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2014年の記録
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このページの本たち
クライマーズ・ハイ』横山秀夫
古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス
時は乱れて』フィリップ・K・ディック
リヴァイアサン −クジラと蒸気機関−』スコット・ウエスターフェルド
青雲はるかに』宮城谷昌光
 
栄光のスペース・アカデミー』ロバート・A・ハインライン
半落ち』横山秀夫
写楽殺人事件』高橋克彦
謎解きはディナーのあとで』東川篤哉
火車』宮部みゆき

 
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2014年02月02日
横山秀夫
『クライマーズ・ハイ』文春文庫

 悠木和雅は、群馬の地方紙・北関東新聞社の記者。
 すでに40歳。同期たちはデスク席におさまり、主要都市の支局長になっている者もいる。そんな彼らを尻目に悠木は、かたくなに遊軍記者として活動してきた。
 悠木には、部下だった新人記者を死に追いやってしまった過去がある。当時、進退伺いを出したものの処分はされなかった。悠木にもデスクの話がなかったわけではない。だが、亡くなった新人記者のことを思うと踏み切れずにいた。
 そんな悠木に心の安らぎをもたらしたのは、山だった。
 山屋と呼べるほど本格的ではない。しかし、山を歩くことで心がほぐれていく自分を発見した。やがて悠木は、販売局の安西耿一郎に誘われるがまま、岩場にも出掛けるようになっていた。
 そして、1985年8月。
 悠木と安西は、県内最大の難関である谷川岳衝立岩に挑む計画を立てていた。近場で一泊し、朝一番で衝立岩正面壁にアタックをかける。そのためには、19時30分には退社しなければならない。
 悠木が帰りかけたそのとき、ニュース速報が入った。
《日航ジャンボ機レーダーから消える》
 悠木は、全権デスクを命じられてしまう。
 次々と入電があり、衝立岩どころではなくなった。
 墜落現場は、群馬県多野郡上野村山中。御巣鷹山だ。死者520人。世界最大の航空機事故となった。
 悠木は事故現場に記者を送り込むが、無事にたどり着けるかどうかも分からない。彼らが下山して一報を入れるまで、やきもきしながら待っているしかない。
 そんな最中、安西が倒れた、という連絡が入る。
 悠木は時間を見つけて病院にかけつけるが、すでに安西の意識はなかった。遷延性意識障害。安西は、ひとりで衝立岩に向かったのではなく、前橋の歓楽街で倒れたらしい。
 悠木は安西の行動をいぶかしむが、締切は待ってはくれない。全権デスクとして、数々の決断を迫られるが……。

 物語は、57歳の悠木から始まります。
 悠木は、安西のひとり息子・燐太郎をパートナーに、あの谷川岳衝立岩に挑もうとしているところ。その過程で、40歳のころの自分を振り返ります。
 40歳の悠木は不安的なところがあって、読んでいて腹立たしくなることがあります。家庭はうまくいってない、若手との意思疎通もいまひとつ、石頭な上司とは衝突してしまう。それが人間くささでもあるのですが。
 日本航空123便墜落事故は、大きな事故だっただけに、本書での扱いも圧倒的です。ですが、あの事故のことを知りたいと思って読むと、ちょっと違うかな、と。
 とんでもない大事故に直面すると尋常でない精神状態になってしまう、ということでしょうか。


 
 
 
 

