航本日誌 width=

 
2009年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 7/現在地
 
 
このページの本たち
さいはてのスターウルフ』エドモンド・ハミルトン
スター・ゲイト』アンドレ・ノートン
望郷のスターウルフ』エドモンド・ハミルトン
ドリームバスター』宮部みゆき
ベガーズ・イン・スペイン』ナンシー・クレス
 
チャリオンの影』ロイス・マクマスター・ビジョルド
フィアサム・エンジン』イアン・バンクス
ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス
ゴーレム100』アルフレッド・ベスター
茨文字の魔法』パトリシア・A・マキリップ

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 
2009年09月13日
エドモンド・ハミルトン(野田昌宏/訳)
『さいはてのスターウルフ』ハヤカワ文庫SF29

《スターウルフ》シリーズ第二作(第一作は『さすらいのスターウルフ』)。
 地球の外人部隊は、荒っぽさで銀河中に知れ渡っていた。ジョン・ディルロは、その外人部隊のリーダー。仕事に誇りを持ち実績を積み重ねてきたが寄る年並には勝てず、そろそろ引退を考え始めている。
 ある日、ディルロの元に仕事の口が舞い込んだ。星間貿易商で大成功を収めているジェームズ・アシュトンが弟探しを依頼してきたのだ。
 アシュトンの弟ランドールは、アルベイン星系に出かけたきり消息不明。アルベイン星系は閉鎖星系とも呼ばれるところで、他惑星の人間を拒絶している。惑星内に閉じ込められているのか、殺されてしまったのか、アシュトンの地位を持ってしても行方は分からなかった。
 危険な任務だが、報酬も破格。ディルロは仲間を募り、アルベイン星系の惑星アルクウへと向かう。そこで最初にしたのは、真っ正面からの交渉だった。しかし、アルクウ人たちに拒絶され、攻撃も受けてしまう。
 惑星から脱出する前、外人部隊の新人モーガン・ケインは、助けを求める反射信号を捕らえていた。それを聞いたディルロは、夜陰にまぎれて救出する計画を立てるが……。
 
 物語はアシュトン救出劇に添って展開していきますが、主役はモーガン・ケインです。
 ケインはかつてスターウルフの一員で、その過去を知っているのはディルロだけ。スターウルフとは、高重力惑星で鍛えられた肉体を武器に、残虐な掠奪行為を生業としているヴァルナ人たちのこと。誰からも、憎まれ、恐れられ、見つかり次第処刑されてしまいます。
 ケインがヴァルナから追われた経緯などは、第一作の『さすらいのスターウルフ』で語られてます。今作は、惑星アルクウにあるという“なにか大変なしろもの”にまつわる謎が語られます。
 前作と同じく、あっさり気味。テンポよく進むものの、やや物足りなさも残ってしまうのでした。


 
 
 
 
2009年09月19日
アンドレ・ノートン(小隅 黎/小木曽絢子/訳)
『スター・ゲイト』ハヤカワ文庫SF664

 ゴース人たちの世界を変えたのは、飛来してきた地球人たちだった。
 ゴース人は地球人のことを星貴族(スター・ロード)と呼び、科学技術のいくつかを受け取った。善意からでた贈りものは、惑星ゴースの社会を大きく変えてしまう。
 キンカー・ス・ラッドは、スタイア荘園の世継ぎの姫の子であり、星貴族の子。両親は共に亡い。やがては荘園を継ぐつもりでいたが、星貴族たちが惑星ゴースから去り、立場が大きく変わってしまう。
 混血であるがゆえに旅立たねばならなくなったキンカーは、星貴族の残留者たちと合流した。今では彼らは、狩られる身。急ぎ向かった先には、キンカーが想像した宇宙船ではなく、〈スター・ゲイト〉があった。
〈スター・ゲイト〉は、もうひとつの惑星ゴースの入口。追っ手から逃れ、行き先の選択もままならず、彼らはよく知らぬ惑星ゴースへと入る。
 やがて判明したのは、この惑星ゴースが、星貴族たちによって蹂躙されている事実だった。奴隷とされたゴース人たちを解放すべく、キンカーと仲間たちは行動を起こすが……。

