺産』ロバート・A・ハインライン
囚われの女提督』デイヴィッド・ウェーバー

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 
2009年06日12日
キャサリン・アサロ(中原尚哉/訳)
『制覇せよ、光輝の海を!』上下巻
ハヤカワ文庫SF1322〜1323

飛翔せよ、閃光の虚空へ!』続編
 スコーリア王の妹ソースコニー・バルドリアは、ユーブ協約圏の王位継承者ジェイブリオル・コックス2世と駆け落ちした。ふたりの居場所を知っているのは、地球連合国の大統領と案内人だけ。ふたりは同時に死んだように装い、密かに逃走。まだ名も付けられていない惑星での生活をスタートさせた。
 ユーブ協約圏の皇帝ウル・コックスは、ジェイブリオルの死亡を信じ、スコーリア王圏に対して宣戦布告する。ソースコニーが生きていることを知らないスコーリア王クージにとっても、望むところ。しかし、スコーリアが有利なのは共感ウェブの存在だけ。規模ではユーブ協約圏が圧倒している。
 時は流れ、スコーリア王圏の共感ウェブでの優位性は徐々に詰められていた。ついに、王位継承者オルソーが囚われ、クージも死んでしまう。しかし、クージの最後の策略により、ウル・コックスを道連れにすることはできた。
 ユーブ協約圏では皇帝崩御の報を受け、皇后ビカラが策を練っていた。このままでは権力の座から落とされてしまうのは間違いない。ビカラは共感能力者(エンパス)を使い、ジェイブリオルが生きている情報を掴む。
 そのころソースコニーとジェイブリオルは、手つかずの自然に打ち勝ち、家庭を築き上げていた。そこへ、ユーブ協約圏の手がのばされ、ジェイブリオルがさらわれてしまう。
 ソースコニーは奪還を決意。真の目的は告げずに、スコーリア王圏に復帰した。ソースコニー指揮の元、両国はついに本格的に激突するが……。

 同シリーズ『稲妻よ、聖なる星をめざせ!』より時代は前。過去の出来事として語られた歴史が、後追いで語られ直されていく印象でした。
 物語が動くのは、下巻に入ってソースコニーがスコーリア王になってから。上巻では、主役のソースコニーの登場はほんのちょっぴりでした。戦況にも進展なし。
 もったいなかったです。


 
 
 
 
2009年06日13日
キャサリン・アサロ(中原尚哉/訳)
『目覚めよ、女王戦士の翼!』上下巻
ハヤカワ文庫SF1379〜1380

 ケルリックは、スコーリア王圏宇宙軍のジャグ戦士。ジャグ戦士は神経と機械とを融合させた存在だ。
 ケルリックは、単独の偵察任務についているところ、敵に遭遇してしまった。逃げ切ったものの、戦闘機も自身も重傷を負い、もはや帰還は不可能。微かな望みをかけて、最も近い人類の居住惑星に向かった。
 ケルリックが選んだコバ星は、スコーリア王圏が立入禁止に指定している惑星。女尊男卑の世界で、12の坊に分けられており、それぞれを統治するのは坊代。それらすべてをカーン坊の宗主が統べていた。
 戦闘機の墜落を目撃したのは、ダール坊だった。ダール坊代のデーアは知らせを受けると救出隊を組織し、現場へと向かう。ダール坊に居合わせていた宗主の後継者イクスパーも同行した。
 ケルリックはかろうじて生きていたものの、瀕死の重体。デーアは、ケルリックを宇宙港へと運ぼうとする。コバ星には立入禁止令が出されており、宇宙港だけがスコーリア王圏に属しているためだ。
 しかし、宇宙港はまる一日の距離。そこまで連れて行けば助かる見込みはない。デーアはイクスパーに説得され、ケルリックをダール坊へと運んだ。もはや星の世界には帰さず、一生をダール坊で過ごさせるつもりだ。
 ケルリックは徐々に回復し、やがて脱走を計るが……。

《スコーリア戦史》シリーズの一冊。
 コバ星は女尊男卑の世界なので、ケルリックの人格もたいして尊重されません。ただし〈クイス〉のこととなると別。
〈クイス〉は頭脳ゲームで、シミュレーションとしての役割もあります。真理を解き明かすのにも使われます。ケルリックは療養中に〈クイス〉を教えられ、才能を見せるのですけれど、それがコバ星にとんでもない影響を及ぼして、世界が変わっていきます。
 個人的には、男尊女卑だろうと女尊男卑だろうと、そういう世界は願い下げ。少々ムカムカきました。


