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2010年の記録
目録
 
 
 
 
 
 
 
 8/現在地
 
 
このページの本たち
ハンターズ・ラン』マーティン、ドゾワ&エイブラハム
龍のすむ家』クリス・ダレーシー
不思議のひと触れ』シオドア・スタージョン
時間旅行者は緑の海に漂う』パトリック・オリアリー
エイリアン・チャイルド』パメラ・サージェント
 
新任少尉、出撃!』マイク・シェパード
ラモックス』ロバート・A・ハインライン
天空のリング』ポール・メリコ
破局のシンメトリー』ポール・プロイス
ゾーイの物語』ジョン・スコルジー

 
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2010年09月05日
ジョージ・R・R・マーティン
ガードナー・ドゾワ
ダニエル・エイブラハム(酒井昭伸/訳)
『ハンターズ・ラン』ハヤカワ文庫SF1761

 辺境の植民星サン・パウロで、探鉱師ラモンは、酒のうえの喧嘩でエウロパ大使を殺してしまった。大陸北部の人跡未踏の山間に逃げこんだものの、ラモンは謎の異種属と遭遇し、つかまってしまう。しかも、異種属のもとから脱走した人間を捕らえる手先になれと命令された。異種属の一体、マネックに“つなぎひも” でつながれ、猟犬の役をはたすことになったラモンの運命は…? 人気作家三人による、スリリングな冒険SF。
(引用:「BOOK」データベース)

 ラモン・エスペホが目覚めた時、暗い海の底をただよい、息をしていなかった。ラモンの記憶は頼りなく、ひとつずつ思い出す作業がつづけられた。
 ラモンはバー〈王様亭〉で、エウロパ大使を刺殺してしまう。店主はラモンをかばい口を閉ざしてくれるが、折しも異星種族エニェの宇宙船団がやってくるところ。総督は激怒し、警察は血眼になって犯人を捜しているという。
 ラモンは町を出て、北部の未知の地域へと向かった。身を隠すためと、金を稼ぐために。ところが偶然から、まだ知られてない異星種族の隠れ家を見つけ、襲われてしまったのだ。
 目覚めたラモンは、ひったてられ、仕事を与えられる。ある人間が、彼らのもとを脱走した。その人間の行動を推察し、捜し出し、消し去る手伝いをするのが、ラモンの存在意義なのだと。
 ラモンは、脱走者とは自分を追ってきた警察官ではないかと考えていた。彼が町にたどり着き、援軍をよこしてくれることを期待し、時間かせぎをするが……。

 当初ラモンは、自分がラモン・エスペホであること以外、なにも分かりませんでした。記憶は徐々に回復していきます。その過程で、ラモンの生い立ちなどが明らかにされていきますが、同時に、思い出していくことの意味も明らかになります。
 なぜ記憶喪失になっていたのか?
 なぜ、マネックたち異星種族は隠れているのか?
 当初は憎しみしかなかったマネックとの関係や、追うものと追われるものの駆引き。単なる背景に思われたエニェの秘密。いろいろなものが変化していきます。
 3人が共著した賜物か、物語の転換点が随所にあり、飽きさせませんでした。


 
 
 
 
2010年09月13日
クリス・ダレーシー(三辺律子/訳)
『龍のすむ家』竹書房

 下宿人募集——ただし、子どもとネコと龍が好きな方。そんな奇妙なはり紙を見て、デービットが行った先は、まさに“龍だらけ”だった。家じゅうに女主人リズの作った陶器の龍が置かれ、2階には“龍のほら穴”と名づけられた謎の部屋があった。リズはそこで龍を作っているというが、奇妙なことにその部屋には窯がない。いったいどうやって粘土を焼いているのか…。ひっこし祝いに、リズはデービットに「特別な龍」を作ってくれた。それは片手にノート持って、鉛筆をかじっているユニークな龍だった。「一生大事にすること、けして泣かせたりしないこと」そう約束させられたデービットは彼をガズークスと名づけた。やがて、ふしぎなことが起きはじめる。デービットが心の中にガズークスの姿を思い浮かべたとたん、ガズークスが持っていた鉛筆で文字を書きはじめたのだ! デービットはもうすぐ誕生日を迎えるリズのひとり娘ルーシーのために、ガズークスと一緒に物語を書くことにした。だが、物語に書いた出来事がどんどん現実になりはじめて…。はたして、ふたりの物語はどんな結末を迎えるのか? リズとルーシーは何者なのか? そしてこの家の龍たちは、もしかして…? ファンタジー王国イギリスからやってきたすてきなすてきな物語。
(引用:「BOOK」データベース)