 映画やテレビドラマになった「スターゲイト」とは関係ないです。
 物語の前提条件となっている、星貴族の存在や〈スター・ゲイト〉などの基本設定はSF的ですが、中味はファンタジー。
 キンカーは荘園主の祖父から〈絆の石〉を受け継ぎます。これは星貴族からでたものではなく、惑星ゴースのもの。ゴース人たちの信仰に深く関わっています。それは、パラレルワールドの惑星ゴースでも同じこと。
 異世界を書くうえで、その世界の独自性を押し出すことは重要だと思いますが、この物語の場合、地球人(星貴族)たちによって文明が汚染されているはずなので、やや違和感が残りました。
 キンカーが成長して行く過程や、まわりの人たちや相棒との関係など、おもしろいところはたくさんあるのですけれど。


 
 
 
 
2009年09月24日
エドモンド・ハミルトン(野田昌宏/訳)
『望郷のスターウルフ』ハヤカワ文庫SF46

《スターウルフ》シリーズ第三作(第一作『さすらいのスターウルフ』第二作『さいはてのスターウルフ』)
 アケルナ星系にあった、銀河系最大の秘宝〈歌う太陽〉が盗まれた。盗んだのは、銀河で悪名をとどろかすスターウルフたち。アケルナでは〈歌う太陽〉に、莫大な懸賞金をかけた。
 モーガン・ケインは地球の外人部隊に所属しているが、元はスターウルフの一員。そのことを知るのは、引退したリーダーのジョン・ディルロのみ。
 ケインは仲間たちと、〈歌う太陽〉の奪還に向けて動き出す。スターウルフだったことは秘密だが、スターウルフの母星もある〈アルゴ星系突起〉に詳しいとふれこみ、ディルロも誘った。
 ケインは、スターウルフたちが盗品をさばく惑星ムルウンで、〈歌う太陽〉の行方を掴むが……。

 本作でついに、ケインの回想ではないスターウルフが登場。〈歌う太陽〉の所有者となった偏執狂的な種族と対決します。
 お宝の探索。絶体絶命の危機。スターウルフたちの社会。その他いろいろ。さまざまなことがサラリと書かれてあって、サクサクと読めました。
 このシリーズも、本作で終了。名残惜しいです。


 
 
 
 
2009年09月27日
宮部みゆき
『ドリームバスター』徳間書店

 惑星テーラに統一連邦が誕生して100年。
 人間の意識を身体から切り離す装置が開発された。しかし、運転実験の最中に装置は暴走。大災害を引き起こしてしまう。
 研究所は、周囲に形作られていた町ごと消滅。惑星全土を異常気象と天変地異が襲い、世界の人口の三分の二が死に絶えた。やがて人々は、この大災厄が、自分たちの世界だけに留まらないことを知る。
 研究所のあった地域には大穴が開いていたが、調査の結果、別の位相に存在する惑星地球へと繋がっていたのだ。
 人体実験の被験者たちは、凶悪犯たち。彼らは意識だけの存在となり、地球人の夢の中へと逃走していた。やがて、逃亡者たちには懸賞金がかけられ、ドリームバスターが誕生した。地球人たちの夢に入り込み、その身体を乗っ取ろうと企む彼らを阻止するために……。
 少年シェンも、ドリームバスターの一員。師匠であるマエストロと共に、地球人の夢に潜るが……。

 全七巻になる予定らしいです。
 本書は三部構成になっていて、導入部に当たる第一部は地球人の視点から書かれてます。そのあたりはいいんですが、正直に言ってしまうと、宮部みゆきは異世界を書くのがうまくないな、と。
 大人向けなのか、子供向けなのか、どうもはっきりしないので、読む方も戸惑ってしまいました。


 
 
 
 
2009年10月05日
ナンシー・クレス
(金子司/山岸真/田中一江/宮内もと子/山田順子/訳)
『ベガーズ・イン・スペイン』
ハヤカワ文庫SF1704

 日本オリジナルの中短編集。
 
「ベガーズ・イン・スペイン」(金子 司/訳)
 遺伝子改変技術の発達は、睡眠を必要としない子供たちを産み出していた。まだ実験段階のうちにこの情報を嗅ぎ付けた資産家のカムデンは、眠らない娘を得ようと画策。こうしてリーシャは誕生した。
 無眠人と呼ばれる彼らは、概して頭脳明晰。そのうえ勤勉。数は多くないものの、優秀さゆえ、世間から妬まれてしまう。
 ヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞。
 迫害される新人類もの。読んでいて、ヴォクトの『スラン』や、シラスの『アトムの子ら』など、いろいろな名作が頭を横切りました。
 リーシャには二卵双生児のような関係の、遺伝子改変されていない妹アリスがいます。そこが、先に挙げた作品と違うところ。世間の反応という、やや遠いところのリアクションが、姉妹という近しいところでも繰り広げられます。
 
