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2012年の記録
目録
 
 
 
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このページの本たち
メディチ家の暗号』マイケル・ホワイト
記憶の国の王女』ロデリック・タウンリー
冷たい方程式[新装版]』伊藤典夫/編
ジャッキー、巨人を退治する!』チャールズ・デ・リント
黒猫ルーイ、名探偵になる』キャロル・ネルソン・ダグラス
 
パイレーツ −掠奪海域−』マイクル・クライトン
タイタンの妖女』カート・ヴォネガット・ジュニア
奇蹟の輝き』リチャード・マシスン
航路』コニー・ウィリス
勇猛なるジャレグ』スティーヴン・ブルースト

 
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2012年04月25日
マイケル・ホワイト(横山啓明/訳)
『メディチ家の暗号』ハヤカワ文庫NV

 イーディー・グレインジャーは、古病理学者。
 叔父のカーリン・マッケンジーと共に、メディチ家礼拝堂で遺体の調査を行っていた。イーディーは、コジモ・デ・メディチだと言われている遺体が別人のものである説を唱えているが、真偽はまだ分からない。
 ジェフ・マーティンは、歴史学者。
 ある日ジェフの元に、マーリオ・スポラーニと名乗る老人が訪ねてくる。マーリオは、かつてメディチ家礼拝堂の管理人だった。
 40年前、フィレンツェは大洪水に見舞われ、礼拝堂も被害を受けた。混乱の最中マーリオは謎の円筒を入手するが、何者かに強奪されてしまう。犯人は、マーリオを脅しつけて去っていった。
 彼らは、墓所の調査をやめさせたいらしい。マーリオに脅迫文が届くが、調査団には相手をしてもらえない。そこでマーリオは、イーディーとつながりのあるジェフに協力を求めたのだった。
 ジェフは、脅迫文を見せられても半信半疑。そんなとき、マッケンジーが何者かに殺されたというニュースが飛び込んできた。イーディーを心配したジェフは礼拝堂にかけつけるが……。

 おそらく、予備知識があると楽しめないと思います。この本をきっかけにメディチ家への理解が深まることも、期待しない方がいいでしょう。
 物語の出発点は、マーリオが円筒を発見することになる嵐の夜。マーリオは大洪水から墓所を守ろうと、礼拝堂にかけつけます。
 水の浸入を、どんなことをしてでも防がなければー!
 と気合い充分でしたが、水の浸入を阻止する行動はとりません。土嚢を積むことも、地下への入口を目張りすることもありません。ただ地下に入って、水の勢いにパニックに陥って、流れてきた円筒をつかんで逃げるだけ。
 常にそんな感じなのです。文章に説得力が伴わないので、読みながら引いていく自分に気がついてしまいました。


 

 
 
 
2012年04月30日
ロデリック・タウンリー(布施由紀子/訳)
『記憶の国の王女』徳間書店

 シルヴィは、ワルサー王国の王女さま。リゲロフ王子との結婚を断り、大冒険を繰り広げます。おとぎ話『とてもすてきな大きなこと』の中で……。
 シルヴィの物語は、藍色の瞳の少女に大好評。登場人物たちは繰り返し繰り返し、同じ物語を演じました。それも昔。最近では読者に見放され、本が開かれることは滅多にありません。
 出番のない日々にうんざりしていたある日、ついに読者が現れました。
 クレアです。
 シルヴィたち登場人物は、クレアのために物語を演じました。クレアは毎晩、本をベッドへ持っていき、読んでから寝るようになりました。ときには、本を閉じるのを忘れたまま、寝入ってしまうことも……。
 そんなときシルヴィは、東のほう、王国の森の向こうに広がるクレアの夢をのぞき見るのでした。クレアの夢には筋書きがなく、シルヴィは魅せられてしまいます。境界線を越えて、夢の世界に入ってしまいますが……。