 
 
 
 
2009年06月14日
パット・マーフィー(浅倉久志/訳)
『ノービットの冒険 −ゆきて帰りし物語−』
ハヤカワ文庫SF1357

 ベイリー・ベルトンはノービット族。
 ノービットたちが暮らしているのは、太陽系の中とはいえ静かな片田舎の小惑星帯。彼らは、痛快な冒険よりも、なじみ深い安楽な生活の方が好き。ベイリーがそうであるように。
 ある日ベイリーが拾ったのは、漂流中のメッセージ・ポット。よいこころがけの持ち主ベイリーは、有名なクローン一族ファール家の紋章を確認し、メッセージを送った。
 それから数年。
 ベイリーがポットのことなどきれいに忘れたころ、ギターナが尋ねてきた。ギターナといえば、今は亡きベイリーの曾祖母ブリータと一緒に冒険をするような仲。ベイリーが関わりあいになりたい人物ではない。
 ところがギターナの計画では、ベイリーを冒険の参加者にいれるつもり。ポットを受け取りに来たファール家のシブ(姉妹)たちも了承し、ベイリーは冒険に行くことになってしまう。
 行き先は、ポットに入っていた星図の彼方。そこに超種族の財宝があるらしいのだが……。

 元ネタは、J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』。ホビット族のビルボが本作では、ノービット族のベイリーとなっています。魔法使いのガンダルフは探検家のギターナ、ドワーフたちはシブたち。
 元ネタは知らなくても大丈夫。ただし、基本的な展開が『ホビットの冒険』と同じなので、SF的にどうアレンジしたか、という視点で楽しめるので、知っておいて損はないです。


 
 
 
 
2009年06月15日
ジャック・キャンベル(月岡小穂/訳)
『彷徨える艦隊2 −特務戦隊フュリアス−』
ハヤカワ文庫SF1712

彷徨える艦隊 −旗艦ドーントレス−』続編
 アライアンス(星系同盟)の艦隊は、シンディック(惑星連合)の本拠地深くで罠にかかってしまった。この窮地を救ったのは、救命ポッドで100年ものあいだ漂っていたジョン・ギアリー大佐だった。ギアリーは、古いが実践的な知識を武器に、艦隊を故郷へつれ戻そうと悪戦苦闘する。
 一行はシュトラー星系に入った。この星系にある居住惑星はふたつだけ。ただの通過点にすぎないはずだったが、アライアンスの捕虜がいる強制収容所が発見された。ギアリーは宙兵隊を派遣し、助け出した彼らを艦隊に分乗させる。
 収容所での最先任士官は、フランチェスコ・ファルコ大佐だった。雄弁家で権力欲の強いファルコは、艦隊の指揮をとろうとする。ギアリーは拒絶するが、ファルコは、反ギアリーの艦長たちと共に、艦隊を離脱してしまった。
 39隻もの船が失われ意気消沈するギアリー。予定を変えることはできず、サンセレ星系へと向かう。故郷からはさらに離れることになるが、シンディック最大の造船所があるのだ。さらに、ハイパーネット・ゲートもあるのだが……。

 前作で、艦隊司令官なんてやりたくないとぼやいていたギアリー。ファルコの登場で、ちょっとちがう気持ちに気がついてしまいます。
 そして、今回もギアリーの計画はだいたい当たり。とはいえ単なる英雄ものではなく、いろいろと葛藤がありました。そのおかげか、嫌味さを感じることなく素直に読めました。


 
 
 
 
2009年06月17日
ジョン・バーンズ(小野田和子/訳)
『軌道通信』ハヤカワ文庫SF1139

 メルポメネー・マレイは13歳。
 〈さまよえるオランダ船〉で生まれ育った。他の船や、地上の暮らしは知らない。
 メルポメネーが書いているのは、地球の子供たちに読ませるためのエッセイ。宇宙の暮らしぶりを綴ることになっているが、メルポメネーは昨年の出来事を書くことにした。
 はじまりは、テオフィラス・ハリソン。
 テオフィラスは地球からの転校生で、頭がよかった。旅行客よりはましだが、身体の使い方は身に付いておらず、クラスで仲間外れにされていた。同情したメルポメネーは、親友ミリアム・バウムと一緒に彼を特訓することに……。
 やがて、ミリアムとテオフィラスが急接近。いじめっ子ランディ・シュワルツとテオフィラスとの対決もあり、クラスの人間関係は劇的な変化を遂げる。それはもっと大きな変化にもつながっていくが……。

