航本日誌 width=

 
2012年の記録
目録
 
 
 
 
 5/現在地
 
 
 
 
 10
 
このページの本たち
分解された男』アルフレッド・ベスター
大江戸 女花火師伝』矢的 竜
スタープレックス』ロバート・J・ソウヤー
失われた都』ケン・スコールズ
迷子のマーリーン』エヴァン・マーシャル
 
剣姫 −グレイスリング−』クリスティン・カショア
90億の神の御名』アーサー・C・クラーク
デルトラ・クエストII』エミリー・ロッダ
デルトラ・クエストIII』エミリー・ロッダ
20億の針』ハル・クレメント

 
各年の目録のページへ…

 
 
 
 
2012年05月22日
アルフレッド・ベスター(沼沢洽治/訳)
『分解された男』創元SF文庫

 モナーク物産の社長ベン・ライクは、悪夢に登場する《顔のない男》に悩まされていた。折しもモナーク物産は、ド・コートニー・カルテルとの死闘に敗れつつあるところ。ライクには《顔のない男》が、ド・コートニーの社長クレイのように思えてならない。
 ライクは意を決してド・コートニーに提携を呼びかける。しかし、間もなく届いた返答を読み、ライクはクレイ殺害を決意した。
 ライクにとって最大の障害は、超感覚保持者たちの存在だった。彼らは人の考えを読み、犯罪など、実行する前にかぎつけられてしまうのだ。
 ライクは、超感覚第一級の精神分析医オーガスタス・テイトを仲間に引き入れ、まんまとクレイ殺害を成功させた。ところが、クレイの娘バーバラに現場を目撃されてしまう。バーバラの逃走を許してしまったライクは、あわてて行方をさがすが……。
 一方、事件の担当となった刑事リンカン・パウエルは、早々とライクが犯人であると見破った。さらに、超感覚第一級である能力を使って確信を深めるが、心を覗いて得られた情報は証拠にはならない。
 パウエルに必要なのは、動かしがたい証拠。動機、方法、機会の三方向から、確固たる証拠を集めなければならないのだ。
 パウエルは捜査の網を張り巡らすが……。

 倒叙ミステリ。
 ヒューゴー賞受賞作。
 ライクはワンマン社長で、超感覚こそ持っていないものの人心掌握術に長けてます。行動力と金の力で、パウエルの捜査を妨害しつづけます。
 パウエルは刑事ですが、ユーモア感覚がいささか過大。お調子者で、大嘘をついては反省しています。ライクに宣戦布告するものの、なかなか尻尾をつかめません。

 1953年の作品で、訳文も古めかしいです。その古さが逆に、味わいになってます。


 
 
 
 
2012年05月24日
矢的 竜
『大江戸 女花火師伝』中公文庫

 鍵屋は江戸花火の老舗。
 五代目鍵屋佐兵衛の末娘として生まれた佐絵は、許嫁の清太郎を亡くし、自身が花火師となる道を選んだ。しかし、女では棟梁になることはできない。
 佐兵衛は、佐絵の相手として、高橋修造を見つけてきた。
 修造は貧乏御家人の次男坊。表向き、棟梁として六代目を襲名したが、あくまでお飾り。実際のところは、佐絵が女棟梁として鍵屋を取り仕切ることとなった。
 時代は江戸後期。
 田沼意次が失脚し、老中首座となった松平定信によって、寛政の改革が始められようとしていた。就任当初は歓迎された定信だったが、質素倹約と風紀取り締まりの徹底で、庶民たちは反発していく。
 花火も例外ではない。そんな中、佐絵は人々に喜んでもらうため、さまざまな工夫をこらすが……。

 女花火師・佐絵の一代記……なのですが、婿となった修造の扱いがかなり大きいです。
 作者の弁によると、鍵屋から暖簾分けした玉屋が、急成長しつつも将軍の日光社参の前夜に失火し、廃業に追い込まれた史実に興味が湧いたのが執筆の契機、とのこと。とはいえ花火だけでは話がもたせられなかったようで、修造と滝沢馬琴や十返舎一九を絡ませてます。