 児童書です。
 序盤は、本の中での暮らしが展開されます。雰囲気は、おとぎの国です。ただ、そこが本の中だと強調するような記述が出てきます。読者が本を開いたため3ページまで全力疾走、とか。活字の上に頭をのせて休む、とか。
 最後までこんな調子なのかな、と思っていたら、シルヴィたちの世界に大事件が勃発し、物語は急展開します。
 シルヴィが禁忌を破って本の中から読者を見上げた、なんてのは些細なこと。児童書なので、コンパクトにサラリと書いてありますが、深いです。とても。


 
 
 
 

2012年05月03日
ロバート・シェクリイ/ジョン・クリストファー/ウォルター・S・デヴィス/アイザック・アシモフ/トム・ゴドウィン/ジャン・ストラザー/アルフレッド・ベスター/C・L・コットレル/クリフォード・D・シマック
(伊藤典夫/編・訳)
『冷たい方程式[新装版]』ハヤカワ文庫SF1832

 1980年に出版された『冷たい方程式』を再編集したもの。トム・ゴドウィン「冷たい方程式」と、アイザック・アシモフ「信念」だけが重なってます。

ロバート・シェクリイ
「徘徊許可証」

 惑星ニュー・デラウェアは、忘れられた植民星。地球との交信が断絶して200年たつ。その間に星は疫病に襲われ、かろうじて生き残った人々は先祖の生活様式を捨て、新しい暮らしを始めていた。
 ある日、古代の通信機が生き返る。地球は帝国となっており、近々ニュー・デラウェアに調査官がやってくるらしい。植民地が、今でも地球帝国の一員であると確認するために。人々は、昔の書物を参考にして、上辺だけでも地球らしくしようとするが……。
 冒頭、背景説明のないまま〈犯罪者〉となった漁師のトム。徐々に、事情が明らかになっていきます。その真面目っぷりが、おもしろいです。奥底には、おもしろい以上のものが潜んでます。

ジョン・クリストファー
「ランデブー」

 最愛の妻ヘレンが溺死してしまい、わたしは深い哀しみに沈んでいた。仕事にのめり込んでみたものの哀しみは癒えず、見かねた社長夫妻によって、喜望峰への船旅に送り出されてしまう。
 往路のわたしは無気力状態で、酒浸りだった。だが、復路で出会ったシンシア・パーカーという老女と、すっかり意気投合。シンシアは徹底した飛行機嫌いなのだが……。

ウォルター・S・デヴィス
「ふるさと遠く」

 アリゾナのプールの管理人は、ある朝、信じられない光景を目の当たりにした。潮の香が漂う中、プールに鯨がいたのだ。管理人は茫然自失に陥ってしまうが……。
 ショート・ショート。

アイザック・アシモフ
「信念」

 ロジャー・トゥーミイは、大学教授。夢をきっかけにして、空中浮揚の能力に目覚めてしまった。ロジャーは、同僚たちに秘密にしたまま、この能力を研究してもらおうと科学者たちに手紙を送るが……。
 アシモフがこういう作品を書いた、というのがミソなのでしょう。科学者のあしらい方が分かります。

トム・ゴドウィン
「冷たい方程式」

 惑星ウォードンの探検隊が、熱病に襲われてしまった。ただちに緊急発進艇(EDS)が出動するが、パイロットのバートンは、密航者を発見する。それは、若い娘だった。ウォードンにいる兄に会いたいがために、軽い気持ちで乗り込んでしまったのだ。
 密航者がいては、目的地に着くための燃料が足りない。絶対に船外遺棄しなければならないのだが……。
 古典SFの傑作とされている名作。
 出発前になぜ点検しない? とか、同じ動機と無邪気さでも若い娘でなかったら即座に放り出されていただろう、とか、考えなくもないです。それでも、泣けるものは泣けてしまいます。

ジャン・ストラザー
「みにくい妹」

 オーガスタは、容姿には恵まれなかったものの、知能には一目おかれるものがあった。しかし、父が他界し母が再婚したことで、状況が一変。美しいシンデレラが義妹となったのだが……。
 童話「シンデレラ」を、義姉の視線から語った作品。

