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2012年の記録
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このページの本たち
やけっぱち大作戦』ジョー・クリフォード・ファウスト
狙われた使節団』ジョー・クリフォード・ファウスト
これが最後の大博打』ジョー・クリフォード・ファウスト
トリポッド2 脱出』ジョン・クリストファー
トリポッド3 潜入』ジョン・クリストファー
 
トリポッド4 凱歌』ジョン・クリストファー
トリポッド1 襲来』ジョン・クリストファー
大魔王の逆襲』テリー・ブルックス
過ぎ去りし日々の光』A・C・クラーク&S・バクスター
エスターハージー王子の冒険』D&E

 
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2012年02月04日
ジョー・クリフォード・ファウスト(坂井星之/訳)
『やけっぱち大作戦』ハヤカワ文庫SF1083

 《エンジェルズ・ラック》三部作の一作目。(第二部『狙われた使節団』第三部『これが最後の大博打』)
 ジェイムズ・メイは、商業宇宙船〈天使の幸運(エンジェルズ・ラック)〉のオーナー船長。船の購入資金を用立ててくれたリュウイチ・ヒロに、ローンの返済を続けているところだ。
 メイは農業惑星テトロス9で一儲けし、副操縦士のデクスターをつれて飲みに出かけた。ところが、上機嫌のメイにデクスターは、ここで辞職したいと言う。
 副操縦士がいなければ、船を飛ばすことはできない。
 途方に暮れるメイの前に、デュークと名乗る若者が現れた。メイは、デュークがパイロット資格を持っていると勘違いし、彼をつれて宇宙へと飛び出てしまう。気がついたときには、あとのまつり。
 しかもヒロから、ローンの滞納を訴えられ〈エンジェルズ・ラック〉を差し押さえられてしまう。実はヒロは、シンジケート〈ユエ・シェング〉の幹部だったのだ。
 なんとか〈エンジェルズ・ラック〉を取り戻したメイとデュークは、偶然知り合った傭兵のヴォンに声をかけられる。ヴォンの仲間たちは、かつて〈ユエ・シェング〉が盗み取った秘宝〈エッセンス〉の強奪を計画しており、宇宙船を求めていたのだ。
 〈エッセンス〉とは、脳の抽出物。かつてエッセンス社は、特殊な技術を開発し、偉人たちの脳のなかの情報を抜き取った。彼らの記憶は再利用を待つばかり。そんな最中、〈ユエ・シェング〉に奪われてしまったのだ。
 エッセンス社が提示する莫大な報奨金を目当てに、計画はすすめられていくが……。

 キャッチコピーは「宇宙一不運な男」ですが、とんでもない!
 メイは、不愉快なほど人の話を聞かないオヤジです。あきらかに自業自得な出来事も「不運」で片付けてしまいます。
 ただ、途中からデュークが主人公格になっていきます。それで少し救われました。が、このデュークという人物も、困ったちゃんで……。


 
 
 
 
2012年02月07日
ジョー・クリフォード・ファウスト(坂井星之/訳)
『狙われた使節団』ハヤカワ文庫SF1086

 《エンジェルズ・ラック》三部作の二作目。(第一部『やけっぱち大作戦』第三部『これが最後の大博打』)
 〈ハージェスト・リッジ〉は、UTE(テラ帝国連合)艦隊所属の客船。アーコリア人の外交使節団を惑星カウンシル5へと送り届けるところだ。
 アーコリア人と人類はかつて、悲惨な戦争を経験していた。原因は、お互いが理解しあえなかったため。アーコリア人は人類を切り刻んで研究し、人類とコミュニケーションできるE態を産み出した。
 戦争は終結したものの人類の中にはまだ、アーコリア人を敵視する気持ちがくすぶっている。
 〈ハージェスト・リッジ〉は、宇宙空間にちらばる大量の加工金属を発見した。サルベージ・チームが派遣されるが、その中には商業宇宙船〈エンジェルズ・ラック〉の姿もあった。
 〈エンジェルズ・ラック〉は、シンジケート〈ユエ・シェング〉との戦いでエンジンを失い、漂流中だった。
 船長ジェイムズ・メイと仲間たちは、船共々〈ハージェスト・リッジ〉に迎え入れられる。ドラマチックな生還は人々の注目の的。歓迎パーティが開かれ、アーコリアの大使たちとも面会した。
 ところが、デュークの頭の中にはエリック・ディクスンの人格が潜んでおり、大使のひとりを攻撃してしまう。
 ディクスンは、アーコリア戦争の英雄。〈命知らず〉の異名を持つ戦闘機パイロットだ。アーコリア人に対する憎しみで凝り固まっている。
 デュークは攻撃した記憶もないまま、捕らえられてしまうが……。

