地球では80億の人々が、鋼鉄のドームに守られながら暮らしていた。
人々が慣れ親しんでいるのは、シティの閉鎖された空間。もはや野外に出ることすら困難を極めるが、かつては、宇宙へ植民していた時代もあった。植民者たちの子孫は、今では宇宙人と呼ばれている。
イライジャ・ベイリは、ニューヨーク・シティのしがないC−5級私服刑事。警視総監ジュリアス・エンダービイから呼び出され、ある事件の捜査を命じられた。
3日前、宇宙人がひとり殺された。ニューヨーク・シティに隣接するスペース・タウンで、何者かに撃ち殺されたのだ。被害者は、ロイ・ネメヌウ・サートン博士。
宇宙人側の調査はすでに完了し、犯人は地球人だと思われた。幸い宇宙人たちは、本国政府にこの殺人事件を報告しないことに同意している。ただ条件があり、それは、彼らの代行者をひとり、捜査に参加させること。
ベイリは、自分のパートナーがロボットと聞いて尻込みする。
ロボットに嫌悪感を抱いているのは、ベイリだけではない。ロボットは、宇宙人たちの後押しで地球人社会に急速に入り込んでいたが、人間の仕事を奪っていく、憎き相手なのだ。
ベイリは、エンダービイにC−7級をちらつかせられ、渋々承諾するが……。
誰が、何のためにサートン博士を殺したのか?
どのようにしてスペース・タウンに侵入したのか?
事件捜査をメインに、すっかり引きこもってしまった地球人たちと、特異な社会のありようが明らかになっていきます。事件の背景にある計画や、ベイリのパートナーとなる、R・ダニール・オリヴォーの存在など、読みどころ満載。
ベイリは、捜査もそこそこに結論に飛びつくタイプなので、そこがちょっと不満かも。
《魔法の国ザンス》シリーズ第10巻。
エスクは、メリメリとタンディの息子。
ある日エスクは、両親にも秘密にしているステキな隠れ家を、女悪魔メトリアに乗っ取られてしまった。
メトリアは、いままでいた土地の環境が悪くなり、越してきたのだと言う。エスクとしてはメトリアに出て行ってもらいたいが、相手が女悪魔とあって、なかなか思うとおりにいかない。エスクは、よき魔法使いハンフリーの助言を求めることにした。
道中エスクは、同じくハンフリーの城に向かう者たちと出会う。
翼あるセントールのチェクスは、セントールのチェムとヒポグリフのザップの娘。翼はあるものの、セントールの身体が重すぎて飛ぶことができない。ハンフリーには、飛び方を訊くつもりだ。
穴掘り屋一族のヴォルニーは、一族の谷で起こっている一大事をなんとか解決したいと考えている。実は、悪魔たちに乗っ取られてしまったのだ。おかげで、キス・ミー・リバーはキル・ミー・リバーへと変貌を遂げ、谷は破滅しかかっている。
3人は、団結してハンフリーの城にたどり着いたものの、城はもぬけの殻。なにか事件があって、突然いなくなってしまったらしい。
やむなく3人はルーグナ城に出向き、国王夫妻にハンフリー一家の失踪を報告した。そして、ヴォルニーの谷の回復に援助を請うが、断られてしまう。
エクスとチェクスは、ヴォルニーに協力を申し出、共に方策を考えるが……。
本作は、前作『ゴーレムの挑戦』から3年後が舞台。
ヴォルニーのために仲間たちがしたのは、一緒に戦ってくれる仲間を得ること。その過程で、さまざまな事件や、冒険や、恋なんてのも発生します。ハンフリーがいないおかげで、自力でなんとかしようとがんばる登場人物たちに好感が持てます。
それにしても、いくらハンフリーがかつては国王だったこともある魔法使いとはいえ、国土に関わる一大事を棚上げしてハンフリーの捜索を優先にするとは! ルーグナ城が関わらない方が物語は盛り上がるでしょうが、いささか納得しがたいものがあるのでした。
《魔法の国ザンス》シリーズ第11巻。
よき魔法使いハンフリーの一家が失踪して3年。
9歳のドルフ王子は、姉アイビィと口喧嘩の末、ハンフリーの行方をつきとめると宣言してしまう。ただし、捜索に出かけるには両親の承諾が必要だ。ドルフは、イレーヌ王妃に条件をつけられてしまう。
おとなの道連れをみつけること。