アルフレッド・ベスター
「オッディとイド」

 オディッセウス・ゴールには、不思議な能力があった。本人はまったく気がついていなかったが、幸運に恵まれ、常に願いが叶えられる能力が備わっていたのだ。
 生理学者にしてスペクトル物理学者のジェシー・ミグは、オッディの能力に着目。オッディを教化して、平和な世界を実現しようとするが……。

C・L・コットレル
「危険! 幼児逃亡中」

 ジルは8歳。施設を逃げ出し、町へとやってきた。町は静かで、ジルは人間をさがすが誰もいない。
 町では、軍部によってすべての市民が退避させられていた。ジルはただの少女ではなく、とてつもない超能力を備えた子供だったのだ。ジルを教え導いてきたプランは、なんとかジルを捕らえようとするが……。

クリフォード・D・シマック
「ハウ=2」

 ゴートン・ナイトが〈ハウ=2〉社に注文した、組立式の機械の犬は、しかし、組み立ててみるとロボットだった。ロボットは高価で、とても手の出せないしろもの。ゴートンは、好奇心からロボットを組み立てて使用してしまう。たちまち世間の知るところとなり、〈ハウ=2〉社から訴えられてしまうが……。


 
 
 
 
2012年05月04日
チャールズ・デ・リント(森下弓子/訳)
『ジャッキー、巨人を退治する!』創元推理文庫

 ジャクリーン・エリザベス・ローアン(ジャッキー)は、インドア派の19歳。恋人ウィルが捨て台詞を残してアパートを去り、深い哀しみに囚われてしまう。伸ばし続けていた髪を切り、茫然自失なまま、夜の町へと出かけていった。
 やけ酒をあおるものの気持ちは晴れず、そんな中、夜の公園でジャッキーが目撃したのは、9台のハーレーがひとりの少年を追いかける光景だった。
 少年は、よく見ると小男だった。
 ジャッキーは、小男が襲われる瞬間、思わず駆け付けてしまう。残されていたのは、赤い帽子だけ。ライダーたちも死体も消えてしまった。
 翌日、ふたたび公園に向かったジャッキーは、あの赤い帽子を持っていた。昨夜の幻影が遠いものに感じられるものの、この帽子の存在は現実なのだ。ジャッキーは帽子をかぶり、町に、別の世界が重なっていることを知る。
 妖精の国〈キンローアン〉が、そこにあった。ただ、平和とはほど遠く、王に忠誠を誓う者たち〈祥いの民〉は、弱る一方。人間たちが、その存在を信じなくなっているからだ。代わって、彼らに敵対する、巨人が率いる〈祥なき民〉は勢力を拡大していた。
 昨夜の事件は、その一端だったのだ。
 ジャッキーは、〈祥いの民〉に代わって自分が行動を起こそうとするが……。

 童話「巨人殺しのジャック」など、ジャックがトリックスターとして活躍する物語が下敷きになってます。いかにもジャックらしく、ジャッキーにはラッキーがつきまとってます。
 童話が下敷きになっているため、安定感があって、安心して読んでいられます。ただ、そのために驚きは少なめ。いつかどこかで読んだような、見知った展開が山盛りになってます。
 なじみのアレコレをどう料理しているか、その点を楽しむべきなのでしょうね。


 
 
 
 