 第二部というより、前作『やけっぱち大作戦』の続き。
 メイと、〈ハージェスト・リッジ〉司令官のオハーンが元夫婦、というのがミソ。
 タイトルで分かってしまう通り、アーコリアの使節団は狙われています。その首謀者が、傭兵ヴォンに声をかけてきます。というのもヴォンは、恋人ロズに距離をおかれて心中穏やかでない状態だから。
 一方、捕らえられたデュークは、ディクスンの人格を抱えて、その神出鬼没ぶりに悩まされます。が、悩まされるのはデュークだけにあらず。
 わざとそういう書き方にしているのか、こちらの読解力不足なのか、デュークのパートが難解でした。けっきょく、彼になにが起こっているのか理解する前に物語は終了。
 さて、困った。


 
 
 
 
2012年02月10日
ジョー・クリフォード・ファウスト(坂井星之/訳)
『これが最後の大博打』ハヤカワ文庫SF1090

 《エンジェルズ・ラック》三部作の三作目。(第一部『やけっぱち大作戦』第二部『狙われた使節団』)
 宇宙船〈エンジェルズ・ラック〉は、大破した状態ながらも惑星カウンシル5に到着した。
 船長のジェイムズ・メイは修理の手配に大忙し。あてにしているのは、エッセンス社から支払われる報奨金。
 運良く、カウンシルにはエッセンス社の支店があった。しかも支店長のバリスは、〈エッセンス〉が抽出された当時、責任者だったマクシミリアンの息子だ。
 メイは早速〈エッセンス〉を持ち込むが、バリスはアンプルを偽物と決め付け相手にしようとしない。そればかりか、検査のためとアンプルを奪われてしまう。
 落胆する中、脳内にディクスンを抱えるデュークが、殺人事件を犯してしまった。メイは保釈金を支払おうとするが、バリスに先を越されてしまう。
 実はバリス、〈エッセンス〉が本物であることは承知の上。デュークに〈エッセンス〉のひとつが投与されていたことを知り、その身柄を確保したのだ。
 メイは怒り心頭。なんとかしてデュークを奪還しようとするが……。

 『狙われた使節団』のそのまま続き。
 今回のミソは、〈エンジェルズ・ラック〉にアーコリア人の大使が乗船していること。
 前巻にひきつづき、デュークの脳内ではディクスンとの対峙が延々と続きます。今回は、そんな状態のときのデュークの、外部から見た様子も報告されてます。それで多少は、理解できました。
 が、このふたりの対峙には、ちと問題が。
 とても崇高なメッセージが含まれているのですが、物語全体を見回したとき、果たして必要だったかどうか。作品を引き締めるのに役立った、と言うには長すぎた気がします。
 おちゃらけた感じでシリーズが開幕するので、余計に違和感が残ってしまいました。


 
 
 
 

2012年02月11日
ジョン・クリストファー(中原尚哉/訳)
『トリポッド2 脱出』ハヤカワ文庫SF1497
(学研版、三本足シリーズ「鋼鉄の巨人」)

 《トリポッド》四部作、第二部。
(第一部『襲来』第三部『潜入』第四部『凱歌』)
 世界が、巨大な三本脚機械(トリポッド)によって支配されるようになってから100年。人々は14歳になると戴帽式を迎え、トリポッド内部で頭にキャップを被せられる。キャップは大人の証。死ぬまで外すことはできない。
 ウィル・パーカーは、ウィンチェスターの郊外の村ワートンに暮らす少年。友と呼べるのは、ひとつ年上で従兄のジャック・リーパーただひとり。
 ウィルは、ジャックがトリポッドに疑問を抱いていることを知り、驚く。そのジャックも14歳になり、戴帽式を通過した。その日以降、ジャックは別人のようになってしまう。
 そんなときワートンに、はぐれ者のオジマンディアスがやってきた。
 ごく稀に、キャップの装着がうまくいかず、精神に異常をきたす者がでる。彼らははぐれ者と呼ばれ、村人たちは、彼らのための家や食事を用意しながらも、決して相手にすることはない。
 オジマンディアスは、実は、はぐれ者ではなかった。
 正体は、にせのキャップを装着した自由市民。はぐれ者を装い、14歳になる前の若者たちを勧誘して回っていたのだ。
 ウィルは、オジマンディアスから地図とコンパスを渡され、旅立つことを決意する。自由市民となり、トリポッドに立ち向かうために……。

