《スペルシンガー・サーガ》第三巻
半人前のスペルシンガー、ジョン・トムは、元はといえば地球の大学生。知性ある動物たちの暮らす世界に呼び寄せられ、現在は、魔法使いクロサハンプの元に身を寄せている。ジョン・トムが地球に帰るには、クロサハンプの手助けが必要不可欠。
そのクロサハンプが病に侵されてしまった。病を治す薬は、クランクラーンの町にある〈どっちもこっちもの店〉にしかないという。クランクラーンの町は、〈ぎらぎらの海〉を越え、スナーケンの町のさらにその向こうにあるらしい。
ジョン・トムはクロサハンプのために、クランクラーンの町を目指して旅立つ。同行するのは、世知にたけたカワウソのマッジ。
はじめジョン・トムは、〈ぎらぎらの海〉で金を払って船に乗るつもりだった。それが確実で簡単な方法だからだ。
ところが、クロサハンプのライバルである魔法使いザンクレスタが横槍を入れてきた。ザンクレスタの目的はただひとつ。クロサハンプを困らせること。
ジョン・トムとマッジは投獄されてしまう。窮地を脱するためジョン・トムはスペルソングを奏でるが、その結果は、白い雌トラの戦士ローズロアの出現だった。
幸い、ジョン・トムはローズロアに気に入られる。脱獄した一行はマドルタップ湿原へと逃げ込むが……。
スペルシンガーは、音楽を通じてしか魔法が使えない魔法使い。少しばかり修行をしたらしいジョン・トムは、ほんのちょっぴり自信がついてきた感じ。とはいうものの、不安定であることに変わりはなく、本人も最後の手段と考えています。
今作は、冒険に次ぐ冒険で、いろんなことが起こります。
ただねぇ、つい最近まで大学生のジョン・トムが、18歳くらいの少女を子供呼ばわりしてたり、腑に落ちないところもチラホラ。こまかいところの合点もいくと、かなりおもしろく没頭できるんですけど。
第三次有人火星探査隊は、ついに火星に到達した。
探査隊を率いるのは、アメリカ人のジョン・ラドコフスキー。過去の遠征隊は火星に降り立ちはしたものの、二度と地球の土を踏むことはなかった。今度こそ、生きて帰らなければならない。
ところが着陸2日目にして、探査隊は絶望的な状況に陥ってしまう。帰還船〈ダルシネア〉がトラブルに見舞われ、ひとりの犠牲者を出したうえ、再起不能に陥ったのだ。
金策に苦しんだ第三次火星探査隊に、予備の帰還船は存在しない。また、地球から救援がかけつける見込みもない。
隊員のライアン・マーティンは、ブラジルの第一次探査隊が遺した〈ジェズス・ドゥ・スル〉を使うことを思いつく。しかし〈ジェズス・ドゥ・スル〉の定員は2名。たとえ使用可能であっても、第三次火星探査隊には、まだ5名の人間がいる。
ジョン・ラドコフスキーは、常識に欠けたライアンの提案に躊躇するが、他に選択肢はなかった。〈ジェズス・ドゥ・スル〉のある北極にたどり着くことすらできない可能性もある。だが、このままとどまれば、確実に全員が死んでしまうのだ。
一行は、6000キロの彼方を目指して旅立つが……。
第三次有人火星探査隊員は、5名。
往路専用の探査船〈ドン・キホーテ〉の船長、ジョン・ラドコフスキー。ちょっと人には言えない過去があって、石橋を叩いて渡る人間になってます。
通信士官で、システム・エンジニアのライアン・マーティン。カナダ人で、ジョン・ラドコフスキーの見立てとは違って、実は慎重派。
エストレラ・コンセリェイロ。ブラジル人で、地質学者。ブラジル隊の指揮官ジョアンの未亡人でもあります。
医師で生物学者のターナ・ジャクソン。自由奔放なエストレラを快く思ってません。
タイ人の地質学者、チャムロング・リンピゴモルチャイ。2日目に亡くなってしまいました。語られたエピソードは少ないのですが、達観していて、もっとも好感の持てる人物だったでしょうに。
そして、一般人のトレヴァー・ホイットマン。金を集めるために火星クジが売り出されて、そのクジに当たって探査隊に加わりました。一応、21歳ということになってますが、他の隊員からは子供扱いされてます。
隊員たちの過去を挟みつつ、火星の厳しい自然が一行を圧倒します。細切れで展開していくので、盛り上がりにくいのが難点。
ハリー・ブレイクは、自分の店を持ち、稀覯本や地図の販売を生業としていた。
ある日ハリーは、地元の大地主トビー・テビットから仕事を請け負った。それは、古書の解読。トビー自身まったく知らなかったが、テビット家にはジャマイカに親戚がおり、遺産として古書が送られてきたのだ。
ハリーが見たところ、古書はどうやらジェイムズ・オーグルヴィーなる人物の手記であるらしい。保存状態はよかったが、速記のような文字で書き付けられており、すぐさま読み通すことは難しかった。
ハリーは手記を預かり調査を開始するが、不可解なことが立て続けに起こった挙げ句、トビーが殺されてしまった。
ジェイムズ・オーグルヴィーの手記によると、彼はロアノーク遠征隊に参加しており、遠征には秘密の目的があったらしい。400年以上前の秘密が、現代で殺人を引き起こしたのか?