2014年02月15日
ジェラルディン・ブルックス(森嶋マリ/訳)
『古書の来歴』武田ランダムハウス・ジャパン

 1894年、サラエボで珍しいハガダーが発見された。
 ハガダーとは、ユダヤ教徒たちが過越しの祭で使う書。作られたのは、中世のスペイン。ユダヤ教があらゆる宗教画を禁じていた時代。ところがサラエボ・ハガダーには、高価な顔料をもちいた挿絵がふんだんに使われていた。
 1992年、内戦によりサラエボが包囲されたとき、古書の行方は分からなくなった。
 1996年、ようやく停戦になり、ハガダーは再発見された。国立博物館の学芸員が、隠し通したのだ。だが、とても理想的とはいえない環境におかれていたため、国連は、必要な修復作業を行えるように手をうった。
 国連のお眼鏡にかなったのは、古書の鑑定家ハンナ・ヒース。
 ハンナは、ヘブライ語の書物の世界的な権威であるヴェルナー・マリア・ハインリヒの弟子。ヴェルナーはドイツ人で、状況がドイツ人の出番をよしとしなかった。同じように、イスラエル人もアメリカ人もはじかれ、オーストラリア人のハンナに話がまわってきたのだ。
 ハンナはサラエボ・ハガダーに対面し、1890年代に施された修復に奇妙な点を見つける。当時、本はウィーンに送られ、再装丁された。製本師は、一対の留め金をつけるための溝と、小さな穴を開けていた。ところが留め金がないのだ。
 さらに、製本をくずしたハンナは、本がたどってきたであろう手がかりを見つける。蝶の羽、ワインらしき染み、塩の結晶、白い毛……。
 それらは何を語るのか?

 サラエボ・ハガダーは実在しています。学芸員によって守られたことなど、いくつかのエピソードは実際の出来事が下敷きになっているようです。
 ハンナの物語の合間合間で、蝶の羽などがハガダーに挟み込まれるにいたった経緯が語られます。ハガダーのたどってきた歴史はユダヤ人たちの歴史でもあります。苦難の連続なので、明るくはないです。
 ハンナの物語では、ハガダーの謎を解明していくと同時に、自身と母との確執なども展開されていきます。そのため、そちらもあまり明るくはないです。

 ハガダーの歴史は、最近のものから順に明かされていきます。時代がどんどん遡っていくのが印象的。決して書きすぎず、それぞれのエピソードがゆるやかにつながっているので、読者が想像する余地が残されてます。


 
 
 
 

2014年02月16日
フィリップ・K・ディック(山田和子/訳)
『時は乱れて』ハヤカワ文庫SF1937

 レイグル・ガムは、アメリカの片田舎で妹夫婦と暮らしていた。
 レイグルの収入源は、新聞紙《ガゼット》のコンテスト〈火星人はどこへ?〉に応募すること。連戦連勝のレイグルが獲得している賞金は、ばかにならない額に達していた。
 レイグルは、決して遊びでしているのではない。正解を出すために、参考図書や図表、グラフを積み上げ、不断のリサーチと方法の改良を絶えず試み、負担は増すばかり。レイグルは幻覚を見るようになっていた。
 そんなあるとき、甥のサミーが、遊び場で奇妙なものを見つけてくる。電話帳と雑誌だ。電話番号はどこにもつながらず、雑誌には、誰も知らない女優マリリン・モンローが、さも有名人であるかのように紹介されていた。
 レイグルは、当たり前に思っていた日常に違和感を覚え、実はまやかしなのではないかと疑うが……。

 ディックお得意の、日常が崩れていくパターン。
 初期の作品なので、少し荒いです。その分、スピード感はあります。
 世界の秘密は、かなり早い段階で分かります。ただ、なんのためにそんなことをしているのか、そこまでは分からない。そのあたりがミステリになってます。

 読んでいて、映画「トゥルーマン・ショー」を連想しました。テレビCMを見た、といった程度の知識ですが。なんでも「トゥルーマン・ショー」のネタ元になっていたらしいです。


 
 
 
 
