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復讐の序章』ジャック・ヴァンス
殺戮機械』ジャック・ヴァンス
愛の宮殿』ジャック・ヴァンス
闇に待つ顔』ジャック・ヴァンス
夢幻の書』ジャック・ヴァンス
 
スティーヴ・フィーヴァー』ポストヒューマンSF傑作選
ゴーレムの挑戦』ピアズ・アンソニイ
最後のウィネベーゴ』コニー・ウィリス
ミストボーン −霧の落とし子−』ブランドン・サンダースン
魔法つかいの船』ハネス・ボク

 
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2013年06月08日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『復讐の序章』ハヤカワ文庫SF631

 《魔王子》シリーズ、第一巻。
(第二巻『殺戮機械』第三巻『愛の宮殿』第四巻『闇に待つ顔』第五巻『夢幻の書』)
 太陽系を飛び出した人類は、一大文化圏オイクメーニを形作った。その他の法の通じない星域は〈圏外〉と呼ばれ、あらゆる犯罪者が跋扈している。中でも、極悪非道ぶりから〈魔王子〉と呼ばれる5人の凶悪犯罪者は、謎の多さも相まって人々に恐れられていた。

 カース・ガーセンは探星師として、スメード亭にやってきた。スメード亭は〈圏外〉の小さな惑星にある。
 ガーセンはそこで、探星師ルーゴ・ティーハルトと出会った。ティーハルトの告白を聞き、ガーセンは興味をかき立てられる。
 ティーハルトのスポンサーは、さる教育機関。ところがその正体は〈魔王子〉のひとり、アトル・マラゲートだった。ティーハルトが非常に美しい星を発見したため、このスメード亭に呼びつけてきたのだという。
 実は〈魔王子〉たちは、ガーセンにとって生涯をかけて復讐を誓った相手。
 まだ子供だったころ、故郷の町マウント・プレザントは彼らによって壊滅させられた。住民たちは、あるいは惨殺され、あるいは奴隷として連れ去られ、その行方は杳として知れない。ガーセンと、その祖父をのぞいて。
 ティーハルトは、やってきたマラゲートの手下に連行されてしまう。ところが、彼らが奪っていった宇宙船は、ティーハルトのものではなく、ガーセンのものだった。
 ガーセンはティーハルトの宇宙船を手に入れ、スメード亭を後にした。宇宙船には、訪問した惑星の位置を記録したモニター・フィラメントが搭載されている。マラゲートがガーセンを追ってくることは必須。
 ガーセンはマラゲートの裏をかき、正体を突き止めようとするが……。

 五部作の一作目。
 ガーセンの出発点は、ティーハルトとの会話のみ。推理と推測でスポンサーを割り出し、マラゲートかもしれない人物たちにかまをかけます。
 物語のミソは、ガーセンが追う立場であると同時に、追われる立場でもあるところ。まだ序章ということもあって、紆余曲折はそれほどでもないですが、かなり濃縮されてます。


 
 
 
 

2013年06月11日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『殺戮機械』ハヤカワ文庫SF635

 《魔王子》シリーズ、第二巻。
(第一巻『復讐の序章』第三巻『愛の宮殿』第四巻『闇に待つ顔』第五巻『夢幻の書』)
 太陽系を飛び出した人類は、一大文化圏オイクメーニを形作った。その他の法の通じない星域は〈圏外〉と呼ばれ、あらゆる犯罪者が跋扈している。中でも、極悪非道ぶりから〈魔王子〉と呼ばれる5人の凶悪犯罪者は、謎の多さも相まって人々に恐れられていた。
 カース・ガーセンは、〈魔王子〉たちによって壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐するために生涯を捧げている。

