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2010年の記録
目録
 
 
 
 
 
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このページの本たち
大誘拐』天藤 真
ラークライト 伝説の宇宙海賊』フィリップ・リーヴ
フラッシュフォワード』ロバート・J・ソウヤー
アバラット(1)』クライヴ・バーカー
いまひとたびの生』ロバート・シルヴァーバーグ
 
前世再生機』キース・ローマー
多元宇宙SOS』キース・ローマー
突撃! かぶと虫部隊』キース・ローマー
優しい侵略者』キース・ローマー
多元宇宙の帝国』キース・ローマー

 
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2010年05月09日
天藤 真『大誘拐』創元推理文庫

 三度目の刑務所生活で、スリ師戸並健次は思案に暮れた。しのぎ稼業から足を洗い社会復帰を果たすには元手が要る、そのためには——早い話が誘拐、身代金しかない。雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間に、準備万端調えて現地入り。片や標的に定められた柳川家の当主、お供を連れて持山を歩く。…時は満ちて、絶好の誘拐日和到来。三人組と柳川としの熱い日々が始まる! 第32回日本推理作家協会賞長篇賞受賞作。
(引用:「BOOK」データベース)

 誘拐されるのは、御歳82歳の柳川家当主とし。健次たちは苦労の末としを誘拐しますが、当初の計画はつぎつぎと狂っていきます。
 隠れ家は使えず、代わりに身を寄せたのは、かつて柳川家でメイドをしていた中村くらの家。くらは、人里離れた山家に独り住まい。としの、誘拐ごっこをしているという説明を鵜呑みにして、おもしろがります。
 当初は顔を隠していた誘拐犯たちも、徐々に自然体に……。くらの畑仕事を手伝ったりもします。
 そして、もっとも予定外だったのが、身代金のこと。健次は5000万円のつもりでしたが、としの柳川家当主のプライドから、100億円になってしまいます。
 かくして、誘拐犯と被害者は、身代金を獲得するべく結託します。そうとは知らない和歌山県警本部長の井狩大五郎は、大恩人のとしを救出するべく、奮闘しまくりますが……。

 舞台が和歌山ということで、ほとんどの登場人物たちのセリフは関西弁。それがまた、いい雰囲気で。ユーモアたっぷりに語られる誘拐劇と相まって、なにやらなごやかな雰囲気で展開していきます。
 とはいえ、やはり犯罪もの。緊迫した場面もあります。
 週刊文春のミステリーベスト10「20世紀国内部門」第一位というのも納得。何度読んでも楽しめます。


 
 
 
 
2010年05月16日
フィリップ・リーヴ(松山美保/訳)
ラークライト 伝説の宇宙海賊』理論社

 事件が起きたのはいつもと変わらない日の朝だった。月のはずれにポツンと浮かぶぼくたちの家“ラークライト”には、地球からお客さんが来る予定だった。ウェブスターという宇宙生物の研究者だ。だけどドアをあけた瞬間から、ぼくと姉ちゃんは、世界を救うための命がけの冒険に巻きこまれていったんだ…。大陽系をかけめぐる、少年と海賊たちの奇想天外な冒険アドベンチャー。
(引用:「BOOK」データベース)

 舞台は1851年。錬金術により宇宙航行が可能となり、英国は宇宙にも領土を広げています。
 主人公は、宇宙住居〈ラークライト〉に暮らす12歳のアーサー。姉のマートルと、父で宇宙生物の研究者エドワードと一緒です。母アミーリアは、3年程前、地球に行く途中に行方知れずとなってしまっています。
 ある日〈ラークライト〉を襲ったのは、巨大グモの群れでした。姉弟は救命ボートで脱出し、月の未開地域に不時着します。世間知らずゆえ、ポッターモス(蛾)のエサにされそうになってしまいますが、そんなふたりを助けてくれたのは、宇宙海賊ジャック・ハボックでした。
 ジャックは、世間一般に流布された情報とは違い、15歳の少年。哀しい過去を背負っています。姉弟は、ジャックら海賊一味と行動を共にすることになりますが……。
 クモたちの目的とは?
 なぜ〈ラークライト〉が襲われたのか?