ドルフの本命は、ゴーレムのグランディ。彼を認めさせるためにドルフは、王妃が拒絶しそうなリストをこしらえた。ところが、リストの筆頭である骸骨男のマロウで許可が下りてしまう。
予想外な結果におどろくドルフ。とはいえ、マロウはおとなだが親近感が持てる。なにより、冒険に出かけられるのがうれしくて、ドルフはロク鳥に変身し、マロウを連れてハンフリーの城に向かった。
城は、すでに徹底的に調べ上げられた後。おそらくイレーヌ王妃は、城でなにも発見できないことを知っていたのだろう。ドルフは意地になって、自分にしかできない手法で、ついに秘密の隠し部屋を見つけ出した。
部屋のメモに書いてあったのは
〈ヘブン・セントへのスケルトン・キー〉という言葉。
マロウが言うには、キーには小さな島という意味もある。骸骨島のことではないかと考えたふたりは、無数にある骸骨島のひとつである、めくらましの島へと旅立つが……。
マロウは思慮深いのですが、脳みそがない分、思考速度がゆったりめ。はじめはせっかちなドルフでしたが、マロウの助言が有益であることを見抜き、その言葉を待つことを覚えます。
タイトルになっている二人の婚約者は、当作品で初登場。ひとりは、中盤に登場するナーガ族のナーダ王女。
ナーガ族は人面蛇身の一族。ある問題をかかえていて、解決策をハンフリーから授けられています。それは、隣人のドラゴンが連れてくる者と結婚すること。
ナーガ族では、王子ナルドと人間の王女アイビィが結婚するのだろうと見当をつけ、準備していました。ところが現れたのは、9歳のドルフ。14歳のナーダ王女は、即座に自分の立場を理解し、幼女を演じてドルフと婚約します。
もうひとりの婚約者エレクトラが現われるのは、終盤に入ってから。そのあたりで、ヘブン・セントやスケルトン・キーがなんなのか判明します。
王子は二人の婚約者を得ますが、結婚できるのはひとりのみ。この問題の解決は、13巻の『セントールの選択』まで持ち越し。
冒険と思惑と、さまざまなことがからまりあって、なかなか読み応えのある一冊。ハンフリーの謎は解かれないし、新たな問題は先送りされるしで、すっきりとはできないのですが。
《魔法の国ザンス》シリーズ第12巻。
よき魔法使いハンフリーの一家が失踪して6年。
17歳になったアイビィ王女は、〈ヘブン・セント〉を使うことを決断した。〈ヘブン・セント〉は、それを使った者がいちばん必要としている場所や時代に連れていき、会いたい相手に会え、したいことをかなえてくれる魔法のコイン。
情報の魔法使いであるハンフリーが〈ヘブン・セント〉が助けになると考えていたなら、ハンフリーの探索に効果があるのだろう。アイビィはそう思っていたが、実際に到着したのは、マンダニアだった。
一方、アメリカ。
グレイ・マーフィは、シティ・カレッジの一年生。成績は下降気味。だが、成績よりももっと社交生活はひどかった。
グレイは、社交生活を改善するという謳い文句につられ、奇妙なソフト〈ウォーム〉を手に入れる。グレイが〈ウォーム〉から見せられたのは、名前のリスト。ひとまず先頭のアジェンダを選んだグレイは、真向かいのアパートメントに行くように指示される。
グレイの借りてるアパートメント・ビルには、他に入居者はいない。ところが向かいの部屋を尋ねると、アジェンダがいた。グレイはびっくり仰天。ふたりの交際が始まるが、グレイは、結婚を急ぐアジェンダを恐れるようになってしまう。
そんなグレイに〈ウォーム〉は、新しい名前を選ばせ、真向かいのアパートメントに行くように指示してきた。おそるおそるグレイが言われた通りにすると、アジェンダはおらず、今しがた選んだ名前の女の子が待っていた。
何度か名前の選び直しをした挙げ句、グレイはアイビィと出会う。
アイビィは魔法を信じていて、王女だと主張している。グレイは、アイビィを妄想に生きていると確信するが、そのころには心から好きになっていた。
ザンスに帰るというアイビィと行動を共にするが……。
アイビィとグレイの視点から、物語が展開していきます。
アイビィは、催眠ひょうたんの中を通る道を使って、ザンスに帰ろうとします。一緒にグレイも同行することになり、はじめてザンスへと足を踏み入れます。ところがグレイは、ザンスに入ってなお、魔法を信じようとしません。