「眠る犬」(山岸 真/訳)
 父ひとり、子三人のベンソン家に、眠らない犬がやってきた。この違法な存在は、金儲けのために密かに購入したもの。ところが、しつけもままならず、一家は犬に振り回されてしまう。
 次女のキャロル・アンを視点に書いた、もうひとつの「ベガーズ・イン・スペイン」。ほぼ同じ時間の中、共通する登場人物もいます。無眠人は優秀ぞろいですが、これが犬となると?
 
「戦争と芸術」(金子 司/訳)
 地球はテル人と全面戦争中。
 ポーター大尉は、テル人から奪い取った149-デルタに配属され、任務を言い渡される。テル人たちが残した建築物に、人類が盗まれたさまざまな芸術品が収蔵されていた。その調査と、価値があるものを搬出せよと、命じられたのだ。調査を進めるうちに大尉は、ある重要な現象に気がつくが……。
 ポーター大尉の母は、149-デルタの戦いの英雄。ポーターが不肖の息子であることが、ピリリと効いてました。
 
「密告者」(田中一江/訳)
 ユーリは殺人者。贖罪のため、政府機関の密告者を務めていた。ふたたび現実者に戻り、殺してしまった妹アーノが死から解放されることを願っている。
 ユーリの今度の任務は、終身刑を宣告された地球人の治療師を探ること。場所は、凶悪な犯罪者ばかりを収監しているオーリット監獄。ユーリは、果敢に潜入するが……。
 ネビュラ賞受賞。
 プロバビリティ三部作(『プロバビリティ・ムーン』『プロバビリティ・サン』『プロバビリティ・スペース』)の原型。この短編が、長篇版の一部になったのかと思っていたら、いくつかの設定が共通するものの、まったく別の作品でした。
 
「想い出に祈りを」(宮本もと子/訳)
 記憶を消すことで寿命を延ばすことが一般化した時代。ミセス・キニアンは、記憶の消去を拒否していた。心配した息子のアーロンに説得されるが……。
 
「ケイシーの帝国」(山田順子/訳)
 銀河帝国を失った男の物語。
 ケイシーは小さなカレッジで、大学院生になった。選択したのは、創作研究。小説を書くこと。系統としては、エドガー・バロウズ。
 ケイシーは自作を、論文審査委員会のスタイン博士にこき下ろされ、大学をやめてしまう。働きながら書き続けるが……。
 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「ビームしておくれ、ふるさとへ」(収録『故郷から10000光年』)と同じ匂いを感じました。
 
「ダンシング・オン・エア」(田中一江/訳)
 遺伝子改良技術は、バレエの世界にも波及していた。
 ヨーロッパのバレエ界では、能力強化されたダンサーたちが第一線で華麗な演義を披露。一方、ニューヨーク・シティ・バレエ団では、強化されてない本物のバレエを見せることにこだわっていた。
 そんな最中、強化ダンサー連続殺人事件が発生。バレリーナを目指すデボラの母スーザンは、記事を書くために事件を追うことになるが……。
90年代SF傑作選』にも収録されていたのですが、そちらで読んだときには、記憶に残りませんでした。クレスの作品として読むと、少しちがった角度から見られるようです。


 
 
 
 
