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2013年の記録
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 7/現在地
 
 
 
このページの本たち
ZOO CITY』ローレン・ビュークス
ゴブリン娘と魔法の杖』ピアズ・アンソニイ
ナーダ王女の憂鬱』ピアズ・アンソニイ
巨獣めざめる』ジェイムズ・S・A・コーリイ
八つ墓村』横溝正史 
 
キルリアンの戦士』ピアズ・アンソニイ
タローの乙女』ピアズ・アンソニイ
オーラの王者』ピアズ・アンソニイ
四枚の羽根』A・E・W・メイスン
クラーケン』チャイナ・ミエヴィル

 
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2013年08月31日
ローレン・ビュークス(和爾桃子/訳)
『ZOO CITY』ハヤカワ文庫SF1906

 ジンジ・ディッセンバーは、動物憑き。殺人に関わり、従獣刑を受けたせい。ナマケモノと離れられない関係になり、代わりに、紛失物追跡の特殊能力(シャヴィ)を獲得した。
 ジンジが暮らすのは、ヨハネスブルグはヒルブロウ地区。動物憑きたちがいるため、ズー・シティとも呼ばれている。
 ジンジの仕事は、失せものをさがしだすこと。実は、恋人のブノワにも秘密にしているが、合法的ではない仕事にも手を染めている。それもこれも、借金返済のため。
 ジンジはまたひとつ依頼をクリアし、ラデツキー夫人と面会するために出かけた。
 夫人から請け負ったのは、下水に落とした指輪を捜し出すこと。けれども、夫人とは会えずじまい。夫人は何者かに殺されてしまっていた。
 成功報酬を失ったジンジは、謎の二人組に声をかけられた。マルチーズをつれた男と、マラブー(アフリカハゲコウ)を乗せた女に。
 ジンジはふたりをうさんくさく思うが、けっきょくは話を聞くことにする。案内されたのは、音楽プロデューサーのオディ・ハロンのところ。
 ハロンは目下のところ、双子のデュオ〈iジューシ〉を売り出し中。ところが、双子の片割れソングウェザが失踪したのだという。高額な報酬につられて、ジンジは仕事を受けるが……。

 ジンジの一人称で、展開していきます。
 独特のリズムがあって、部分、部分ではとても楽しい読書となりました。が、全体として見ると、ちょっと分かり辛いというか、不親切というか。
 情報が小出しにされていて、少しずつ分かってくる……かと思いきや、すべてが解明するわけではないので、欲求不満なまま。わざとなのか、書ききれなかったのか。
 アフリカが舞台になっている作品ってあまり知らないので、貴重だなぁ、とは思うのですが。


 
 
 
 
2013年09月01日
ピアズ・アンソニイ(山田順子/訳)
『ゴブリン娘と魔法の杖』ハヤカワ文庫FT

 《魔法の国ザンス》シリーズ第15巻。

 人魚のメラは、ついに、よき魔法使いハンフリーに質問することに決めた。未亡人のメラが望んでいるのは、新しい配偶者。求めているのは、ザンス一気だてがよくて、最高にハンサムで、最高に男らしく、最高に知性があって、自分のしたいことをなんでもさせてくれる、独身の王子。
 メラは、魔法の力で尻尾を二本の足に変え、陸を歩き始めた。だが、ハンフリーの城の正確な場所は知る由もない。
 そうこうするうちメラは、同じくハンフリーの城を目指す女たちと出会った。
 人喰い女鬼のオクラ。オクラは、人喰い鬼の種族としては異色の存在。彼らは、強くて、醜くて、愚鈍なことを誇りにしているが、オクラはすべてに欠けていた。
 そして、人間のアイダ。アイダは捨て子だった。運良く、沼カワウソやニンフたちが育ててくれ、放浪セントールが教育を授けてくれた。そして21歳になったとき、自分の運命を知るためにハンフリーの元を尋ねることに決めたのだ。
 一方、翼あるセントールの一家は、嫡男チェの友人、ゴブリンのグウェンドリン、エルフのジェニー共々楽しく暮らしていた。
 ある日グウェニィの元に、火急の知らせがもたらされる。グウェニィの父で、ゴブリン山の首長ガウディが亡くなったのだ。
 グウェニィは直系の継嗣者として、ザンスの歴史始まって以来の女首長となる権利がある。だが、グウェニィは視力に障害があった。ひそかに接眼レンズを捜してきたが、まだ見つかっていない。
 グウェニィの最大のライバルは、異母弟のゴブル。一族の男たちは、グウェニィが女であるためゴブルの方を推しているらしい。
 グウェニィは、ハンフリーに接眼センズの在処を尋ねるため、チェとジェニーと共に旅立つが……。