ハリーは、トビーの娘デビーの許可を得て調査を続行するが……。
現代と、エリザベス朝の時代との2本立ててで物語は展開していきます。
ジェイムズ・オーグルヴィーは、スコットランド出身の若者。はじめての大都会で、人を殺めてしまいます。ロアノーク遠征隊(第一次)に参加したのは、追っ手から逃れるため。航海したかったわけではありません。
手記を解読したハリーは、航海史研究家のゾーラ・カーンに協力を求めます。そして、テビット家とオーグルヴィーとの関係をも調べていきます。
タイトルを見た瞬間、おおよその内容の見当がついてしまったのですが、予想外によくできてました。半ばまでは。
雑なところが目につくのが、つくづく残念。
《ノースウェスト・スミス》の連作短編集。
ノースウェスト・スミスは、熱線銃一丁をたよりに星から星へ渡り歩く無宿者。さまざまな犯罪に手を染め、未開の星の酒場や辺境では有名で、尊敬すらされている。
「シャンブロウ」
ノースウェスト・スミスは火星植民地で、興奮した群衆に遭遇した。彼らが追っているのは、赤褐色の膚をしたひとりの娘。人々は娘を「シャンブロウ」と呼んで殺そうとするが、スミスにはその理由が分からない。成り行きから娘を助け、かくまうが……。
「黒い渇き」
ノースウェスト・スミスは、ヴォディールと名乗る美女によってミンガ城に招き入れられた。アレンダーが支配するミンガ城は、恐怖の存在により厳重に守られ、鼠一匹はいれないと言われた伝説の城。ヴォディールはスミスに、ミンガ城やアレンダーのことを語るが……。
「真紅の夢」
ノースウェスト・スミスは火星のラクマンダの市場で、気ちがいじみた模様の、真紅のショールを手に取った。ショールは、アステロイドのまわりを漂流していた無人宇宙船で発見された品らしい。その夜スミスは、不思議な夢を見た。夢の中の住民はスミスに、もはや目覚めることはできないと告げるが……。
「神々の塵」
ノースウェスト・スミスと相棒のヤロールは、謎の小男から不可思議な仕事を請け負った。小男が求めているのは、すべての神々の最初で最大の祖先の神の塵。それがどこにあるのかは分かっているのだが……。
スミスの非合法活動は背景に退いてます。妖しい美女たちが幻想的で、印象深いです。
古き光の地に座す王国〈アルトディアス〉は、軍事大国〈グラーン〉によって滅ぼされた。侵略は情け容赦なく、国王は戦死、城は破壊つくされ、地下道を逃げた市民たちは生き埋めにされてしまう。
重傷を負った幼い王女ローゼリィを助けたのは、白妖精たちだった。回復したローゼリィは、白妖精たちから魔法や武術を学び取っていく。
数年後、仙境を旅立ったローゼリィは、きこりを装い、隣国〈ロリマー〉に潜入した。彼らの裏切りがあったからこそ、〈アルトディアス〉は孤立無援なまま滅んでしまったのだ。ローゼリィは、ロリマーのアーサー王子を助け、首尾よく彼の従者として入城するが……。
一方、ローゼリィと生き別れた双子の兄ローラント王子は、〈果ての塔〉に匿われていた。〈果ての塔〉は、白魔法使いたちの住まい。ローラント王子は白魔法を習得し、来るべき時に備えていた。
すでに〈アルトディアス〉が滅んでから6年がたつ。〈グラーン〉はこの春、西方の国々に大攻勢をかけるらしい。西方諸国は、一致団結して〈グラーン〉と対峙するが……。
剣と魔法のファンタジー漫画。
《三剣物語》の第二部。(第一部、三剣創生の物語(未発表)。第三部『はるかなる光の国へ』。第四部『アルディアの炎』(未発表))
三振りの魔剣の存在が、物語の焦点となってます。
光の剣(ルシリス)
銀の剣(シルヴァン)
陽の剣(ソレス)
とりわけ〈ルシリス〉には、運命をも変える力があるため、闇の眷属たちが狙ってます。その〈ルシリス〉が選んだ主人が、ローゼリィだった、と。
そのようなわけで、人間界でのあれこれに、白妖精たちのあれこれや、冥府(ニブルヘル)のあれこれも重なって、かなり大変なことになっていきます。
雑誌連載は20年続いたのですが、途中で読まなくなってしまってました。完結したと聞きつけて、このたびようやく読破したわけですが、中途で離れた理由が見えてきたような……。