2009年10月11日
ロイス・マクマスター・ビジョルド
(鍛冶靖子/訳)
『チャリオンの影』上下巻
創元推理文庫

 ルーペ・ディ・カザリルは、かつてチャリオンの荘侯だった。廷臣として仕え、隊長として兵を率い、城代を務め、特使として駆けた。それが今では無一文。
 戦争で捕虜となり、海賊に売られ、ガレー船の奴隷として辛酸を舐めさせられた。たまたま海賊船がイブラの艦隊に捕まらなかったら、今ごろ死んでいただろう。
 解放されたカザリルは、怪我の後遺症に苦しみつつヴァレンダの町へと向かった。藩侯一家のために小姓として働いていた時期があり、ヴァレンダが唯一、故郷のように思われたからだ。カザリルはバオシア藩太后に謁見し、下働きでおいてもらえないか打診する。
 そのころヴァレンダには、バオシア藩太后の娘イスタ国太后と、ふたりの孫たち、イセーレとテイデスが滞在していた。カザリルに与えられた職は、国姫イセーレの教育係兼家令。イセーレは利発なものの活発すぎて、女教師たちはお手上げ状態だったのだ。
 恐縮するカザリルだったものの、藩太后に懇願されては断れない。はじめての経験にとまどいながらも、おだやかな日々が流れていった。
 やがてイセーレとテイデスに、カルデゴスの宮廷に出仕する命が下される。ふたりの異母兄オリコ国主には子ができず、ついに諦めたらしい。
 カザリルはイセーレに付き従ってカルデゴスへと向かうが、宮廷ではジロナル宰相とその弟ドンドが権力を握っていた。イセーレとテイデスは、欲深い貴族たちに取り囲まれてしまう。本来ならば盾になってくれるはずの国主オリコは、イセーレとドンドの婚約を発表。しかも、式は三日後だと言う。
 イセーレの嘆き悲しむさまにカザリルは、ドンド殺害を決意するが……。

五神教》シリーズ三部作の一作目(二作目は『影の棲む城』)。
 人々は四季を司る4柱の神々(姫神、母神、御子神、父神)と、庶子神とを崇めています。それらの神々は実在していますが、人間界に直接手出しはできないので、適当な人間を介在役として、ごくまれに奇跡を行います。
 信仰は人々の生活と密接に関わっていて、お祭りや、祈りや、儀式が繰り広げられます。
 再読なので世界理解においては余裕があったのですが、その分、前回は気にならなかったことも気になってしまいました。なにも知らないままで読んだ方が、楽しめる作品なのかもしれません。


 
 
 
 
2009年10月12日
イアン・バンクス(増田まもる/訳)
『フィアサム・エンジン』早川書房

 はるかな未来。
 高度なテクノロジーを築き上げた人々が地球を離れて数千年。地球に残った人々は国王の統治のもと、科学技術の残滓を利用して生き延びていた。
 そんな地球に〈暗黒星雲〉が近づいてくる。〈暗黒星雲〉は太陽光を遮り、地球を死の世界に変えてしまうだろう。
 国王と枢密院は、この危機をのりこえる方策を検討。酸素発生プラントを建設するが、効果は未知数。〈礼拝堂〉になにか残されていそうなのだが、技術者クランとは戦争状態。彼らは〈礼拝堂〉に立てこもっているのだ。
 危機はそれだけではなかった。
 一般市民はクリプト世界と常時接続しており、オフラインなのは、やんごとない身分の人たちだけ。そのクリプト内部で、混乱が起こっていたのだ。
 人類は生き延びられるのか?

 英国SF作家協会賞受賞作。
 突如として現れた少女アシュラ。クリプト内部で生まれた人格で、記憶を持っていません。
〈滑る石の平原〉では不可思議な現象が観測されました。調査に赴いたのは、主任科学者ホルティス・ガドフィウム三世。
 セッシーン伯爵は暗殺されては生き返り、ついに復活の上限値に達してしまいます。クリプト内だけに存在することとなった伯爵は、昔の自分にいざなわれて旅立ちます。
 語り手の少年バスキュールの友だちは、しゃべるアリのエルゲイツ。エルゲイツはヒゲワシにさらわれてしまいます。バスキュールはクリプトに入りエルゲイツを捜しますが……。

 4人の物語が細切れに語られていきます。とにかく分かりづらく、どうにかこうにか読み終えましたが、全貌は理解できないまま。いろんなアイデアが詰まっていて細部はおもしろいのですけれど、全体となると……。
 残念ながら、読みこなせませんでした。


 
 
 
 
2009年10月13日
イアン・M・バンクス(浅倉久志/訳)
『ゲーム・プレイヤー』角川文庫

〈カルチャー〉は、高度に文明が発達した、ゆるやかな銀河連邦。あらゆるシステムはAIによって管理され、維持されている。労働は必要なく、人々は自由に気侭に日々を送っていた。
 ジェルノー・モラット・グルゲーは〈カルチャー〉きってのゲーム・プレイヤー。名声を欲しいままにしているが、ゲームに対する、かつてのような喜びはない。憂鬱にしているグルゲーに、親友のドローン、チャムリス・アモーク=ネイは、〈コンタクト〉との接触を薦める。
〈コンタクト〉には最高のマインドがあり、最大の情報がある。彼らは策謀家ぞろいだが、グルゲーが生気を取り戻すような名案を思いつくのではないか、と。
 グルゲーは了承し、接触は速やかに行われた。
 グルゲーが〈コンタクト〉に提示されたのは、アザド帝国への遠征だった。
 アザド帝国は古めかしい体制の国で、〈コンタクト〉は対処に苦慮し、73年の間、その存在を公にしてこなかった。帝国では、国名にもなっているゲーム《アザド》が政治上でも重要な役割を担っており、通常の国家のようには予測できなかったのだ。
 グルゲーは《アザド》を学び、偉大なゲームに参加することを決意するが……。

