チャスは、ニューヨークシティにある大きな古いアパートに住んでいる。はるか昔には、アメリカの王さまや王女さまが住んでいたという、お城みたいなところだ。
遊び仲間は、お向かいに住んでいるリサ・スー。
チャスとリサ・スーは共に7歳。両親は共に共働き。ママたちは医師。チャスのパパは銀行で「お金の隊長さん」をし、リサ・スーのパパはヴァイオリンを演奏している。
ある日リサ・スーが、キッチンに併設された物置部屋で、秘密の扉を見つけた。それまで扉の前には、リサ・スーのテオおじさんの荷物が置かれていた。ついに片付けられて、扉が姿を現した、というわけ。
チャスとリサ・スーが扉を開けると、そこは廊下のようだった。ふたりがどこまでも歩いていって出くわしたのは、二頭のジャイアントパンダ。
このしゃべるパンダたちの名前は〈パンダでわいわい〉と〈パンダの通俗化反対〉。
彼らが言うには、ニューヨークではパンダは愛されすぎていて、動物園に入れられてしまうんだとか。仕方なく犬の着ぐるみで正体を隠して出かけるものの、あこがれのシティライフを満喫することはできていない。本物の犬から聞いた話によれば、パリでは犬はどこへでも行けるらしい。
今では彼らは、自由の街パリを夢見ている。
チャスとリサ・スーは、パンダたちの夢をかなえるため、資金集めに乗り出すが……。
作者の本業は、コラムニスト。辛口で知られているそうです。イラスト担当も、建築家として一角の人物だとか。
チャスの子供目線の語りが、背伸びをしていたり、シニカルだったりと、味わい深いです。コラムニストと聞いて、なるほど、と。
本書は、絵本のような、絵本でないような、微妙な立ち位置にあります。寓話のように読めそうな気がしますが、なにを体現しているのかというと、答えに窮してしまうような……。
パンダたちの名前にしろ、英語ではもっと奥深いのではないかとうかがわせる作品でした。
平安時代。
安倍晴明は、大内裏の陰陽寮に属する陰陽師。陰陽師たちは、呪術を操り天文・暦学を司っている。
梅雨が明けたばかりの月の晩。清明は屋敷で、親友の源博雅と酒を酌み交わしていた。時の移り変わりに心を馳せる博雅は、12年前の出来事を語る。
博雅は、雅楽家。笛を得意としているが、己そのものが楽器でもある。心が揺れれば鳴らずにはおられない。
あまりに美しい月を目の当たりにして博雅は、堀川まで出て、橋のたもとで笛を吹く。幾晩か続き、その都度、川岸の柳の下には女車が停まっていた。とうとう博雅は声をかける。
お忍びだという姫君の正体は分からない。姫が、これが最後と告げた夜に、月を眺める美しい顔をかいま見ただけに終わった。
それから12年。
堀川で博雅が笛を吹いていると、見覚えのある女車が現れた。女は歳月以上のものを重ねた様子だったが、その声は、記憶に残っているとおりの美しさ。
女は博雅に、妙なことを尋ねた。
近々、相撲の節会がある。左の最手である真髪成村と、右の最手海恒世がはじめて闘う。そのとき、安倍晴明の方術でもって恒世を負けるようにできないか、と。
博雅は返事をすることができない。女は、今言ったことは忘れてくれるように言い残して、たち去った。
ふたりの相撲人の対戦は、権中納言・藤原済時(なりとき)が帝に奏上して実現したもの。どちらも最手とはいえ、成村は衰え始めており恒世は若い。済時が贔屓にしている恒世の勝利は確実だった。
それから幾ばくかが過ぎ、清明の元に、ある依頼が舞い込む。どうやら済時は、呪詛されているらしい。
済時は、呪われるようなことはしていないと言うが……。
《陰陽師》シリーズ4冊目にして、はじめての長編。
このシリーズを読むのは20年ぶりくらいかなぁ、というくらい久しぶり。