 児童文学です。
 異星人やら英国スパイやら、脇も多彩。あっさりはしてますが、数々の冒険が繰り広げられ、なにげなく披露されたエピソードが伏線だったり、読み応えがありました。


 
 
 
 
2010年05月17日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
フラッシュフォワード』ハヤカワ文庫SF1342

 全世界の人びとが自分の未来をかいま見たら、なにが起こるのか? 2009年、ヨーロッパ素粒子研究所の科学者ロイドとテオは、ヒッグス粒子を発見すべく大規模な実験をおこなった。ところが、実験は失敗におわり、そのうえ、数十億の人びとの意識が数分間だけ21年後の未来に飛んでしまった! 人びとは、自分が見た未来をもとに行動を起こすが、はたして未来は変更可能なのか…ソウヤーが時間テーマに大胆に挑戦する問題作。
(引用:「BOOK」データベース)

 ロイドは、恋人のミチコとは別の女性と結婚している未来を見ます。そのため、ミチコとの結婚をためらってしまいます。
 一方テオは、何者かに殺されていました。テオは、未来は変更可能だと信じて行動しますが……。

 主人公はロイド、ということになるのかと思いますが、テオも同程度の扱いを得てます。テオは、自分が殺されるとあって必死。
 なぜ、どこで、いかようにして、殺されることになるのか?
 殺人を防ぐことはできるのか?
 ふたりを軸にしたため、やや、物語が分散してしまった印象。ソウヤーだったら、もっとおもしろく書けたのではないかと思ってしまいました。


 
 
 
 
2010年06月20日
クライヴ・バーカー(池 央耿/訳)
『アバラット (1)』ソニー・マガジンズ

 アバラット−母なる大洋イザベラ海とそこに浮かぶ25の島々の世界。亡霊たちのひそめきが響きわたる廃墟、陽光に満ちた楽園、9年にいちど卵から人間の子を孵えす鳥の棲む島、海賊たちの根城、歓楽の不夜城、そして、残忍な王が支配する真夜中の島、謎に満ちた25時の島…。異形のものどもがうごめき、昼と夜がせめぎあう。アバラットでは、すべてのことが起こりうる。どこか、まだあなたが知らないところに、“時”が“場所”となる世界がある。未知なる旅の扉は、いま、ここに開かれた−アバラットへようこそ。
(引用:「BOOK」データベース)

 四部作の第一部。ホラー作家が書いた児童書。絵もすべてご本人だそうで、文章と密接に結びついています。
 本書は、読みながら挿絵を見ることが前提になってます。絵を見ながら文章を読むという技を忘れている人間には、少々疲れる読書でした。


 
 
 
 
2010年06月24日
ロバート・シルヴァーバーグ(佐藤高子/訳)
『いまひとたびの生』ハヤカワ文庫SF254

 とどまることを知らぬ科学の発達は、ついに驚くべき奇跡を現実化した。人間の人格=魂を完全に記録し、それを他の人間の脳の内部に蘇らせる技術が完成されたのだ! その結果、残された魂をもとに、死者は再び第2、第3の人生を生きることが可能となり、また自分の脳に移植した魂の全能力全知識を活用できることから、寄生される人間も宿主となることには積極的だったのだが……。仏教的輪廻が、文字通りこの世に現出した遥かな未来世界を背景に、才筆シルヴァーバーグが真に不可思議な冒険へと読者を誘い、しかも生と死の前で苦悩する人間の姿を鮮かに浮彫りにした快心作!
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

 物語の発端は、一代で財を築き上げたジョン・ローディティス。先日亡くなった、財界の大物ポール・カフマンのパーソナ(魂の記録)を狙っています。
 ローディティスの目論みを、なんとしてでも阻止したいのは、ポール・カフマンの甥で後継者のマーク・カフマン。自身もポールを手に入れたいのですが、血族法に阻まれています。
 ローディティスは部下のチャールズ・ノーイエスを、カフマン家のパーティに送り込みます。実は、ノーイエスが持つパーソナのクラヴチェンコは、マークの愛人エレナ・ヴォルテッラの元恋人。
 エレナは、強い男が大好き。ノーイエスを足がかりに、ローディティスに接近しようと画策しますが……。
 一方、マークの娘ライサは、はじめてのパーソナ移植に臨みます。選んだのは、24歳で事故死したタンディ・カッシング。タンディは、自分が殺されたのではないかと、ライサに訴えます。ライサは調査を開始しますが……。