 歴史小説を読む醍醐味って、史実と辻褄が合っていることだと思うのです。そのあたりを重視して読むと、
 あ……あれ?
 と、戸惑ってしまいました。


 
 
 
 
2012年05月29日
ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『スタープレックス』ハヤカワ文庫SF1257

 宇宙に進出した人類は、ショートカット・ネットワークを発見した。それにより、二点間の瞬時の移動が可能となり、ついに人類は地球外知的生命体と出会った。
 人類は、知性を見いだされていたイルカと、ウォルダフード族、イブ族の四種族共同で惑星連邦を創立。探査宇宙船スタープレックス号を建設した。ショートカットや銀河の謎を解明するために。
 キース・ランシングは、スタープレックス号の指揮官。
 生命科学部門は妻のクラリッサが責任者となっているが、物理科学部門の責任者ジャグ・カンダロ・エン=ペルシュには、たびたび苦情を持ち込まれて辟易している。ジャグはウォルダフード族。地球人のキースにとって彼らは、論争や口論が大好きな豚どもとしか思えないのだ。
 そんなある日、新たな宙域へのショートカットが発見された。調査へと赴くスタープレックス号だったが、そこで思いもよらない現象に遭遇する。
 真空のはずの宇宙空間で、星がまたたいていたのだ。
 星の手前に、なにか物体があるようなのだが……。

 序盤は説明が主なので、少々低調な感じ。
 新たな宙域へとスタープレックス号が移動すると、物語が動き出します。観測のもとに謎が提示され、専門家たちが議論を戦わせ、推察し、それに基づく実験が行われ、ついにあるものが発見されます。
 発見だけでなく、事件やら中年の危機やら、もりだくさん。
 広げられた大風呂敷がきちんと折り畳まれるのは、読んでいても楽しいです。


 
 
 
 

2012年06月02日
ケン・スコールズ(金子 司/訳)
『失われた都』上下巻/ハヤカワ文庫FT

 《イサークの図書館》第一部。
 魔術師ザム・イ=ジィールは〈科学運動〉信奉者に七人の息子を殺められ、復讐のために〈七つの不協和音による死〉を生み出した。イ=ジィールの放った呪文により文明は崩壊。生き延びた人々は〈沸きかえる荒野〉となった〈旧世界〉を後にし、〈新世界〉へと、〈名づけられし土地〉へと逃げのびた。
 それから2000年。
 アンドロフランキン教団は〈沸きかえる荒野〉を発掘することで知識を集め、〈大いなる図書館〉へと集約し保管しつづけていた。〈大いなる図書館〉の置かれたウィンドウィアは都として発展し、今では世界の中心に上り詰めている。
 そんなある日、ウィンドウィアの都は黒い柱を巻き上げながら崩壊してしまった。ちょうど〈識者会議〉が開催されている週。ウィンドウィアには教皇を筆頭に、教団関係者だけで数十万人がいたはずだった。
 ルドルフォは、〈九重の森の館〉を支配する〈流浪の王〉。
 “親族の結びつき”にもとづきウィンドウィアの救援にかけつけるが、生存者は皆無。かろうじて見つけたのは、一体の鋼人(メタル・マン)だった。
 イサークと名づけられた鋼人は、自分が〈七つの不協和音による死〉を翻訳したのだと告白する。記憶を消されるはずが、気がついたら広場で唱えていたのだ、と。教団が〈沸きかえる荒野〉で発見した禁断の呪文が、何者かに利用されてしまったのだ。
 罪の意識に苛まれるイサークにルドルフォは、図書館再建計画をもちかける。そのために必要不可欠なのは、他に13体あるという鋼人たちの協力。彼らは、エントロルシア都市国家の監督卿セスバートの元に集められているらしい。
 実は、セスバートこそ〈七つの不協和音による死〉を唱えさせた張本人。真相を知ったルドルフォは、セスバートに宣戦布告するが……。