 そろそろ大学の授業が始まろうという時期に、下宿先が決まらず、デービット・レインは焦っていました。藁をもすがる思いで、一風変わった但し書きのついているペニーケトル家へ下見に行きます。家主のエリザベス(リズ)とルーシー母娘は、なにかを隠しているようです。
 とにかく住むところが必要なデービットは下宿を決めますが、野リスにご執心なルーシーに振り回されてしまいます。
 一方、隣人のヘンリー・ベーコンは、野リスを憎んでいます。庭の芝生に悪さをされるのが我慢ならず、ついに罠をしかけますが……

 龍の物語というより、野リスをめぐる顛末記でした。
 龍たちは置物の姿をしていますが、単なる置物ではありません。デービットは徐々に、その謎の核心にせまっていきます。
 が、そもそもの出発点である、ペニーケトル家が下宿人を募集した理由が分かりません。秘密が公になってしまう危険を冒してまで下宿人を家に入れた理由はなんだったのか? とても気になりました。


 
 
 
 
2010年09月19日
シオドア・スタージョン(大森 望/編)
(大森 望/白石 朗/訳)
『不思議のひと触れ』河出文庫

 神話的な輝きを放つ、“アメリカ文学史上最高の短篇作家”シオドア・スタージョン。その魔術的ともキャビアの味とも評される名短篇をここに集成。どこにでもいる平凡な人間に、不思議のひと触れが加わると? ——表題作をはじめ、デビュー作他、全十篇。
(引用:「BOOK」データベース)

「高額保険」(大森 望/訳)
 貨物係だったアルは、借金に苦しんでいた。そんな最中、評価額30,000ドルの小さな荷を見つけ、ある計画を思いつくが……。
 スタージョンのデビュー作。とても短い物語なのですが、スリルと仕掛けと、しっかり入ってました。

「もうひとりのシーリア」(大森 望/訳)
 スリムには、人の家を調査する癖があった。知ることで安心感が得られるのだ。生活パターンを調べ上げ、部屋に侵入し、徹底的に見てまわる。すべて元通りにしているため、住人に気がつかれることはなかった。
 スリムは、上の階にシーリア・サットンが越して来たときにも、同じようにした。ところがシーリアの部屋ときたら……。
 空き部屋のようなところで暮らすシーリアの謎を、スリムが解こうとします。焦点が当たっているのは、あくまでスリム。そのため、物足りなく思う方もいるかもしれません。

「影よ、影よ、影の国」(白石 朗/訳)
 ボビーは、継母のグウェン母さんに部屋に閉じ込められてしまった。おもちゃをすべてとりあげられ、影で遊ぶが……。
 ボビーの視点で書かれているため、グウェンが本当に意地悪そうでした。おもちゃなしで閉じ込められるのは、窓ガラスを割ったお仕置き。ところが、子どもは道具(おもちゃ)がなくても遊ぶことができるんですよね。不自由ながらも生き生きしているボビーと、ボビーへの怒りに凝り固まったグウェンが対照的でした。

「裏庭の神様」(大森 望/訳)
 ケネスは、ついつい嘘をついてしまう性分。妻にも愛想を尽かされ始めており、ケネスは自分の世界に閉じこもって憂さを晴らすばかり。目下のところケネスが取り組んでいるのは、裏庭。蓮池を作るつもりなのだが、謎の岩を掘り出してしまい……。
 ケネスが掘り出したのは、神様。神様は、ケネスにある力を授けます。それ以降、ケネスの言ったことはすべて本当のことになります。夫婦仲も改善されますが、それだけでは終わりません。