 ある日ガーセンは、超政府機関IPCCの役員ベン・ゾームから秘密捜査の依頼を受けた。
 〈圏外〉のある惑星におもむき、ある男を拘束、もしくは殺害する仕事だ。ある男は、ある惑星には立ち寄らないかもしれない。その場合は、それを立証する必要がある。
 乗り気になれないガーセンは断ろうとする。男の名も、どこの惑星であるかも秘密なのでは話にならない。そんなガーセンにゾームは、〈魔王子〉のひとり、ココル・ヘックスがからんでいることを告げる。
 ガーセンは依頼を承諾し、宇宙船で出発した。
 ある惑星に潜入したガーセンは、教えられた風貌に合致する男が貨物船で到着したことを知る。男が接触したのは、ビリー・ウインドルとして知られる人物。
 ガーセンは両者の取引を妨害し、それぞれが持っていた書き付けを奪い取った。男が死んでしまったため、帰星したガーセンはゾームに死体を引き渡した。
 ゾームによると、ウインドルはココル・ヘックスの変名のひとつであるらしい。任務は果たしたものの、落胆するガーセン。手元には、ゾームに渡さなかった2種類の書き付けが残された。
 ひとつは、伝説の惑星サンバーの仙魔に関すること。
 そしてもうひとつは、まったく意味不明なもの。
 ガーセンが次にココル・ヘックスの名を聞いたとき、かの魔王子は身代金目的の誘拐を何度となく繰り広げていた。それぞれの身代金は、破格の1億SVU。ガーセンは、人質と身代金とをやりとりする〈交換所〉で、ココル・ヘックスの目的を知る。
 ココル・ヘックスの求愛から逃れるために、美女アルース・イフゲニアが、自分自身に100億SVUという身代金をかけて〈交換所〉に避難していたのだ。ガーセンは、イフゲニアがサンバー出身を自称していることに興味をひかれる。
 ガーセンは、ココル・ヘックスと取引があったという男の身代金を払い、共同事業主として、接触を図るが……。

 冒頭の正体不明の男とココル・ヘックスとの取引は、単なるひとつのエピソードのように短いもの。それが、後々、大きな意味をもってきます。
 短い中にも過不足なく。古い作品はひきしまっていて、好感が持てます。


 
 
 
 

2013年06月12日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『愛の宮殿』ハヤカワ文庫SF641

 《魔王子》シリーズ、第三巻。
(第一巻『復讐の序章』第二巻『殺戮機械』第四巻『闇に待つ顔』第五巻『夢幻の書』)
 太陽系を飛び出した人類は、一大文化圏オイクメーニを形作った。その他の法の通じない星域は〈圏外〉と呼ばれ、あらゆる犯罪者が跋扈している。中でも、極悪非道ぶりから〈魔王子〉と呼ばれる5人の凶悪犯罪者は、謎の多さも相まって人々に恐れられていた。
 カース・ガーセンは、〈魔王子〉たちによって壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐するために生涯を捧げている。

 ガーセンは、〈魔王子〉のひとり、ヴィオーレ・ファルーシに関するニュースを見つけた。惑星サイコヴィーの毒匠カカルシス・アムスが、ファルーシに違法に毒を販売した廉で処刑されることになったというのだ。
 サイコヴィーを訪れたガーセンは、処刑の寸前、アムスよりファルーシの情報を入手する。
 アムスは30年近く前、ある男から奴隷女性2人を買い取った。アムスは男に再会したとき、あのときの奴隷商人だと気がついたが、それがヴィオーレ・ファルーシだとは思わなかったのだ。
 ガーセンは、奴隷女性たちの行方を追った。ひとりは亡くなっていたが、もうひとりのダンディーンは健在。ガーセンはダンディーンを身請けし、解放する。
 ダンディーンによると、彼女たちを誘拐し売り飛ばしたのは、ヴォーゲル・フィルシュナー。出身地は、地球のアンベレス。
 ガーセンはコズモポリス誌の特別記者という身分を手に入れ、アンベレスへと向かった。そして、取材と称して、30年前の大事件について調べあげる。  当時のフィルシュナーは、内向的な一風変わった少年。友だちはいない。転校生のジーラル・フィンジーにひと目惚れしたが、袖にされ、悪事を企てた。
 ジーラルの所属する合唱クラブの少女たちを誘拐したのだ。ところが、当日ジーラルはいなかった。しかし延期することもできず、フィルシュナーは28名の少女たちと共に宇宙に消えた。
 ガーセンは、彼が心酔していたという詩人ナヴァースを捜しだす。ナヴァースは、フィルシュナーがファルーシと名乗っている今でもコンタクトをとっているらしい。ナヴァースを利用してファルーシに近づくことを目論むが……。