 セスバートは、リー=タム家の娘ジンを愛妾にしています。
 リー=タム家は、造船業者にして銀行業を営む家柄。アンドロフランキン教団の莫大な資産を預かっており、その動向は注目の的。ジンは、ウィンドウィア崩壊でセスバートを見限り、ルドルフォの求婚を受け入れます。
 ネブは、アンドロフランキン教団が養う孤児。
 父親であるヘブタ修道士は〈沸きかえる荒野〉の発掘調査に携わっています。ついに手伝えることになり共に都を出発しますが、ネブが大事な書状を忘れてしまったため、ヘブタ修道士が取りに戻ることになります。郊外で待っていたネブが目の当たりにしたのは、都が崩壊していく姿でした。
 レゾルートは、急遽選出されたアンドロフランキン教団の新教皇。いとこであるセスバートの言葉を真に受けて、ルドルフォが首謀者であるとして破門状を出します。でも、確信は持っていません。
 実はアンドロフランキン教団には、レゾルートよりも正当性のある教皇がいました。30年以上も前に死んだと思われていたペトロヌス教皇が、存命だったのです。
 教皇をやめるために死を偽造して身を隠したペトロヌスは、今では漁師となっています。教団とは距離をおいていましたが、ウィンドウィアにかけつける途中で助けたネブと共に、犠牲者たちを埋葬するため立ち上がります。

 とにかく視点がたくさん。とりわけ序盤は細切れ状態で、独自の固有名詞の多さも相まって、読み進めるのがつらかったです。上巻の巻末に用語辞典がありますので、先に目を通しておいた方がいいかもしれません。
 なんとなく世界設定が見えてくると、さまざまな謀略に気づかされます。読破した今では、読み返してみたくなります。いろいろと見逃していそうで……。


 
 
 
 

2012年06月09日
エヴァン・マーシャル(高橋恭美子/訳)
『迷子のマーリーン』ヴィレッジブックス

 《三毛猫ウィンキー&ジェーン》シリーズ第一作。
 ジェーン・スチュアートは著作権エージェント。ニューヨーク郊外のシェイディ・ヒルズに暮らしている。2年前に夫のケネスを亡くし、今では9歳の息子ニックと二人家族。
 ある日、ニックの通う学校から電話がかかってきた。誰も迎えに行っていないらしい。住み込みのベビーシッター、マーリーン・ベンソンが行くはずだったのだが……。
 マーリーンは、古い友人アイヴィーの娘。アイヴィーに頼み込まれて雇ったものの、ベビーシッターとしては最悪。子供には関心も熱意もなく、夜な夜な出かけているような娘だった。
 ジェーンとしては、3ヶ月は我慢するつもりでいた。それが、帰宅してみれば置き手紙すらなく、居室はもぬけのから。解雇を言い渡す前に問題が解決したのはいい。だが、黙っていなくなるやり方に、憤懣やるかたない。
 ジェーンはアイヴィーに連絡をとるが、実家には戻っていなかった。他に行きそうなところなど、ジェーンには検討もつかない。ジェーンは、マーリーンと同じ家に暮らしながら、彼女のことを何も知らなかったのだ。
 ジェーンは、自分が、友人の娘に対する責任を果たしていなかったことに気がつき、マーリーンの行方を捜そうとするが……。

 本作のミステリは、マーリーンの行方。
 ジェーンが探偵役となってマーリーンの交友関係を調べ上げ、美人なベビーシッターがどういう生活をしていたのか、明らかになっていきます。ジェーンの行動力の源は、雇用主としての義務を放棄していた自分への反省から。なので行動が自然で、すんなりと読み進めることができました。

 なお、シリーズ名の一部になっている三毛猫ウィンキーですが……。
 ウィンキーは2歳の女の子で、ニックの愛猫。
 家猫なので、ジェーンの生活にも絡んできます。マーリーンが行方知れずになった事件にもかかわっています。が、シリーズ名になるほど活躍しているかというと、ちょっと疑問。
 それよりむしろ、著作権エージェントという職業柄の話題の方が比重が大きいです。自分の作品を冷静に見つめられない作家たちや、出版社側の思惑。 実際に著作権エージェントでもある、この作者ならではの話を楽しめます。
 ニックとウィンキーの交流は微笑ましいんですけどね。


 
 
 
 
