スモーキィ・バーナブルは、先祖伝来の個性に乏しい性格を受け継いでいた。親友のジョージ・マウスはなんとかして治そうとするものの、成果はあがらない。
ある日スモーキィは、ジョージの親戚デイリィ・アリスと出会い、一目惚れしてしまう。しかも、デイリィ・アリスも一目で彼に恋していた。その瞬間、スモーキィの個性の乏しさは吹き飛び、ふたりは結婚することとなった。
デイリィ・アリスの家は、大都会の彼方、森のはずれにある。〈エッジウッド〉の屋敷は、迷子になるほどの広大複雑さ。此岸と彼岸とをつなぎとめ、一族は妖精の存在を信じている。
スモーキィは物語の一部となるが……。
世界幻想文学大賞受賞作。
デイリィ・アリスの曾祖母から、子供たちの世代まで、五世代にまたがる長大な物語。不思議な存在との契約や、私生児のエピソード、最後の戦い、さまざまな出来事が積み重なり、結末へと導かれていきます。
読みにくさはないのですが、読む人を選ぶような作品でした。
ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィの四兄弟は空襲を避けるため、片田舎にある学者先生のお屋敷に疎開することになった。
広大な屋敷にはいくつもの部屋があり、子供たちは大喜び。中でも、末っ子ルーシィの目に留まったのは、からっぽの部屋に置かれた大きな衣装だんすだった。
ルーシィはただひとり、たんすのドアを開け、中に入ってみる。たくさんの外套が吊るされ、気がつけばルーシィは、雪が降りしきる森の中にいた。
ルーシィは、街灯の下でフォーンのタムナスと出会う。タムナスによると、ここは、ナルニア国であるらしい。
ナルニアは、偉大なライオンであるアスランによってつくられた自由の国。しかし、白い魔女が支配者となって以降、長い長い冬が続き、クリスマスもやってこないありさま。
タムナスは白い魔女に、人間の子供が現れたらひきわたすようにと、言いつけられてた。ナルニアには、4人の人間の王が立つ予言があるのだ。人間の子供たちがケア・パラベルの王座に就くとき、白い魔女の最期、冬の終焉となるという。
ルーシィは、良心を取り戻したタムナスに見送られて帰宅するが……。
ディズニー映画の原作。
児童文学なので当たり前ですが、子供向けだな、と。不信やら裏切りやら友情やら、いろいろ詰まってはいますが、もっと小さいうちに読むべきでした。大人には、ちと物足りない……。
『天の十二分の五』続編
サイレンス・リーは、女性の権利を認めていないルサナディール世界にあって珍しい、恒星船女性パイロット。魔術師(マギ)のイザンバードに見いだされ、初の女性魔術師見習いとなっていた。
サイレンスは〈三学(トリヴィウム)〉の試験を受け、なんとか合格。〈技〉の実践師として認められる。
しかし、サイレンスは覇国(ヘゲモニー)のお尋ね者。ついに魔術師たちの本拠地ソリテュードにも、追っ手がやってきた。サイレンスは、イザンバードと、パートナーのデニス、チェイズ・マーゴと共に脱出する。
一行の最終目的地は、失われた地球。その航路はローズ・ワールドによって閉鎖されている。サイレンスはソリテュードの図書館で、初期の航法ポートラン・システムを見いだしていた。ポートランによる地球航路の本があれば、地球へとたどり着くことが可能かもしれない。
一行は、イナリメへと向かう。イナリメ総督のアデベン・キッベは、古代の稀覯本コレクターなのだ。ポートランの本を持っている可能性が高く、イザンバードの知人でもある。
そのころアデベンには、クーデターを興す計画があった。心配なのは、覇王の女宮に捕らえられている娘アイリのこと。女宮には女しか入ることができないうえに、脱出の手助けをできるのは魔術師のみ。
サイレンスは、アイリ救出を持ちかけられるが……。
三部作の第二部。
物語の大半は、女宮のこと。さまざまな防御があり、陰謀があり、風習があり。サイレンスが貴族の令嬢を装いつつ、対策を練っていきます。
『天の十二分の五』『孤独なる静寂』続編。
サイレンス・リーは、恒星船パイロットにして女魔術師。覇王の交替劇を成功させたものの、公的には女性の権利が認められておらず、表に出ることはできない。
サイレンスと魔術師イザンバードの悲願は、失われた地球へと行くこと。新覇王に協力したのも、太古の航法ポートランの本を手に入れるためだった。
一方、新覇王には別に思惑があった。第一皇子アザリオンを後継者にしたいが、第一妃との子ではないため、すんなりとはいかない。そこで、地球発見を利用しようと考えたのだ。
サイレンスは契約書にサインするが、パートナーであるデニスには、新覇王の援助が面白くない。
一行は地球に向けて旅立つものの、間もなく密航者が発見される。皇女アイリとその夫マーシニク大佐だった。
アイリは、第一妃の子でありながら、女であるが故に立場が危うい。そこで、地球航路の発見に立ち会い、確固たる地位を築き上げるもくろみなのだが……。