 タイトル通りの内容なのは、物語のごく一部。
 ふたつの集団の物語が同時進行していきます。このシリーズでいまではありがちなパターンですが、ゴブリンに女首長が誕生するのは、ザンスの歴史の転換点となる大事件。グウェニィを主役にすえて、じっくりと読みたかったなぁ……というのが正直なところ。

 なお、途中、ナーガ族のナーダ王女が登場します。大悪魔のグロスクラウト教授の元でなにやらやってますが、その詳細は、次巻の『ナーダ王女の憂鬱』で明らかになります。


 
 
 
 
2013年09月03日
ピアズ・アンソニイ(山田順子/訳)
『ナーダ王女の憂鬱』ハヤカワ文庫FT

 《魔法の国ザンス》シリーズ第16巻。

 ダグは16歳のマンダニア人。友人エドからコンピュータゲームを押し付けられ、嫌々ながらプレイすることになってしまった。
 ゲームの名は『コンパニオンズ・オブ・ザンス』。プレイヤーはザンスという世界を旅して、勝利を目指す。そのために、コンパニオンと呼ばれる存在が用意されている。
 コンパニオンの選択肢は7人。コンパニオンはプレイヤーを導き、有益なアドバイスをしてくれる。ただし、なかにひとりだけ、重要な局面でプレイヤーを裏切る者がいる。
 ダグが選んだのは、ナーガ族の王女ナーダだった。21歳と年上だが、すごい美人だ。コンピュータゲームに懐疑的なダグだったが、ナーダの魅力にメロメロ。いつしか、ザンス世界に入り込んでしまう。
 ふたりは順調に旅していくが、コン・ピュータの計略にはまり、ゲーム・オーバーになってしまった。再挑戦したダグは、ふたたびナーダを選ぶが……。
 一方、ザンス・シリーズの大ファンである16歳のキムも、ゲームのプレイヤーになっていた。
 キムが選んだのは、エルフのジェニー。キムは、ザンスのことをよく知っているだけに、ジェニーの忠告を無視してしまう。ふたりは危機に陥ってしまうが……。

 マンダニア人であるダグとキムの他、ナーダとジェニーの視点からも物語は展開していきます。
 ナーダは、当初はダグを嫌っていましたが、旅するごとに打ち解けていました。ゲーム・オーバー後ふたたび選ばれますが、実はそのときのナーダは、不実なコンパニオン。ナーダ王女が憂鬱状態なのは、そのせいです。
 なお、ゲームを支配しているのは、大悪魔のグロスクラウト教授。なぜマンダニア人向けのゲームをわざわざ作ったのか、それなりに説明があります。
 それにしても、このゲームを大絶賛していたエドって、なんなんでしょうね。ダグが一人目のプレイヤーってことになっているのですが。キムがプレイヤーになれた理由は自然だったので、よけいに気になりました。


 
 
 
 

2013年09月04日
ジェイムズ・S・A・コーリイ(中原尚哉/訳)
『巨獣めざめる』全二巻
ハヤカワ文庫SF1898〜1899

 人類が、太陽系中に版図を広げてから150年。
 氷運搬船カンタベリー号は無人の小惑星帯を航行中、救難信号を捕らえた。遭難していたのは、火星のエロスを母港とするスコピュリ号。小型輸送船だ。
 副長のジム・ホールデンは数名のクルーをひきつれ、シャトルでスコピュリ号へと向かった。
 スコピュリ号の船腹には大穴が開いており、何者かに襲われたらしい。無人だったが、高価なエンジン部品も工具もそのまま。電源は完全に落ちており、救難信号を発しているのは、小さな黒い箱だった。
 不可解な事態にホールデンは撤退を決めるが、時すでに遅く。一隻の軍艦があらわれ、カンタベリー号が攻撃されてしまった。スコピュリ号は囮だったのだ。
 母船を破壊されたホールデンは、全世界に向けてメッセージを送る。あの黒い箱に、火星共和国連邦宇宙軍(MCRN)のシリアル番号が刻印されていたことを含めて、すべてを。
 一方、ケレス・ステーションのミラー刑事は、上司のシャディッド警部から、極秘の追加任務を与えられていた。
 月の大富豪の娘ジュリー・マウが失踪したのだという。どうやらジュリーは、外惑星同盟(OPA)に関わっているらしい。最後の記録では、ティコ・ステーションで雇用されていた。
 このころケレスでは、主立った犯罪組織が姿を消す不可解な現象が勃発していた。そのためミラーは、ジュリーの捜索に気乗り薄。しかも、ホールデンの放送が一般の人々の知るところとなり、ケレスは一触即発の大騒ぎ。
 元々小惑星帯の人々は、火星に反感を抱いていた。たちまち、戦争勃発の危機に陥ってしまうが……。