 元々三部作だった《トリポッド》の、一作目。
 ウィンチェスターはイギリス南部。そこから海を渡り、自由市民たちの本拠地がある〈白い山脈〉へと向かいます。
 ウィルはワートンを出発する際、仲の悪い従兄ヘンリー・パーカーに見つかってしまいます。連れていってくれと頼まれ渋々同意しますが、途中で撒く気満々。

 ウィルの心はどんどん変化していきますが、変わらない欠点もあります。また、正義感に溢れるタイプではなく、迷いもあります。
 そんなふつうの少年が、さまざまな問題に直面し、乗り越えていきます。仲間たちと共に……。


 
 
 
 

2012年02月12日
ジョン・クリストファー(中原尚哉/訳)
『トリポッド3 潜入』ハヤカワ文庫SF1506
(学研版、三本足シリーズ「銀河系の征服者」)

 《トリポッド》四部作、第三部。
(第一部『襲来』第二部『脱出』第四部『凱歌』)
 世界がトリポッドに支配されるようになって100年。彼らの支配に屈しない自由市民たちは、指導者ユリウスのもと、〈白い山脈〉に集まっていた。
 トリポッドの正体はいまだに分からない。
 ユリウスは敵の情報を集めるため、スポーツ大会を利用しようと考えた。スポーツ大会には多くの若者が参加し、優勝者たちは、トリポッドの都市に入ることができるのだ。
 ユリウスは、ウィル・パーカー、ジャン=ポール・ドゥリエ(ビーンポール)、フリッツ・イーガーを選手として選んだ。一行は会場に向かうため、自由市民の船で川を下る。ところが、寄港地でトラブルに巻き込まれ、ウィルとビーンポールは置き去りにされてしまった。
 ふたりは、なんとかして会場へ向かおうとするが……。

 元々三部作だった《トリポッド》の、二作目。
 ウィルとフリッツはスポーツ大会で優勝し、ついにトリポッドの都市に潜入します。しかし、そこは、生きて帰ってきた者がいない過酷なところ。
 キャップを装着した者たちは、ご主人さまのために喜んで死んでいきますが、ウィルやフリッツはそういうわけにはいきません。情報を集め、仲間たちに伝える使命があるのです。
 ふたりは、キャップ人を装いつつ、努力を重ねていきます。が、そこでもやはり、ウィルならではのトラブルが発生してしまいます。

 いよいよ明らかになるトリポッドの中の人。そして、都市でふたたび会うことになるあの人!
 もう、涙なしでは読めません。


 
 
 
 

2012年02月13日
ジョン・クリストファー(中原尚哉/訳)
『トリポッド4 凱歌』ハヤカワ文庫SF1515
(学研版、三本足シリーズ「もえる黄金都市」)

 《トリポッド》四部作、第四部。
(第一部『襲来』第二部『脱出』第三部『潜入』)
 世界がトリポッドに支配されるようになって100年。彼らの支配に屈しない自由市民たちは、指導者ユリウスのもと、侵略者たちを倒すべく活動を本格化させていた。
 ウィル・パーカーも自由市民のひとり。トリポッドの都市に潜入したウィルは命からがら帰還し、貴重な情報を仲間たちに持ち帰った。
 人類に残された時間は4年しかなかったのだ。
 トリポッドの主人たちは、地球の環境を自分たちの住みやすいように変える計画をたてていた。そのための機材は、すでに母星を出発している。船が到着すれば地球は改変され、人類どころか地球のあらゆる生物が失われてしまうのだ。
 知らせを受けた自由市民たちは各地に散らばり、仲間を増やし、トリポッドを壊滅させる研究を急ピッチで進めていく。
 ウィルの新たな任務は、商人として旅をしながら勧誘に務めること。しかしウィルは、なかなか都市での失敗から抜け出すことができない。生還し情報を持ち帰ったものの、もっと探れた筈だったのだ。
 落ち込むウィルにユリウスは、同行者をつけることを決める。
 ウィルは反発するが……。

 元々三部作だった《トリポッド》の第三部。
 悔やんでも悔やみきれない状態のウィルが人間として成長したか? というと、やはり性根はなかなか変えられないようで。その性格が、幸運を呼び込んでいる側面もあるのですが……。
 そして、結末の哀しいこと。哀しいこと。ただ、希望もありました。本当の物語は、ここから始まるのでしょうね。
 とんでもなく深いです。