魔法に理屈をつけてしまうグレイに、アイビィは呆れるばかり。ただ、どうもグレイにも魔法の力があるらしいのです。それを確かめるため、ザンスで新たな旅が始まります。
ザンスの王国としていいところは、身分に関わりなく、魔法使い(力あるもの)が王座に就く、というシステムではないかと思います。ビンクの家系が代々魔法使いを産出しているため、このシステムは事実上崩壊してしまったわけですが。
今作で、妙に王族というものを意識させられて、どうもひっかかってしまいました。以前の、単純に魔法使いが王座に就いていた時代だったら、もっとオープンだったはずなのに。ザンスに新しい血を入れるために、グレイも大歓迎されたでしょうに。
《魔法の国ザンス》シリーズ第13巻。
チェは、翼あるセントール。チェクスとチェイロンの一人息子。
5歳になったチェは、両親とともに暮らしていた。ところが、チェクスが少し目を離したすきに、何者かに誘拐されてしまう。ちょうどチェイロンは留守にしており、チェクスはルーグナ城に助けを求めた。
ただちに捜索隊が編成されるが、行方は杳として知れない。
捜索の最中、チェクスはエルフの少女と出会った。ジェニーはエルフにしては大きく、〈ふたつの月がある世界〉から、猫のサミーを追って来たのだという。
サミーは、捜し物の名人。チェクスと別れたジェニーは、またもや駆け出したサミーを追いかけ、囚われのチェを見つけ出した。チェクスが、息子を捜していると語った言葉に反応したらしい。
チェを捕らえていたのは、ゴブリンたち。ジェニーはチェを助け出すが、また別のゴブリン族〈黄金の掠奪団〉に捕らえられてしまった。ふたりは励ましあい、すっかり仲良しになるが……。
一方、チェの行方を捜していたエレクトラとナーダは、チェを最初に誘拐したゴブリンのゴディバと遭遇していた。ふたりはゴディバの話を聞き、協定を結ぶ。ゴディバは誘拐犯ではあるものの、ある目的のためであり、一方の〈黄金の掠奪団〉はチェを食べる腹づもり。
ふたりとゴディバは一致団結してチェを救出する。そして、どちらがチェを連れ帰るかゲームが行われるが、勝ったのはゴディバだった。
チェの救出にゴディバが果たした役割を思えば、エレクトラもナーダも、チェをゴブリン山へと送り届けるしかない。しかし、チェクスとチェイロンが納得するわけもない。
翼のある怪物と、ゴブリン族との戦争へと発展するが……。
チェは5歳ですが、翼のある怪物の血をひいているために成長が早く、精神年齢はもうちょい上。
チェの誘拐には理由があったものの、異種族間の戦争を起こしてまですることなのかどうかは疑問。他に方法があったはずで、物語の展開のために、無理にこじつけた印象が残ってしまいました。
なお、本作では、11巻の『王子と二人の婚約者』で始まった、ドルフ王子とエレクトラ、ナーダの三角関係がついに決着します。
《魔法の国ザンス》シリーズ第14巻。
ラクーナは、ゾンビーの頭とミリーの娘。
34歳になった今では退屈を持て余し、平々凡々たる独り身の中年女となってしまった。ラクーナは、かつて自分も暮らしていたよき魔法使いの城を尋ねる。どこで間違ったのか、訊くために。
現在、城で暮らしているのは、グレイ・マーフィと婚約者のアイビィ王女。ラクーナはグレイに質問し、答えを得る。
どこで人生を間違えたのかは分かった。だが、側で聞いていたアイビィは納得できない。ラクーナのために、生涯の禍から解放する方法を教えるべきだと、グレイをせっついた。
やむなくグレイは、ハンフリーの残した〈答の書〉を見るが、まだ半人前のため読みこなすことができない。それができるのはハンフリーだけだと言う。
ハンフリーの居場所は、〈悪夢の領域〉の地獄の待合室。地獄へは、ハンフリーのコレクションであるハンドバスケットに乗れば行ける。
ハンフリーは、魔王X(A/N)thと取引するため、この10年、ずっと待合室で待っているのだという。それもこれも、地獄に連れ去られた前妻ローズを助け出すため。
魔王の注意をひくため、ハンフリーは面会しにきたラクーナに、自分が語る半生記を壁に書くことを頼むが……。