 メルポメネーのエッセイという設定なため、少女の独白が延々と続きます。ときどき、すごく幼い文体になったりと、かなり手が込んでます。が、全体的に、書いたというより口述筆記したような印象。
 手が込んでいる分、違和感がありました。


 
 
 
 
2009年06月20日
ジョン・ウインダム(林 克己/訳)
『呪われた村』ハヤカワ文庫SF286

 ミドウィッチ村は、60軒ほどの小住宅と、村役場と、元領主邸と、地元の農場とからなる小さな村。これといった変化のない静かな片田舎だ。
 問題の9月26日は、リチャード・ゲイフォードの誕生日だった。そのため夫妻は、ちょっとしたお祝いも兼ねて、朝から出かけていた。帰ってきたのは翌日になってから。
 ところが、ミドウィッチへの道路が封鎖されていて通れない。見張りの巡査の話では、誰ひとりミドウィッチへ入れないという。
 単純に通行止めにしているのではない。あるラインを越えると、人間も動物も例外なく、意識不明に陥ってしまうのだ。境界は27日の朝に出現したらしい。
 軍隊が調査に当たっていたが、28日の朝、不思議な現象は消え去った。ミドウィッチは平常に戻ったのだ。
 住民たちも次々と目覚めていく。突然の意識の喪失で、いくつかの不幸な事故はあったものの、ミドウィッチはふたたび静かな村へと戻っていった。
 しかし、これで終わりではなかった。
 受胎可能なすべての女性が妊娠していたのだ。既婚・未婚を問わず。村人たちは、困惑しながらも赤児を産み、育てる決心をするが……。

「光る眼」というタイトルで2回、映画化されました。
 ホラーのような扱いをされていますが、SFです。
 リチャードが、補足を交えつつ事件の顛末を物語っていきます。村に住んでいるとはいえ、事件当時は外出していたため、視点はやや外野的。その距離感が絶妙でした。


 
 
 
 
2009年06月22日
アーサー・C・クラーク(中村融/編)
(浅倉久志/小隅黎/酒井昭伸/中村融/深町眞理子/南山宏/訳)
『太陽系最後の日』ハヤカワ文庫SF1713

《ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク1》
 傑作短編集。
 クラークらしく、「終わり」がテーマになった作品が多数。そこはかとなく哀しかったり、希望が見えていたり。
 同じ主題を別のパターンで書いたりもしているので、他の作品を彷彿とさせるものもありました。
 
「太陽系最後の日」(中村融/訳)
 ある恒星が新星化しつつあった。第三惑星に文明が存在しているのに気がついたときには、もはや手遅れ。もっとも近い宙域で調査を行っていたアルヴェロンは、〈基地〉から通信を受け取り、急行する。救助のために使える時間はわずか4時間。アルヴェロンはできるだけのことをしようと星系に入るが……。
 クラークの事実上の処女作にして最初の出世作。
 
「地中の火」(中村融/訳)
 ハンコック教授は、地中の様子を探るソナーを研究していた。装置は改良されていき、驚くべきものを発見するのだが……。
 
「歴史のひとこま」(浅倉久志/訳)
 氷河に追われていた一族は、ついに山の高みへと逃げ込んだ。希望は、山の向こうの南の地。ところが、そちら側も氷河が広がっており……。
 
「コマーレのライオン」(浅倉久志/訳)
 リチャードは、政治家を祖父に、芸術家を父に持つ。自身は科学技術を生涯の仕事として選ぶが、技術を極めていた人類にとって、それは過去の学問。親たちに大反対されてしまう。リチャードは、ロボット工学の天才が作ったという都市コマーレを目指すが……。
 
「かくれんぼ」(小隅黎/訳)
 敵の宇宙巡洋艦に追われている諜報員K15は、火星の衛星フォボスに降りた。味方の巨艦がこちらに向かっていることは分かっている。それまで隠れ通せばいい。フォボスは直径20キロの小さな衛星なのだが、K15には勝算があり……。
 
「破断の限界」(小隅黎/訳)
 貨物宇宙船で事故が発生した。航行中に隕石が衝突し、酸素供給装置がやられてしまったのだ。目的地の金星まで、あと30日。ふたりの乗組員が酸素を吸えるのは20日間だけ。これがひとりなら、生き残ることができるのだが……。
 
