銀の竜たちは、人間たちから隠れるようにして、竜の谷でひっそりと暮らしていた。そこへ、ネズミのローザが息せき切って飛び込んでくる。
人間たちが、竜の谷を水に沈めようとしているらしい。
長老シーフェルバルトは、仲間たちに〈空の果て〉への帰還を提案した。
〈空の果て〉があるのは、天にとどくほど高い山々の間。シーフェルバルトの生まれ故郷だが、道筋は忘れさられ、すでに伝説と化している。
仲間たちは〈空の果て〉に半信半疑。そんな中、年若いルングだけは探索の旅に出る決心をする。隠れ住むのにうんざりしていたからだ。
ルングの旅の道連れとなったのは、友だちのコボルト、シュヴェーフェルフェル。そして、途中の街で知り合ったみなしごの少年、ベンだった。
一行は、シュヴェーフェルフェルが地図の読み方を誤ったために、危険地帯に降りてしまう。錬金術師に作られた、黄金の竜ネッセルブラントの目と鼻の先に……。
竜を狩るために生まれたネッセルブラントは、ルングの目的を知り、ひそかにスパイを放つ。〈空の果て〉に隠れている竜たちを一網打尽にするために……。
〈空の果て〉は見つかるのか?
児童書です。
〈空の果て〉の探索行に、ネッセルブラントとの闘いがからんできます。ネッセルブラントのスパイ、ホムンクルスの“飛び脚”が、とてもいい味を出してました。
ルングは最初から行動力があり、シュヴェーフェルフェルは終始一貫して口が悪いです。ベンは、お人好しなぐらい、やさしさで溢れてます。成長の余地がほとんどない一行の中にあって、スパイの“飛び脚”だけは別。ネッセルブラントの残忍さをよく知っているだけに、ベンのやさしさに触れて、心の葛藤に苦しめられます。
一応、主役はルングなのですが、月が出ていない間は行動できない制約があるため、存在感は薄め。ベンを中心にすえて物語を構成した方が、いい結果になったのではないかと思いました。
『戦いの子』続編
19歳のライアン・アザーコンは、深宇宙戦闘輸送艦〈マケドニア〉のカイロ・アザーコン艦長を父に、オーストロ広報担当上級役員ソングリアン・ラウを母に持つ。そして、祖父はアースハブ政府の最高指導者のひとり、アシュラフィ提督だ。
ライアンは常に命を狙われており、海兵隊伍長のシドが四六時中身辺警護をしている。恋人とは疎遠になり、親友もなく、ひそかに麻薬に溺れる日々を送っていた。
ライアンは大晦日のパーティに出かけるが、そこで発砲事件が発生。ライアンも容疑者として拘束されてしまう。
事件の少し前、父アザーコン艦長が独断で、長らく戦争状態にあった異星種族ストリヴィイルク=ナとの和平交渉を始めていた。そして、ストリヴィイルク=ナに同調するシンパサイザーにより海賊の首魁ファルコンが殺され、そのシンパサイザーは〈マケドニア〉に乗船しているという。
ライアンを狙ったのは、政府の関係者か、海賊か?
拘束を解かれたライアンだったが、外出することはできない。そこへ父アザーコン艦長が帰還し、ライアンは無理矢理、マケドニア〉に乗船されられてしまうが……。
時期的には、前作『戦いの子』の終盤から始まる形。前作で主役だったジョスも登場します。
ライアンが、とにかく子供。自身や家族に関する報道が正しくないと憤慨する一方で、ストリヴィイルク=ナに関する報道は頭から信じ込んでいたりします。
ストリヴィイルク=ナの実像については『戦いの子』で語られました。そのためか、彼らについての言及はあまりありません。ライアンの偏見にみちた主張が延々と繰り返されるだけ。
読むのが億劫でした。
『戦いの子』『艦長の子』続編。
ユーリ・ミハイロヴィッチ・テリソフは、衛星プリマスで生まれた。家族と幸せな日々を送っていたが、異星種族ストリヴィイルク=ナの攻撃を受け、難民となってしまう。
アースハブ政府が難民のために用意したのは、テラフォーミング半ばで放置されていた惑星グレース・コロニーだった。
それから17年。海賊となっていたユーリは捕らえられ、終身刑を言い渡されていた。
ある日、刑務所で服役中のユーリは、情報職員アンドレアス・ルカクスの接触を受ける。彼らは、海賊のスパイとしてユーリを使うつもりらしい。
ユーリには、海賊たちの首魁ファルコンに後継者として育てられた自負がある。取引には応じたものの、唯々諾々と命令されるつもりはない。
ルカクスの手引きで刑務所を脱獄したユーリは、自身の船〈クビライ・カン〉に連絡をとるが……。
海賊となっている22歳のユーリと、難民から海賊へとなっていく少年ユーリの物語が交互に語られます。時期的には、22歳時点が前作『艦長の子』の直後あたり。
残念ながら、過去の話が丹念すぎて、肝心の部分に余裕がなくなってしまった印象。時代背景として、アースハブ(人類)、ストリヴィイルク=ナ、海賊、の三角関係があるのですが、そちらは置き去りにされたまま。