2014年02月18日
スコット・ウエスターフェルド(小林美幸/訳)
『リヴァイアサン −クジラと蒸気機関−』
ハヤカワ文庫SF1933

 アレクサンダー・フォン・ホーエンベルクの一族は、600年に渡ってヨーロッパを統治してきた。アレックの父は皇太子だが、母の身分が低かったため、オーストリア=ハンガリー帝国の世継ぎとして認められることはない。
 アレックはもうすぐ16歳。
 両親が、サラエヴォを訪問中に暗殺されてしまった。
 皇族の一員としては認められていないアレックだが、オーストリア大公のひとり息子であることに変わりはない。皇位継承をゆるがす人物として、命を狙われてしまう。家臣たちに連れられ、屋敷を後にするが……。
 一方、英国に暮らすデリン・シャープは、英国海軍航空隊に志願しようとしていた。まだ15歳であることも、実は女であることも秘密だ。
 英国は〈ダーウィニスト〉たちの国。ドイツら〈クランカー〉たちと対立している。
 〈ダーウィニスト〉は遺伝子操作された人造獣を操り、〈クランカー〉は機械文明を発達させてきた。ふたつの勢力はヨーロッパで拮抗しており、開戦の噂が絶えない。
 だが、デリンが入隊を熱望しているのは、戦争とは関係がない。空への憧れのためだ。
 デリンは、高度に対する資質の試験を受けている最中、トラブルに見舞われてしまう。ハクスリー高空偵察獣に吊り下げられたまま、嵐に巻き込まれてしまったのだ。漂うデリンを救出したのは、巨大飛行獣〈リヴァイアサン〉だった。
 実は〈リヴァイアサン〉は、フランスに直行するところ。オーストリア大公夫妻が暗殺されたため、警戒態勢がしかれたのだ。デリンは降ろされることもなく、士官候補生として職務に励むが……。

 架空世界の物語ですが、サラエヴォ事件が発端となって世界大戦がはじまったり、ところどころ史実を彷彿とさせます。現実と空想の混ざり具合が絶妙で、どこまでが現実と同じで、どこからが架空なのか、そういった楽しみ方もできそうです。
 三部作の第一部という位置づけなので、一段落はついたけれども終わってない、という状況。大人向けの文庫レーベルから出てますが、挿絵が入っていて、若者向けだな、と。
 世界背景に戦争が入っているので、若者向けくらいでちょうどいいのかもしれませんね。


 
 
 
 
2014年02月22日
宮城谷昌光
『青雲はるかに』上下巻/新潮文庫

 中国、戦国時代。
 魏人の范雎(はんしょ)は大望を抱き、学問に励んでいた。
 このころ各国の有力な貴族たちは、有能な士をかかえようとしていた。彼らは説客と呼ばれ、諸国を遊説していた范雎も、楚の貴族の客となっていたこともある。しかし、頭角を現すことはできなかった。
 帰国した范雎が仕えることになったのは、須賈(しゅか)だった。須賈は、宰相である魏斉の直属の家臣。范雎は須賈に従って斉に赴くが、そこで襄王から声をかけられる。
 ところが、そのことが魏斉に知れると、范雎はあらぬ疑いをかけられてしまう。スパイだと疑われてしまったのだ。
 范雎は魏斉の宴席に呼びつけられ、余興として半殺しにされてしまう。一命をとりとめた范雎は身を隠し、復讐を誓うが……。

 秦の宰相となった范雎の、波瀾万丈の物語。
 登場する美女たちが、片っ端から范雎に惚れていくんです。范雎が魅力的だったんでしょうけど、宮城谷作品にしては珍しい展開だな、と。それが納得できるかどうか。


 
 
 
 
2014年03月16日
ロバート・A・ハインライン(矢野 徹/訳)
『栄光のスペース・アカデミー』ハヤカワ文庫SF720

 2075年。
 マシュウ・ブルックス・ダッドソンが憧れているのは、惑星間パトロール隊。入隊のための一次試験を通過したマットは、最終試験のため、地球基地へと出頭した。
 多くの受験者が脱落していく中、マットは士官候補生として宣誓入隊を果たす。候補生たちを待っていたのは、士官学校の宇宙船ランドルフ号での厳しい教育の数々だった。
 難問をクリアしてきたマットだったが、苦手な科目を克服することができない。すっかり弱気になり、除隊をも検討するが、久しぶりの帰郷で、もはや後戻りはできないことに気がつく。
 マットは決意も新たに任務に励むが……。

 前半は、パトロール隊での訓練の様子。
 後半は、訓練生として配属されたアイス・トリプレックス号でのあれこれ。
 パトロール隊の歴史とか訓練とか、緻密な設定をうかがわせるので、読んでいて安心感があります。ただ、原書の発表が1948年ということもあり、古き良き時代のSFといった印象が残りました。


 
 
 
 