2012年05月05日
キャロル・ネルソン・ダグラス(甲斐理恵子/訳)
『黒猫ルーイ、名探偵になる』ランダムハウス講談社文庫

 ミッドナイト・ルーイは、ラスベガスに暮らす黒猫。
 いつもはホテル&カジノの〈クリスタル・フェニックス〉の私服警備員を務めている。なかなか居心地がいいところだったが、経営者夫婦に子供ができ、すっかり居心地が悪くなってしまった。
 そこでルーイがしたのは、はるばる〈ラスベガス・コンベンションセンター〉まで足を延ばして不快感を表明すること。
 センターではちょうど、米国書店協会のブックフェアが開かれるところ。目玉は〈ベイカー&テイラー〉社の有名な看板猫ベーカーとテイラーの展示。当の両猫がいなかったためルーイはそのまま帰ろうとするが、死体の匂いを嗅ぎ付けてしまう。
 テンプル・バーは、コンベンションセンターの広報担当。
 目玉の2匹の猫が失踪してしまい大わらわ。会場に猫がいたと聞きつけ駆け付けるが、猫は黒猫で、しかも死体を発見してしまった。
 殺されたのは、ペニロイヤル出版の社長、チェスター・ロイヤル。
 ペニロイヤル出版はただのインプリントだが、ベストセラー作家たちを抱えて、かなり儲かっていた。というのも、ロイヤルが作家たちを食い物にしていたから。あまり好かれていない被害者だったが、殺しにまで発展させたのは誰なのか?
 テンプルは、捜査を担当するモリーナ警部補を手伝いつつ、自身も情報を集めだすが……。

 黒猫ルーイのシリーズ、第一弾。
 ルーイの独白も少しありますが、主役はあくまでテンプル・バー。キャリア・ウーマンで、しっかりしている半面、男に捨てられて今でも引きずってます。
 肝心の犯人あての謎解きは、ちょっと翻訳ものだと難しいかな、と。事件の背景にあるものは、早い段階で気がつくことができるのですが、犯人となると……。テンプルが明言してようやく、英語だとそれがヒントになるのだ、と知ったのでした。
 是が非でも自分で犯人を当てたい人は、ちょっとがっかりかもしれません。仕方ないことですが。


 
 
 
 
2012年05月09日
マイクル・クライトン(酒井昭伸/訳)
『パイレーツ −掠奪海域−』早川書房

 1665年。
 イングランドが、カリブ海のジャマイカ島をスペインから奪って10年。ジャマイカのポート・ロイヤルは、依然としてスペインの植民地に囲まれている。総督のサー・ジェイムズ・オルモントは、ポート・ロイヤルを守り繁栄させるため、私掠活動を推進していた。
 チャールズ・ハンターは、私掠船カサンドラ号の船長。
 ある日ハンターは、スペインの財宝船の情報を知らされる。何週間か前の嵐で損傷を受け、マタンセロス島に避難したらしい。
 マタンセロスは、スペインが誇る難攻不落の要塞島。残忍なカサーリャ司令官のもと、一個守備隊が詰めている。昨年、300人の手勢を率いた私掠者が襲ったが、帰ってきたのはたったひとり〈ウィスパー〉だけだった。
 ハンターは〈ウィスパー〉から、島の地理を聞き、マタンセロス攻略の準備にとりかかる。 声をかけたのは、外科医にして天才的な航海士のエンダーズ、火薬の専門家ドン・ディエゴ、怪力の巨漢〈ムーア人〉ことバッサ、驚異的な視力を持つ水先案内人レイジュー、カリブ海一の冷酷な殺し屋サンソン……。
 カサンドラ号は、60人からなる船乗りたちを乗せて出航するが……。

 マイクル・クライトンの死後、発見された作品。
 ハンターはオルモントから資金援助を受けますが、海賊行為を許されているわけではありません。行って奪ってくるだけでなく、正当性を主張できるだけの理由が必要になります。
 生きるか死ぬかの世界なので、理由なんて後付けでどうにかするって感じにはなってますが。
 登場人物がとても多いですが、混乱することもなく読めてしまうのが、さすがクライトンといったところ。ただ、完成させる前に亡くなってしまったのですから、伏線らしきものが放置されていたり、その後の展開がありそうな逸話がそのままになっていたり、残念な部分はあります。
 そのあたり割り引いて読むべきなのでしょうね。


 
 
 
 