本書は、いつも短編を発表していたレーベルではないことと、新聞連載というわけで、はじめての読者を想定した構成になってます。そのため、登場人物たちの説明にかなりの文量を割いてます。久しぶりで忘れかけていても、そもそもまったく知らない状況でも、大丈夫です。
正直なところ、本来なら物語が動いているはずのところでも、まだ紹介している印象。最終的には、紹介に当てられていたエピソードが本筋に関わりがあることが判明するので、終わってみれば納得はできます。ただ、長編というより、短編に色をつけたような読後感。
おもしろいんですけど……。
ウィル・ウェストは高校2年生。
両親には奇妙で秘密主義的なところがあり、遊牧民のように1年半おきに引越しをくり返してきた。おかげでウィルには友だちがいない。常に新入り。
ウィルには、並外れた身体能力があった。謎の特殊能力も。両親からは目立たず生きることを言い含められ、ずっと教えを守ってきた。あのテストを受けるまでは……。
ある朝ウィルは、黒いセダンにつけられていることに気がつく。なとかして彼らを撒くが、その日の事件はそれで終わりではなかった。
授業中に呼び出されたウィルは、バートン校長からリリアン・ロビンズ先生を紹介される。ロビンズは、統合学習センターの代表。
統合学習センターは、国内でもっとも優秀な全寮制の大学進学準備校。学校の評判や学生たちを守るため、ずっと秘密にされてきた。そのため、招かれた特別な者しか入学することができない。
ウィルは統合学習センターに招かれ、しかも、全額給与奨学金が提供されるのだという。
ウィルは、全国学力評価エージェンシーによるテストで、たぐいまれなる点数をたたき出してしまっていたのだ。
あれほど両親からきつく言われていたのに、目立つことをしてしまった。ウィルは後悔するが、どういうわけだか母は喜び、父からもウィルを誉めるメールが届く。
母の態度に違和感を抱くウィルの目の前に現れたのは、あの黒いセダン。父からは切迫したビデオメッセージが届き、ウィルは決断する。
ロビンズに連絡をとったウィルは、両親のサインを偽造し、すぐさま入学するが……。
三部作の第一部。
そのため謎は残ったまま。もしかして謎なのかそれとも謎ではないのか、という謎も残ったまま。
全編にちりばめられているのは、父が定めた〈人生のルール〉。さながらスピリチュアル小説。ただし、そんな雰囲気は微塵もないです。
父とのエピソードを、父が定めたというルールで代用した印象。思い出が伴わないので、すごくドライ。そういうのがイマドキの小説なのかもしれませんね。
基本設定やら展開やら、既存の物語に酷似してます。オリジナリティは求めずに、軽い気持ちで読むべきなのでしょうね。
ジョーイ・ペローネがチャズと結婚して2年。ふたりが結婚記念に乗り込んだのは、豪華客船サン・ダッチス号だった。
冷たい4月の夜、11時。
ジョーイは、海に落とされてしまった。チャズによって。
ジョーイは、大学時代は水泳部の副キャプテンとして鳴らした。泳ぎには自信がある。だが、体力には限りがある。
メキシコ湾流によって、北へ北へと流されるジョーイ。たまたま麻袋に行き当たったジョーイはしがみつき、ついに助けられる。
ジョーイを助けたのは、ミック・ストラナハン。
ミックは、元検察局捜査官。悪徳判事を逮捕しようとしたときに撃たれ、撃ちかえしたことが原因となって引退に追い込まれてしまった。
ミックにとって、街にいる時間は苦痛でしかない。6回結婚し、もう俗世はこりごり。こじんまりとした島の慎ましやかな家に、愛犬だけを住まわせていた。
そんなミックと組んで、ジョーイの復讐がはじまる。
ジョーイがなにより気になっているのは、チャズが自分を殺そうとした理由。ジョーイの1300万ドルの財産は、死後もチャズのものとはならない。それはチャズも知っている。
なぜ、離婚ではなく、殺そうとしたのか?