「不思議のひと触れ」(大森 望/訳)
 ジョンは、人魚との約束で、夜の海に泳いでいった。ところが、待ち合わせ場所にいたのは、人魚ではなく人間の女性ジェイン。彼女は彼女で、別の人魚と待ち合わせをしていたらしいのだが……。
 幻想的な物語。好みが分かれそうです。

「ぶわん・ばっ!」(大森 望/訳)
 一流バンドでタイコを叩くにはどうしたらいいか? ジャズ・ドラマーは質問に答え、過去の出来事を語るが……。
 ジャズならではの展開。もしかすると、ジャズに興味のない方は感じが掴みにくいかもしれません。逆に、ジャズをよく聴いているなら、深く頷けるのではないでしょうか。

「タンディの物語」(大森 望/訳)
 5歳のタンディには、他人をいらいらむしゃくしゃさせる天賦の才能があった。あるときタンディは、薄汚れた人形のブラウニーのために家を造り始める。家は徐々に改良されていき……。

「閉所愛好症」(大森 望/訳)
 クリスは、下宿を営む実家で内に籠りがちの日々を過ごしていた。そこへ、宇宙士官候補生の弟ビリーが帰ってくる。折しもその日は、新しい下宿人がやってくる日。現れたのは、絶世の美女ガーダ・スタインだった。
 弟のビリーは、なんでもできる好青年。クリスは内に籠るタイプで、弟に太刀打ちできません。そんなクリスにガーダは、ある仮定の話を聞かせます。
 展開は読めてしまいます。その他の部分で楽しめます。

「雷(いかずち)と薔薇」(白石 朗/訳)
 アメリカは、各国から攻撃を浴び壊滅状態。軍事基地でかろうじて生き延びたピートは、生き残った仲間たちが、未来のない状況に精神を病み、自殺していく様を目の当たりにしていた。そこへ、スター・アンシムが慰問に訪れるが……。

「孤独の円盤 」(白石 朗/訳)
 セントラルパークを散歩していた17歳の少女が見上げると、頭上に円盤が浮かんでいた。円盤は少女にまとわりつき、やがて壊れて回収された。少女は、円盤に語りかけられた内容を決して漏らさず、裁判にかけられてしまうが……。
 少女は大人になり、それまでの出来事が回想として語られます。円盤は少女になにを話したのか?


 
 
 
 
2010年09月21日
パトリック・オリアリー(中原尚哉/訳)
『時間旅行者は緑の海に漂う』ハヤカワ文庫SF1206

 1991年、ぼくはハリウッドでタイムマシンを燃やした。人生でいちばん狂気じみた、この一年の締めくくりとして。一年間でぼくはエイリアンと恋に落ち、忘れられた夢の秘密を発見し、地球を最終戦争から救い、時間旅行の能力を手に入れたのだ。すべてはあの時から、エイリアンの娘と名乗る女性ローラがぼくの診療所にやってきた時からはじまった…! 夢と現実が交錯するディック的世界を描き、英米で絶賛を浴びた話題作。
(引用:「BOOK」データベース)

 すべての始まりは、セラピストのジョン・ドネリーをローラが訪ねて来たこと。ローラの話したところによると、彼女はホロックという異種族の元で生まれ育ったのだという。
 ジョンはローラを診察し続け、やがて惹かれていくが……。

 ジョンの独白で、物語は進んでいきます。ハリウッドでタイムマシンを燃やす結末がまずあり、そこにいたる過程が語られます。
 まず思ったのは、ホロックという種族名はH・G・ウエルズ『タイム・マシン』のモーロックに似ているな、ということ。おそらく、この名称は意図的なもの。読んでいくとその意味が分かります。
 とにかく暗い雰囲気で、読む人を選びそうです。


 
 
 
 
