ラムセスは、エジプト第19王朝のファラオ・セティの息子。
誰もが、セティの後継者はラムセスではなく、兄のシェナルだと思っていた。ラムセスはただの王子に過ぎない。そんなラムセスに好機が訪れる。
14歳のときはじめてセティに会い、荒々しい牡牛との対決を促されたのだ。ラムセスは勝利こそできなかったものの、この試練に合格することができた。
それ以降ラムセスは、セティからさまざまなことを試され、また友のために立ち上がり、苦難を乗り越えていく。そしてついに、セティ亡き後のファラオに選ばれた。
即位した後もラムセスは、セティの教えを忘れることはなかった。
もっとも重要なのは、マアトの法を守ること。マアト神は「法」や「真理」「正義」を司る。マアトを尊重することで、世界に調和と美をつくりだすことができるのだ。
ラムセスは瑞兆にもめぐまれ、国民からの支持は絶大。おもしろくないのは、ファラオになるつもりでいたシェナルだ。ラムセスに服従する姿勢を見せるが、ひそかに陰謀を巡らしていく。
ラムセスは数々の危機を乗り越え、エジプトを導こうとするが……。
アブ・シンベル神殿など、数々の建造物を造らせたり整備し直したりしたことで知られているファラオ、ラムセス2世の生涯をとりあげた大河小説。
物語の大半は、青年期から壮年期のできごと。シェナルの陰謀とか、敵対国ヒッタイトとの戦争とか。年老いてからは、駆け足でした。
ラムセスの親友として、多彩な人物が大活躍します。魔術師のセタオー。書記のアメニ。外交官のアーシャ。そして、ラムセスの新しい都の建設にたずさわるモーゼ。
モーゼは、十戒でおなじみの人。トロイ戦争から凱旋する途上のスパルタ王メネラオスやヘレン、詩人のホメロス、なんて人たちも登場します。
とにかくラムセスがスーパースター過ぎて、こわいくらい。
ラムセスと対決する人たちにも魅力はあるのですが、基本的にラムセスが絶対正義なので、ちょっといただけない結果になってしまうことも……。
やや甘いところはあるものの、登場人物たちが生き生きとしていて楽しめました。
シェイは、エルフと人間とのハーフ。
エルフの父はもの心がつく前に亡くなり、母も5歳のときに他界した。シェイが引き取られたのは、母の遠縁に当たるオムズフォード家。以来《日陰谷》で義兄フリックと共に、宿屋の仕事を手伝いながら暮らしている。
ある日オムズフォード家に、アラノンが尋ねてきた。
アラノンの名は、辺鄙な《日陰谷》にあっても誰もが知っている。彼は、世界をまたにかける謎のさすらい人。魔法と歴史に通じたドルイドだ。
アラノンがシェイに語るには、シェイの父は、500年前に勃発した《諸種族の第二次戦争》で《闇の王》と戦ったエルフ王、ジャール・シャナラの末裔なのだという。
かつてシャナラは、ドルイドから与えられた偉大な剣を身に帯びていた。その剣を扱えるのは、シャナラとその子孫のみ。無敵の《闇の王》は、シャナラの剣でないと倒すことはできない。
戦争は終結し、シャナラの剣はドルイドたちの本拠地パラノーに保管された。
しかし、今また《闇の王》が復活し、勢力を伸ばしているのだという。《闇の王》が恐れているのは、シャナラの剣のみ。そのために末裔たちは殺され、残るはシェイただひとり。
シェイにも危険が迫っている。シェイはフリックと共に密かに旅立つが……。
ブルックスの処女作。それゆえか、視点が定まらず、とても読み辛いです。
一応、ポスト『指輪物語』(『旅の仲間』『二つの塔』『王の帰還』)と呼ばれてます。後継というより、踏襲したというか。シェイが《日陰谷》を旅立って、ひとまずの避難所であるカルヘイヴンに入り、カルヘイヴンから7人の仲間と共に旅立つ展開なんて、『指輪物語』そのまんま。
序盤は、困惑しながらの読書でした。
ようやくおもしろくなってくるのは、中盤になって盗賊のパナモン・クリールが登場してから。
アラノンの秘密とか、シャナラの剣の謎とか、いろいろと凝ったことはしてるんですけどねぇ。
太陽ヒューに暖められている惑星には、ふたつの国があった。
エルトとアスタ。世界にふたつしかない国は、目下のところ戦争状態にある。
エルトのドローヴは、官僚の息子。父のバートは広報大臣の事務局長だ。自宅があるのは首都アリカだが、夏休暇では、港町パラークシの別荘を訪れるのが慣例となっている。
昨年ドローヴは、宿屋の娘ブラウンアイズと出会った。同い年のブラウンアイズと会話できたのは、夏休暇の最後の数日だけ。それでもドローヴは、ブラウンアイズのことを忘れられずにいる。
戦争は、パラークシにも影を落としていた。エルト全土で物資が不足し、パラークシでは新たに缶詰工場が建設され、水揚げされた魚介類が送り込まれている。町の住民たちは、新工場のことをあまりよくは思っていない。
バートはこの缶詰工場で、ある種の顧問的立場をつとめることになっていた。ドローヴにとっては休暇だが、バートにとっては仕事を兼ねたものだったのだ。
放っておかれることになったドローヴは、代わりに小型帆船をプレゼントされる。喜ぶドローヴだったが、おまけがついていた。
両親は、ドローヴに友達を用意していたのだ。
母の買い物に付き合わされたドローヴを待っていたのは、偶然を装った出会いだった。引き合わされたのは、役人の息子であるウルフ。高慢なウルフにそそのかされたドローヴは、ろくに船の点検もせずに漕ぎ出してしまう。
失敗したふたりを手助けしたのは、地元の子供たちだった。リボンとその弟スクウィント。そして、ブラウンアイズ。
五人は、一緒に遊ぶ仲となるが……。
徐々に仲良くなっていくドローヴとブラウンアイズ。ところが、スクウィントが行方不明になる事件が発生し、町の雰囲気が一変してしまいます。
激しく対立する、政府と住民たち。
戦争の行方は?