ジョーイはチャズに嫌がらせをしかけ、精神的に追いつめようとします。やがては脅迫へ。はじめは警察に通報することを勧めるミックですが、ジョーイの手助けをしてくれます。さすがは元検察局捜査官といったところ。
事件を捜査する刑事カール・ロールヴァーグは、チャズに疑惑の目を向けます。ただ、決定的な証拠がない。チャズにゆさぶりをかけ、チャズはロールヴァーグをコロンボ刑事のようだと評します。まさにそんな感じ。
あまりにしつこいのでチャズは、ロールヴァーグが正体不明の脅迫者ではないかと疑心暗鬼。
そして、徐々に明らかになる、チャズの動機。
復讐劇ですが、コミカル。エヴァーグレーズと呼ばれるフロリダの広大な湿地帯の環境保護についての言及が多いです。作者がフロリダの方だそうですから、そちらについても訴えたかったんでしょうねぇ。
《ブックマン秘史2》
19世紀末。
フランスはパリのモルグ街で殺人事件が発生した。
かけつけたのは、漆黒の肌を持つミレディ・ド・ウィンター。
ミレディは、強制的に警察の調査を打ち切らせようとする。ミレディの関心は、犯人にはない。興味があるのは、男が死んだ理由だけ。
ミレディは議会のエージェントだった。フランスは、蜥蜴族(レ・レザール)のヴィクトリア女王が牛耳るイギリスとは違い、自動人形による〈静かなる議会〉が権力を握っている。議会の命を受けたミレディは独自捜査を敢行するが、謎は増えるばかり。
死してなお生きている死体は、腹の中になにかを隠していたらしい。うばわれたものを議会は欲しているが、何を探せばいいのか、ミレディに教えようともしない。
やがてミレディの行く手には、さまざまな組織が立ちはだかるが……。
前作『革命の倫敦』と同じ世界が舞台。ただし、今作とは直接的にはつながっておらず、前作の結果らしきものが噂で流れてきてる程度。
ミレディを主人公にしたパートは、推理ものというより、アクションが多め。序盤からスーパーウーマンぶりを発揮します。
ほんのちょっぴり、武侠小説が好きな若者カイ・ウーの物語が間章として挟まります。カイが所有しているのが、翡翠を彫ってエメラルドの目を入れた蜥蜴像。像のために父が殺され、カイは像を片手に逃げ隠れしているところ。
カイの蜥蜴像らしきものについて、ミレディは噂を耳にします。ふたりがなかなか出会わないのが、もどかしい。
前作は、とにかく読みにくくて忍耐の読書でした。今作は、前作よりは読みやすいかな、と。ミレディをはじめとして、架空、実在の人物が入り乱れ。小ネタ満載で、ニヤリとできるときもありましたが、見過ごしていることの方が多そうです。
《リンカーン・ライム》第二作
リンカーン・ライムは、かつてIRD(中央科学捜査部)の部長だった。捜査中の事故で脊髄を損傷し、明晰な頭脳は健在ながら、今では四肢麻痺と共に生きる身。
そのライムに、ニューヨーク市警一級刑事のロン・セリットーが捜査協力を求めてきた。
セリットーが手がけているのは、フィリップ・ハンセン事件。
ハンセンは武器の密売人だった。そのことは、連邦検事もニューヨーク州の司法長官も確信している。だが証拠がない。そのハンセンが、ついにミスをおかした。
裁判で、ハンセンに不利な証言をする予定の目撃者は3人。
3人は、ハドソン・エア・チャーターズの者たちだ。社長のパーシー・レイチェル・クレイ、その夫で副社長のエドワード・カーニー。そして、夫婦の親友でパイロットのブリット・ヘイル。
ハンセンは証人を消すために、殺し屋を雇ったらしい。エドワードは事故死した。
大陪審が開かれるまで、あと45時間。
セリットーとしては、パーシーとヘイルが消されてしまう前に、殺し屋を探し出したい。〈棺の前で踊る男(コフィン・ダンサー)〉と呼ばれる殺し屋を。
ライムには、〈コフィン・ダンサー〉に部下を殺された苦い経験があった。なんとしてでも殺しを阻止しようとするが……。
そのころスティーヴン・ケイルは、依頼された殺人をこなしていた。狙うは〈夫〉と〈妻〉と〈親友〉の3人。すでに〈夫〉の殺害には成功した。残るは〈妻〉と〈親友〉。
ケイルは、ハドソン・エア・チャーターズの電話を盗聴し、リンカーンという人物が自分の仕事を妨害していることを知る。リンカーンとの頭脳戦に挑むが……。
前作『ボーン・コレクター』から1年半。
直接はつながってませんが、前作を読んでいることが前提になっている印象。