 このシリーズは読み切りの形をとっていますが、前作とのつながりもあります。
 そのひとつが、冒頭のサイコヴィーへの旅にアルース・イフゲニアが同行するところ。
 もうひとつが、ガーセンが億万長者であるところ。
 前作で100億SVUを手にしたガーセンは、経済専門家のジハーン・アデルズを雇って資産の運用を任せます。おかげで、日々の収入は100万SVU。(ちなみに、ダンディーンの身請け代金は3000SVU)
 資金に関する制約がなくなったため、目的のためには大盤振る舞いも辞さず。もう少し苦労してもいいような…。


 
 
 
 

2013年06月13日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『闇に待つ顔』ハヤカワ文庫SF657

 《魔王子》シリーズ、第四巻。
(第一巻『復讐の序章』第二巻『殺戮機械』第三巻『愛の宮殿』第五巻『夢幻の書』)
 太陽系を飛び出した人類は、一大文化圏オイクメーニを形作った。その他の法の通じない星域は〈圏外〉と呼ばれ、あらゆる犯罪者が跋扈している。中でも、極悪非道ぶりから〈魔王子〉と呼ばれる5人の凶悪犯罪者は、謎の多さも相まって人々に恐れられていた。
 カース・ガーセンは、〈魔王子〉たちによって壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐するために生涯を捧げている。

 ガーセンは、財政顧問であり法律家でもあるジハーン・アデルズに、ある調査を依頼した。
 近々、このアロイシャスはラス・イーラン市に、宇宙船エッティリア・ガルガンティール号が入港する。何がなんでも足止めし、船主を法定の場に引っ張り出したい。
 エッティリア・ガルガンティール号は、かつてファヌーティス号と呼ばれていた。マウント・プレザントの略奪で奴隷船として使われた船なのだ。船主は、〈魔王子〉のひとり、レンズ・ラルク。
 ガーセンは、アデルズの見つけ出した他の惑星でのささやかな事件を利用することにする。訴訟権を持つクーニイ銀行を買収し、ラス・イーランに支店を開いて訴追に踏み切ったのだ。
 と同時に、コズモポリス誌記者の肩書きを利用し、レンズ・ラルクの実像に迫っていく。
 レンズ・ラルクはダー・サイ人だった。
 ダー・サイの主要な産出品は、高価なデュオデシメート。
 ダー・サイであるとき、オティール・パンショーがコツァッシュ相互という会社をつくった。デュオデシメート採掘師たちは、デュオデシメートをパンショーに預け、コツァッシュ相互の株券を受け取る。株券はいつでも現金化できるというふれこみで。
 そのコツァッシュ相互の倉庫がレンズ・ラルクに狙われた。しかもパンショーが保険金を払い忘れたため、株券はただ同然。コツァッシュ相互には他に資産があるため倒産することもなく、現在にいたっている。
 コツァッシュ相互の事業を調べてみると、不可解なことだらけ。しかし、その理由が皆目見当もつかない。
 ラス・イーランでの作戦が失敗すると、ガーセンはダー・サイへと飛ぶが……。