 
 
 
 

2012年02月18日
ジョン・クリストファー(中原尚哉/訳)
『トリポッド1 襲来』ハヤカワ文庫SF1493

 《トリポッド》四部作、第一部。
(第二部『脱出』第三部『潜入』第四部『凱歌』)
 ローリー・コードレイはイギリスの少年。
 母が家を出て行った後、父マーティンはスイス人のイルサと再婚した。一家が暮らすのは、祖母マーサの屋敷。マーサは活動的で気難しく、ローリーは大の苦手だ。マーサが、義妹アンジェラばかりをかわいがるのも気に食わない。
 ローリーは、イルサやアンジェラばかりでなく、父ともうまくいっていない。
 夏休みに入り、父はイルサとアンジェラをつれてスイスへ。残されたローリーは、親友アンディと共にサマーキャンプに行くことにした。ところが、参加したオリエンテーリングで道に迷ってしまう。
 ふたりが一夜の宿として潜り込んだのは、農場の納屋。その翌朝、農場は大事件に見舞われることとなった。
 20メートル以上はありそうな巨大な三本脚の機械が、地響きと共にやってきたのだ。機械は母屋を襲い、ローリーは恐怖で立ち尽くしてしまう。機械は、かけつけた軍隊によって破壊された。
 マスコミは、この巨大機械をトリポッドと命名。目撃者のローリーは、周囲からさかんに質問されることに嫌気がさしてくる。
 ほどなく「トリッピー・ショー」というテレビ番組が始まった。ローリーは小馬鹿にするが、アンジェラは熱中するあまり気も狂わんばかり。病的なほど夢中になっているのは、アンジェラだけではなかった。
 熱狂的なトリッピー・ファンは社会問題と化していくが……。

 元々三部作だった《トリポッド》の続編として発表された作品。
 続編が発表されて以降、《トリポッド》シリーズは四部作となり、時系列に並び直されて、続編が第一部という扱いになりました。
 今回、再読ということもあって発表当時の順序で読んでみましたが、やはり、発表順がいいようです。
 この物語の後、人類がいかに支配されていくか、そして、自由市民たちがどのように戦って、どんな結末が待っていたのか、すべてを知った上だと、ラストの決意の重さが違ってきます。そのとき三人組だったのも、最初の三部作を意識していたのでしょうね。
 ローリーたちが奮闘したからこそ、後世の人々はトリポッドに立ち向かえるようになったのです。感無量です。


 
 
 
 
2012年02月19日
テリー・ブルックス(井辻朱美/訳)
『大魔王の逆襲』ハヤカワ文庫FT

 《ランドオーヴァー》シリーズ第四巻。
 シカゴの弁護士だったベン・ホリデイが魔法の王国ランドオーヴァーの王になって2年。
 王妃ウィロウが懐妊した。喜ぶベンにウィロウは、ひとりで旅立たねばならないと告げる。それが子供のためになるのだ、と。
 ウィロウは夜陰にまぎれて出発し、〈大地の母〉の元に向かった。夢でお告げがあったのだ。ウィロウを迎えた〈大地の母〉は、出産に際し、3つの世界の土を用意しなければならないという。ランドオーヴァーと、人間界と、〈妖精の霧〉の中の、3つの土を。
 ウィロウは途方にくれるが……。
 一方、城に残ったベンの元には、ひとりの誓願者が訪れていた。
 かつて人間界に追放されていた、三流魔術師のホリス・キュー。宗教をでっち上げて大もうけしていたが、秘密は暴露され、ランドオーヴァーに逃げ戻ってきたのだ。それも、唐草箱に封印されていた魔王ゴースと共に。
 ホリス・キューは魔王ゴースの命じるままに、国王ベン、魔女ナイトシェイド、ドラゴンのストラボを呼び寄せる。
 魔王ゴースは三者の記憶を奪ったうえ、唐草箱に閉じ込めてしまった。そして、アドバンの妖魔と取引し、ランドオーヴァーを滅ぼそうとするが……。