2010年10月09日
パメラ・サージェント(森のぞみ/訳)
『エイリアン・チャイルド』ハヤカワ文庫SF923

 わたしの名前はニタ。15歳になったばかりの女の子。“研究所”と呼ばれる建物で、描型エイリアンのリペルと暮らしている。リペルは外に出ちゃダメっていうし、わたし以外に人間はいないしで、毎日たいくつ。でも、リペルに入ってはいけないといわれた建物に行ってみたら、同じ年ごろの男の子がいたのだ。その子と二人でリペルを説きふせ、わたしたちは人間がいなくなった理由を調べに、研究所の外へ冒険の旅に出た…。
(引用:「BOOK」データベース)

 猫型種族のリペルは、レアと共に地球にやってきました。記憶はなく、ただ、行き先だけが分かっている状態でした。
 リペルとレアは、地球上に誰もいないことを確認し、研究所を発見します。調査を進めるうちに、リペルは誤って、冷凍室で人間ニタを誕生させてしまいます。リペルはマインド(人類が遺した人工知能)の助けを借り、ニタの守護者としてニタを育てていきます。
 一方レアも、人間スヴェンを産まれさせてしまっていました。
 リペルとレアは離の時にあり、研究所の東ウィングと西ウィングに分かれて暮らしています。そのため、ニタとスヴェンもお互いの存在を知らないままに成長しました。
 ふたりは、ついに出会いますが……。

 時代は、最終戦争で地球上の人類が滅亡した後。
 出会ったニタとスヴェンは、エイリアン(リペルとレア)にある疑いを抱いていきます。そんな最中、リペルとレアは地球から旅立ってしまいます。
 残されたニタとスヴェンは、研究所の外へ冒険の旅にでます。戦争を生き延びた人たちがいないかどうか、調べるために……。
 ニタの独白で物語は進んでいきます。
 若年層向け、ということもあるでしょうが、全体的にやや無理があるような印象でした。


 
 
 
 
2010年10月16日
マイク・シェパード(中原尚哉/訳)
『新任少尉、出撃!』ハヤカワ文庫SF1736

《海軍士官クリス・ロングナイフ》
 海軍少尉、クリス・ロングナイフ。父はウォードヘブン星の首相、祖父は財界の支配者という著名な政治家一家の娘でありながら、政略結婚をもくろむ両親に反発し、海軍に入隊。士官学校を優秀な成績で卒業したのち配属されたのが、カミカゼ級戦闘宇宙艦タイフーン号だった。新任少尉としての初任務は、誘拐された少女の奪回。勇猛な海兵隊員を率い上陸用強襲艇で降下するも、そこには誘拐犯の恐るべき陥穽が待ち受けていた−。
(引用:「BOOK」データベース)

 人類は宇宙に進出し、人類協会と呼ばれる連邦制を形作っていた。しかし、地球から距離のあるリム星域では、一部の星々の間で分離独立をめざす動きがでている。ウォードヘブンは、そんなリム星域の有力惑星のひとつ。
 ロングナイフ家は代々、ウォードヘブンの政治、経済、軍事で重要な役割を果たしてきた。クリスはそんな家柄に生まれたものの、親に反発して人類協会の宇宙海軍に入隊する。
 クリスの最初の出動は、惑星シーキムで発生した少女誘拐事件。これまでの救出作戦は失敗に終わり、ついに宇宙海軍が手を貸すことになったのだ。実はクリスには、かつて弟を誘拐され、殺害された苦い経験がある。なんとしてでも少女を救い出そうと意気込むが……。

 クリスはセレブ中のセレブ。父(首相)の選挙運動の手伝いなどもしてきてます。そういった経歴を役立てながら任務に励みつつ、自分を巡る陰謀に気がつき、暴こうとします。
 クリスの育ちの良さが、どうしても鼻についてしまいました。庶民の穿った見方なのでしょうが……。


 
 
 
 
2010年10月17日
ロバート・A・ハインライン(大森 望/訳)
『ラモックス』創元SF文庫

 スチュアート家のペットは、ばかでかい宇宙怪獣だった。その名もラモックス。ある日、彼は飼い主のジョン・トマスの留守をいいことにつまみぐいにでかけるが…。初めて目にする怪物の姿に、街はたちまち一大パニック。おちゃめでとぼけたラモックスと、ジョン・トマスが巻き起こす大騒動の頴末は? ハインラインの傑作ユーモアSF、待望の完訳。
(引用:「BOOK」データベース)