 本作が執筆されたのは、前作の12年後。
 そのせいか、これまでのガーセンから変化があります。少し壊れてきた、という印象。今までも容赦のない人でしたが、相当にあくどくなってます。どっちが〈魔王子〉が分からないような……。
 とりわけ変わったのが、女性関係。とにかく復讐第一で、色恋沙汰は二の次、たまに口説いても慣れてない感を漂わせていたのですが、すっかりプレイボーイになってました。
 作中の時間はそれほどたってないはずなので、連続して読んでしまうと違和感があります。おそらく、結末のオチのために仕組んだのでしょう。もうちょっと、ガーセンが追いかけそうな女性だったらよかったんですけどね。
 それだけが残念。


 
 
 
 
2013年06月14日
ジャック・ヴァンス(浅倉久志/訳)
『夢幻の書』ハヤカワ文庫SF669

 《魔王子》シリーズ、第五巻。
(第一巻『復讐の序章』第二巻『殺戮機械』第三巻『愛の宮殿』第四巻『闇に待つ顔』)
 太陽系を飛び出した人類は、一大文化圏オイクメーニを形作った。その他の法の通じない星域は〈圏外〉と呼ばれ、あらゆる犯罪者が跋扈している。中でも、極悪非道ぶりから〈魔王子〉と呼ばれる5人の凶悪犯罪者は、謎の多さも相まって人々に恐れられていた。
 カース・ガーセンは、〈魔王子〉たちによって壊滅させられたマウント・プレザントの生き残り。復讐するために生涯を捧げている。

 ガーセンの復讐も残すところハワード・アラン・トリーソングただひとり。ところがトリーソングは、まったく謎の人物。似顔絵ひとつなく、最近では、事業は手下に任せているらしい。
 トリーソングの行方がつかめない中、ガーセンは、IPCCのウォルター・ケーデリンから情報を得る。
 IPCCの運営組織は理事会だが、トリーソングが入り込み、乗っ取りを企てたらしい。けっきょく寸前のところで発覚し、トリーソングは逃走した。だが、自身に関する情報をすべて破棄させた後でのことだった。
 ガーセンは、藁にもすがる思いでコズモポリス誌の資料室をあさり、1枚の写真を見つけた。宴会を写した写真なのだが、そのなかにトリーソングがいるらしい。しかも、トリーソング以外の全員が亡くなっているらしい。
 ガーセンは、コズモポリス誌が姉妹誌〈エクスタント〉を創刊することを利用して、一大コンテストを行った。無料配布する創刊号の表紙にこの写真を使い、全員の名前を当てれば賞金10万SVUを支払うと宣伝したのだ。
 さらにガーセンは、名前当てコンテストの臨時アシスタント募集も行った。トリーソングが、スパイを送り込んでくることを見込んでのことだった。
 かくしてガーセンの前に、アリス・ロークという女性が現れる。ガーセンは、アリスを個人秘書として採用し、トリーソングをおびき出そうとするが……。

 シリーズ最終巻。
 完結編なので、シリーズを総まとめするかと思いきや、そんなことはなく。今回も読み切り形式で。ただ、内容は最終巻に相応しく、緩急も紆余曲折もあって、読み応えがありました。
 結末に漂う倦怠感が、また独特で。ササッと復讐してハイおしまい、ではなかったのが味わい深かかったです。ガーセンがかけた17年という歳月を感じさせました。
 ちなみに、当シリーズも完結までに17年かかったようです。 


 
 
 
 

2013年06月15日
ポストヒューマンSF傑作選(山岸 真/編)
(SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ジェフリー・A・ランディス/ロバート・チャールズ・ウィルスン/マイクル・G・コーニイ/イアン・マクドナルド/チャールズ・ストロス/メアリ・スーン・リー/ロバート・J・ソウヤー/キャスリン・アン・グーナン/グレッグ・イーガン/デイヴィッド・マルセク/デイヴィッド・ブリン/ブライアン・W.オールディス
(山岸 真/金子 浩/古沢嘉通/佐田千織/内田昌之/小野田和子/浅倉久志/中原尚哉/訳)
『スティーヴ・フィーヴァー』ハヤカワ文庫SF1787