三部作の完結編。
ついに地球が発見されますが、その姿は予想通りのもの。魔術師たちの〈技〉に慣れ親しんだサイレンスたちには驚きの世界なのでしょうがね。もうちょっと、驚きたかったような……。
『魔法使いハウルと火の悪魔』続編
アブダラは、ラシュプート国のバザールで小さな店を経営している絨毯商人。夢見がちで、自分は王子なのだと夢想していた。赤児のころに誘拐され、砂漠に逃げ出し、善良な絨毯商人に拾われたのだと。
ある日アブダラの元に、背の高い薄汚い男が、薄汚れた絨毯を売りにやってきた。アブダラは難色を示すが、男が言うには、それは魔法の絨毯らしい。実際に浮かぶところを目の当たりにしたアブダラは、駆引きの末、金210枚で絨毯を買い取る。
アブダラは泥棒に備え、絨毯の上で眠ることにした。その夜、アブダラが気がつけば、あの夢想した庭に。しかも、深窓の姫君のおまけつき。
姫君はその日まで、父以外の男に会ったことがなかった。というのも、生まれた時の予言で、最初に出会った男と結婚する運命にあるのだという。
一旦帰宅したアブダラは金をつくり、姫君との駆け落ちに心弾ませる。ところが姫君は、アブダラの目の前で巨大な魔人にさらわれてしまった。行方を追おうとするアブダラだったが、国王に捕らえられてしまう。
姫君は、国王の娘だったのだ。
誘拐の疑いで牢屋に繋がれたアブダラは、なんとか脱出し、姫君を追いかけるが……。
途中から舞台はインガリーの国へと移り、前作『魔法使いハウルと火の悪魔』で主役だったソフィーと合流します。当然、ハウルや〈火の悪魔〉も出てきます。
その後の話が読みたい人にはいいでしょうが、やや楽屋落ち的。アブダラの存在感が薄れてしまって、中途半端な印象が残りました。
地球外知性を探るサイクロプス計画は、ついに宇宙からの信号を捕らえた。
有望と考えられていたタウ・ケチの方角で、2.2ギガヘルツのかなり強い信号だ。タウ・ケチは、地球から11.8光年しか離れていない。研究者たちは色めき立つが、間もなく、信号は地球人からと判明する。
12年前、宇宙船〈アクティス〉がブラックホールに飲み込まれた。その乗組員からの音声信号だったのだ。
数学教育委員会に勤めているマイケル・フォードは、〈アクティス〉からの通信に興味津々。ブラックホールから数光年先に飛ぶ理論を即興で組み立てる。
その理論を元に、タウ・ケチへの遠征が企てられるが……。
いろんな思惑が絡み合っているものの、いかんせん主役不在というか、人間ドラマがいまいち。マイケルの理論に焦点が当たっているかといえば、そういうわけでもなく。
〈アクティス〉のクルーと最後に接触し、今は左遷されているローラ・マッコード大佐の返り咲きの野望が、物語を動かしているようではありました。
《レッドウォール伝説》第一巻。
ネズミたちのレッドウォール修道院は、周囲の住人たちから尊敬を集めていた。それもこれも、ほかの生きものを傷つけず、病気の者を癒し、傷ついたものに手当てをして、不幸な者や生活に困った者に救いの手をさしのべてきたから。
そんな修道院に、どぶネズミの〈鞭のクルーニー〉がやってきた。恐ろしい伝説の存在と思われていた〈鞭のクルーニー〉は、修道院を乗っ取り、そのまわりの森も野原も、すべてを支配下に置く腹づもり。
〈鞭のクルーニー〉に服従を迫られたモーティマー修道院長は、戦うことを選んだ。平和を尊ぶとはいえ、自分たちを守るためとあらば、戦うこともいとわない。
修道士たちの心のよりどころは、伝説の勇者ネズミのマーティン。その姿は今でも、大会堂にかけられたタペストリーで見ることができる。ところが、墓の場所は誰も知らない。マーティンがふるった伝説の剣の行方も。
修道士見習いのマサイアスは、皆を助けるため、こっそり修道院を抜け出るが……。
登場するのは、ネズミやすずめ、アナグマなどの小動物たち。擬人化されていて、野菜を育てたり、魚を釣ったりしてます。彼らはまるきり人間のようなので、ときどき、距離や大きさが人間の感覚と違っていて、混乱してしまいました。
主役はマサイアス。マーティンに憧れていますが、英雄になろうという気持ちはなく、自分のなすべきことをしようとがんばります。
予言の詩や、伝説の英雄、剣の探索行など、目新しさはないのでずか、きれいにまとまって安心して読めました。
《セーフホールド戦史》第一巻
人類は、異星種族ヶババに滅ぼされつつあった。
彼らは交渉に応じようとせず、植民惑星が次々と消されていく。どうやら、ある一定の科学水準に達すると、見つかってしまうらしい。
追いつめられた人類は、最後の作戦〈オペレーション・アーク〉で賭けに出る。極秘裏に開いた植民惑星を中世文明程度の社会にとどめ、ヶババの目を欺く計画だ。時間をかせぎ、いつの日にかヶババを凌駕するために……。