 シリーズものの第一巻。そのため、終わってません。
 冒頭でジュリーが登場し、スコピュリ号に乗っていることが知らされます。それ以降は、ホールデンとミラーのふたりの視点から交互に書かれていきます。
 実は、ジェイムズ・S・A・コーリイは、ダニエル・エイブラハムとタイ・フランクの合作名。主にエイブラハムが書いた、ということらしいですが、読んでいると、まるで、ホールデンとミラーのパートを別々の作家が書いてくっつけた印象。少しぎこちない。

 前半と後半で、やや趣が異なります。そのため、最初はおもしろかったけど……という方と、半ばをすぎてようやくおもしろくなってきた……という方に別れそうです。
 自分の場合は前者でした。幻想のジュリーと会話しまくるミラー刑事、あやしすぎます。


 
 
 
 
2013年09月06日
横溝正史
『八つ墓村』角川文庫

 《金田一耕助》シリーズ
 八つ墓村の名の由来は、戦国時代にさかのぼる。村人たちが、かくまっていた落武者たち8名を殺害し、後に明神として祀った故事による。
 時代は大正になり、その八つ墓村で、大事件が起こった。
 田治見要蔵が、一晩にして32名もの村人を殺害したのだ。要蔵は山に逃げこみ、いまだに行方が知れない。その原因となったのは、妾の鶴子が、幼い子ども辰弥をつれて逃げたことにあった。
 それから26年。
 寺田辰弥はある日、自分をさがしている人物がいることを知った。辰弥の母も義父も共になく、さがされる覚えはない。ひとまず連絡をとってみると、それは実父の一族だった。
 辰弥の実父は田治見要蔵。久弥と春代という異母兄弟がいる。ふたりはからだが弱く、由緒ある田治見の嫡流がとだえそうになっている。そこで辰弥に白羽の矢が立ったのだ。
 実は、要蔵には弟がいた。母親の実家をつぐために、里村姓を名乗っていた修二だ。修二はすでに亡くなっているが、慎太郎と典子という子どもがいる。田治見の人たちは、慎太郎には財産を渡したくないらしい。
 辰弥は八つ墓村へ帰ることにするが、何者からか脅迫を受けてしまう。村には26年前の事件の遺族も多く、辰弥はよく思われていないのだ。
 そんな中、不可解な殺人事件が起こってしまうが……。

 何度も映像化された、傑作。
 一応、金田一耕助シリーズの一遍。
 名探偵の金田一耕助が登場しますが、ほんのちょい役でした。最後に事件の真相を解説するミステリでおなじみのシーンはあるものの、その役割は事件解決というより、辰弥を警察の手から自由にすることのような……。辰弥が警察につかまったままだと話が展開していかないので、重要な役所ではありますね。
 映像化作品をいくつか見ているので、真犯人は知っている筈なのですが、ありがたいことに忘れてました。おかげさまで、読者をだまそうとする横溝正史の手腕を堪能できました。


 
 
 
 
2013年09月07日
ピアズ・アンソニイ(浅羽莢子/訳)
『キルリアンの戦士』ハヤカワ文庫SF945

 《クラスター・サーガ》三部作、第一巻
(第二巻『タローの乙女』第三巻『オーラの王者』)
 24世紀。
 生命体にやどる、キルリアン・オーラ。オーラを他人の身体に転移することで、広大な宇宙でのコミュニケーションは容易なものになった。しかし、転移は銀河の秘伝。ソル星圏では、個々人のキルリアン力場の登録こそしているものの、転移技術は獲得していない。
 そんなある日、5000光年彼方のナイフ星圏から、使者が転移してきた。
 ナイフの使者は、転移技術を伝授してくれると言う。見返りは、天の川銀河連合に参加すること。そして、近隣の星圏に技術を伝え、勧誘すること。
 実は、天の川銀河は崩壊の危機に瀕していた。アンドロメダ銀河が古代種の技術を再発見し、天の川銀河からエネルギー転移をしようとしているらしいのだ。このままでは、天の川銀河は引き裂かれてしまう。
 ナイフ星圏はより多くの仲間を得て、集団でアンドロメダ銀河に対抗しようとしていた。ソル星圏は、ナイフ星圏の申し出を受け入れる。
 ソル星圏が使命のために選んだのは、さいはてのフリント。さいはては石器時代の星だ。フリントは原始人だが、通常人の200倍のオーラを持っていた。
 フリントは転移技術の情報を丸暗記し、未知の星圏へと旅立つ。
 一方アンドロメダ銀河では、天の川銀河の動きを察知していた。フリントの動きを封じるため、同レベルの能力者を工作員として送り込んでくるが……。

