2013年11月10日
宮部みゆき
『震える岩 霊験お初捕物控』講談社文庫
お初は、通町の岡っ引き、六蔵の妹。
お初には、不思議な力があった。人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえるのだ。その能力については秘密にしていたが、六蔵のお役目に役立つこともあり、南町奉行根岸肥前守の知るところとなった。
実はお奉行、若いころから巷に溢れる噂話や不思議な言い伝えに興味を持ち、『耳袋』という書物まで著すお人柄。それゆえお初は16歳にして、奉行所の奥向きに自由に出入りするようになった。
そんなある日、お初は、深川の十間長屋であった死人憑きの騒ぎを耳にした。吉次という男やもめが、葬儀の準備中に生き返ったというのだ。ただ、通常の死人憑きとはちがい、暴れることもなく、今まで通りの生活を送っているのだという。
興味をそそられたお初は、吉次に会うものの、どうも釈然としない。お奉行に、さらなる調査の許可を得ようと報告に上がった。
そんなお初にお奉行は、ひとりの侍を紹介する。
古沢右京之介。吟味方与力、古沢武左衛門の嫡男。現在は与力見習なのだが、父親とはまったく違う優男ぶり。
お初と右京之介は共に行動することとなるが……。
時代物は言葉遣いが独特なので、必然的にじっくりとした読書となりました。
発端は、死人憑きの騒動。その他、子供が殺される事件が発生したり、震える岩が話題となったり、一見するとオムニバス形式。それらがきっちりつながって、ひとつの長篇を形作ってます。
シリーズものだからか、お初の出生の秘密が明らかにならなかったり、読み足りないところもありました。エンターテイメントとして軽く楽しむべき作品なのだろうな、と思います。
ちなみに、根岸肥前守は実在の人物です。実際に『耳袋』も残ってます。
世界に3つある巨大なドーム都市・フォーは、アンドロイドとコンピュータが管理する理想都市。
人間たちは、睡眠学校を出るとジャングとして半ロールほどを過ごし、大人へとなっていく。(1ロールは100年に相当)もはや貧困も病も、犯罪も老いもない。自分の好きな外見や性別を選び、何不自由なく暮らしていけるのだ。
ジャングである少年少女たちは、特有の文化や習慣を持ち、着飾っては騒ぎを起こし、破壊行動に走る。手っ取り早く新しい身体を手に入れようと、始終自殺してしまう者もいる。
だが、それさえも都市にとっては正常な出来事。
中には、真実を求めてもがく者もいる。少女は、ジャングであることを拒否しようとするが……。
巻頭に、ジャング用語録があります。ルビを利用することで、用語一覧を見なくても分かるようになっている言葉もありますが、参照しながらでないと意味が分からない言葉もあります。
世界観に独特の雰囲気が漂っていて、きっちりと組み立てられているのですが、フォーが成立した過程などは明らかにされません。一応SFですが、そういうところはファンタジーな印象。
体制に逆らう少年少女を読みたいなら、それもいいんでしょうけど。
《魔法の国ザンス》シリーズ第17巻。
グローハは、ハーピーとゴブリンのハーフ。この組み合わせはザンスでも珍しく、グローハの他には弟のハーグロしかいない。
グローハもそろそろ20歳。ところが相手となる異性がおらず、途方にくれていた。
そこでグローハは、よき魔法使いハンフリーに相談することにした。情報の魔法使いであるハンフリーは、1年の奉公と引き換えに、あらゆる質問に答えてくれるのだ。
障害を乗り越えてハンフリーの城にたどりついたグローハだったが、肝心のハンフリーはグローハにそっけない。質問すらさせてくれず、ただ一言。
「わしのふたりめの息子に会え」
とだけ言うと自分の世界に閉じこもってしまう。
グローハはハンフリーの息子をさがして、さまざまな人物を尋ねて回る。行き着いた先は、捜しものをみつける魔法の力を持つクロンビーの家だった。
クロンビーの家では、フェイドアウト・パーティを開こうと、かつての仲間たちが集ったところ。その中から、グローハの探索に、かつてのザンス王トレントが付き合ってくれることになった。
パーティは延期。グローハは、若返りの霊水を飲んだトレントと共に旅立つが……。