実は、この物語、先に発表された『はるかなる光の国へ』などで、結末がばれてます。そのため、主人公たちがどんな苦難に陥っても、けっきょくああなるんでしょ……という読み方になってしまう。
設定などはかなり精緻で、ブレもなく、しっかりしてる点は骨太でいいんですけどねぇ。
旧江戸川の堤防で他殺体が発見された。顔を潰され手の指は焼かれていたが、間もなく、被害者は富樫慎二と判明する。
富樫慎二は、5年前に離婚していた。相手は、花岡靖子。靖子は、離婚後もつきまとう富樫を苦々しく思っている。
事件を担当する草薙刑事は、殺人が行われた3月10日の行動を靖子から聞き出す。靖子が言うには、その日、ひとり娘の美里と一緒に映画鑑賞に出かけ、ラーメン屋で夕食をとり、カラオケボックスに立ち寄ったらしい。靖子と美里のアリバイは、ひとつひとつ、裏が取られていくが……。
実は、事件のあった日、靖子は富樫の訪問を受けていた。そこで大喧嘩となり、靖子は、美里を守ろうとして富樫を殺してしまっていた。呆然とする母娘に救いの手を差し伸べたのは、アパートの隣室に暮らす石神哲哉だった。
石神は、高校の数学教師。靖子にひそかな恋心を抱いてた。母娘を救うため、あるトリックを練り上げるが……。
直木賞受賞作。
石神の人物紹介があり、靖子の紹介があり、そして、殺人事件が発生します。主に捜査するのは草薙刑事ですが、天才物理学者の湯川学も関わってきます。草薙と湯川は友人ですが、
石神と湯川は大学時代の友人なのです。
と、いうわけで、本作は湯川学を主人公とした《ガリレオ》シリーズの三作目となってます。ただ、湯川を活躍させる必要があったかというと、やや疑問。警察の地道な捜査でも、なんとかなりそうな気がしたものですから。
読みやすくって、おもしろくはあるんですけどね。
《スペルシンガー・サーガ》第四巻
都市クワセクアは、〈嘆きの真珠湖〉の中央に浮かぶ無数の島々を統括していた。クワセクアを仕切っているのは、各島から正式に選ばれた代表者たち。彼らはクオラム会議を開催し、重要なことを決めてきた。
賢者オプロードは、クオラム会議の主席顧問。長年、クワセクアの住民のために尽くしてきたが、無敵のマーカスと名乗る人間に、主席顧問の地位を奪われてしまう。どうやらマーカスは、顧問以上の権力を狙っているらしい。
一方、クワセクアからはるか北方のベルウッドの森では、ジョン・トムが魔法使いクロサハンプと暮らしていた。
ジョン・トムは、修行中のスペルシンガー。楽器を奏で、スペルソングを歌うことで魔法を使う。
元はといえば地球の大学生だった。クロサハンプによって、この、知性ある動物たちの暮らす世界に呼び寄せられ、いまだに帰れずにいる。望みは、地球に帰ること。
そんなとき、オプロードからの使者がやってきた。
クロサハンプは、クワセクアの危機と聞いても反応が鈍い。オプロードの騒ぎすぎに思えたのだ。代わりに、ジョン・トムをクワセクアに派遣することに決める。
ジョン・トムは、マーカスが別世界からやってきたらしいと聞きつけ、興味津々。マーカスと力を合わせれば、自分の世界に帰れるのではないか、と、期待は高まるばかり。
友人のマッジと共に、意気揚々と旅立つが……。
物語の大半は、ジョン・トムとマッジの、ベルウッドからクワセクアまでの旅。危機また危機の連続で、実を言うと、マーカスとは無関係。
おもしろくはあるのですが、展開が前作までと同じような……。
2013年02月07日
ケイジ・ベイカー(中村仁美/古沢嘉通/訳)
『黒き計画、白き騎士』ハヤカワ文庫SF1884
《時間結社〈カンパニー〉極秘記録》
連作短編集
科学者とビジネスマンからなる秘密結社〈カンパニー〉は、24世紀に存在していた。
〈カンパニー〉に拾われたエージェントたちの仕事は、歴史の中で失われた貴重な品々を保護すること。彼らは時間をさかのぼることができ、不老不死をも獲得していたのだ。
ただ、対象物をそのまま24世紀に運ぶことはできない。そのため、安全な場所に隠し、適当な時期に〈カンパニー〉によって再発見されるよう、手はずが整えられる。すべては利益のために。
「ゼウスの猟犬たち」中村仁美/訳