 誰が主役か分からないほどに入り乱れて、物語は結末へとなだれ込みます。中心にあるのは、
 ポール・カフマンのパーソナをどうするか?
 ということ。ライサが調べるタンディ殺害疑惑も、ポール・カフマンへとつながります。
 登場人物は多彩ですが、それぞれに個性があって、混乱することなくすいすいと読めてしまいます。


 
 
 
 
2010年06月25日
キース・ローマー(岡部宏之/訳)
『前世再生機』ハヤカワ文庫SF26

 決して破けず傷もつかず、しかも同一人の筆跡で過去何世紀にも日付のさかのぼる奇妙な日記——今は落ちぶれた元秘密情報部員で元私立探偵のレジョンが、フォスターと名のる老億万長者から見せられた、その一冊の手帳がすべての発端だった。フォスターに執拗につきまとう火の玉に似た無数の宇宙生物の攻撃を逃れ、億万長者の失われた記憶の謎を探りだすべく、英国に今も遺るストーンヘンジを訪れた二人は、なんとその地下に巨大な宇宙船コントロール・ルームを発見する! 鬼才ローマー描く奇想天外、痛快無比の現代スペース・オペラ!
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

 前半は、フォスターの記憶が戻るまで。
 フォスターの正体は、さる進んだ銀河文明から飛来した異星人。彼らはときどき若返るのですが、記憶は失われてしまいます。そのため、あらかじめ記憶を保管しておいて、若返った脳に戻す作業が必要になります。
 フォスターの場合、記憶を戻す作業ができなかったために、記憶喪失者として地球を彷徨うはめになっていたわけです。レジョンは、フォスターの故郷に誘われますが、地球にとどまります。
 後半は、それから3年後の物語。
 レジョンは、フォスターの置き土産のおかげで大金持ちになっています。ところが、それらがあまりに進んだ技術だったため、自国や敵国の軍から追われる身になってしまいます。レジョンは宇宙船でフォスターの故郷へと向かいますが……。
 おそらく、本題はここから。レジョンに、次から次へと災難が降り掛かります。
 フォスターは無事に故郷についたのか?
 フォスターの記憶が失われたわけとは?
 決して諦めないレジョンが、大活躍します。読んでいて楽しかったです。


 
 
 
 
2010年06月26日
キース・ローマー(矢野 徹/訳)
『多元宇宙SOS』ハヤカワ文庫SF33

 ブライオン・ベイヤードが現在住んでいるゼロゼロ世界とは、この地球とほんの少し違う世界、無数の平行宇宙の中心に位置し、MC転移機を用いて各次元を統治する、〈帝国〉の世界である——ある夜、帝国惰報局の中を歩き回る火のように燃えた奇怪な人影を発見した彼は、その後を追い意識を失う……。目覚めた彼を待ち受けていたものは、人類討伐をもくろむ異次元のゴリラ達の侵略によってすべての生命が消え失せた、変わり果てた都市の姿だった。彼は敵の次元転移機を奪い、ただ一人未知の時空へと出発した。愛する美しい平和な世界を、醜く残酷な死の手から再びとりもどすために!
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

《多元宇宙シリーズ》第二巻。(第一巻『多元宇宙の帝国』)
多元宇宙の帝国』の続編ですが、こちらが先に翻訳されました。そのため先に読んでしまったのですが、説明なく突然出てくる言葉もあって、少し戸惑いました。
 ベイヤードの冒険は楽しめるのですが、ちょっともったいないことをしてしまったな、と。


 
 
 
 
2010年06月27日
キース・ローマー(岡部宏之/訳)
『突撃! かぶと虫部隊』ハヤカワ文庫SF180

 百種以上の雑多なかぶと虫生物が住んでいるクォップ星では、それまでの平和を破って不穏な空気が流れはじめた。警備役にもち上げられたヴォイオン族がわがもの顔に街をのし歩いては横暴を働くようになったのだ。そんなかれらと手を組もうとする地球大使館に反感を抱いたのがレティーフ。彼は地球人に似た竹馬族に変装すると、かぶと虫部隊の結成を呼びかけた。今まで力を合わせたことのないかれらが、レティーフの采配の元に一致団結、自由と平和のために立ちあがったのだ! 才筆ローマーが軽快なストーリーテリングで展開するコミカル・アクション長篇。
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