2012年06月13日
クリスティン・カショア(和爾桃子/訳)
『剣姫 −グレイスリング−』ハヤカワ文庫FT

 カーツァは、ミッドランズを治めるランダ王の姪。
 世界には稀に、賜と呼ばれる、なんらかの才能を持った者が生まれる。賜は、人によってさまざま。国王に召し抱えられるものもあれば、そうでないものもある。カーツァも、そんな賜持ちのひとりだった。
 カーツァの賜がなんであるのか知れ渡ったのは、8歳のとき。ランダ王はカーツァの戦闘能力を利用するようになり、カーツァは、ランダ王の暗殺者として怖れられるようになった。
 ランダ王の策略により、カーツァは王の言いなり。逆らうことができない。だが、世の中にはびこる不正を我慢することもできず、秘密裏に〈秘密諮問機関〉を立ち上げた。弱き者たちを助けるために。
 そんなあるとき、リーニッド国の王父ティーリフが行方不明になる事件が起きた。どうやら、サンダー国の地下牢に捕らえられているらしい。カーツァと仲間たちは密かにティーリフを救出し匿う。
 一方、リーニッドの王子ポオもまた、己の賜の力を使ってティーリフの行方を捜していた。ようやくミッドランズでティーリフと再会できたものの、真相は闇の中。誰がなんのために誘拐したのか、まるで分からない。
 カーツァはポオと親しくなるうち、ランダ王が絶対ではないことに気がつく。ついに反旗をひるがえし、ポオと共にミッドランズ王宮を後にするが……。

 中世的な世界を舞台にしたファンタジー。
 ティーリフの救出劇に始まり、ミッドランズでのひとときを通過して、事件の背景にいる者の正体と目的を探る旅へと展開していきます。
 超人的なカーツァはある面ではお子さまで、ときどき、ままごとをしているように見えてしまうのが玉に瑕。黒幕さんの執着心もいまいち納得しきれず。なぜ、そこまでこだわるのか……。
 おそらくこの世界には、独特の力学が働いているのでしょう。それが読み切れなかったのは、書き手側の問題なのか、読み手側の問題なのか。
 三部作らしいですが、それなりに決着はついてます。


 
 
 
 
2012年06月16日
アーサー・C・クラーク
(小隅 黎/小野田和子/深町眞理子/南山 宏/浅倉久志/中村 融/訳)
『90億の神の御名』ハヤカワ文庫SF1719

《ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク2》
 傑作短編集の第二弾。
 1951〜1958年(クラーク30代のころ)に発表された定番作品+αといった構成なので、既刊の短編集とかなり被ってます。
 短編の他に、エッセイ「ベツレヘムへの星」(中村 融/訳)も収録。

「前哨」(小隅 黎/訳)
 月面の巨大盆地〈マーレ・クリシウム〉の調査が行われ、地質学者は、山背に金属製のきらめきを目撃した。半信半疑の仲間たちを説き伏せ山へと登るが……。
 他の短編集で何度か読んでますが、あれ、こんな感じだったかな……と思っていたら、これまでの翻訳とは原文テキストが違うんだそうです。
 代表作『2001年宇宙の旅』の元ネタとなった作品。

「月面の休暇」(小野田和子/訳)
 ダフネの父マーティン教授は、月の天文台長。地球に帰還する予定が取りやめになってしまい、代わりに家族を月旅行に招待した。ダフネは月へと旅立つが……。
 啓蒙のために書かれたんだそうで、なるほど、いささかお勉強気味。

「おお地球よ……」(深町眞理子/訳)
 マーヴィンは〈植民地〉に暮らす10歳の少年。父につれられて、生まれてはじめての〈外界〉へと出た。
 彼が見たものとは?