 テクノロジーによって変容した人類の姿、そしてそれにともなって倫理観や価値観、さらには人間性の意味や人間の定義までもが大きく変化した世界の物語…を集めたアンソロジー。
 ポストヒューマンSFが苦手なのか、編者が自分の趣向と違うのか、おもしろがれない作品ばかりで、読み切るのに2年以上かけてしまいました。こういうジャンルがお好きな方にとっては、傑作ぞろい、なのだと思いますが……。

ジェフリー・A・ランディス(山岸 真/訳)
『死がふたりをわかつまで』
 いちども出会わずに、それぞれの生涯を閉じた男と女の物語。ふたりの細胞は保存されていて、やがて、クローンとしてあらたな生を送ることになるが……。

ロバート・チャールズ・ウィルスン(金子 浩/訳)
『技術の結晶』
 ローガンは義眼ショップで、涼やかな青色の虹彩を持った眼球に目をとめた。義眼が欲しくてたまらなくなるが、一介のデータブロック調整士には高嶺の花。だが、同僚の義眼を目の当たりにすると居ても立ってもいられない。高級な義眼を買ってしまうが……。

マイクル・G・コーニイ(山岸 真/訳)
『グリーンのクリーム』
 人々は、肉体を《シェルフライフ・センター》に置いたまま、遠隔体(リモーター)を操って、強制的な余暇を過ごしていた。自分の生身の体で過ごせるのは、3年の内1年だけ。
 ゴードンは、人間でいる間は村で《お宝特産品店&ティールーム》を開いていた。商売相手は、観光客たち。いよいよ、リモーターを満載したバスがやってくるが……。

イアン・マクドナルド(古沢嘉通/訳)
『キャサリン・ホイール(タルシスの聖女)』
 少年ナオンの祖父は機関士。だが、有人機関車は時代の波に飲み込まれようとしていた。ナオンは、最後の走行を迎えた〈タルシスのキャサリン〉号に乗せてもらうが……。

チャールズ・ストロス(金子 浩/訳)
『ローグ・ファーム』  
 ジョーは牧場経営者。ある朝、渡りファームの訪問を受けてしまう。ファームは、遺伝子工学の発達により出現した、人間の集合体。ジョーは妻マディと共に、追っ払おうとするが……。

メアリ・スーン・リー(佐田千織/訳)
『引き潮』
 エマはアメリカで暮らしていたが、ひとり娘のクラリッサがDIMS(進行性精神機能障害症候群)を発病してしまった。アメリカには、知的障害のある人々を強制的に〈改良〉する法律がある。脳に機械を埋め込み、人間ロボットとして生きねばならないのだ。
 エマはクラリッサをつれ、イギリスへと渡るが……。

ロバート・J・ソウヤー(内田昌之/訳)
『脱ぎ捨てられた男』
 ラスバーンは、機械の身体を手に入れた。意識をデジタル化しロボットにコピーすることで、新しい生を得たのだ。捨てられた人間の身体にはラスバーンの意識があるが、もはや人間として認められることはない。
 脱ぎ捨てられたラスバーンは、契約の取消を訴えるが……。

キャスリン・アン・グーナン(小野田和子/訳)
『ひまわり』
 スタニスは、テロリストがぶちまけた時間ナン・デバイスのために妻子を失った。苦しみ抜いた妻子は、スタニスをおいて自殺してしまったのだ。彼女らの苦しみを理解したいスタニスは、アムステルダムへと向かう。よそでは違法なものが、そこでは合法的に手に入るのだが……。

グレッグ・イーガン(山岸 真/訳)
『スティーヴ・フィーヴァー』
 リンカーンは、熱病に感染してしまった。アトランタに行きたくてたまらなくなったのだ。それは〈スティーヴ・フィーヴァ〉と呼ばれるもので、ナノマシンが介在している。彼らは、創造主であるスティーヴを生き返らすため、人間を強制的に協力させ、さまざまなシュミレートを行っているのだが……。