本書の大半は、ハンフリーの半生記。
ハンフリーは、前作までの出来事の大半と関わりがあるので、期せずしてシリーズを振り返る物語になってます。が、それが楽しめるかというと、なんとも。
いかんせん駆け足すぎ。いろんな秘密が飛び出すものの、驚くと言うより、無理矢理くっつけたような印象ばかりが残ってしまいました。
総集編なのだと、覚悟して読むべきでした。
主に大宇宙を舞台にした、短編集。
60年程昔の作品たちなので、当然、古さを感じさせはします。火星や金星に大気があったりとか。ヴォークトには、そんな古さも吹き飛ばす独特の魅力があると思います。
手元に置いておきたい一冊となりました。
「はるかなりケンタウルス」
人類は、ケンタウルス座α星へ向けて宇宙船を飛び立たせた。乗組員は4人。彼らは〈永遠〉剤を服用し、行程の大半を眠りながら過ごす。目的地まで500年の旅路だ。
一行は、ひとりが亡くなるなどのトラブルに見舞われながらも、無事ケンタウルスに到着するが……。
主役のビルと同僚のブレイク、そして、亡くなったペラムを慕っていて精神的にあやうくなるレンフルー、この三人で展開していきます。目的地で待っているものは、現在となっては予測の範囲内。それでもなお新鮮味があるのは、古さ故かも。
「怪物」
ガナ族の宇宙船は、廃墟と化した惑星に降り立った。植民できるかどうか、調査に訪れたのだ。これまでガナ族は、先住民族を皆殺しにしてでも版図を広げてきたが、この惑星にはすでに植物しか生き残っていない。
昆虫にいたるまで死滅した原因は何だったのか。死人を再生させる装置を用い、原因を探ろうとするが……。
ガナ族のエナッシュを視点に展開していきます。エナッシュがまた懐疑的な人物で、宇宙人という雰囲気はないです。むしろ、再生させられた人物の方が、異質。
徐々に明らかになる文明崩壊の理由や、ガナ族に襲いかかる結末など、読み応えがありました。
「休眠中」
イーラという名の物体は、太平洋にある島で息絶えていた。
1941年、日本軍は島に、重油とガソリンの地下タンクを建設した。やがて戦争が終わり、日本軍の地下タンクの存在は米海軍の知るところとなる。米海軍は調査のため駆逐艦を派遣するが、島には、日本軍の資料には存在していなかった巨石があった。
駆逐艦を指揮する海軍少佐メイナードは、巨石を調査するが……。
巨石とはイーラのこと。メイナードを中心に、生き返ったイーラの視点も交えて展開していきます。イーラの目的の謎もさることながら、イーラの知覚が人類と異なっているため、その落差でも楽しめました。
「魔法の村」
ジェナーは、火星探検隊のただひとりの生き残り。あてもなく放浪するジェナーは、食糧も尽き果てたころ、山にたどり着いた。
山頂をきわめたジェナーが見つけたのは、無人の村だった。建物は光り輝き、立木にはふっくらと水木のある実が実っている。
村は、どうやら旅人のためのオアシスであるらしい。自動装置によって、訪問者たちに快適な住環境を提供している。ただ、地球人の役にはたたない。
ジェナーは、村に自分へ奉仕させようと試みるが……。
「一罐のペンキ」
キルガーは、金星に降り立った史上最初の地球人。金星で一山当てようと目論んでいる。早速、宇宙船のすぐ近くで、落ちている立方体を発見した。金星にも知能生物がいたのだ。
キルガーが立方体に触れると、それは心の中でささやいた。自分はペンキノ罐だ、と。キルガーが持ち上げると、目のくらむほど明るい色の液体が噴き出してきた。
キルガーはペンキまみれになってしまう。ペンキは肌に移り、洗い落とすこともできない。キルガーは途方にくれるが……。
キルガーは、さまざまな方法でペンキを落とそうとします。その過程で、ペンキ罐が置かれた理由なども明らかになっていきます。キルガーが、探検家とか冒険家とかではなく、山師だというのがミソ。
「防衛」
死んだ惑星の地下には、くたびれた古機械が眠っていた。やがて機械は、外部の刺激に対して反応を示すが……。
ショート・ショート。
「支配者たち」
ワシントンの晩餐会で、H薬が話題にのぼった。この特殊な薬は、人間の自然の衝動を変化させることができる。晩餐会に出席していた心理医学者のレイサム博士は、H薬に絡む事件の関係者。参加者たちに、体験を語って聞かせる。