タイトルにある通り、一応、トレントは決断します。決断しますけど、物語の中心はグローハ。
前作までの登場人物たちも多数出演して、にぎやかに。いろんな事件とか、出会いとかを経て、手堅くまとめたな、といったところ。
《常野物語》シリーズの一冊。(他に『光の帝国』『エンド・ゲーム』)
中島峰子は、槙村の集落で生まれ育った。
槙村を支えているのは、集落の名称にまでなっている槙村家。峰子の父は、槙村家のかかりつけ医師だった。その縁で峰子は、槙村家の末娘・聡子と出会う。
聡子は峰子のひとつ上。病弱のため、学校にいくことすらできない。せめて話し相手が欲しいと、峰子は頼まれたのだ。
以来峰子は、槙村の屋敷に出入りするようになった。
あるとき槙村家に、春田と名乗る一家が尋ねてくる。かつて槙村家は、春田家の世話になったことがあるらしい。そのときの恩を槙田家は忘れておらず、春田一家は、屋敷の外れにある洋館に住むこととなった。
ふしぎな一家に、集落の人々はざわめくが……。
峰子によって、語られていきます。
春田一家は常野一族の一員で、常野というのは、特殊な能力を持つひとたちのこと。春田家の人々は、他人の人生を自分の中に蓄積することができます。
ただし、春田家はあくまで脇役。
物語の焦点は、峰子が慕う聡子様。
常野と絡めなくても物語として成立しそうなので、正直なところ、物足りない。すごくいいエピソードとかはあるんですけどね。
《常野物語》シリーズの一冊。(他に『光の帝国』『蒲公英草紙』)
拝島時子は母の暎子と共に、「あれ」と戦ってきた。「あれ」に「裏返される」ことに怯え「裏返し」つづけてきた。
父は誰よりも強かったが、もう十年以上も前に姿を消している。そして今また、暎子が昏睡状態に陥ってしまう。
残された時子は、「何かあったらかけるように」といわれていた電話番号を頼るが……。
拝島一家の謎が、ついに明らかになります……と言いたいところですが、どうも自信が持てない。そして「あれ」がなんなのか、依然として謎のまま。いかんせん精神世界の物語なので、「裏返す」とか「裏返される」とかの定義がいまひとつ掴めないまま。
どんでん返しの連続は、それはそれで楽しめるのですが、釈然としない部分が少なくなく、欲求不満のまま終わってしまいました。
《スペルシンガー・サーガ》第六巻(最終巻)
ジョン・トムは、地球から召喚されたスペルシンガー。魔法使いクロサハンプのすぐ隣で暮らしている。
ある夜、クロサハンプの住まいから怪しげな物音がした。様子を見に行ったジョン・トムが目撃したのは、拘束されたクロサハンプと盗賊たちの姿。盗賊たちは、クロサハンプが黄金を隠し持っていると思って襲ってきたらしい。
ジョン・トムは、盗賊たちを魔法の楽器デュアで撃退する。ところが、うっかり自分の楽器の上に倒れ込み、デュアを完膚なきまでに粉砕してしまった。
クロサハンプが言うには、壊れた魔法を直せるのは、クーヴィエ・クルブただ一人。クーヴィエ・クルブが住んでいるのは、ストレラカト・ミューズという町。〈ぎらぎらの海〉の南部海岸にある港町チジージの、さらに南にあるジャングルの中だ。
ジョン・トムは、相棒のカワウソ、マッジをお供に旅立つが……。
今回は世界を救う旅ではないため、ふたりは気軽に出発します。道中、魔法の楽器スアを手に入れて、スペルシンガーぶりも垣間見られます。ただ、このスアの魔力が貧弱で、それでまたトラブルが発生したりするのですけど。
そして、もちろん、ただのロードムービーでは終わりません。
マッジがひと目惚れしたウィージーがさらわれてしまって、命がけの救出劇があります。その過程で偶然、びっくりなものが発見されたりも。
基本的な流れは、これまでと同じ。おもしろい点もありますが、腑に落ちないところも多々ありました。どうも、物語を都合よく進めるために、無理をしている印象。
シリーズも六冊目なんですから、もうちょっと登場人物たちに深みがあってもいい気がするんですけど。作者も、早く終わらせてしまいたかったのかな、と勘ぐってしまいました。
1939年。
ヴィヴィアン・スミスは、11歳。子供たちばかりが乗る疎開列車で、駅に迎えにくるはずのマーティさんのことを考えていた。マーティさんは親戚だが、顔を合わせたことすらない。
もし、会い損なったら?