「時間がいっぱい」(深町眞理子/訳)
 ロバート・アシュトンの元に、不可思議な女が仕事の依頼を持ってきた。金では買えない芸術品を盗んで欲しいらしい。しかもそれらは、大英博物館に収められているのだ。
 アシュトンは困惑するが、盗みを可能にするブレスレットを渡され、承諾する。ブレスレットの正体は、携帯用のフィールド発生機。作動している間、他の人々が止まって見えるのだ。
 アシュトンは意気揚々と仕事に入るが……。
 かつて読んだときには、「この世のすべての時間」というタイトルでした。なぜ女がそんな依頼をしたのか、読むたびに慄然とさせられます。

「90億の神の御名」(小隅 黎/訳)
 ワグナー博士の元に、不可思議な依頼が舞いこんだ。チベットの僧院が、自動駆逐コンピュータを貸して欲しいというのだ。
 彼らは3世紀にわたり、神のあらゆる御名をつらねたリストを作ってきた。完成までに必要な日数は、あと1万5000年。それが、博士のコンピュータを使えば、あと100日に短縮することができるらしい。
 博士はコンピュータと技師を貸し出すが……。

「木星第五衛星」(南山 宏/訳)
 フォースター教授は、一隻の船を仕立てて木星へと向かった。目指すは、木星第五惑星。
 かつて火星探検隊は、古代文明の遺跡を見つけだした。似た様式の遺跡は水星でも見いだされている。フォースター教授はこの未知の古代文明を調べ上げ、木星第五惑星に、重要ななにかが眠っているとの結論に達したのだ。
 教授の予想どおり、第五惑星では大発見が待っていたが……。

「夜明けの出会い」(浅倉久志/訳)
 銀河調査隊の科学者は、生物の生息する惑星を発見した。隊員は二足歩行型の原住民との接触を試みる。
 そのころ、銀河帝国は滅びつつあった。残り少ない時間の中、ファーストコンタクトを試みるが……。
 かつて読んだときには、「地球への遠征」というタイトルでした。ネタばれなタイトルなので、どうかなぁと思っていたのですが、クラークが最初につけたタイトルは、「夜明けの出会い」だったそうです。

「海底牧場」(中村 融/訳)
 ドン・バーリーは潜水艇に乗り込み、殺し屋を追っていた。サメが、放牧中のクジラを狙っていたのだ。ドンを手助けするため、イルカたちが駆け付けてくれるが……。
 のちに同名の長篇が書かれた作品。

「密航者」(南山 宏/訳)
 ついにイギリスにも宇宙港が開港した。港に降りた貨物宇宙船ケンタウルス号を視察したのは、ヘンリー皇太子。皇太子は、王立宇宙軍司令官という肩書きを持っているのだ。
 船長は、はじめ皇太子に懐疑的だった。しかし、船内を案内するうちに好意を抱くようになる。皇太子の身分では、宇宙軍の艦で大気圏外に行くのが精一杯。船長は気の毒がるが……。

「星」(小野田和子/訳)
 フェニックス星雲に、調査隊が送り込まれた。
 フェニックス星雲は、ひとつの星が超新星になった残骸。調査隊の目的は、大変災について調べること。ところが、思いもよらないものを発見してしまう。
 ヒューゴー賞受賞作。
 エッセイ「ベツレヘムへの星」と関連があります。

「月に賭ける」(中村 融/訳)
 夕刊紙に連載された、連作短編集。
 アメリカ、イギリス、ソビエトの3国から同時に、月への遠征隊が派遣された。彼らは、ときに争い、ときに協力して任務に当たるが……。
 イギリス隊の隊長の「わたし」の独白でつづられていきます。
 最後の、イギリス隊の帰還が遅れた理由は、何度読んでもにんまりしてしまいます。

「究極の旋律」(中村 融/訳)
 ヒット曲には、人を惹き付けるなにかがある。ある科学者が音楽に興味を抱いた。音楽のリズムと精神のリズムには関係があるのではないか、と。科学者は〈究極の旋律〉を作り出そうと試みるが……。
 連作短編集『白鹿亭綺譚』の中の一遍。一定のパターンのある短編集だったので、抜き出してこれだけになっていると、ちょっと違和感が……。

「天の向こう側」(浅倉久志/訳)
 夕刊紙に連載された、連作短編集。
 宇宙ステーション作業員の「わたし」の独白。
 気密式居住区画での生活。同僚がこっそり飼っていたペットのこと。真空での体験談。はじめての地球規模の生放送。ある"物体"にまつわる秘密。宇宙に進出するということ。
 ノンフィクションのように書かれてます。