あなたは、秘密結社の中の秘密結社、ドクター・ゼウス株式会社への潜入に成功した。証拠をつかむため、小さなディスクを盗み取ってくるが……。
本書をまとめた際に書き下ろされた、《カンパニー》シリーズの序章。
「貴腐」古沢嘉通/訳
サンタバーバラは、平和な時期を迎えていた。インディアンの反乱はおさまり、あとはヤンキーたちの到来を待つばかり。
ジョゼフは、サンタバーバラの伝道所につめている神父にして、〈カンパニー〉のエージェント。あるとき〈カンパニー〉から、メンドーサが派遣されてきた。目的は、伝道所で作られているワイン用葡萄の遺伝物質。
無愛想なメンドーサに、ジョゼフの苦労はたえない。貴腐菌のついた葡萄を発見したメンドーサは、〈カンパニー〉から特別ボーナスを提示されるが……。
「スマート・アレック」中村仁美/訳
24世紀。
アレックは、フィンズベリー伯爵の息子。4歳まで、両親と共にヨットで暮らしていた。使用人たちと陸に住むようになったのは、両親が離婚したため。
執事のルーウィンはアレックを不憫に思い、プレイフレンドを取り寄せた。高度なAIのプレイフレンドは、サイバー空間で子供の友だちとなる存在だ。子供をよりよく導くようプログラムされているのだが……。
「カルーギン博士の逮捕に関連する事実について」中村仁美/訳
カルーギンは〈カンパニー〉のエージェント。カリフォルニア植民地に、医師として派遣されていた。
あるときカルーギンの元に、〈カンパニー〉からのメッセージを携えたクーリエが尋ねてくる。情報はカルーギンが要求したものだが、クーリエの次の任務が分からない。カルーギンはクーリエに待つように言うが……。
「オールド・フラット・トップ」中村仁美/訳
クロマニヨン人の少年は、神がいるという山に登っていった。その高さときたら、雲の上をのぞけるほど。そこで少年が出会ったのは、巨人だった。
巨人は、人間たちの歴史を語るが……。
「ここに葬られし亡骸(ダスト)」古沢嘉通/訳
シェイクスピアは、サイバーテクノロジーによって蘇った。目的は、復元されたグローブ座で客を楽しませるため。ホログラムとなったシェイクスピアは、プログラムに従って仕事をこなしていく。
ある日、少年アレックと出会うが……。
「リテラリー・エージェント」古沢嘉通/訳
駆け出し作家のスティーヴンスンは、失意の中、ひとりでキャンプに赴き、倒れてしまった。そこに、ジョゼフと名乗る若者が現れ、ある提案をする。
ジョゼフは、未来の顧客たちのために、ドラマ構成をして欲しいらしい。必要なのは、ひとつのプロットと何人かの登場人物。それだけ。
ジョゼフはスティーヴンスンに、これは夢だと語るが……。
「レムリアは甦る!」中村仁美/訳
1860年。メンドーサはピスモ・ビーチにいた。めずらしいマツヨイグサの変種を確保するためだ。
まだ大陸横断鉄道は完成しておらず、ビーチは無人。メンドーサは孤独を望んでいたが、すぐ近くで隠者が暮らしていた。
隠者はメンドーサに、〈降臨されたご主人(マスター)たち〉の話をするが……。
「グラッドストーン号の遭難」中村仁美/訳
1893年。スクーナー型帆船グラッドストーン号はカタリナ海峡で沈没した。乗員乗客は全員死亡。貴重な美術品も海に消えた。
任務に失敗したカルーギンは、仲間たちと共に、沈没した現場に戻って来ていた。貴重な品を引き上げるために。ところが、グラッドストーン号のサルベージを目論むのは、〈カンパニー〉だけではなかった。生存者がいたのだ。
両者は争いとなるが……。
「モンスター・ストーリー」中村仁美/訳
24世紀。イギリス全土の10歳の子供は試験を受け、〈未来の社会人のための職業評価〉を判定される。伯爵子息であるアレックも、正規のルートは通らなければならない。
ただし、アレックには、論理規定を外したAIがついていた。試験のトリックを見破ったAIが、すべてを教えてくれるが……。
「ハヌマーン」中村仁美/訳
メンドーサは、第五修理リハビリセンターにいた。事故に巻き込まれ、ひどい損傷を受けてしまったのだ。
サイボーグであるメンドーサは、医療技師の格好の研究対象。なかなか退院させてくれない。アウストラロピテクス・アファレンシスに出会ったのは、そんなときだった。