 いろんな星圏が登場し、異質な異星人がてんこもり。ひとまず難儀はするものの、かなり強引に任務成功。それが積み重なって物語は展開していきます。
 アンドロメダ工作員とは、転移した状態で対決になります。転移するときには同性の身体に入る、という基本ルールはありますが、誰が工作員なのかは容易には分かりません。そのためミステリ要素も入ってます。
 フリントは原始人のためか、気質がシンプル。あっさりサクサクと進んでいく書かれた方にぴったりでした。


 
 
 
 
2013年09月08日
ピアズ・アンソニイ (浅羽莢子/訳)
『タローの乙女』ハヤカワ文庫SF953

 《クラスター・サーガ》三部作、第二巻
(第一巻『キルリアンの戦士』第三巻『オーラの王者』)
 天の川銀河が、アンドロメダ銀河の侵略をしりぞけて1000年。
 エタミン星区で、調査大臣の身体がキルリアン転移者によって乗っ取られていたことが発覚した。どうやらアンドロメダ銀河は、宿主の許可なく転移する手法を獲得したらしい。天の川銀河を内部から崩壊させるつもりなのだろう。
 事態を察知した中級将校たちは、もはや信用できない政府高官には秘密裏に、ある作戦に打って出た。ミンタカ星圏人のメロディに協力を依頼したのだ。
 メロディは当代最高のキルリアン・オーラの持ち主。他者のオーラを圧倒してしまえる力がある。そしてまた、タローカードの研究者でもある。
 メロディは、ソル人の美女ヤエルの身体に転移し、帝国閣僚の娘というふれこみで、宇宙艦隊の旗艦へと向かった。医療部の将校ティアラがスパイである疑いがあるのだ。しかも、他にも強制転移の被害者がいるかもしれなかった。
 メロディは、得意のタローを駆使して、敵を暴いていくが……。

 1000年前と違うのは、宿主が職業となっているところ。通常、転移を受け入れる宿主の意識は隅にひっこんでいます。メロディはその存在に気がつき、積極的にヤエルに話しかけます。
 ヤエルがうら若き乙女な一方、メロディの正体はオールドミス。ヤエルの初期設定は知性が低い、ということですが、メロディにひっぱられてか、終盤には向上してます。またメロディは、序盤では中年を意識させてますが、少し若返っていくような……?

 戦争が勃発してメロディも参戦しますが、オーラが高いことと軍事的な能力は、明らかに別物。なのに、重要なポストに納まってしまうメロディ。納得できませんでした。
 なお、タローとはタロットのこと。一応、タローの説明はありますけれど、タロットの知識があるかないかで難易度が変わりそうです。


 
 
 
 
2013年09月14日
ピアズ・アンソニイ (浅羽莢子/訳)
『オーラの王者』ハヤカワ文庫SF959

 《クラスター・サーガ》三部作、第三巻
(第一巻『キルリアンの戦士』第二巻『タローの乙女』)
 天の川銀河がアンドロメダ銀河を従えるようになって1000年。もはや戦争はなく、近隣の銀河は連合して銀河団を形成するに至っている。
 ヘラルドは、アンドロメダ銀河は斜線星圏人。当代随一のキルリアン・オーラの持ち主。紋章解読学者でもあるが、高いオーラによる癒しを生業とするため〈癒し手〉と呼ばれている。
 ヘラルドの今度の仕事場は、天の川銀河はサドル星圏の砦星。ソル人ケイド公爵の娘プシュケが、お祓いを必要としているらしい。
 砦星は、一種の監獄星。政治犯などが転移によって、宿主とされた獣に送り込まれてくる。転移者は獣と共に生き、やがてオーラが消滅すると同時に死に至る。
 プシュケは魔物に憑依されているらしい。砦星にとって憑依とは転移と同じこと。もし本当にプシュケが憑依されているなら、火あぶりは必至だ。
 プシュケと面会したヘラルドは、異常を確認できなかった。また、過去に憑依された形跡すら見つけられなかった。しかし依頼人は納得せず、しばらくケイド城に滞在することになってしまう。
 ヘラルドが砦星から離れられなくなったため、天の川銀河はルウィール星圏のスウィーズ星人ホウィーが物質転送されてきた。ホウィーは、ショックのため固まった状態。本人が想像することすらできないショックの原因を探るのが、ヘラルドの仕事だ。
 ホウィーは研究天文学者だった。専門は、銀河団外縁現象。ホウィーにとって宇宙アメーバがショッキングらしいのだが、詳細は分からない。
 そんな折り、プシュケのオーラに動きが見られた。憑依ではなく、変動するオーラだったのだ。ヘラルドは、自分よりも高いプシュケのオーラに触れ、たちまち恋に落ちてしまうが……。