 今作も、さまざまな視点から語られます。
 まず、子供のために、土集めをするウィロウ。〈大地の母〉が予言した助けてくれる存在とは、第二巻『黒いユニコーン』でベンと行動を共にしたプリズム猫でした。ウィロウは、さすがにベンとは違ってプリズム猫ときちんと接しようとします。
 そして、唐草箱の中で〈騎士〉〈貴婦人〉〈ガーゴイル〉として旅をする記憶をなくした面々。記憶をなくしながらも個性はそのまんま。過去のわだかまりがないため、今までならありえない展開が待ってます。
 それから、ゴースのために働きながらも内心震え上がっているホリス・キュー。お供は、知能を与えられたムクドリのビガー。なお、ゴースは〈魔王〉と肩書きがついてますが、実際のところ〈魔王〉とは少し違う存在のようでした。
 それと、ベンの仲間であるアバーナシイ。失敗もしますが、きちんと反省して大活躍を見せてくれます。

 登場人物が多くても、混乱することなく読めるのがシリーズもののいいところ。新顔はホリス・キューとビガーとゴースだけなので、あっちこっちに話が飛びながらも読みやすかったです。


 
 
 
 
2012年03月06日
アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター
(冬川 亘/訳)
『過ぎ去りし日々の光』上下巻
ハヤカワ文庫SF1338〜1339

 2035年。
 時代の最先端をいくアワワールド社は、ワームホールを自由に操るテクノロジーを開発した。ワームホールをリンクとしてシグナルを送受信すれば、光よりも速くメッセージをやりとりすることができる。劇的な通信革命に、アワワールド社は空前の成功に沸き返った。
 社長のハイラム・パターソンはさらに研究を進めるべく、オックスフォード大で物理学を教えている息子ダヴィッドを呼び寄せた。
 ダヴィッドは、ワームホールの大型化と安定にとりかかり、ついに〈ワームカム〉を完成させる。より遠くへと伸びていた視点を時間に転換することで、過去を覗けるようになったのだ。
 折しも、500年後と予告されている地球消滅の危機に、社会に閉塞感が漂っていたところ。巨大彗星〈にがよもぎ〉の衝突は避けられそうになく、人々の関心は過去へと向かっていくが……。

 クラークとバクスターの共著。
 ハイラムとダヴィッドの他、ハイラムのもうひとりの息子ボビーと、ジャーナリストのケート・マンゾーニなども登場。
 ケートは〈にがよもぎ〉をはじめて報道したことで知名度を上げました。ハイラムにはりつくことで、さらにキャリアを伸ばそうとします。ボビーに近づいたのはそれが目的でしたが、しだいに惹かれていきます。
 一方のボビーは、今まで兄ダヴィッドの存在も知らず、安穏とした日々を送っていました。それがケートと出会うことで、自分がハイラムにコントロールされていたことに気がつきます。本当の自分を取り戻そうとします。

 物語は三部構成。
 展開していくにつれ、主役かと思えた人が脇に退き、忘れ去られた……と思いきや復活したり、人間個々のドラマに焦点が合ったり遠ざかったり。
 第三部が最終目的地だと考えると、序盤の出来事の存在意義に疑問を感じてしまいます。共著で物語ることの悪い面が出ているような印象でした。
 単独では、どちらも好きな作家なのですが……。


 
 
 
 
2012年03月07日
イレーネ・ディーシェ&
ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー
(ミヒャエル・ゾーヴァ/絵)
(那須田 淳/木本 栄/訳)
『エスターハージー王子の冒険』評論社

 エスターハージー家は、オーストリアでは有名なウサギ貴族でした。
 あるときご当主のエスターハージー伯爵は、一族の大問題に気がつきます。ウサギたちはぜいたくになってしまって、世代をくだるごとに小さくなっていたのです。
 伯爵は跡継ぎの男子たちを旅立たせることにしました。大柄のお嫁さんをさがすように言いつけて。
 いちばん身体の小さいエスターハージー王子は、ベルリンに行くことになりました。伯爵がくれたのは片道の切符のみ。あとは自分でやらなければなりません。
 エスターハージー王子が聞いたところによると、ベルリンには大きな壁があるそうです。その壁の向こうに、たくさんのウサギがいるんだとか。
 ベルリンに到着したエスターハージー王子はウサギを捜しますが、なかなか出会えません。ようやく見つけたのが、商店のショーウィンドーにいたミミでした。
 エスターハージー王子はチャーミングなミミを気に入りますが……。

 東西ドイツに分かれていたころのベルリン(主に西側)を舞台にした、童話。
 童話なのでサッパリと、ドロドロすることなく、ストンと終わります。作者の考えも反映されてはいますが、どちらかというと、事実を述べておいて読んだ人が考えましょう、というスタイル。
 もしかすると……壁があった時代を知っているか否かで、読み方が違うのかも。

 
 

 
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