 ジョン・トマス・スチュアート11世のペットは、曾祖父が、宇宙船トレイル・ブレイザー号の冒険で連れ帰ったラモックス。かつては手提げ鞄におさまったラモックスも、今では怪物級。ふだんはスチュアート家の裏庭でのんびりと暮らしているのだが、ある日、散歩にでかけてしまう。
 街は大パニックに陥り、ジョン・トマスは訴えられてしまった。ジョン・トマスの弁護を率先して引き受けたのは、ガールフレンドのベティ・ソレンセン。そこへ、宙務省が介入してくる。
 宙務省特別監察官のセルゲイ・グリーンバーグの判断は、ラモックスには手がなく知能はウサギ並み、条約で守られるべき異星人ではない、というもの。
 そのころ宙務省には、未知の異星種族〈フロシー星人〉からの接触があった。彼らは「行方不明の女の子」を捜しているらしいのだが……。

 全体に、ドタバタとしたコミカルさが漂っているものの、根底にあるのはジョン・トマスとラモックスとの絆。少年少女が主役のため、子どもが読めるように書かれていますが、もちろん大人でも充分楽しめます。


 
 
 
 
2010年10月24日
ポール・メリコ(金子 浩/訳)
『天空のリング』ハヤカワ文庫SF1771

 人類とAIが融合した“共同体”の突然の崩壊により荒廃した世界を立てなおしたのは、統制府が創造した二人〜五人の集団——小群(ポッド)だった。彼らは匂いで会話し、手首のパッドに触れ合うことで記憶や感情を共有し、まるで一人のように行動する。アポロ・パパドプロスもそうした小群(ポッド)の一組だった。二人の少年と三人の少女からなるアポロは、外宇宙探査船の船長をめざし、過酷な訓練を続けていたが…ローカス賞に輝く衝撃作。
(引用:「BOOK」データベース)

 アポロ・パパドプロスを構成しているのは、力担当の大柄な少年ストロム、ポッドの声である交渉担当の少女メダ、物理的・数学的現象を直感的に理解できる少女クアント、改造された足を手のように使いこなせる少年マニュエル、道徳的な助言をするモイラ……の五人。
 彼らはひとりの人間としてふるまい、訓練をつんでいく。やがては、宇宙船コンセンサスの船長となり、海王星軌道の先にある〈裂け目〉に行くために……。

 訳者あとがきに世界設定が紹介されてあります。結末への言及はありませんので、先に読んだ方がいいかも知れません。そう思ってしまうくらい、世界がなかなか見えてこない作品でした。
 もしかすると……連作短編集だと思って読むといいのかも。


 
 
 
 
2010年10月25日
ポール・プロイス(小隅 黎/訳)
『破局のシンメトリー』ハヤカワ文庫SF666

 日米合同でハワイに建造された世界最大の粒子加速器で、新たなクォークが発見された。素粒子理論を塗りかえるこの業績に物理学界は湧きたち、所長のエドヴィックは全世界の賞賛を一身に浴びていた。だが研究所員の1人ピーター・スレイターは、新粒子にひそむ怖るべき可能性と、華々しい成功の裏で進行する醜悪な陰謀の影を感じとった。やがて、研究所構内で原因不明の爆発事故が起こり、それをきっかけにスレイターは、見えざる敵に対して敢然と立ち向かっていくが……? 新鋭が最新の物理学理論を駆使して壮大なスケールで描きあげた、戦慄の近未来SFサスペンス巨篇!
(引用:「BOOK」データベース)