冒頭で子供っぽかったドローヴの、成長していく姿が見もの。それと、伏線の数々を見事に吸収した結末も。
2013年10月20日
マイクル・コーニイ
(山岸 真/訳)
『パラークシの記憶』河出文庫
スティルクたちは、先祖の記憶を持ってうまれてくる。
受け継がれる記憶は、同性に限定されていた。そのためスティルクたちは、集落の中で男と女に分かれ、それぞれもっとも古い記憶を持つ血筋の者を、長としていた。
ハーディは、男長スタンスの甥。その血筋は、伝説のカップル、ドローヴとブラウンアイズにまで遡れるらしい。
ハーディの暮らす内陸の村ヤムは、食糧危機に陥っていた。不作と不猟に苦しみ、昨年は海辺の村ノスに援助してもらったところ。そしてまた、今年の収穫も芳しくない。
ふたたび交渉するため、ハーディは父ブルーノと共にノスを訪問した。実はハーディの目的は、交渉よりもチャームとの再会。ハーディは、ノスの女長の娘チャームに恋心を抱いていた。
チャームとのひとときを楽しむハーディ。ところが、事件が発生してしまう。
ブルーノが、何者かに殺害されてしまったのだ。
ショックで錯乱したハーディは、ノスの男長の息子カフを犯人だと告発してしまう。ハーディはノスを追い出されるが、帰村したヤムでも罰が待ち受けていた。
自身も命を狙われる中ハーディは、事件の真相に迫ろうとするが……。
『ハローサマー、グッドバイ』の続編。
前作とは直接的にはつながっていませんが、読んでおいた方がいいのは確か。ハーディが前作の主人公ドローヴの子孫のため、ハーディの記憶の中でドローヴが登場します。前作のその後を知ることもできます。
記憶が遺伝するという設定は、今作から。
殺人事件の解明だけでなく、いろんな要素がつまっていますが、前作からはじまったすべてが一点に収束していく感じ。続編というより、『ハローサマー、グッドバイ』が序章のようでした。
《ブックマン秘史1》
蜥蜴族(レ・レザール)のヴィクトリア女王が支配するイギリスでは、テロリストが横行していた。詩人のオーファンも、そのうちのひとり。
オーファンは、自分の本当の名前を知らない孤児。〈ポーロックからの来訪者〉に属し、道化の衣装を着て戯曲作家オスカー・ワイルドをからかったりしていた。
そんなある日、モリアティ首相が計画した火星探査機が、ブックマンと呼ばれるテロリストの標的にされた。ブックマンの特徴は、爆弾を仕込むのに本を利用するところ。今回、その本を運んだのは、オーファンの恋人ルーシーだった。
ルーシーは即死。自身も負傷したオーファンは、哀しみにうちひしがれる。そんなオーファンの元を、アイリーン・アドラー警部が尋ねてきた。
アドラー警部が語るには、ブックマンはルーシーを蘇らせることができるらしい。
やがてブックマンと対峙したオーファンは、ブックマンの依頼を引き受けるが……。
いろんな要素がごった煮状態。どこまで元ネタを知っているかで、楽しめる度合いが変わりそうです。
オーファンはブックマンのため(ルーシーのため)に、キャリバンの島を目指します。同行するのは、ジュール・ヴェルヌ。島にたどり着く前に海賊に襲われたり、途中、趣向替えが何度か。
オーファンの口調がいつまでも幼いのが、気になるところ。
あまり深く考えず、その場その場を楽しめばいいんでしょうね、こういう娯楽作品は。
《ミス・メルヴィル》シリーズ第二巻。
(第一巻『ミス・メルヴィルの後悔』)
スーザン・メルヴィルは、名家のお嬢様。極貧に陥り、生活のために暗殺を請け負っていた時期もあったが、今では画家として大成功。ふたたび富豪に返り咲いている。
ミス・メルヴィルは、デマーネー画廊のオープニング・パーティーに出席していた。三流画廊で、本来なら、一流の画家が行くようなところではない。だが、腹違いの弟(ということになっている)アレックスの紹介だったため、やむを得なかったのだ。
そして翌日、デマーネー画廊のオープニングを飾った芸術家、ラファエル・ホフマンが死体となって発見された。事故死として処理されるが、ミス・メルヴィルはどうも納得できない。そうこうするうち画廊で火事があり、ラファエルの遺作はことごとく灰になってしまう。