駅についたヴィヴィアンを待っていたのは、マーティさんではなく、ひとりの少年たった。ジョナサン・リー・ウォーカー。ヴィヴィアンは手荷物を奪われて、ジョナサンを追いかけるはめになってしまう。
気がつけばヴィヴィアンは、『時の町』と呼ばれるところに来ていた。
時の町は、歴史の流れから切り離された町。フェイバー・ジョンによって作り出された。フェイバー・ジョンの奥方の名前は、ヴィヴィアン。
早とちりなジョナサンはヴィヴィアン・スミスを、『時の町』の破滅を招くという伝説の女性『時の奥方』に間違えてしまったのだ。
もはや帰ることのできないヴィヴィアンは、ジョナサンのいとこ、ヴィヴィアン・サラ・リーに成り済ますが……。
児童文学、というより、子供向け。主要な登場人物が子供であるというだけでなく、大人たちまで子供じみてます。いささか興ざめ。
もっとずっと幼いころに読むべきでした。
地球は、多すぎる人口に苦しんでいた。
食糧の配給は減らされ続け、もはや人々の我慢も限界。解決する方法はただひとつ。開拓中のガニメデに大植民団を送り、口減らしをしてしまうのだ。
ウィリアム・ラーマーは、母アンを亡くし、父ジョージとアパート暮らし。ウィリアムにもアンの死は堪えたが、ジョージはいまだに立ち直れていない。
そんな最中ジョージは、ガニメデ行きを宣言した。それも、ひとりで行くのだと言う。振興植民地のガニメデにはまだ、ちゃんとした学校がひとつもないのだ。
ウィリアムは、それでもジョージについていく決心をする。
実は、植民者を選ぶに当たっては、いくつか基準があった。応募できるのは、子供のいる夫婦に限られていたのだ。
ジョージは同僚のモリーと再婚し、ウィリアムには妹ペギーができた。ウィリアムは反発するもののどうすることもできない。4人はひとつの家族として旅立つが……。
古き良き時代の青少年小説。
ウィリアムはボーイスカウト活動に熱心で、13歳でイーグル・スカウトになったのを誇りにしてます。が、ガニメデに着いたら地球での実績が認められなくて、大ショック。
しかも、新規植民者6000名に対して、ガニメデの人口は惑星全体でも3万人たらず。受け入れ態勢が整いきれておらず、約束された土地はどこにあるやら。人々は、大変な困難に見舞われてしまいます。
事件は次から次へと起こりますが、全体的にあっさりしてます。物語の半分はガニメデに到着するまでの出来事なので、ガニメデを期待していると肩すかし。
ボーイスカウトのことをよく知っていると、共感できるのでしょうけど。
15世紀フランス。
シャルル8世が亡くなり、ヴァロワ家の本流は断絶した。代わってフランス王となったのは、ヴァロワ=オルレアン家のオルレアン公ルイ。ルイ12世は即位すると真っ先に、王妃ジャンヌ・ドゥ・フランスを被告として離婚裁判を起こした。
キリスト教徒の男女は、教会で結婚式を挙げる。離婚するときには教会裁判所を使う。
カノン法のもと争うのだが、離婚は禁じられた行為でもある。だが抜け道はある。「結婚の無効取消」という手続きに訴えるのだ。
その審理は、夫婦の私生活にまで踏み込むことが多い。そのため、通常は女が泣き寝入りすることとなる。
ジャンヌ王妃も、すべてを認めて離婚に応じるかと思われた。ところが、王妃はすべてを否認し、争う姿勢を見せたのだ。
フランソワ・ベトゥーラスは、その様子を傍聴していた。
フランソワは、かつては将来を嘱望された学僧だった。だが、それは20年も昔の話。いまでは田舎のナントで、司教座法廷常設弁護士として、ほそぼそと暮らしている。
それもこれも、暴君ルイ11世にパリから追放されたせい。そして、ジャンヌ王妃はルイ11世の娘なのだ。
フランソワが見たかったのは、裁判で惨めな姿をさらすジャンヌ王妃の姿。だが、自身の弁護をしてくれるはずの者たちからも裏切られ、孤立無縁に陥りながらも毅然とした態度を崩さない王妃に、フランソワは心を動かされる。ついに、王妃の求めに応じて、弁護を引き受けることになるが……。
直木賞受賞作。
実際にあった離婚裁判を題材にした物語。
どこまでが史実なのか、どの程度正確なのか、残念ながら知識不足で分かりかねますが、あんまり詳しく知らない方が楽しめるだろうなぁ、という印象。フランスとかキリスト教にあまり詳しくない日本人向けに、フランソワがいろいろと解説してくれます。
地文に会話が混じっているので、少々読みづらいです。代わりに、解説のおかげで理解はしやすいです。
ただ、フランソワの思考を、日本人に伝わりやすいように書いているからか、どうもフランソワが日本人に思えてしまうのです。そこが残念。
でも、だからこそ、大衆に受け入れられて直木賞も獲得できたのでしょうね。皮肉です。
奇想天外な、ホラ話系の短編集。