 レティーフは、地球大使館の二等書記官兼領事。武器の密輸を発見し、まんまとすり替えに成功します。レティーフはヴォイオン族に貨物の返還を要求されますが、応じません。そのため、地球大使館は襲われてしまいます。
 なんとか逃げだせたレティーフは、竹馬族に変装します。そして、大使館が襲われる直前に不時着した地球の宇宙船を探そうとします。というのも、船は故障していて、降りたのが未開の地域。すぐさま助けが必要だと思われたのですが……。

 かぶと虫生物というより、機械生命体でした。かぶと虫(ビートル)と車(フォルクスワーゲン社のビートル)をかけているのかもしれません。
 レティーフは行動の人で、地球船探索の過程で、反乱軍を指揮することになってしまいます。それまでクォップ星の住民たちは民族ごとにバラバラだったのですが、徐々に意識が変わっていきます。
 ロングスプーン大使と、領事であるレティーフが対称的に書かれてます。人間的な差異なのか、大使と領事による役割のちがいによるものなのか……。
 最後にレティーフのことが少し分かって、なるほど、と納得しました。


 
 
 
 
2010年06月29日
キース・ローマー(風見 潤/訳)
『優しい侵略者』ハヤカワ文庫SF187

 アメリカは突如、一瞬にして、一滴の血も流すことなく占領された。モニターと名乗る黄色い服の連中がいきなり街にあらわれたかと思う間もなく、すでにそのときには全米がモニターの支配下にあったのだ。はたしてこのモニターとは何者? ソ連軍か、はたまた未知の宇宙より飛来した宇宙人か? 一切は不明のまま、サービス満点にして押しつけがましい占領政策は続けられていく。そして善良にして勇敢なるアメリカ市民ブロンデルは、みずからこの国家の非常時に立ちあがった! ユーモアSFの第一人者ローマーが、侵略テーマSFの逆手をとって放つ会心作!
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

 ブロンデルは、おしつけられることに我慢がならないタイプ。反抗をつづけますが、ついにモニターに捕らえられてしまいます。
 モニターのジェテラックス総督は、そんなブロンデルを貴重がりますが……。

 ブロンデルの反骨精神が理解できないと、ちょっと楽しめないかもしれない作品。侵略ものとして異色だとは思いますが……。


 
 
 
 
2010年07月02日
キース・ローマー(矢野 徹/訳)
『多元宇宙の帝国』ハヤカワ文庫SF293

 ストックホルムの路上で、突如拉致されたブライオン・ベイヤードは、次元を越えて、無数の平行宇宙の中心に位置する〈帝国〉へと連れさられた。MC転移機を用いて各次元を統治し、無数とも見える〈帝国〉も、実は暗い島国・2の無謀な侵略に悩んでいた。そして、〈帝国〉の上層部がベイヤードに見せた暗い島国・2の独裁者の写真は、ベイヤードに瓜ふたつだった! 脅し混じりで説得されたベイヤードは、異次元世界の独裁者になるべく、おくり出されたが——屈指のエンターテインメント作家ローマーが、アメリカSF界にはなばなしくデビューした、処女長篇。
(以上、早川書房による内容紹介文より転載)

《多元宇宙シリーズ》第一巻。(第二巻『多元宇宙SOS』)
 わけも分からないまま拉致されてしまった、ベイヤード。厚遇はされますが、もう故郷に戻ることはできません。〈帝国〉で、暗い島国(BI)・2の襲撃をくぐり抜け、決闘に勝ち、任務に志願することを決めます。
 実は、BI・2の独裁者については、詳しいことが分かっていません。そんな状況下、ベイヤードは独裁者の官邸に降り立ちますが……。

 もう、波瀾万丈。
 BI・2に赴くのは物語の半ばで、それまでにいろいろなことが起こりますが、行ってからもいろいろなことが起こります。読んでいて飽きさせないです。

 
 

 
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