不可解な出来事は、さらに続いた。
ミス・メルヴィルは、夜間に画廊をうかがう怪しい男を目撃。画廊の経営者ローランド・デマーネーに報告するが、ローランドは警察沙汰にしたくない様子。
そのローランドも、死体となって発見された。今度は明らかな他殺体で。ミス・メルヴィルは、独自調査を開始するが……。
デマーネー画廊をめぐるあれこれが主軸。そこに、ミス・メルヴィルの代理人ジル・ターケルのあれこれが絡まってきます。
ジルもその昔、画廊を経営していました。そのころ見いだしたのが、画家ダリウス・モファット。ダリウスはすでに故人で、母親によって作品が持ち込まれ、雑誌にいい評論が載ったのを契機に人気が爆発。現在にいたってます。
ただ、ミス・メルヴィルは、ダリウスの作品を評価してませんし、その経歴にはひっかかりを覚えています。
そうした、本筋とは少し脱線したかのような話題も、徐々に徐々に進展していって、一気に解決します。
なかなか読み応えがありました。
《ミス・メルヴィル》シリーズ第三巻。
(第一巻『ミス・メルヴィルの後悔』第二巻『帰ってきたミス・メルヴィル』)
スーザン・メルヴィルは、名家のお嬢様。極貧に陥り、生活のために暗殺を請け負っていた時期もあったが、今では画家として大成功。ふたたび富豪に返り咲いている。
暗殺稼業からは足を洗ったミス・メルヴィルだったが、今では、正義を行うための暗殺に手を染めていた。相手はもっぱら、法の裁きの及ばない人物。外交特権を盾に、たとえ極悪非道な犯罪者であっても悠々と生きている外交官たちだ。
ただ、心底ミス・メルヴィルが憎んでいるのは、プラデーラのレレンパーゴ・マルティージョ大統領だった。
かつて、ミス・メルヴィルの父バックリーは、財産を抱えたまま出奔し、帰らぬ人となった。南米にあるプラデーラという国で殺害されたのだ。その犯人こそ、マルティージョなのだ。
プラデーラは、言論の自由も入出国の自由もない独裁国家。マルティージョがまったく出国しないため、ミス・メルヴィスは途方に暮れていた。
そんなときミス・メルヴィルは、アメリカを訪問中の画家ヒル・フリアスに声をかけられる。フリアスはプラデーラ出身で、しかも大統領の援助を受けているらしい。
ミス・メルヴィルはフリアスに接近するが……。
シリーズ前2作はいろいろと楽しめたのですが、今作は、読みにくさが先に立ってしまって、残念な読後感となってしまいました。
ミス・メルヴィルによる私刑は、勧善懲悪でスッキリする…というより、むしろやりすぎに思えてなりません。フリアスとの関係も、これまでのミス・メルヴィスを思うと不可思議な展開で。
ただ、最後のどんでん返しは、さすがに驚きました。
《ミス・メルヴィル》シリーズ第四巻。
(第一巻『ミス・メルヴィルの後悔』第二巻『帰ってきたミス・メルヴィル』第三巻『ミス・メルヴィルの復讐』)
スーザン・メルヴィルは、名家のお嬢様。極貧に陥り、生活のために暗殺を請け負っていた時期もあったが、今では画家として大成功。ふたたび富豪に返り咲いている。
ある日ミス・メルヴィルは、学友だったルシンダ・ランドルと再会した。
ランドル家では、ランドル・ハウスという慈善事業を展開している。妊娠してしまった思春期の少女たちを援助するのが事業内容だ。ミス・メルヴィルは寄附を頼まれ、ランドル・ハウスを訪問することになってしまう。
ランドル・ハウスでミス・メルヴィルが目撃したのは、まるで売春婦のような少女たち。しかも、向かいに停まっているキャデラックには、悪評高いぽん引きフィリップ・ロードが待機しているありさま。
ミス・メルヴィルはつい、ロードを銃殺してしまう。
実はロードは、ランドル・ハウスの理事のひとり。やたらと多い理事たちの中には、いかがわしい人物がウヨウヨ。ミス・メルヴィルは暗殺の現場を目撃され、ロードの代わりの理事になるように脅迫されてしまう。