ちょっと物足りなかったです。
2010年01月16日
エミリー・ロッダ(さくま ゆみこ/訳)
『ローワンと魔法の地図』あすなろ書房
《リンの谷のローワン》第一作
おそろしい敵との戦を終え、新たな故郷を捜していた人々がたどりついたのは、〈禁じられた山〉のふもとに広がるリンの谷だった。
人々が見いだしたのは、静かで、おだやかで、緑ゆたかで、平和な風景。そして、谷に住んでいた、大きくおとなしい動物をバクシャーと名づけ、共に生きることとした。勇敢な民としての誇りを胸に……。
それから歳月が流れ、ある日、リンの谷に流れる川の水が減り始める。日を追うごとに減っていく流れに、村人たちは対策を話し合った。その中には、バクシャーの番をしているローワンの姿も。
ローワンは、内気で臆病。だが、バクシャーのことを誰よりも心配していた。村人には井戸の水があるが、バクシャーにとっては塩分が強すぎ、井戸の水が飲めないのだ。
村人たちは、水源である〈禁じられた山〉に登ることを決める。山の頂きには、竜が住んでいるという。ローワンは震え上がるが、誰もローワンには期待していない。
ところが、村人たちが助言を求めた〈賢い女〉のシバによって、ローワンも山に入ることになってしまう。
シバは、謎めいた言葉とともに、ローワンに棒切れを投げつけた。その棒切れこそ、硬く巻き付けた山の地図。ローワンが持っているときにしか見ることができず、書き写すこともできない魔法の地図だった。
ローワンは、恐怖に震えながらも、6人の仲間と共に山を登るが……。
無駄をこそげ落とした作品で、ただただ、巧いなぁ、と。なんてことのない情報が、伏線だったり、ひとつにつながったり。
児童書ゆえあっさりはしてますが、ローワンの劣等生コンプレックスなど重い部分もあり、あっさり感に救われました。
児童書にしておくのがもったいないくらい。
サイレンス・リーは、珍しい恒星船女性パイロット。
かつて祖父のボデュア・リーは、執政官おかかえの実業家だった。そのつてで、女性の権利を認めていないルサナディール世界にあって、資格をとることができたのだ。
羽振りのよかったボデュアも、ルサナディールがヘゲモニーに征服されると一転。失脚し、借金をかかえた末に他界した。サイレンスは、唯一の相続人として遺言検認法定に挑む。
ところが、後見人となっている叔父のオットー・レイジィルが姿を見せない。相続財産を狙う商人、チャンピュイの差し金らしい。
窮地に追い込まれたサイレンスを助けたのは、恒星船〈サン=トレッダー〉のオーナー・キャプテン、デニス・バルサザーだった。
サイレンスは、デニスにパイロットとして雇われる。さらに、偽装結婚を持ちかけられるが、デニスの取引相手は海賊結社〈神の怒り〉。デニスは、自由で裕福なデロスの市民権を持っており、サイレンスにとっても有利なのだが……。
三部作の第一部。
SFということになっていますが、ファンタジィに片足突っ込んでます。
魔術師(マギ)が敬われ、少数の彼らが絶対的な権力を握っています。宇宙船がとべるのは、天上物質ハルモニウムのおかげ。音楽をかなでながら、音響竜骨をきらめかせて上昇していきます。
特異な設定はおもしろいのですが、世界を理解しきれたかというと、そういうわけでもなく……。
ダニーは、ゴント島のさびしい村に、鍛冶屋の息子として生まれた。ダニーが魔法の世界に入ったのは、7歳のとき。まじない師の伯母に才能を見いだされたのだ。
ダニーが12歳のとき、ゴント島はカルカド人の侵略を受けた。彼らはとどまるところを知らず、島の奥地にあった村にまで押し寄せてくる。ダニーは、霧を利用して敵を欺く戦略を思いつき、ついに敵は退けられた。
ダニーの活躍はたちまち評判となり、名高い魔法使いオジオンが尋ねてきた。ダニーはオジオンによって、真の名を〈ゲド〉と名づけられ、本物の魔法使いとなるべく旅立つ。
しかし、ゲドにはおごりの心があった。
ゲドはオジオンに付いて学んでいたが、あるとき、ローク島にある学院に入ることを薦められる。オジオンと分かれがたいゲドだったが、強い欲求もあった。魔術を学び、事を成し、栄誉を自分のものとしたい、と。
学院に入ったゲドは術を磨くが、慢心から、〈影〉を呼び出してしまう。
ゲド戦記シリーズの一冊。
ゲドは力をみなぎらせているものの、思慮に欠けたところがあります。失敗に学ばず、ついに〈影〉を解き放ってしまいます。
ときどき、読んでいてイライラしてしまいました。第三者だから見えることなのでしょうが、なぜゲドには分からないのか、と。一度の失敗で、なぜ学べなかったのか、と。
トーキング・マンは時の終わりからきた魔法使いだった。
時のいっぽうの終わりにエレンノーという塔があり、反対側にエドミニダインの街がある。トーキング・マンはエレンノーにいたとき、夢を見た。恋人であり、妹であり、分身であるジーンの夢を。自分を夢見させるために。