「守護天使」(南山宏/訳)
 地球は、〈天帝(オーバーロード)〉たちに支配されていた。〈地球監督官〉カレレンと面会できるのは、国連事務総長のストームグレンただひとり。それも、映像スクリーン越しに。この秘密主義にしびれを切らした地球人グループによって、ストームグレンは誘拐されてしまうが……。
 後に『幼年期の終り』へと発展した作品。
 カレレンの姿に対する説明はちがってました。
 
「時の矢」(酒井昭伸/訳)
 人里離れた発掘現場の近くに、謎の研究所があった。地質学者のバートンとデイヴィスは興味津々。ある日、ファウラー教授のもとに招待状が届く。研究所には高名な物理学者ヘンダースンとバーンズがいるらしいのだが……。
 
「海にいたる道」(深町眞理子/訳)
 ブラントはイラドニーに夢中。それは親友のジョンも同じこと。ブラントはイラドニーに振り向いてもらうため、秘密の計画をたてた。伝説の都市〈麗しのシャスター〉に赴き、価値あるものをもってくるつもりなのだが……。
 
 その他、エッセイ「貴機は着陸降下進路に乗っている——と思う」(中村融/訳)と年譜(牧眞司/編)を収録。


 
 
 
 
2009年07月04日
マイク・ブラザートン(中原尚哉/訳)
『スパイダー・スター』上下巻
ハヤカワ文庫SF1710〜1711

 ポルックス星系の惑星アルゴに人類が植民し始めたのは、約200年前。その200万年前にポルックス星系を故郷としていたのは、アルゴノート族だった。
 アルゴノート族は人類よりもはるかに進んだ文明を築き上げていたが、もはや痕跡しか残していない。多くの遺跡は消滅の理由を語らず、細々とした研究が続けられていた。
 2453年。
 カルトル星系への探査計画の訓練として、技術隊は惑星アルゴの衛星カリュブディスに来ていた。そこで、アルゴノート族の隠された遺跡が発見される。遺棄されてから何万年も経ているはずだが、隊長マニュエル・ラスクの不用意な行動から、恐るべき装置のスイッチが入ってしまった。
 アルゴノート族の惑星破壊兵器が起動したのだ。
 ポルックスが火球を放ち、カリュブディスに命中。〈天撃〉と名付けられたは攻撃は、それだけに留まらなかった。
 罪の意識に苛まれるラスクに新たな指令がくだる。
 アルゴノート族の伝説によれば、惑星破壊兵器は〈スパイダー・スター〉から持ち帰ったもの。およそ17光年の距離にあるが、〈スパイダー・スター〉には惑星破壊兵器を止める手だてが、あるかもしれないのだ。
 ラスクは作戦指揮官としてチームを率いることになった。慎重に人選をし出発に備えるが、出航直前にフランク・クリングストンが参加することになってしまう。
 クリングストンはかつて、異星人と遭遇し、暗黒物質エンジンを入手した英雄。総指揮官という肩書きになるが、ラスクには面白くない。
 わだかまりを残したまま、一行は出発するが……。

 作者のブラザートンは、現役の天文学者だそうです。
 ラスクとクリングストンを主軸に物語は展開していきます。伝説の〈スパイダー・スター〉の正体には唸りました。が、驚異さをたっぷり読ませようという気はないらしく、内省が多め。
 ちょっと物足りなかったです。


 
 
 
 
2009年07月19日
ロバート・A・ハインライン(矢野 徹/田中融二/訳)
『失われた遺産』ハヤカワ文庫SF482

《ハインライン傑作選》1
 傑作選なのですが、傑作ぞろいかと言うと、やや疑問。
 
「深淵」(矢野 徹/訳)
 ジョセフ・ブリッグズは、連邦保安局秘密捜査官。今回の任務は、月世界植民地からある重要なマイクロフィルムを地球に運ぶこと。
 ジョセフは慎重に偽装を繰り返すが、敵方に捕らえられてしまった。相手は、慈善事業家のケイスリー夫人。しかし、そのころにはジョセフは、マイクロフィルムを秘密の場所に送り出していた。その場所を知るのはジョセフのみ。
 身の危険を感じたジョセフは、同じ監房に入れられたボールドウイン博士に、マイクロフィルムの在処を暗号で伝えるが……。
 序盤は、スリルいっぱいのジョセフの大冒険。とてもおもしろいです。が、後半に入ると状況は一変。新人類が云々という話になります。ふたつの話をむりやりくっつけたかのようでした。
 