彼はハヌマーンと名乗り、メンドーサにつきまとうが……。
「スタジオの便利屋、マリブの海に消ゆ」中村仁美/訳
ジョゼフは、ハリウッドにいてスタジオの便利屋として働いていた。だが、それも潮時。退場するべき時期にきていた。
ジョゼフは仲間のルイスに後を引継ぎ、自身の死を演出するため海に入るが……。
「将来有望な少年」中村仁美/訳
14歳になったアレックは、論理規定を外したAIに、金儲けを持ちかけられた。アレックは伯爵子息だが、財産を引き継げる保証はない。万一に備える必要があったのだ。
金儲けの方法は、密貿易。もうすぐ学期末で、アレックはいつものように、小型のヨットをチャーターするつもりでいた。それを使って、密貿易する計画を立てるが……。
「黄衣の女王」中村仁美/訳
1914年。エージェントのルイスはエジプトにいた。ピートリー教授を手伝って発掘作業に当たっていたのだ。目的は〈カンパニー〉が隠しておいた貴重な品の再発見。
ルイスは準備万端整えるが……。
「ハーランズ・ランディングのホテルにて」中村仁美/訳
1934年。
海辺の町、ハーランズ・ランディングは、さびれていた。ホテルはあったが営業しておらず、ただ、階下のバーだけは開けられていた。
ある夜、一帯は嵐に襲われた。船が遭難し、救難信号が入るが、誰も助けに行くことができない。バーにいた面々は落ち込むが……。
連作の中でひとつの柱になっているのが、アレックが関わってくる物語。
〈カンパニー〉であるドクター・ゼウス株式会社は別名をいくつも持っていて、そのうちのひとつが、アレックの出生の秘密に関係しています。ただ、秘密があることは明言されていますが、真相が明らかになることはありません。
アレックのエピソードだけでなく、本全体が、長篇のさわり部分を抜き出して並べてみました、といった印象。オチが予測可能なので、よけいにそう思うのかもしれません。
面白くないわけではないのですが、欲求不満なまま終わってしまいました。
《魔法の国ザンス》シリーズ第一巻。
ザンスは、魔法のシールドによって守られ、魔法によって支配されていた。ザンスで生まれた者は、誰もが独自の魔法の力を持っている。人間だけでなく、動物や、植物、岩でさえも。
もし、25回目の誕生日を迎えてもなお魔法を発揮できないと、その者はザンスに留まることはできない。シールドの外、マンダニアへと追放になってしまうのだ。
ビンクも、あとひと月で25歳。いまだに、なんの魔法も見せることができずにいる。ビンクは、よき魔法使いハンフリーの助言を求めて、旅立った。
魔法の国ザンスでも、魔法使い級となると3人しかいない。ハンフリーはそのうちのひとり。腕前は本物だが、ひとつのまじないにつき1年間の奉公を要求する。
苦難の旅の末、ビンクはハンフリーに会うが……。
英国幻想文学賞受賞。
ビンクの旅は、まさに紆余曲折。ハンフリーが居城の場所を明らかにしていないため、すんなり到達とはいきません。
それでもなんとかたどり着いて、ハンフリーはビンクが魔法を持っていることを保証してくれます。が、それはほんの通過点。まだ半ばにも達してない。
最後の最後まで、二転三転でした。
《魔法の国ザンス》シリーズ第二巻。
トレント王はついに、ビンクに勅命をくだした。ビンクに与えられた任務とは、ザンスの魔法の源をつきとめること。
ビンクに同行するのは、セントールのチェスターと、グリフィンに姿を変えたクロンビー。一行がまず向かったのは、よき魔法使いハンフリーの城だった。
通常ハンフリーに答えをもらうには、1年の奉公が必要となる。今回は、王命ということもあり、ハンフリーから最高の助力を得ることができた。旅に付き添ってくれることになったのだ。
だが、魔法の源については、ハンフリー自身もよく知っているわけではない。一行は、さまざま困難に襲われるが……。
探求の旅が主軸。ビンクは何者かに命を狙われています。どうやら魔法の源とかかわりがあるらしいのですが、敵の正体はなかなか見えてきません。
その他、いろんな問題が提起され、解決していきます。
前作と立て続けに読んだせいで食傷気味になってしまって、もったいないことをしました。少し離して読むべきでした。