2014年03月21日
横山秀夫
『半落ち』講談社

 梶聡一郎は、W県警本部の警部。
 教官を務め、温厚で、生真面目。同僚や後輩からの信頼も厚い。何年か前に一人息子の俊哉を亡くし、妻の啓子と二人暮らしをしていた。
 12月4日。
 俊哉の命日だった。梶は、啓子を殺してしまう。そして、7日に自首をした。
 梶の取り調べを任されたのは、志木和正警視。
 志木は梶から、なぜ殺害したのか、どのようにしたのか、事件に関することをすべて聞き出した。ところが、事件後に何をしていたのかが分からない。梶は、自首するまでの空白の二日間については語ろうとしないのだ。
 現職警察官による事件だけに、世間の風当たりは強い。保身に走る上層部によって梶の供述は、組織にとって都合のいいように引き出されてしまう。
 梶の身柄は、検察へと送られた。担当検事の佐瀬銛男は、梶の、空白の二日間の供述が偽造であることを見抜くが……。

 さまざまな登場人物の視点から、梶が語られます。
 警察官の志木和正。
 検察官の佐瀬銛男。
 新聞記者の中尾洋平。
 弁護士の植村学。
 裁判官の藤林圭吾。
 刑務官の古賀誠司。
 それぞれがそれぞれに、自分の所属する組織と戦っている印象。じっくり読みたいところですが、いかんせん、それぞれの章が長くはないので、あっというまに終わってしまいます。そこだけが物足りない……。
 その代わり、犯罪者が進んでいく道程がよく分かる構成になってます。逮捕されて、検察に送られて、弁護士がついて、裁判にかけられて、服役する、と。その流れが興味深かったです。

 ところで、本書で語られた内容について、現実にはありえないと問題視する御仁がいたそうです。それがきっかけとなり、作者が某有名文学賞と決別するという事態に発展。まるで、己の組織と戦っていた登場人物のよう。
 どうも、前例はないけれど、絶対にあり得ない、ということではない、といったところのようです。横山秀夫を応援したくなりました。


 
 
 
 
2014年03月22日
高橋克彦
『写楽殺人事件』講談社

 津田良平は、浮世絵研究家・西島俊作の弟子のひとり。
 西島といえば、20年前に発表した『写楽論』が名著として版を重ね、東洲斎写楽研究の第一人者として不動の地位を築き上げている。西島の功績は誰も否定できないが、そのための弊害も生じていた。津田は、横柄な西島を信頼しきれずにいる。
 10月、篆書家の嵯峨厚が自殺を遂げた。
 嵯峨厚は「浮世絵愛好会」の中心人物でもある。「浮世絵愛好会」は、西島が理事をつとめる「江戸美術協会」と対立していた。かつては旧知の仲だった西島と嵯峨も、ここ五年ほどは冷戦状態。実は嵯峨は殺されたのではないか、と西島が疑われるが、自殺であることは間違いないらしい。
 そんなある日、津田は、嵯峨の義弟である水野から、明治時代の秋田蘭画の画集を譲り受けた。浮世絵の終焉を飾った絵師・小林清親が序文を寄せていたのだ。
 画集は、個人のコレクションをまとめたものらしい。中でも近松昌栄という絵師の力量に、津田は感嘆する。注意深く見直すと、一枚の絵に、驚愕の言葉が書き込まれてあった。
 東州斎写楽改近松昌栄画
 近松昌栄とは、東州斎写楽からの改名だというのだ。謎の浮世絵師・写楽の正体については、いまだ論争のまと。この大発見に津田は大興奮。西島にも報告する。
 津田は、近松昌栄なる人物の足跡を求めて秋田へと赴くが……。

 江戸川乱歩賞受賞作。
 嵯峨の自殺で開幕し、途中、殺人事件も発生します。事件だけでなく、浮世絵界の内部対立、近松昌栄の探索、写楽の正体に関する考察、と盛りだくさん。作中で示される写楽の謎の落としどころも、そういうことだったのか、と、すっきり。
 ある意味、高橋克彦の自説(この人が写楽だ!)を発表する場、なのでしょうけど、とても自然で、好感が持てました。


 
 
 
 