デイヴィッド・マルセク(浅倉久志/訳)
『ウェディング・アルバム』
 アンとベンジャミンのカップルは、結婚の記念にふたりの姿をホログラムとして保存した。〈シム〉として目覚めたアンとベンジャミンは、生身のアンの様子がおかしいことに気がつくが……。

デイヴィッド・ブリン(中原尚哉/訳)
『有意水準の石』
 神はさる顧客から、ある大きな団体がすすめている計画について聞かされた。彼らは〈非現実の友の会〉と名乗り、シミュレーションに市民権を与えるべきだと主張しているらしい。神は彼らと接触を図るが……。

ブライアン・W・オールディス(浅倉久志/訳)
『見せかけの生命』
 惑星ノーマには、巨大な建造物が残されていた。創建者は不在で、人類は、博物館として使用することを決める。それから1000年。博物館は人類のがらくたで埋められていくが……。


 
 
 
 
2013年06月16日
ピアズ・アンソニイ(山田順子/訳)
『ゴーレムの挑戦』ハヤカワ文庫FT

 《魔法の国ザンス》シリーズ第九巻。

 ゴーレムのグランディは、人を侮辱するのが大好き。
 グランディの魔法の力は、どんな生物とも会話できること。だが、辛辣な舌のおかげで誰も重視してくれない。グランディも本当は、とるにたりない存在でいるよりも、なにか英雄的なことを成し遂げたいところ。
 そんなある日グランディは、ザンスの王女アイビィの企みを聞きつけた。
 谷ドラゴンのスタンリーが行方不明になって3年。アイビィは、弟のドルフを鳥に変身させ、スタンリーを捜しに行かせる気でいるらしい。ドルフは3歳にしかならない幼子なのに。
 グランディは、自分がスタンリーを見つけてくると、約束する。実現すれば、英雄になれるのは間違いない。
 グランディは早速、よき魔法使いハンフリーに助言を求めた。ハンフリーの答えは、
 ベッドの下の怪物の背に乗り、象牙の塔に向かえ。
 グランディが目を付けたのは、アイビィのベッドの下に棲んでいるスノーティマー。嫌がるアイビィは説得できたものの、ひとつ問題があった。
 ベッドの下の怪物は、夜にしか出歩くことができないのだ。解決策はただひとつ。ベッドもろとも旅をすること。
 子供用とはいえ、小さなグランディがベッドを運べるわけがない。そこでグランディは、アイビィの祖父ビンクに声をかけた。ビンクは快諾し、セントールのチェスターも同行することになる。
 残された問題は、象牙の塔がどこにあるのか、ということ。アイビィの話によると、文通相手のラプンツェルが象牙の塔に住んでいるらしいのだが、誰も場所を知らない。
 ひとまず、スタンリーの連れ合いであるレディ・谷ドラゴンの意見を聞くことになるが……。

 ラプンツェルの元ネタは、グリム童話から。
 塔の上で、外界のことを知らずに暮らしているラプンツェル。魔法の力を持っていたり、と、ザンスならではの味付けがしてあります。それでもやはり、違和感があるような……。
 独自のキャラクターで勝負してもらたかったな、というのが正直なところ。


 
 
 
 
2013年06月22日
コニー・ウィリス (大森 望/訳)
『最後のウィネベーゴ』河出文庫

「女王様でも」
 女性たちは、シャントによって〈解放〉された。ところが、トレイシーの次女パーディタは、シャントを拒否してサイクリストになってしまう。
 トレイシーは、すでに成人しているパーディタのやることにあきらめモード。一方、他の家族は諦めていなかった。パーディタを説得するための昼食会が開かれるが……。  
 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、受賞。
 主に、女性たちの会話で展開していきます。シャントとはなんなのか、解放とはどういうことなのか、徐々に明らかになっていきます。
 家族に振り回されるトレイシーの疲れっぷりが、なんともリアル。タイトルは、たとえ女王様でも女性問題とは無縁でいられない、の意味から。  