指導者として選ばれたエリック・ラングホーンには別の思惑があった。ラングホーンは、人類が決して進化しないように絶対的な宗教社会を造り上げ、自らを大天使ラングホーンとして植民世界に君臨したのだ。
こうして新世界〈セーフホールド〉が誕生した。
一方、正しい知識を末裔たちに伝えるのが必然と考えたグループは、密かにPICA(全人格統合型サイバネティック・アバター)を用意していた。PICAのテクノロジーを利用すれば、不死身の忠告者として存在することが可能となる。
ラングホーンから隠されていたPICAは、神紀890年、ついに行動を起こす。マーリン・アスラウェルを名乗り、チャリス王国の王子セェレブの前に現れたのだ。そのとき王子は、刺客に襲われ、絶体絶命の危機に立たされていた。
教会の支配するセーフホールドにあって、辺境の貿易大国チャリスは、発展の可能性のある地域。マーリンはセェレブを救い、側近としての地位を手に入れる。聖人のものとされる能力を身につけているというふれこみで。
マーリンの助言で、チャリスは数々の新機軸を打ち出すが……。
ヶババのことはさておき、今作では、チャリス王国と教会の対立が軸。
中世的な宗教社会に、高度な科学技術をものにした人物が乗り込んでくるあたり、ウェーバーの『反逆者の月3 −皇子と皇女−』に似ているかな、と。ただ、セーフホールドの方がより複雑で、科学に対する制約もあります。教会内部にもいろいろと対立がありますし、数ある国同士でもチャリスに対する感情には温度差があります。
シリーズ開幕ということで、地理だの社会だの覚えねばならないことが多く、掴むまではかなり大変でしたが、分かってしまえば、エンターテイメントらしく楽しめました。
宇宙戦争ものを読みたい人には肩すかしでしょうが……。
《リンの谷のローワン》第三作目。
リンの谷に、海沿いのマリスから使者がやってきた。
マリスには〈水晶の司〉がいるのだが、その水晶にかげりが現れたというのだ。
マリスの民は、3つの氏族に分かれていた。アンブレー族、フィスク族、パンデリス族。彼らはねたみ合っていたが、強い力を持つ指導者が現れたとき、ひとつにまとまった。
その指導者こそ〈水晶の司〉。
司に選ばれた民は、偉大な力が宿る水晶を受け継ぐ。水晶にかげりが現れ、己の命の限界を知り、次の司に使命を引き渡すその日まで。
司は選任役によって選ばれるが、代々、選任役を受け継いできたのは、リンの谷に暮らすローワンの家系だった。ローワンは、母ジラーと共にマリスへと旅立つ。
水晶の力が弱まっている今、3氏族は険悪な状態にあり、選任役にも危険がつきまとう。ジラーが毒に倒れ、ローワンが司を選ぶことになるが……。
ローワンは毒消しの材料を求めて、3人の候補者と共に、島へと渡ります。島は、候補者を見極める地であると同時に、毒消しの材料もあるところ。ヒントとなるのは、偉大な水晶が教えてくれた詩。
ジラーに毒を盛ったのは誰なのか?
疑心暗鬼に陥るローワン。謎を解いていきますが……。
とても暗い物語でした。
《バーティミアス》三部作、第二部(第一部『サマルカンドの秘宝』)
大英帝国を支配しているのは、魔術師たち。偉大なるグラッドストーンによって礎が築かれ、今では揺るぎないものとなっている。
魔術師ジョン・マンドレイクことナサニエルは、弱冠14歳の国家保安庁補佐官。《レジスタンス団》の事件を任されている。この正体不明の急進派グループは、このところ過激な活動が目につくようになってきていた。
そんな最中、ピン魔術用品店が何者かに襲われる事件が発生。ピンは不在で無事だったものの、店は瓦礫の山と化した。国家保安庁のタロー長官は《レジスタンス団》の犯行と断定して、ナサニエルに捜査を押し付けてしまう。
成果をあげられず窮地に立たされたナサニエルは、ついに妖霊バーティミアスを呼び出した。
渋々ながらもナサニエルのために働くこととなったバーティミアスは、犯行現場にゴーレムを見いだす。しかし、ゴーレムを操る技はグラッドストーンの時代に失われているはず。
ナサニエルは情報を求めて、プラハへと飛ぶが……。
一方《レジスタンス団》の一員キティは、最近の《レジスタンス団》のありように疑問を感じ始めていた。そんな矢先、協力者からの情報で、グラッドストーンの墓への侵入計画が持ち上がる。墓には、すばらしい埋葬品の数々が眠っているらしいのだが……。
今回から、キティの視点も加わっての展開になりました。キティの過去が語られるため、物語の進行が滞っていると感じてしまう箇所も。その過去が、ちょっとした伏線にもなっているのですが。
ナサニエルのエリート意識は健在。出世しようと、右往左往します。
ゴーレムを操るために必要な〈ゴーレムの眼〉が、前作『サマルカンドの秘宝』での悪者・魔術師ラブレースのコレクションの中にあったり、共通して暗躍する人物がいたり、つながりを感じさせる作品でした。