2014年04月25日
東川篤哉
『謎解きはディナーのあとで』小学館

 宝生麗子は、警視庁国立署の刑事。
 直属の上司は、風祭警部。風祭は、中堅自動車メーカー『風祭モーターズ』の御曹司だ。麗子は、キザで裕福さを強調する風祭警部が大嫌い。
 実は麗子、世界的に有名な『宝生グループ』の総帥のひとり娘。『風祭モーターズ』など小粒に思えるほどの大富豪だが、自分が正真正銘のお嬢様であることは秘密にしている。
 10月15日、25歳の派遣社員が他殺体で発見された。
 現場は、被害者である吉本瞳の自宅アパート。どうやら首を絞められたらしい。瞳は部屋の中に横たわっていたが、編み上げのブーツを履いていた。
 麗子と風祭は、瞳のかつての恋人・田代裕也を疑う。だが田代には、完璧なアリバイがあった。
 すっかり捜査は行き詰まり、麗子は、執事兼運転手の影山にぐちをこぼす。
 影山は、謹厳実直を絵に描いたような雰囲気の男。宝生邸で働き始めて1ヶ月。麗子はまだ、影山のことがよく分からない。
 麗子は、影山の求めに応じて、事件の概要を語って聞かせるが……。

 収録されているのは、以下の六話。
「殺人現場では靴をお脱ぎください」
「殺しのワインはいかがでしょう」
「綺麗な薔薇には殺意がございます」
「花嫁は密室の中でございます」
「二股にはお気をつけください」
「死者からの伝言をどうぞ」

 本屋大賞受賞作。
 麗子が事件の話を影山にして、影山が解決に導く、というのがひとつのパターン。ひとつひとつの謎があっというまに終わってしまうのが不満。じっくり読書、とはいきません。
 麗子も、蝶よ花よと育てられたにしてはお嬢様といった雰囲気がありません。いくら秘密にしていても、国立に豪邸をかまえる宝生家と宝生麗子がつながっていることくらい分かるでしょう。警察には台帳があるんだから。
 とはいうものの、つまらないわけではないです。
 軽い気持ちで読む分には、楽しめると思います。


 
 
 
 
2014年04月26日
宮部みゆき
『火車』双葉社

 本間啓介は、刑事。妻を事故で亡くし、10歳になる息子・智と二人暮らし。職務遂行中に負傷し、現在は休職中の身だ。
 リハビリに励む本間のもとを、妻の親戚である栗坂和也が訪ねてきた。
 和也は、都市銀行に勤めている。今井事務機の事務員・関根彰子と婚約していたが、その彰子が失踪したのだという。
 実は、彰子は5年前に、自己破産していた。
 そのことを知った和也は、彰子に話を聞こうとした。するとその翌日、彰子が消えてしまったのだ。
 彰子の父は幼いころに病死し、母も、2年前に亡くなっている。彰子は天涯孤独の身。和也は、どこをどう調べればいいのかも分からず、途方にくれていた。
 本間は和也に代わって、彰子の行方を追うことになる。
 本間がまず向かったのは、今井事務機。履歴書を手に入れるが、職歴として書かれていた会社は架空のものだった。自己破産した過去を隠すために、本当のことが書けなかったのか?
 本間は、5年前の自己破産手続きで彰子の代理人となっていた溝口弁護士を訪ねた。
 溝口の口は重い。だが、いくつかの情報を教えてくれた。
 2年前に母親が亡くなったとき、ふたたび彰子が訪ねてきたこと。当時、彰子が「ラハイナ」というスナックに勤めていたこと。そして、八重歯が特徴的であったこと。
 本間は、溝口の語る彰子に違和感を抱く。和也から聞いていた彰子と、まるで印象が違うのだ。
 本間が溝口に彰子の写真を見せると、それは別人だという。
 和也の婚約者・彰子とは何者なのか?
 本物の彰子はどこにいったのか?

 「カードローン破産」を題材にした、ミステリ。
 本間による地道な調査が続きますが、なかなか事件の全体像が見渡せません。それが、あるときを境に、急展開。そういうことだったのか、と。
 初期の作品だからか、書き方が少し不安定なようです。うまいなぁ、と思ったり、あまりうまくないなぁ、と思ったり。
 とにかく、ラストは美しい……。
 ミステリの法則から外れているため、古典ミステリをこよなく愛する人は、批判したくなるでしょうね。

 
 

 
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