1年前、レイサムは政府の調査官として、ある病院に踏み込んだ。病院にいたのは、世界支配者会議と称する者たち。危険を察したレイサムは脱出に成功するものの、彼らは一帯を完全に掌握していた。
レイサムは指名手配されてしまうが……。
「親愛なるペンフレンド」
スカンダーは、御者座第二惑星の牢獄に繋がれた服役囚。科学者でもあり、銀河系内通信に介入し、恒星間ペンフレンドクラブから発信された手紙を横取りした。かくして、地球人との手紙のやりとりが始まるが……。
スカンダーからの手紙だけで成立している作品。はじめは殊勝な文面なのですが、徐々に変化していきます。結末に至るまでの経緯が楽しめます。
「音」
地球人は、イェーヴド人と交戦状態にあった。地球側の切り札〈船〉は厳重に守られており、イェーヴドのスパイたちは〈船〉の秘密を知ろうと躍起になっている。
ある日、少年ディディーは、〈造船所〉を探検に訪れた。ところが、イェーヴド人のスパイに捕まってしまう。ディディーは、彼らの正体に気がついていることを隠し、教え込まれた教訓を胸に行動するが……。
ディディーの危難は地球当局も把握しているものの、イェーヴド人たちの目的を知るため、表立っては動きません。ギリギリの状況の中ディディーは、少ないヒントから最善を尽くします。
ディディーがまた、けなげで。世界設定はどうも把握しきれなかったのですが、緊迫した状況に飲み込まれてしまいました。
「捜索」
ドレイクは、意識を失い、どぶの中に倒れているところを発見された。病院で意識を取り戻したものの、それまでの記憶、2週間分が失われていた。
ドレイクは、この2週間に何があったのか、探ろうとするが……。
なんとか言い表しにくい作品。
なお、本作は『20世紀SF・1』に収録されている「消されし時を求めて」(伊藤典夫/訳)と同じものです。
サンチャゴは羊飼い。
生まれは農家だが、16歳まで神学校で学んでいた。羊飼いになったのは、もっと広い世界を知りたいと思っていたから。アンダルシアを旅して2年がたち、サンチャゴは、同じ内容の不思議な夢を2回見た。
サンチャゴが羊たちと一緒にいると、子供が現れる。子供は羊と遊び始めるが、やがて、サンチャゴの両手をつかみ、エジプトのピラミッドまで連れていった。そこで子供が告げる。
「あなたがここに来れば、隠された宝物を発見できるよ」
そしてサンチャゴは目覚めてしまい、正確な場所を教えてもらうことができない。
サンチャゴは、ジプシーの夢占いの老女を尋ねた。夢の意味を知るために。老女は、そこへ行けという。宝物があるだろうから。
サンチャゴは老女の答えに失望するが、ひとりの老人と出会うことで、一歩を踏み出す決心がついた。彼の名は、メルキゼデック。セイラムの王様だという。
メルキゼデックが説くには、宝物を見つけるためには、前兆に従わなければならないらしい。サンチャゴは、メルキゼデックからウリムとトムミムと呼ばれる石を受け取り、アフリカへと渡った。
船旅は、たったの2時間。距離は遠くないが、アラビア語の分からないサンチャゴは不安でいっぱい。そんなとき、スペイン語をはなす少年と出会った。
サンチャゴは少年と友達になるが、羊を売って得た財産をすべて持ち逃げされてしまう。
無一文となったサンチャゴは、クリスタルショップに職を見つけた。必死に働き、1年をかけて資金をためるが……。
童話。
サンチャゴは、要所要所で前兆を感じ、冒険するか、諦めて羊飼いに戻るか、選択を迫られます。無一文になること数回、その経験はまさにプライスレス。
スピリチュアル系の物語ですが、最終目的はあくまでお宝。そのためか、あまりスピリチュアル独特の押し付けがましさは感じませんでした。
なお、メルキゼデックは、旧約聖書に登場する王様から。ウリムとトムミムも、旧約聖書に出てきます。
19世紀末、パリ。
オペラ座では、黒衣の怪人のうわさでもちきりだった。
怪人は、建物の上から下まで影のように歩きまわり、幽霊のように音をたてない。目撃者によると、驚くほどの痩せようで、服が骸骨の上でひらひらし、顔は髑髏のようであったという。また、別の目撃者によると、炎の頭をしていたという。