「遙かなる地球の歌」(南山 宏/訳)
 ローラは、サラッサの住民。
 サラッサは、大半を水に覆われた惑星だ。人類がサラッサに植民したのは300年前。それ以来、サラッサは忘れ去られた存在だった。そこへ、ついに地球からの船がやってきた。
 恒星間宇宙船マゼラン号は、目的地に向かう途中。故障に見舞われ、修理のためにサラッサに立ち寄ったのだ。ローラは、機関士のレオンに一目惚れしてしまうが……。
 後に長編化された作品の原型。

「幽霊宇宙服」(南山 宏/訳)
 まるで小型の宇宙船のような宇宙服を身にまとったのは、デブリを回収するため。ところが、宇宙服から正体不明の音がし始め、回収どころではなくなってしまう。大変高価な宇宙服は、事故死した仲間のものを使い回すこともあるのだが……。
 かなり分かりやすい伏線が張られているので、意外なオチを楽しむというより、恐怖の過程を楽しむ作品なのでしょう。


 
 
 
 
2012年06月17日
エミリー・ロッダ(岡田好惠/訳)
『デルトラ・クエストII』全三巻/岩崎書店

 デルトラの初代国王アディンは、各地の力ある宝石を集め、デルトラのベルトを完成させた。輝かしいベルトを国王が用いていれば、デルトラを狙う影の大王も手出しはできない。
 ところが影の大王の策略により、国王は代を重ねるごとにベルトから遠のいていった。そして、エンドン国王の御代に王国は崩壊。デルトラは影の大王に牛耳られてしまう。
 この危機に立ち向かったのが、エンドンの息子リーフ。エンドンの親友の娘ジャスミンと共に各地を巡り、破壊されたベルトを復活。ベルトの力によって影の大王は追い払われ、リーフは新国王として即位した。
 デルトラは喜びに沸くが、影の王国に連れ去られたままの国民は少なくない。彼らの救出を願う声は日増しに高まるばかり。
 しかし、影の大王を押さえられるのがベルトだけである以上、リーフが気軽に動くことはできない。ベルトは、デルトラの大地で国王が身につけているときにしか効果を発揮しないのだ。まだ若いリーフには後継者もなく、その身に万一のときには、ふたたびデルトラは影の大王に支配されてしまう。
 リーフはジャスミンさえも遠ざけて、調べごとに明け暮れる。城内では、リーフがお妃選びをしていると噂が流れ、のけ者にされたジャスミンはおもしろくない。
 ジャスミンは密かに、リーフが封印した部屋に入り込んだ。そして、隠されていたガラスの天板に魅入られてしまう。
 天板に映っていたのは、妹だと名乗る少女フェイス。影の王国に捕らえられているらしい。ジャスミンはフェイス救出のため、城を抜け出して骸骨山へと向かった。骸骨山には、影の王国に入り込む秘密の地下道の入口があるらしいのだ。
 そのころリーフは、邪悪を退けるという〈ピラの笛〉の存在を聞きつけていた。笛は、影の大王の奸計により3つに分割され、3派に分かれたピラの人々に受け継がれているらしい。故郷を追われた彼らの行方は、ピラ3島に移り住んでいるということしか分からない。
 リーフは、城を飛び出したジャスミンを追いかけ、秘密の地下道こそ、ピラの民の末裔が暮らす地下世界だと気がつく。再会したジャスミンと共に、〈ピラの笛〉の断片を求めて旅立つが……。

 『デルトラ・クエスト』の続編。
 児童書です。
 読んでいて、トールキンの『指輪物語』を彷彿とすること度々。ファンタジーではよくあることですが。
 本作だけで完結はしてますが、前作読んでないと、分かり辛いと思います。とりわけ人間関係が。どういう人なのかの説明が省かれていたり、後になってから触れられたり、あまり親切ではないな、という印象。
 リーフの年齢については、単純に「若い」としかないのですが、大人な雰囲気でした。一方、ほぼ同い年だったはずのジャスミンは子供っぽくて、ちょっと残念。ちなみに、前作ではリーフは16歳でした。
 ピラの民の逸話など、よくよく練られているのですが、二転三転した前作と比べてしまうと、やや物足りない……。