時を同じくしてアメリカには、ガンジスタン国から若きサルタンとその母が訪れていた。サルタンの母は、前サルタンの第一王妃でベガムとして知られているが、ベールの向こうに隠された素顔は誰も知らない。
ミス・メルヴィルは、政府の秘密機関で働くアンドリュー・マッケイから、暗殺の依頼を持ち込まれる。ガンジスタンのベガムを殺して欲しい、と。
はじめは断ったミス・メルヴィルだったが……。
ミス・メルヴィルは正義の人、ということにはなりますが、好感度が高いかというと、いまひとつ。富豪なんて、そんなものなのかな、と。
ベガムの正体とか、ランドル・ハウスの秘密とか、とりあえず謎のようなものは登場します。おもしろい点もあります。ただ、どうも納得しがたい読後感が残ってしまいました。
イェイナは、ダールの民の首長だった。
祖父であるデカルタ・アラメリに呼び出されたのは19歳のとき。
アラメリ一族は〈十万王国〉の支配者。当主デカルタのひとり娘でもある母キニースは、後継者だった。辺境の田舎貴族と駆け落ちするまでは。
遠い遠い昔〈神々の戦い〉が起こった。勝利した光の神イテンパスは黄昏の女神エネファを抹殺し、闇の神ナハドや楯ついた子神たちを人間の身体という牢獄に閉じ込めた。そして、イテンパスの勝利に決定的な役割を演じたアラメリ一族に封じた神々を与え、使役させた。
キニースが亡くなって1ヶ月後、イェイナが世界の中心地であるスカイに招かれたのは、世継ぎ候補となるため。候補は他にふたりいた。デカルタの姪シミーナと、甥レラードだ。
圧倒的に不利なイェイナは、兵器として使役される神々から、取引を持ちかけられる。実は、イェイナが世継ぎとなる可能性はまったくなかった。イェイナは生け贄となるために呼び寄せられたのだ。
イェイナは神々と同盟をくみ、キニースの真実の姿を追い求めていくが……。
イェイナの一人称で物語は展開していきます。その一人称は現在進行形ではなく、回想するスタイルをとっています。それも、ややあやふやな雰囲気を漂わせて。
イェイナがどこか達観しているわけは、終盤で明らかになります。謎が提示されて徐々に真相に近づいていくさまは、ミステリさながら。
読み辛くはあるのですが、楽しめました。
オックスフォード大学のジェイムズ・ダンワージー教授は、20世紀専門の歴史家。中世の研究からは遠ざかっているが、中世史科の学生キヴリン・エングルから非公式な指導教授としての役割を依頼された。
ダンワージーが渋々ながら承諾したのは、中世史科のスタッフに反感を抱いていたため。
その中世史科では、ギルクリスト教授が史学部の学部長代理となったためにやりたい放題。キヴリンの望みどおり、中世にタイムトラベルさせる手はずを整えてしまう。黒死病、コレラ、戦争、その他もろもろがつまっている中世に。
キヴリンが目指したのは1320年。
降下を担当した技術者バートリは、キヴリンの到着を確認するため座標の確認を行うが、ダンワージーに「なにかがおかしい」と言い残して病に倒れてしまった。
バートリの病は伝染性で、一帯は封鎖。ダンワージーはキヴリンの行方を心配するものの、どうすることもできない。
一方、14世紀に出現したキヴリンも、やはり病に倒れていた。何者かに助けられたものの、昏睡状態が続き、到着地点が分からなくなってしまう。帰還するためには、絶対に必要な情報なのだが……。
《オックスフォード大学史学部》シリーズのうちのひとつ。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞受賞。
14世紀と21世紀と、どちらでも危機に見舞われながら一進一退。ときにコミカルに、ときにシリアスに、物語は展開していきます。
バートリの病の発生源はどこなのか。
おかしい、とはどういう意味なのか。
中世にいるキヴリンは、そんな21世紀の様子など知る由もありません。病に倒れ、回復したものの言葉が通じず、悪戦苦闘します。そして、とんでもない事実を突きつけられます。
再読なので、先々を知ったうえで読んでいると、なるほど伏線がたくさん。登場人物たちはまったく気がつかないので、じれったいです。すごく。