 初読は、8年前。
 そのときには、そこそこのおもしさを感じていたのですが、改めて読んでみると、それ以上に楽しめました。ちょうど、読むべき時期と一致したのでしょうね。幸運でした。


 
 
 
 
2009年10月15日
アルフレッド・ベスター(渡辺佐智江/訳)
『ゴーレム100図書刊行会

 北アメリカの〈北東回廊〉の中心部に、〈ガフ(でまかせ)〉はあった。あらゆる犯罪、暴力、悪徳がうずまく地域。食うか食われるかのジャングルは生気にあふれ、あらゆる階層の人々をひきつけていた。
 リジャイナ率いる特権階級の蜜蜂レディたち8人は、暇つぶしに、悪魔崇拝の儀式を執り行う。しかし、さまざまな手法を取り入れるものの、成果は上がらない。
 一方、香水製造会社のCCCでは、ブレイズ・シマ博士のスランプにやきもきしていた。CCCが業界でダントツの売り上げを誇るのも、シマの天才的な嗅覚あってこそ。シマが、売れ筋商品のすべてを創り出したのだ。
 CCCは、不調の原因を探るべく人をやとった。その結果、シマには空白の4時間があることが判明。本人すら覚えていない、謎の時間だ。
 さらに調べるべく、CCCは精神工学者のグレッチェン・ナンと接触。グレッチェン・ナンはシマの行動を調べ上げるが、驚きの結果が待ち受けていた。みずからをミスター・ウィッシュと名乗ったシマは、残酷でグロテスクな連続猟奇殺人事件の現場に足跡を残していたのだ。

 筋としては、グレッチェン・ナンとシマ博士のコンビが〈ゴーレム100〉と名づけた謎の存在を追いかける話。そこに、〈ガフ〉の警察隊長アディーダ・インドゥニや、蜜蜂レディたちが絡んできます。
 譜面やら図やら絵やら、いろいろと織り込まれた実験的な作品。ときどき、物語がこのまま破綻するんじゃないかと悲観的になりましたが、最終的にきちんとまとまって、やはりベスターだなぁ、と。
 好みは分かれそうですが……。


 
 
 
 
2009年10月16日
パトリシア・A・マキリップ(原島文世/訳)
『茨文字の魔法』創元推理文庫

 ネペンテスは、王立図書館に拾われた孤児だった。司書になるべく育てられ、16歳にして腕のいい翻訳者となっていた。
 ある日ネペンテスは、魔術師見習いのボーンから一冊の本を預かる。それは誰も読むことができず、魔法の品と思った交易商が持ち込んだ謎の書物だった。魔術師たちも読むことができず、図書館にゆだねられることとなったのだ。
 見慣れない文字は、茨のようだった。
 ネペンテスは茨文字に惹き付けられ、司書仲間に嘘をついてしまう。魔術師たちが本を解読したから、預かる必要がなくなった、と。
 ネペンテスは隠れ部屋で、茨文字を解読していく。書かれてあったのは、かつて既知の世界すべてを征服したアクシスとケイン、王と魔術師の物語だった。

 でだしは、ネペンテス。
 そのまま茨文字の謎へと進むかと思いきや、アクシスとケインの物語と、レイン王国の急変も語られます。
 レイン王国は十二邦がひとつになったもの。統べていた国王の急死で、テッサラが王位を継いだばかり。14歳のテッサラは心の準備ができていないばかりか、政治や儀式に興味が持てません。魔術師のヴィヴェイが必死にサポートするのですが……。

 いろんな物語が絡まり、結末へとまとまっていきます。が、そこにいたるまでが、やや緩やか。その穏やかな流れを楽しめるか、それとも進展の遅さにイライラしてしまうか、読み手によって評価が分かれそうです。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■