ライムが推理して警察を動かし、パーシーとヘイルを守ろうとします。ところがパーシーは、自分の会社を守りたい気持ちが先走ってしまいます。その隙をついてくるのが、ケイル。
ライムとケイルの駆け引きが見所。出し抜いたり抜かれたり、裏をかいたりかかれたり。どんどん盛り上がっていって、通常なら結末だろうといった時期にさしかかっても、まだまだ中盤という圧巻のボリューム。
次作も読みたくなりました。
2015年04月30日
ブレイク・クラウチ(東野さやか/訳)
『パインズ −美しい地獄−』ハヤカワ文庫NV
イーサン・バークが気がついたとき、全身が痛み、なにも所持しておらず、記憶もあいまいだった。聞けば、ここはアイダホ州のウェイワード・パインズだという。意識が遠のき、ふたたび気がついたとき、イーサンは病院にいた。
交通事故に遭ったのだ。
イーサン・バークは、シークレットサービスの特別捜査官。パインズを訪れた目的は、連絡が途絶えた同僚たちの捜索のため。
イーサンは看護婦のパムに所持品の行方を尋ねるが、調べてみるの一点張り。病室にはテレビも電話もなく、医師が診察にくることもない。放置されたままの状況に業を煮やしたイーサンは、病院を抜け出した。
治療を受けたとはいえ、体調は万全ではない。イーサンは、親切にしてくれたパブのバーテンダーに頼ろうとする。ところが、教えてもらった住所に建っていたのは廃墟だった。
戸惑うイーサンは、腐乱死体を発見する。それは、行方不明になっているエヴァンズ捜査官のなれの果て。
保安官に面会したイーサンは、自身の所持品や遺体のことを訴えた。だが、保安官の反応は鈍い。
所持品は行方不明のまま。自宅は留守電、上司に電話しても取り次いでもらえない。どうやっても外部と接触できない。
パインズという町はとても美しいところだが、なにかがおかしい。
イーサンは町を出て行こうとするが……。
帯のあおり文句には「このラストは絶対予測不能!」とありました。
日頃の読書傾向で、衝撃度が変わると思います。ある人たちにとっては絶対予測不能でも、ある人たちにとってはありふれたお話になってしまう。そういう世界。
結末を知った上で全体を振り返ってみると、荒さが目立ちます。真相を隠そう、読者を騙してやろうとした結果、いささか無理矢理な設定になってしまった印象。
もうちょっとうまく処理できなかったんだろうか、というのが正直なところ。
2015年05月03日
佐藤賢一
『黒い悪魔』文藝春秋
トマ・アレクサンドルは、カリブ海のサン・ドマング島で生まれた。父は、農園主のラ・パイユトリ侯爵。母は、黒人奴隷であるマリー・デュマ。
ラ・パイユトリ侯爵には、農園経営の能力も気概もなにもなかった。早々に撤退し、ひとりで帰国してしまう。
残されたトマ・アレクサンドルは奴隷の身。いずれ侯爵が呼び寄せてくれると信じていた。それが現実となったのは、14歳のとき。
トマ・アレクサンドルは意気揚々とフランスに向かうが、淋しがりやな侯爵のきまぐれに過ぎなかった。息子としてかわいがったわけではない。
それでもトマ・アレクサンドルは、由緒あるダヴィ家の血を引いた帯剣貴族として、教育を受けることができた。肌の色ゆえ蔑まされることも少なくないが、侯爵の仕送りを受け、優雅なパリ生活を送っていた。
そんなとき突然、ラ・パイユトリ侯爵が結婚すると言いだした。相手は、家政婦を務めていたまずしい農家の娘。トマ・アレクサンドルへの仕送りは打ち切るという。
トマ・アレクサンドルは決意した。
フランス軍に入隊し、24歳にして一兵卒からはじめる覚悟。貴族の子息としての身分を捨て、母の姓であるデュマを名乗ることを宣言する。我が名は、アレクサンドル・デュマ。
デュマが配属されたのは、王妃付竜騎兵第六十連隊。シャンパーニュ屈指の大都市ランに駐屯している。
黒人は侮られやすい。デュマは最初が肝心と考え、出頭した初日から3人の上官を徹底的に打ち負かした。瞬く間に勇名をはせ、ついには黒い悪魔と呼ばれるようになる。
時代は、フランス革命が勃発しようというところ。
人権宣言を耳にしたデュマは、黒人差別がなくなるとの期待に心をふるわせるが……。
『三銃士』などを書いた文豪アレクサンドル・デュマの、父親の伝記。
アレクサンドル・デュマは、身体能力は優れているけれど政治となるとからきしダメ。もっと周りと仲良くした方がいいのは分かっているけれど、どうにも融合できない。それでも、将軍にまで上り詰めます。