2012年05月12日
カート・ヴォネガット・ジュニア(浅倉久志/訳)
『タイタンの妖女』ハヤカワ文庫SF262

 ウインストン・ナイルス・ラムファードが自家用宇宙船で飛び込んだのは、時間等曲率漏斗のまっただなか。おかげでラムファードは、すべての時空にあまねく存在する全能者となった。
 しかし、ラムファードは歪んだらせんの中に閉じ込められた身。実体化できるのは、らせんが地球と交叉するときだけ。きっちり59日ごとに、ラムファード邸に現れるのだ。
 ラムファードに対する人々の関心は熱狂的だったが、ラムファード夫人のビアトリスは、第三者の立ち会いを断固として拒否してきた。これまでは。
 大富豪のマラカイ・コンスタントが、ラムファード邸に招待されたのだ。ラムファードがコンスタントに、運命を教えるために。
 コンスタントの目的地は、タイタン。だが、そこに至る前に、火星と水星、そしてもう一度地球を訪ねることになる。しかも、火星でラムファードの妻と番わせられて、クロノという子供ができるという。
 予言に衝撃を受けたコンスタントは、火星旅行の可能性を抹消するため、所有していた〈ギャラクティック宇宙機〉の持ち株を売り払った。さらには、旅行もできないように疲れ果てるため、長い長いパーティを開催。油田の大盤振る舞いをした結果、無一文になってしまう。
 一方ビアトリスは、宇宙旅行について発言権を得るために、〈ギャラクティック宇宙機〉の株を買いあさっていた。ところが、株式市場は大暴落。大損害を被ったビアトリスは、ラムファードの実体化で見物料を稼ごうと画策するが……。

 ラムファードの予言は、実際のところ予告のようなもの。ラムファードは陰でいろいろと暗躍します。
 途中で記憶をなくしたコンスタントとビアトリスは、それぞれ精一杯生きようとします。その結果は、ラムファードの思うつぼ。
 では、その目的とはなんなのか?
 全能者のラムファードも抗えなかった運命が、とても哀しいのです。


 
 
 
 
2012年05月13日
リチャード・マシスン(尾之上浩司/訳)
『奇蹟の輝き』創元推理文庫

 クリス・ニールセンは、脚本家。4人の子宝に恵まれ、妻のアンと幸せな日々を送っていた。
 ある夜クリスは、交通事故に遭ってしまう。
 頭を強打したために意識を失い、次に気がついたときクリスは、自分が死にかけていることを悟った。必死に抵抗し夢のような世界を彷徨うが、目撃するのは、自分が死んでいる光景ばかり。嘆くアンには、自分の存在を気がついてもらえない。
 ついにクリスは、現世から、別の世界へと移っていった。
 クリスがたどり着いたのは〈常夏の国〉と呼ばれる、美しいところ。かつて看取った愛犬に迎えられ、若くして亡くなった従兄弟のアルバートとも再会した。アルバートは〈常夏の国〉について、クリスにさまざまなことを教えてくれる。
 この精神的な世界はとてもよいところだが、クリスにとってアンの喪失が何事にも代え難い。アンの寿命を調べてもらうと、72歳だという。ふたたびアンと会えるまで24年待つことになるのだ。
 ところがアンは、寿命が尽きるのを待たずに自殺してしまった。死後の世界をまったく信じていないアンは、まるで地獄のような低次元領域に捕らえられているらしい。
 クリスは、危険をおかしてアンの救出に向かうが……。

 スピリチュアル小説。
 クリスが亡くなって1年後、クリスの兄ロバートの元に、自称霊媒師がやってきます。6ヶ月もの日々を費やして、代筆させられた、と。渡された分厚い封筒に入っていたのが、この物語。
 クリスが死後の世界を知らしめるために著した、という設定のため、非常に啓蒙書くさいです。
 過去に霊的な啓蒙書を読んで引いてしまった人は、本書がどんなに感動的だとしても、読むべきではないように思います。


 
 
 
 