ところがジーンは、非在を夢見てしまう。このままでは世界が危うい。トーキング・マンはジーンから不在をむしり取り、瓶に隠して逃亡した。
16歳のクリスタルは、トーキング・マンの娘。トーキング・マンは自動車整備工場を運営し、クリスタルはタバコを栽培していた。
あるとき、不可思議なことが起こり、トーキング・マンが姿を消してしまう。クリスタルは、偶然知り合った少年ウィリアムズと共に、トーキング・マンを追いかけて旅立つが……。
クライスラーで世界の果てまで行く話。
舞台は、アメリカ東部。旅するうちに世界が変容していきます。理屈などよりも、その場その場を楽しむ物語なのでしょうね、きっと。
《ドラゴンライダー》シリーズの第一巻。
15歳のエラゴンは、伯父ギャロウ、従兄ローランと共に村はずれで暮らしていた。一帯は、アラゲイジア帝国のガルバトリックス王によって治められていたが、スパイン山脈は別。王の軍隊も征服することはできず、皆から忌み嫌われている。
優秀な狩人であるエラゴンは、スパインなど恐れてはいない。しかし、今回は運に見放され、得られたのは肉ではなく、不思議で美しい石だった。
その石こそ、帝国と反乱軍が探し求めるドラゴンの卵。
そんなこととは思いつきもしないエラゴン。なにしろ、ドラゴンとドラゴンライダーが活躍したのは昔の話。ライダー族は、かつては同族だったガルバトリックスによって滅ぼされてしまったのだから。
やがてドラゴンは卵から孵り、エラゴンは驚くものの、ギャロウにも告げず面倒を見始める。そこへ、帝国の密使、黒マントの者たちがやってきた。彼らは、ラーザック。王の手飼いのドラゴンハンターだ。
エラゴンとドラゴンは見つからなかったものの、家は破壊され、ギャロウが殺されてしまう。エラゴンは、語り部ブロムと共に、復讐の旅に出るが……。
パオリーニが本作品を書き始めたのが15歳で、最初に自費出版したのが17歳。それから口コミで広まって……という逸話のある物語です。
当初の話運びは、シロウトのそれ。ぎこちなさがある一方、行間は空虚。細かいところが雑。説明された設定には裏付けが伴わず、説得力に欠けるところがあります。
物語が進んでいくと、いろんなことが明らかになってきて、おもしろさが追いついてくるようでした。
『彷徨える艦隊 −旗艦ドーントレス−』『彷徨える艦隊2 −特務戦隊フュリアス−』『彷徨える艦隊3 −巡航戦艦カレイジャス−』『彷徨える艦隊4 −巡航戦艦ヴァリアント−』続編。
アライアンス(星系同盟)艦隊は、シンディック(惑星連合)の罠にかかり、帰還するため放浪の旅を続けていた。率いるのは、救命ポッドで100年ものあいだ漂っていたジョン・ギアリー大佐。
武器も燃料電池も底をつきつつある中、いよいよアライアンス宙域が近づいてくる。ギアリーは迷った末、ヘラダオ星系に向かう決断を下す。ヘラダオ星系の捕虜収容所に、アライアンスの捕虜がいるかも知れないのだ。ただ、敵が待ち構えている可能性もある。
ギアリーは策を練るが……。
ギアリーが悩んで、行き先が決まって、策を練って、シンディックと戦って……というパターンはほぼいつも通り。今回はさらに、捕虜の奪還をしたり、ギアリーに反抗する何者かをなんとかしたり、が、くっついてきます。
12歳のランドルはドーン城に預けられ、小姓として働いていた。従兄ウォルターと共に剣術の稽古を受け、将来は騎士になるだろう。
ある日、城に旅人がやってきた。
旅人は、魔法使いのマードック。ランドルは、マードックの披露した魔法に心を奪われてしまう。さらに、なにかを暗示しているかのような夢を見たことで、ランドルは決心を固めた。身分を捨て、魔法使いになるのだ。
ランドルは旅立ったマードックを追いかけ、教えを請うた。そんなランドルが連れて行かれたのは、ターンズバーグの町だった。ターンズバーグには魔法の学校があり、魔法の基礎が学べるのだ。
ランドルは奨学生として入学を許可される。喜ぶランドルだったが、なかなか思う通りに魔法が使えない。補足授業が増え、寮のルームメイトには嫌味を言われ、落ちこぼれてしまうランドル。懸命に勉強するが……。
ランドルは落ちこぼれているものの、心のよりどころがいてくれて、読んでるこちらも救われました。先輩のニックと、弾き語りをしている少女リース。そして、ときどき学校に帰ってくるマードック。
ランドルはあやうく落第しかかりますが、励ましもあり、魔法使いラーグに認められ、個人レッスンを受けることになります。この天才肌のラーグの指導によって、ランドルは上達していきますが、ラーグにはある思惑が……。
このラーグの企みが中盤で発覚して、物語を大きく動かします。読み応えがありました。