時を同じくして、若手歌手のひとり、クリスチーヌ・ダーエは、加減の悪くなったラ・カルロッタの代役として舞台に立った。その歌声は、誰もが、かつて聞いたことも見たこともない、人間ばなれしたもの。つい半年前まで、釘みたいに歌っていたというのに。
クリスチーヌには秘密があった。姿を現さない〈天使の声〉の指導があったのだ。
一方、クリスチーヌの幼なじみであるラウル・ド・シャニー子爵は、クリスチーヌにつきまとう男の声に嫉妬し、〈天使の声〉の謎を解こうとする。
実は〈天使の声〉の正体は、オペラ座の地下に広がる水路の空間に住み着いた男エリック。エリックは生来の醜悪な人相に壊死した皮膚を持つ、見るもおぞましい異形の男。エリックこそ、オペラ座の怪人なのだ。
エリックは、クリスチーヌを我がものとしようとするが……。
取材を元にしたノンフィクション、という体裁になってます。そのため、中心人物であるクリスチーヌもラウル子爵も、肝心のエリックも、どこか脇役風。
物語の終盤には、ベルシア人、通称ダロガと呼ばれる人物が登場し、エリックの過去を語ります。
オペラ座(ガルニエ宮)の構造を知っていると、もっと楽しめるんだろうなぁ……と思いながら読んでました。
2013年07月21日
ジェイソン・カーター・イートン
(小川美幸/訳、米津祐介/絵)
『ほどほどにちっちゃい男の子とファクトトラッカーの秘密』
河出書房新社
ファクトトラッカーは、世界にひとりしかいない。
トラアーカーファクスの丘の頂きに暮らし、世界中の真実を発見し、集めて、追跡している。トラアーカーファクスの住民にとって、ファクトトラッカーがもたらす真実は生活の糧。真実は、購入希望者に売りさばかれるのだ。
ほどほどにちっちゃい男の子が生まれたとき、彼の真実を買い取ったのは彼の両親だった。真実が配達されるのを待ちきれなかった両親は、トラアーカーファクスを訪れ、ファクトトラッカーの工場の扉を激しく叩いた。その衝撃で、ばかでっかい塊に荷造りされていた男の子の真実は転がり出し、両親をも巻き込んで、どこかへ行ってしまった。
残されたのは、すべてをなくしてしまった男の子。それと、たったひとつのはがれ落ちた真実だけ。男の子が、ちっちゃすぎでもないし、じゅうぶんにちっちゃくもない、という真実だけ。
男の子の名前は分からずじまい。かくして、ほどほどにちっちゃい男の子と呼ばれるようになった。
ある日、ファクトトラッカーの工場で、これまでになかったことが起きた。夜になっても、最上階の灯りが消えなかったのだ。
ファクトトラッカーの身に何かあったのでは?
町長に命令されたほどほどにちっちゃい男の子は、工場に入った。そこで目撃したのは、お祝いをしているファクトトラッカーだった。
実はこの日、ついに工場が自動化したのだ。自動で真実を集められれば、ファクトトラッカーは、真実の収拾から解放される。それでお祝いをしていたのだが、そこで、とんでもなく恐ろしいことが起こってしまう。
誤って、自爆装置を作動させてしまったのだ。
工場は壊滅。なにもかもおしまいに思われたそのとき、謎の男が現われた。イミテーションという名の男は、実はファクトトラッカーの双子の弟。
イミテーションは、真実なんておばかさんのためのもの、と一蹴する。町の人たちは、イミテーションの心地いい嘘にうっとり。とりこになってしまう。
ほどほどにちっちゃい男の子も、ボビーという名を名乗れることになり、有頂天。だが、帰宅したとたん、自分に両親がいないという事実に直面してしまう。嘘の正体に気がついたほどほどにちっちゃい男の子は、捕らえられたファトクトラッカーを助けようとするが……。
児童書。
ユーモアたっぷりに書いてあります。章の立て方も工夫されていて、子供向けですが、引き込まれました。
なにより、ほどほどにちっちゃい男の子がすごくいいです。とても悲惨な境遇なのに、すごくいい子で。それもこれも、ほどほどにちっちゃい男の子が、真実を持っていなかったから。真実を持っていないがゆえに、真実に対する想いが人一倍だった、と。
名作だなぁ……。