 TERAC(一兆ボルト加速器センター)はハワイに建造された日米合同の大プロジェクト。新たなクォーク〈I粒子〉が発見され、世界の注目を浴びている。
 カメラマンのアンヌマリー・ブランドは、TERACの開所記念式典を取材するため、〈サイエンス・ウィークリー〉の記者ガードナー・ヘイと共にハワイに向かっていた。ヘイは、TERAC建設反対闘争で一時は指導者だったダン・コノに注目し、裏でなにかがあったのではないかと睨んでいる。
 アンヌマリーにとっては、この仕事は次なるステップのひとつ。TERACやその背後にある陰謀には興味はない。ただ、ブルジョアな夫から離れたかったのだ。
 アンヌマリーは、夫の友人チョーンシー・トリヴァーから、〈I粒子〉の発見者マーティン・エドヴィック教授邸での夕食会に招かれるが……。
 一方、6週間前に招かれてTERACにやってきたピーター・スレイターは、不協和音が忘れられずにいた。天才肌のスレイターは、エドヴィックよりも早く〈I粒子〉を理論上で発見していたが、その実験データが理論と食い違っているのだ。
 スレイターは答えを見いだせないまま、エドヴィックの夕食会に出席し、アンヌマリーに一目惚れしてしまうが……。

 TERACの成り立ちに日本が深く関わっているため、日本人もかなり登場します。
 いつの時代の人たち?
 といった感じでしたが……。
 柱は、スレイターが考えている〈I粒子〉のふるまいの謎。そしてもうひとつ、アンヌマリーとスレイターのアバンチュール。
 アンヌマリーは魔性の女で、戦慄の近未来サスペンスを三文小説に貶めてます。子供がふたりいて、その内のひとりはまだ腹の中だというのに不倫とは。開いた口が塞がりません。


 
 
 
 
2010年10月30日
ジョン・スコルジー(内田昌之/訳)
『ゾーイの物語 老人と宇宙4』ハヤカワ文庫SF1777

 波瀾にみちた幼年時代を送った少女ゾーイは、コロニー防衛軍を退役したジョンとゴースト部隊出身のジェーンの養女となり、植民惑星ハックルベリーで幸せな日々を送っていた。やがて両親とともに新たな植民惑星をめざすが、宇宙船は目的の星に到着しなかった。しかも、ゾーイたちは思いもよらない陰謀にまきこまれていく…『最後の星戦』をゾーイの視点から描き、その知られざる冒険の旅を明らかにするシリーズ第四弾。
(引用:「BOOK」データベース)

老人と宇宙(そら)》シリーズの番外編。
 ゾーイは、退役軍人であるジョンとジェーンの養女。
 亡き実父チャールズ・ブーティンは意識研究の第一人者で、その研究成果によって、〈意識〉を持たない状態で進化させられたオービン族は、熱望していた〈意識〉を手中に収めるに至った。そのためブーティンの娘であるゾーイは、オービン族に女神のように崇められている。
 ある日ジョンとジェーンのもとに、かつてふたりが所属していたコロニー防衛軍から使いがやってくる。それは、新たに建設されるコロニー〈ロアノーク〉のリーダーへの就任依頼だった。
 ふたりは申し出を受け、ゾーイも〈ロアノーク〉へと移住することになった。ゾーイに付き従うオービン族のボディガード、ヒッコリーとディッコリーも一緒だ。
 植民者たちはマジェラン号に乗り込み〈ロアノーク〉へと向かうが、到着したのはまったく別の惑星だった。
 実は、宇宙には〈コンクラーベ〉と呼ばれるエイリアン種族の同盟組織があり、彼らは新規コロニーを許していない。コロニー防衛軍は〈ロアノーク〉を建設するために、リーダーをも欺いて植民船の行方を隠したのだ。
 人々は文明から切り離され、未知の惑星での植民を開始するが……。

 話の流れは『最後の星戦』と一緒。ただ、端折り気味になっているため、このシリーズの基本設定を了解したうえで読まないと厳しいです。
 宣伝文句にあったゾーイの“知られざる冒険の旅”は、ヒッコリー&ディッコリーとの旅……のことだと思っていたのですが、そちらはあまり長くありませんでした。旅にかけられる時間が決まっているので、あまり紆余曲折できない事情もあったでしょうが、やや拍子抜け。
 おもしろくはありましたが、ひとつの物語としてではなく、あくまでオマケ的なおもしろさでした。

 
 

 
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