「素顔のユリーマ」伊藤典夫/訳
アルバートは、賢く生まれつかなかった、ほぼ最後の子どもだった。8歳になってもドアのあけ方も知らず、右と左の区別もおぼつかない。まあまあの字すら書けないアルバートは、ずるをした。自分のかわりに字を書く機械をつくったのだ。それ以降アルバートは次から次へと、自分のかわりとなる機械をつくり始めるが……。
アルバートの天才っぷりがすざまじいです。愚鈍さを補う機械を作れるのだから愚鈍ではないと思うのですが、ふつうの人は愚鈍ではないから機械など必要でないのだというのがアルバートの言い分。ラファティ独特の語り口なので視線はやさしくおもしろいのですが、おそろしい物語でした。
「月の裏側」伊藤典夫/訳
ジョニー・オコナーの生活は、機械のように規則正しかった。だがその生活に変化が訪れる。いつも同じバスに乗り同じバス停で降りていたブロンド娘が、いつものバス停で降りなかったのだ。この大事件にオコナーは、つられて自分もひとつ先の停留所で降りてしまうが……。
月の裏側とは、反対側ということ。何気なく送っていた日常には裏の世界があった、と。知ってしまった以上、昔には帰れないのですね。
「楽園にて」伊藤典夫/訳
リトル・プローブ号は、とある衛星の調査をしていた。その天体には生物があふれ、あの超常知覚探知機まで反応する始末。一行が着陸してみると、人間が一組。男はハ=アダマーと名乗り、女をハウワーと紹介した。何もかもが揃った世界は、完全無欠な楽園だったが……。
謎の楽園は、エデンの園を彷彿とさせます。もちろん、からくりがあるわけですが。
「パイン・キャッスル」伊藤典夫/訳
スティーヴン・ネクロスは、やたらと暗いバーにいた。じとじとして、胸には重しが乗っかっているよう。同席しているのは、失業中の曲芸飛行士や、失業中の蛇使いなど6人。そこは、パイン・キャッスル(松の城)と呼ばれるところ。スティーヴンは6人から、人間の根源的な恐怖について聞かされるが……。
「ぴかぴかコインの湧きでる泉」伊藤典夫/訳
マシュー・クォインは、無限に湧きでるぴかぴかコインの泉を手中にしていた。コインのなくならない銭入れを持っていたのだ。マシューに約束されたのは、八つの輝かしい永劫。おまけに八番目の永劫は望むかぎり引き延ばし可能なのだが……。
マシューの銭入れは、ある契約によって手に入れたもの。マシューの境遇はどんどん変化して、その分だけ年老いていきますが、伊達男ぶりは相変わらず。先見の明があればねぇ……と思わずにいられない。
「崖を登る」伊藤典夫/訳
南に面した切り立った崖は、登る必要はないし、てっぺんまではとても登れない代物だった。どこまで高く登りチョークのしるしを残せるかは、一種のゲームになっていた。最初のチョーク跡は、魚の絵だ。翻訳したポッター教授によると、リトル・フィッシュヘッドが第三十六紀の第三十六年につけたものらしいのだが……。
崖にまつわるエピソードが、ポッター教授のそれも含めて暖かく語られます。
「小石はどこから」伊藤典夫/訳
ビル・ソレルは、19階の窓から小石を落とした。雨が降ったあとはきまって、窓の下の小さなでっぱりに石がたまる。ソレルは『なぜなぜはてな大百科』を執筆しており、《なぜ小石は軒下にたまるか?》は、最後に残された謎だった。ソレルは、観察し、実験し、真相に近づこうとするが……。
ソレルは、これまでに定説とされていた説に疑問をぶつけ、真面目に真面目に考察して、ついに永遠の真理を掴みます。ホラ話はこうでなくては。
「昔には帰れない」伊藤典夫/訳
ムーン・ホイッスルを吹きたければ、〈まいご月の谷〉に行くべきだ。ムーン・ホイッスルを吹けば、ホワイトカウ・ロックが降りてくる。そこは魔術の国。脅威の世界。子どもたちの歓び。遊び仲間たちはムーン・ホイッスルを吹き、ホワイトカウ・ロックを探検するが……。
遊び仲間たちの冒険と、歳月を経た遊び仲間たちのふたたびの冒険という構成。タイトルがタイトルだけに、郷愁ただよってます。
「忘れた偽足」伊藤典夫/訳
ドゥーク=ドクターの元に、正真正銘の球状エイリアンであるスファイリコスがやってきた。スファイリコスは病気にならないはずなのだが、その生物が主張するには、若いころに一瞬だけ使い、すでに溶けているはずの偽足が、怒って叫んで、もどりたいといいはっているのだという。ドゥーク=ドクターはスファイリコスを助けようとするが、自身の寿命も終わりに近づいており……。
「ゴールデン・トラバント」浅倉久志/訳
パトリック・T・Kは、この町のだれよりも密輸の金塊をたくさん扱ってきた男。あるとき、謎の男が金塊を売りにきた。パトリック・T・Kが判断したところでは、その金塊は地球外のもの。だが、宇宙で金塊を採掘するには経費の方が高くつくはず。金塊の来歴とは?