「時を超えて」(田中融二/訳)
 アーサー・フロスト博士は自宅で、純理形而上学のゼミナールを開いた。参加した学生は5人。フロスト博士は自身の〈時の理論〉を説明し、経験を語った。この世にはさまざまな時間の軌道があり、自由に旅することが可能なのだ。
 学生たちはフロスト博士の提案に耳をかたむけ、全員が実験に参加する。4人の学生たちは異なる世界に旅立ったが、ただひとり、懐疑的なジェンキンスだけが残されてしまった。ジェンキンスは、恋するエステルがなかなか帰ってこないことに不安を募らせるが……。
 実験に参加した学生たちが、行けなかったり、帰ってきたら変貌していたり、帰ってもこなかったり。〈時の相〉の旅という実験は興味深いのですが、別の世界における展開は、やや疑問の残るものでした。
 
「失われた遺産」(矢野 徹/訳)
 ウエストン大学の心理学者ハクスレイは、超心理学の研究をつづけていた。興味の対象は、法学部の学生ヴァルデス。彼には透視能力があるのだ。その能力はさまざまな実験で裏付けられている。ところがヴァルデスは事故に遭い、脳手術を受けることになってしまう。
 ハクスレイの友人で脳外科医のコバーンが執刀し、ヴァルデスは一命を取り留めた。しかし、透視能力はなくなっていた。切除したのは、脳にあって不必要と思われていた部分。
 ハクスレイは学生のジョーンを相手に、特殊な能力を育てる実験を始めるが……。
 ハクスレイと、コバーンと、ジョーンのやりとりが軽快な作品。ただ、軽快すぎるがゆえに、物語を追うのに四苦八苦。軽口がおもしろくないわけではないのですが、肝心な部分を見落としてしまいがちで。もう少し抑えてくれれば、というのが正直なところです。
 
「猿は歌わない」(田中融二/訳)
 マーサは、ペガサスを買うと言う夫と共に、フェニックス育種工場に赴いた。工場では、新しい動物を誕生させ、労働猿の配給を行っている。そして、歳をとった労働猿のひきとりも……。
 マーサは労働猿を見物し、ジェリーと出会った。ジェリーはまだ定年ではないが、目が悪く工場に引き取られていた。労働をできなくなった労働猿の命は、2〜3日。その後、始末され、ドッグ・フードとなる運命が待っている。
 激怒したマーサはジェリーを引き取り、財力にものを言わせてフェニックス育種工場を思いのままに動かそうとするが……。
 マーサが怒るのも理解できないわけではないのですが、いかんせん高飛車すぎ。金にものを言わせてやりたい放題。お金持ちの嫌味なところばかりが目についた作品でした。


 
 
 
 
2009年07月29日
デイヴィッド・ウェーバー(矢口 悟/訳)
『囚われの女提督』上下巻
ハヤカワ文庫SF1586〜1587

紅の勇者オナー・ハリントン》シリーズ第七巻
 マンティコア王国とヘイヴン人民共和国の戦争は長期化していた。開戦当初、マンティコア王国には科学的な優位性があったが、ヘイヴン人民共和国は太陽系同盟から密かに技術供与を受けており、両陣営の差は薄れつつあった。
 マンティコア王国航宙軍のハミッシュ・アレクサンダーは、総司令官として第八艦隊の再編を行っているが準備は遅れるばかり。艦隊に提督として参加するオナー・ハリントンは、準備が整うまでの間、輸送船団の護衛任務を拝命することとなった。
 そのころヘイヴン人民共和国では、軍事長官クラインが解任され、革命後はじめて、軍人の軍事長官が誕生していた。新しい長官は、エスター・マックイーン。マックイーンは早速、軍部の方針転換を計る。
 もはや風前の灯火となっているヘイヴン人民共和国のバーネット基地では、総司令官トーマス・テイスマンが予想を超える援軍を得ていた。テイスマンは、威力偵察により、マンティコアの戦力を分散させる作戦を立案。レスター・トレヴィルを送り出す。
 トレヴィルはアドラー星系を急襲し、圧倒的な勝利を手中に収めた。マンティコア軍は総崩れとなってしまう。そして、その情報が伝わる前にアドラー星系へとやってきたのは、ハリントンの一行だった。
 ハリントンは、星系の様子がおかしいことに気がつくが……。

 タイトルがタイトルなので、最初からこわごわと読んでしまいました。囚われるのは下巻に入ってから。そこまでは、枝葉が延々と連なってます。
 結末は次巻に持ち越し。さすがにまずいと思ったのか、次巻予告なるものがついてました。ところがこれが蛇足で、ない方がよかったかな、と。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■