 三部作のまとめ。
 砦星というのは中世世界で、騎士道精神真っ盛り。ヘラルドとプシュケは結ばれますが、プシュケが憑依されている疑いは消えず、戦争が勃発します。
 実は、プシュケのオーラ変動と、ホウィーのショックの原因は関係があります。それと、過去二冊における発見やらも巻き込んで、さすが完結編という仕上がりになってます。


 
 
 
 
2013年09月15日
A・E・W・メイスン(吉住俊昭/訳)
『四枚の羽根』小学館/地球人ライブラリー

 ハリーは、フィーバーシャム将軍のひとり息子。フィーバーシャムは軍人の名家で、ハリーもゆくゆくは軍人になることが義務づけられている。
 ところがハリーは、亡き母に似て感受性豊か。心の奥底に臆病さがあることを感じており、それが戦場で露見することを恐れていた。自分と家名に傷をつけるのではないか、と。
 不安を抱えたままハリーは軍人となり、インドの連隊に配属される。
 休暇で帰国した際、ハリーのために宴席が設けられた。その席に電報が届けられ、一読したハリーは動揺してしまう。電報の内容に触れないまま、暖炉に投げ込んでしまった。
 そのとき同席していたのは、同じ連隊のトレンチ大尉、ウィロービー中尉、そしてハリーの親友で東サリー連隊のデュランス中尉だった。
 ハリーの行動を不審に思ったトレンチは、ウィロービーをつれて電報の送り主と思われるキャスルトンに会いに行く。そこで知ったのは、連隊がエジプトに転属されることが決まったということ。しかもハリーは、転属が正式発表される前に、結婚を理由にした除隊を申請していた。
 ハリーは、トレンチら3人から、臆病者と非難する白い羽根を送りつけられる。しかも、婚約者エスネに正直に告白したため、4枚目の羽根を渡され、婚約解消を突きつけられてしまった。
 エスネからも拒絶されたハリーは、決心する。自分の勇気を示し、名誉を挽回しようと。
 ハリーは単身、エジプトへと旅立つが……。

 地球人ライブラリーは、名作を集めたシリーズ。ただし、抄訳版。そのためか、なにやら妙にあっさりしていて、少し物足りない……。
 行動するハリーと、婚約破棄したもののハリーを思い続けているエスネ、実はエスネに恋しているデュランス、デュランスに振り向いてもらいたいエスネの親友アデア。その人間関係だけでも、もっと濃密な気がするのですが。
 完全版を読んでみたくなりました。


 
 
 
 
2013年09月16日
チャイナ・ミエヴィル(日暮雅通/訳)
『クラーケン』上下巻
ハヤカワ文庫SF1910〜1911

 ビリー・ハロウは、ロンドン自然史博物館のキュレーター。
 ある日博物館から、ダイオウイカの標本が水槽ごと消え失せた。水槽の全長は、9メートル。誰がなんのために、どうやって盗み出したのか?
 警察の捜査が始まるが、事件を担当するのは、原理主義者およびセクト関連犯罪捜査班。つまり、魔術担当の刑事たち。彼らは、秘密結社〈クラーケン神の信徒たち〉が犯人だと睨んでいるらしい。
 ビリーは不可解な尋問をされた挙げ句、イカの専門家としてスカウトされた。
 事件の成り行きに戸惑うビリーは、何者かに誘拐されてしまう。絶体絶命のビリーを救出したのは、行方不明になっている博物館の警備員デイン・パーネルだった。
 実はデインは〈クラーケン神の信徒たち〉の一員。警察の憶測とは逆で、信者たちは神聖なクラーケンをどうにかする気などない。ビリーは預言者としてかくまわれるが……。

 小ネタ満載。
 多彩な登場人物たちと、数々のカルト、あふれる魔術。何でもありの展開。SFじゃないけどSFだよね、といったところ。
 おもしろいけれども、どこか引っかかってしまうのは何故なのか。

 
 

 
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