黄金をめぐる狂想曲。火星と木星のあいだに、小粒な、だけど黄金でできている小惑星があって、それこそがゴールデン・トラバント。多量の黄金は、人をおかしくさせます。その騒動と結末が語られます。物悲しいです。
「そして、わが名は」伊藤典夫/訳
クルディスタンの山地に、たいてい七名からなるグループが、世界中から集まってきた。彼らは、クロコダイルであったり、大角鹿であったり、鯨であったりした。そして、空からは天使が降りきたった。男が語るには、自分は天使ではなく名前は〈人〉であるらしい。この集会に、きわめて特別な七名の人間たちも参加するが……。
現代人らしき人間が出てきますが、雰囲気は神話。
「大河の千の岸辺」浅倉久志/訳
レオ・ネーションは、金持ちのインディアンとして知られていた。レオはさまざまなものを収集していたが、もっとものめり込んでいるのは、世界一の長い絵だった。ありきたりな偽の長いだけの絵ではなく、実は絵ではない本物の世界一長い絵だ。レオは、収集をつづける傍ら、友人のチャールズに分析を依頼するが……。
レオは貪欲に絵を集めます。そして、チャールズがせっせと分析し、世界一長い絵の正体がついに明らかになります。結末は予想できるものですが、断片から推理していく過程が楽しいです。
「すべての陸地ふたたび溢れいづるとき」浅倉久志/訳
三人の大学者が集まり、非常に珍しい現象について論じあった。どうやら、この世界と、その上を動きまわるすべてのものが一新されるらしい。彼らのひとりが、この緊急事態を知らせに大統領のもとへ向かうが……。
今作のキーワードは三人。この頭数がラストに生かされてきます。ただ、あまり宗教に関心のない人だと、オチが分からないかも。
「廃品置き場の裏面史」浅倉久志/訳
ジャック・キャスは質屋で、ポルダー通りの廃品置き場の管理人を兼ねている。ぶかっこうなジャック・キャスは、下流社会の愉快な男。警察官のドラムヘッド・ジョー・クレスは、ジャック・キャスがJ・パーマーと関わっているのではないかと睨んでいる。J・パーマーは、上品なペテン師。殺しもやる危険な男だ。ジャック・キャスは、J・パーマーなど知らないと突っぱねるが……。
「行間からはみだすものを読め」伊藤典夫訳
バーナビイ邸のガレージ・ハウスの上に、古い空き部屋がある。部屋は、しばらく前から鳴動が続いていたが、関心を払う者はあまりいなかった。ある晩バーナビイが、あの部屋のガタゴトが不気味で危険そうだと発言するまでは。かくして部屋の秘密が調べられるが……。
「1873年のテレビドラマ」浅倉久志/訳
通説では、テレビが発明されたのは1884年のこと。だが、テレビのようなものはすでにあり、1872年には、テレビドラマが製作されていた。手がけたのは、オーレリアン・ベントリー。ベントリーは1874年に破産してしまったが、13本のテレビドラマは残った。
かろうじて残されていたテレビドラマが紹介されていきます。本来は無声なのですが、音響が忍び込んでます。