「タイムアウト」
 ドクター・ヤングは、時間転移プロジェクトを指揮していた。ヤングの考えでは、時間は空間とおなじく量子的なもの、ゆえに自由に動かすことができる、はずなのだ。
 ヤングは、新たにチベットからドクター・サイモンズを迎え、小学校の一教室を借りた。アシスタントを雇い、子供を被験者として実験が始まるが……。
 時間転移が云々というより、中年の男女による恋愛についての物語。

「スパイス・ポグロム」
 ラグランジュ5に浮かぶスペース・コロニー〈ソニー〉は、過密な人口に悩まされていた。滞在する宇宙人見たさに、人々が殺到しているせいだ。住居不足は深刻で、アパートの階段までもが住まいとして提供され、それでもまだ足りていない。
 クリスは自分のアパートメントに、エアアロオフ人を住まわせていた。というのも、婚約者スチュアートに頼み込まれたから。エアアロオフ人との交渉は微妙な段階にあり、彼らには特別な便宜を計らねばならないのだ。
 クリスは、満足に意志疎通のできないエアアロオフ人とのやり取りにうんざりしているが……。
 クリスと、階段に住んでいる住民たちとのやりとりとか、ドタバタと展開していきます。人口過密を反映するように、物語も過密気味。
 結末は予測がついてしまうのですが、一方で、疑問に思うところがチラホラ。クリスはなぜ、一方的で自分のことを顧みてくれないスチュアートといつまでも婚約しているのか、とか。
 どうも釈然としないまま終わってしまいました。  

「最後のウィネベーゴ」
 デイヴィッドはカメラマン。取材に赴く途中、道路上に死んだジャッカルを目撃した。
 デイヴィッドはかつて、シェパードを飼っていた。ジープに轢かれて死んでしまったシェパードを。
 疫病のせいで、今では動物は貴重な存在になっている。轢殺は重罪だ。本当なら関わりあいになりたくないのだが、デイヴィッドの脳裏には、愛犬の姿が蘇っていた。
 デイヴィッドは匿名で、動物愛護協会に連絡するが……。
 ヒューゴー賞、ネビュラ賞、受賞。
 世界の終末のような、重苦しい物語。動物愛護協会の権力は絶大で、市民を破滅に追い込むのはお手のもの。
 匿名で通報したデイヴィッドでしたが、すぐに身元が割れてしまいます。権力者につきまとわれる恐怖とか、反発とか、滅びゆくものへの想いとか、読ませます。

「からさわぎ」
 英文クラスの題材に、シェイクスピア作品を取りあげることになった。ところが時代は、政治的な正しさの運動の絶頂期。言葉狩りが繰り広げられており、学校とて例外ではない。
 「じゃじゃ馬ならし」は怒れる女性連合の標的。「ヴェニスの商人」は全米法曹協会が難癖をつけている。では、どのシェイクスピア作品なら大丈夫なのか?
 細かくチェックされていくが……。
 おもしろおかしく書かれてますが、なんとも怖い作品。あり得るからなお怖い。


 
 
 
 