 
 
 
 
2012年06月18日
エミリー・ロッダ(上原 梓/訳)
『デルトラ・クエストIII』全四巻/岩崎書店

 デルトラの初代国王アディンは、各地の力ある宝石を集め、デルトラのベルトを完成させた。輝かしいベルトを国王が用いていれば、デルトラを狙う影の大王も手出しはできない。
 影の大王の策略により一旦は破壊されたベルトだったが、リーフ新国王の手によって復活。影の大王はデルトラの大地から追い払われた。
 ところが、デルトラの国土は荒廃したまま。作物は育たず、このままでは国民は餓死してしまう。
 そんな折りリーフは、影の大王の〈四人の歌姫〉計画を聞きつけた。デルトラを滅ぼすため影の大王は、東西南北に〈歌姫〉を配置していたらしい。その魔力により、デルトラを不毛の大地とするために。
 リーフは、国内視察の名目で旅立つ。歌姫を葬り去るため、そして、眠りについた竜たちを目覚めさせるために。

 『デルトラ・クエスト』『デルトラ・クエストII』の続編。シリーズ完結編。
 児童書です。
 1巻につきひとつずつ、歌姫なるものを破壊していきます。その力になってくれるのが、各地で眠っている竜たち。竜たちは国王の求めに応じて目覚めてはくれますが、縄張り意識が強く、一筋縄ではいきません。
 影の大王の陰謀もとにかく底深いです。
 とても気になったのは、今作に限ったことではありませんが、ジャードの書く手紙の文字。とても子供っぽいのです。リーフの親世代で、しかも教養人なのにこの文字はないだろう、と。それを言ったらリーフの文字も、厳しくしつけられていたにしては……なのですが。
 児童書だから子供目線で、ということなのでしょうか。そこだけが残念。


 
 
 
 
2012年06月20日
ハル・クレメント(井上 勇/訳)
『20億の針』創元SF文庫

 ロバート・キンネアドは、ひとり故郷の島を離れ、マサチュセッツの寄宿舎学校に入っていた。
 あるときロバートは、謎のメッセージを受け取る。
 体内に何者かが同居していたのだ。それは、ビールスから進化したゼリー状の半液体の生命体。他者の身体の中に入り込み、宿主の健康に貢献することで共生している。
 彼らには名前はない。身分は、警察官。“ホシ”を追いかける“捕り手”。
 あるとき、宿主のことを顧みない犯罪者が、宇宙船で逃げ出した。ただちに追跡した”捕り手”だったが、“ホシ”はある惑星の大気圏に突入し、墜落してしまう。”捕り手”の宇宙船も大破し、“ホシ”を捕らえるための装置も、宿主さえも失ってしまった。
 ”捕り手”は、海から島へとたどり着き、たまたま帰島していたロバートの体内に入りこんだ。言葉や、未知の生命体との共生の方法を学ぶこと5ヶ月。ようやく、ロバートと接触する決心をしたのだった。
 ”捕り手”と同じように、“ホシ”も生き延び、誰かの体内に入り込んでいる可能性がある。
 ロバートは“捕り手”と共に帰島し、捜査に協力するが……。

 1950年の作品なので、古いです。翻訳も古めかしく、余計に昔を感じさせてくれます。が、その後の作品に影響を与えただけあって、読み応えバツグン。
 ”捕り手”とロバートの、双方の視点から物語は進みます。
 ”捕り手”は思慮深いですが、人間の生活様式に精通しているわけではありません。”捕り手”のおかげで健康を保っているロバートが、徐々に危険に対して無頓着になっていくのを心配しています。
 ロバートは、若干15歳ということもあって、大人のようには自由に動けません。さらに、”捕り手”を名乗っている存在が、本当は“ホシ”なのではないかと疑っています。

 再読ですが、きれいに“ホシ”の潜伏場所を忘れてました。忘却能力って、すばらしいです。
 なお、20億というのは、執筆当時の地球の総人口です。

 
 

 
■■■ 書房入口 ■ 書房案内 ■ 航本日誌 ■ 書的独話 ■ 宇宙事業 ■■■