入隊して、最初の喧嘩相手だったのが、ブリッシュ。
ブリッシュは、常にデュマの副官という立ち位置。デュマのように強くはありませんがきちんと諌言する人で、だからこそデュマも、ブリッシュを連れ歩いたんだろうな、と。いい人に巡り会えたんだな、と。
佐藤賢一を読むのはまだ2冊目なのですが、とにかく文体が独特。地文に、独白と会話と解説が入り乱れて、読みにくいことこの上ない。
読みにくいがために、じっくり読むことになるので、メリットもあると思います。でも、拒否反応を示してしまう方もいそうです。
《ジャック・フロスト警部》シリーズ第三作
ジャック・フロストは、デントン市警察の警部。だらしのない格好で、時間には頓着せず、デスクワークは大の苦手。下品な冗談を所構わず口にする中年男だ。
このところデントン市では流感が大流行。警察も例外ではなく、病欠者があいつぎ、少ない人員でやりくりするものの事件は待ってくれない。
そんな最中に、フランク・ギルモア部長刑事は着任した。ところが、上司となるはずのアレン警部は病欠中。代わって、フロスト警部と組んで仕事をすることに。
初出動はコンプトン氏の屋敷だった。若夫婦は立て続けにたちの悪い嫌がらせを受けており、今度は放火騒動。四阿が焼け落ちた。
のどかな田舎町に見えたデントンの事件はそれに留まらない。
老女の連続殺人が発生し、新聞配達をしていた女子高生は失踪し、少女は自殺、匿名の脅迫文が届き、老人は自殺未遂を起こす。人員不足から、それらすべてに首をつっこむことになる、フロストとギルモア。
ギルモアは、フロストの捜査手法に納得ができない。
フロストは、自身の直感の命ずるままに捜査するが……。
フロストの相手方となるのは、今回も着任早々の、フロストに免疫のない刑事。ただ、前2作の相手方と比べると、ギルモアはかなりマトモ。
その一方、フロストの方がマトモではなくって、勘に頼った捜査をするので、どうなのかな、と。前作までは、ほんのわずかなとっかかりを見つけて捜査していたような気がするのですが。気のせいだったか。
他の誰もが見落としてしまうけれど、フロストだけが着目する証拠が欲しかったです。
ヒルディ・フレデリクセンは、考古学者。
スコットランドのハイランド地方で、ヴァイキングの船棺葬らしきものが見つかったとの知らせを受け、現地にかけつけた。
まだ誰も立ち入ってない室に入り、ヒルディは完璧に保存されている遺物に圧倒される。大型船の装飾はすばらしく、船上には金や銀、織物、鎧や武器が散らばっていた。そして、武装した人間たち。
ヒルディは、足下に転がるブローチに魅了され、ポケットに入れてしまう。
いったんはホテルに帰ったヒルディだったが、ブローチのことが頭から離れない。良心が咎め、ブローチを返すため、こっそりと遺跡に戻った。
そこでヒルディが目の当たりにしたのは、生き返ったヴァイキングたち。ロルフ・ケティルッソン王と、12人の従者たちだった。
ロルフ王は、1200年前にこの地を治めていた。そのころ邪悪な魔法使いの王との大戦争があり、ロルフ王が勝利を収めたものの、魔法使いの王には逃げられてしまう。魔法使いの王はいずれ復活し、この世を脅かすようになる。その日まで、ロルフ王と勇者らは魔法による眠りについていたのだ。
ヒルディはロルフ王に協力しようと、あれこれと世話を焼くが……。
ユーモア・ファンタジー。
1200年間眠っていたヴァイキングたちは、現代社会に戸惑うどころか、科学技術も魔法として受け入れて順応します。とはいうものの、現代人のヒルディからすれば、ハラハラし通し。若いヒルディにもハラハラさせられます。
ロルフ王の度量の大きさは、気持ちがいいくらい。なぜか効果を発揮する魔法の小道具なども、いい味を出してました。
魔法使いの王エーリックは、今では世界有数のコングロマリットの会長兼社長。森林狼のソールゲイルをこき使ってます。ロルフ王が目覚めたことに気がつき、さまざまな手を打ってきます。
個々の場面ごとは、笑えておもしろいです。ところが、全体として見るとどうも釈然としない。おもしろいはずなのに、おもしろくない。
結末はきれいにまとまっていて良かったです。ただ、北欧神話の基礎知識がないと、意味が分からないかも。こういう物語を読む人は、そのくらい知っているので大丈夫なのでしょうけど。