2013年06月23日
ブランドン・サンダースン(金子 司/訳)
『ミストボーン −霧の落とし子−』全三巻
ハヤカワ文庫FT

 《ミストボーン・トリロジー》三部作、第一部
〈終(つい)の帝国〉は、支配王によって千年に渡って統治されてきた。帝国を照らす太陽は赤く、七つの火山からは灰が降り注ぎ、夜には霧に覆われる。貴族たちは、支配王から借り受けたという名目で奴隷階級の民〈スカー〉を所有し、富を享受していた。
 ケルシャーは、帝国内で最も名高い盗賊団の首領。
 かつて、支配王に捕まり〈ハッシンの穴蔵〉へと入獄させられたが、はじめて脱出に成功し、稀なる能力を得た。新たな計画をたずさえ、首都ルサデルに戻ってきたところだ。
 支配王を殺害し、スカーを解放するために。
 ケルシャーは仲間を集めだすが……。
 一方、下部盗賊団の一員ヴィンにも、ケルシャーと同じ稀なる能力が備わっていた。
 ヴィンの生い立ちは暗い。唯一の身寄りである兄に裏切られ、目立たないように怯えながら暮らす日々。ケルシャーによって見いだされ、仲間として迎え入れられる。
 ヴィンに与えられた役目は、ルノー家の令嬢に扮すること。社交界に潜り込み、情報を収集するのだ。
 実は、ルノー卿もケルシャーの仲間。ケルシャーたちはルノー家を隠れみのに、武器を集め、スカーの軍隊を育成していく。
 準備は万端に思われたが……。

 ケルシャーとヴィンに備わる稀なる能力とは、合金術。
 〈霧の使い〉と呼ばれる合金使いたちは、合金術用の金属を体内に取り込み、燃やすことで力を発揮します。通常は、一種類の合金しか扱えません。稀に、あらゆる合金を扱える者がおり、彼らは〈霧の落とし子〉と呼ばれています。それが、ケルシャーとヴィンなのです。

 ケルシャーはカリスマの人。人々に感銘を与えるため、計算ずくで振る舞ってます。
 実は、帝国転覆計画には、別の目的があります。仲間もそれを感じ取っていて、軋轢が生じたりします。富を独占する腹づもりなのか、支配王に代わって帝王となるつもりなのか、はたまた……?
 ヴィンは、成長していく姿が圧巻。序盤は、警戒心が強く、一生懸命隠れようとします。発言するときも、おっかなびっくり。徐々に心を開いていって、気がつけば中心人物。
 物語も、主役ふたり体制から、ヴィンの比重が高まっていきます。

 サンダースンの物語は世界観がしっかりしているので、安心して読めます。けっこうな文量ですが、長さを感じることもなく、一気に読み切ってしまいました。  


 
 
 
 
2013年06月27日
ハネス・ボク(小宮 卓/訳)
『魔法つかいの船』ハヤカワ文庫SF197

 ジーンは、気がつけば大海原のただ中にいた。朽木の筏に横たわり、覚えていることといえば、自分がニューヨークで暮らしていたことくらい。
 日が落ち闇が迫る中、ジーンは帆船を目撃する。明かりはついていないが、船上に人々がいるのはわかった。ジーンは必死に叫ぶものの、船は通り過ぎてしまう。
 絶望にうちひしがれたジーンだったが、間もなく、大きな二檣船が現れた。今度の船は、角燈の灯にいろどられ、かがやいている。ジーンは発見され、すぐさま救出された。
 ジーンを助けたのは、ナニク国の王女シワラだった。
 ナニクは、民主的繁栄をめざす平和な国。軍事大国であるコフに脅かされている。シワラは、戦争を食い止めるため、コフに赴き、和平を結ぼうとしているところだ。
 船には、フロアールとカスペルという両大臣も同乗していた。
 カスペルは、シワラがコフを訪問することで、ナニクが隷属させられてしまうと心配している。そうはさせじと、今度の交渉をなんとしてでも阻止する腹づもり。
 一方のフロアールは、実のところ、ナニクよりもコフを好んでいる。シワラには是が非でも、コフに行ってもらわなければならない。そのためにコフは、密かに船を追跡させていた。ジーンを見捨てて去った船は、コフの船だったのだ。
 ジーンは、どちらの味方につくか、迫られるが……。

 ハネス・ボクはイラストレーターとしてのイメージが強いのですが、小説も書いていて、当作品は代表作のひとつ。
 代表作だから傑作かというと、そういうわけでもなく……。

 
 

 
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