2012年05月17日
コニー・ウィリス(大森 望/訳)
『航路』上下巻/ヴィレッジブックス

 ジョアンナ・ランダーは認知心理学者。マーシー・ジェネラル病院に在籍し、臨死体験の聞き取り調査を行っている。目的は、臨死体験の原因と働きを科学的に解明すること。
 ある日ジョアンナは、神経内科医のリチャード・ライトに共同研究を持ちかけられる。
 リチャードの研究は、死に瀕している脳の中でなにが起こっているのか、つきとめること。臨死体験そのものは、神経刺激薬によって作り出せる。そのときの脳の状態をRIPTスキャンにかけ、分析するのだ。
 臨死体験が脳のサバイバル・メカニズムだとすれば、心停止した患者の蘇生に応用できるはず。
 ジョアンナは、心臓病で入退院を繰り返している少女メイジー・ネリスのことを思い、快諾する。早速、被験者となったボランティアたちを調査するが、問題のある人たちばかり。眉唾物の臨死体験本に感銘を受けて被験者になった人たちでは、正確な調査は期待できない。
 ジョアンナは被験者が不足する中、やむなく自己実験に踏み切るが……。

 医学ミステリ。
 ジョアンナは何度となく臨死体験に挑み、毎回、同じところに現れます。そこは天国とかではなく現実の場所で、どこだか知っている、ということは分かるけれど、思い出すことができない場所。ジョアンナは説明を試みますが、なかなかリチャードには伝わりません。
 臨死体験がテーマになってますが、もうひとつのキーワードが、メッセージ。
 脳は、どんなメッセージを伝えようとしているのか?
 架空の装置や薬品も混ざってますが、かなりリアルに、納得して読むことができました。5年ぶりの再読、というものの、何度読んでも惹きつけられます。


 
 
 
 
2012年05月19日
スティーヴン・ブルースト(金子 司/訳)
『勇猛なるジャレグ』ハヤカワ文庫FT

 《暗殺者ヴラド・タルトシュ》第一巻。
 ヴラド・タルトシュの生業は暗殺業。人間が〈東方人〉として蔑まされる中、帝都アドリアンカの一角を取り仕切るまでになっている。
 世界は、ドラゲイラ族によって支配されていた。ドラゲイラ族は17の家柄に分かれており、ヴラドが所属するのはジャレグ家。唯一ジャレグ家だけが、身分を金で購うことができたのだ。たとえ〈東方人〉であったとしても。
 ある日ヴラドの元に、ジャレグ家〈評議会〉の一員デーモンから呼出しがかかった。〈評議会〉の運営資金が盗まれたという。犯人は、〈評議会〉の一員だったメラー。
 すぐさまメラーを恒久的に抹殺し、資金を取り戻さなければならない。世間に知られるその前に。
 ヴラドは、莫大な報償金と、有力者デーモンに貸しをつくれることから仕事を引き受ける。ところが、調べてみるとメラーの居場所はドラゴン家の〈黒の城〉。
 ジャレグ家とドラゴン家は、かつて大戦争を繰り広げたことがある。原因は、ジャレグ家の暗殺者がドラゴン家の客に対して仕事をしたこと。以来、ドラゴン貴族の屋敷に客として滞在しているものは、ジャレグといえども手出しできない。
 〈黒の城〉の所有者マローラン卿はヴラドの友人だが、名誉を重んじる貴族でもある。ヴラドは、メラー暗殺の方策を探るが……。

 異世界を舞台にしたハードボイルド。
 ドラゲイラ族はとんでもなく長命で、妖術を使い、死人を生き返らすこともできます。ヴラドは妖術も身に付けてますが、呪術の方が得意です。
 世界設定の説明は必要最低限。あくまで、メラーの行動の謎と、どうすれば穏便に暗殺できるか、といったことの方が主眼になってます。
 そのミステリ部分に絡んでくるのが、ヴラドとその仲間たち。ヴラドは一匹狼ではなく、さまざまな人が協力してくれます。
 暗殺者なので、どこか血なまぐさいものを想像していたのですが、もっと血の通った作品でした。

 
 

 
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